『人文コミュニケーション学科論集』18, pp. 45-62. © 2015茨城大学人文学部(人文学部紀要)
−
2
つの支援機関のインタビュー調査から−野口 康彦
要 約
わが国では、子どもとの面会交流をめぐる父母間の紛争が顕在化しており、民間の面会交 流支援機関の援助を受けて面会交流の機会を持とうとする親も増えている。子どもの最善の 利益を優先させる手立てとして、どのような面会交流のあり方が望ましいのか議論を重ねて いく必要があるだろう。本稿の目的は、離婚後の親子の面会交流のあり方が子どもの心理発 達にどのような影響を及ぼすのかについて検討するものである。具体的には、社団法人「チャ ンス&チャレンジ」とNPO法人「あったかハウス」の
2
つの面会交流支援機関に対して行っ たインタビュー調査をもとに、わが国における離婚後の親子の面会交流の実際の一側面を把 握し、子どもの利益を優先させる意味での面会交流のあり方について示唆を行うことを念頭 におきつつ、子どもの心理発達の視点を中心とし、面会交流の意義や面会交流における子ど もの年齢の2
点について考察を行った。1.問題と目的
日本では、離婚すれば父母のどちらかが単独で親権を得ることになるという、単独親権制 度が民法第
819
条において定められている。この親権制度の法的な意味について藤井(2010
) は、“他の者を排斥して20
歳未満の子どもの監護教育をすることができ、国家を含む他人に みだりに干渉されないという意味では権利的側面を有するが、一方で親権は、子どもの最善 の利益にかなうように、あるいは子どもの健全な成長発達に資するように行使されなければ ならないという意味で、義務的側面を有している” と指摘している。子どもの健やかな発達 あるいは最善の利益が保障されるためには、親権をとった監護親だけではなく、非監護親の 子どもに対する精神的及び経済的な配慮が必要になるのは言うまでもない。
2011
(平成23
)年に民法第766
条が改正され、父母が協議離婚時に際して定める「子の監 護について必要な事項」として、養育費と面会交流の分担が明示されるとともに、子の監護 について必要な事項を定めるにあたっては、「子の利益を最も優先して考慮しなければなら ない」という一文が明記された。また、上記の改正を受けて、離婚届出書における養育費及 び面会交流の合意の有無のチェック欄の新設がされた。日本の民法では未成年の養育義務についての規定がなく、離婚手続きにおいて養育費や面会交流の取り決めがなくても離婚が認 められてきた。離婚届において面会交流と養育費のチェック欄への記入は離婚届の受理要件 ではなく、また法的な拘束力をもたないことから実効性の確保は難しいものの、子どもの利 益を念頭においた面会交流の明文化がされたことは今後の具体的な施策を検討するうえで重 要な施策であると言えよう。なお、離婚時における面会交流及び養育費の取り決めの実際で あるが、
2013
年8
月19
日付の読売新聞(朝刊)によれば、2012
(平成24
)年4
月からの1
年 間で未成年の子がいる夫婦の離婚届けの提出は13
万1254
件であったが、面会交流の方法を 決めたのは7
万2770
件(55
%)、養育費の分担を取り決め済みだったのは7
万3002
件(56
%)だったという。面会交流及び養育費の取り決めに至るのは離婚した夫婦の約半数程度である が、あまりに厳密化すると、その縛りから離婚ができないケースが多くなってしまう面もあ るだろう。
子どもとの面会交流をめぐる父母間の紛争も増加している。
1998
(平成10
)年では1969
件であった面会交流に関する調停事件が2011
(平成23
)年では8714
件に増えるなど、子ど もの監護や面会交流、親権をめぐる争いが顕在化している(2013
年4
月2
日付読売新聞 朝 刊)。面会交流とは、離婚後又は別居中に子どもを養育・監護していない方の親が子どもと の面会や電話、メールなど多様な手段で交流を図ることである。このような面会交流の具体 的な内容や方法については、まずは子どもの父母が話し合って決めることになるが、話合い がまとまらない場合や話合いができない際には、家庭裁判所に調停又は審判の申立てをして、面会交流に関する取り決めを求めることができる。調停手続を利用する時には、子の監護に 関する処分(面会交流)調停事件として申立てを行う。この手続は離婚前であっても、両親 が別居中で子どもとの面会交流についての話合いがまとまらない場合にも、利用することが できる。
上述してきたように、日本では面会交流援助を具体的に定める法律はなく、面会交流につ いて民法に明文の規定は入ったものの、諸外国に比べて面会交流に関する具体的なルールの 設定が十分でない。昨今では民間の第三者機関の援助を受けて面会交流の機会を持とうとす る親子も増えている。日本では夫婦の合意があれば離婚できる「協議離婚」が全体の約
9
割 を占めるため、司法の介入による調停などによる離婚と異なり、協議離婚では細かな条件を 定めないために、別居した親が子どもに会えなかったり、養育費の負担を巡ってトラブルに なったりすることも多い。本稿の目的は、離婚後の親子の面会交流のあり方が子どもの心理発達にどのような影響を 及ぼすのかについて、
2
つの面会交流支援機関のスタッフへのインタビュー調査をもとに検 討するものである。そのためには、まず、離婚件数そしてひとり親家庭の現況を踏まえつつ、民間の第三者機関における面会交流支援の実情について社団法人「家庭問題情報センター」
(
Family Problems Information Center
:以後、FPICとする)の活動の概要を紹介したい。そのうえで、社団法人「チャンス&チャレンジ」(以後、チャンス)とNPO法人「あった
かハウス」の
2
つの機関に対して行ったインタビュー調査をもとに、わが国における離婚後 の親子の面会交流の実際の一側面を把握し、子どもの利益を優先させる意味での面会交流の あり方について示唆を行うことを念頭におきつつ、子どもの心理発達の視点を中心として、面会交流の意義や面会交流における子どもの年齢の
2
点について考察を行いたい。なお、本 調査は文部科学省の科学研究費助成事業(研究課題番号:25350921
)の助成を受けて行った。2.離婚とひとり親家庭をめぐる現況
(1)婚姻と離婚をめぐる現況
『平成
26
年 わが国の人口動態―平成24
年までの動向』(厚生労働省大臣官房統計情報部)を参考資料にして、婚姻と離婚をめぐる現状について概観したい。まず、
2012
(平成24
) 年の婚姻件数であるが、66
万8869
組で、前年より6974
組増加した。ちなみに、昭和40
年 代後半は100
万組を超える結婚ブームであった。次に、離婚をめぐる日本の現況であるが、2012
(平成24
)年の離婚件数は23
万5406
組で、前年より313
組減少した。長期的な視点か ら言えば、わが国における離婚率は上昇傾向にある。離婚件数も1964
年から増加し、1980
年代後半に一時減少したが1991
年から再び増加傾向となり、2001
年には285,917
組となり、人口千人あたりの離婚率は
2.27
で、その時点では離婚件数とともに過去最高となっている。2012
(平成24
)年の離婚件数23
万5406
組のうち、未成年の子がいる離婚は13
万7334
組(全 体の58.3
%)で、親が離婚した未成年の子の数は23
万5232
人、未成年の子がいない離婚は9
万8072
組(同41.7
%)となっている。離婚件数は横ばいであるが、20
歳未満人口における 親が離婚した未成年の子の比率は増加しており、父親または母親と別れて暮らす子どもの数 が増加している。(2)ひとり親家庭と子どもの生活環境
2012
(平成24
)年では、未成年の子のいる離婚件数に占める割合において、離婚後に妻 が全児の親権を行うのは83.9
%であった(『平成26
年 わが国の人口動態―平成24
年までの 動向』・厚生労働省大臣官房統計情報部)。このデータから夫婦が離婚をすると、多くの場合、世帯は母子家庭に移行すると推察できる。日本における母子家庭での生活状況はどのような ものであろうか。
2011
(平成23
)年に厚生労働省雇用均等・児童家庭局により発表された「平成
23
年度 全国母子世帯等調査結果報告」によると、世帯の母親の年齢は30
歳代が多く(平均年齢は
33.0
歳)、子どもの年齢の幅は小学校在学中の学童期を前後としたものになって いる。なお、生別母子世帯となった時の末子の平均年齢は、4.5
歳であった。母子世帯の就 労等、経済面を中心とした生活にかかわる環境は非常に厳しい状況である。母子世帯の母自 身の平均年間収入は、約223
万円である。離婚後の母子世帯が低所得となる要因は多様であろう。子どもを引き取り、ある一定の収入を得たいと母親は希望するものの、子どもの生活 面などさまざまな要件から自分に折り合う条件に見合う職を得ることができず、結局賃金の 安いアルバイトや非常勤の仕事に就いているという現状もあるのではないだろうか。
ひとり親家庭の子どもの貧困率についてはどうであろうか。
2014
年8
月6
日付の読売新聞(朝刊)によると、
2012
(平成24
)年の子どもの貧困率は16.3
%であった。子どもの貧困率 とは、17
歳以下を対象とし、1
年間の所得が122
万未満の家庭で生活する子どもの割合を示す。子どもの貧困率は
1990
年代半ば頃からおおむね上昇傾向にある。なお、ひとり親家庭の貧 困率は2012
年で54.6
%であった。親の離婚後の子どもの生活環境は大きく変化するだけで なく、貧困と隣り合わせになるという可能性も念頭におかなければならない。3.社団法人「家庭問題情報センター」における子ども養育支援への取り組み
いち早く面会交流を支援してきた民間の機関としては、社団法人「家庭問題情報センター」
(
Family Problems Information Center
)をあげることができる。FPIC設立の趣意につい ホームページでは「家庭紛争の調整や非行少年の指導に長年携わってきた元家庭裁判所調査 官たちが、その豊富な経験と人間関係の専門知識、技法を広く活用し、健全な家庭生活の 実現に貢献することを目的として設立された公益法人」とされている。FPICは、1987
年に東京ファミリーカウンセラー協会として発足し、1993
年に社団法人として認められた という経緯を有する。ファミリー相談室は、東京の他にも大阪など全国に9
か所の相談室が 設置され、夫婦仲の調整や離婚などの夫婦の問題、離婚後の子をめぐる問題の他にも、いじ めやひきこもりなど子育ての悩み、職場の人間関係や男女関係のトラブルといったように人 間関係、子育てやこころの問題についての相談に応じている。FPICの面会交流支援の実際の報告はされているので(例えば、棚村,
2011
;稲垣,2012
)、本稿では先行文献を参考にしながらFPICのホームページに示されている「面会 交流の案内−FPICルール」の概要について記したい。FPICでは、1994
年から面会 交流支援事業を試行的に開始し、子どもがいる夫婦の離婚についての連続セミナーを実施し、2004
年10
月から事業部門として、積極的に親と子の面会交流の援助を実施している。FPICは発足から
16
年間で650
事例を扱い、現在は約100
人のスタッフが援助者として働き、年間約
90
〜120
件のケースを支援し、利用者数は毎年増加しつつあるという。FPICに よる親子の「面会交流支援」は、FPIC内での事前相談、連絡調整・子どもの受け渡し 援助、付添い援助、試行的面会援助という内容になっている。FPICの面会交流援助では、父母が自分たちの力で面会交流を実施できないときに子ど もの立場に立って親子の縁をつなぎとめ、応急手当として行う子ども支援事業とされており、
援助の対象は小学生までとなっている。父母の希望どおりに援助を行うわけではなく、調停
条項等を決める前に、父母には個別に事前相談を行って援助ができるかどうか協議すること になっており、事前相談の相談料は
1
人60
分で5,000
円、90
分で7,000
円となっている。面 会交流ルール(調停条項等)を決めるときには、相手方、家庭裁判所、弁護士等と協議して、「面会交流の頻度や回数」、「第三者機関の援助の有無及び付添の有無」、「援助担当者の指 導・助言の受入れ意思」、「費用負担割合」を明文化することになっている
援助の種類と内容としては次の
4
つに分けられている。FPICのホームページから得た 情報をまとめたものを表1
に示した。また、FPICでは、面会交流を円滑に実施するためのルールとして、子ども中心の面 会日程の調整をすることや監護親の待機場所は援助者の指示に従うこと、そして誕生日など のプレゼントの事前相談、カメラや携帯電話の使用の留意、禁酒・禁煙などのルールをあげ ている。また、人や物に対する暴力・暴言・威圧、子どもの連去りまたは連去り企図、子ど もと監護親の自宅や学校・保育園等の近辺に立ち現れること等があった場合には、援助を中 止し、以後一切の援助はしないことを明記している。このように、離婚後の親の感情や都合 ではなく、非監護親と安心して面会できるような仕組みが整えられている。
表1 FPICにおける面会交流援助の種類と内容
種類 内 容
付添い型
別居親に子どもを会わせることに監護親が強い不安を抱いている場合、面会交流の場に 援助者が付き添い、子どもの情操の保護などに配慮する。
面会者は別居親に限る。父母のいずれの自宅も面会場所とはしない。
援助は月1 回まで、1 回の援助は3 〜4 時間以内。初回は1 時間程度、原則としてFPIC 相談室内の児童室にて行う。費用は1ケースにつき、15,000円から25,000円であるが、
具体的な金額は、場所、時間、子どもの年齢・人数などにより設定される。
受渡し型
面会交流の際、別居親に子どもを託すことに問題はないが、父母が顔を合わせられな い場合に子どもの受渡しを援助する。面会交流場面には立会・関与せず、日時、場所、
面会方法の打合せや調整、面会交流中の緊急連絡には対応します。援助は原則として 月1 回とし、費用は1ケース1回につき 10,000〜 15,000円となるが、3 〜 4時間まで 10,000円、7時間まで15,000円となる。
連絡調整型 父母が連絡を取り合うことが困難な場合、代わって双方に連絡を取り、日時、場所などの調整を行う。費用は1ケースにつき、1回3,000円である。
短期援助
裁判所内での試行面会ができない場合の例外的援助、あるいは自立の予行演習であり、
援助期間を問わず1 回1 時間程度で2 回を限度とし、FPIC相談室内及びその周辺地域に おいて援助者が付添い型で実施する。費用は1ケースにつき1回15,000 〜 25,000円となっ ている。
*費用はすべて税金を含むとなっている。
4.2つの面会交流支援機関へのインタビュー調査
(1)方法
①調査協力機関
2
つの面会交流支援機関を訪問し、それぞれの機関を代表してもらう方に半構造化的なイ ンタビューを行った。機関名であるが、一つは名古屋市に拠点を置く社団法人である「チャ ンス&チャレンジ」であり、もう一か所はやはり名古屋市に事務局を持つ「NPO法人あっ たかハウス」である。②手続き
2014
年7
月19
日に2
人の方にインタビューを行った。最初に訪れたのは「チャンス&チャ レンジ」であり、江崎路子代表理事とスタッフの志水久夫氏に対応していただいた。次に訪 れた「NPO法人あったかハウス」では、事務局長の山田修暉氏にインタビューを受けてい ただいた。インタビューは半構造化的な質問項目を設定し、ICレコーダーに録音した。な お、半構造化面接ではあるが、インタビュー調査の利点を活かすために、協力機関にかかわ る固有の事情をできるかぎり反映されるような形式で質問と応答を行った。よって、質問項 目については、2
つの機関において質問の内容自体には若干の差異がある。主なインタビュー 項目について表2
に示した。(3)「チャンス&チャレンジ」の江崎路子代表理事へのインタビュー記録と考察
①インタビューの記録
チャンス&チャレンジ(以後、チャンスとする)は多様な活動を通して親子の関係を再構 築していこうとしており、子どもの目線に立つことを理念として、子どものための面会交流 支援を行っている。
面会交流に至るまでの手続きであるが、父母双方の事前合意と事前面談の後、チャンスへ
表2 インタビュー項目の内容 1.事業の成り立ちと活動の概要について
・組織の形態や設立、スタッフなど 2.支援の実際
・事前の受付から準備、料金や回数、そして具体的な実施内容等。
・面会交流が成立(実現)しやすい要件 3.面会交流と子どもの利益
・面会交流に対する親の側の意識
・面会交流が子どもの心理発達に及ぼす影響
・面会交流を始めるのに望ましいと思われる子どもの年齢
・子どもにとって面会交流が心理的な負担になってしまう状況、面会交流が適切ではないという状況 4.活動の意義と課題
の登録を行い、その後面会交流の実施となる。費用であるが、事前面談は
1
時間につき4,000
円であり、登録料は10,000
円、面会交流は1
時間あたり7,500
円からになっている。面会の場 所は、主として1
年目はチャンスの施設『マイハウス』である。非監護親は15
分前に2
階の『マイハウス』で待機し、スタッフは
1
階で監護親から子どもを預かり、面会交流への導入 をスムーズにするための会話をしながら2
階に上り、非監護親に手渡した後に面会交流を見 守る。面会交流終了後、非監護親と別れてスタッフは子どもと交流の振り返りをし、日常生 活にスムーズに戻るための会話をしてから監護親に手渡す。導入部と面会交流終了後のケア に特に配慮していることがチャンスの支援の特徴である。監護親は子どもと帰宅し、非監護 親は30
分間スタッフと振り返りをしてから帰宅する。双方の親が顔を合わせない配慮を行っ ている。主として
2
年目以降で双方の合意があれば、『みんなでお出かけプロジェクト』への参加を 勧めている。ボウリング、明治村、東山公園、川遊び、スーパー銭湯などに出掛けて、ほぼ1
日を共に過ごす企画で、隔月に実施している。3
泊4
日の合宿も毎年実施されている企画で ある。これらに参加していずれは卒業していくことを目指している。チャンスにおける面会交流の特色について志水氏は次のように語っている。
たとえ、面会交流がとん挫しても、それ以外の支援を連携してやっていこうと、それは全 国でもないだろうと。面会交流が不可能になった場合でも、縁が続いていることが子どもへ のサポートに日々続いているので、子どもの福祉に近い。そういう手段を持っている、それ がチャンスのセールスポイントというか、チャームポイントですね。
[
インタビュー1]
志水氏はボランティアで面会交流支援に携わっているが、
2007
年の棚瀬一代神戸神和女 子大学教授(当時)の講演会の時に江崎氏と知りあい、この活動にかかわり始めたという。江崎氏によれば、父母には面会に関する双方の合意があるというのが前提で、事前面談を行 うことにより、監護親と非監護親との間で面会交流の必要性を確認しているのだという。ま た、チャンスでは親支援プログラム(通称、親プロ)を施行している。志水氏は親支援プロ グラムの第
1
期の受講生であり、「父親の出番というのは必ずあるんだということに気づいた。父親の出番があるんだと言われた時、出番がない時もあるんだと思った。出る時とひく時が あるんだと。カーッとなっている時は、どうしたらいいんだろうと思う。でも、そういう時 に親プロがある」と回顧している。江崎氏は親プログラムと子どもの利益について以下のよ うに話している。
葛藤が高いまま子どもを会わせていても、会わせていればいいということになりがちにな る。親支援プログラムというのをやっていて、子どもの最善の利益をどうやって守るのか。
それは全員に受けてもらいたい。(途中略)夫婦のお互いの葛藤があって、それをなくすま
で子どもに会えないのではなく、それはいったん脇にておいて、子どものことを今は考える とき。ぜひ、(親支援プログラムを)受けて欲しいと言っているんです。
[
インタビュー2]
江崎氏によれば、非監護親に会っている時の子ども反応は複雑であり、それを見ている監 護親は会うのをためらうこともあるのだという。志水氏は、面会の事前事後における江崎氏 の子どもへの声かけの仕方やアプローチを間近で見て、「面会の事前と事後への子どもの対 応が大事。それがなかったら、ただの会わせ屋さんですから」と述べている。江崎氏に、子 ども表情をどのように見るのかと聞くと次の様な答えがあった。
明らかにDVがあったなあという子がいて、そのことをどう思うって聞くと、子どもは複 雑なんですね。親のやり方をなおして欲しいなあって言うんですよ。そういうコミュニケー ションの仕方をね。そうすると、親プロだとそこを取り組むところですね。子どもが、やっ ぱり、ある出来事が焼き付いてしまうんですよ。あそこがなかったら良いなと。でも、大好 きな親なんですよ。でも、親はなかったことにする。そこのところは、いつか取り組まない と、そのわだかまりが残る。以前、そういう取り組みがなかったときに、子どもに家族の絵 を描いてって言ったときに、お父さんだけ裏に描いたんですよ。子どもとしてはどっちも好 きだけど、まだまだ取り組めない。精一杯やっているときに、その問題を言われても、言い たくない。相手が悪いとか。そういうのを取り組むのが親プロだと思うんですが、もう少し 時間はかかるでしょうね。
[
インタビュー3]
親支援プログラムは
6
回をワンクールとして組んでいるが、江崎氏は子どもの最善の利益 を念頭に置きつつ、親子の関係が良くなっていく方向を考えるのだという。大人の側の事情 によって、子どもの側に貧困や差別、いじめが生じることがあり、不登校や拒食になったり、社会に出ていけない子どもを江崎氏は見てきたという。離婚というピンチがチャンスになり うることもある。離婚後には親子の新たな関係が始まるのだが、親の離婚によって子どもが 困る現実について、親が十分にその状況を把握しようとする姿勢が重要であろう。江崎氏は 小児科医であるが、診察室では気づかなかったことがチャンスでは見えてくるのだとも話し た。
大きい子どもは自分たちの自由意思でやっていけばいいわけで、ここで扱っているのは、
1
歳、2
歳から小学校高学年くらいのお子さんで、まあ、子どもは甘えていいんだと。子ど もは泣くでしょ。母親がいないと。お父さんがこっちおいでというと抱かれているんですよ。子どもは母親の緊張によって泣くんです。
[
インタビュー4]
チャンスにおける面会の頻度は月に
1
回であるが、母親と別れている親子は月に2
回になることもあり、他の機関と併用する場合がある。江崎氏によれば、そのような場合は、子ど もの生活が落ち着いたうえで、定期的であることが分かれば面会は月に
1
回程度で良いので はないかと述べている。むろん、毎週会いたいという親子の例もあるが、離婚するまでの間 に非監護親が子育てに積極的であったかどうかにより、面会交流のあり方も異なる。面会交 流が成立しやすい要件について江崎氏に質問をした。知性だと思います。親が子どもにとってどれだけ大事だっていうことです。それを駆け引 きに使われてしまうと、もう、全然成立しないですよ。本当に困りますね。これは会わない 方がいいというのはあるんです。例えば、大きい子だと、もう子どもがさばさばしている。
会わなくてもいいやと。親がごねてきたら、これはこちらではできませんと。そこだと思い ます。どんな理不尽な別居であっても、子どもにとっては必要だと、どれだけ思えるか。(途 中略)シングルになると、ある程度の貧困は隣り合わせ。決心をした以上はぶれない。決め たならば決めたで、それがぶれないための支援は大事でしょうね。
[
インタビュー5]
江崎氏の発言に続いて、志水氏は親が離婚した自身の経験から次のようなことを語った。
子どもが良い時間を過ごせていければ、それでいいし。実像を見るということと、両方か から大事に思われていると子どもにとっては権利であるし、親にとっては義務である。親は 知性だといいましたが、自分たちの生い立ちにもよってくるんですよ。うちの両親も離婚し ていました。とんでもない父親でした。会わせなくてもいいんだということになるでしょう。
子どもとどう遊んだらいいか分からない。どう、扱ったらいいか、分からないという、こち らから見れば、父親らしくない父親もいる。父親を練習する期間がないとすると世代間連鎖 ということになるので、子どもがいろんな人に出会うとか、そういうことをしていかないと、
この子たちが次の家庭を持つときに描けなくなってしまう。
[
インタビュー6]
面会交流支援はコストと手間がかかる事業であるが、この活動を継続することの意義につ いて江崎氏に尋ねた。
職業上、うまく立ちいかない子どもに出会う。その子達に対して社会が何もケアも受けず に社会出た場合、まず外に出られない場合がある。社会に出たとしても、次の家庭像を描け ない場合がある。その可能性もある。それが自他への暴力的な行為ですよね。自分なんかど うでもいいと。反社会的な行為になる場合もあるわけですよね。そうすると、次世代の非 常に不健全なことが起こることもあって、放っておけば離婚は増えていますよね。
[
インタ ビュー7]
②インタビューの考察
FPICのタイプで言えば施行型であるとも言えるだろうが、インタビューを通してチャ ンスの面会交流支援は、利用者の実情にフィットするようなオーダーメイド的な支援が意識 されているように思われた。志水氏の
[
インタビュー1]
に見られるように、チャンスは面会 交流支援部門以外にも、育児支援や学習支援、そして若者の就業の支援も行っており、多岐 にわたる部門によって構成されていることが面会交流支援にも有効に機能するのであろう。[
インタビュー2]
の親支援プログラムの施行もチャンスの特徴や強みでもある。第1
期の受講 生であった志水氏は「カーッとなっている時は、どうしたらいいんだろうと思う。でも、そ ういう時に親プロがある」と当時の心境を述懐している。離婚という高い葛藤状態を経験し、子どもと引き離された親にとっては、自らの姿を客観的に見ることも容易ではないだろう。
志水氏が述べているように、まずは冷静になって今後の親子の関係を考えるという点におい ても親プログラムは重要である。また、インタビュー
3
において江崎氏が「そのやり方をな おして欲しいなあって言うんですよ。そういうコミュニケーションの仕方をね。そうすると、親プロだとそこを取り組むところですね」と述べている。親プログラムを通して非監護親が 子どもとのかかわり方を見つめ直すことは子どもからの信頼を得ることでもあるが、子ども にとっては、彼らが大人になって家庭を持った時の親役割の良い手本にもなる。面会交流と 並行して親支援プログラムを施行することは、親への援助だけではなく、子どもの将来を見 据えたうえで、彼らに不利益が生じないようにするための有効な配慮であるとも言えよう。
(4)「NPO法人あったかハウス」の山田事務局長へのインタビュー記録と考察
①インタビューの記録
事業の成り立ちと背景について山田氏は、自身がFPICで面会交流支援に携わっている が、FPICと連携した面会交流ができないかと考え、NPOとしてあったかハウスを立 ち上げたのだという。具体的には、
2014
年4
月から、稲沢市のショッピングモール・リーフ ウォーク稲沢を利用して、親子の面会交流を行っている。実施日は月に1
回、第3
日曜日で あり、時間は3
時間程度である。FPICでの面会交流は大半が施設の一部屋を利用する方 法となっており、非監護親と子どもとがおもちゃで遊んだりお茶を飲んだりして1
時間を過 ごすという。だが、あったかハウスの開設する面会交流は、3
時間にわたって親子がショッ ピングモールで遊んだり、買い物をしたり、あるいは食事をするなどの交流を持つことがで きる。そうやって非監護親と子どもの関係が深まることにより、面会交流支援機関を介さな くても、親同士で子どもの受け渡しができるのではないかという認識を持つようになり、自 主的な面会交流に進展させていく狙いもあるという。あったかハウスのスタッフは12
人で 全員がボランティアであるが、少額の日当や食事代、交通費などの実費については支給され ている。スタッフの経歴は、主として元家庭裁判所の調査官、調停委員、司法関係の現職者などで構成されている。
面会交流支援の申込者は、裁判所の調停や裁判で離婚を経験した非監護親及び監護親であ る場合が多く、司法の介入の経験の無い人が問い合わせをしてくることはまずないという。
調停及び審判でどのようにどこで第三者支援機関を使い、月に何回、費用はどちらが持つの かということを取り決めてから申し込んでもらう方法をとっている。支援者の方は、その取 り決めにしたがって面会交流を進めていく流れがあるようである。
あったかハウスの立ち上げについて山田氏は、具体的な面会交流の場の提供以外にも、母 親たち、それとは別に父親たちのグループを作り、離婚後の親子のかかわりにおいては子ど もを中心とすることがいかに大事なことであるかについて、母親と父親に教育していくプロ グラムを作っている。山田氏はこの点について次のように話している。
会わせるのが嫌だ、嫌だと言っている監護親に対しては、会わせれば子どもはこんなに幸 せだよと。会いたいとばかり言っている非監護親には、会わせたくないと言っているのはこ ういう理由があるからだよと。だから、父親・母親教育をしていく、これもここの大きな特 徴ですね。FPICは個別相談で、会いたいんだけど会えなくて困っている場合はまだ、葛 藤している最中で、非常に生々しいという。だからまだまだ、母親の方は会わせたくない、
父親の方は会いたい、その気持ちが支援期間を
1
年とか2
年とか長びかせる場合が多い。[
イ ンタビュー8]
表
1
の「FPICにおける面会交流援助の種類と内容」を参照にすると、あったかハウス は受け渡し型の面会交流と言える。面会交流の実際の流れについてであるが、まず、監護親 が子どもを連れてリーフウォーク稲沢に来場する。リーフウォーク稲沢には待機用の部屋が 前もって用意されてあり、その部屋に親子が入ると、待っていたスタッフが子どもを引き取 り、やはり事前に用意されている別の場所に案内し、そこで非監護親に引き渡す。子どもが小学校高学年から中学生になると活動の幅も広がり、屋外で非監護親と会いたい という希望が出されるが、その場合目が行き届かないために監護親の方は不安になる。だが、
ショッピングモールといった限定された空間であれば、行動の様子を支援者が見ていること になり、監護親にも安心感が生じる。この点にショッピングモールで面会交流を行う有効性 があり、こういった経験を積み重ねていくことによって、非監護親と子どもが自然に連絡を 取り合えるようになると山田氏は述べている。また、支援する側にとっても、一日のうちで 親子が面会する場所が異なり、一組ずつ送迎するのは大変であるが、面会の場所が決められ ているとスタッフの数が少なくて済むなどの利便性があるという。なお、ショッピングモー ルを借りるまでの経緯であるが、山田氏が先方の既知の役員に依頼をしたところ、客が足を 運ぶというメリットもあり快諾していただいたという。また、ショッピングモール以外は連 れ出してはいけないという契約を最初に結ぶことにより、監護親の緊張を緩める効果もある。
監護親に安心感を醸成させる要因に山田氏は次の点を補足している。
FPICで自分が持っているケースで、これは熟してきたなというのは、次のステップと して面会交流広場が紹介出来る。そして、初期の段階では自分が支援にいくわけですよ。A さんが担当しているケースであれば、Aさんがその日にボランティアとして行ってくれる。
そうすると、
1
年も2
年もつきあっていて、気心もしれているし、裏切れんし、言ってみる とあんたが来るんであればねという、こういうコラボレーションも日本で初めてでしょうね。最初は、なかなか会うのが難しい。親と親が我々が入ることによって、
1
年もたつとすごい 人間関係ができて、コミュニケーションがスムーズに行くようになる。でも、自分たちだけ ではやれない。でも、顔見知りがきてお世話をしてくれる。そうしたら、安心。[
インタビュー9]
山田氏の発言にみるように、馴染みの関係を築いていくことにより、監護親の側に安心感 が生まれると、それは子どもに伝わることになり、面会交流の展開も自然になっていくのだ ろう。支援の対象となる子どもの年齢については、
3
歳以上で基本的には小学生までとなっ ている。3
歳以上である理由は、1
歳から2
歳くらいの子どもの意思は確認がしづらく、面会 交流が子のためというよりも親の都合で会うことになるからであるという。山田氏は「1
、2
歳の子どもっていうのはまだ意思がないわけですよ。いわゆる子の福祉だとか、子のため には、(面会交流は)小さい子はそぐわないというのは、基本的にはありますね」と述べて いる。山田氏によると、例えば母親が子どもを連れて家を出た場合、父親は自分のよりどころを 失くす体験をするのだという。調停に入り離婚が進展をしていくと、子どもを手放したら、
自分には何も残らないという心理的な体験をするので、子どもが
1
歳でも1
歳半でも、会わ せてくれと懇願するのだという。そういった、調停の流れにおける親子の関係を理解したう えで仲介的な役割を担うのもあったかハウスの強みであろう。リーフウォーク稲沢における一日の面会は
3
、4
件であるというが、あったかハウスにお いて面会交流が実現しやすい要件について山田氏は次のように述べている。一つには、養育費を非監護親(この場合は父親)が支払っている際、養育費は面会交流と は別だとも云われるが、これは基本的な大きな問題だと思います。お父さんから養育費をも らっているよということで、母親も会わせる気になるだろう。子どもが大きくなるにしたがっ て、ある程度の養育費というのは、面会交流と合体で渡していくべきだなと思っています。
そうすれば、まず、一つの大きな問題がクリアしていく。母親の方も、養育費をくれない、
わずかな金額しかくれない。会いたいと言って、そんなことばかり言っている。養育費を払っ てくれていれば、子どもと会いたいんだなというのがまず芽生えてくると思うんです。
[
インタビュー
10]
また、山田氏は、たまにしか会っていなくても自分には父親がいるということを子どもが 言える点に面会交流を続けていく意義があるのだという。
僕がよくいうのは、今のうちに父親を刷り込めと。父親を刷り込めば、この子たちは小学 校高学年や中学生くらいになると、部活とか塾とかで会っている暇はないかもしれないが、
3
歳くらいから父親像を刷り込んでおけば親の元に帰ってくるよと。鮭が帰ってくるみたい に帰ってくるよと。これは僕が交流支援をしてきて見えてきた大きな現象かなと思うんです ね。刷り込む時期は今でしょと。[
インタビュー11]
この刷り込みについて子どもの年齢は何歳くらいが大事なのか山田氏に質問をすると、「
3
歳から小学校3
年生くらいの時期に刷り込んでおかないと、子どもは父親のにおいを忘れて しまうかもしれない」という返答があった。子どもが10
歳を超えてから面会をしようとす ると、学費などのお金のやりとりが中心になり、本当の意味での親子の気持ちの交流ではな いのではないかという。最後に、手間がかかり、困難の多い面会交流支援を継続するうえで の動機について質問をした。もともと調停委員をやっていて経験したことは、調停の中では子どもがいないんです。子 どもがいない中で子どものことを決めていく。で、まったくないかというと、家裁の調査官 が子どもに会って子どものことを調査する。しかし面会交流支援の場のように子どもを見て いるのとは違う。子どもの将来を考えていくうえでは別れた親子が自然に会っていく、そう いう仕組みを作りながら支援をしていく特色を持った団体も必要じゃないか。また、そうい う経験を生かして、夫婦円満のための企業研修だとかをしたり、離婚をしない何か条とか、
そういうことに踏み込んでいけるのがここの特徴であって、離婚の現場を見てきた、離婚を させないようにするにはこうしようと思う。
[
インタビュー12]
②インタビューの考察
山田氏によれば、FPICは離婚後初期における夫婦間の葛藤が生々しい状況で援助を 行っており、スタッフには高度な介入の技術が求められるという。時間の経過とともに、監 護親と非監護親同士あるいは親子の関係に落ち着きが見られはじめ、非監護親と子どもとの 自然な面会交流が展開される時期に、あったかハウスが支援を行うタイミングを迎えるので あろう。FPICにおける面会交流のその先の展開を促進するという、あったかハウスとF PICとの連携は、全国的にも例がないような活動である。あったかハウスでは、地道では あるが、人と人を軸にした面会交流の展開がみられるように思われた。親同士、あるいは親
と子どもとの間に介入するスタッフの関係づくりの努力のうえに、面会交流が成立している のかもしれない。ただし、この連携という現象は山田氏がFPICにおいても面会交流支援 に携わっていたという実績から成るものであり、
2
つの機関をつなぐ人的な存在の持つ意味 は大きい。
3
時間にわたって親子が交流する稲沢市のショッピングモールの効果的な利用方法につい ても、先例のない面会交流支援の方法である。ショッピングモールという限定的な空間を活 用することで、監護親の安心感を生むと同時に、非監護親と子どもとの交流が質的に高まり、スタッフの数的な問題も緩和されるというメリットは独自の機能を有する。ただし、活動の 基盤として父親グループや母親グループの教育を展開していくことによって、子どもの利益 を優先するという親の側の意識を変容させるかかわりが背景にあるからこそ、このようなユ ニークな取り組みが功を奏しているのだろう。
5.総合的考察
インタビューの結果を紹介しつつ、特に子どもの心理発達という視点から、面会交流の意 義そして面会交流における子どもの年齢の
2
点について考察を行ってみたい。(1)子どもの心理発達における面会交流の意義
夫婦が離婚した後も子どもにとってどちらも親であることには変わりはない。非監護親あ るいは監護親に対して、チャンスでは「親プログラム」、あったかハウスでは「母親たちの 集い」「父親たちの集い」を開講している。このように、子どもの健やかな成長のために親 ができることや子どもの利益について考える機会を提供するのは、単に非監護親と子どもを 会わせるためだけの機関ではなく、離婚と離婚後の子育てを通して親の側も成長するための 支援であると言えるだろう。面会交流はお金や物で子どもの歓心を買う場ではない。子ども に父親と母親の愛情を感じとってもらう場である。面会交流を終えた子どもが「楽しかった」
という言葉を心から言えて、それを聞いた監護親が素直に良かったと言ってやれるような交 流にするためにも、当事者同士によるサポートグループは重要な役割を持つだろう。
面会交流が成立しやすい要件について江崎氏は、「親の知性」が重要であると述べている
(インタビュー
5
)。この知性に含まれる意味合いとして、親が自分の欲求を優先させたり、相手への感情を高ぶらせたままではなく、冷静になって子どものことを考えられるのかどう かが大事であると考えた。山田氏は、母親が子どもを連れて家を出ていった際に、父親が自 分のよりどころを失くす体験をし、子どもが
1
歳でも1
歳半でも会おうとする人がいると語っ ている。このように、親が自らの寂しさを満たすため、あるいは子どもを離婚調停の駆け引 きの材料に使おうとする目的で、子どもとの面会を望む場合もあるだろう。だが、子どもは親がどのような気持ちで自分と会おうとしているのかに敏感である。子どもは、親の側が自 分の欲求を後回しにして、子どもの側の欲求を優先してくれるのか見ている。このような意 味でも、子どもとの面会が親同士の取引の材料になってはならないし、ましてや、子どもの 目の前で親同士の泥仕合を展開することがあってはならない。親が自分の利益のために、や みくもに子どもとの面会交流を要望するのではなく、子どもの最善の利益について双方の親 同士で話し合うための席につけるようになることが、子どもの側にたって考える最初の一歩 なのであろう。
学童期から青年期・成人期を経ていく中で、子どもが非監護親との面会交流を持つことは、
子どもの心理的な成長においてどのような意義があるのだろうか。家庭問題情報誌・ふぁみ りお
38
号では、何のために親は子に会うのかという問いに対して、「子に詫びるため」と「子 が自分の目で親の実像を確かめるため」であると記されている。離婚によって子どもが体験 する経済面や生活面などの環境の変化や心理的な傷は、大人の側の事情によるものである。小学校低学年あるいは中学年くらいまでの子どもは、自分の周囲に起こっている事態の理解 はできているが、自分の感情を言語で表現するのには困難が伴うために、我慢することを覚 える。抑え込まれた悲しみや怒りを表現できるような年代になった時に、その感情を親にぶ つけることもあるだろう。子どもが反抗期を迎えた時期において、反抗の対象となる相手と 会う機会があることも、面会交流を続けていく意義を持つだろう。神田橋(
2006
)は “子 どもは大人が作り出した困難に対しては無力なので、意識された無力感が生じることはない。生きていく現実への悲しみが生じるだけである” と述べている。子どもが、親に対して我慢 してきた怒りの感情を発露できる機会を持つことは重要である。その一方で、離婚の過程で 子どもに不安で悲しい思いをさせてしまった経緯や夫婦として一緒に子育ての責任をまっと うできなかったことについて、親が子どもに心から詫びるのも子どもの心理発達の局面にお いては大切であろう。
上述してきたように、非監護親と子どもとの面会交流は、親の側の都合や欲求の充足のた めに行われるものではなく、子どもの利益を実現するために持たれるべきである。それは、
子どものより良い成長や発達を保障していく親の責務を全うするということでもあろう。面 会交流の実情に詳しい棚村(
2013
)は面会交流のプラスやメリットだけでなく、面会交流 の方法などいろいろな要素を含めて、全体として、子の利益にかなうのかをきちんと見てい く必要があると指摘している。DV
事案などは例外であるが、面会交流の意義や目的につい ては、子どもを含めた当事者に分かりやすく説明ができるような知識や経験の蓄積がされて いくことが求められている。(2)子どもの発達と面会交流における子どもの年齢
林(
2007
)は思春期における心理的自立について、“子どもが現実と対話し、自分の可能 性を現実化していく自立へのプロセスには、思春期からの心理的自立が始まる以前に蓄えられた子ども自身の力、(途中略)思春期において子どもを支える周囲の力、すなわち、養育 者をはじめとする周囲の他者の精神的な支えと、子どもが現実と直接ぶつかる体験ができる ような空間が必要である” と述べている。人間関係能力の基盤である基本的信頼感の形成の ためには、非監護親は乳幼児期から会う機会をもうけたり、縁を切らないことが大切である と言えよう。棚村(
2013
)は “子が10
歳を超えてしまうと親が行けと言っても行かないし、それから逆に言うと自分で携帯でも何でも行動の自由があるので勝手に行きたければ行くと いうことになる。そこで面会交流で問題になってくるのは未就学ぐらいの子、それから小学 校の低学年の子ということになる” と指摘しており、親子の愛着関係の形成という点からも、
親が離婚した当時子どもが未就学であった際の面会交流をどのようにするのかは、子どもの 心理発達においても重要なテーマである。
Bowlby
(1969
)によると愛着とは、人生の最早 期における養育者との間の相互作用を通して形成される愛着関係が、その後の対人関係の基 本的なあり方を規定するものである。酒井・加藤(2006
)は愛着について、内的作業モデ ルと呼ばれる枠組みとして、最早期の愛着関係によって培われた期待や信念が個人に内在化 され、心的表象として成人後の対人関係における行動や知覚、期待、信念を方向づける継続 性を持つとしている。離婚した時点での子どもの年齢にもよるが、心理発達において子ども が親を内的な親としてのイメージを内在化するのであれば、やはり小学校低学年にいたるま での間の子どもとのかかわりが大切である。山田氏はインタビュー
11
における父親への刷り込みについて、「子どもの年齢が3
歳くら いから小学校3
年生くらいの時期に刷り込んでおかないと、子どもは父親のにおいを忘れて しまうかもしれない」と答えている。また、子どもが10
歳を超えてから面会をしようとす ると、学費などのお金のやりとりが中心になり、本当の意味での親子の気持ちの交流はでき ていないのではないかとも述べている。親が離婚した時点での子どもの年齢や離婚するまで の非監護親と子どもとの親子の関係にもよるが、山田氏の言葉にみるように、心理的な親離 れをする思春期おいて、時間的な面からも親との面会交流を開始するのは難しい。また、イ ンタビュー11
において山田氏が「この子たちは小学校高学年や中学生くらいになると、部 活とか塾とかで会っている暇はないかもしらん。3
歳から父親像を刷り込んでおけば帰って くるよと。鮭が帰ってくるみたいに親の元に帰ってくるよと。これは僕が交流支援をしてき て見えてきた大きな現象かなと思うんですね」と語っているように、面会交流を始めるにあ たっては子どもの年齢や時期も考える必要がある。6.今後の課題
多くの場合は父親であるのだが、非監護親は経済的にも精神的にも子のために最善の努力 をする姿勢が望まれるのにもかかわらず、現状はそうではない。面会交流や養育費及は子ど
もに対する精神的援助及び経済的援助の中核となり、子どもがより良く成長していくうえで 欠かすことはできない要素となるが、その話し合いのテーブルにつくこともできない元夫婦 もいる。双方が子どもの利益とは何かということについて冷静になって考える際に、面会交 流を支援する第三者機関は有効に機能するのであろう。チャンスそしてあったかハウスにお いても、その理念の共通する点は「子どもの最善の利益」であった。また、親教育あるいは 親の支援のためのプログラムが用意されているのは、単に非監護親と子どもとを会わせるこ とを目的とするのではなく、離婚を通して親が人間的に成長し、その姿を子どもが見ていく ことにあるのではないだろうか。このように、面会交流支援機関の意義は大きいが、その一 方で手間とコストがかかる事業でもある。チャンス及びあったかハウスの活動もまた多くの ボランティアによって支えられていた。あったかハウスの事務所になっているのは名古屋市 内にあるマンションの一室だが、そこは立ちあげたスタッフの方の退職金を購入費に充当し たのだという。面会交流支援が民間の篤志家による善意で支えられるのではなく、行政が関 与するなど、法制度の整備や社会的な支援制度の充実が何より求められている。
最後に今後の課題であるが、今回は
2
つの機関にそれぞれ1
回のインタビューであった。今後は、リーフウォーク稲沢など実際に面会交流が実施されている施設などについて訪問を させていただき、具体的な面会交流支援の実際についてより詳細な報告を行いたい。
7.謝辞
今回のインタビューにご協力いただきました、社団法人「チャンス&チャレンジ」の江崎 路子先生、そしてとNPO法人「あったかハウス」の山田修暉事務局長様には厚く御礼を申 し上げます。また、ボランティアとしてご活躍中の志水久夫様には、インタビューのための 訪問から当日に至るまで大変お世話になりました。重ねて御礼を申し上げます。
<文献>
Bowlby, J. Attachment and Loss vol.1 Attachment. Hogarth Press, London(黒田実郎・大羽蓁・岡田洋子・
黒田聖一(訳)1981:母子関係の理論Ⅰ 愛着行動)
稲垣朋子(2012)面会交流援助の意義と発展的課題:ドイツ法の運用を視座として(1).国際公共政 策研究,17(1),101-121.
藤井美江(2010)親権に関する問題.「子どもと家族の法と臨床」(廣井亮一・中川利彦編)147-163. 林もも子(2007)思春期の子どもの自立と養育者.こころの科学,134,92-97.日本評論社.
かしまえりこ・神田橋條治(2006)スクールカウンセリング モデル100.創元社.
酒井佐枝子・加藤寛(2006)養育者の対人関係のあり方と養育行動との関係.心的トラウマ研究,2, 53-62.
棚村政行研究代表(2011)親子の面会交流を実現するための制度等に関する調査研究報告書.法務省
民事局.
棚村政行(2013)面会交流の実情と課題.ケース研究,316,85-134.
<参考文献及び資料>
河嶋静代(2010)子どもの権利と共同親権・共同監護−非監護親の養育責任とひとり親家庭の福祉施 策をめぐって−.北九州市立大学文学部紀要,17,1-25.
南方暁(2014)親の面会交流件をあらためて考える.法政理論.46(4),29-49. 裁判所 面会交流
www.courts.go.jp 2014年9月6日最終閲覧
家庭問題情報誌「ふぁみりお」第52号,2011年2月25日発行,公益社団法人家庭問題情報センター 家庭問題情報誌「ふぁみりお」第38号,2006年6月25日発行,公益社団法人家庭問題情報センター www1.odn.ne.jp/fpic/公益社団法人家庭問題情報センターHP 2014年9月14日最終閲覧