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がん経験者の語りにみる毛髪および体毛に関する経 験について

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(1)

がん経験者の語りにみる毛髪および体毛に関する経 験について

著者 白井 千晶

雑誌名 人文論集

65

2

ページ A41‑A59

発行年 2015‑01‑30

出版者 静岡大学人文社会科学部

URL http://doi.org/10.14945/00008090

(2)

がん経験者の語 りにみる

毛髪お よび体毛 に関す る経験 について

白 井

1.本稿 の問題関心 と先行研究の知見

本稿 は、がんを経験 した男女が 「毛髪:体毛」1について語 った語 りを分 析 し、

がん経験 にお ける毛髪・ 体毛の変化 に対す る評価、意味づ けについて考察す る ことを目的にす る。

がん経験 と毛髪 といえば、抗 がん剤使用 によるllt毛が思い浮 かぶのではない だろ うか。 しか し、がん治療 の三大療法 は、手術療法、化学 (薬)療法、放 射線療法 の3療法であ り、化学 (薬)療法 の中に、抗 がん剤療法 とホルモ ン 療法 (内分泌療法)がある。がんの種類や部位 によって、効果がある療法 は異 なるし、組み合 わせ て使用する場合 もある2。 従 って、必ず しも抗がん剤 を治療 に使用す る とは限 らない。 また、 ホルモ ン療法で は脱毛ではな く増毛す ること もあるし、放射線療法では放射線 を照射 した部分 だけが脱毛す る3。 だが、一般 的 に、がん治療 には抗 がん剤使用 による脱毛のイメージが付 きまとっているよ

ぅだ4。 では 「がん経験Jと 「毛髪・体毛」は、 どのように関連 しているのだろ 1毛髪 は、本来、頭嚢 と体毛 を含む言葉であるが、一般的に頭髪 を一義的に指すため、毛髪・ 体毛

と併記す ることにした。

2すべての療法がすべてのがんに使用で きた り効果的であった りするわけではない。特 にホルモン 療法 は、乳かん、子宮 がん、前立腺 がん、甲状腺 がんな ど、ホルモンが密接 に関わっているがん

に対 してのみお こなわれ る療法である。

̀ホルモン療法 は、ホルモンの分泌や作用 を抑制することで、がん細胞 の活動 を抑 えようとする療 法 である。前立腺 がんのホルモン療法では、男性 ホルモンの分泌や働 きを抑 える療法 をお こな い、女性ホルモンカ簑 位 になるために、手場 の女性化や肥満、睾丸の縮小、毛髪力増 毛 し体毛が 薄 くなるな どの女性化 がお こることがある。性的欲求の低下 などは、女性化 とい うよ りも脱男性 化 と呼べるかもしれない。乳がんのホルモン療法では、女性 ホルモンの分泌や働 きを抑 える療法 をお こなうために、更年期症状 と同様の症状が現れ ることがあ り、毛髪 に関 しては、抗がん剤使 用 のように ごっそ り脱毛 するわけではないが、薄毛 になることがある。前立腺がんの治療 におい て も、骨粗 しょう症、体温調節 の不調な どの更年期様 の症状 が出現す ることがある。

̀抗がん剤 を投与 してか ら2〜3週間後 に脱毛 が始 まることが多いが、使用 す る抗がん剤の種類や 個人 によって程度 は異 なる。脱毛の出現率や程度が低い抗 がん剤では、脱毛 の発現率25%程度、

‑41‑

(3)

うか。

本稿ががん経験 と毛髪・体毛の関連に注 目したのは、毛髪・体毛は容貌 (外 )に大 きく関わってお り、自己評価および他者からの評価の内面化に関与 し ていることが予想されるからである6。「癌化学療法ハンドブックJ(Skeel編2003) によれば、「化学療法による脱毛は生理的に深刻な合併症ではないが、患者が受 ける最も大きな心理的打撃の

=つである。毛髪は個人の全体的な容貌に深 く関 わってお り、脱毛は自分の身体のイメージ低下に繋がる」 と記載されている。′

男女のがん経験者の化学療法による脱毛について研究 した梶谷 ら (2008)は 、 化学療法前の「脱毛への覚悟」や 「自毛へのこだわ り」などのカテゴリーを抽 出してヽ`るヽがん経験男性 と化学療法による脱毛について研究 した濱田ら(2007) は、脱毛に対する思いとして、頭髪の脱毛に対する受け止め、頭髪の脱毛後の 身体イメージ、頭髪以外の体毛が脱毛することに対する受け止めの3項目を提 起 し、脱毛への受容や対処を描 き出した7。 sん治療のための抗がん剤投与にお

3割 方薄 くなる程度 というものもある。抗がん剤投与期間は、がんの種類や状態、使用薬剤に よって異なるが、数ヶ月から1年 程度に至ることもある。抗がん剤の投与が終了してから3〜

6ヶ月で、うぶ毛のような柔 らかい毛が生え始め、発毛から8ヶ月〜 1年 で回復するといわれて ヽヽる。

もさらに言えば、筆者は自己獄ヽ評価と自己評価の関連に関心をもっている。自己に対する正の評 価は、自己効力感 (selrencaり)、 自己肯定感 。自尊心(self esteem)な どと呼ばれている。た とえは 世界保健機構 (WHO)め'日常の様々な問題や要求に対 して、より建設的かつ効果的に 対処するために必要不可欠な能力 と定義づけた10の技術(ライフスキル)は、① 自己認識、②共 感性、③ コミュニケーション、④対人関係、⑤意息決定、⑥問題解決、⑦創造的思考、③批判的 思考、⑨感情対処、⑩ス トレス対処、である(WHQ 1993)。「生き方に関する態度尺度」として

「自己実現因子」(やり遂げな くてはならない仕事や指命ρ'あ)、「人生に対する肯定的態度因子J

が、「健康行動に対する自己効力感尺度」として「対処行動の積極性因子」(健康や身体生活の自 己管理が可能 と感している)と「健康統制感因子」(感情 コン トロール)め'あることも指摘され

ている(高良 ら2010)。 ウイメンズヘルスに活用できるライフスキル測定尺度 としては、以下の

6次 元が抽出されている(伊2010)。 すなわち、① 自己効力感、② 自己信頼、③対人関係、④ 自己認識、⑤感情対処、⑥ 自律′い、の6次元である。 こうした「自己効力感JOい 理学者・ アル バー ト・バンデューラによれば、「自己に対する信頼感や有能感」、自己遂行可能感)の形成には、

①達成体験、②代理体験、③言語的説得、④生理的情緒的高場が必要であるとされている。

̀抽 出されたのは 【衝撃的な脱毛】【自毛へのこだわ り】【脱毛への覚情】籠 外な利点】【一人ではな い安心感】【治療のつらさ】【脱毛後のケアの気がか り】の7カテゴ リー。

'脱毛に対する受け止めは、一様にショックを受けていたが、いずれ生えて くる、治療を中止する わけにはいかない、自分の病気の身代わ りである、と受け止めていることもわかった。脱毛後の 身体イメージとして肯定的なものは、スキンヘッドヘの馴染み、「坊主頭で生活 している人もい る」、否定的受け止めは「掃除が大変」lll会に復帰する時の違和感」など。頭髪以外の体毛につ いては、頭髪よリショックが大 きい、など。脱毛への対処行動 としてはヽ①散髪する、②再 び毛 髪が生えるのを信 して待つ、③容姿を整えるためにかつらは買わない、④脱毛後帽子をかぶる、

⑥脱毛に対応 してイメージチェンジをはかる、であつた。また、脱毛による職業への影響が語 ら れ、 外動を控えたり、仕事が減った,ということがあげられた。

‑42‑

(4)

いて、脱毛は副作用の一つであるが、脱毛はがん経験の鍵 になっているようで ある (他にも西村 。大森2009,石田ほか2005な )8。

がん体験 と自己身体評価 について、日本の調査研究では、小林 ら(2004)、 原 ら (2009)を あげることができる。小林 らは、終末期がん患者の身体イメー ジ (body imagc)に 焦点を当て、自分の身体 が今後 どのようになってい くのか という不確実感 と自己の存在意義などの自己概念が関連 していることを明らか にした。萩原 らは、乳がん患者の「身体 コントロールJ「身体尊重」「身体の離人 Jという身体イメージと術前・術後・退院後の正負の感情の関連を報告 して いる。

以上の問題関心 か ら、本稿 では、がん経験者 が毛髪・体毛 について どの よう に語 ってい るか、毛髪・ 脱毛 と身体評価、 自己評価 との関係性 に着 日しなが ら 分析す る。

がん経験 と身体評価 とい う観点か らみると、がん治癒 ない し寛解するか否か、

がん再発 に関す る不安、死への意識、がんを抱 えた身体 の受容、臓器や子L房 ど身体 の一部 の恒久 的欠損お よびそれに伴 う機能不全、社会的生活の困難 など、

さまざまな課題があ り、毛髪・ 体毛の変化 とい う経験 は、一時的で回復 する副 反応 である。毛髪・ 体毛 は、容貌 に大 き く関わ り、 自己評価 お よび他者 か らの 評価 に関わ る と述べたが、 当然の ことなが ら、毛髪・ 体毛 に関す る経験 は、が んを契機にしたものだけではない。加齢 (薄)、 サ プカルチ ャー (染色、スキ ンヘ ッ ドな ど)や社会 的位置・役割 (僧籍者 の弟」毛、部活動等 の規定 による短 )などを契機 にした経験 もある。また、毛髪・体毛の位置づ けは、ジェンダー と関係 してい ることが予想 され る9。 毛髪・体毛 は、 この ように様 々な文脈 があ 8西 大森 (2009)は、子官 がんの治療 を受 けた既婚女性の体験 に伴 う感情 を分析する中で、子

宮がん罹患後 か ら子官全摘出術 までは、子官がん罹患、転 移、進行への予測、手術 によって自分 らしさを失 うことに驚 き 。悲 しみ・ 恐れ・ 怒 りを感 じていたこと、子宮全摘 出術後 か ら現 在まで は、性生活 に応 えられない ことゃ化学療法 による脱毛の悲 しみ、病理結果や手術後 の身体 の変化 の予測、社会復帰に対 し恐れ を感 していた こと、脱毛の悲 しみを配偶者 に表 出 し、受 け入れ られ た こと等で、楽 しさや愛 といったボジティブな感情 を感 じた ことを明 らかに した。

石日ら (2005)は 、外来0ヒ学療法 を受 ける再発乳がん患者 の 日常生活上 の気がか りとして、【 かん剤 を続 けることの気 がか り】【再発・ 転移が気がか り】【嘔気・嘔吐 による体力の消耗】【倦怠 感 によ り動 きた くとも動 けない現実】【脱毛 による活動範囲の縮小】のカテゴ リーが抽 出された とした。その上で、抗がん剤 の副作用である脱毛 は身体イメージの変容 によ り耐え難い苦痛であ るため、脱毛の時期、受容 の状況や考 えを聞 き必要 に応 じて指導や情報提供 を行 う必要があるこ とを述べている。

'不妊の研究では、 自己評価 は 「で きそこないの女J(KIdn ed,1989‐ 1991,p26)、「母親でないと 女 らしさに欠 けるJ(Klein ed,1989‐ 1991,p35,Ro価an,1989‐1996)な どのように、ジェンダー 化 していることが指摘 されている。また この 自己評価 には、身体 の次元があることも示 されてい

‑ 43 ‑

(5)

るが、本稿ではがんを契機にした男女の経験に焦点を当てた分析 という位置づ けになる。

2.データの概要と倫理

本稿では、厚生労働科学研究がん臨床研究事業 「がん患者の語 リデータベー ス」研究班のデータを使用する(研究代表者 :和田恵美子、研究課題 :が ん患 者の意向による治療方法の選択を可能 とする支援体制整備を目的 とした、がん 体験をめ ぐる「患者の語 り」のデータベース)。 貸与 を受けた手Lがん経験者41 10、 前立腺がん経験者48名の語 り(テキス ト)を使用 している。「がん患者の 語 リデータベース」研究は、語 りをウェプサイ トで公開するなどして広 く当事 者や医療者、一般市民に公開、共有することを目的にする研究で、語 り手は当 研究の目的を理解 して参加 している。参加にあたって、語 り手は公開の内容(氏 名、動画、音声、テキス ト)を選択することができ、テキス トの公開のみに同 意 した語 り手もある。インタビューはプライバシーが確保された場所で、対面 的におこなわれた。

現在、「がん患者の語 リデータベース」は認定NPO法人健康 と病いの語 リディ ペックス・ ジャパン(httpブwwdipexl Org/)11に 委託され、誰でも当サイ トで 画像・音声を視聴ないし閲覧することができる。本稿で引用 している語 りの一 部 も視聴、閲覧可能である。

研究倫理については、研究代表者の所属機関 。大田府立大学の倫理委員会の 承諾を得た。語 り手には、匿名性等を説明し書面で同意を得た。また、健康 と 病いの語 リディペックス・ジャパンでは、サイ トヘの掲載にあたって、ア ドバ イザ リー委員会、情報倫理委員会 を設置 している。

(自2009)。

Ю現時点のシェア リングデータには、男性の手しかん経験者 が含 まれている(男性 も乳がんに罹患す )が、本稿分析時点のシェア リングデータには含 まれていないので、本 稿のデータは乳がん経 験者 は全員女性、前立腺 がん経験者 は全員男性である。

DIPExは英国オ ックスフォ‐ ド大学 プライマ リヘルスケア部門 とDIPExチャリティとい う非営利 団体 によって2001年,イ ト公開 されたも9で (現在サイ ト名 はheJthtJkと ,uthhedtht k)(

60以上の トピックスの語 りが閲覧で きる。DIPEx‐」apanはDIPEx lntematlonalと い う国際組織 に 加盟す る日本の認定NPO法人で、現在、 ウェプサイ トでは、乳がん、前

'鴫かん、認知症、大 腸 がん検診 てお よび大腸がん)の語 りが公開 されている。DIPEx lnternatlonalに9カ国力勁口盟

し、 日本 を含 む 7カ 国のサイ トで語 りが公開されている。(DIPEx Japanサ イ トより)

‑44‑

(6)

3.知

分析 にあたって、語 リテキス ト中に含 まれ る「髪」「毛」 とい う言葉 をすべて 抜 き出 してその内容 を分 析 した。

「髪」「毛」 という言葉が語 りに登場することについては、 い くつかの補足説 明が必要である。第一 に、「がん患者 の語 リデータベース」では、語 り手の 自発 的 な語 りを促 すため、構造的なインタ ビューガイ ドに沿 って質問 をお こなって いない。 したがってすべての語 り手 に毛髪、体毛、脱毛について語 ることが求 め られているわ けではない。一方で、抗がん剤使 用経験がある場合 には、イン タ ビュアーが脱毛 について質問をす るケース もある。

第二 に、前立腺 がん経験者48名中、抗がん剤 を受 けたのは3名のみで、ホル モ ン療法 を受 けたのは28人である。手Lがん経験者41名では、29名が抗 がん剤治 療 を受 けていた。 1節で述べたように、治療法 によって、毛髪、体毛への影響 が異 なる。抗 がん剤 は活発 に増殖す る細胞 を抗がん剤 が攻撃す るので、毛髪 も 体毛 も脱落す る。前立腺 がん に対 す るホルモ ン療法 の場合 には、毛髪 が増 え、

体毛が脱落す る、いわゆる女性化 がお こる。男性器 が萎縮 した り、乳房 が膨大 す ることもある。放射線療法 の場合 は、放射線 を照射 した部位 の毛髪、体毛が 脱毛す る。語 り手 のがん経験者 は、抗 がん剤療法、放射線療法、ホルモン療法 を組み合 わせ ている (3種すべて を経験 していない人 も、すべてお こなった人 もある)。

第二 に、すべてのがん治療 が脱毛 を伴 う抗 がん剤 を使用す るとは限 らないた め、「脱毛」 とい うキーフー ドではな く、「髪J「Jとい う言葉 を抜 き出 してい る。 それによって頭髪 の脱毛 に限定 されずに、毛髪や体毛 の変化 に関す る語 り を分析す ることがで きる。

この ように して 「髪」「毛」 とい う言葉 を抜 き出 した ところ、亭Lがん経験者41 名中、33名の語 りに、前立腺 がん経験者48名中、13名の語 りに 「髪」「毛Jと

う言葉 が登場 した。(ただ し、前立腺 がん手術前 に「剃毛」 した語 りは除いた。)

本 データにおいて は、「髪」「毛」 に関する語 りは、すべて自らの 「髪」「毛」に 関す る語 りで、全員 が抗がん剤療法かホルモ ン療法 を経験 していた (予定 を含 )。

インタ ビューのテキス ト(語)はすべて閲覧 したが、質的内容分析 にあたっ ては、当該お よび前後 の文章 を読み込 みなが ら、「髪」「毛」 とい う言葉にラベル を付 け、 ラベルの上位概念 にあたるカテゴ リを帰納的 に探索 した。

‑45‑

(7)

その結果得 られたのが、図1の連関図である(後)。 すべての語 りを引用す ることはで きないが、事例 をあげなが ら説明 したい。 なお、事例末尾 は語 り手 のコー ド番号で、BCは乳 がん経験者、PCは前立腺 がん経験者 である。文中の

( )は筆者 による補足、[ ]│まカテゴ リを示す。語 りの引用文 は読みやすさ を考慮 して整除をお こなっている。

3.1.自已評価

最初 に、女性 として、頭髪 の脱落が受 け入れ られなかった とい う語 りである。

やっぱ り女の人 は、髪 の毛がな くなるってい うことは、想像以上 にシ ョッ クで したね。(BC l)

プラシを入れた ら、 もそっと抜 けて、 びっ くりして しまって、 どうしよう もな くて、相 当大 きな声で泣 いたんだ と思 うんです。髪が本 当に抜 け、 ま ゆげも抜 け、 まつげまでぱらばらとなる ぐらい抜 けて……。ああ、女の黒 髪 つて こうい うものなんだなって、私 は日本女性 だつたんだなってい うの を痛感 しました。(BC 2)

髪 の毛がな くなった時は、や っぱ りす ごく、女 としてはいやだつたんです ね。具合 が悪い よ りも何 よ りも髪 の毛がな くなるのがす ご くイヤだつた。

彼 の前ではカツラをかぶ って、わ ざと大 げさに女 の子 らしい格好 をす るよ うに していた。彼 も何 も変わ りな く、女性 として接 して くれた。(BC 3)

髪 の毛が抜 けて、女性 の一番 いい ところを とられて しまう。(BC 4)

髪 が抜 けて も抱 きじめて くれた りとか、女性 として扱 つて くれるのが嬉 し かった。(BC 5)

「女の人 にはシ ョック」「女 としてはイヤJと、頭髪 の脱毛 が 「女性」 にとっ て受容 が困難 な経験であることを語 っている。BC3は(抗がん剤 の目」作用で)

具合が悪 いよ りも何 よ りも髪の毛がな くなるのがす ごくイヤだつた」 と、頭髪 の脱毛が何 よ り受 け入れがたかった ことを述べ、彼 の前では「カツ ラをかぶ っ て、わ ざと大 げさに女の子 らしい格好 をす るように」 して 「女の子 らしさ」 を

‑46‑

(8)

表現 し、彼 が 「女性 として接 して くれた」 として評価 していることがわかる。

このように、女性 の頭髪の脱毛が、[女性性の喪失]と 関わっていることは、[ジ ンダー]とい うカテゴ リとして表す ことがで きる (図 1)。

一方 で、前立腺 がんで抗がん剤 を使用 し頭髪が脱毛 した男性は、弟」毛 して し まった ことを語 ったのみで、抗がん剤 の副作用 としては、食欲不振、悪心 な ど をあげ、爪 がもう一枚生 えて きた こと (一部 の抗 がん剤 の副作用 に爪障害 があ )を語 り、頭髪 の脱毛の語 りはあっさ りしている。

髪 の毛 も薄 くなった し。来 たな。 自髪 になった し、 もう最後 には、弟」った は うがいい と思 って、一応弟」ったんですが。(PC l)

別 の抗がん剤使用男性 も、頭髪の脱毛 よ りも、他 の語 りに志向 している。

タキ ソテール (抗がん剤 の名称)で私 が一番心配 したのは、髪 の毛が抜 け ることや、爪や、末梢神経 が こんな風 にごわ ごわ した足や手 になるってい うことよ りも、身体 のいろんな内臓、 とくに消化器系で栄養 が吸収 で きな くなった りして。(PC 2)

抗 がん剤 を使用 して頭髪が脱落 した男性PC3は、抗 がん剤療法 とホルモン療法 と両方お こなったのであるが、「抗 がん剤 としての弊害 は何 もなかったですね。

多分、軽い抗がん剤 だった と思 うんです よJと述べ た上 で、(頭)毛も抜 け 出 しました しね。減 って、 また生 え出 したんです よ」 と語 った程度 であ り、他 方、 ホルモン療法時の体毛 の脱落 と頭髪 の増毛 については、

女性 みたいになってい くのが早かったですね。すねの毛 なんかな くなって しまい ました もんね (笑)。 もちろん毛深 いほ うじゃないんです けど、つ る んつ るんにな りました。で、髪 の毛がた くさん増 えました。 これ は一番い いことやったですね。(PC 3〉

とホルモン療法による「女性化Jを語つている。さらに、

年寄 りの男みたいになってきましたんですけど。 まあ、65も なりましたも んですから、性的欲求もなくな りましてね。 まあ、ホルモンのせいじゃな

‑ 47 ‑

(9)

いだろうと思 うんですね、 これは。(PC 3)

と、性的欲求の減退 とホルモン療法の関係 まで分析し、語つている。 この男性 にとっては、抗がん剤療法で頭髪が脱毛 したことよりも、ホルモン療法で体毛 がなくな り、頭髪が増毛 した女性化のほうが、印象深い経験だったようにみえ る。別の男性 も、次のように語っていた。

ホルモン療法で、髪の毛が黒 くなって、肌がきれいになって、おっぱいが 出てきた。女性ホル■ンってこんなにすごいのかな。(PC 4)

これらのホルモン療法による男性の女性化 (体毛に関 しては体毛の脱落や薄毛) も、毛髪・体毛に関する [ジェンダー]経験の一つであるといえるだろう。ホ ルモン療法による男性の体毛の脱落が [ジエンダー]と関わることを示すもう 一つの例 として、PC 5を あげたい。PC 5はホルモン療法の副作用でED(隆 能不全、勃起不全)になったことを一番の副作用 としてあげながら、性欲も減 退するので 「(身体が)精神 と運動 しているから案外それはそれで問題はない」

と述べ、「それより」問題なのは、陰毛の脱落であると語っている。

頭以外の毛は皆薄 くなってい くわけですね。アンダーヘアとかも薄 うなっ ていきますから。だから、退院直後、皆そろって温泉なんかにも入 りまし たけれどもね、ちょっと寂 レい感 じですね。非常に薄 くて子 どものような 感 じになってて、おまけに非常にかわいらしくなっていますから、寂 しい

ものですね。(PC 5)

PC 5は陰毛がなくなった男性器 を「子 どものような感 じ」で「寂 しい」 と 語つている。「おまけに非常にかわいらしくなっている」は、ホルモン療法によ る睾丸の萎縮を指 していると思われる。陰毛のない「子 どものような」男性器 は、男性性がないものとして自己評価され、それは「寂 しい」 と感 じられてい る。このように、がん経験に伴 う毛髪・体毛の変化は、抗がん剤による頭髪の 脱落がとくに女性にとって [ジェンダー]という観点から自己評価に関わる経 験になるだけでなく、ホルモン療法による体毛の脱落が男性にとっても、[ジ

ンダー]という観点から自己評価 に関わる経験になることがわかった。

次の語 りは、BC 6である。

‑ 48 ‑

(10)

若いお母 さんって、抗がん剤でカツラの人なんてあ り得ないから、カツラ を着けているっていう自分は、健康な人 とは違 う、若 くて健康なお母さん たちとはやっば り別うていう、新 しい孤独感を覚えた り。(BC6)

「カツラをつけている自分」は、がんである(=健康ではない)ということを認 識 させ られ、「孤独感」を感 じている。抗がん剤 による頭髪の脱毛 は、自身が

[がんであることの再認識]をさせ、[周りと違 う疎外感]を感 じさせている。

髪の毛 と命 とどっちが重いのつてよく言われますけれど、そういうことじゃ なくて。なんかこう、生 きにくい、窮屈な思いみたいなこと。 どこか本来 の自分 と違 うというような思いで、気にしつつ暮 らすというのは、さびし い気持 ち。〈BC 7)

周 りとの違いを感 じるだけではない。この語 りでは、「どこか本来の自分 と違 う」

のは、生 きに くく、窮屈な思いがあると語 られている。周 りと違 うのではなく、

[今までの自分 と違 う自己違和]を感 じているといえるだろう。

毛 とい う毛が抜けちゃって、眉毛もなかったし、睫毛も全然なかったんで すね。眉毛は描 けるんですけど、睫毛ってないと顔が変なんですね。睫毛 のエクステに行つたんですけど、かぶれて次の日にはとっちゃったんです

よ。(BC 3)

この語 りは、周囲 とも今 までの自分 ともいえないような、「標準的な身体」 と照 らし合わせていることを示 している。頭髪はカツラやウィッグ、バンダナや帽 子で対応できるが、「睫毛がないと顔が変」という語 りであるが、「眉毛は書けば いいけど、睫毛が抜 けると、瞬きしてもくっつ くし、 ごみが入って くる」(BC

8)などの機能面の語 りや、「眉毛を描いているから、朝から化粧 も厚塗 りして ない と外 にでられない」など、眉毛を描いた顔の違和感 も語 られている (BC

8)。

以上の [ジェンダー][がんであることの再認識][周 りと違 う疎外感][今 での自分 と違 う違和]は、自身が自身をどのように認識するか、 という [自 評価]と してまとめられる。 この自己評価 は、標準的な身体 (規範上の身体、

周囲の身体、かつての自己の身体)とがん治療後の自己の身体 (毛髪・体毛)

‑ 49 ‑

(11)

と照 らし合わせ、[標準的身体 か ら逸脱 している]とい う認識 をもとに構築 され ている といえるだろ う。

3.2.他者か らの見 られ方

次 に、BC 9は、抗がん剤療法 によって頭髪 が脱毛 しカ ツラになることで、周 囲 にがん治療 中だ と知 られ ることになるだろ うと考 え、 がん罹患 を職場 の人 に 告 自 (カムアウ ト)してい る。

同 じ課の人 にはこうだか ら(抗がん剤療法 をするか ら)って言 ってたけ ど、

別 の人 には 「頭おか しくない?」 って言われる と思 ったか ら、実 は これカ ツラなんですって話 した。 こういうわけで抗がん剤 して手術をするように なったので、 これカツラだから、迷惑かけるけどって。絶対みんな、なん かおかしいよねと思ってたと思 うんですよね。周 りにいるみんなの方がやっ ぱ気を遣った り、心配 してるだろうな、気を遣わせているなっていうのを 思ったんですよね。(BC 9)

このように、社会的な認識 として [脱毛 と抗がん剤使用の結びつき]力ヽあるた めに、頭髪の脱毛で [がんだと見てわかる]から、[カムアウト]に至っている。

他にも、息子が年に数回帰って来 るBC19は「帰って くるたんびに髪の毛が増 えて、多分、元気だなあと思っていると思います」 と語 り、頭髪の有無が、抗 がん剤療法の指標、ひいてはがんの状態の指標になっていることがわかる。

社会的に[脱毛 と抗がん剤使用の結びつき]があるために、頭髪の脱毛で[が

んだと見てわかる]こ とによって、周囲が戸惑った り、気を遣 うことにもなる ([周囲のとまどい・配慮])。 たとえば、自分ではウィッグ (カ ツラ)をつける 必要を感 じなかったが、抗がん剤投与による脱毛経験者 に、周 りが話 しかけ方 がわからなくて困るからカツラを被るように言われた女性 もあった。ほかにも、

髪の毛がない自分 とか、眉毛がない自分 とか、家族は毎 日一緒にいなきゃ いけないので、家族がそれを見るのが一番かわいそうでしたね。(BC10)

退院 して、髪がはげてる。外で私 と目が合ったときに、みんな目をそらし たんですよ。いそいそと逃げてい く。死んでい く○ (BCll)さ んだと見て いるのを感 じるじゃないですか。 こっちは何 とも思っていないのに、相手

‑ 50 ‑

(12)

のほうが気 を遣 ってい るんだなぁ。で きるだけ遠 い ところで買 い物 しよう とかえって こっちが気 を遺 い ました。(BCll)

このように、[がんだと見てわかる]こ とは、[カ ムアウト][周囲めとまどい 。 配慮]をもたらすことがわかるが、これは [他者からの見られ方]の意識 とま

とめることができるだろう。

33.容 貌 の調整

ここまで見 て きたように、抗がん剤使用 による脱毛 は [がんだ と見 てわかる]

ために、[自己評価]および [他者か らの見 られ方]に影響 していた。 その見 え 方、見 られ方 を 「標準Jに引 き戻 そうとす るのが、カ ツラや ウィ ッグ、バ ンダ ナや帽子である。

バ ンダナをみんなで巻 いて、外出できた。(BC12)

帽子 に部分 ウィ ッグで、好 きな帽子 を合わせ ることがで きて重宝 している。

楽 ちん。(BC 7)

帽子 さえかぶ って しまえば外 出も別 に気 にな らない し。(BC13)

な どは、見 え方 をマネジメ ン トす ることがで きた とい う [コン トロール感・達 成感]を感 じさせ る。ただ、BC13が語 ったように人 目が 「気 にな らない」 こと

はあって も、地毛の頭髪 とは思われず、カ ッラであることがばれ ない (地毛 と い う健康 な標準的身体 と認識 され る)こ とではないか ら、あ くまで 「調整」 だ

といえるだろ う。

カ ツラは高いけ ど、 かぶ って気持 ちが楽 になったんです よ。かぶ ってるっ てい うことはばれて もいいんです け ど、 かぶ ってない時 に人 に見 られるの がいや ってい う気持 ちがす ご くあって。見 られて るような気持 ちになって

しまうんですね。(BC l)

「かぶっていることはばれてもいい」力S、 人が困 ったように目を背 けた りしない ことで 「気持 ちが楽」 になったのだろう。一方で、カツラなどによって も [容

‑51‑

(13)

貌の調整]ができないこともある。

ウィッグは似合わないんですよね。傍から見たら、髪質 も違 うし、いかに もカツラつけてるって感 じで、本当に自分で自分が嫌になって、自己嫌悪 に陥る。外に出れな くなった り、人 目を気にする。(BC14)

これは、容貌の調整のコントロール感、達成感に対 して、[不完全感]だといえ

るだろう。

また、[不完全感]というより、BC 5のように [不便・面倒]と表現 したほ うがよい心境もある (BC 7は 「重宝 している、楽ちん」とも言っていたのであ るが)。

胸は不 自由さとか不便さっていうのはまった くないんですよね。自分の中 でもう一回胸がほしいかどうかつていうことだけですよね。髪の方はもの すごく不便ですよね。人前に脱毛 したまま出られなぃ ということが不便で あるし、強風が吹いた時はずれているんじゃないかと思って ドキッとした りとか。人日とかそういうことでいえば、胸 より髪の方が私の中でのダメー ジは大 きい。(BC 7)

以上のように自己評価や他者からの評価 (他者からの見 られ方)に影響する 脱毛を「標準」に引き戻そうと、頭髪の脱落をかつ らやウィッグ、帽子などに よって見え方 (容貌、外見)をマネジメントしようとすることは、[容貌の調整]

とまとめられ、容貌の調整に関する経験は、[コ ントロール感・達成感][不 完全 感][不 便・面倒]などがあることがわかった。

3.1、 3.2、 3.3で見てきた、[自己評価][他者からの見 られ方][容貌の 調整]は、先に述べたように、脱毛によって [がんだと見てわかる]ことによっ て生 じている。頭髪・体毛すべてが脱毛することは抗がん剤使用によるのだと いう知識を自身も他者 も持っているから、一日してがんだとわか り、[標準的な 身体からの逸脱]を認識 して自己評価や他者からの見 られ方が変化 した り、そ

の調整をおこないたいのだといえよう。

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34.が んの排 出 と生命の再生

毛髪・体毛 の変化 は、[標準的身体 か らの逸脱][がんだ と見てわかる]ことに 関連 していたが、 それ らとはまった く異 なるカテゴ リも発見 された。次の語 り は、抗がん剤投与 が終わ り、頭髪 が生 えて きた ことを語 ったものである。

抗 がん剤 が終わ る と、芝生 に芽が出るみたいに髪が生 えて くる。す ごい喜 び。(BC15)

抗 がん剤 が終わって、 まもな く髪がち ょっ とずつ生えて きて、やっぱ り人 間の力、生命力 とい うものも感 じました。(BC 7)

治療 が一段落 したか ら、薬 の影響がな くなって、身体 の中で、や っぱ り髪 の毛 が生 えたい、生 える細胞 が動 き出 したんだな とい うのを感 じた時 は、

嬉 しかった。 まだ死んでないんだ、希望 がでて きた感 じがあった。(BC 9)

す ごい、毛 が生 えて きているんだ、私、生 きているんだなって思 って。(BC 3)

これ らの語 りは、発毛を「生命の再生」 と重ねて認識 していることを示 してい る。BC12の語 りは、発毛だけでなく、脱毛する時点でも、毛髪に生命 を重ね、

「がんの排出」をイメージしている。

抗 がん剤 の薬で、髪 の毛 が全部悪い ところを吸い取 って落 として くれた、

これが吸い取 って落 ちて くんだか ら、 よ くなるよと自分勝手 にいい風 に考 えて、 自分 に暗示 を掛 けた。(BC12)

「新 しい自分 に生 まれ変わるために、今す ごい変な格好 しているんだ」って い うふ うに受 け止 めて。「これは自分の再生 なんだ、悪 い細胞 を殺 して再生

しているんだ」 って。(BC16)

「生命 の再生」 も「がんの排出」 も、がんの状態 を毛髪 に投影 していると言え、

本稿 では このカテゴ リを [毛髪への投影・ がんの排 出 と生命 の再生]と名づ け た。

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以上、毛髪・ 体毛 に関す る語 りにラベルをつ け、 その ラベルか らカテゴ リを 作成 していった内容 を、語 りとともに説明 した。すべてのカテゴ リは、図1に ホ した。

  使

Sヽだと見てわかる

Z

入 蠍

ジエンダー 力ヽ●であるこ 0喜譲誠

周りと違 う疎外感

攀 轟 枷

│1懸コントロー

ル感 違 成感

カムアウ

周 囲 の とまど い 配 慮

女 性 性

の 螢 失

¨一¨靴

がん経験者の語りにみる「毛髪・体毛」に関する経験 :乳がん経験者 および前立腺がん経験者。破線はホルモン療法のみ。

記述 的、状況説明的語 りであるため、カテゴ リには含 めなかったが、抗 がん 剤投与前の脱毛への不安や脱毛の状況説明 も語 られていた。 テレビ ドラマで ご そっ と抜 けることが描 かれた りす るイメージをその ままもっていたこと (た えばBC12、 BC17)、 実際 にごそっ と抜 けることが衝撃的だった こと(たとえば BC18)、 プラッシングや洗髪 のさいに対応で きないほ ど脱毛 した り、脱毛 の処 理が大変 なので抗 がん剤投与前 に美容院や床屋で短髪 に しておいた り、常時脱 毛す るために日常生活 が大変 だつた りといつたエ ピソー ドな どである。 それ ら では、頭髪の脱毛がいかに不安 で苦痛 に満 ちたものであるか、 とい うことが表 現 されている。

他 の調査 で も、た とえばアメ リカで女性 のがん患者 を対象 に した研究で は、

抗がん剤使用の副作用 による脱毛 を回避 す るために抗がん剤療法 を受 けない割 合 は8%で、抗 がん剤 の副作用 として頭髪 の脱毛 をあげるのは58%であ り最 も 割合 が高 い (McCaⅣey EL etal,2001)。 抗 がん剤 による脱毛 は、女性 の 自尊 心 を低下 させ、生活の質 を下 げるといわれ るが (McGaⅣey EL et」,2001)、 記の ように脱毛 自体 が衝撃的な経験 になってい る。英語で脱毛 はloss of hairな

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い しhalr lossと 表現 され るが、loss=喪 失、 とい う喪失体験 であることがわかる (Hilton他2008)。 本 データで もせ っか く生 えて きた髪 の毛が また抜 けることに 拒否感 があ り、抗 がん剤 の変更 を拒否 した人 もあった。 がんが転移 したBC20

は、「延命治療 になるので、死ぬまで抗がん剤療法が続 くJので 「ずっ と髪 がな い」状態 にな り、「母 にその姿 を見せ られない、髪の毛がない状態で死ん じゃっ た らお母 さんがかわいそう」 と思い、髪 が抜 けない薬 を医師に希望 して選択 し てい る。

4.考

以上、語 りとカテゴ リの抽 出を説明 して きたが、抗 がん剤 による脱毛やホル モ ン療法 による体毛の変化 にっぃて、 これまでの日本の調査研究では示 されな かったようなカテゴ リが示 されている。

第一 に、周囲 と違 う、 これ までの 自分 と違 う、標準的身体 か ら逸脱 している とい う疎外感や違和感 は、 ジェンダーに関す る自尊心 を低下 させ た り、 がんで あることを再認識 させ た りす る。 これ は 「自分 らし くないJ「生 きに くい」「窮 屈」「凹むJな [自己認識]に関わ る領域である。当事者 に とって抗がん剤 の 副作用 として 〈痛みや嘔吐や悪心などの体調不良ではないのに)脱毛自体が重 大であるために、がん看護においても脱毛へのケアは重要な領域になっている

(Batche10r2001)。

先述 の ように先行研究 において も、頭髪 は「女性 らしさ」 とい うジェンダー に関わっていると述べ られている。確 かに本 データで も、[女性性 の喪失]と うカテゴ リが抽 出されたが、体毛 の脱落が、[男性性 の喪失]と関わっているこ とがわかった。化学療法 によって脱毛 したイギ リスの19人DIPExの語 りを分 析 したHiltonら (2008)では、腕、体幹 の体毛 (胸毛や腋毛 な ど)、 陰毛、すね 毛 もない様態 を「毛 をむ しられた鶏Jのようで、「規範 と根本 か ら異 なる身体」、

「少年 の ようJと語 った男性 があった。「少年 の よ う」 とい う表現 は、本 データ の「寂 しいJと同様 に、「男性性J力失われたもの と認識 されていることを示 し ているだろ う。

そもそも、頭髪 は、歴史的に、宗教 的、社会 的、文化的、政治的 な象徴 で、

脱毛 は、加齢過程、死、セクシュア リティの欠如 に加 え、魅力 の欠如、個性、

病気 の状態 と関連 して きた。 それ以外 にも、Synnott(1987)力 S毛髪 は個人 に とっても集 団に とってもアイデンティティの象徴 だ と述べ たように、サ ブカル

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チ ャー (染色、スキンヘ ッ ドや リーゼン トな ど)や社会 的位置・ 役割 (僧籍者 の剃毛、部活動等の規定 による短髪)の表現でもある。た とえばHmmら (2008) では、抗 がん剤で脱毛 した男性 が 「凶悪犯の ように見える」 と語 つている。

第二 に、 とくに抗 がん剤 による脱毛 は、 その容貌 ががん治療 中であることを 示す ことにな り、[他者 か らの見 られ方]に関 して、[周囲の困惑や配慮 を認識]

した り、がんであることを告 自 ([カムアウ ト])する行動 を余儀 な くされた り す る。 あるいは、 カツラをつ けている姿 を見 られ ることによって、がん罹患の カムアウ トに替 える、つ ま り抗 がん剤使用 による脱毛が、がん罹患 の「カムア ウ トの代理」の契機 にもなっていた。ILitonら (2008)において も、脱毛 は、が んであることを周囲が認識する、つ まりがん罹患 が「公 になるpublicly」 経験で あることが示 されてい る。

第二 に、 自己認識や他者 か らの見 られ方 を標準的身体 に近づ けるために、[容 貌の調整]力お こなわれるが、 ウイッグ等の代替的装着物 によって他者 か らの 見 られ方 を操作 で きた と感 じられ る場合 には、 自己効力感、 コン トロール感、

達成感が もた らされ るけれ ども、不完全感 をもた らす こともある。帽子やカツ ラは「容貌 を正常化する」 ことに役立つが、同時に「差異 を感 じるJ経験 にも なる (Hilton他2008)。

頭髪 はカ ツラな どによる代替可能性 が高 く、容貌 の調整可能性 が高 くて も、

眉毛や睫毛 な ど容貌 に関わ る体毛が脱毛することは、標準的身体 か らの逸脱 を 際立たせ る。

Hlltonら (2008)においても、 日の周囲の毛がない ことが「周囲 との違 い」を 大 き くし、凝視 された り、「がん患者 アイデンテイテイ」 をもつ ことになると述 べ られている。頭髪 も眉毛、睫毛、髭 もない顔 は、何 も覆 うものがな く「ゆで

たまごの よう」 だ と語 られている。

第四 に、[がんの排出や生命 の再生]のように、がんを脱毛や発毛 に投影 する ことがわかった。抗がん剤 による頭髪 の脱毛 と発毛 は、抗 がん剤 の投与・ 終了 とほぼ時期 を同 じくしているために、がん体験 その もの と重 ね合わせ た意味付 与 がお こなわれ、脱毛 によってがんの排 出が、発毛 によって再生・ 生命力が認 識 されてい る。がん経験男性 のインタ ビューデータを分析 した濱 田 ら (2007)

も、「脱毛は自分の身代わ りJと考 えた語 りを紹介 してい る。

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5.今後 の課題

今後 の課題 としては、第一 に、時系列的な分 析をお こなわなかった ことがあ げられ る。本 稿は時間的な順序 を捨象 して内容分析 をお こなってい る。一人一 人の語 りを時間軸 で分析す ることによって、経験や意味付与 の変化、葛藤や両 義性 を分析す ることが可能 になるだろ う。

第二 に、「脱毛」経験 には、加齢 による脱毛 (それが相対的 に早い場合 を含 )、 自己免疫疾患、ス トレス による脱毛 (円形脱毛症等)、 感染 による脱毛 な どがある。た とえば加齢 による男性 の頭髪 の脱毛・薄毛 は、 た とえば笑 い飛 ば した り自らを嘲笑 す るな ど、「意 に介 さない」 ことが 「男 らしさJだとされ る (須1999,戸2003)。 (2013)は、加齢 による男性 の頭髪 の脱毛・薄毛が

「男性型脱毛症 (ACA)」 として医療化 したことを示 したが、がんによる脱毛へ の意味付与 を、医療化や消費化 (カ ツラや ウィ ッグの消費化,森2013)の観点 か ら分析す ることも可能か もしれない。

脱毛ではないが、本 稿の鍵 概念 の一つ となった 「標準的身体 か らの逸脱」「容 貌」 とい う観点か ら、ユニークフェイス12研究の知見 をひ くと、外見 に関す る 悩み を抱 えてい る人 ぴ とにおいて、加齢 による薄毛 は、「その悩 みを社会 的問題 として捉 えることが最初 か ら禁 じられている」 のに対 して、ユニークフェイス は「社会的問題 として捉 え主体的 に抵抗す る ことが可能 であるように見 える」

のだ とい う(戸2003)。 それは、前者 は健康 なのだか ら外見が変 わっても内面 は変わ らないはず とされて、外見 を客観的 に対象化す る可能性 が閉 ざされ るの に対 し、後者 は 「普通」 と異 なる 「異形」 と自己同定 し、社会 的に異形 と見 ら れてい ると認識す ることによ り、社会的問題 として捉 えることがで きるか らで ある。

以上 のようながん以外 の脱毛 に関す る経験 を比較検討す ることによって、本 稿 の語 りが、がん経験 に特有 のものなのか、 また、脱毛、毛髪、体毛一般 の経 験 なのか、 さ らに標準的身体・ 容貌 に関す る研究 なのか検討す ることがで きる だろ う。

最終的には、 こうした研究 によって、身体経験・ 身体 イメージ と自己評価 の 関係性 を明 らかにす ることを 目指 したい と考 えてい る。

12ュ ニ̲クフェィスは、顔や身体 が病気や怪我 な どによって変形 した り、あざや傷 があった り、先 天異常がある人 びとの こと。

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参照

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