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外来インフルエンザ患者の医療費に関する検討

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Academic year: 2021

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(1)

毎年のインフルエンザは流行に際して多数の罹 患者がみられるが,特に高齢者においてインフル エンザの重症化あるいは肺炎の合併さらにはその 結果としての死亡が社会的にも大きな問題となっ ている.1999〜2000 年流行においても高齢者のイ ンフルエンザによる多数の死亡が報道がされ,さ らにこの流行に際してはワクチンの供給が需要に 追いつかず,実際に医療現場でもワクチンの不足 により,接種すべき高齢者を始めとするハイリス クグループに接種出来ない局面も見られた.

しかし,インフルエンザの流行における医療費 増大による経済的損失については十分な検討がさ れていない.

一方高齢者の肺炎などの合併による経済的損失 もさることながら,流行時においては外来に受診 する患者が多数にのぼることは明白であり,昨今 わが国においては国民の医療費の高騰に関連して インフルエンザ診療におけるコストについても関 心が持たれている.この観点からインフルエンザ 入院患者の医療費については 2, 3 の報告が見られ るが,患者数においてインフルエンザ罹患者の大 多数を占めると考えられる外来患者の医療費につ いてはとりあげられていない.その為,我々はイ ンフルエンザ外来患者の医療費について検討し

外来インフルエンザ患者の医療費に関する検討

久留米大学医療センター脳卒中内科1),久留米大学医学部第一内科2)

加地 正英

1)

久能 治子

1)

大泉耕太郎

2)

(平成 12 年 11 月 6 日受付)

(平成 13 年 1 月 30 日受理)

本邦では感染症の診断や治療に関する研究は盛んであるが,その医療費に関する検討はごく限られて いる.

本研究では最も身近なかぜ症候群の中でも多数の罹患者を出し,しかも病院,診療所へ受診すること の多いインフルエンザに注目しその医療費を検討した.

調査対象としたのは 2000 年 1 月から 3 月末まの期間に当院の外来に受診したインフルエンザ患者(迅 速診断キット,血清中抗体検査によりインフルエンザと診断)と非インフルエンザ(インフルエンザ迅 速診断キット陰性,インフルエンザ抗体検査陰性)の患者の 2 群の医療費について検討した.調査項目 は年齢,通院日数,医薬品代(内服,点滴),検査費,画像診断費,総計(初診・再診料など)である.

その結果非インフルエンザ患者(医薬品代 3,416±124 円,点滴代 350±269 円,検査費 4,853±506 円,

総計 12,420±976 円)に比してインフルエンザ患者では(医薬品代 3,557±296 円,点滴代 670±195 円,

検査費 6,577±495 円,総計 14,800±987 円)となり高額であることが明らかとなった.

〔感染症誌 75:460〜463,2001〕

別刷請求先:(〒839―0863)福岡県久留米市国分町155―1 久留米大学医学部付属医療センター脳卒

中内科 加地 正英

Key words: influenza, costs, cost benefit 460

感染症学雑誌 第75巻 第 6 号

(2)

Table 1 Costs of influenza and non influenza patients

p Non influenza Influenza

NS 212

89 No

< 0.01     44.8 ±  18.20

  37.8 ± 18.5 Age

< 0.01   1.39 ±  0.76

  1.82 ±  1.06 Frequncy of visit to 

out patient clinic(day)

< 0.03   3,416 ±  124

  3,557 ±  296 medication(yen)

Costs

< 0.01   350 ±  269

  670 ±  195 injections(yen)

< 0.01   4,853 ±  506

  6,577 ±  495 laboratory 

examination(yen)

NS   1,358 ±  305

  1,268 ±  346 Chest X ray 

CT(yen)

< 0.02 12,420 ±  976

14,800 ±  984 Total(yen)

mean ± SD NS : not significant

た.

対象と方法

2000 年 1 月 か ら 3 月 末 ま で に 当 院『か ぜ 外 来』を受診し,外来通院により治療を行った患者 を対象とし,迅速診断キットでインフルエンザ A と診断または急性期および回復期のペア血清につ いて行った赤血球凝集抑制試験,CF 試験により インフルエンザ A と診断された症例をインフル エンザ群とし,また同時期にインフルエンザ様あ るいはかぜ症状を呈したが,病原診断ではインフ ルエンザウイルス感染の根拠が得られなかった症 例すなわち迅速診断キットで陰性,抗体検査陰性 例,および後に他のインフルエンザ以外の病原が 同定された症例を非インフルエンザ群として両群 を比較し検討した.

なおこの流行以前から別の基礎疾患のため定期 的に治療を受けている症例は除外した.

さらに両群とも胸部 X 線検査によって肺炎の 合併と診断され入院加療が必要となった症例は除 外した結果,調査対象はインフルエンザ群は 89 例,非インフルエンザ群は 212 例となった.

調査項目は病名,性別,年齢,通院日数,医薬 品代 (内服,点滴,外用剤を含む) ,検査費,画像 診断費である. また総計には初診料および再診料,

服薬指導料を含んでいる.これらの項目は直接に カルテおよび保険請求書によって確認した.

検 定 は Mann-Whitney の U 検 定 を 用 い て p<

0.05 以下を統計学的に有意差ありとした.

検討した結果を Table 1 に示す.

インフルエンザ群 89 例(男 性 46 例,女 性 43 例)の平均年齢は 37.8 歳,非インフルエンザ群の 212 例(男性 90 例,女性 122 例)では平均年齢は 44.8 歳であった.

統計的にはインフルエンザ群の方が平均年齢は 低かった.

通院日数はインフルエンザ群では 1.82 日とな り非インフルエンザ群の 1.39 日より長かった.ま たインフルエンザ群では抗インフルエンザ薬のア マンタジンも含んだ医薬品代では 3557 円, また輸 液などの注射手技料 670 円,迅速診断キット(Di- rectigen Flu A)を全例に行いその検査費は 6,577 円 で あ り 非 イ ン フ ル エ ン ザ 群 で は 医 薬 品 代 が 3,416 円,注射手技料 350 円,検査費 4,853 円(迅 速診断キットによる検査は 68 例に行っていた) と なりインフルエンザ群で高額であった.しかし胸 部 X 線や胸部 CT などの画像診断にかかる費用 では有意の差は認められなかった.

最終的に診察費を含んだ医療費の合計ではイン フルエンザ群の方が有意に高かった.

インフルエンザは毎年流行し,その都度多くの 罹患者がみられ,また肺炎合併症などによる死亡 も少なくないため治療に多額の費用を必要とする ことは容易に想像がつく.しかし外来通院により 治療されるインフルエンザ患者は数において入院

インフルエンザの医療費 461

平成13年 6 月20日

(3)

患者数を遙かに上回るものであり,個々の症例で の医療費は入院例のそれに比して少額であるが,

症例数を考慮すればその合計は決して無視できな い.

一方同時期にインフルエンザ以外の病原による かぜ症候群(非インフルエンザ)の多発も認めら れるところであり,この非インフルエンザにおけ る費用についても検討する必要があり,我々はこ の二群における医療費の比較も実施した.我々が 設定した非インフルエンザ群は方法の項でも,迅 速診断キットもしくは血清抗体によりインフルエ ンザを極力除外したことを述べたが,いずれの方 法でもインフルエンザ感染に 100% 陽性の結果が 得られるわけではないので,完全にはインフルエ ンザを除外するには至らず,ごく一部にはインフ ルエンザ感染症が混入している可能性がある.し かし,今回はこれらの症例で疑わしい症例に関し てはカルテおよび他のデータなどの臨床的な観点 から除外しているため,ほとんどの症例はインフ ルエンザ以外の病原が原因と考えられる.このた め非インフルエンザ患者とインフルエンザ患者の 医療費を比較的忠実に反映していると推測され る.

医療費には直接費用と間接費用がある

1)

.直接 費用には患者による自己負担や医療にかかる費用 すなわち診察費 (初診,再診代) ,治療にかかる薬 剤代,検査費用などの診療報酬が含まれるが,本 研究では特に治療に関連する費用すなわち薬剤代 や検査費を中心に検討した.

欧米では治療に関する研究と同様に経済的効果 の検討が盛んに行われている.ドイツでは外来お よび入院における費用の検討

2)

が行われ, その損失 の大きさが示されている.またオーストラリアで は抗インフルエンザ薬を使用するこによる医療費 の分析を行っている

3)

.我が国でもようやくイン フルエンザによる経済的損失に関する検討が行わ れ始めた. すなわちワクチンによる予防

4)

により発 病や合併症を予防しえたことによる経済的効果や インフルエンザにより入院した患者にかかる医療 費

5)

から経済的損出を算出し経済的影響の検討が 行われているが,外来患者における医療費の検討

はおこなわれていない.

さらに最近まで外来で簡便・迅速にインフルエ ンザを診断することが困難であったため,厳密に インフルエンザ患者だけを抽出しこの種の検討を 行うことは困難であった.しかし,我々はインフ ルエンザの迅速診断法について検討しその有効性 を報告したが

6)

,本研究でも同診断法を用いてイ ンフルエンザ A と診断した症例のみを取り上げ て検討することができた.

このようにして得られた結果をインフルエンザ 群と非インフルエンザ群とで比べてみるとインフ ルエンザ群の患者が平均年齢が低かったが,これ は直接的に医療費の差につながるものではないと 考えられた.

インフルエンザ群は初めから再診を含めて診療 日数が非インフルエンザ群に比べて長く,これは 抗インフルエンザ薬のアマンタジンを使用したに もかかわらず,治癒にいたるまでに日数を要した ことを示している.一般にインフルエンザは他の かぜ症候群より重症であるため,インフルエンザ 群の医薬品代には抗インフルエンザ薬のアマンタ ジンも含まれてはいるがこの薬品は安価であり,

薬価の総計からみて大きな差を生ずることにはな らず,結局インフルエンザ患者では再来日にふた たび対症療法としての感冒薬や消炎鎮痛剤などを 投薬することも多く,その治療日数に連動して費 用が増加していると考えられる.

検査費に関しては迅速診断キットを使用したこ とによる費用の増加の影響は否定できない.しか し,非インフルエンザ群でも約 32% に迅速診断 キットが使用されている.しかしそれだけではな くインフルエンザ群での症状の重症度から,それ だけ経過観察のために白血球数や CRP など検査 回数および合併症に対する検査の種類が多くなる と推測される.

一方胸部レントゲンに関する検査費に差を認め なかったのは通常非インフルエンザ群では初診時 に胸部 X 線検査を行わないが,インフルエンザ群 においても迅速診断により病原診断がつけば,早 期に治療開始が可能となり肺炎などの合併率の低 下により,X 線検査を行わずに済ませることがで

加地 正英 他

462

感染症学雑誌 第75巻 第 6 号

(4)

きたためであるとの推測もあるが,一方非インフ ルエンザ群では病原が不明であり,そのため肺炎 などの除外診断のため胸部 X 線検査を行ったと の解釈も考えられる.この判断にはさらに症例を 集積し検討が必要であると考える.

いずれにしてもインフルエンザ罹患者が同時期 発症の非インフルエンザ患者に比べて多額の直接 費用を要することが判明した.

今回治療面でアマンタジンを使用したにも関わ らず,非インフルエンザ群より医療費が多く必要 であったわけで,アマンタジン投与による医療費 削減に関するデータは得られなかったが,実際ア マンタジンの投与が行われない場合にはその治療 効果による症状の軽減あるいは経過の短縮などが 期待できず,今回以上の医療費が必要になる可能 性も否定出来ない.

新しく登場するであろうノイラミニダーゼ阻害 薬はアマンタジンよりかなり高額になると考えら れるが,こうした抗インフルエンザ薬の使用によ る経済効果についても検討するべき段階に入って いると考えられる.

(本研究は文部省科学研究費 課題番号 12877377 の援 助を受けた.)

1)濃沼信夫,関田康慶:臨床経済学とは何か.感染 症 1995;25:37―3.

2) Szucs T : The socio-economic burden of influ- enza. J Antimicrobial Chemother 1999;4 topic B;11―5.

3)Mauskopf JA, Cates SC, Griffin AD, Neighbors DM, Lamb SC, Rutherford C:Cost effectiveness of zanamivir for the treatment of influenza in a high risk population in Australia . Pharma- coeconomics 2000;17;611―20.

4)森尾眞介,熊谷冨士雄,能勢隆之:学童インフル エンザ予防接種プログラムの経済的効果の分析.

日本公衛誌 1986;33:617―23.

5)原 裕一,池松秀之,鍋島篤子,萩原明人,信友 浩一,柏木征三郎:高齢インフルエンザ患者の検 査および治療費用の検討.感染症学雑誌 1999;

73:66―70.

6)加地正英,衛藤弘寿,猿渡直子,久能治子,佐藤 能啓,大泉耕太郎:A 型インフルエンザウイルス 迅速診断キット(Directigen Flu A)の臨床的有用 性の検討.臨床と研究 2000;77:189―92.

Costs of Influenza Therapy

Masahide KAJI, Haruko KUNO, & Kotaro OIZUMI

Kurume University Medical Center, Department of Neurology

Kurume University First Department of Internal Medicine

The costs of outpatients with influenza.

Outbreak of influenza occurs every winter in Japan and it brings a huge impacts on society and the individual.

We calculated the costs of medications and medical examinations for outpatients with influenza in hospital.

After we confirmed the diagnosis of influenza by rapid diagnosis system(Directigen Flu A)or hemagglutinin inhibition test, neutralization test, comparison of costs was done between influenza pa- tients(89 cases)and non influenza patients(212 cases) .

Mean cost of total medication and medical examinations were 14,800±980yen for an influenza patient and 12,420±976yen for a non influenza patient.

This data showed that treatment of the influenza patient is more expensive than non influenza patient . It must be considered that prophylaxis with influenza vaccine and treatment with anti- influenza drugs given in the early stage of influenza are useful for reducing medical costs.

インフルエンザの医療費 463

平成13年 6 月20日

Table 1 Costs of influenza and non influenza patients pNon influenzaInfluenza NS21289No < 0.01    44.8 ±  18.20  37.8 ± 18.5Age < 0.01  1.39 ±  0.76  1.82 ±  1.06Frequncy of visit to  out patient clinic (day) < 0.03  3,416 ±  124  3,557 ±  296medication(ye

参照

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