1 Milner(1978)は Adjectifs de Qualité と名付けており,この用語が使われることもある.qualité という用語は一般的な意味での性質とい う意味ではなく,より情意性,主観性の強い性質を指している.
2 以下の用例で出典のないものは作例である.
3 厳密にいえば,限定詞の働きをするタイプの形容詞,限定形容詞も一つの独立した形容詞クラスとされる.指示形容詞,所有形容詞,疑 問形容詞等がそれにあたる.
0. はじめに
以下のような形容詞が名詞に対して前置されると き,フランス語学では情意形容詞と呼ばれ(Marengo 2011)1,品質形容詞とは質的に異なる形容詞とみなさ れることがある.
⑴ satané, maudit, damné, foutu, fichu, sacré, sale, pauvre, malheureux...
⑵ a. Cette foutue pluie va tout gâcher.
b. Ce sale type m’a cassé la gueule.
c. Ma pauvre Denise...
d. Ces malheureux esclaves...2
本稿筆者はこのような考えを支持する立場をとるが,従 来の研究ではその根拠が十分に示されているとはいえな い.山本(2011)ではfichuを事例に論じたが,本稿で はsatanéを分析することでさらにこの問題の解明を目指 す.
1. 形容詞分類の問題
問題の所在を明確にするため,フランス語の形容詞分 類を概観しておく.フランス語学においては,伝統的に 形容詞を品質形容詞(adjectif qualificatif)と関係形容 詞(adjectif relationnel)に区別する3.それぞれの一般 的な定義の代表としてArrivé et al. (1986)を参照する.
品質形容詞は以下のように定義される.
⑶ [Les adjectifs qualificatifs] indiquent une qualité, ou une propriété essentielle ou accidentelle, de l’objet.
「名詞(代名詞)が指示する対象の本質的,偶発 的特性・性質を示す」
⑷ a. une robe rouge
b. un livre intéressant
c. Celui-ci est mauvais. Arrivé et al.(1986 : 33)
関係形容詞の定義は以下の通りである.
⑸ Les adjectifs relatifs établissent une relation entre le nom et un autre élément nominal.
「名詞と他の名詞的な要素の間の関係を立てる」
⑹ a. le discours présidentiel (= du président)
b. le voyage alsacien du Ministre (= en Alsace)
Arrivé et al. (1986 : 33)
意味的にはそれぞれこのように定義されるが,顕著な違 いとして前者は程度修飾を容認するのに対し後者は不可 能である,また前者は属詞用法が可能だが後者は不可能 である,といった点が挙げられる.研究者によって分類 の基準に違いはあるが,形容詞をこのように二分すると いう基本的な考えは一致している.
と こ ろ で 近 年 は, こ の 伝 統 的 な 形 容 詞 分 類 に 収 まらないタイプの形容詞が指摘されはじめてきた.
Schnedecker(2002)はこうした形容詞を一括して第三タ イプの形容詞(les adjectifs du troisième type)と呼ぶ.
否定的な分類のため,そこに含まれる形容詞には様々な タイプのものがある.
⑺ a. le futur roi, une rencontre éventuelle b. le troisième homme
c. l’étage supérieur, la main gauche
d. la chose suivante, dernier point, la question précédante Schnedecker (2002 : 3)
筆者が関心をもつ情意形容詞もこうした形容詞の一種に 位置付けられる.しかしながら,情意形容詞が本当に従 来の形容詞分類に収まらないといえるかは検討を要す る.とりわけ,情意形容詞と品質形容詞を区別するべき
情意形容詞 satané について
山 本 大 地
かどうかは意見が分かれるところである.意味に基づ いて考えると,⑴の形容詞は確かに話者の情意を強く 反映しているといえる.⑵の例を見るとsatané, maudit, damné, foutu, fichuには「苛立ち」,saleには「軽蔑・嫌 悪」,pauvre, malheureuxには「哀れみ」が感じ取れる.
しかし,こういった情意が品質形容詞にとって無縁であ るかといえばそうではない.品質形容詞の中にも情意的 意味合いを含意しやすいものが存在する.
⑻ a. énervant, embêtant b. méprisable, dégoûtant c. lamentable, pitoyable
もちろんこうした形容詞も情意形容詞に分類することは 可能性かもしれない.しかしそうすると,情意形容詞と いう形容詞クラスの外延は大きく広がり,結果情意形容 詞と品質形容詞との境界があいまいなものとなりかねな い.
また⑴の形容詞の大半は後置付加,あるいは属詞位置 での使用が可能であり,その場合は品質形容詞とみなさ れることも情意形容詞と品質形容詞の境目を曖昧なもの にしている.例えばsaleは名詞に対して後置付加される 場合,「汚れている」という意味をもつ.propre「清潔な」
の反意語であり,典型的な品質形容詞である.このよう な面を考慮すると,なおさら品質形容詞と情意形容詞は 近い関係にあるという印象が強くなる.
こうした問題を背景に,山本(2011)では情意形容詞 の一つとされるfichuを取り上げた.
そこで主張したことは,fichuの少なくともある用法 は品質形容詞には表し得ないものであり,その用法をも つという事実が情意形容詞を品質形容詞と区別するひと つの根拠になると考えた.以下でその概要をまとめる.
2. fichuに関する考察
おもにfichuを中心に考察したGiry-Schneider (2005)
はその前置付加の用法を,強意を表わす用法と情意的な 用法に区別している.
⑼ a. Léo a une fichue fièvre.
b. Cette fichue fièvre ne diminue pas !
Giry-Schneider (2005 : 164)
この二用法の区別に異論はない.しかしGiry-Schneider が情意用法と呼ぶ用法には純粋に情意的ではない用法も 含まれていると考え,山本(2011)ではもう一つの区別 を提案した.以下の例で説明する.
⑽ -Cette pauvre Isabelle, dit-il, est venue me voir.
-Oui, répond l’abbé, la voilà dans une fichue situation. (Frantext)
⑾ Le front dans ses mains, il tente de réfléchir.
« Mais où peuvent-elles bien être ces fichues clés ? Sur le toit peut-être ? On ne sait jamais », lorsque tout à coup il les aperçoit. (Frantext)
⑽と⑾のどちらにおいてもfichuは広い意味で話者の否 定的な評価を表すといえるが,大きな違いがある.⑽の fichuは品質形容詞が表す評価に近い.実際,何らかの 品質形容詞によって言い換え可能である.
⑿ (...) la voilà dans une situation critique.
また,言い換え可能な形容詞とfichuを同時に用いると,
意味の余剰性が生じることもこれらの形容詞が類似の意 味を表わすことを示唆している.
⒀ ?? (...) la voilà dans une fichue situation critique.
品質形容詞に近いとは,名詞句の指示対象の性質を記述 しているということである.つまりどんなNかという情 報を満たしているのである.事実,この例からfichuを 取り除くとその性質に関する情報が失われ不自然な発話 となる.
⒁ ?? (...) la voilà dans une situation.
山本(2011)ではこの用法を評価用法(α)と名付け たが,ここでは本論に沿うように「修飾用法」(emploi qualificatif)と呼ぶことにする.ここで「修飾」が意味 するのは統語的な結びつきを指しているのではなく,性 質を付与しているという意味的な修飾である.
一方⑾の例をみてみよう.この例のfichuは⑽と異な り,名詞句の指示対象の性質を記述していない.この例 では何らかの品質形容詞によって言い換えることは不可 能である.
⒂ a. Mais où peuvent-elles bien être ces {mauvaises / horribles / affreuses} clés ?
b. Mais où peuvent-elles bien être ces clés {mauvaises / horribles / affreuses} ?
もちろん,これらの形容詞は鍵の質が悪いという意味で は理解可能だが,⑾のfichuが表す意味とは異なる.⑾ のfichuが表すのは,鍵をみつけることができないとい う事態によって引き起こされた話者の苛立ちである.品 質形容詞の中には同じく苛立ちを表現し得るものがある が,それらはfichuの代わりに使用することができない.
これらの形容詞は性質への言及を行うためであると思わ れる.
⒃ Mais où peuvent-elles bien être ces clés {énervantes / agaçantes} ?
このタイプの用法は山本(2011)で評価用法(β)と呼 んだが,本稿では「情意用法」(emploi affectif)と呼ぶ ことにする.
以上をまとめると,fichuにはA情意用法,B修飾用法,
C強意用法の三つの用法が備わっていることになる.そ れぞれの例を挙げておこう.
A Cette fichue bagnole bloque la rue ! B Il a un foutu caractère.
C Il y a une fichue distance entre les deux villes.
Bの 修 飾 用 法 はmauvais, détestable等 のような 品 質 形容詞によって言い換え可能であり,Cの強意用法は important, considérable, grand等 の 形 容 詞によってそ の意味をある程度は表現できる.しかしAの情意用法は foutu, satané, mauditといった形容詞でなければ全く表現 できない.そのため,情意形容詞を品質形容詞と区別す る上で重要なのはAの情意用法をもつという事実である.
ここで次のような問題を設定できる.fichuは上記の 三つの用法をもつが,他の形容詞に関してはどうだろう か.おそらく個々の形容詞によって異なるものと思われ る.本稿ではsatanéを事例にこの点の考察を行う.
3. 形容詞satanéの語源
本稿の議論と直接関わりはないが,satanéの語源に関 してわかる限りのことを述べておきたい.形容詞satané の 語 源 はSatan「 サ タ ン 」 と さ れ て い る(cf. Grand Robert).形態的には過去分詞の形態素-éをもつように 見えるが,動詞satanerは存在しない.それに対し,他 の情意形容詞maudit, damné, foutu, fichuは実際に存在 する動詞の過去分詞形である.mauditは動詞maudireの 過去分詞形であり,damnéはdamnerの,foutuはfoutre の,fichuはfichtreの過去分詞形である.このことから,
satanéという形態は他の情意形容詞からの類推により作 られた可能性が考えられる.これらの形容詞の歴史的な 発生順序もこの想定と矛盾しない.Frantextを用いて これらの形容詞が前置付加されはじめた時期を見てみ ると,mauditは古く1548年から使用がみられはじめる.
fichuは1746年以降,foutuは1768年以降である.それに 対してsatanéは1837年以降に例が見られはじめ,それ以 前にはこの形容詞の使用例はない.
4. 用例に基づいた分析
satanéの用例を収集するためにFrantextを用いた.
Frantextは1100年から現代に至るまでの4580の書き言 葉テキストを収めた2700万語を超える巨大なフランス語 データベースである.その中でsatanéの用例は181例で ある.初出の1837年から現代に至るまでにsatanéは散発 的に現れる.
4. 1. satanéの統語的位置
Frantextで得られた全用例181例において,satanéが 占める統語的位置は次のようになっている.
前置付加 179例 後置付加 1例 属詞位置 0例 (不明 1例)
一例はsatanéがどのような位置を占めているか不明なの で考察から除外すると,後置付加の1例を除いてすべ て前置付加の例である.なお後置付加の用例をみると,
satanique「悪魔のような」に相当する意味で使用され ている.
⒄ Rôdeur vanné, ton oeil fané tout plein d’un désir satané mais... (Frantext)
TLFiが« Qui a rapport à Satan, aux démons; qui est inspiré par Satan. »と述べる用法である.しかしなが らこの用法は極めてまれなものと考えてよいだろう.
TLFiが挙げている例もこの⒄である.
satanéの統語的な位置が前置付加にこれほどまでに 偏っている事実は大変興味深い.一般に形容詞は,標準 的とされるような位置があっても実際にはどちらの位置 でも可能なものが多い.例えば名詞に対して前置される 最も典型的な形容詞の一つ,bonでさえも後置付加が可 能である.ただし位置によって意味の違いは生じる(un bon homme「お人よし」/ un homme bon「善良な人」).
また他の情意形容詞と比べてもsatanéのこの偏りは目 立っている.意味の違いが生じるがfichu, foutuは後置 付加や属詞位置での使用が可能である.
⒅ a. l’argent fichu
b. Ces chaussures sont fichues, elles sont bonnes à jeter.
⒆ a. manteau foutu b. L’affaire est foutue.
4. 2. satanéの意味価値
ほぼ全例が前置付加を占めるsatanéがどのような意味 価値でもって使用されているのか考察する.fichuがも つA情意用法,B修飾用法,C強意用法を手掛かりにする.
A Cette fichue bagnole bloque la rue ! B Il a un fichu caractère.
C Il y a une fichue distance entre les deux villes.
satanéにもこの三つの用法が備わっているだろうか.ま ずは以下の例を検討する.
⒇ (オペラの開始時間が迫っている状況で,渋滞で 進まないタクシーに乗っていた.)
- (...) Nos places nous attendent à la billetterie.
Une nuit à Vienne sans aller écouter une pièce de théâtre lyrique, c’était impossible.
- Mais pas dans la tenue avec laquelle j’ai voyagé toute la journée, dit Alice. Regardez les gens autour de nous, j’ai l’air d’une pauvresse.
- Pourquoi croyez-vous que je m’impatientais dans ce satané taxi ? (Frantext)
この例におけるsatanéの用法がCの強意用法であるとは 考えにくい.強意用法の特徴は名詞が程度差を予想させ る概念であることだが(例えばdistance),名詞taxiはこ うした概念を表わさない.続いてBの修飾用法の可能性 を検討してみよう.もちろんタクシーには様々な性質が あり得るが,この例のsatanéがタクシーのなんらかの性 質を述べているとも考えにくい.事実,品質形容詞を用 いると大きく意味が異なる.
a. ??-Pourquoi croyez-vous que je m’impatientais dans ce {mauvaise / horrible / affreuse} taxi ? b. ??-Pourquoi croyez-vous que je m’impatientais
dans ce taxi {mauvaise / horrible /affreuse} ?
この例はA情意用法とみなすのがもっとも適切であるよ うに思われる.この例においてsatanéという形容詞の使 用を動機付けているのは,このタクシーが渋滞で進まず,
もどかしい思いをしたという事柄である.それによって 引き起こされた話者の苛立ちをタクシーに結びつけてい ると理解するのが最も自然であろう.
さらに数例考察を加えておく.
Boris tout seul entrouvre sa porte, entend : - Volenka, qu’est-ce qui te fait hésiter ? Donne- les, ces satanées clés et les documents, à ces tueurs ! Boris l’a bien dit : des tueurs !
(Frantext)
この例でもsatanéから感じ取れるのは,話者の情意的な 態度である.話者は当該の鍵を渡そうとしない対話者に 対して腹を立てている.鍵は話者の苛立ちの直接の原因 ではないが,話者の苛立ちの原因となる事柄の一部をな しており,いわばメトニミー的にsatanéはclésに付与さ れている.統語的な修飾関係と意味的な修飾関係にずれ があるのも情意用法の特徴である.
文脈上は修飾用法であると考えられるような例もあ る.
- Pourquoi changerais-je d’avis ?
- Parce que, tout à l’heure, ce satané barman vous dira des malhonnêtetés sur moi et vous aurez peut-être envie de le croire.
(Frantext)
この例では,文脈上「バーテンダー」のなんらかの性格 を記述していても不自然ではない.したがって否定的な 性格を述べる形容詞を用いることは不可能ではない.
- Parce que, tout à l’heure, ce barman {méchant
/méprisable}vous dira des malhonnêtetés sur moi (...)
しかしながらこうした形容詞とsatanéの間には大きな意 味のずれが感じられ,厳密にいえば言い換えは成り立っ ていない.
次の例も同様である.
Vous voyez, trente-cinq années plus tard, chaque fois que je me rends à la pharmacie chercher mes médicaments pour faire taire cette satanée jambe, je lève la tête en sortant de chez moi et (...)
やはり文脈上,話者の足の調子が悪いことは読み取るこ とができ,例えばsatanéの代わりにmauvaisを使用する ことは可能である.しかしそれはsatanéの意味を言い換 えたものではない.
このようにsatanéの用例を検討していくと,どうやら satanéは大部分の用例において情意的な意味で使用され ていることがわかる.ただし,それ以外の用例も皆無で はない.Bの修飾用法に相当すると思われる用例が一例 存在する.
Elle déclare qu’on n’a pas “l’idée à manger” et que la *Martinique est “un satané pays”.
(Frantext)
この例ではsatanéを取り除くと「マルティニークは国で ある」となってしまうことからわかるように,satanéは マルティニークがどのような国かを述べる役割を担って いると考えざるを得ない.しかし引用符を伴っているの はこうした言い回しが特殊であることを示しているよう にも思われる.
C強意用法に関しては,次の一例がそれに相当する.
Et pour finir, ses cannes, ses bras, sa colonne, tout a flanché. Il a lâché la plaque. Inutile de préciser que ça a fait un satané tohu-bohu.
(Frantext)
例が存在する以上satanéがこのような用法をもつことが ありえないとは言い切れないが,用例数から考えて極め て周辺的な事例であると思われる.
4. 3. 他の情意形容詞との比較
こ こ で 改 め てB修 飾 用 法 とC強 意 用 法 に 関 し て,
satanéと他の情意形容詞fichu,foutuと比較しておきた い.
まずは修飾用法について確認する.fichu,foutuに関 しても修飾用法と見なすことができる用例の数は少ない が,見つけるのに苦労はしない.
a. - Vous avez vraiment un fichu caractère ! b. - Tu as une fichue mine.
c. Ah! ce samedi va être une fichue journée...
d. Mais quelle que soit la cause déterminante, elle me fait passer une fichue soirée.
(Frantext)
これらの例では,fichuを取り除くと名詞の指示対象に 関する情報が失われてしまう.(28a)「あなたは本当に 性格をしている」(28b)「君は顔色をしている」(28c)「今 週の土曜日は一日となりそうだ」(28d)「そのせいで私 は夜をすごした」では何を伝えたいのかわからなくなり,
fichuがどのような「性格」「顔色」「一日」「夜」かを述 べていることがわかる.よってこれらの例のfichuは修 飾用法である.
foutuに関しても同様に修飾用法の例を見つけること はできる.
a. ce qui arrivait souvent parce que nous avions tous les deux un foutu caractère et...
b. Les banquettes doivent être dans un foutu état.
c. puisque non seulement i’s font un foutu métier, mais...
d. Bref, je suis dans un foutu moment.
(Frantext)
ただしfichu, foutuどちらも時代をさかのぼるほど修飾 用法の例を見つけやすい印象があり,現代で日常的に使 用される用法というにはためらいがある.
続いて強意用法を考えてみよう.やはり例は少ないが fichuには強意用法の例がいくつか存在する.
a. Je me sens dans une fichue solitude
b. et que c’est une fichue coïncidence en tout cas,
c. Mais, à coup sûr, ça fit un fichu boucan.
(Frantext)
foutuも同様に強意を表わす例を見つけることができる.
a. Je peux vous dire que, à cinq heures du matin, il y a une foutue circulation, à Neuilly.
b. J’ai eu une foutue chance qu’il m'accompagne à Londres....
c. Z'avez une foutue veine que j’aie pas liquidé
Geiger. (Frantext)
5. 作例を用いたインフォーマント調査
satanéに比べればfichu, foutuの修飾用法と強意用法の 用例は見つけやすいものの,どの形容詞にとっても情意 用法以外は周辺的な用法である印象を受ける.この点を さらに明らかにするため,satané, foutu, fichuの修飾用 法と強意用法がどれだけの話者にどの程度容認されるか について作例を用いてインフォーマント調査を行った.
satanéは現代フランス語では古めかしいと感じる話者も おり,そもそも判断ができない話者も一人いた.以下の 結果は,古めかしい印象をもつがsatanéの使用を認める 年齢30歳のパリ出身の女性から得たものである.まず情 意的な用法の例を見せると,satané, fichu, foutuどれも 容認する.
(海に行く予定をしていたが雨が降り出した)
a. Satané temps ! b. Fichu temps ! c. Foutu temps !
なお,これらの形容詞はどれも悪天候を述べているので はない(つまり修飾用法ではない).実際,天気が良い という文脈であっても,話者が苛立ちを覚える文脈(例
4 ただし情意的な解釈と排他的な関係にあるのではなく,強意用法においても話者の苛立ちを感じ取ることはできる.
えば遠足に行きたくない)を与えれば自然である.
どれも自然であると判断される情意用法に対し,修飾 用法の容認度には違いがみられる.foutuとfichuに関し ては例が見られたcaractèreとの組み合わせを見てみる と,satanéのみを不自然であると判断した.
a. Il a un foutu caractère.
b. Il a un fichu caractère.
c. *Il a un satané caractère.
なおfoutuとfichuは「頑固だ」「気難しい」といった意味 合いをもつという.
次の例に関しても同様にsatanéは不自然であると判断 される.ただしfichuとfoutuもあまり自然ではない.
a. ?Je me suis mis dans une fichue situation.
b. ?Je me suis mis dans une foutue situation.
c. *Je me suis mis dans une satanée situation.
続いて強意用法を見てみよう.
a. ?Ce prof a une fichue connaissance.
b. ?Ce prof a une foutue connaissance.
c. *Ce prof a une satanée connaissance.
fichuとfoutuも,やはりsacréに比べれば抵抗があるよう に思える.satanéは古めかしいことは別にしても不自然 であるという.
chanceとの組み合わせではsatanéのみ不自然であるよ うだ.
a. Tu as une fichue chance.
b. Tu as une foutue chance.
c. ?Tu as une satanée chance.
以上の結果はFrantextで我々が行った調査と合致し ているが,これは一人の話者の意見であり今後さらに調 査を続ける必要がある.実際修飾用法と強意用法に対す る容認度の判断はインフォーマントによって大きく異な り結果をまとめにくい.むしろ話者間の揺れが激しい ことを考慮すると,修飾用法と強意用法はfichu, foutu, satanéのどれにとっても,それほど日常的な用法ではな いと述べておくのが最も現状に即しているように思われ る.
6. satanéと共起する限定詞
Giry-Schneider (2005)がすでに指摘しているが,情 意形容詞の用法と限定詞の選択には何らかの関連がある と考えられる.fichuを用いた次の例を見てみよう.
a. J’ai une fichue fièvre.
b. J’ai cette fichue fièvre depuis deux jours.
a.は強意用法の解釈,すなわち「私は高熱だ」が優勢で ある4.一方,bのように不定冠詞を指示形容詞にすると,
情意的な解釈,すなわち「二日前からこの忌々しい熱が ある.」になる.この場合必ずしも高熱であるとは限ら ない.つまり不定冠詞は強意用法と相性がよく,指示形 容詞は情意用法との相性が良い.そこでsatanéの用例に 伴う限定詞に注目すると,大きな偏りがあることがわか る.現在から遡って収集したsatanéの用例100例におけ る限定詞の分布は次の通りである.
指示形容詞 45例 所有形容詞 16例 不定冠詞 7例 定冠詞 18例 無冠詞 12例
圧倒的に指示形容詞が多く,ほぼ半数を占める.この事 実はsatanéが情意用法に強く結びついていることを示す ものであるように思われる.不定冠詞を伴う例は7例存 在するが,不定冠詞と組み合わさっているからといって 強意用法であるとは限らない.不定冠詞とsatanéが共起 する7例中,強意用法は一例のみでありそれ以外の例は 情意用法であると考えられる.いくつか例を挙げておく.
Car écrire c’est peut-être abdiquer... ; qui l’eût dit et comment ne pas admettre que le destin qui avait joué avec nous tous au poker dice n’était un barman ivre qui nous avait fait boire des satanés cocktails, plus nombreux et d’une mixture moins avouable que les sorbets qui circulaient sur plateau d’argent et de vermeil dans la tribune royale, ce jour de la grande fête, et qui eurent un si déplorable effet sur moi ?
(Frantext)
この例のsatanéはポーカーで負けた原因であるカクテル に対する苛立ちを表しており,カクテルの何らかの度合 いを強めているのではない.
De ces renseignements dont je peux avoir besoin, mais dont rarement je fais mauvais usage. Des banquiers suisses, ma jolie, il y a là de satanés collectionneurs, quelques-uns je les tiens par la barbichette. (Frantext)
この例においてもお金をかき集める銀行員に対する苛立 ちを表現しているのであって,強意の解釈はもたない.
強意用法であると判断できる例はさきほど挙げたのみ である.
= Et pour finir, ses cannes, ses bras, sa colonne, tout a flanché. Il a lâché la plaque.
Inutile de préciser que ça a fait un satané tohu-bohu. (Frantext)
指示形容詞と結びつく例が多いことはfichu, foutuに関 しても同じであり,やはりfichuとfoutuに関してもその 強い情意性が伺える.同様に100例中の限定詞の分布を 提示しておく.
fichu foutu 指示形容詞 51例 40例 所有形容詞 21例 24例 不定冠詞 16例 20例 定冠詞 3例 11例 無冠詞 9例 5例
なおsatanéに比べ,不定冠詞と共起する回数がやや多い.
これはfichu, foutuに強意用法が備わっているためとも 考えられる.
7. おわりに
情意形容詞に分類される形容詞の中でも,とりわけ satanéは情意用法専用の形容詞である印象が強い.それ に対しfichu,foutuは比較的,修飾用法,強意用法を担 い得る.ただし,用例の数およびインフォーマントの反 応を考慮するとfichuとfoutuに関しても情意用法以外の 用法は周辺的な用法であると考えたほうが良いだろう.
本稿で扱わなかった他の情意形容詞がこれらの用法に関 してどのような振る舞いを見せるかは興味深い問題であ る.saleはsatané, fichu, foutuに比べ品質形容詞的な性 格が強く,sacréは強意の性格が強いように思われるが,
この問題は稿を改めて論じたい.
参考文献
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