32 金 沢大 学 十 全 医 学 会 雑 誌 第91巻 第1 号 3 2‑W‑・41 (1 982)
L o w e 症候 にお け る へ パ ラ ン硫 酸代謝 の 異 常
金沢大学 医学 部小 児科 単数 室 ( 主任: 谷口 昂 教授)
横 井 透
( 昭和5 6年1 2月2 5日受付)
Lo w e症 候は原 因 不 明の伴 性 劣 性 遺 伝性 疾 患である が, そ の症 状よ り, 結 合織の グ リコ スア ミノグ リ カン(G A G)ないし は糖蛋 白の異常が想 定さ れ ている. 本 研 究で は 3 人の Lo w e 症候 患 児の, 尿 中G A G と 皮 膚 線維芽 細 胞に よ る G A G 生合成につ いて検討し た. 尿 中G A G は壕 化セナルピ リ ジニウム法で分離し,
同年令の小児 を 対 照と し て, セ ルロ ー スア セ テー ト膜 電 気 泳動, へキ ソ サ ミン分析, 酵 素2糠マ ッピング 法で検 卸し た. 尿 中総G A G 量は 正常であった が,
ヘパラン硫 酸(H S)が対 照の 26 〜4 6 % に減 少し ていた.
ま た電 気 泳動 上 デルマタン硫 酸 部に低硫 酸 化コ ンドロイ チン硫 酸が み ら れ た が, マ ッピング で は硫 酸化に 羞 をみ な かっ た. 線維芽 細胞内G A G への8 5S 一硫 軌 1 4C qグ}t/ コサ ミンの取り込み は, 共にコンドロイ チ ン硫 酸, デルマタン硫酸は羞が ないが, H S で低 下し て おり, 線 維 芽 細胞内の G A G の電 気 泳 動 像で も H S の割合は対 照の約1/2 に低下し ていた.
Eey w o rds Lo w e's syndr o m e, G lyc o s a min oglyc a n s, H epa r a n s ulfate
,
C ho ndr oitin s ulfateis o m e r s
, F ibr obla st
Lo we 症候は 1 9 52 年Lo w e ら1)に より記 載さ れ た伴 性 劣性 ( 一 部優性) 遺 伝 性疾 患で, 臨 床 軌こ眼 症状と し て白 内障 及び緑 内障, 中枢 神経 系障 害と して知能障 害, 筋の低 緊 張 を伴ない, 腎障害と し て初 期に は腎 尿 細 管 障 害, 後 年に なって糸 球体不 全 を伴な う ところ か ら, 眼・ 脳・ 腎症 候と もいわ れ ている. 女 性 保 因 者は 軽度の白 内障を持つこ と もある. そ の病 因は不 明であ る が, 独特の眼 病 変, 筋の低 緊 張, 及び骨 成 熟の遅 延 は, グリコ スア ミ ノグリ カン(G lyc o s a min oglyc a n,
以下G A G と略)や糖 蛋 白な ど の結 合織物質の代 謝 異 常 を考え さ せ る.Lo w e 症 候に関す る尿 中G A G 分 析の報 告2ト 引は数 編 ある が種々 の矛 盾し た結 果が出て お り,線 鮮 芽細 胞の G A G につ いて の報 告引は わずかに1編 ある
の み である.
今回 3 人 の Lo w e 症 候 患 児と年 令の 一致した 正常 対 照児の尿 中G A G を塩 化セチル ピ リ ジニ ウム(Cet ylp‑ yri diniu m chlo ri de, 以 下C P C と略) 沈殿 法で分 離し,
比 較 検 討し た結 果, Lo w e 症 候の尿 中へ パラン硫 酸 (Hepa r a n s ulfate, 以 下H S と略) 排 泄が, 正常対 照
の 2 6〜2 4% と低 下し て お り,ま た Lo w e 症候2例の皮 膚由来 線 緑 芽 細 胞に つ いて,G A G 合 成能を検 討し た結 果, 正常 細 胞に比べH S 合 成 能が約1/2 に低 下し てい ること を見 出し た.
対 象お よ び方 法
Lo w e症 候 患 児: 症 例1 : 3歳 男 児. 症例2: 症例1 の従 兄で 1 4歳 男 児. 症 例3 : 症 例1,2 と は血縁関係の ない1 4歳 男 児. 3 名 共 典型 的な Lo w e症 候で, 先天性 白 内 障及び緑 内障, 知 能 発 達遅 延, 筋の低 緊張があり,
幼 少 時に腎 尿細 管 性アシドシー スもみら れ ていた が,
症 例2,3 で は現 在 代 謝 性アシドシー スも なく,血中ク レア チニ ンや B U N の上昇も認め ていない. こ の3名の Lo w e 症 候 患児よ り採 尿し た. ま た症 例2 と症 例3 は皮 膚 生検を行ない, 線 維 芽 細 胞 培 養を行なった.
正常 対 照: 対照尿は,3歳 及び 8 歳か ら 1 6 歳の健康 小 児と, 溶 連 菌 感 染後 糸球 体 腎 炎 患 児, ア ナフ ィラ ク トイ ド紫 班 病 性 腎 炎 患 胤 両 側の水 腎 症によ り尿毒症 と な り血 液 透 析を受け ている 9 歳の患児よ り採尿した.
A be r r atio n s in th e M etabolis m of H epa r a n Sulfate in L o w e,s S yndr o m e. Tohr u Yo・ koi, D epa rtm e nt of Ped iatric s,(D ir e cto r : Pr of. N . T a nigu chi), S ch o ol of M edicin e, Ka・
n a z a w a Univ e r sit y,
対照皮膚 由来線 推 芽細 胞は, 代 謝 惟 疾 軌 染色 体 異 常 等が ないと考え ら れ る1歳男胤 3 歳女 児, 8歳 男 児,
成人男性の4例か ら得た・ 尿中G A G の分離
蒸留水で 2 倍希 釈し た尿に0・1 % に C P C を加え,
4OC l夜 静置し て G A G M C P C 複合 体と し て遠 心 沈 殿さ せ た7).
これ を 0・1 % C P C で 2 固洗 源後3 70C で,1 0 %
エタノー ルを含む 2.O M NaC l に溶 解し遠 心 後そ の上 清に4倍 量のエタノ ー ルを加え混 和し た.
‑2 げC に数 時 間静産後 遠心し, 沈 殿を水に溶解し, 穀終 浪度1 0 % と なるよ うにト リクロル酢 酸を加え 40C 3時 間静 置し て除 蛋白後, 即)遠心上 浦を水に対し て24 時 間 透 析し, 同 逮の0,5 M NaCl を加え て 0・2 5 M と し た. こ こへ1 % C P C を含む O.25 M N aC l を白 濁が生じ な く な る ま で 加え,370Cに数 時 間 静脛し, 再び G A G ‑ C P C 複 合 体を 形成さ せ た. そ の沈殿を 0 ・1% C P C で洗 源 後, 1.5 M NaC l に溶 解し,2 ,5 倍 鰻の エタノ ー ルを加え,0¢C数 時 間静置後遠 心し, 沈殿を水に溶 解し た. 酢 酸ナト リ ウ ムで飽和し たエタノー ルを 2.5倍 駿加え ることによ り,
G A G を Na 塩と して回収し た. これ をエタノ ー ル
, 次
いでエチルエ ー テル にて洗 淋し,空気 中で乾燥さ せ た.
再び0.2 5 M NaC lヰlでのC P C によ る G A G 沈 殿以下
の操作をくり か え し,巌 終 的に尿 ヰ7 G A G を N a 塩と し て回収し, 吸 引デシナ 一 夕 ー 中で 5 酸 化リン存 在 下で 乾燥さ せ秤塗し た.
セ ルロ ー スアセテ ー ト膜 電 気 泳 動
G A G の電 気 泳動は W e s sle r町 の方法で行なった. セ バラックス膜 ( 常光 度 業) を使 用し, 0.0 5 M の酢 酸バ リ ウム申で, 2 0 V/c Il l の定 電圧下で, 3時 間 泳 動し た.
これ を 2 % 酢 酸を含む (1.1 % アル ー シ ヤ ン ブル ーで 1 0 分間染色し, 流 水で洗 潤し た. G A G の硫 酸 化 度は 0 .1 N塩酸中で の移 動度を指標と す る W e s sle r9 }の方 法で判 定した.
ヘキ ソ サミ ン の定蛍
尿中G A G を 4.O N 塩 酸 中で 1 O OOC 8 時 間 加 水 分 解 し,Ta nigu ch il O)の方法で アミ ノ酸自 動 分 析 装 置(日立 K L A ‑3‡∋) を使 用し, グルコサ ミ ンと ガラ クト サ ミン
を分離定量し た.
畢丸ヒアルロ ニ ダ ーゼによ る分解
G A G l m g につき 1 0 0 0 I U の牛 畢 丸ヒアルロ ニダー ゼ (M ile s ‑Se r a v a c Ltd・, M aide nhe ad, Engla nd) を 使用 し, 0・2 M 酢 酸‑0・1 5 M N aC l頒 衝 液p H 5.0 中 で370C 4 8 時間インキエ ペ ー ト を行なった.インキエ ペ
ート終了私最 終 濃度が 1 0 % と な る よ うにト リ クロ ル 酉憮を親和し 40C 3 時 間静 置し た. 遠 心後, 上 清を 4。C で蒸留水に対し て透 析を行なった. 分解さ れ な かった G A G は, 0・2 5 M NaC l 中でG A G ‑C P C複 合 体と し
て 回収し, 上 述の方 法で N a 塩と し た.
コ ンドロイ チ ナ ー ゼによ る消化と不 飽和2 糖のマ ッ ピング
コ ンドロイ チ ナー ゼによ る消 化は Saito1 2)ら の方 法を 用いて 3 70C 2 時 間インキエペ ー 卜 し た.
コ ンドロイ チ
ナ ー ゼ A C ‑ⅠⅠ( 生化 学工業) は, Anthr oba cto r a u r e.
S C e n C e か ら抽 出し たコンドロイ チ ナー ゼA C 型の酵 素
で, コンドロイ チ ナー ゼ A B C( 生化 学工楽)は Pr ote u s V ulga ris の増 強上帝よ り単 離精髄さ れ た も の である.
消 化 生成 物は 6 0 c m 長の東 洋 濾 紙N o.5 1 にスポット し, 下 降クロ マ ト グ ラフ ィ ー を行なった. まずト ブ タ ノー ル, エタ ノ ー ル, 水 (5 2:3 2:1 6, Ⅴ/V) にて 2 4 時 間脱 櫨を行なった後,1 ‑ブ タ ノ ー /レ, 酢酸, 1 M ア ン モ ニア水 (2:3:1, Ⅴ/V) を溶 媒と し て室 温1 8時 間で, コ ンドロイ チン硫 酸 (C ho ndr oitin sulfate, 以 下C h S と略) 構 成 単 位の不飽 和2糖の分 離を 行なった.
△4‑ ダル クロ ン酸を含むスポ ッ ト は短 波 長 紫 外 線 (2 3 0 〜2 6 0 叫̀) 照 射 下で見ることによ り, そ の位 置 を 決定し た. 紫外 線 吸収スポッ ト を切り出し, 細 切し て 0・01 N 塩 酸 中5 00C l O 分で溶 出し た.À‑ダルクロ ン酔 残 基は 2 3 2 m 〟で特 有の分 子 吸 光 を持ち,A D i ‑6 S(A4
‑グル クロ ニ ド㌧アセチルガ ラ ク ト サ ミンー6 硫 酸) は 5,50 0.ムD i ‑4S (△4‑ダルクロ ニ ト ア セ テルガ ラ ク ト サ ミンー4硫 酸) は 5.1 0 0, A D 卜 O S(△し グルタロ ニド
ーア セチルガ ラ ク ト サ ミン)は 5,7 00 の分子吸光 係 数に よっ て計 算し た1 3)1 1)
皮膚由来 線 椎 茸 細胞
皮 牌は主に前 腕 屈側よ り採 取し た. 採 取 部位を 3 %
ヘ キ サクロ ロ フェ ン (ファイ ゾヘ ツクス⑧
三共) にて よ くこす り,0・5% キシロカ イン にて皮 内麻 酔を し た衡
メ ス にて表皮を 5×5 n l n l採 取し た.採取し た皮 膚 片は 直t一に ト グ ル M E M 培 養 液(カナマイシ ン6 0 m g/L を含む, イ ー グル M E M 培地 「 ニ ッスイ」 ①, 日水 製 薬) に浮 遊させ, 2 時 間以 内に植え込みを行なっ た.
初代 培 養は皮 膚 片を培 養 液に入 れ た無 菌シ ャー レ中 で, 0・5 〜1 m m 角に細 切し,2 5 c m2の フ ラ スコ( Nu n c
1 6 3 3 71 )に1〜2 片人 れ,1 0 % 牛 胎 児 血 清を加え た イー グルM E M 培 養 液を少 塵 加え,3 7QC 5 % C O2インキエペ
一 夕 ー 内にて静 置 増 発を行なった. 培 襲 液 交 換 (M e.
diu m cha nge, 以下M C と略) は, 皮膚 片のま わ りに 上皮細 胞が出 始め てから, 過2 回行ない, 約1 カ月 後
にはサブ カルチャー (Subc ultu r e, 以下S C と略) を行 な え る よ うになった.
S C は 以下の手 順にて行なった. まず培 養 液を除 去し,
細 胞 表 面を リン酸 緩 衝 液 (P ho sphate ‑buffe r ed s a.
1in e, pH 7・4, 以 下P B S と略) にて 1 回洗 准 後, 0.0 2
% E D T A ,0.0 2% ト リ プシ ンを含む P B S を 3 r C 2 0 分