防災啓発教材を考える : インドネシアの事例から
著者 鈴木 清史
雑誌名 アジア研究
巻 4
ページ 1‑15
発行年 2009‑03‑31
出版者 静岡大学人文学部「アジア研究プロジェクト」
URL http://doi.org/10.14945/00006834
防災啓発教材 を考 える一イ ン ドネ シアの事例か ら一
(鈴木清史
)防災啓発教材 を考 える 一インドネシアの事例から一
鈴 木 清 史 ※
はじめに
2004年 12月 イン ドネ シア西部バ ンダ・アチェで発生 した津波は、イン ドネシ アだ けでな く隣国や大海の彼方の国 ぐににも襲いかか り、多大な物的 。人的被 害をもた らした。数万の人びとが死亡 し、行方不明者数はそれをはるかに越えた。
こ うした被害が生 じたのは、地震そのもの と、それが引き起 こした津波の規 模が圧倒的に大きかったからである。 しか し同時に人的な要因
.も比重が大 きかっ た こ とが後 日明 らかになつている。つま り、地震や津波 について、地域住民が 十分 な知識 を持 つていなかつたために、適切な対応がな されていなかった とい うことである (た とえば、徳島大学環境防災セ ンター 「スマ トラ沖地震 イン ドネ シア バンダアチェ地震 。津波調査 http:〃 encdo.ce.tokushima― u.ac.
jp./report/indonesia/murakanli.pdf)」 。
こうした指摘を うけてであろ う。イン ドネシアでは、ここ数年国際機関や NG0
の協力を得て、住民の防災意識 を高めるための宣伝活動が行なわれ、そのため の教材が作成 されてきている。
本稿では、それ らの中か ら地震 と津波 にかかわ る教材 を取 り上 げて、その有 効性 を検討 してみ ることにす る。
1 取 り上 げる教材
2007年 4月 イ ン ドネシア・エネルギー鉱 山資源省地質庁 (GeologicalAgency, 1/1inistry of Energy and Mineral Resources,Indonesia)が 「地震 と被津波 被害 に柔軟に対応できる共同体構築を目指 して」 とい う国際セ ミナー (International
Seminar,Tarthquake and Tsunami Hazards A/1anagement for Resilient Communityり をジャカルタで開催 した。 このセ ミナーで用意 された抄録の中に、
※人文学部・教授
イ ン ドネ シアの NGOで ある IDEPが 作成 した、地 震 と津波 にかかわ る防災啓発 用 の漫画 が含 まれ ていた。それ らは、 G切 っα Bπ π″ α ″勉 ル がαη ル %%
滋 ッ %カ ク′ Dθ
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(非6訳 :地 震 [副 題 :地 震 につ いて の地域 社会 の役 割 につ いての話 ])と ■ %%α %〃 κ′ sα カ ル π′ のィ
K"憾 %蒻 4α %ル 勿りαπ力α′ &zα ′」 %夕 降 gLαグ
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波 [副 題同じ ])で ある。 政府主催の国際セミナーで配布された資料に紹介され
ていることか ら、 これ らの啓発漫画は政府の公認 を得ているといえる。 この こ とか ら、以下では、 これ らを考察の対象 として用いることにする。
これ らの資料 を作成 している IDEPに ついて説明をしてお こう。
IDEPは 、 Yayasan IDEP Foundationを 正式名 とし、 1999年 バ リで創設 さ れた非営利団体である。設立当時、イン ドネシアはアジア通貨危機のまっただ 中にあつた。 この基金は、持続的な生活確保のための環境教育 を施 しなが ら、
安定 した食糧確保 と資源管理 を目的 としていた。その後活動の範囲が拡大 し、
環境保全への住民意識の向上、教育カ リキュラムの開発な ども行な うようになっ ている。
防災教育 については、2003年 頃か ら地域 に根 ざした防災計画 を立案 し、地域 防災、非常時の対応そ して復興措置な どにかかわ る教育活動 を行なっている。
これまでに、地域の防災活動 を確認す るための手引き (50種 類
)、2種 類の防災 啓発ポスター、そ して 8つ の災害 にかかわ る啓発書を発行 してきている。 これ らは漫画 によって防災情報が伝 えられてお り、年少者 も親 しむ ことができるよ うに工夫がな されている。
啓発漫画が取 り上 げている 8つ の災害 は、津波、地震、洪水、地滑 り、火山、
嵐 (台 風
)、平和構築、テ ■リズムである。これ らの啓発書は、 IDEPに よれば、
「災害が地域社会を襲つた ときに、現場の人び とが何 をしたのか とい う架空の 話 を取 り上げている。そ して、話 を展開 させなが らどのよ うな対応が望ましい のかを示している」 。これらの啓発書は、地域社会の全員が読んでいくのが望ま
しい と、 IDEPは 位置づ けてい る。
2 内容分析
ここでは地震 と津波 に関する啓発漫画 を紹介す る。邦訳は、静 岡大学で学ん でいるイン ドネシアか らの留学生 によるものである。本人 との話 し合いに基づ いて氏名は提示 していない。
2
防災啓発教材を考えるニインドネシアの事例から一
(鈴木清史
)2‑量 地震に関すほ啓発罐譲輔
地震べの対応 を啓発す る漫画冊子は 0嘲 療Ⅵ 隊轟澱 である (資 料
1)。この 冊子の前書 き (1頁 )に は、 この啓発漫画雑誌の位置づ けが以下の ように述べ
られている。
「地域社会独 自の対策計画を
4/1進す るのに伴い、災害が発生 した とき、地域 社会 自体が より適切 な対策 を施すために、地域社会 も災害への対策 を徹底的 に 把握す る必要がある。 この冊子は、災害が発生する前の準備 と、災害 による被 害 を減少 させ る取 り組み に焦点を当てている」
その記述ののち、 8頁 の漫画 とそのあ とに 3頁 にわたる地震への心構 えと対 策が箇条書 きで記 されてぃる。
漫画 のあ らす じ
l―l以 下の通 りである。
「サ ッカーに興 じていた子 どもたちが帰宅 した場面か ら始まる。家族が食卓 に着 き、食事を始 めようとしたその時、地震が発生する。
地震への対応 を学んでいた子 どもたちは、食卓の下 に潜 り込み、落下物 を避 ける。
やがて地震が収ま り、 部屋 を見渡す と、災害発生時の対応が適 したものであつ たため、家族 は皆無事だつた。 しか し、 自宅への被害は大 き く、使用できな く なつた。家族は仮避難所 となつたサ ッカー場 にい くことになった。村で、同じ よ うに被災 した人び とも集まってきて、そ こで寝油ま りしなが ら、地域 の住宅
資料 爾 『鑢震』⑮ο ttP褻 麟酵購」 ′
の点検 を始めた : │
話 し合いの結果、使用できな くならた家屋は取 り壊 しなが ら、村 の復興活動 を始めることを決めた。必要な経費は募金に頼ることにな り、子 どもたちのサ ッ カーをそのために活用 し、地域全体で支え合 うことが始まった」
資料 2 G」 國好し 436型 W 4頁 か ら
左上→ 右→ 2段 目左→ 右→ 3段 目左→右 の順 [訳
]急 に家 が揺 れ始 めた。
次第 に揺れ が強 くな り、
時計 が落 ちて きた。
学校で IDEPの 本を教わっ た こ とが あるア リ君 は直 ち に対策 を取 る。
急 いで机 の下へ入 つて、
身 を守 ろ う
!地 震 が止 まって、
み んな大 文夫 か ?
僕 、大 文夫
l僕 も大 騰我じゃなかつた
!漫画 に続 しヽ て提 示 され て
bヽる対策事項
啓発 漫画 に続 く解 説 は 3つ に分 かれてい る。それ らは地 震対策 と地域社会 の あ り方、地震 の発生 メカニズムの説 明、そ して発生時 の対応 と地 震発生後 の地 域 での対応 で あ る。 以下 はそれ らの要約 で あ る。
イ │
防災啓発教材を考える一インドネシアの事例から一
(鈴木清史
)地震対策のために地域社会ができること
・ 発生する可能性 を減 らす こと
ある地域での災害被害を減 らす には、 当地域社会が防災の対策 をすること が大事です。
・ 被害者数 を抑 えること
一般的 には、準備不足のせいで多 くの被害者が発生 します。準備 してお く ことによつて、地震が発生 した とき適切で役立つ対策 をとることができるで しょう。
・ リスクを軽減す ること
災害 によつて、物的 。人的被害が生 じます。防災対策 を知 ってお くことに よって、 この リスクを軽減できるで しょう。
・ 協力体制 を築 くこと
地震への取 り組みは、地域社会 の人び とが ともに担 うべ きです。災害の取 り組みが うま くい く為 には協力や連繋的な行動が非常に大切です。
地震の発生 メカニズム
地震は地球 内部の運動で、プレー トテク トニクス同士が接 していることが原 因だ と考 えられています。
イン ドネシアは、活断層がた くさんある場所の近 くに位置 している上、火山 の山脈 に囲まれている国です。そのために地震が起 こりやす くやや危険度が高 い といえるで しょう。
地震が発生 した ら何 をするべ きか。
1)建 物内にいる場合 には、余裕があった ときには直ちに空 き地へ逃 げま しょ う。窓ガラスの破片や落下物 に当たつた りすることがない よう気 をつ けましょ う。丈夫な椅子や机や他の家具の下 に入 つて身を守 りま しょう。
2)窓 ガ ラスの破片や暖炉や コンロ、ス トーブな どの倒れやすいものか ら離れ ま しょう。
3)就 寝 中の ときには、ベ ッ ドの下か身近な机 の下 に身を隠 しま しょう。懐 中 電灯 を常 に各部屋 に用意 してお くことを勧めます。
4)外 出中の場合 には、建物や高い木や電柱か ら離れて広い場所や空 き地へ避 難 しま しょう。
5)車 の運転 中の ときには、安全な ところで停車 し、車か ら出ないで下 さい。
橋や仮橋や トンネルなどからできるだけ遠ざけたほうがいいでしょう。
6)山 地や山の麓 にいる場合には、崖崩れや土砂崩れ に気を付 けましょう。
7)海 岸 にいる場合 には、数百 メー トル程度高い所へ避難 しましょう。地震 に よる津波が及ぶ恐れがあるか らです。
地震後の対策
1)怪 我の確認。 自分 自身を守 つたあ と、怪我 をした り、がれ きに閉 じ込め ら れた りしている隣人や周 りの人を助 けて下 さい。
2)安 全確認。地震が収 まった ら、火災やガス漏れや電気線の確認をして下 さ
い 。
3)間 接的な危険性 をもつ ものか ら身を守 りましょう。
4)隣 人への援助。特 に、お年寄 りと障害者を助 けて下 さい。
5)片 付 け。危険なものや こばれた薬 を取 り除いて下 さい。
6)余 震が起 こる可能性があるとい うことを心がけて下 さい。
7)建 物 に近付かないで下 さい。
防災計画作 り
1)シ ンプル :緊 急計画の項 目は少ないほ うが良いで しょう。
2)避 難先の設定 :地震後にもっとも安全な避難地への逃げ方を家族で話 し合 っ て決めておきま しょう。
3)連 絡先の設定 :家族 がバ ラバ ラになつた場合 に備 えて、 2箇 所の連絡場所 を決めておきましょう。 1つ は、 自宅 に近 く安全な場所で、 2つ 目は、地 区 外の建物や公園を勧めます。
2‑2 津波に関する啓発冊子
日本語の津波 とい う用語は、地震な どによって引き起 こされる海洋の現象の 固有名詞 となっている。イン ドネシアで発行 されている啓発冊子の題名 にも、
まさにその用語が用い られてお り、 rS」 NA動 りである。この冊子 も、地震の啓 発冊子 と同様 に以下の記述で始 まる。
「地域社会独 自の対策計画を促進するのに伴い、災害が発生 したとき、地域 社会 自体が より適切な対策 を施すために、地域社会 も災害への対策を徹底的 に 把握す る必要があ ります。 この冊子は、災害が発生する前の準備 と、災害によ る被害 を減少 させ る取 り組みに焦点を当てている」 (1頁
)δ
防災啓発教材を考える一イン ドネシアの事例から一
(鈴木清史
)そ して、地域 社会 での取 り組み の重要性 を説 く解説 (1頁 分
)、漫 画 (7頁
)、そ の後具体 釣 な対応 につ いての解説 (3頁 )か ら構成 されてい る。
津 渡 警歿 り上 《 ザたわ兆漫爾 靱 盪 はず 顆
「漁民 のケ ウチ クさんが、その 日の漁 を終 えて後 片付 けを してい る ときに、
地 震 が発 生す る。地 震 が起 こった ら、丘や inの よ うな高 ぃ場所 に避難 しろ、 と 親 か ら教 え られ て きた ケ ウチ ク さんは、荷物 も持 たず に急 いで避難 した。 同 じ
よ うに避難 した家族 とは丘 の上 で合流で きた。
一方 で、避難 しなか ったケ ウチ ク さんの友人一家 は、潮 が引かた海 に出て魚 を集 めていた。 その時突然津波 が押 し寄せ て きた。友人一家
l―■たまた ま近 くの 人 に救助 され たが、命 をな くした人 の数 も多 か った。
津 波 が収 ま る と、難 を逃れ る 逸 とがで きた人 び とは、亡 くな った人 の遺体 を 片付 けた り、被害者へ の寄付や援助 を協 力 して施 す こ とに決 めた。」
そ して、漫画 は 「津波 は滅 多 に しかお こ ろないが、プ が構 えを して他 の地域社
会 と協 力 して助 け合 いま し ょ う」 とい う言葉 で締 め くくられ てい る。
資料 4 欝 もヽ A醒 鶴 P3買 か ら 最上段 か ら左→ 右→ 2段 目
左→ 右→ 3段 目左→ 右 の順 [訳
]Bllの
ところで、海岸 の近 く に住んで しヽるデイ ンさん で ケ ウチク さんの友人
「ち ょつ と、海 のほ うに見 て くれ l潮 が引いてるんじゃ ない
?」魚が い うぱ―い
l(そ の直後 )危 ない、海 の 方 か ら潮 が さす ぞ
l急いで逃げよう
l助けて
lデインさん、 私の手を捕まっ て
│漫画 の あ と、解 説 が続 く
6それらは以下の通 りである。
津波対策のために地域社会がで きること
。発生する可能性を減 らす こと
地域での災害を減 らす には、 地域社会が防災の対策をす ることは大切です。
齋被害者数を
lr「えること
一般的 には、準備不足のせいで多 くの被害者が発生 します。準備 してお く ことによって、地震が発生 した とき、適切で役立つ対策 を とることができる で しょう。
饉リスクを軽減すること │
災害によって、物的 。人的被害が生まれます :防 災対策を知つておくこと
に よ つ て 、 この リス ク を軽 減 で き るで し ょ う。
∂
防災啓発教材を考える―インドネシアの事例から一
(鈴木清史
)・ 協力体制 を築 くこと
地震への取 り組みは、地域社会の人び とが ともに担 うべ きです。災害の取 り組みが うま くい くためには、協力や連繋的な行動が非常 に大切です。
さらに次のよ うな記述が続 く。
津波の発生 メカニズムについて
海岸で起 きた 自然災害は津波です。 この災害 はごくまれ に起 きますが、危険 度 の高い災害だ と考 えられます。津波は海底で起 こる地震 によつて断層が生 じ て海面 に現われる波です。津波は、津 (み な と )「 pelabuhan」 と波「 ge10mbang」
か らな り、 もともとは 日本語 に由来 します。
津波はいつ発生 しますか ?
雨季であれ乾季であれ、そ して昼であれ真夜 中であれ、津波はいつでも起 こ り得 るものです。前兆 として次のよ うな ものがあ ります。
津波の前兆
。一般的なものは海底で起 こる強い地震です。
・ 海面での急な引き潮は、その直後 に巨大な波 が襲 つて くる兆 しにな ります。
・ 通常、津波 は複数回押 し寄せ ます。最初の波 のあ と、 もっ と大 き くなる傾向 があ ります。
津波による影響
・ 洪水 と押 し寄せ る波で建物や施設な ど、 もともと陸 にあった物な どが破壊 さ れ、海 に持ち去 られるよ うな被害が発生 します。
・ 水質汚染
津波か らどう自分の命を守 るべきか ?
津波が起 きた ら落 ち着 くこと。「′ い備 えあれ ば、憂いな し」です。
自分 自身の命の守 り方
1)海 岸 または近海 にいる とき長い揺れが感 じた ら、 直ちに高台へ避難 しましょ う。津波注意警報 を待たないで、屋根 の上、高い建物又は高い木 をのぼるこ とを勧めます。
2)津 波 は海の近 くの河川か ら襲 って くることもあ りますので、河川か ら離れ
ましょう。
3)荷 物 よりも自分の身の安全を確保 しま しょう。
4)周 りは どんなに被害 を受 けて も、まず二刻 も早 く走って逃 げま しょう。
5)津 波 に巻 き込 まれ た ら浮 き上 がるもの に捕 まって、その上 に体 を乗せ ま しょう。
6)助 け合 うこと。津波が収まって、 自分 の家は災害 を免れた場合は、家をな くして しまった人達 を泊ま らせて下 さい。特 に、子 ども、妊婦、お年寄 りと 障害者 を優先的 に収容 して下 さい。
津波の被害の防ぎ方
・ 津波や嵐な どによる被害をもっとも大 き く受けるのは海岸線です。家 を建て るときには海岸か ら 100メ ー トル程度の距離 をおいて下 さい。
・ アレカヤシ、ハイ ビスカス、ベ ンガルボダイジュのよ うな津波 に耐え られる 樹木 を植 えることを勧 めます。
・ 地域政府が決定 した基準を従 って植 えて下 さい。
津波 の直前の注意要件
・ 津波の前兆が感 じた ら、至急、回 りの人び とに知 らせて下 さい。
・ 油断せず にす ぐに避難 して下 さい。
・ できるだけ海岸か ら遠 く離れて高台へ避難 して下 さい。
・ 信頼できるメデイアか ら最新の情報 を参考 して行動 して下 さい。
津波が収まった ら
・ 電圧が高い電柱の ようなものか ら離れて下 さい。
・ ある地区の安全性が確認できてか らその地区に移動 して下 さい
・ 破壊 された建物 に近付かないで下 さい。
・ 自分の状況 について地方政府 の機関に通報 して下 さい
。他の人び ととともに、散 らばっていたものを片付けた り遺体を葬つた リー緒 に祈 った りして下 さい。
・ 中央政府や地域政府か ら助 けや生活 に必要なものを求めて下 さい。
・ 自分の災害の経験 について家族や子 どもや友達 に伝 えて下 さい。そ うす ると、
適正で現実的な知識 にもなるで しょう。
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防災啓発教材 を考 える一イ ン ドネシアの事例か ら一
(鈴木清史
)3 防災教育教材 としての啓発漫画評価
矢守 によれば、防災にかかわ る教育は、 2つ に分 けることができる (2006)。
それ らは、専門家 とそ うではない人び との間の知識や技術の格差 を埋 める格差 是正教育 と、格差 を 「生みだ さない形式で知識 ・技術を生成することを志向」
する格差解消教育である (矢 守 2000343)。 双方 にそれぞれの意義があるが、根 源的な解消 を目指す ときには、格差の解消 も重要である、 と矢守は説 く。加 え て、防災学習では、情報 を提供する側 とされ る側が供 に関与 しあ う「参加」型 が 目標 とされ るのが望ま しい (矢 口 2006:345)。
こ うした視点か ら上記 の 2つ の啓発冊子を検討 してみ ると以下の特徴 を指摘 す ることができよう。
格差にかかわる側面
紹介 した 2う の啓発冊子は地震や津波が どの よ うにして発生す るのか、そ し て どの よ うな対策 を とるべ きなのかを教 えている。 これは、格差是正 を目指 し た もので、その背景 には、2004年 の最初の津波被害が発生 した際 に判明 した こ と、つま り住民の側の災害への知識欠如がある。冊子は、 こうした差 を克服す ることを目的 としているのは明 らかである。地震 にかかわる情報 よりも、津波 対策 を訴 える啓発冊子の方が、 より詳 しい情報 を載せているのは、災害 として
より差 し迫 った ものであったか らだろ う。
知識 を普及 させて、住民 に心構 えを訴 えることを目的 としている とい う意味 では、啓発冊子はきわめて分か りやすい形式であるだろ う。若年層の子 どもた ちが手 に取 りやすい、 とい うことを考 えても、効果はそれな りに期待できるよ
うに思われ る。
また、専門家や行政の側が、住民 に対 して 自然現象発生のメカニズムを紹介 することで、知 の格差是正 も進むのではないか と思わせ るし、い ざとい うとき の対応や地域社会での集団的心構 えを醸成す ることにもな りえる と思われる。
イン ドネシアの冊子 は、それ らの情報が掲載 されている。
しか しなが ら、習得 した知識が行動 として どれほ ど定着す るのか、あるいは それが実践 され るのか とい うことになると、別の判断基準が必要 になるだろ う。
住民が 自身の身を守 るためにいかに行動す るべ きか とい うのは、災害や リスク
についての住民意識 が大 き く関わ つて くる。そ して、その意識 は、実際の行動
へ と連なって くるのである。
知の実践に向けた視点か ら
幼児か ら小学生低学年層を対象 にした防災教育教材 「ぼ うさいダック」を開 発 した吉川 らは、 自身の身を守 るとい うことについて 4つ の基本的概念 を提示
している (林 、吉川、矢守、制 日本損害保険協会 2007:1‑3)。
それ らは、
1)災 害が発生 したその時点での、対応すなわち 1次 対応行動 の習得 を促進す ること。
2)非 言語 コミュニケーシ ヨン手段 を採用すること。
3)特 定の災害対応ではな く、生活全般 にかかわる「生活防災」を目指す こと。
4)柔 軟 に活用す ること。
である。
この基本的な考え方か ら、「ぼ うさいダック」では、災害 とそれへの対応 を、
それぞれ 1う の絵で象徴 させている。教員や指導者が、ある災害を示す絵 を見 せて、それへのあるべ き身体的対応 を示 し教 えてい くのである。 これを繰 り返 す ことで、幼児や児童 に条件反射的身体行動 を覚え込ませ るのである。言葉を あま り用いることな く、かつ、年少者はゲームや遊びの一種 として災害対応行 動 を学んでい くことができる、 とい うのが教材 としての 「ぼ うさいダック」の 特徴である。 ‐
「ぼ うさいダック」が さらに特徴的なのは、災害だけでな く生活防災や柔軟 な活用 を念頭 においていることだろ う。 これ らは 日本の社会的事情 とかかわっ てお り、自然災害 とい う枠組みだけでな く、「ハザー ド」とい う概念で、自然災 害だけではな く、発生 し得 る社会的 (つ ま り人的な )な 危機である誘拐や、傷 害 さらに窃盗な どにたい しても身の守 り方 を伝授 しようとい うのである。
これ らの特徴がある 「ぼ うさいダック」 と、イン ドネ シアの教材 を比較 して みると、次の点が指摘できるだろ う。
イン ドネシアの啓発漫画 においては、
1)漫 画そのものも合めて、 (文 字 )情 報の量が多い。
2)自 然現象発生 メカニズムに関す る専門的情報 に加 えて、対処法 も並列 され ているために、何 が どう重要であるのか、 とい うことが分か りに くい。
3)自 然災害 に当たつては、 1次 対応行動 による 「生き残 り」 とい うことが一 義 として提示 され るほ うが、学習 としては明確である。 しか しこれ らの啓発 漫画では、災害発生後の対応 にまで言及 してお り、情報の整理が十分ではな
い 。