The clock number of a knot
阿部 由紀子
東京工業大学・大学院理工学研究科・数学専攻
1
序章Kauffman
は[1]
で,
結び目の射影図を用いてstate
という概念を定義し,
それを用いてAlexander
多項式を 構成した.
この多項式の構成法の発見は[1]
における重要な結果のひとつであるが,
そこに至るまでに用いた概 念で,
未だ考察が十分にされていないものが数多くある.
その一つとして挙げられるのが, state
のlattice
に ついての問題である. lattice
とは, Kauffman
が証明した定理から得られるグラフであり, Alexander
多項式 を定義するstate
を全て書き出すために使用されているものである.
しかし,
このlattice
はその他にも興味深 い情報を含んでいることが予想される.
そこで,
このlattice
の段数に着目して新たにclock number
という量 を定義し,
その性質を研究した.
その結果として,
素な結び目においてはclock number
は結び目の最小交差数 以上になるという性質が発見された.
さらに,
結び目のclock number
が最小交差数と一致するとき,
その結び 目は二橋結び目であることも明らかになった.
2
準備初めに
,
本講演のテーマであるclock number
を定義するための準備として, [1]
に登場する定義や定理を紹 介する.
定義
2.1 ([1]).
平面上のグラフで,
各頂点から伸びている辺の数が4
本のものを, universe
という. universe
の例として図1
が挙げられる.
図
1 universe
注意
2.2.
図1
からも明らかなように, universe
はknot
やlink
を平面上に射影したものとみなしてよい.
定義2.3 ([1]). universe
の隣り合う2
つの領域を選び( ∗ )
を配置し,
さらに各頂点に対し以下の条件を守ってmarker(
図2)
を配置したものを, state
という.
(i). ( ∗ )
のある領域にmarker
を配置しない.
図
2 marker
(ii). marker
は各頂点に1
つのみである. (iii). marker
は各領域に0
または1
つである.
state
の例として図3
が挙げられる.
図
3 state
注意
2.4.
一般に, ( ∗ )
の位置を決めてもmarker
の配置は一意には決まらない.
つまり, ( ∗ )
を置く領域の選び 方ひとつに対して,
複数のstate
が存在する.
定義
2.5 ([1]). state
の中の( ∗ )
のある2
領域が共有する辺を切って左右に開いたものを, string state
とい う. ( ∗ )
が非有界領域に入っていない場合は,
切った辺を左右に開けるようにstate
を球面上で変形して, string state
を得る.
図
4 state
からstring state
への変換特に
,
素な結び目と対応するuniverse
のstring state
における各頂点を,
図5
のように分類する.
図
5 string state
の各頂点の名称注意
2.6. input point, output point
も, boundary point
に含まれる.
定義
2.7 ([1]).
隣り合う2
領域があって,
それらが共有する辺上に,
各領域におけるmarker
が存在するとき,
それらの
marker
を同時に回転移動させることによって,
あるstate
から別のstate
へ変換することができる.
この操作を
, transposition
という.
図
6 transposition
transposition
によるmarker
の回転の向きが,
時計回りのときにはclockwise transposition
といい,
反時 計回りのときにはcounterclockwise transposition
という.
つまり,
図6
のS
からS
0へのtransposition
はclockwise transposition
であり, S
0からS
へのtransposition
はcounterclockwise transposition
である.
定義2.8 ([1]). state
の中で,
可能なtransposition
が全てclockwise transposition
であるものをclocked state
といい,
可能なtransposition
が全てcounterclockwise transposition
であるものをcounterclocked state
という.
clocked state
とcounterclocked state
の例として図7
が挙げられる.
図
7 clocked state
とcounterclocked state
以上の定義を用いて
, Kauffman
は次に紹介する定理を証明した.
定理
2.9 ([1]). U
をuniverse
として,
隣り合う2
領域に( ∗ )
を固定する.
このとき, U
のstate
に関して以下 が成り立つ.
(i). clocked state
とcounterclocked state
が,
ただ一つずつ存在する.
(ii). clocked state
から任意のstate
への, clockwise transposition
の列が存在する.
(iii). counterclocked state
から任意のstate
への, counterclockwise transposition
の列が存在する.
この定理を用いると, ( ∗ )
を固定したときのstate
を頂点として,
図8
のようなグラフを描くことが出来る.
図8
において,
最も上に位置する頂点はclocked state,
最も下に位置する頂点はcounterclocked state,
さ らに矢印はclockwise transposition
を表している.
このグラフをlattice
という. clock number
とは,
このlattice
から与えられる概念である.
図
8 lattice
3 clock number
の定義clock number
を定義するための準備として,
まずlattice
の段数に正確な定義を与える.
定 義
3.1 (clock number). K
を 結 び 目, K ˜
をK
の 正 則 図 式, K ˆ
をK ˜
と 対 応 す るuniverse, R
1, R
2, . . . , R
c( ˜K)+2 をK ˆ
の 領 域(
こ こ でc( ˜ K)
はK ˜
の 二 重 点 の 個 数 と す る.), R
i とR
j を 隣 り 合 っ た領域とする.
このとき, R
i とR
j に( ∗ )
を固定したときのlattice
の段数を, clocked state
からcoun- terclocked state
に至るまでのtranspositions
の回数の最小値に, 1
を加えたものと定義し, p( ˜ K; i, j)
と 書く.
さらに
, p( ˜ K; i, j)
を用いて, clock number p(K)
を次のように定義する.
p(K) := min { p( ˜ K; i, j) | K ˜ :
正則, R
i, R
j:
隣り合う} .
4 clock number
とcrossing number
の関係実は
, clock number
とcrossing number
の間にはある関係が成り立つ.
それを示すのが,
次の定理4.1
で ある.
定理
4.1. K
を素な結び目として, c(K)
をK
のcrossing number(
最小交差数)
とする.
このとき, p(K)
とc(K)
の間に,
次の不等式が成り立つ.
p(K) ≥ c(K).
定理
4.1
を証明するために, [1]
でKauffman
が証明した補題を一つ紹介する.
この補題は, cloked state
か らcounterclocked state
に至るまでの各marker
のtransposition
の回数は,
そのmarker
がstring state
にお いて,
どの頂点に位置しているかに依存するということを示している.
補題
4.2 ([1]). K
を素な結び目, ˜ K
をK
の既約な正則図式, ˆ K
をK ˜
と対応するuniverse
として, ˆ K
の隣 り合う2
領域に( ∗ )
を固定したときのstate
を考える.
このとき, clocked state
からcounterclocked state
に至るまでのtransposition
の回数は, ˆ K
のstring state
において, input point
またはoutput point
にあるmarker
は1
回,
上記の2
頂点以外のboundary point
にあるmarker
は2
回,
それ以外の頂点にあるmarker
は4
回である.
注意
4.3.
既約な正則図式とは, removable point(
図9)
を持たない正則図式を指す.
図
9
補題
4.2
を用いて, clock number
の取り得る値を計算する.
定理
4.1
の証明.
素な結び目において, input point
とoutput point
はそれぞれ一つずつ存在するので, 1
回transposition
するmarker
は2
個である.
さらに,
上記の2
頂点以外のboundary point
の個数はc( ˜ K) − 2
以下なので, 2
回transposition
するmarker
はc( ˜ K) − 2
個以下である.
よって,
p(K) ≥ 1 + 1 × 2 + 2(c( ˜ K) − 2)
2 = c( ˜ K) ≥ c(K)
が得られるので,
定理は示された.
それでは
,
定理4.1
における等号は,
どのような場合に成立するのだろうか.
5
主定理定理
4.1
における等号が成り立つための必要十分条件を表したのが,
次の定理5.1
である.
定理
5.1 (
主定理). K
を素な結び目とすると, p(K) = c(K)
であることと, K
が二橋結び目であることは,
同 値である.
定理
5.1
の証明を始める前に,
準備として二つの補題と一つの命題を証明する.
補題
5.2. K
を素な結び目, ˜ K
をK
の既約な正則図式, ˆ K
をK ˜
と対応するuniverse, R
1, R
2, . . . , R
c( ˜K)+2 をK ˆ
の領域, R
iとR
jを隣り合った領域とする.
このとき, R
iとR
jが共有する頂点は2
個である.
証明
.
領域同士が隣り合っているとは,
それらが少なくとも1
本の辺と2
個の頂点を共有しているということ なので, R
iとR
jは図10
のように描くことができる.
ここで,
図10
の2
頂点の他にもう1
個の頂点を共有し図
10
ているとすると
,
その頂点の周りにおけるR
iとR
j の位置関係は,
図11
のように二通りに分けられる. ((A)
は, R
iとR
jが頂点を挟んで向かい合っている場合で, (B)
は, R
iとR
jが頂点の周りで互いに接している場合である
. ) (A)
の場合は,
破線で囲まれた領域内に奇数本の辺が存在するので,
この図はuniverse
として成図
11
立しない
.
一方(B)
の場合は,
破線で囲まれた部分とその他の部分との連結和として表されるので,
既約では ない.
従って,
いずれの場合も仮定に反するので,
隣り合う2
領域はちょうど2
個の頂点を共有するというこ図
12
とが示された
.
補題
5.3. K
を素な結び目, ˜ K
をK
の既約な正則図式, ˆ K
をK ˜
と対応するuniverse, R
1, R
2, . . . , R
c( ˜K)+2 をK ˆ
の領域, R
iとR
jを隣り合った領域, r
iをR
iの周りの頂点の個数とする.
このとき, p( ˜ K; i, j) = p(K)
ならば,
次の不等式が成り立つ.
p(K) + r
i+ r
j≥ 2c(K) + 2.
証明
. state
において( ∗ )
のある領域の周りの頂点はstring state
においてboundary point
になるという事実 と,
補題5.2
を用いると, ( ∗ )
のある2
領域のいずれかに接している頂点の数は, r
i+r
j− 2
個であることがわか る.
さらに, ( ∗ )
のある2
領域が共有する2
頂点は, string
においてはinput point
とoutput point
になること から, input point
とoutput point
以外のboundary point
はr
i+ r
j− 4
個である.
よって, 1
回transposition
する
marker
は2
個, 2
回transposition
するmarker
はr
i+ r
j− 4
個,
そして4
回以上transposition
するmarker
はc( ˜ K) − (r
i+ r
j− 2)
個であることがわかった.
ここで補題4.2
を用いると,
次の不等式が導かれる.
p(K) ≥ 1 × 2 + 2(r
i+ r
j− 4) + 4(c( ˜ K) − (r
i+ r
j− 2))
2 + 1.
これを整理して
, c( ˜ K) ≥ c(K)
を用いると,
p(K) + r
i+ r
j≥ 2c(K) + 2
が導かれるので,
定理5.3
は示された.
命題
5.4. K
を素な結び目, ˜ K
をK
の既約な正則図式, ˆ K
をK ˜
と対応するuniverse, R
1, R
2, . . . , R
c( ˜K)+2 をK ˆ
の領域, r
iをR
iの周りの頂点の個数とする.
このとき,
隣り合う2
領域R
i, R
j でr
i+ r
j= c(K) + 2
となるものが存在するならば, K
は二橋結び目である.
証明
.
隣り合う2
領域R
i, R
jで, r
i+ r
j= c(K) + 2
となると仮定すると,
補題5.2
より, R
i, R
jが共有する 頂点は2
個であることから, R
i, R
jと,
このuniverse
の全ての頂点を,
図13
のようにあらわすことが出来る.
図13
に対し,
以下の三つの条件を守って辺を補ってuniverse
を復元すると,
二橋結び目の射影図になるとい図
13
うことを示せば十分である
.
(i). 1
個の頂点に対し, 4
本の辺が存在する.
(ii).
完成したuniverse
が素な結び目の射影図になる. (iii).
補った辺が,
新たな頂点を作らない.
そこでまず
, R
iとR
jが共有している2
頂点のうちの1
点を選び,
その点から辺を描き始める.
このとき,
辺図
14
の終点となりうる頂点は
,
始点の両隣の2
点に限られる.
なぜならば,
両隣の2
点以外の頂点を選ぶと,
必ず図16
のように破線で囲まれた部分とそれ以外の部分との連結和の射影図となり,
既約という条件に反するからで ある.
そこで,
一般性を失わずに右隣の頂点を終点として選ぶことができるので,
この場合は右隣の頂点を終点 とする.
次に, 1
本目の辺で終点となった頂点を始点として2
本目の辺を描くと,
この辺の終点となるのは,
始図
15
図
16
図
17
点の隣の頂点
,
または既に完成した辺や頂点を挟んで隣の点のいずれかに限られる.
このように,
順番に各頂点 を始点として辺を描いたとき,
いずれの場合も終点となりうる頂点は2
個に限られる.
従って,
全ての辺を描 き入れると,
一例として図18
のようなuniverse
が完成する.
図18
の中の の部分を,
長方形(
これを図
18
box
と呼ぶ. )
で囲んで一括りにすると,
図19
が得られる.
ここで,
領域R
iを球面上で広げてuniverse
を変 形し,
さらに各辺を伸ばすと,
図19
のように,
二橋結び目の射影図が得られる.
勿論, universe
の完成図は,
図18
の他にも複数のものが考えられるが,
いずれの場合も上記の手順によって二橋結び目の射影図に変形でき る.
従って, ˆ K
は二橋結び目の射影であると示されたので, K
は二橋結び目,
もしくは自明な結び目である.
ここで
,
定理5.1
の証明に戻る.
図
19
図
20
定理
5.1
の証明.
初めに, p(K)
とc(K)
が等しいと仮定し,
さらに, p( ˜ K; i, j) = p(K)
となるように,
既約な正 則射影K ˜
と,
隣り合う2
領域R
i, R
jを選ぶ.
ここで,
補題5.3
の不等式にp(K) = c(K)
を代入すると,
r
i+ r
j≥ c(K) + 2
が得られる.
さらに,
補題5.2
を用いると,
r
i+ r
j= c(K) + 2
が得られる
.
従って,
命題5.4
より, K
が二橋結び目であることが示された.
次に
, K
が二橋結び目であると仮定すると,
その最小交差数を持つ射影図は,
図21
の2
通りに表される. box
の数が偶数個の場合のみ示す.
この射影図に対し,
図22
の位置に( ∗ )
を置くと,
このときのclocked state
図
21
と
counterclocked state
は図23
のようになるので, clocked state
からcounterclocked state
に至るまでに1
回transposition
するmarker
は2
個, 2
回transposition
するmarker
はc(K) − 2
個である.
従って,
図
22
図
23
p(K) = 1 + 1 × 2 + 2(c(K) − 2)
2 = c(K)
となる
.
さらに, box
の数が奇数個の場合も同様に示されるので,
定理5.1
は証明された.
参考文献