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消費者利益の刑法による保護の概観

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(1)

消費者利益の刑法による保護の概観

著者 京藤 哲久

雑誌名 明治学院大学法科大学院ローレビュー = Meiji

Gakuin University Graduate Law School law review

号 16

ページ 47‑65

発行年 2012‑03‑31

その他のタイトル An Overview of Consumer Interests by Criminal Sanctions in Japan

URL http://hdl.handle.net/10723/1089

(2)

『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第16号 2012年 47−65頁

消費者利益の刑法による保護の概観

京 藤 哲 久

1 消費者法制と企業活動

1-1 消費者を保護する刑罰法規群

1-2 消費者の財産を保護するための刑罰法規 1-3 消費者の生命,身体を保護するための刑罰法規

2 企業活動の各局面と消費者保護

3 商品の開発,販売の局面における消費者保護の観点からの刑事的規制 3-1 開発の規制

3-2 販売の相手の規制 3-3 販売の方法の規制

3-3-1 生命,身体の安全を脅かすおそれのある商品の販売(危害型)

3-3-1-1 消費生活用製品 3-3-1-2 食品

3-3-2 財産被害を招くおそれのある商品の販売(取引型)

3-3-2-1 誇大広告の規制

3-3-2-2 販売方法の規制(特定商取引法)

4 決済の局面における消費者保護の観点からの刑事的規制 4-1 個人情報の刑法による保護

4-2 信用情報の刑法による保護(刑法,割賦販売法)

5 債権回収の局面における消費者保護の観点からの刑事的規制 5-1 総論

5-2 貸金業法における債権回収,債権譲渡の規制 5-2-1 取立て規制

5-2-2 一定の者(取立て制限者)に対する債権譲渡,取立て委託の規制 5-3 サービサー法における債権回収,債権譲渡の規制

5-3-1 取立て規制

5-3-2 一定の者に対する業務委託,債権譲渡の規制 5-4 両法の相違点と消費者保護

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1 消費者法制と企業活動

消費者を取り巻く環境は,事前規制型から事後 規制型の法制度への転換に伴い,大きく変容した。

消費者は,今日,市場で,活力のある企業と接す る機会が増えたが,同時に,悪徳商法を展開する 企業や集団と接する機会も増えた。そのため,悪 徳商法から消費者をまもるため,消費者の自律と 並んで消費者保護の必要性が説かれ,消費者の自 律を促す消費者法制の充実,ADRの導入,消費 者庁の設置といった一連の法改革,制度改革が進 み,現在も進行中である。

消費者法の基本法である「消費者基本法」2条 1項では,「消費者の安全が確保され」ること,

そして「商品及び役務について消費者の自主的か つ合理的な選択の機会が確保され」ること,「消 費者に対し必要な情報及び教育の機会が提供さ れ」ること,「消費者の意見が消費者政策に反映 され」ること,そして「消費者に被害が生じた場 合には適切かつ迅速に救済されること」が,「消 費者の権利」であることが謳われている。これを 前提として,同法11条以下で,基本的施策の諸観 点(安全の確保,勧誘の適正化,公正な契約条項 の確保等の消費者契約の適正化,計量の適正化,

規格の適正化,広告その他の表示の適正化,公正 自由な競争の促進,環境の保全への配慮等)が規 定化されている。

消費者法制は消費者保護法から消費者法へと発 展し,基本法は整備されたが,これを実現する,

いわゆる各論部分はまだ十分とはいいがたい状況 である。すなわち,基本法に適合した,消費者被 害から消費者を保護するための法制度の整備の現 状に目を向けるなら,事後規制を実効あらしめる ための横断的,統一的な消費者保護法の実現は未 だ実現しておらず,これらの諸観点を実現するた めの罰則も個々の消費者法に散在している。その ため,消費者利益を保護する刑罰法規の全体は,

決して見通しの良いものとはいえないというのが 現状である。

以下では,消費者利益の刑法的保護の現状につ

いて簡単に概観してみたい(1)。一年ほど前に用意 して,そのままにしておいたもので,足の速い経 済刑法分野の法改正に追いつけていない点がある かもしれない。また機会を見つけて補充したい。

1-1 消費者を保護する刑罰法規群

消費者の権利をまもるため,「消費者基本法」

2条1項は,消費者施策の一環として,「商品及 び役務について消費者の自主的かつ合理的な選択 の機会」の確保,「消費者の安全」の確保に触れ ている。これを受けるかたちで,個々の消費者法 は,消費者の選択の機会,消費者の安全が損なわ れないよう,罰則による担保のもと,消費者の生 命,身体,財産の保護をはかっている。こうした 規制では消費者被害を防止できず,消費者の生命,

身体,財産が侵害されるにいたるなら,事案によ っては,刑法典の業務上過失致死傷罪や詐欺罪が 問題となる。このように,消費者法の刑罰法規は,

刑法典中の犯罪を未然に防止するものとしても機 能し,刑法典中の犯罪を補完するものともなって いる。

さらに,消費者の個人情報,信用情報の流出,

悪用により消費者が財産的損害を被ることがある から,消費者の個人情報,信用情報の保護も重要 な問題となっている。消費者は,取引に際して,

個人情報を企業側に提供することが求められるこ とがある。情報を受け取った企業の側が,個人情 報の管理にルーズであるなら,消費者の個人情報 が他に流れてしまうおそれがある(会社の従業員 が大量の個人情報をコピーして持ち出す例は跡を 絶たない)。守秘義務等の契約によるコントロー ルには限界があり,また,個人情報の流出は外国 に流出するなど国際的な拡がりをもつことから

(他国で流出した個人情報は,当該自国民の保護 にはかかわらないため,当該国の捜査機関が捜査 する動機付けは必ずしも強いとはいえない),こ うした問題の解決は,法制度にとって,解決の難 しい問題である。消費者の健康情報,カード情報 等の個人情報,信用情報を保護する刑罰法規は,

消費者保護の観点からも重要となっている。

さらに,消費者法の設置とともに制定された

(4)

「消費者安全法」(平成21年)は,「消費者の消費 生活における被害を防止し,その安全を確保する ため」に,「関係法律による措置と相まって,消 費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むこと ができる社会の実現に寄与することを目的」(同 法1条)とする補充的な法律である。同法は,

「商品等が消費安全性を欠くことにより重大事故 等が発生し,かつ,当該重大事故等による被害が 拡大し,又は当該重大事故等とその原因を同じく する重大事故等が発生する急迫した危険がある場 合(重大消費者被害の発生又は拡大の防止を図る ために実施し得る他の法律の規定に基づく措置が ある場合を除く。)において,重大消費者被害の 発生又は拡大を防止するため特に必要がある」

(同法17条)という緊急の場合に,譲渡等の禁止 又は制限,回収等の法的な措置を可能としており,

その違反に罰則を科すことで,消費者被害の防止 をはかっている(2)

1-2 消費者の財産を保護するための刑罰法規 消費者の財産を保護する刑罰法規の中心は,悪 徳商法に対する規制である。

消費者との取引において,契約法の世界では,

消費者の保護が重視されるから,消費者に比し情 報力のある企業が,消費者に配慮することが求め られている(買主注意から売主注意へ)。すなわ ち,企業は,消費者と取引するとき,消費者に企 業と同じように十分な注意を払って取引すること を要求できなくなっており,さらに進んで,企業 は,消費者の意思決定が自由かつ適切になされる ことに配慮することも求められており(「消費者 の自主的かつ合理的な選択の機会が確保され」

(消費者基本法2条1項)),この点に配慮しなか ったことが問題視されている(説明責任の重視,

適合性の原則の法制度化)。しかし,こうした配 慮は,あくまでも民事法的ルールの枠内で解決さ れるものと考えられており,このような場面で刑 法による介入が行われているわけではない。

悪徳商法を規制するための刑罰法規について は,規制の網が包括的になる傾向がある(その結

果,脱法行為の禁止やバスケット条項のような規 定が罰則規定として利用されることがあり,法治 主義,罪刑法定主義の原則との間で緊張関係を生 じさせている)。そのため,コンプライアンスを 重視してきた企業にとっても,思いがけないとこ ろで消費者保護刑法に抵触するという事態が生じ うる。

1-3 消費者の生命,身体を保護するための 刑罰法規

消費者の生命,身体を保護するための刑罰法規 は,主として,商品の安全性に関して問題となる。

このような刑罰法規は,消費者が手にする商品の 開発,製造,販売の各局面において問題となる。

健康被害が発生する前の段階では,これらの刑 罰法規は,商品の安全性を担保するための行政的 規制を担保するための行政刑法としての特徴をも つが,現実に消費者被害が発生するにいたると,

刑法典の業務上過失致死傷罪が問題となる。

商品の欠陥に起因して消費者被害が生じた場 合,欠陥商品を製造した企業,これを外国から輸 入した輸入業者について,直接には取引関係のな い最終の消費者に対する製造物責任が問題とな る。通常は民事責任が問題となるだけだが,その 被害が深刻で,欠陥商品がひろく出回ってしまっ ている場合には,更なる事故を未然に防止するた め,その速やかな回収が必要になることがある。

これを怠って消費者被害を拡大させた場合には,

その企業の意思決定を左右する立場にある企業幹 部に対して,業務上過失致死傷罪の成立が認めら れることがある。

製品を送り出した企業の幹部は,注意を払った としても欠陥の存在を知り得ない場合,刑法上の 過失責任は認められない。しかし,欠陥に起因す ると考えられる被害が多発していることを認識し た以降については,製品の回収可能性が認められ る限り,回収措置を取ることで,その後の消費者 被害を未然に防止しうることから,これを怠った 点に刑法上の過失が認められて,業務上過失致死 傷罪の成立が認められた例がある(3)

(5)

著名な事案としては,加熱製剤の販売後もエイ ズウィルスに汚染された可能性のある非加熱製剤 の販売を続けた企業の幹部(大阪高判平成14年8 月21日),タイヤのハブの欠陥を知りながら放置 した企業の幹部(横浜地判平成19年12月13日,東 京高判平成21年2月2日),湯沸かし器の改造を 放置した企業の幹部(東京地判平成22年5月11日)

に対する刑事責任が肯定されている(4)

平成21年2月2日東京高裁判決は,安全性を優 先してリコールの必要性を考えることが道路運送 車両法63条の3のリコール制度の本来の趣旨に合 致することから,前に生じたタイヤのハブの輪切 り破損事故事案の処理の時点でハブの強度不足を 疑うに足りる客観的状況があったため,品質・技 術本部市場品質部長,同部グループ長の地位にあ った幹部(品質保証部門はリコール等の改善措置 を採る上で中心的な役割を果たすべき組織)に対 して,リコールしなかった点に過失を認め,輪切 り破損事故により被害者を死傷させたとして,業 務上過失致死罪の成立が認められている(被告人 両名に「リコール等の改善措置の実施のために必 要な措置を採り,…輪切り破損事故が更に発生す ることを防止すべき業務上の注意義務」を認め,

この「義務違反に基づく危険が現実化したもの」

として「両者の間に因果関係を認め」ることがで きるとして,両名の有罪が確定している(最判平 成24年2月8日)。)。また,平成22年5月11日の東 京地裁判決も,ガス器具会社が販売した湯沸かし 器が不正改造され死傷事故が発生していた状況を 把握し得る状況があったことから,代表取締役,

取締役品質管理部長の地位にあった幹部に対し て,事故防止対策を講じなかった点に過失が認め,

一酸化炭素中毒により被害者を死傷させたとし て,業務上過失致死傷罪の成立が認められている。

被告人の注意義務違反の背後には当該企業の安 全軽視の体制,体質があり,被告人だけに責任を 転嫁できないこともあるだろうが,この点は,情 状としては考慮されるとしても,過失の有無を左 右するわけではない。

2 企業活動の各局面と消費者保護

以下では,企業活動の主要な局面である,商品 の開発・販売の局面,決済の局面,決済が滞った 場合の債権回収の局面に分けて,消費者法による 規制との関係と関連させながら,消費者の生命,

身体,財産を保護する刑罰法規について概観する。

商品の開発・販売の局面では消費者の生命,身 体,財産の保護が,決済の局面では消費者の財産,

情報の保護が,債権回収の局面では消費者の財産,

自由の保護が問題になるだろう。

3 商品の開発,販売の局面における消 費者保護の観点からの刑事的規制

日常の経済取引は私的自治,契約自由の原則の もとに行われている。しかし,これは原則であっ て,現実には,経済取引には様々な法的規制が存 在し,企業は,どんな商品でも販売できるわけで はない。また,消費者は,どんな商品でも購入で きるというわけではない。

3-1 開発の規制

企業による商品開発にも法的規制がある。リス クが大きいため,販売規制によっても消費者被害 を防ぎ得ないような商品は,開発自体を規制する ことによってしか防ぎ得ないだろう。企業の有す る情報量,情報処理能力と対比すると,消費者の もつ情報量,情報処理能力は限られているため,

消費者が情報弱者であることは,大量消費社会で は避けられない宿命である。そこで,消費者が自 分でリスクをコントロールできないものを商品化 すること自体が規制されている場合がある。

消費者は商品の取り扱い方法を間違えることが あることを前提として,たとえ取り扱い方法を間 違えた場合でも消費者被害が発生しないよう,深 刻にならないように配慮すべき性質の商品があ る。判断力が備わっておらず自分で身を護ること のできない幼児が使用する商品,被害を受けた場 合のダメージが著しく大きくなる性質のある金融

(6)

商品などは,その適例であろう。

幼児が手にする玩具や食品に対する規制が厳し いのは,幼児の情報処理能力に限界があり,幼児 が手にする商品については,用法違反があった場 合でも事故がおこらない程度の安全性が要求され ている。大人の消費者についても,例えば,食品 の添加物に何が含まれているかは,表示がなけれ ば,大人であっても知るすべがないし,添加物の 化学的性質について十分な知識を備えている消費 者は多くはないだろう。また,複雑な金融商品に ついては,消費者(アマの投資家)の情報処理能 力の限界が問題となるし,損失が発生した場合の ダメージが大きい。

そこで,このような要請を満たすため,法は,

商品について安全規格,安全基準を定めてこれを 遵守することを企業に要求するとともに,規格外,

基準外の商品の製造,販売,輸入を禁止するとい う仕組みを採用している。

例えば,乳幼児用玩具については,「食品衛生 法」11条に食品や添加物についてこうした規制が あることを利用して,同法62条で,この食品,添 加物についての規制の仕組みを「乳幼児が接触す ることによりその健康を損なうおそれがあるもの として厚生労働大臣の指定するおもちや」にも準 用することで,規格,基準に違反するおもちゃの 製造,販売,輸入等を禁じている(同法72条)

こうした強い法規制は,開発力のある企業の商 品開発にとって制約になることもあるから,より 確実に安全性を確保しながら,自由な商品開発を 可能にすることができる仕組みが可能なら,それ は,消費者にとっても企業にとっても望ましいこ とである。

そこで,食品衛生法では,同法11条により,製 造又は加工の方法の基準が定められた食品のうち 政令で定めるものについては,業者が,「総合衛 生管理製造過程」を経て製造,加工することを申 請して承認を得た場合,この厳しい基準に拘束さ れることなく,製造,加工することを認めている

(同法13条)。HACCP(Hazard  Analysis  and Critical  Control  Point ハサップ)方式といわれ るものを参考にしたもので,1990年代に導入され

た制度で,商品の安全性を確保するとともに,商 品開発の自由度を高めることを可能にするものだ ろう。このように,食品衛生法には,商品開発自 体については,安全性との両立を追求しながら,

できるだけ規制を加えないという仕組みが導入さ れている。この承認が取り消された場合,原則的 な,より厳しい11条の基準が適用されるだけであ る。「総合衛生管理製造過程」において企業が自 主的に設定した基準に違反しないよう担保する罰 則規定はない(承認を得た個々の企業の定める基 準は様々で企業毎に異なるから,罰則による担保 にはなじまないためだろう)

このような食品衛生法の制度は巧妙な仕組みと いってよいだろう。基準,規格違反の罰則規定の 実効性は,(直接罰,間接罰のいずれであっても)

摘発する側のマンパワーに左右されるから,とく にこうした規制の遵守が強く意識されず違反が常 態化しているほど,その実効性には限界がある。

これに較べると,商品の開発から販売にいたるあ らゆる段階を企業に自ら管理,確認させる体制を 取らせる方法のほうが,結果的には,商品の安全 性の確保に資するし,行政機関の負担の軽減にも なる。もっとも,雪印乳業事件にみられるように,

この方式で承認を得て製造された食品により大規 模な中毒事件が起きているから,こうした仕組み を,消費者保護の観点から過大視すべきではない

(この影響で,承認に有効期間(「3年を下らない 政令で定める期間」)が定められた(同法14条)

食品衛生法のように,立ち戻るべき制度として 規格,基準違反に際しての罰則規定がある場合に は,これが背景に存在することで,商品の安全性 が制度としては担保されている。こうした刑罰に よる担保がおよそ存在せず,自主規制にのみ委ね る場合には,企業のコストの削減にはなるとして も,消費者被害の未然の防止には限界があるだろ う。どちらをどの程度重視するかは立法政策の重 要な問題だろう。

「金融商品取引法」では,投資家の保護に必要 な対象は広く取り込めるような仕組みを用意しつ つ(有価証券,みなし有価証券(同法2条1、2 項),金融工学,金融技術の発展を生かした金融

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商品の開発は望ましい面もあるので,金融商品自 体の開発を規制する基準や規格は設けておらず,

リスクの高すぎる金融商品の開発をおよそ許さな いという立場はとられていない(5)

業法の一般的な仕組みは,無登録,無許可の営 業を禁止し,その違反を罰則で担保し,登録,許 可を得た事業者以外の者が事業を行いえないこと を確保したうえで,登録,許可事業者に対して行 為規制を課し,その違反を罰則(直接罰,間接罰)

で担保することで,消費者被害を防止するもので,

金融商品取引法では,このような仕組みを使って,

消費者(一般投資家)の被害を防止しうると考え られている。しかし,行為規制に違反する行為と これを摘発する行為とはいたちごっこの関係にあ るから,行為規制に対する違反がどこまで抑止で きるかは摘発に割けるマンパワーに左右されるだ ろう。

3-2 販売の相手の規制

また,商品開発は許されるが,大きなリスクを 伴う商品については,消費者保護の観点から,一 定の相手には販売してはいけないという特殊な商 品がある。

今日でも,企業は様々の商品を開発し消費者に 販売するが,消費者が商品の内容を理解し,納得 して購入するのが契約法の基本的なルールであっ て,伝統的な買主注意の原則が妥当する,商品開 発も自由で,誰に対しても自由に販売できる性質 の商品は多い。しかし,消費者が商品の内容を理 解できない場合に,消費者保護,情報弱者保護の 観点から,販売を制限される場合がある。買主注 意の原則が妥当せず売主注意の原則が妥当する商 品の適例が金融商品である。

金融商品にはリスクの小さな商品からリスクの 大きな商品まで,様々な商品がある。一般には,

ハイリターンの商品にはハイリスクが伴ってい る。

そこで,リスクのある金融商品の販売に際して は,購入しようとする者にその内容を説明するこ とが義務づけられている。リスクのある金融商品 については,利用者の知識・経験・財力・投資目

的等に適合した形で販売・勧誘を行うことが求め られている。そして,その延長線上に,説明を受 けても理解できない者には,いかに説明を尽くし ても販売してはいけないという場合が考えられ る。この「適合性の原則」といわれる考え方は,

現在では,広く受け入れられており,法文化され ている。

たとえば,「金融商品取引法」40条1号は,金 融商品取引業者に対する行為規制として,金融商 品取引業者等に,「金融商品取引行為について,

顧客の知識,経験,財産の状況及び金融商品取引 契約を締結する目的に照らして不適当と認められ る勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっ ており,又は欠けることとなるおそれがあること」

のないように,業務を行うことが求めている。ま た,「金融商品の販売等に関する法律」3条2項 も,金融商品販売業者等の説明義務について,

「顧客の知識,経験,財産の状況及び当該金融商 品の販売に係る契約を締結する目的に照らして,

当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度 によるものでなければならない」とし,また,同 法9条2項1号でも,金融商品販売業者等の金融 商品の勧誘方針の策定に際して,「勧誘の対象と なる者の知識,経験,財産の状況及び当該金融商 品の販売に係る契約を締結する目的に照らし配慮 すべき事項」を含めることを要求している。

同様の規定は,「消費者基本法」5条3号,「商 品取引所法」215条,「貸金業法」16条3号,「信 託業法」24条2号,「特定商取引法」7条3号

(訪問販売),22条3号(電話勧誘販売),38条4 号(連鎖販売取引),46条4号(特定継続的役務 取引提供),56条4号(業務提供誘引販売取引)

に基づく経済産業省令等にもある。

最高裁判所も,従来の下級審の判例の集積を踏 まえて,日経平均株価オプション取引について,

「証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反し て,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧 誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証 券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該 行為は不法行為法上も違法となる」として,「適 合性の原則から著しく逸脱した」場合には不法行

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為になるとしたうえで,当該事案については,

「一般的抽象的には高いリスクを伴うものである が,そのことのみから,当然に一般投資家の適合 性を否定すべきものであるとはいえない」として,

当該事案の経験を積んだ投資家である被上告人に ついては「およそオプションの売り取引を自己責 任で行う適性を欠き,取引市場から排除されるべ き者であったとはいえない」として不法行為責任 を否定したものである(最判平成17年7月14日。

なお,経験を積んだ投資家についても,証券会社 に対して指導助言義務を認める才口裁判官の補足 意見が付いている)

適合性の原則に違反する取引について犯罪が成 立するということはないだろうか。

適合性の原則が認められる場合であっても,こ れに違反する取引をしたことで犯罪が成立すると は考えられてはいないのであって,業法も,その 違反を犯罪化しているわけではなく,適合性の原 則違反の事案では,民事法的,行政法的規制が及 ぶにとどまっている。

しかし,当該行為が不法行為になるか,詐欺罪 になるかは,民事法,刑事法の観点から,それぞ れその成立要件に照らして判断されるものである から,およそ,犯罪が成立しないというわけでは ない。

民事法上も,適合性の原則に著しく逸脱した場 合に不法行為になるとされているように,適合性 の原則違反,即,不法行為とされているわけでは ない。同様に,刑事法上も,適合性の原則違反,

即,詐欺罪となるわけではなく,当該行為に詐欺 罪の構成要件該当性,違法性,責任が認められて はじめて詐欺罪の成立が認められるだけであっ て,この点は,不法行為の成立であっても,詐欺 罪の成立であっても同じことであろう。

詐欺罪が成立しうるのは,適合性の原則に違反 する取引は,ほとんど理解していない相手に商品 を売りつけて代金を受け取るのであるから,その 態様が,相手方が自分の判断で取引したといえる 段階を超え,売り手が相手方の意思を完全に支配 して代金を交付させたといえる段階にまで到った 場合で,この場合には詐欺罪が成立しうるだろう。

「客殺し商法」のような,取引のかたちを借り て,顧客の財産を取り上げる違法性の強い取引に ついては詐欺罪,組織的詐欺罪(組織犯罪対策法)

の成立が認められるが,そこまで到らないとして も,顧客の判断を完全に支配して顧客を自分のい いなりにする取引は,詐欺罪の射程にはいってく るのであって,適合性の原則に違反する取引は,

通常は業法上違法であるというにとどまるが,詐 欺罪,組織的詐欺罪が成立する事案と境を接して いることには留意しておく必要がある。

3-3 販売の方法の規制

次に,表示,広告に対する規制とこれを担保す る罰則について見ておこう。

商品やサービスを購入する,株主となる等,当 該企業とかかわりを持つ者は,その前に,当該企 業による商品,サービス内容の広告による情報開 示,企業内容の情報開示に接している。

企業活動における表示,広告に対する規制には,

様々の法が関係し,従って,様々な考慮が働いて いる。開示内容の正確性,適切性を担保する表示,

広告規制は,消費者法の重要な一分野となってい る。それだけでなく,誤認を招く表示は,同一機 能の商品を販売する同業者の利益を侵害すること から,不正競争防止法上の規制の対象ともなって いる(6)

消費者基本法2条1項では,「消費者の安全が 確保され」ること,そして「商品及び役務につい て消費者の自主的かつ合理的な選択の機会が確保 され」ることを,「消費者の権利」としている。

そこで,表示,広告についても,前者にかかわる 安全危害型と後者にかかわる取引型に分けて検討 することが適切であろう。両者では,規制に違反 した場合の取扱が異なっているし,また,行政機 関も,安全危害型(商品テスト関連,危害関連)

と取引型(取引関連)は分けて取り扱っているの が一般であり,規制のあり方や基準も異なってい るからである。

3-3-1 生命,身体の安全を脅かすおそれの ある商品の販売(危害型)

商品の効用が消費者の生命や身体の安全に対し

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て危害をもたらすおそれという視点から,表示,

広告内容の規制が重視される。

商品の成分に生命,身体の安全に危険がある場 合には,業法による規制がなされ,場合によって は事業者名の公表も伴う(消費者に対する注意喚 起という意味での情報提供という枠組での公表も あれば,条例等に基く処分として,事業者に対す る制裁的要素が伴う公表もある)

さらに,消費者の生命,身体に実際に危害が発 生した場合には,刑法典上の業務上過失致死傷罪 が問題となる。当該商品の製造過程において過失 が認められないという場合であっても,当該事故 の発生を知りながら購入者への通知,製品の回収 などの措置を取ることなく,そのまま放置した場 合には,その段階で業務上過失致死傷罪が問題と なることもあることは,すでに言及した(→1-3)

もちろん,業法違反に罰則が科されている場合 であっても,当該業法違反の事実が業務上過失致 死傷罪の過失の有無に直結するわけではない。業 務上過失致死罪の過失が認められるためには,当 該欠陥,当該欠陥の放置が致死傷の結果を引き起 こすことについて,自然人である当人にとって,

予見が可能であった場合でなければならない。

3-3-1-1 消費生活用製品

「消費生活用製品安全法」は「消費生活用製品 による一般消費者の生命又は身体に対する危害の 防止を図る」ことを目的としている。

同法は,一般消費者の生活の用に供される「消 費生活用製品」のうちで,「構造,材質,使用状 況等からみて一般消費者の生命又は身体に対して 特に危害を及ぼすおそれが多いと認められる製品 で政令で定めるもの」を「特定製品」「その製造 又は輸入の事業を行う者のうちに,一般消費者の 生命又は身体に対する危害の発生を防止するため 必要な品質の確保が十分でない者がいると認めら れる特定製品で政令で定めるもの」を「特別特定 製品」として(同法2条),特定製品の規制を中 心に規制を加えている。

表示に関する規制について見ると,特定製品に ついて,同法は,「一般消費者の生命又は身体に 対する危害の発生を防止するため必要な技術上の

基準」を定め(同法3条),届出事業者はこの技 術上の基準に適合していることを表示できること とし(同法13条),届出事業者のみがこれを表示 しうることとされている。この表示は,消費者が すぐに理解できるように,PSCという文字のはい ったマークで表示される(特定製品は丸で囲み,

危険性の高い特別特定製品は菱形で囲んである) その結果,届出事業者以外の者は「何人」であ っても,同様の内容の表示またはこれと紛らわし い表示をすることができないことになっている

(同法5条)。また,製品の製造,輸入又は販売の 事業を行う者に対しては,表示のない製品の販売,

販売の目的の陳列を,原則として,禁じている

(同法4条)

そして,同法4,5条に違反した者に1年以下 の懲役又は100万円以下の罰金(併科可)を科し ている(同法58条1号)。また,同法60条は両罰 規定で,法人には,各本条の罰金刑が科されてい る(同条2号)

また,「一般消費者の生命又は身体に対する危 害の発生を防止するため特に必要があると認める とき」など特別の場合,主務大臣は,一定期間,

同法13条所定の表示の禁止を命じることができる こととし(同法15条),その命令違反に対して,

同様の刑罰を科している(同法58条2号)。また,

同法60条(7)には,両罰規定があり,この場合に は,法人に対しては,1億円以下の罰金が科され ている(同条1号)

消費生活用製品安全法では,特定製品の表示の 規制の義務づけの対象に注意する必要がある。す なわち,同法では,表示が販売の不可欠の要件と なっているだけであり,製造事業者,輸入事業者 に対して表示を義務づけているわけではない。同 法は,これら以外の者に対して,同様の表示,こ れと紛らわしい表示を禁じているだけである。

販売事業者については,表示のない商品を販売 することが原則として禁じられている結果とし て,また,製造事業者,輸入事業者は,表示を義 務づけられていないものの,表示しないと販売し てもらえないから,事実上,表示を強制されると いう仕組みになっている。

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このような仕組みのもとで,表示のない特定製 品の販売が禁止されるとともに,製造事業者,輸 入事業者以外の者による勝手な表示,紛らわしい 表示も禁止される結果となっている。

同法に違反して,表示のない商品を販売し,そ の商品により消費者の生命,身体に被害が生じた 場合,販売事業者(のもとで就業する自然人)に ついて業務上過失致死傷罪の成否が問題となりう る。業務上過失致死傷罪については,刑法典上の 犯罪主体は伝統的に自然人に限られており,法人 は同罪の対象には含まれていないし,また,自然 人が特定できる場合でも,販売に際して,その商 品の危険性を認識しえ,購入した消費者が傷害を 負うことが予見できた場合であってはじめて,業 務上過失致死傷罪が成立する。

製造事業者等の届出事業者についても,表示の 有無は,業務上過失致死罪の成否には関係なく,

販売事業者の場合とまったく同様に,その商品の 危険性を認識しえた場合で,購入した消費者が傷 害を負うことが予見できた場合であってはじめ て,業務上過失致死傷罪の成立が問題になりうる。

販売に直接かかわらない製造事業者,輸入業事業 者のもとで就業する自然人にとって,特定の消費 者の特定の傷害を具体的に認識することは不可能 だが,過失犯の成立に必要な結果の予見可能性に ついては,商品を購入した消費者が商品の使用に より傷害を負うことの認識が可能であるなら,そ の具体的結果を予見しえたと考えてよいだろう。

消費生活用製品安全法以外でも,同法と同様の 規制体系をもつものとして,他に「電気用品安全 法」「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正 化に関する法律」「ガス事業法」などがある。

3-3-1-2 食品

BSE問題を契機として,食品の安全性に対する 不安が消費者の間に高まった。そこで,食品の安 全性の確保を目的として,2003年に,「食品安全 基本法」が制定され(罰則規定はない),あわせ て,「食品衛生法」も大改正された。

これは食品行政の大きな転換であった。改正前 の食品衛生法は「衛生上の危害の発生を防止し,

公衆衛生の向上及び増進に寄与する」ことを目的

としており,不衛生で健康被害を招く食品の規制 を念頭においていたものであったが,改正後は,

日本の経済成長に伴い,食の安全をめぐる環境が 大きく変化したことを踏まえて,「国民の健康の 保護を図ること」を目的に掲げている(同法1条)

食品安全基本法は,食品の安全性の確保に関す る基本法として,国民の健康の保護を最重要課題 としており(同法3条),国民の健康への悪影響 の未然防止を主眼として(同法5条),国,地方 公共団体の責務,食品関連事業者の責務を定めて いる。

同法は,「食品安全委員会」を設置し,そのう えで,同委員会がリスク評価をし,これに基づき,

各省庁がリスク管理を行う(基準の設定,規制)

という仕組みを採用している(食品には絶対の安 全はないことを認めたうえで,リスクの存在を前 提に科学的手法にもとづき制御するという考え方 が採用されている)

食品の広告・表示に対する規制は,生命身体の 安全に対する危険という観点からも重要な問題で ある。そこで,同法18条は,「食品の安全性の確 保に関する施策の策定に当たっては,食品の表示 が食品の安全性の確保に関し重要な役割を果たし ていることにかんがみ,食品の表示の制度の適切 な運用の確保その他食品に関する情報を正確に伝 達するために必要な措置が講じられなければなら ない」と規定し,そして,同法10条は,政府に必 要な法制上の措置等を義務づけている。

この食品安全基本法の趣旨が貫徹されるよう,

例えば,同法24条においては,食品衛生法により

「人の健康を損なうおそれがない場合を定めよう とするとき」「基準若しくは規格を定めようとす るとき」「量を定めようとするとき」などの場合 には,大臣に対して,食品安全委員会の意見を聴 取することを義務づけている。

では,食品安全基本法を受けて,食品衛生法は,

消費者の生命,身体の安全を保護するため,現在,

どのような規制を行っているか。

盧食品衛生法は,腐敗したもの,有毒なもの,

病原微生物に汚染されたもの,不潔または異物が 混入するなどして,人の健康を損なうおそれがあ

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る食品や添加物の販売,販売の用に供する目的で の採取,製造,輸入,加工,使用,調理,貯蔵,

陳列(以下,「販売等」という)を禁じ(6条),

疾病にかかったり,異常またはへい死等した獣畜,

家きんの肉等の販売等を禁止し(9条1項),人 の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働 大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定め る場合を除いては,添加物,これを含む食品等の 販売等を禁止し(10条),これらに違反した場合 には,同法71条で,3年以下の懲役又は300万円 以下の罰金(併科可)を科している。このような 規制は当然の規制であろう。

しかし,同法はさらに踏み込んだ規制をしてい る。すなわち,「一般に飲食に供されることがな かつた物であつて人の健康を損なうおそれがない 旨の確証」がない場合,「一般に食品として飲食 に供されている物であつて当該物の通常の方法と 著しく異なる方法により飲食に供されているもの について,人の健康を損なうおそれがない旨の確 証」がない場合,「食品によるものと疑われる人 の健康に係る重大な被害が生じた場合において,

当該被害の態様からみて当該食品に当該被害を生 ずるおそれのある一般に飲食に供されることがな かつた物が含まれていることが疑われる場合」,

「食品衛生上の危害の発生を防止するため必要が あると認めるときは,薬事・食品衛生審議会の意 見を聴いて,その物を食品として販売することを 禁止することができる」とし(同法7条。旧法の 4条の2にあった規制を強化したもの。,これに 違反して販売する行為を,同法71条1項2号で重 く処罰している。

審議会の意見を聞くことを前提としてはいる が,このような徹底した規制がなされるようにな ったのは,上述のように,食品行政が「国民の健 康への悪影響の未然防止」を目的とするようにな ったことの帰結であるだろう。健康被害をもたら す原因物質が不明の段階でも,罰則の裏付けのあ る規制が可能となっているが,この場合には,間 接罰の方式が採用されている。

従来,個別の事案について,薬効が表示されて いたり,医薬品成分を含むことなどを手がかりに,

「薬事法」による規制を及ぼすことは可能であっ たが,現在では,医薬品成分を含まない場合や食 品の成分分析が難しい場合,上記の食品衛生法の 規定による規制があらたに可能となった。また,

成分は明らかだがその過剰摂取により健康被害が 生じうるおそれのある場合でも,規制が可能にな っている。

盪基準,規格違反 また,同法11条は,公衆衛 生の見地から,規格,基準が定められている場合 に,その規格,基準に合わない食品,添加物につ いて,製造,輸入,加工,使用,調理,保存,販 売することを禁じている。また,同法16条は,有 毒,有害な物質により人の健康を損なうおそれが ある器具,容器包装(食品,添加物に接触して人 の健康を損なうおそれがあるものを含む)の販売,

販売の用に供するための製造,輸入,営業上の使 用を禁じている。これに違反した場合に,同法72 条で,2年以下の懲役,200万円以下の罰金(併 科可)を科している。同法78条は両罰規定である

(業務主が法人の場合,71条違反は1億円以下の 罰金,72条違反は各本条の罰金であり,業務主が 自然人の場合には,各本条の罰金である。なお,

食品衛生管理者については特則がある(同法77,

78条)

蘯表示規制違反 さらに,同法4章の「表示及 び広告」のもと,同法19条では,「公衆衛生上必 要な情報の正確な伝達の見地から」,食品,添加 物,規格,基準のある器具,容器包装について,

必要な基準が定められた場合に,その規格,基準 に合致する表示を欠いたままの,販売し,販売の 用に供するための陳列,営業上の使用を禁止して いる。また,同法20条は虚偽広告,誇大広告を禁 止している。これに違反した場合に,同法72条で,

2年以下の懲役,200万円以下の罰金(併科可)

を科している。同法78条は両罰規定である(業務 主が法人の場合,71条違反は1億円以下の罰金,

72条違反は各本条の罰金であり,業務主が自然人 の場合には,各本条の罰金である。なお,食品衛 生管理者については特則がある(同法77,78条)

このように,食品衛生法は,国民への健康被害 の未然防止を視野に,健康を損なうおそれのある

(12)

食品の販売等を重く処罰し,また,規格,基準が 定められているものについて,これに違反して製 造,販売等する場合や表示規制に違反する場合は,

健康を損なうおそれのある食品の販売等よりは軽 く罰するという罰則体系になっている。

食品表示の規制については,食品衛生法の規定 だけ見るのでは十分ではない。すなわち,上記の 盧盪については食品衛生法プロパーの規制だが,

蘯の食品表示については食品衛生法以外にも,い ろいろな法律が関係してくるので,横断的な視点 が必要になってくる。そこで,消費者庁の設置に 伴い,食品,添加物の衛生上の危害発生の防止の 観点から表示規制を行う食品衛生法だけでなく,

原材料,原産地など品質に関する適切な表示をめ ざす「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に 関する法律」(JAS法),栄養成分表示,特別用途 表示に関する表示により,国民の健康の増進をは かることをめざす「健康増進法」は,消費者庁が 一元的に所管することになり,これらの法律によ る表示基準については,消費者庁の消費者委員会 の意見を聴取して策定することになっている。

食品衛生法20条の虚偽広告,誇大広告の禁止と,

健康増進法の32条の2の虚偽広告,誇大広告の禁 止とは,その趣旨を同じくするものと考えてよい だろうが,前者は直罰規定であり,後者は,同法 32条の3を介し,間接罰規定となっており(同法 36条の2),刑罰の重さにも差があり,制度とし て十分に整合性がとれているとはいえない部分が ある。

健康を損なうおそれのある食品の販売等,また,

その表示を規制することで,消費者の生命,身体 の安全を確保し,実際に,消費者の生命,身体の 安全が侵害された場合には,業務上過失致死傷罪 が問題となりうる。

成分表示等に誤りがあるなどして,消費者が健 康を損なうおそれのある食品の摂取により健康被 害を生じた場合には,業務上過失致死傷罪とあわ せて,食品衛生法違反が問題となることが多いし,

判例にも,その例は多い。行為時にその危険に気 づき得た場合と,行為時には気づきえなかったが,

「食品によるものと疑われる人の健康に係る重大

な被害が生じた」後にも販売を続け,消費者被害 が発生した場合とでは,過失内容に違いが生じる だろうし,取締役等の企業幹部の刑事責任を問い うるかにも差が出るだろう(商品製造時の過失の 有無が問題となった事案もあるし,事故発生後の 対応の不適切さについて過失の有無が問題となっ た事案もある。

また,法人は業務上過失致死傷罪では処罰され ないから,法人については,健康を損なうおそれ のある食品の販売したものとして,食品衛生法の 両罰規定が適用されることになる(森永ヒ素ミル ク事件でも,法人に対する起訴は食品衛生法違反 であった(この部分は無罪,免訴とされた)

表示について誤りはないが,消費者が,当該表 示に指示された用法に違反して(その違反の程度 も問題になるが)消費者の生命,身体の安全が損 なわれた場合,事業者に業務上過失致死傷罪が成 立するだろうか。一応は考えられるが,一般に,

自己防衛できない消費者の場合を除き,食品は消 費者が日常的に接しており,消費者は,食品につ いての相当な知識をもっていると考えられている し,また,こうした事故は消費者の自己責任の範 囲に属すると考えられることが多いだろうから,

それにもかかわらず,事業者に刑法上過失責任が 認められるという場合は,ありえないわけではな いが,考えにくいだろう。

3-3-2 財産被害を招くおそれのある商品の販 売(取引型)

当該商品の効用が生命や身体の安全に関係しな い取引関連の場合であっても,消費者の財産を保 護する見地から,表示,広告内容の規制が重視さ れる。両者の視点が競合して表示,広告内容が規 制されている場合もあるが(薬事法66条以下の誇 大広告等の規制(罰則は85,90条)はその例であ る。,もつぱら,後者の財産保護の視点から表示,

広告内容が規制されてある場合もある。とくに高 額の商品,サービスについては,業法上,このよ うな視点からの規制が設けられている。

3-3-2-1 誇大広告の規制

誇大な表示,広告,誤認を招く表示,広告に対 しては,業法に規制があり,個々の業法で罰則が

(13)

設けられているが,罰則自体は,詐欺罪のよう財 産犯と比較すると軽い。例えば,宅地建物取引業 法32条は誇大広告等を禁止しており,その違反は 同法81条で処罰されている(6月以下の懲役又は 100万円以下の罰金(併科可)

これらの規制があることで消費者の財産が完全 に護られるというわけではないが,規制がない場 合と比較すると,規制の存在自体が予防的効果を 持つし,また,行政による介入の根拠となるので,

消費者被害の防止にかなり役立っているだろう。

消費者が,誤認した結果として財産的被害を被 った場合には,詐欺罪の成立が問題になりうる。

詐欺罪は被害者の錯誤を利用した交付型の財産犯 であるから,詐欺罪が成立するには,行為者の側 の詐欺行為があり,これにより消費者が錯誤に陥 り,その結果として金銭が交付されるという因果 関係が証明される必要がある。詐欺罪の成立に必 要な因果関係の証明が難しいことがある。そのよ うな場合でも,誇大広告等の業法上の罰則規定に は該当するだろう。

また,詐欺罪が成立するような場合には,当該 業法違反の行為は欺罔行為の一部を構成するもの として把握されるので,業法違反の罪が,別途,

問題になることは多くはないだろう。

3-3-2-2 販売方法の規制(特定商取引法)

販売方法について規制が加えられる例もある。

「特定商取引に関する法律」は,一定の取引方 法が消費者被害を招きやすいことを背景に制定さ れたものだが,同法所定の取引方法を採用する場 合,同法は,販売方法について詳細な規制を加え ている。

盧訪問販売,電話勧誘販売,連鎖販売取引,特 定継続的役務取引,業務提供誘引販売取引といっ た特定の販売方法を採用する場合,勧誘に際して,

契約の申込みの撤回,解除を妨げるため,一定の 重要事項について,不実のことを告げるたり,故 意に事実を告知しないこと,さらに,人を威迫困 惑させることといった違法性の強い行為を禁じ,

その違反を罰している(同法70条)

(1-2)また,訪問販売,連鎖販売取引,業務提 供誘引販売取引については,意図を秘して,一定

の場所での誘引等の行為をすることを禁じてお り,その違反を罰している(同法70条の3)

盪さらに,同法70条の2は業務停止命令に違反 する行為を罰している。

命令を出す前提として,例えば,「訪問販売」

については,販売業者,役務提供事業者が,同法 3条(氏名等の明示),3条の2第2項(契約を 締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘の 禁止)、4条(書面の交付),5条(書面の交付) 6条(重要事項についての不実の告知,威迫等)

の規定違反,7条各号に掲げる行為(主務大臣に よる具体的指示)をしていることが(8条1項)

「通信販売」については,販売業者,役務提供事 業者が,11条(商品等に関する重要事項の広告) 12条(誇大広告の禁止),12条の3(承諾をして いない者に対する電子メール広告の提供の禁止) 13条(承諾等の通知)の規定違反,14条各号にか かげる行為(主務大臣による具体的指示)をして いることが(15条1項)前提となっている(電話 勧誘販売,連鎖販売取引,特定継続的役務提供,

業務提供誘引販売についても,同様の規定ぶりと なっている)

このような行為が認められる場合で,「訪問販 売に係る取引の公正及び購入者若しくは役務の提 供を受ける者の利益が著しく害されるおそれがあ ると認めるとき,又は販売業者若しくは役務提供 事業者が同条の規定による指示に従わないとき」

に業務停止命令を出すことになっている。

従って,特定の取引方法を採用する場合,間接 的ではあるものの,取引の際に上述のような特定 の方法を取ることが義務づけられ,これにより,

同法の目的である「購入者等が受けることのある 損害の防止を図ることにより,購入者等の利益を 保護」(同法1条)の実現をはかっている。

上記の盧にあたるような行為は通常の商取引で も禁止されるものであるが,他方,盪にあたる行 為は,本来は私的自治に委ねられているような事 柄であって,このような行為が,間接的ながら罰 則により強制されているという点に,消費者保護 の視点が強くあらわれている。

これらの違反行為については,同法74条に両罰

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