慢性肺アスペルギルス症に対するイトラコナゾール注射薬と 高用量カプセル薬による維持療法の検討
1)神戸市立医療センター西市民病院呼吸器内科,2)神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科,
3)西神戸医療センター呼吸器科,4)神鋼病院呼吸器センター,
5)国立病院機構兵庫中央病院呼吸器内科(現 綾部ルネス病院呼吸器内科)
冨岡 洋海
1)金田 俊彦
1)木田 陽子
1)金子 正博
1)藤井 宏
1)林 三千雄
2)富井 啓介
2)多田 公英
3)鈴木雄二郎
4)狩野 孝之
5)(平成 23 年 2 月 24 日受付)
(平成 23 年 7 月 8 日受理)
Key words : itraconazole, chronic pulmonary aspergillosis
要 旨
背景:イトラコナゾール(ITCZ)注射薬からの切り替えにより,ITCZ カプセル薬 400mg!日の高用量に よる維持療法がわが国でも可能となり,手術適応が限られ,長期間にわたる内科的治療を要する肺アスペル ギローマや慢性壊死性肺アスペルギルス症(CNPA)などの慢性肺アスペルギルス症に対する有効性が期待 される.
目的:慢性肺アスペルギルス症に対する ITCZ 注射薬と高用量カプセル薬による維持療法の有効性,安全 性を多施設共同研究で検証する.
試験デザイン:単群,非盲検化,非ランダム化試験
方法:慢性肺アスペルギルス症患者を対象に,ITCZ 注射薬 400mg!日から開始,3 日目以降は 200mg!日 とし,14 日以内に ITCZ カプセル薬 400mg!日に変更し,計 12 週間投与する.各症例の主要評価項目は,胸 部 CT 所見の改善度とし,改善,不変,悪化の 3 段階で評価し,副次的評価項目は患者の自覚症状の変化と した.試験開始 2,4 週目に活性 ITCZ 血中濃度(ITCZ,OH-ITCZ)を測定した.
結果:20 例(平均年齢 63 歳,肺アスペルギローマ 6 例,CNPA 14 例)が登録され,17 例で有効性評価 を行った.CT 所見では,改善 9 例(52.9%),不変 7 例,悪化 1 例で,臨床症状では,喀痰,血痰,発熱に ついて有意な改善を認めた.有害事象として,2 例がうっ血性心不全を発症したが,利尿剤の投与と薬剤の 中止にてすみやかに軽快した.低カリウム血症や肝機能障害など何らかの有害事象は全体の 11 例(55%)に 認められたが,うっ血性心不全以外では ITCZ 治療の継続が可能であった.合併症である非結核性抗酸菌症 に対し,リファンピシンが併用投与されていた 2 例では,活性 ITCZ 血中濃度がきわめて低値を示し,うち 1 例は CT 所見の改善度評価における唯一の悪化例であった.
結論:慢性肺アスペルギルス症に対する本レジメンの有効性が示唆された.
〔感染症誌 85:644〜651,2011〕
序 文
肺アスペルギローマや慢性壊死性肺アスペルギルス 症(chronic necrotizing pulmonary aspergillosis : CNPA)などの慢性肺アスペルギルス症の治療につい
ては,基礎疾患や高齢による低肺機能のため,手術適 応となる症例は限られ,抗真菌薬による内科的治療が 行われる場合が多い1).
イトラコナゾール(itraconazole : ITCZ)はAspergil- lusspp.に対して強力な抗真菌活性を示すトリアゾー ル系の抗真菌薬であるが,本邦においてはこれまでカ プセル薬に限られ,その吸収には個人差が大きく,ま 原 著
別刷請求先:(〒653―0013)神戸市長田区一番町 2―4 神戸市立医療センター西市民病院呼吸器内科
冨岡 洋海
た,食事や併用薬剤など様々な要因に影響されること が問題とされていた2)〜4).しかし,2006 年より ITCZ 注射薬が国内臨床使用可能となり,200mg×2!日,2 日間の loading dose の後,200mg×1!日の点滴投与に て主要真菌に対する治療効果が期待できる血中濃度
(>500ng!mL)の維持が可能とされている5).また,
これを契機に,ITCZ 注射薬からの切り替えの場合に は,従来では保険診療上認められていなかったカプセ ル薬 400mg!日の高用量投与も可能となり,この高用 量を維持療法として用いることで,長期間の内科的治 療を要する慢性肺アスペルギルス症に対する有効性も 期待される.そこで,本症に対する ITCZ 注射薬と高 用量カプセル薬による維持療法の有効性,安全性を検 証するため,多施設共同研究を行った.
対象と方法 1.対象
「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン 2007」1)の 呼吸器内科領域 肺アスペルギローマ,CNPA の臨 床診断例,または確定診断例の診断基準を満たし,少 なくとも 12 週間の経過観察が可能と予測できるもの で,試験参加の同意が文書で得られた 20 歳以上の患 者を対象とした.前投与抗真菌薬がある場合は,少な くとも 1 カ月以上の継続使用歴があり,臨床的に改善 傾向が認められない症例とした.除外基準として,妊 婦または妊娠している可能性のある患者,授乳期の患 者,進行癌を有する患者,高度の心疾患や呼吸不全を 有する患者,ALT,AST のいずれかが施設基準値上 限の 3 倍を超える患者,血清クレアチニン値が 2mg!
dL 以上の患者,安定した病変で肺の一部に限局して おり,外科的切除が可能と判断された患者(ただし患 者が外科的切除を拒否した場合を除く),ピモジド,キ ニジン,ベプリジル,トリアゾラム,シンバスタチン,
アゼルニジピン,ニソルジピン,エルゴタミン,ジヒ ドロエルゴタミン,バルデナフィル,エプレレノン,
ブロナンセリン,シルデナフィルを投与中の患者,
ITCZ に過敏症の既往のある患者,ITCZ 注射薬の使 用歴のある患者,本臨床研究が患者に不利益を与える 可能性があると判断された患者とした.
2.治療スケジュール
試験デザインは単群,非盲検化,非ランダム化試験 とし,治療スケジュールは,ITCZ 注射薬を 200mg!
回 1 日 2 回で最初の 2 日間,3 日目以降は 200mg!回 1 日 1 回静脈内投与し,その後,注射薬開始より 14 日以内に,経口薬への切り替えを行い,ITCZ カプセ ル薬 200mg!回を 1 日 2 回,朝夕食直後に経口投与と し,注射・経口薬あわせて 12 週間投与することとし た.
3.検査・観察項目
有害事象の観察は随時とし,臨床症状については,
試験開始時と開始後 12 週後を含む定期的な観察を行 い,血液検査を試験開始 2,4,8,12 週後に,胸部 X 線検査を 4,8,12 週後に,胸部 CT 検査(通常の 1cm スライス厚)を試験開始前 1 カ月以内と開始後 12 週 後に行った.株式会社 SRL に依頼し,試験開始 2,4 週間後に,血漿中 ITCZ および主活性代謝物である OH-ITCZ 濃度(トラフ値)を high-performance liquid chromatograph(HPLC)にて測定した.その結果は,
随時,各担当主治医へ報告された.なお,本試験開始 前すでに ITCZ カプセル薬が投与されている例におい ては,試験開始直前に同様に血漿中 ITCZ,OH-ITCZ 濃度を測定した.
4.評価項目
各症例の主要評価項目は,胸部 CT 所見の改善度と し,臨床情報をマスクされた 1 名の放射線科医が,病 変が改善したものを「改善」,病変が変化なかったも のを「不変」,病変が悪化したものを「悪化」とする 3 段階で評価を行った.副次的評価項目は,患者の自 覚症状(発熱,咳嗽,喀痰,血痰)について,各担当 医が試験開始時と 12 週後の各症状の有無を評価した.
5.試験中止基準
有害事象出現や,ITCZ と相互作用のある薬剤を必 要とする状況が生じた場合などで,主治医が患者の有 益性を考慮し,ITCZ の継続不可能と判断した場合,
ITCZ の効果が十分でなく,他剤への変更または,併 用が必要と判断された場合,また,患者から ITCZ の 中止,あるいは他剤への変更や併用の申し出があった 場合とした.
6.統計処理
CT 画像所見で「改善」と判定された症例の割合(効 果判定解析対象集団に占める割合)およびその 95%
信頼区間を算出した.患者の自覚症状(発熱,咳嗽,
喀痰,血痰)について,試験開始時と 12 週後の各症 状の有無を,カイ 2 乗検定あるいは Fisher の検定で 評価した.血漿中 ITCZ 濃度と OH-ITCZ 濃度の合計 を,試験開始 2 週後と 4 週後との間で,また,本試験 開始前すでに ITCZ カプセル薬投与例においては,試 験開始前と開始 2 週後との間で,paired t test を用い て比較検討を行った.また,何らかの有害事象あり,
なしの 2 群間において,同じく血漿中濃度を Studentʼs t-test により比較検討を行った.p<0.05 を有意とし た.なお,本臨床試験は各施設において倫理審査委員 会の承認を受け,実施された.
成 績 1.患者背景
2008 年 1 月から 2010 年 6 月の期間に計 20 例が本 試験の対象として適格と判断され,ITCZ 注射薬が開
Table 1 Patient characteristics
Characteristics Number (%) or
mean±SD (range)
Age, years 63±11 (36-82)
Sex, male 17 (85%)
Smoking history
Current smoker 2 (10%)
Ex-smoker 15 (75%)
Never 3 (15%)
Underlying lung disease
Previous mycobacterial disease* 14 (70%) Previous thoracic surgery 6 (30%)
COPD 5 (25%)
Bronchiectasis 2 (10%)
Systemic illnesses
Malignancy** 3 (15%)
Diabetes mellitus 2 (10%)
Corticosteroid use 2 (10%)
Liver cirrhosis 2 (10%)
Hypothyroidism 2 (10%)
Other*** 4 (20%)
COPD: chronic obstructive pulmonary disease
*Previous mycobacterial disease includes pulmonary tu- berculosis (n=11) and pulmonary Mycobacterium avium complex disease (n=3)
**Malignancy includes hypopharyngeal cancer, prostatic carcinoma, liver cancer (n=1, respectively)
***Other systemic illnesses include rheumatoid arthritis, myelodysplastic syndrome, alcohol-dependence, isolated ad- renocorticotropic hormone deficiency (n=1, respectively)
Table 2 Radiologic evaluation of response to itra- conazole
Improvement No change Deterioration
Aspergilloma (n=5) 2 2 1
CNPA (n=12) 7 5 0
Total (n=17) 9 7 1
CNPA: chronic necrotizing pulmonary aspergillosis
始された.病型は CNPA 14 例,肺アスペルギローマ 6 例で,培養によってA. fumigatus 11 例,A. niger 3 例,A. flavas 1 例が同定された(喀痰培養陽性 12 例,
気管支鏡検査が施行された 11 例中 5 例陽性,重複あ り).また,アスペルギルス抗体は沈降法 4 例中 3 例,
ELISA 法 12 例中 12 例で陽性であり,ガラクトマン ナン抗原陽性(カットオフ値 0.5)は 20 例中 7 例であっ た.登録時の患者背景を Table 1に示す.年齢は 36 歳〜82 歳,平均 63 歳で,男性 17 例,女性 3 例であっ た.基礎疾患としては,肺結核の既往を 11 例,活動 性の非結核性抗酸菌症を 3 例(Mycobacterium avium2 例,M. intracellulare1 例)に認めた.肺手術歴を 6 例 に認め,そのうちわけは気胸 3 例,ブラ,肺良性腫瘍,
胸郭形成術各 1 例であった.その他,COPD 5 例,悪 性腫瘍 3 例,気管支拡張症,糖尿病,副腎皮質ステロ イド使用,肝硬変,甲状腺機能低下症各 2 例などであっ た.登録時の主な症状としては,喀痰 19 例,血痰 15 例,咳嗽 15 例,発熱 13 例,息切れ 11 例などであっ た.H2 受容体拮抗薬,プロトンポンプ阻害薬の併用 は各 2 例に認めた.登録時すでに抗真菌薬が投与され ていた症例は 8 例で,そのうちわけは ITCZ 6 例(150 mg!日 1 例,200mg!日 5 例),ボリコナゾール(VRCZ)
(300mg!日)1 例,ミ カ フ ァ ン ギ ン(150mg!日)と
VRCZ(200mg!日)併用 1 例であった.ITCZ 以外の 抗真菌薬が投与されていた患者では,それらを中止し,
ITCZ 単剤による治療として試験が開始された.
2.有効性
登録 20 例のうち,2 例(CNPA,アスペルギロー マ各 1 例)が ITCZ との因果関係が否定できない有害 事象(うっ血性心不全)のため,それぞれ試験開始 35 日目,62 日目で ITCZ 投与を中止,また,1 例(CNPA)
が基礎疾患(肺結核後遺症および COPD)の増悪の ため試験開始 51 日目に死亡し,残り 17 例で有効性評 価を行った.本死亡例は,ITCZ 治療開始 1 カ月後に 発熱をきたし,炎症反応,全身状態が悪化し,胸部画 像所見では,肺アスペルギルス症とした空洞性陰影は 縮小傾向を認めており,原因菌は同定されなかったが,
感染による COPD 増悪と考え,抗生剤投与,非侵襲 的陽圧人工呼吸を行うも,呼吸不全のため死亡された.
心機能評価では ejection fraction 60% と左室収縮能 は保たれており,血清カリウム値も最低値 2.7mEq!L から,その後輸液のみで,死亡 3 日前には 3.4mEq!L と改善を認めていた.
12 週後の CT 画像所見について,全体としては,改 善 9 例(52.9%,95% 信頼区間:31.0%〜73.8%),変 化な し 7 例,悪 化 1 例(5.9%)で あ っ た.CNPA と アスペルギローマに分けて検討すると,前者では,改 善 7 例(58.3%),変化なし 5 例,悪化例な し,後 者 で は,改 善 2 例(40.0%),変 化 な し 2 例,悪 化 1 例 であった(Table 2).Fig. 1に「改善」と判定された CNPA 症例の CT 画像を示す.12 週後における喀痰,
咳嗽,血痰,発熱を認めた症例は,それぞれ 9 例,7 例,2 例,1 例で,臨床症状に関しては,喀痰,血痰,
発熱について有意な改善を認めた(各 p<0.05,p<
0.01,p<0.01)(Fig. 2).
3.安全性
2 例が試験開始後うっ血性心不全を発症した.1 例 は 75 歳,男性で,骨髄異形成症候群のためステロイ ドを併用しており,入院中に四肢の浮腫が出現し,利 尿剤の投与によってすみやかに軽快したが,低カリウ ム血症(2.0mEq!L)の合併もあり,ITCZ 中止となっ た.もう 1 例は 82 歳,男性で,前立腺癌の合併があ り,外来において利尿剤の投与と ITCZ 中止により軽
Fig. 1 Chest CT findings of a 70 year-old male with chronic necrotizing pulmo- nary aspergillosis obtained on October 2, 2008 before treatment (a) and January 6, 2009 after treatment with itraconazole (b) show disappearance of fungus ball in the cavity and improvement of consolidation in the lung fields.
a b
Fig. 2 Frequency of clinical symptoms at entry and at 12 months later (n=17)
Fig. 3 Change in plasma itraconazole concentra- tion (itraconazole+hydroxy-itraconazole)
快 し た.3.0mEq!L 以 下 の 低 カ リ ウ ム 血 症 は 9 例
(45%)に認め(最低値 2.0mEq!L),このうち心不全 の合併もみられた 1 例では ITCZ 中止となったが,そ の他については,2 例が ITCZ カプセル薬 200mg!日 に減量(うち 1 例は肝機能障害も合併),4 例がカリ ウム製剤投与,3 例は特に処置することなく自然回復 した.肝機能障害は 2 例に認めたが,1 例はアルコー ル依存症の男性で,大量飲酒後に AST 1,046IU!L,
ALT 259IU!L まで悪化したが,禁酒と ITCZ を一時 休薬したところ,回復し,ITCZ カプセル薬 200mg! 日に減量し投与再開し,その後継続投与が可能であっ
た.もう 1 例は肝硬変,肝臓癌合併の男性で,AST 82 IU!L,ALT 62IU!L となった時点で,200mg!日に減 量され,継続投与が可能であった.以上,何らかの有 害事象は 11 例(55%)に認められた.
4.血漿中 ITCZ,OH-ITCZ 濃度
血 漿 中 ITCZ 濃 度 と OH-ITCZ 濃 度 の 合 計 を 活 性 ITCZ 血中濃度として,その推移を Fig. 3に示す.本 試験開始前すでに ITCZ カプセル薬が投与されていた 6 例の活性 ITCZ 血中濃度は,試験開始直前 1,485.7
1,556.5ng!mL で あ っ た が,開 始 2 週 後 に は 5,187.3 3,338.3ng!mL と有意な上昇を認めた(p<0.05).全 20 例において,試験開始 2 週後と 4 週後での活性 ITCZ 血中濃度を比較したが,有意差は認められなかった.
活性 ITCZ 血中濃度がきわめて低値であった症例が 2 例認められたが,これらは合併症である非結核性抗酸 菌症に対し,リファンピシン(RFP)が併用投与され ていた.この第 1 例目は,M. avium感染症と糖尿病,
肝硬変症に合併したアスペルギローマ症例で,活性 ITCZ 血中濃度は,ITCZ 治療開始 2 週後 33.9ng!mL,
4 週後 91.6ng!mL と低値であったが,実施計画書で は,血中濃度が低値であった場合の対応はあらかじめ 定めておらず,本例では,臨床症状について血痰,喀 痰の減少傾向を認めていたこと,治療開始後 4 週目の 胸部 CT,さらに 8 週目での胸部単純 X 線での評価で も,病変の悪化がみられていなかったこと,また,有 害事象も認めていなかったことから,「試験中止基準」
には必ずしも当てはまらないとして,RFP が継続投 与されたが,最終的な 12 週後の CT 画像所見では「悪 化」と 判 定 さ れ た.第 2 例 目 は,M. intracellulare感 染症に合併したアスペルギローマ症例で,先の第 1 例 目の約 6 カ月後に登録され,ITCZ 治療が開始された が,活性 ITCZ 血中濃度は,2 週後 157.6ng!mL,4 週 後 172.7ng!mL とやはり低値であったことから,第 1 例目の最終 12 週後の CT 画像所見判定結果を踏まえ,
RFP 併用についての注意喚起を行い,試験開始 43 日 目に RFP が中止された.その後,血中濃度の再検査 は行っていないが,12 週後の CT 画像所見では「改 善」と判定された.なお,同じく非結核性抗酸菌症を 合併していた残りの 1 例は,同様に第 1 例目の全経過 による注意喚起から,試験開始時に RFP が中止され,
2 週 後,4 週 後 の 活 性 ITCZ 血 中 濃 度 は,そ れ ぞ れ 1,257.1ng!mL,1,677.3ng!mL で,12 週 後 の CT 画 像 所見判定は「不変」であった.また,この症例では,
本試験開始前よりすでに ITCZ 経口薬 200mg!日が投 与されていたが,RFP 併用中止前の活性 ITCZ 血中 濃度は,20ng!mL ときわめて低値であった.何らか の有害事象を認めた 11 例と認めなかった 9 例とで,活 性 ITCZ 血中濃度の比較を行ったが,2 週後(5,721.9 2,872.3ng!mL 対 4,238.3 3,563.3ng!mL,p=0.316),4 週後(6,070.8 3,162.6ng!mL 対 4,690.3 3,184.1ng!mL,
p=0.346)とも有意差は認められなかった.
考 察
ITCZ は,本邦では 1993 年にカプセル薬が承認さ れて以来,皮膚真菌症のみならず,アスペルギルス症 をはじめとする深在性真菌症に対して臨床使用され,
その有効性および安全性が確認されてきた.しかし,
これまでわが国での保険適用最大用量は 200mg!日で
あり,米国感染症学会ガイドライン6)において推奨さ れ て い る 400mg!日 と は 隔 た り が あ っ た.し か し,
ITCZ 注射薬が使用可能となり,この注射薬からの切 り替えにより,カプセル薬 400mg!日の高用量による 維持療法が認可されたのを受け,慢性肺アスペルギル ス症に対する本レジメンの治療効果,安全性の検討を 行った.その結果,主要評価項目として,画像上改善 と判定された症例の割合いは 52.9%,悪化はわずか 1 例(5.9%)であった.また,副次的評価項目である 患者の自覚症状についても,発熱,咳嗽,血痰の 3 項 目について有意な改善を認めた.先に河野らが報告し た本レジメンによる国内第 3 相臨床試験5)では,内視 鏡検査・画像診断の改善は,CNPA で 8 例中 6 例,ア スペルギローマで 6 例中 0 例,両者を合わせた慢性肺 アスペルギルス症に対する改善率は 42.9%(14 例中 6 例),臨床症状の改善率は 71.4%(14 例中 10 例)で あった.これまで本邦において,比較的多数例を対象 とし,画像所見による効果判定が行われた報告を検索 してみると,肺アスペルギローマ研究会7)による肺ア スペルギローマを対象としたカプセル薬 100〜200mg
!日による 4〜12 週間の治療において,X 線所見改善 度として,部分消失または軽微縮小とした改善率は 58.5%(24!41 例),部分増悪あるいは増悪は 12.2%(5
!41 例),また,著者らによるカプセル薬 200mg!日服 用中の肺アスペルギローマ,CNPA 併せて 22 例の胸 部画像所見の評価4)では,有効 11 例(50%),悪化 3 例(13.6%)であった.本研究において画像所見で悪 化と判定された症例の割合いは 5.9% であったことか ら,ITCZ 1 日投与量の増加によって,少なくとも画 像所見での悪化が抑えられる傾向が示唆された.近年,
抗微生物薬の効果の指標として用いられている phar- macokinetic!pharmacodynamics(PK!PD)解析から は,動物実験モデルでのデータではあるが,トリアゾー ル系薬においては,薬効と相関する PK!PD パラメー タとして,AUC!MIC が推奨されている8).よって,初 期に注射薬による loading dose を用いて,AUC を早 期に大きくし,その後,高用量のカプセル薬で維持療 法を行う本レジメンが,慢性肺アスペルギルス症に対 して有効な治療法となりうると考えられた.なお,同 じく画像所見で評価した海外での報告では,ITCZ 投 与量が 100〜400mg!日と様々であり,また治療期間 も様々であるため,比較は困難であるが,画像改善率 としてアスペルギローマで 14.3%9),30%10),CNPA で 42%11),63%10),93%9)であった.
本試験で唯一「悪化」と判定された 1 例は,試験開 始 2 週後,4 週後ともに,測定した活性 ITCZ 血中濃 度がきわめて低値であった.これは,本例に併用投与 されていた RFP が,ITCZ の代謝酵素であるチトク
ローム P450 3A4 を誘導し,ITCZ の血中濃度を低下 させたためと考えられた12)13).川田ら13)の検討でも,
RFP 併用で ITCZ,OH-ITCZ の血中濃度は著しく低 下し,RFP を中止することで上昇することが確認さ れている.ITCZ 血中濃度を上昇させるためには 10〜
100 倍の投与量が必要とされ,実地臨床上 RFP は中 止すべきとしている.よって,本例も RFP を早期に 中止することで,充分な活性 ITCZ 血中濃度が得られ ていたなら,最終 12 週後における画像判定での「悪 化」には至らなかった可能性も考えられる.実際,同 じく,RFP が併用投与され,やはり活性 ITCZ 血中 濃度が低値であったもう 1 例は,前例の経過を踏まえ,
RFP が中止され,RFP 中止後に血中濃度の再検査は 行われていないため,血中濃度の上昇は確認されてい ないが,12 週後の最終判定では「改善」とされてい た.先に述べた動物実験モデルでの PK!PD 解析のみ ならず,実地臨床のうえでも,ITCZ 血中濃度とその 臨床的効果との間には関連性が伺われるとの報告もあ り4)14)15),血中濃度モニタリングは重要と考えられ,本 試験の最終的な結果からは,RFP 併用例として登録 された第 1 例目においては,血中濃度の低値が報告さ れた時点で試験を終了すべきであったと反省させられ た.なお,本研究では,対象例 20 例のうち,試験開 始時に RFP が中止された 1 例を含め,計 3 例が活動 性の非結核性抗酸菌症を合併していた.最近,慢性肺 アスペルギルス症,特に CNPA の基礎疾患として非 結核性抗酸菌症が注目されており16)17),このような症 例では,非結核性抗酸菌症に対する薬物療法も平行し て行う場合もあり,薬剤の相互作用には注意が必要で ある.この点に関し,RFP よりも薬物相互作用が弱 いとされるリファブチンを代用するレジメン18)も検討 すべきであるが,まだ充分なエビデンスがなく,今後 の課題であろう.
本試験では 2 例がうっ血性心不全を発症し,ITCZ との因果関係が否定できない有害事象として,投与が 中止された.いずれも利尿剤の投与と ITCZ 中止にて すみやかに軽快したが,その他の有害事象である低カ リウム血症や肝機能障害などについては,対症療法や ITCZ 減量によって,治療の継続が可能であっただけ に,うっ血性心不全の発症には注意が必要である.先 の国内第 3 相臨床試験においても,51 例中 1 例(2.0%)
において,副作用としてうっ血性心不全の報告がなさ れている.ITCZ とうっ血性心不全発症との関連につ いて検討した報告19)20)によると,その機序については 明らかではないものの,心収縮力に対して ITCZ が負 の変力作用を及ぼす可能性が考えられている.今後も,
糖尿病や高血圧のようなリスクファクターを有する症 例では,ITCZ 投与前に心機能についての評価を行い,
厳重なモニターを継続すべきと考えられた.
肺アスペルギローマや CNPA などの慢性肺アスペ ルギルス症の治療は長期間の維持療法を必要6)とする ため,現時点では,外来で使用可能な経口薬である ITCZ や VRCZ が適応と考えられる.VRCZ の慢性肺 アスペルギルス症に対する治療効果については,Ca- muset ら21)が,24 例の慢性肺アスペルギルス症を対象 に,画像所見の改善が治療開始 2,3 カ月後で 45%,5,
6 カ月後で 65% と報告している.本邦においても,萩 原ら22)が,VRCZ で治療を行った CNPA 45 例の後ろ 向き検討を行い,臨床症状または画像所見のどちらか の改善が得られたものを有効とすると,30 例(67%)
が有効であったとしている.しかし,両報告でそれぞ れ 3 例(12.5%),10 例(22%)が副作用のため,薬 剤中止となっており,安全性の面でさらなる検討が必 要である.さらには,萩原ら22)の報告において,VRCZ が有効ではあったが,経済的理由により他剤に変更ま たは治療中断となった症例が 3 例あり,長期間の維持 療法を必要とする本症の治療においては,医療経済的 な観点から,薬剤のコストも問題となるであろう.
以上,慢性肺アスペルギルス症に対する ITCZ 注射 薬と高用量カプセル薬による維持療法の多施設共同試 験を行い,本レジメンの有効性が示唆された.ITCZ に関するエビデンスの多くは,主に海外における血液 内科領域及び表在性真菌症に関するものであり,本邦 で比較的多く認められる慢性型の肺アスペルギルス症 に関しては,我が国独自のエビデンスを確立していく 必要があると考えられた.
利益相反:本研究における ITCZ 血中濃度測定の費用に ついてはヤンセンファーマ(株)の援助を受けた.
なお,本論文の概要は,第 84 回日本感染症学会総会に て発表した.
謝辞:本研究において,CT 画像所見の評価をしていた だきました神戸市立医療センター西市民病院放射線科臼杵 則朗先生に深謝申し上げます.また,治療にご協力を賜り ました西神戸医療センター呼吸器科岩崎博信先生,神戸市 立医療センター中央市民病院呼吸器内科立川良先生,大塚 今日子先生,神鋼病院呼吸器センター松岡弘典先生,国立 病院機構兵庫中央病院呼吸器内科金森斎修先生に深謝申し 上げます.
文 献
1)深在性真菌症のガイドライン作成委員会:深在 性真菌症の診断・治療ガイドライン 2007.協和 企画,東京,2007;p. 6―7.
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An Open, Noncomparative Multicenter Study of the Efficacy and Safety of Itraconazole Injections and High Dose Capsules in Chronic Pulmonary Aspergillosis
Hiromi TOMIOKA1), Toshihiko KANEDA1), Yoko KIDA1), Masahiro KANEKO1), Hiroshi FUJII1), Michio HAYASHI2), Keisuke TOMII2), Kimihide TADA3), Yujiro SUZUKI4)& Takayuki KARINO5)
1)Department of Respiratory Medicine, Kobe City Medical Center West Hospital,
2)Department of Respiratory Medicine, Kobe City Medical Center General Hospital,
3)Department of Respiratory Medicine, Nishi-Kobe Medical Center,
4)Department of Respiratory Medicine, Shinko Hospital,
5)Department of Respiratory Medicine, National Hospital Organization, Hyogo Central Hospital
Background:Itraconazole (ITCZ) is a novel triazole antifungal with a broad spectrum including Asper- gillus species. We conducted a three-month open, noncomparative multicenter study of the efficacy and safety of ITCZ injections and high dose capsules in chronic pulmonary aspergillosis.
Methods:Patients with chronic pulmonary aspergillosis received intravenous injection of ITCZ (200mg) (twice a day for the first two days, then once a day for the following 3-12 days) prior to the oral administra- tion of ITCZ capsules (200mg) twice a day. Radiologic findings by chest CT and clinical symptoms were evaluated at baseline and 12 weeks later. We also measured ITCZ plasma trough concentrations after two weeks and four weeks of the study.
Results:Twenty patients were included in the study, among which 14 patients presented with chronic necrotizing pulmonary aspergillosis (CNPA) and 6 presented with pulmonary aspergilloma. The efficacy evaluation was available in 17 patients (CNPA, 12 patients ; aspergilloma, 5 patients). Radiological improve- ment was observed in nine (52.9%, 95%CI : 31.0%〜73.8%) patients (CNPA, 7 patients ; aspergilloma, 2 pa- tients). One patient with aspergilloma showed deterioration. The clinical symptoms showed significant im- provement on expectoration, bloody sputum, and pyrexia. Two patients had to stop treatment with ITCZ because of congestive heart failure. Other adverse effects were reported but did not lead to the discontinu- ation of treatment, as follows : hepatic dysfunction, two patients ; hypokalemia, nine patients. In two patients who combined pulmonary Mycobacterium avium complex disease coadministration of ITCZ and rifampicin was done. Their ITCZ plasma concentrations were extremely low, and one of them was the only deteriora- tion case in the primarily radiologic evaluation.
Conclusion:Itraconazole injections and high dose capsules maintenance therapy is effective in treating chronic pulmonary aspergillosis.