共同研究「刑事法判例研究会」2010年度活動報告
著者 山本 輝之
雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research
巻 27
ページ 183‑186
発行年 2011‑07‑31
URL http://hdl.handle.net/10723/2176
共同研究「刑事法判例研究会」2010年度活動報告
研究会代表者 山 本 輝 之
2010年度、刑事法判例研究会では、法科研会議室において計7回の研究会を開催し、昨年度と 同様に、最近の最高裁および下級審判例の中から、理論的・実務的に重要な論点を含むものを取 り上げて検討を行った。参加者は、本学法科大学院および法学部の刑事法スタッフ、本学出身な どの刑事法研究者が中心である。
以下は、今年度の研究会において検討した判例および報告者である。
第1回 2010年4月28日(水)18:00〜19:00
⑴ 今年度の研究会日程、報告者の確定
⑵ 検討判例の選択と割当て
第2回 2010年6月19日(土)14:30〜17:00
⑴ 最決平成21年6月29日 刑集63巻5号461頁
パチスロ店内で、パチスロ機から不正な方法によりメダルを窃取した者の共同正犯である者 が、上記犯行を隠ぺいする目的をもって、その隣のパチスロ機において、自ら通常の方法によ り遊戯していた場合、この通常の遊戯方法により取得したメダルについて窃盗罪が成立するか が問題となった事案について、窃取した財物と窃取したとはいえない財物とが混在している場 合における窃盗罪の成立範囲について判示した事例。
報告者:深町晋也
⑵ 東京地判平成21年9月15日LEX/DB文献番号25451426
めっき鋼板等の製造販売等の事業を営む被告会社3社の従業者である被告人6名が、同様の 事業を営む会社の従業者らとともに、それぞれが所属する会社の業務に関し、本件めっき鋼板 等の販売価格を共同して引き上げる旨協議を重ねて合意し、価格カルテルを行ったという独占 禁止法違反の事案で、不当な取引制限を禁止する規制が近年強化されていること、本件カルテ ルの直接の経済的、社会的影響も軽視できないこと、関係各社の内部において法令遵守の意識 が低く、監視機能が不足していたという実態があったこと等を考慮し、被告会社に罰金刑を言 い渡すとともに、被告人らに懲役刑(いずれも執行猶予に付された)を言い渡した事例。
報告者:穴沢大輔
第3回 2010年7月17日(土)14:30〜17:00
⑴ 最決平成21年11月9日 判タ1317号142頁、判時2069号156頁
銀行の代表取締役頭取が、実質倒産状態にある融資先企業グループの各社に対し、客観性を 持った再建・整理計画もないまま、赤字補てん資金等を実質無担保で追加融資したことが、特 別背任罪における取締役としての任務違背に当たるとされた事例。
報告者:辰井聡子
⑵ 最判平成21年11月30日刑集63巻9号1765頁
分譲マンションの各住戸にビラ等を投かんする目的で、同マンションの共用部分に立ち入っ た行為につき、刑法130条前段の罪が成立し、また、分譲マンションの各住戸に政党の活動報 告等を記載したビラ等を投かんする目的で、同マンションの共用部分に管理組合の意思に反し て立ち入った行為をもって刑法130条前段の罪に問うことが、憲法21条1項に違反しないとさ れた事例。
報告者:甘利航二
第4回 2010年9月25日(土)14:30〜17:00
⑴ 広島高判平成21年12月14日LEX/DB文献番号25441671
被告人が元妻と共謀して行ったとされる本件児童扶養手当詐欺については、児童扶養手当の 受給要件が元妻になかったとは認められないので、詐欺罪は成立しない、また、本件殺人、殺 人未遂、現住建造物等放火については、情況証拠だけから被告人を犯人と断定することはでき ない。被告人の自白が被告人と犯行とを結び付ける唯一の証拠であるが、自白からすれば、本 来発見できるはずの痕跡が発見できず、犯行態様という自白の中核部分に重大な疑念を抱かせ るなど、被告人の自白は信用できないから、被告人の犯行と認定することはできない、さらに、
本件生命保険金等詐欺については、被告人が、本件殺人、殺人未遂、現住建造物等放火の犯人 であることを前提とするが、本件ではその前提を欠いている。したがって、本件各公訴事実に ついて、被告人に無罪を言い渡した原判決は相当であるとして、検察官の控訴を棄却した事例。
報告者:京藤哲久
⑵ 横浜地判平成21年6月25日判タ1308号312頁
被告人がコンビニエンスストアにおいて、カッターナイフを用いて同店従業員Aから金員を 強取しようとしたが、同店経営者Bにカッターナイフを取り上げられて未遂におわったという 事案について、Bが店内で被告人とカッターナイフの奪い合いをした際又は引き続いて店外で 自転車に乗って逃走しようとする被告人を取り押さえる際に生じたBの傷害が強盗致傷罪にお ける傷害に該当するかが争われたが、Bの傷害を帰属させるべき被告人の原因行為は存在せず、
第5回 2010年10月16日(土)14:30〜17:00
⑴ 最決平成21年7月7日刑集63巻6号507頁
児童ポルノを、不特定又は多数の者に提供するとともに、不特定又は多数の者に提供する目 的で所持した場合の罪数が問題となった事案について、児童ポルノであり、かつ、刑法175条 のわいせつ物である物を、不特定又は多数の者に販売して提供するとともに、不特定又は多数 の者に販売して提供する目的で所持した行為が、全体として一罪と判断された事例。
報告者:城下裕二
⑵ 最決平成21年6月30日(刑集63巻5号475頁、判時2072号152頁)
共犯者が住居に侵入した後強盗に着手する前に現場から離脱した場合において共謀関係の解 消が否定された事例。
報告者:緒方あゆみ
第6回 2010年12月22日(水)14:30〜17:00
⑴ 最判平成22年7月22日(3件LEX/DB 25442442,25442443,25463975、うち2件は裁判所時 報1512号10頁、11頁LLI 06510087,0650088)
① 被告人が原略式命令確定後に本邦を出国し非常上告申立て時において再入国していない場 合における非常上告の可否(道路交通法違反被告事件(制限速度違反)に係る略式命令に 対する非常上告審において、被告人は、原略式命令確定後に本邦を出国し非常上告申立て 時において再入国していないことが認められるが、非常上告制度の目的等に照らすと、こ のような場合においても、検事総長は最高裁判所に非常上告をすることができるとされた 事例。
② 被告人が原略式命令確定後に死亡している場合における非常上告の可否(道路交通法違反 被告事件に係る略式命令に対する非常上告審において、被告人は、原略式命令確定後に死 亡していることが認められるが、非常上告制度の目的等に照らすと、このような場合にお いても、検事総長は最高裁判所に非常上告をすることができるとされた事例。
報告者:渡辺咲子
⑵ 札幌高判平成22年8月31日LEX/DB 25463826
交際相手Aの次女Cに暴行を加えて死亡させその死体を遺棄し、同長女Bに対して暴行を加 えた後に殺意をもって放置して死亡させその死体を遺棄し、Aに対して暴行を加えたとしたと して起訴されたという事案について、第1審が、Bには暴行後に救命可能性がなかったとして 殺人罪の成立を否定し、予備的訴因である傷害致死罪を認定し、被告人側が控訴したのに対し、
Bに対する殺人と傷害致死の訴因は、Bの死という一つの結果に因果関係を有する行為に関す るものであり、一方の訴因が認められて有罪となれば他方の訴因を新たに控訴の対象として問 題とする必要がないという関係にあるものであって、両訴因は犯罪を構成する事実関係の基本 的部分が社会通念上同一と認められ、公訴事実の同一性を認めることができるなどとして、被
告人側の控訴を棄却した事例。
報告者:鈴木敏彦
第7回 2011年1月22日(土)14:30〜17:00
⑴ 最決平成21年2月24日刑集63巻2号1頁
急迫不正の侵害に対する反撃として複数の暴行を加えた場合において、単独で評価すれば防 衛手段としての相当性が認められる当初の暴行のみから傷害が生じたとしても、1個の過剰防 衛としての傷害罪が成立するとされた事例。
報告者:山本輝之
⑵ 大阪地判平成21年11月13日LEX/DB25460261
ドイツと南アフリカの国籍を有する被告人が、氏名不詳者らと共謀の上、報酬を得る目的で、
南アフリカから、ドイツを経由し、日本に覚せい剤を輸入したが、税関職員によって覚せい剤 を発見されたという事案について、税関検査において、被告人が意図的に虚偽の記載や発言を したことは、被告人に何らかの輸入してはならない貨物かもしれない物を輸入しているという 認識があったことを推測させ、被告人に関税法違反の故意があったことは十分に認められると した事例。
報告者:古川原明子