成人期の自己概念と自覚的健康状態
上田 禮子* 高橋 真理*****有森 直子***
中年期は人生の一段階として特徴のある時期であり,その年齢範囲は一般に40〜60歳であるとい われている。中年期あるいは成人中期,後期に関する研究は近年日本人の平均寿命が延長したこと によって,該当年齢の人生における位置に変化をきたし,医学,社会学,心理学,その他の分野に おいて関心をもたれるようになってきている。しかし,人間発達的観点からみると,それらの成果 は小児期や青年期に比べて未だ十分に明確になっていない領域の一つである。
これまでNeugarten, B. L.1)やVaillant, G. E.2)は心理学的研究においてその期聞における性 格的変化,あるいは防衛機制の変化の様子とそれに関連する要因の検討を開始している。一方,医 学の分野ではこの時期に増加する疾病(成人病など)の解明とそれらの予防・治療に比重をおき疾 病モデルに準拠した研究3)4)がなされてきている。最近になって成人期を人間の生涯発達の一段階 として位置づけ,この時期の変化と発達的課題の特徴を明らかにしょうとする試みがあり,一方,
高齢化社会をむかえて成人期からの健康づくりとして生活構造のあり方が注目されるようになって
きた。5)
筆者らは, 身体と精神 の相関と 健康は自らっくる という健康観に基づき,自己概念の発 達的変化に関心を持ち実証的研究を開始している。これまで成人初期の女性6),成人中期の男性・
女性7)8)および高年期女性9)(65歳以上)を対象とし自己概念とその属性との関係を検討してきた。
その結果,自己概念の特定領域と健康状態は関係すること,また,成人期に分娩に立ちあう夫婦と 非立ちあい夫婦との聞で自己概念の特定領域に違いのあることが明らかになった。ここで言う自己 巳概念とは自尊心と自己像を含み,自分自身に関する組織化され,一貫性のある,統合化された信 念のパターンである。一定の恒常性を持った構えであり,適当な刺激を用いることによってその大 略を引き出し,客観化することが可能である。10)
本調査では成人期男性・女性の生活適応に関連する自己概念と自覚的健康状態との関係を検討す ることを主たる目的とした。
1 対象と方法
対象は1991年4月に東京都K市の実施する市民健康診査の対象となった男女3,000入であり,年 齢範囲は30代から60代であった。K市の人口は1991年5月現在66,816人であり,所帯数は24,542で あり,1985年国勢調査時点での職業分布は,第一次産業2.4%,第二次産業28.5%,第三次産業69,1
%であった。注)
方法は性別,年齢別に受診対象者からランダムに層化抽出した410名に健康診査会場にて質問紙 の記入を依頼した。会場で時間的に記入する余裕のなかった一部の者には自宅での記入による郵送
*茨城大学教育学部 **茨城大学教育学部研究生 ***都立医療技術短期大学
を依頼した。あらかじめ作成した質問紙の内容 は,1)本人および家族の健康状態,年齢.職業,
同居家族の有無などの属性,2)過去1年間の 重大な出来事の有無などのライフ・イベントと 相談相手の有無 3)生きがいや趣味・ボラン ティア活動の有無などの生活スタイル,4)本 人の自己概念に関する50項目より構成されてい る。50項目はH:arter, S.が生涯発達の視点か ら自己概念測定尺度として考案した一連のイベ ントリーの中から成人用を上田が翻訳して使用
した。
自己概念測定尺度は表1に示すごとく12領域 から構成されている。それぞれの項目は 自分 の生き方が好きである ,あるいは 自分の生 き方が好きでない など肯定的あるいは否定的 文章よりなり,回答者はまず自分がどちらにあ
表1 自己概念領域の項目の構成
領 域 項 目 数
自己価値 社会性 仕 事 養 育 運動能力 容 姿 援 助 道徳性 家庭管理 親密な関係 知 性 ユーモア
644444444444
十
二瓢口50項目
てはまるかを選択し,次にその程度に応じて よくあてはまる か まあまああてはまる かのい ずれかを決める。すなわち,4っの選択肢の中から自分に最もあてはまるものを1つだけ選択する 方法である。選択された回答の採点には50項目それぞれにっき1点〜4点までの幅がある。項目毎
ならびに領域毎に評価し,プロフィルを画くことができる。本調査ではその目的から成人期男性・
女性の自己概念を1)性別,2)年齢階級別,3)自覚的健康状態の良否との関連で検討した。
H 結 果
(1)回収数および被検者の背景
質問紙の回収数は341名であり,この うち記入不備の者37名を除く男性122名,
女性181名,合計303人を分析の対象とし た。(表2参照)
表3は対象者の仕事の有無と種類を年 齢階級別に示している。男性では30〜50 代に自営業が最も多く,46〜52%を占め ていた。しかし,60代では無職が最も多 かった。一方,女性では,30代家事59%,
40代パート勤務42%,50代家事67%,60 代家事90%がそれぞれ最も多い種類であっ た。
表2 対象特
性 男
女 計
年齢 人
30代 29 39 68
40代 28 52 80
50代 32 52 84
60代 33 38 71
計 122 181 303 人
(2)自己概念と性別e年齢との関係
成人期全体として性別に自己概念を比較した結果は表4に示すごとくであった。すなわち,女 性は男性に比べて, 援助 と 家庭管理 の2領域において有意に高く,逆に男性は 自己価 値 , 社会性 , 仕事 , 養育 運動能力 , 容姿 の各領域で女性に比べて有意に高かった。
図1は年齢階級別に男女の自己概念を比較した結果である。男性では 家庭管理 の領域で60 代が30代に比べて有意に高かった。一方女性は 自己価値 と ユーモア の2領域で30代が40 代に比べて有意に高く,また, 運動領域 では,30代が40代,50代,60代に比べてそれぞれ有 意に高かった。また,各年代毎に性別で比較した結果は図2に示すごとくであった。すなわち30 代で男性は女性に比較して 知性 と 容姿 の領域で有意に高く,また40代では 養育 , 運 動能力 , 容姿 の各領域で有意に高かった。しかし, 家庭管理 の領域では女性が男性に比 較し,有意に高かった。さらに,50代と60代では 運動能力 と 容姿 の2領域で男性は女性 に比較して,有意に高かった。
社会性 , 援助 , 道徳性 , 親しい関係 の4領域では性別および年齢階級別によって差 を認めなかった。
表3 対象者の仕事の有無と種類 表4 自己概念と性別
一年齢別・性別一 男性 領域 女性
齢 性
d懸 入
男 % 入 女 % 2.82
O.53
自己価値* 2.66 O.54
30代 常勤 pート ゥ営
11 O15 37.9 O51.7 283 5.1
Q0.5 V.7
2.87 O.57
社会性 * 2.73 O.62
その別 ネし・家事
30 10.3
J
323 7.7
T9.0
3.05 O.63
仕 瑠 ** 2.84 O.55
小計 29 100 39 1GO 2.93 養 育 * 2.81
常勤 11 39.3 2 3.8
0.47 0.55
40代 パート ゥ営 サの他
0133
046.61G.722 P3 P
42.3 Q5.0 P.9
2.46 O.68
運鋤能力*** 2.10 O.66
なし・家事 1 3.6
1逢26.9 2.67 容 姿 ** 2.33
小計 28 100 52 100 0.52
0.62
常勤 pート
91 28.1
R.1
210 3.8 P9.2
2.98 O.50
援 助 * 3.G4 f.49 50代 嶽営
サの他 ネし・家事
16 S2 50.0 P2.5 U.3
3235 5.8
R.8 U7.3
2.90 O.49
道徳性 2.89
O.47
小計 32 100 52 100 2.68 f.63
劇画管理* 2.87 O.66
60代 常勤 pート
ゥ営
4410 12.1 P2ほ R0.3
030 07.90
2.94 O.56
親しい関係 2.95 O.57
その他 ネし・家事
114 3.0
S2.4
13嘆 2.6 W9.5
2.40 O.49
知 姓 2.30
O.45
小計 33 100 38 10⑪ 2.73 ユーモア 2.68
A 計 122人 181人 0.60
0.61
口上段 平均値 下段 SD
***pくO.00工
* * p 〈o. eos
*pく0.05
. i 蕪 ‡
p‡
零
マ:i;
女性
自己価値
^動能カ
?ーモア
継
零
男性 家庭管理
。●@ 泰 ‡
仕:事
養育
運動能力
容姿
家庭管理 領域 0
知性
領域 0
1 2
平均得点
図1 自己概念と年齢
3
幽目翻圏 代代代代 ︵︶︵Vハ︶A︶ 9﹂45ρ◎
*p〈O. 05
綜pく0.02
***p〈O. Ol
コ*
::9 .; 飴 ・
コ‡緋
=]‡*‡
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ニコ‡
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コ継 コ*継
*継*
阿
コ聯
1 2 3 平均得点
図2 自己概念と年齢一性別
4
30代男四 30代女9ヨ 40代男1囲 40代女Eコ
50代男團 50代女D 60代男吻 60代女〔囮
* p〈O. 05
*零 p〈0.02
*** p〈O. Ol
**** p〈O. 005
(3)自己概念と健康状態 表5 表5は自己概念と自覚的健康状態との関
係を示している。男性の健康状態良好群は その他群に比較して, 自己価値 , 社会 性 , 仕事 の3領域で有意に高い値であっ た。一方,女性の健康状態良好群はその他
群に比較して 自己価値 , 容姿 , 援助 ,
家庭管理 の4領域で有意に高い値であっ た。
さらに,性別,年齢別に健康状態良好群 とその平群を比較した結果,男性では健康 状態良好群がその他群に比較して30代で 道徳性 ,50代で 自己価値 ,60代で 社 会性 と ユーモア の各領域でそれぞれ に有意に高い値であった。一方,女性では 健康状態良好群がその他群に比較して60代 で 自己価値 と 容姿 の2領域でそれ ぞれ有意に高い値であった。
自己概念と健康状態
性
爺齢 自己概愈 健膜良婦群 その他群
平均 SD 平均 SD
男 30 畠肩衝櫨** 2,98 0.47 2,77 0,54
〜 社会性 ** 3.05 0.50 2.79 0.58 60 代 仕雛 * 3.23 0,51 2.98 0.67
女 自己価値寒寧* 2.91 0.45 2、59 0.54 容姿 ** 2,58 0.嘆4 2.28 0.64 援助 * 3.20 0.39 3.00 0.51 家歴管理*寧 3.10 0.58 2.82 0.67
男
30代 遂徳{生 * 3.16 0.50 2.78 0,43
50代 自己売卜* 3,14 0.48 2.74 0.41 60代 社会{生 *** 3.33 0,44 2.67 0.45 ユーモアホ 3.17 0.80 2,55 0.52
女 60代 自己{面目* 3.10 0.30 2.59 0.68
容姿 ** 2.68 0.35 2,11 0.60
*p<0.05 **pくO.Ol
* * * p 〈O. OOI