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日本語を第二言語とする対面聴解の研究

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Academic year: 2021

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首都大学東京人文科学研究科 人間科学専攻日本語教育学教室 平成 29 年 9 月

日本語を第二言語とする対面聴解の研究

話し手の顔からの視覚情報と聞き手の内容理解

呉 佳穎

本論文では、対面聴解において日本語を第二言語とする学習者の内容理解に現れる、話し手の顔から の視覚情報による影響を明らかにすることを目指した。

近年、日本で生活する外国人が増え続けており、法務省の発表によれば、平成 27 年末の在留外国人数 は 223 万人余りであり、前年末に比べ 5.2%増加しているという。彼らが日本で生活していくためには、

日本語での対面コミュニケーションが必要な場面に出会うことは避けられない。それゆえ、学習者が対 面聴解においてどのような困難点を抱えているかを把握することがますます重要になってくる。これま での第二言語習得研究では、対面聴解の場面に存在する視覚情報は、聞き手の内容理解を促進すると考 えられてきた。しかし、対面聴解の場面により、内容の難易度および場面に含まれる視覚情報の種類は 異なる。各視覚情報の発話理解における働きが異なれば、それを利用するのに有利な場面と有利でない 場面の両方が存在する可能性が考えられる。

本論文では、大学の窓口で口頭説明を聞くという場面をとりあげ、説明する側である話し手の顔から 得られる視覚情報が、聞き手の内容理解に与える影響を、多重資源モデルを援用して検証した。日本滞 在経験を有する者と有しない者との比較、日本滞在期間が長い者と短い者との比較、ならびに難しい説 明内容と易しい説明内容との比較を行い、量的・質的双方の手法を用いて分析した。さらに、得られた 結果に基づいて、視覚情報による影響の多面性と、聴解における視覚情報の役割を新たな視点から捉え なおす必要性について考察を加えた。

論文の構成は以下のとおりである。第一章では、本研究の目的を示した。第二章では、第二言語習得 における対面聴解に関する研究を概観した後、3 点の課題を提示した。つまり、(1)対面聴解に視覚情報 が影響する原因およびメカニズムを解明すること、(2)視覚情報の使用に関わる諸条件に留意して検証す ること、(3)学習者側の要因に着目する観点を研究にとりいれることである。第三章では、認知心理学の 研究について検討し、四章〜七章での実証的研究に用いる理論モデルである Wickens(2008)による多 重資源モデルを提示した。Wickens(2008)の多重資源モデルの仮定に基づき、本論文では、「対面聴解 への視覚情報による影響の原因の一つは、話し手の顔情報(主に調音に関する情報)が手がかりとして 使用されることにある」ことを検証する。第四章では、(1)話し手の顔情報がまとまった発話に対する理 解の手がかりとして使用されているか、(2)その使用は聞き手の目標言語圏滞在経験の有無と関係してい るか、を実験によって検証した。第五章では、第四章の結果を踏まえ、難易度の異なる課題を用いた実 験を行ない、難易度による視覚情報の影響の違いを検証した。第六章では、話し手の顔情報が聞き手の 内容理解に与える影響が、聞き手の日本滞在期間の長短によってどのように異なるかを検証した。第七 章では、聞き手の内容理解が顔情報の処理に阻害された際に現れる特徴を質的に分析した。第八章では、

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本研究の成果をまとめ、今後の課題について述べた。

調査結果および考察を通じて明らかになったことは、以下の 3 点にまとめられる。(1)日本語によるま とまった発話の内容を理解する際に、日本滞在経験のある学習者は、話し手の顔情報を手がかりとして 利用している。(2)しかし、聴覚情報の処理に加えて話し手の顔情報を処理する場合、必要な認知的処理 資源の総量が限界値を超えると、内容理解に支障が生じ、特に数字に関わる情報の保持に失敗する可能 性がある。(3)顔情報の処理に必要とされる処理資源の量、および、顔情報を手がかりとした発話理解を 習得していく過程は、学習者の目標言語圏滞在期間や習熟度が関与している可能性がある。

本研究の意義は、対面での発話理解に視覚情報が影響する原因を認知的側面から検証したこと、視覚 情報が状況によって聞き手の発話理解をあるいは促進しあるいは阻害する多様性と多面性を示したこと にあると考える。また、対面聴解と非対面聴解の相違、および、その相違によって生じる対面聴解特有 の問題点を示したこと、顔情報(特に口形による調音の情報)の活用が言語スキルの一部である可能性 を示したことによっても、第二言語習得研究に有意義な示唆を提供することができた。

なお、より長い目標言語圏滞在期間を有する学習者との比較を扱う縦断的調査、多言語間での共通性 を検証する横断的調査、教育現場へ還元すべき指導可能性の確認、日本語学習者と接触する機会の多い 日本語母語話者に対する、学習者の日常の対面聴解を援助するための効果的な話し方の提案の 4 点につ いては今後の課題とする。

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