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< 研究ノート > <Notes on Research> Bulletin of the Hokkaido Museum of Northern Peoples 29:53-74(2020) 日本人によるアリュート民族の研究 (2): 春日部薫著 アリュート語一班 (1942 年 ) と注釈大島稔

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<研究ノート>

<Notes on Research>

日本人によるアリュート民族の研究 (2)

春日部薫著『アリュート語一班』(1942年)と注釈

Japanese Studies on Aleut People (

2):

Kaoru Kasukabe’s “

The First Lesson on the Aleut Language” (1942)

and Its Commentary

大島 稔*,野口泰弥**

Minoru Oshima* and Hiroya Noguchi**

  This text is a brief introduction of the Aleut (Unangan) language, especially in the Attu dialect, which was written by Karl Kaoru Kasukabe (春日部薫 1913-1995), who was an interpreter of the Japanese army while WWII. It includes 157 Aleut words and short sentences. Mr. Kasukabe was born in the U.S. and grew up there until he becomes a teenager. After that, he and his family moved to Japan. So he graduated from high school in Japan. After high school, he studied English and Russain while working at an airplane factory and got licenses of English and Russian interpreter. In June 1942, the Japanese army invaded and occupied the Attu and Kiska islands of the Aleutian Islands. Mr. Kasukabe attended this ‘’ Aleutian campaign’’ as an interpreter. In those days, 42 Aleut people and one white married couple lived on Attu Island. As an interpreter, Mr. Kasukabe researched the Aleut language and culture to teach them Japanese for military service.

  The original text was handwritten in 1942. It is housed in Hokkaido University Library (Identification No. 497/KAS/別シ). This library has two manuscripts of Mr. Kasukabe. One is this text, the other is mainly about the culture which we published in previous research (野口・大島 2019).Ethnographic and linguistic records about Attu Islanders have been very rare. This text is one of the most detailed records in researches by Japanese during WWII. Of course, Mr. Kasukabe was not a professional linguist, so there were some confusions about Aleut language such as a confusion of ‘’k’’ and ‘’q’’

   

小樽商科大学名誉教授 (Otaru University of Commerce)

** 北海道立北方民族博物館 (Hokkaido Museum of Northern Peoples)

キーワード アリュート(ウナンガン)、アッツ島、アリュート語、アッツ島方言、アッツ島の戦い

(2)

1.はじめに  本稿は、日本軍のアリューシャン作戦に通訳官として従軍した春日部薫(1913-1995) (本文献では筆名として春日薫が用いられている)による『アリュート語一班』(春日部 1942a ※以下、本文献と表記する)の翻刻と注釈である。  昭和17 (1942)年6月8日、日本軍はア リューシャン列島のアッツ島を占領し た。アッツ島には当時42名のアリュー ト(自称としてウナンガン)と一組の 白人夫婦が暮らしていた(杉山 1943:  52-53)が、最終的に日本軍は彼らを北 海道の小樽に抑留することにし、9月17 日、島民は船に乗せられて小樽に向 かった1)。  『アリュート語一班』は春日部自身が ア ッ ツ 島 で 採 録 し た と 思 わ れ る ア リュート語157語(短文含む)が、日本 語と英語の対訳付きで記録されてい る。副題が「アリュート族に対する日 本語教授教案」となっているように、 アッツ島において、同島のアリュート民族に日本語を教えるために作成されたと考えられる。  戦後、アッツ島が無人島になったこともあり、アリュート語アッツ島方言は研究が不足 している。日本では小樽に抑留されたアッツ島民を対象として、言語学者の服部健(1909-1991)がアリュート語の調査を行っているが、これを除くと、春日部による調査は戦前・ 戦中期に日本人が行った最も詳細なアリュート語研究であると評価でき、1942年時点での 同島の言語を詳細に記録している点で、資料的価値が非常に高いと言えるだろう。しかし、 著者は語学の才能に恵まれた人物であったが、言語学の専門家ではなかった。したがって k音とq音の使い分けがなされていないなど、幾つかの限界も指摘できる。そのため、本稿 では言語学的観点から詳細な注釈を加えた上で、春日部の記録を翻刻した。  『アリュート語一班』自体に関する言及は、杉山(1987:165-166)による簡潔な内容紹介以 外に見られない。しかし、小樽市の郷土史研究家であった越崎宗一は、アッツ島の戦いに 従軍した弟の越崎清二氏の手紙と共に、『アリュート語一班』と酷似している、春日部が作

sounds. However, these problems don’t reduce the overall value of his work. Hence we modified mistakes and added detailed commentary to the original text.

写真1:軍用トラック前に立つ春日部薫 撮影:1937 〜 1942年頃(推定)、写真提供:春日部進氏

※春日部薫は日中戦争中に2度徴集を受けて自動車隊、機甲 部隊整備班などに従事したという(Kasukabe 1986:66)。 アリューシャン作戦は3度目の徴集であった。

(3)

成したという日=英=アリュート語の対訳表を翻刻している(越崎 1962)。越崎の対訳表 と『アリュート語一班』は、収録された語の順番に若干の違いがある他、前書きに当たる 「アリュート語について」の節で、『アリュート語一班』の方がより詳細な情報が記されて いる点で異なる。おそらく、著者の春日部は『アリュート語一班』を寄贈するにあたり、 一部加筆を行ったものと考えられる。  春日部の詳細な経歴や、他の著作については前号(野口・大島 2019)を参照されたい。 春日部は日系二世としてアメリカで生まれ育ったが、10代の頃に日本に転居した。その後、 三菱の飛行機工場で働きながら英語の軍属一等通訳官、ロシア語の二等通訳官の資格を取 得し、アリューシャン作戦に通訳官として従軍した。アッツ島占領後はキスカ島に転進し、 そこで左足と臀部を負傷する大けがを負うが、最終的にキスカ島撤退作戦の成功により帰 国し、戦後は商業英語講師や翻訳会社の経営などを行った。  今回翻刻した原本は北海道大学附属図書館が所蔵している。原本の前書きは20字×10行、 対訳表は25字×12行の原稿用紙にペンまたは万年筆によって横書きで記載されている。翻 刻は原文通りを旨としたが、次のように改変している。①読みやすさを考慮しレイアウト は適宜調整した。②注は章ごとに振った。ただし対訳表中の注は単語ごとに振ってある。 ③対訳表の単語にはナンバーを追加した。④読みやすさを考慮し原本前書き部分の旧字、 俗字、略字、歴史的仮名遣いは新字、現代仮名遣いに書き改めた。また原本の仮名は全て カタカナ書きであるが、平仮名書きに改めた。ただし対訳表のカタカナはそのまま残した。 ⑤漢字表記など微細な修正は本文中に(※〜)の形で適時挿入した。⑥ロシア語とアリュー ト語の表記に用いられているキリル文字は次のようにラテンアルファベットに転写した。 キリル文字 а б в г д е ж з и ローマ字 a b v g d ye/e zh z i キリル文字 й к л м н о п р с ローマ字 j k l m n o p r s キリル文字 т у ф х ц ч ш щ ы ローマ字 t u f x ts ch sh shch y キリル文字 ь э ю я ローマ字 ’ e yu ya

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2.翻刻文と注釈  (※表紙)アリュート語一班   春日 薫  (※奥付1)捧 外国語学校2)  (※奥付2)アリュート語一班3)   春日 薫  1)アリュートの小樽抑留の経緯、春日部薫の経歴については前号(野口・大島 2019)と 重複するため、本節では最小限の記述に留める。詳細は杉山(1987)、スチュアート (1980; 1994)を、アリューシャン作戦を含むアラスカ先住民と日本の関係史については 野口(2018)を参照されたい。本稿執筆にあたり春日部薫の御子息にあたる進氏より幾つ かの新資料の提供を受けた。その中の一つに、戦後になって春日部薫によって書かれた 「“アリューシャン便り”後日談」(出版年、掲載紙不詳)というゲラ刷りがある。この資 料には、①春日部薫がアッツ島従軍時に執筆したサンデー毎日の記事「アリューシャン 便り」(春日部 1942b)が大本営の情報戦略に利用されたために掲載が大幅に遅れたこ と、②日本軍のアッツ島占領時に謎の死を遂げた島民、フォスター・ジョーンズ氏のこ とで、戦後、「アリュートの知人」が「真実を証言」してくれたため、春日部が戦犯にな ることを免れたという、これまで知られていなかった情報が記載されている。 写真2:原本表紙 写真3:本文(一部)

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アリュート族に対する 日 本 語 教 授 教 案  The first step in Japanese for the Aleuts.

 Uchit’sya Yaponskomy yazyk dlya Aliyutssogo

 Yaponam tono achigam bumagangi Unagan ni oxsol 4)  アリュート語について:―5)  アリューシャン群島に散在するアリュート族2,000人6)近くの人々の使用する語をア リュート語(Aleut)という。  19世紀半頃、露人宣教師ヨハン・ブレニアミノフ(Yoan Veniaminov) 7)―後に「インノ センチュース」と称した―がロシヤ古代ギリシヤ正教布教、土人の馴化同化の必要上、 土語を整理し、Aliyudsskiy yazyk という名を与えた。従ってアリュート語は露人の手にな る80%は露語の変型人造訛語である。土人は自分等の語を「ウナガム」Unagam Tono8)と称 している。彼は1833年マタイ伝のアリュート語訳、問答教書等をモスコーより発行し、土 人に教えた9)。  ロシヤの影響強く、現在にても、ロシヤ旧暦を使用し、月名、週名、日常家庭用品名、 例えば石鹸(mylo)、パン(xlyeb)、鉛筆(karandash)、日本(Yaponiya)等は全部露語である。旧 教の影響により多分に「ピザンチン語」10)を含んでいる。  例えばagunagoshex (酋長)11)は古ラテン語augustus(尊厳、帝王)より派生したものか? kobex (頭)12)は近ラテン語及仏語(caboche 頭)。露人をkazakax 13)と呼ぶのは、コザック地方 の追放流刑囚が多かったからの訛であろう。自然関係語、例えば、海、空、土等は、土語 固有のものが多い。kakax (鴉)14)など動物名は大抵原始的な擬声音語である。気候風土の関 係上、総ての生物は萎縮しているためか、縮小指語15)が非常に多い。例えばtsvetok  →  tsvetochka。lisa→lisitsaの如く呼んでいる。

 iyaagx (小独舟)16)、umyaak (獣皮製独舟)17)は、エスキモー語kayak(カヤーク独舟)の訛か。  露人の手で改変漏れになった土語固有語の中にて、多くのエスキモーの類似語をもち、 今でも理解し得る語が多くあると酋長は語っていた。  同じ血の連りをもって、アリュート語とエスキモー語はかつては、明らかに、共同の母 語から派生し、生き残っている唯一の最も近い従兄弟語であるといえよう。  為政者、野藩(※野蛮)より文明の光に照し出されて、親子三代100年間に言語も変遷し ている。暖炉はkegnatanax (土語にて、地下に穴を掘った火の場所、日本の所謂囲炉裏)18) →pechka(露語にてオンドル式の土製の暖炉装置)→stove(英語にて、蒸釜附鉄製の暖炉)。  アリュート語は36語の語根よりなり19)、簡潔にされた露語式語変化をなし、日本語、独 語の如く、統合自在である20)。

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 尚一つ、面白い事には、この地方は永い冬季は昼間5時間足らずで、白夜が無闇に長く、 朝、昼、夜の区別判然とせず、「オハヨー」「今日ハ」「今晩ハ」はdrasty21)の一語で用を弁 じている。  その昔、彼らの祖先が皮製の小船で、島から島を巡って、ラッコ狩をやっていた時代は、 それらの語風22)は、互によく類似していたが、現在にては、各島に特殊部落をなし、孤立 しており、ウナラスカ、アトカ、アッツの住民は各異なった語風を持っているが、互に理 解し合う事は未だ可能の由である。  その隔離された位置からも想像される如く、アッツ住民の語風が最もアリュート語の固 有の姿を保持している。アリュート語には何らの文化なき会話語であって、酋長(牧師)以 外、読み書き得るものは数うる程もない。  若いものは英語を教えられ、この語の死滅するのも時の問題である23)。現在、アッツ島 アリュート族は数人が英語1,500基本語、純露語1,000基本語、ギリシヤ語若干を解するのみ である24)。  附記: ― この表は第一線地の兵馬倥偬の間、軍務多忙の余暇に、教育総監部編、軍用露 語便覧25)を基礎として、土人に理解し易いために、「カナモジ速記式カナズカイ」「Hepburn 式ローマ字綴」「Ogden Basic English」を用いて説明した教案である。土人の語学能力は Thorndike表による          2602年8月20日26)        アリューシャン列島アッツ島にて  陸軍通訳官        春日部 薫   2)外国語学校が具体的に何を指すかは不明である。本文献の翌年に書かれた『アリュー ト族に関する報告』(春日部 1943)は北海道帝国大学北方文化研究室に寄贈されている。 現在、この『アリュート族に関する報告』と『アリュート語一班』は共に北海道大学図 書館北方資料室が所蔵している。原本を北海道大学図書館が所蔵していることから「外 国語学校」とは旧北海道帝国大学内の何らかの研究室や部局を指しているように推定さ れる。  3)越崎宗一の「アリュート記」に、春日部が戦場において「日、英、アリュート語対訳 の6枚と「アリュート語について」1枚のプリントを印刷して配布」したとある(越 崎 1962:2)。『アリュート語一班』の表題は、帰国後に追加したものであろう。しかし、 本文献の前書きである「アリュート語について」の内容は、越崎の「アリュート記」の 前書き部分で欠けている部分がかなりある。またタイトルにある「一班」の意味は不明 である。「一斑」の誤字であるならば、アリュート語の一部分といった意味になり、本文 献の内容とも合致しているように思われる。「一班」であれば字義的には「組織の一つの 区分」、「班の全体」を指す。

(7)

 4)この部分は上段より英語、ロシア語、アリュート語となっている。ロシア語のyazykは、

yazykuの誤りであろう。アリュート語の部分は、概ね対訳の英語、露語と同じ意味のよう であるが、Yapunam tunuu achigam bumaagangi Unangan ni uxsulとなり、最後の1語uxsul が未確定である。尚、bumaga-は ロシア語の「紙>書類(複数)」からの借用語である。  5)この「アリュート語について」の部分は、字句の違いこそあれ、前号で扱った『ア リュート族に関する報告』の「アリュート族の言語」の節(野口・大島 2019:102)と同じ 内容である。  6)正確な人口を把握することは難しい。1920年の国勢調査では2942名である(Lantis 1984:163-164)。  7)現在、「イオアン・ヴェニアミノフ」という表記の方が一般的である。本文の「ブレニ アミノフ」の「レ」は誤りであろう。ヴェニアミノフ(1797-1879)はアリューシャン列島 で布教を行った宣教師である。1824年にウナラスカに到着したとされる(Veniaminov  1984:vii-viii)。  8)unangam tunuu であろう。  9)Veniaminov (1840a; 1840b)のことだと思われる。 10)ロマンス諸語のことを指しているらしい。 11)この語は、angunaaGuusi-Xというアリュート語である。angnuna- “big”より派生した語 で、東部方言では、tuku-Xという。(これ以降、本稿ではBergsland(1994)を[辞]として表 記する。また、[辞]に用いられている文字ĝをGに、x̂ をXに変換してある。また、Xの 前のハイフォン(-)は、数表示のXと語幹との境界を示す。)  12)[辞]によれば、kavi-Xである。東部方言のkamgi-Xに対応するアッツ方言である。 13)[辞]によれば、現在はkasaka-Xである。 14)[辞]によれば、qaqa-X “arctic loon” オオハムのことか。 15)指小辞のことらしい。 16)[辞]によれば、アッツ方言で iGya-X /iyGa-X「一つ穴の皮船」。 17)[辞]にも知られていない。umiak はエスキモー語であろう。

18)[辞]によれば qigna-X “fire”、tana-X “ground”とあるが、kegnatanax (ゲグナターナハ) は知られていない。fireplaceの直訳かも知れない。unaaluX “cooking place>fireplace囲炉 裏”のみが知られている。 19)どうやって数えたのか不明。語根数が36とはあり得ない数である。 20)語幹につぎつぎと接尾辞を付加する語構成が多い事を指しているらしい。 21)drasty はロシア語zdravstvuy(te)の口語形である。 22)「語風」は、「方言」の意味であろう。 23)後にアッツ方言はアトカ方言に吸収され消滅したと思われる。 24)なおアッツ島民に日本語を教えたのは春日部が最初ではない。1931年にアリューシャ

(8)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ

001 イチ (1) ichi one atákan 27)

27) [辞]によれば ataqan。春日部にとって軟口蓋前部音k と軟口蓋後部音qとの聞き分け はむずかしかったようで、この後も一貫してkと表している。 002 ニー (2) ni two úlax 28) 28) [辞]によれば、アッツ方言では、ulax 。 他方言では aalax 。以後も方言の差がある場 合にその方言差に触れる。方言差がなければ触れない。他方言と一括したものはアトカ方 言と東部方言を含むものとする。なおローマ字niに長音記号がないのは原本のままである。

003 サン (3) san three kákon 29)

29) [辞]によれば qaku(n) 。他の方言では qaanku-n/-s 。

004 シー (4) shi four shíchin 30)

30) [辞]によれば sichin 。sの音は、アッツ方言では[ʃ]となり、他の方言では[s]となる。 キリル文字ш=shで表記するのは正しい。なおローマ字shiに長音記号がないのは原本の ままである。 005 ゴ (5) go five chánnx 31) 31) [辞]によれば chaang 。春日部は ng [ŋ] をnxと表記し、nで表記した[n]と区別してい る。このような彼の独自の文字使用から、アッツ島滞在の2 ヶ月半余りでアッツ方言を 習得したと推定される。

006 ロク (6)  roku  six  atónx 32) 

32) [辞]によれば atuung 。

007 シチ (7) shichi seven ólunx 33)

33) [辞]によれば uluung 。

008 ハチ (8) hachi eight káfchinx 34)

34) [辞]によれば qavchiing 。他の方言では qamchiing 。文字はvだが実際の発音は、[ɸ] と無声なので、キリル文字фとローマ字fの使用は音声的に正しいものと言える。 ン方面を訪れた近藤信興は、アッツ島民が簡単な日本語や歌を知っていたことを記録し ている(近藤 1932:31-32)。さらにアッツ島の占領に先立ち、農林省所属の調査船白鳳 丸による「特殊任務」が存在し、若干の日本語や日本文化がアッツ島民に紹介されてい たらしい(野口・大島 2019:105-106)。春日部らがアッツ島に上陸した時も、島民は既 に簡単な単語や「君が代」「篭の鳥」といった日本の歌を習得していたという(春日部 1943; 野口・大島 2019:105-106)。 25)ここで言及されている教育総監部編『軍用露語便覧』なる文献の存在は確認できなかっ た。著者が何に依拠していたか、またアッツ島が、日本軍占領地における日本語教育の 歴史の中でどのように位置づけられるのかは今後の調査が必要である。 26)皇紀2602年は、西暦の1942年である。 (単語)

(9)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ 009 クー (9)  ku  nine sichínx 35)

35) [辞]によれば sichiing 。なおローマ字kuに長音記号がないのは原本のままである。 010 ジュー (10) ju ten nátix 36) 36) [辞]によれば hati-X 。東部方言では atix 。キリル文字のнを使っているがローマ字 の大文字Hならばhを表記しているのかも知れない。後の例ではhはxの文字で表されてい る。尚、natix の語は知られていない。なおローマ字juに長音記号がないのは原本のまま である。 011 イエ ie house úlax 37) 37) [辞]によれば ula-X 。

012 ツクエ tsukue desk stólen 38) 

38) ロシア語の stol から借用した語 stuuli- の複数形 stuuli-n か。

013 イス isu chair stólychkan 39)

39) [辞]によればロシア語 stul’chik よりの借用語 stuulchika- の複数形 stuulchikan か? 014 エンピツ empitsu pencil karandáshx 40)

40) [辞]によれば、ロシア語 karandash より借用し、kalandaasa-X 。 015 カミ kami paper bumága 41)

41) ロシア語の bumaga「紙」からの借用語である。

016 ミチ michi road akalógjx 42)

42) [辞]によれば akaluX / akaluGi-X 。春日部は、最初 akalóchix と書いたがキリル文字 のlをchに間違ったことに気づき訂正している。アリュート語に前部軟口蓋のxと後部軟 口蓋のXの違いと並行的にgとGの違いがあるが、春日部はこの差が区別できていないの でGもgと表記している。

017 オカ oka hill káyax 43)

43) [辞]によれば qaya-X は、アッツ方言では「丘、山」の意味もあるが、他の方言で は、qaya- 「高い」の意味しかない。

018 カワ kawa river chigánax 44) 

44) [辞]によれば chiGana-X 。

019 クサ kusa grass kígax 45)

45) [辞]によれば qiiga-X 。

020 ハナ hana flower tsvetóchkax 46)

46) ロシア語からの借用語 tsvetochk (tsvetok の指小辞形)。「x」はアリュート語の単数 語尾-Xである。

(10)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ

021 イシ ishi stone kámen’ 47)

47) ロシア語 kamen’ 。アリュート語には借用されていない。

022 ミズ mizu water tágax 48) 

48) [辞]によれば taanga-X 。語末のngは聞き分けていたのに語中のngは聞き分けられず にgにしている。

023 ヒ hi fire kégnax 49)

49) [辞]によれば、qigna-X 。

024 フネ hune boat íyagax 50)

50) [辞]によれば、アッツ方言で iGya-X /iyGa-X「一つ穴の皮船」。他の方言では iqya-X 。

025 ウミ umi sea alágux 51)

51) [辞]によれば alaGu-X 。

026 ソラ sora sky ínkax 52) 

52) [辞]によれば inka-X 。

027 ユキ yuki snow kaníkax 53)

53) [辞]によれば、アッツ方言とアトカ方言で qaniqa-X「夏の残雪」だが、他の方言で はqaniigi-X。

028 カゼ kaze wind káchix 54)

54) [辞]によると kachixの名詞はないが、kachix-「嵐になる」の動詞形がある。

029 アメ ame rain salolák 55)

55) [辞]によれば saalu-lak「乾いた-否定」> 「雨が降る」。他の方言では chiXta-X。

030 イヌ inu dog sabákax 56)

56) [辞]によれは sabaaka-X 。ロシア語の sabaka からの借用語。

031 ネコ neko cat  kóshka 57)

57) [辞] kuuski-X / kuuska-X 。ロシア語 koshka からの借用語。

032 ニク niku meat úlox 58)

58) [辞]によれば ulu-X 。

033 サケ sake salmon ánok 59)

59) [辞]によれば haanu-X「ベニザケ」。東部方言 aanu-X 。

034 サケ sake wine vinox 60)

(11)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ

035 シオ shio salt aláox 61)

61) [辞]アッツ方言としては見たらないが、アトカ方言では alaGu-X 「海、塩水」。 036 コムギコ komugiko flouer múkax 62)

62) [辞]によれば muka-X 。ロシア語 muka からの借用語。英語のflouerはflourの誤字で ある。

037 サカナ sakana fish kox 63)

63) [辞]によれば qa-X 。

038 パン pan bread xlébax 64)

64) [辞]によれば xliiba-X 。ロシア語 xl’eb からの借用語。

039 カシ kashi candy konféktyx 65)

65) [辞]によれば kanfiixta-X 。ロシア語の kanfetka(kanfetyの指小辞)からの借用語。 040 タベモノ tabemono food kachagíchax 66)

66) [辞]によれば qaqa-X 「食べ物」。

041 マッチ matti match spíchikax 67)

67) [辞]によれば spiichika-X 。ロシア語 spichka からの借用語。

042 タキモノ takimono wood ýglan’ 68)

68) [辞]によれば igla-n (複数形) 。 他の方言は ikla-X 。

043 セキタン sekitan coal úgolyx 69)

69) ロシア語 ugol’ からの借用語。

044 ヒコーキ hikōki air-plane igáxtax 70)

70) [辞]によれば igaXta-X (iga- 「飛び立つ」 + -Xta- 「継続状態」)。  045 テッポー teppō gun  nítkachix (不詳)

046 ビョーキ byōki sickness áskok 71)

71) [辞]によれば asqa-l「死ぬ」。 他の方言では asXa-aGi-l 「病気になる」。 047 クスリ kusuri medicine agíyas’ 72)

72) [辞]によれば haGiya-asi-X < haGi-ya- 「立ち上がらせようとする(-ya)」 + -asi- 「道 具」。

048 ニッポン nippon Nippon yapony 73)

(12)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ 049 アメリカ amerika America amerikán 74) 

74) [辞]によれば Amlikaana-X 。ロシア語 Amerika からの借用語。 050 ミカタ mikama friend agáyux 75)

75) ローマ字の mikama は、t音の表記にキリル文字の mを使用したために生じた誤りで あろう。越崎 (1962: 9)は mikata と訂正してある。 [辞] によれば、東部方言 angaayu-X 「仲間」。

051 テキ teki enemy anamayá 76)

76) [辞]にある angam hayaa「半分」の事か?

052 ヘータイサン heitaisan soldier soldátyx 77)

77) ロシア語の soldat 。

053 ショーコーサン shōkōsan officer ofitsérx 78)

78) ロシア語の ofitser 。

054 タイチョーサン taichōsan commander komándax 79)

79) ロシア語 komanda「指揮」。cf. 指揮官 kamandir。

055 オトコ otoko man tayágox 80)

80) [辞]によれば tayaGu-X「大人の男性」。

056 オンナ onna woman ayágox 81)

81) [辞]によれば ayaga-X 。

057 コドモ   kodomo child lax 82)

82) [辞]によれば hla-X「男の子、息子」。

058 オカーサン okāsan mamma annágan 83)

83) [辞]によれば ana-ng「母-私の」。

059 オトーサン otōsan papa ajyán 84)

84) [辞]によれば aya-ng「父-私の」。

060 トシヨリ    toshiyori old man álax 85)

85) [辞]によれば aliX 。母音の[i]は、後続の軟口蓋音[X]の影響で[æ]に近い音。 061 ワカイモノ yakaimono young man sugánax 86)

86) ローマ字の yakaimono のyaはwaの誤記であろう。越崎 (1962:9)では、waに訂正し てある。 [辞]によれば suganGi-X 。

062 オカネ okane money kechíten 87)

87) [辞]によれば qichiti-n(複数)「硬貨、金」。

063 キモノ kimono clothes  ámox 88)

(13)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ 064 ボーシ bōshi  cap  chagýyax 89)

89) [辞]によれば chaguya-X 。

065 サラ sara dish tarélkax 90) 

90) ロシア語の tarelka よりの借用語。

066 アタマ atama head kóvyx 91)

91) [辞]によれば kavi-X 。他方言では kamgi-X 。

067 カオ kao face sagimáx 92)

92) [辞]によれば sagimaX 。

068 メ me eye yax 93)

93) [辞]によれば ya-X 。他方言では da-X 。

069 ミミ mimi ear tytúsex 94) 

94) [辞]によれば tutusi-X 。

070 クチ kuchi mouth agálagex 95)

95) [辞]によれば agalGi-X ~ agilGi-X 。

071 ハナ hana nose annóxsen 96) 

96) [辞]によれば anuXsi-ng「鼻-私の」。他方言 anGusi-n (複数形) 。 072 ハ ha tooth  agálon 97)

97) [辞]によれば agalu-n (複数)。

073 テ te hand chax 98) 

98) [辞]によれば cha-X 。

074 アシ ashi foot kítax 99)

99) [辞]によれば kita-X 。

075 コンニチ konnichi today  maagálex 100) 

100) [辞]によれば ma angali-X「この日」。他の方言 wan angali-X 。 076 アス asu tomorrow kylagá 101)

101) [辞]によれば qilaga 。他方言 qilagan (qila-X「朝」からの派生語)。 077 キノー kinō yesterday sínax 102)

102) [辞]によれば siina-X 。東部方言では ya-m 。

078 アサ asa morning kejláx 103)

103) [辞]によれば qila-X 。

079 バン ban evening agalykín 104)

(14)

(形容詞)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ

080 ヨル yoru night ávex 105)

105) [辞]によれば avi-X 。他の方言は amax / amgi-X 。

081 ヒル hiru day agályamagáj 106)

106) [辞]によれば angali-m angaya-a「昼間のそば」の意味か?

082 イモ imo potato kartófelyx 107)

107) ロシア語 kartofel’ からの借用語。

083 セッケン sekken soap mýlox 108)

108) ロシア語 mylo からの借用語。

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ

084 オーキナ フネ ōkina hune big boat íyagax sugáyax 109)

109) [辞]によれば iyGasugaaya-「三つ穴の皮船」。これは iyGa-「皮船」+ -sugaaya-「大 きい」と分析される。1語にも関わらず、春日部が2語に分析したため、最初の iyGa- に 名詞の単数形 -x を加えたのであろうか。

085 チーサイ サカナ chīsai sakana small fish kox kuchax 110)

110) [辞]によれば qakucha-X 。これは qa-「魚」+ -kucha- 「小さい」と分析される。1語 にも関わらず春日部が2語に分析したため、最初の qa- に名詞の単数形 -x を加えたので あろうか。

086 クロイ ネコ  kuroi neko black cat kóshka koxchéx 111)

111) [辞]によれば kushka(-m) qaxchag-a であろう。kushka はロシア語 koshka からの借 用語。qaxchax-「〜が黒い」は動詞である。

087 シロイ ユキ shiroi yuki white snow kanékax komá 112)

112) [辞]によれば qaniqa(-m)「夏の残雪」。quma-a 「白い-その」。

088 アカイ ハナ akai hana red flower ulutla tsvetóchka 113)

113) [辞]によれば ulu-utra

- < ulu-「肉」+ -uda-「のような」。春日部がtlで表記した音 は他方言の-d- に対応するアッツ方言に特異な(日本語のラ行音の子音に近い)弾き音、 IPAの/ɾ/ 正書法の{tr}

を表したものと考えられる。「花」はロシア語の tsvetóchka 。 089 アオイ ウミ aoi umi blue sea alágux chegéj 114)

114) [辞]によれば alagu-X「海」、 chiyGi-i「青い-それの」。cf. 他の方言では chidGi- 「青・ 緑」。

090 タカイ ヤマ takai yama high hill kigúshex kayá 115)

115) [辞]によれば、qiiGuusi-X「山、火山」、qaya-a「高い-その」。qiiGuusi(-m) qayaaで あろう。

(15)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ 091 ヒクイ オカ hikui oka  low hill káyam kayanól 116)

116) [辞]によれば qaya-m「山の」、qaya-ng(in)=ul「高い-それらの=否定」であろう。 = ul は他方言の =ulux ~= ulax「否定の前接語」。

092 オモイ ビョーキ omoi byōki  heavy sickness askágel ingatól 117)

117) [辞]によれば asqa-aGi-l「病気で」、ignatu-l「重い」(アトカ方言形。物理的な重さ のことなので病気に使えるかは不明)。アッツ方言にはアトカ方言形gnと比べると、音韻 転倒n’gがある)。

093 カルイ イシ karui ishi  light stone  póchex kámen’ 118)

118) kamen’ はロシア語のkamen’ 。pochex は、アリュート語にpで始まる語はないので、 ロシア語であろうと思われるが不詳である。

094 トーイ ヤマ tōi yama far mountain kigúshex sanigí 119)

119) [辞]によれば qiiGuusi(-m)「山、火山」。san’gi-i「遠い-それが」、他の方言では sagni-でアッツ方言に音韻転倒n’gが見られる。

095 チカイ カワ chikai kawa near river chigánax sanigigúl 120)

120) [辞]によれば chiGana-X「川」、san’gi-G=ul「遠く-単数-否定」>「遠くない川」。 096 ヨイ テンキ yoi tenki good weather slax chíxtax 121)

121) [辞]によれば sla-X「天候」。chiXta-X「雨」。しかし、「良い天気」の意味にならな い。

097 ワルイ ミチ yarui michi  bad road akal’um igamanágola 122)

122) ローマ字のyaはwaの誤記であろう。越崎 (1962:10)では、waに訂正してある。[辞] によれば akalu-m「道の」+ iGamana-G=ul「良い-単数-否定」>「良くない道」。

098 キレーナ ムスメ kirēna musume beautiful girl ayágax avygsí 123)

123) [辞]によれば ayaga-X「女性」、aviXsi-i「美しい-それの」。他の方言では amgiXsi- 。

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ

099 モシモシ   moshimoshi hello drásty 124)

124) ロシア語 zdravstvuy(te)の口語形に由来。

100 オハヨー ohayo good morning drásty (注124に同じ)なおローマ字のyoに長音記号がないのは原本のままである。

101 コンニチワ konnichiwa good afternoon drásty (注124に同じ)

102 コンバンワ konbanwa good evening drásty (注124に同じ)

(16)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ 103 サヨーナラ sayōnara good-bye prosáj 125)

125) ロシア語の proshchay(te)に由来。

104 アリガトー arigatō thank you spasíbo 126)

126) ロシア語の spasibo 。

105 ヨロシー yoroshī all right máno kageláki (不詳)

106 ゴメンナサイ gomennasai excuse me tinprystín 127)

127) [辞]によれば ting「私を」、prysti-「許す- ?」。 ロシア語 prostit’「許す」からの借 用語。

107 ゴクローサン gokurōsan  I’m sorry to trouble you tin mitashaxtála 128)

128) [辞]によれば tin「あなたに」、misaaya-Xta-「迷惑をかけた」。ロシア語meshayet (「邪魔をする」3人称主語)よりの借用語。-laは不詳。

108 ドーイタシマシテ doitashimashite don’t mention

it manokageláka 129) 129) No.105の「ヨロシー」の項とアリュート語は同じである。なおローマ字のdoに長音 記号がないのは原本のままである。

(平叙文)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ

109 コレワサカナデス korewa sakana desu this is a fish míya kox 130)

130) [辞]によれば maya(a)「これは-それです」、qa-X「魚」。

110 アレハフネデス arewa hune desu that is a boat igía shógnax 131)

131) [辞]によれば igaya(a)「あれは-それです」、suugna-X「船」(ロシア語 sudnoからの 借用語で皮船以外の船)。他の方言ではsuna-X 。

111 ワタクシワ コドモデ watakushiwa kodomo desu I’m a child  lax ótin 132)

132) [辞]によれば hla-X「男の子」、u=ting「である-私は」(u-lは他の方言ではa-l)。 112 ア ノ ヒ ト ワ シ ョ ーコーサンデス anohitowa shōkōsan desu he is an officer ofitsérax ol nin 133)

(17)

(疑問文) No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ 113 コレワワタクシノホン デス korewa watakushi  no hon desu  this is my book   miyan kníganin 134) 134) [辞]によれば maya-n「これら」、kniga-ning「本-複数-私の」。ロシア語 kniga 。

114 ツクエ ガ アリマス tsukue ga arimasu there is a desk igayá stúlax 135)

135) [辞]によれば igayaa「あれは-それです」。stula-X「机」(ロシア語stol「机」からの 借用語)。

115 ヒト ガ イル hito ga iru there is a man igayá tayágox 136)

136) [辞]によれば igayaa「あれは-それです」、tayaGu-X「男」。

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ

116 コレハナニカ? korewa nanika? what is this? akóx íga? 137)

137) [辞]によれば aqu-X「何」iga「あれ」。cf. 他の方言では alqu-X igan 。

117 アルカ? aruka? is there?  mátrax igoxtanatí 138)

138) [辞]によれば matr

a-X「何か」、igu-Xta-na-t ii「取り出したか」。 ii は日本語の「か」 のような疑問の間投詞。

118 ナイカ? naika? is there not? igulaka? 139)

139) [辞]によれば igu-laka「取り出す-否定」。

119 ナニガホシーカ? nani ga hoshika? what do you want? akóx alánat? 140)

140) [辞]によれば aqu-X「何を」、alana-t「必要とする-あなたが」。なおローマ字のshi に長音記号がないのは原本のままである。

120 ドコヘユクカ? dokoe iku ka?  where are you going?  kanagoyáx uyamunat? 141)

141) [辞]によれば qana-aGuya-X「どの方向に向かって」、uya-mu-na-t 。(h)uya-「行く」、 -t「あなたが」、-mu- は不詳。

121 ニッポンゴワカルカ? nippongo wakaruka? understand Japanese? yapunam tono iyátagol-tí? 142)

142) [辞]によれば yapuuna-m「日本人の」、tunu-u「言葉-その」、iya-Xta-G=ul=t「無知 である-否定-あなたが」。tiのiは、正しくは。iiで、日本語の「か」に相当する疑問の間 投詞である(iya-は、他の方言のida-に対応)。

(18)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ 127 コドモガハシル kodomo ga hashiru a child runs ikeyun lax 148)

148) [辞]によれば iqi-yu-l「逃げる」、hla-X「男の子」。

128 トリ ガ トブ tori ga tobu birds fly sakoyax igaxtál 149)

149) [辞]によれば saaku-uya-X「アカハナケワタガモの幼鳥」、iga-Xta-l「飛んでいる」。 129 カゼ ガ フク kaze ga huku the wind blows kachixsh 150)

150) [辞]によれば kachix-s「風が吹いている」。

130 アメ ガ フル ame ga huru the rain falls salulák 151)

151) [辞]によれば saalu-lak「乾いた-否定」>「雨が降る」。

131 フネ ニ ノル hune ni noru get on a boat iyagox notagoshíten 152) 

152) [辞]によれば iyGa-X「皮船」、nu-「着く」。以下不詳。

132 サカナヲ トル sakana o toru seize a fish kox shol 153)

153) [辞]によれば qa-X「魚を」、su-l「捕る」。

133 イエ ヲ デル ie o deru go out of the

house úlan ilagá nigá 154) 154) [辞]によれば ula-m「家の」、ilagan「中から」、iga-l「穴から出る」。

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ

122 ナンジカ? nanji ka? what time is it? kánan chásyx? 143)

143) [辞]によれば qana-ang「いくつ」、chasi-X「時間」、chasi-X はロシア語の chasy「時 間の複数」からの借用語。

123 ダレカ? dareka? who are you? kin únat? 144)

144) [辞]によれば ki(i)n「誰」、una-t「である-あなたが」。

124 ソレワナントユーカ? sorewa nanto yūka what is it called? akóx asaxtánox 145)

145) [辞]によれば aqu-X「何を」、asa-Xta-na-X「名前としてもつか-それが」。 125 イクラカ? ikuraka? how much does

it cost? kánan sánax akextánax 146) 146) [辞]によれば qana-n「どの」、sana-X「十分」、aki-Xta-na-X「価値としてもつ-それが」。

126 ナニヲモッテイルカ? nanio motte iru ka what have you? akáx chamin il oxtanat? 147)

147) [辞]によれば aqu-X「何を」、cha-min「手-あなたの-の」、il(an)「中に」、u-Xta-na-t 「もっている-あなたが」。

(19)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ 134 ヤメヨ yameyo stop doing tin axtí 155) 

155) [辞]によれば tin「あなたを」、axti-y「止める」(-yは他の方言で-da「命令形」)で 「止まれ!」「やめろ!」の意味。他の方言で命令文なら txin atxi-da となる。

135 ミヨ miyo look at it! ukuxtanín 156)

156) [辞]によれば uku-Xta-「見る-している」。-niinは不詳。 136 ツイテコイ tsuitekoi come on with

me! tin ash xakáy 157) 157) [辞]によれば ting「わたしと」、as「一緒に」、haqa-y(a)「来い」。hの音をキリル文 字のxで表している。

137 イソゲ isoge hurry up! shganéyx 158)

158) [辞]によれば suga-naaX-s 。

138 ヤスメ yasume take a rest anageygá 159)

159) [辞]によれば、他の方言ではsakaaGat-「休憩する」。

139 アツマレ atsumare gather! atakamál 160)

160) [辞]によれば ataqam il「一か所に」。

140 コチラエコイ kochirae koi come here maguyax tin axcha 161)

161) [辞]によれば ma-aGuya-X「こちらの方向へ」、tin「自分を」、aXcha「置け」。 141 モッテコイ motte koi bring it here xakáshanin 162)

162) [辞]によれば haqa-asa-「来る-一緒に-」。

142 タバコヲスエ tabako o sue smoke tobacco kanísha tabákan 163)

163) [辞]によれば ka(a) nisa-l「パイプで吸う」、tabaka-n「タバコ-複数」。

143 メシヲクエ meshi o kue take your meal kátrat tin inakam 164)

164) [辞]によれば qa-tra-t。「食べる-いつも-あなたの」。tin「あなたに」、ina-「終わ

る」。

144 キヲツケヨ kiotsukeyo take care avegájx (不詳)

145 イチレツニナラベ ichiretsu ni narabe stand in a line tágx gradámil agátil (不詳)

146 ケーレー kērē bow! nai tin navaninín (不詳)

147 シンパイスルナ shimpai suruna don’t be scared igatoganat 165) 

165) [辞]によれば ga-na-t「怖がっている」。もし「怖がるな」であれば iGa-tu-lagu-y(a) となるはずである。

(20)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ 148 タベモノ ヲ クレ tabemono o kure give me food ting qaxchí 166)

166) [辞]によれば ting「私に」、qa-Xchi-y「食べさせる」。他の方言ではqachXi-da 。 149 モーイチド mōichido once more átrak triotrá

(不詳)

150 タクサン takusan many kalágex 167)

167) [辞]によれば qalaGi-X「たくさんのもの」。

151 スコシ sukoshi few iláki 168)

168) [辞]によれば ila-kix「部分-その-双数」>「少数」。

152 モースコシ mosukoshi a little more tamán anonagól 169)

169) [辞]によれば taaman「〜だけ」、anguna-G=ul「大きい-否定」。なおローマ字のmo に長音記号がないのは原本のままである。

153 …ガタラナイ …ga taranai in need of chugagolak 170)

170) [辞]によればアトカ方言で chugaXta-lakan「不足している」。 (助動詞)

No. カナ ローマジ エーゴ アリュートゴ

154 ヘヤニハイッテヨイカ heya ni haitte yoika may I come in the room

úlan najx uyal komnatanil kagogoshítyn? 171)

171) [辞]によれば ula-an「家-あなたの」、nagii「中へ」、uya-l「行って」、komnata-an 「部屋-あなたの」、il「中に」、qangu- ? -ting「入る」。

155 ハタラカナケレバイケナイ hataraka nakereba ikenai you must work avájx 172)

172) [辞]によれば ava-「働く」。

156 タスケルコトガデキマスカ? tasukerukoto ga dekimasuka? can you help me? tin shlágokanatí 173)

173) [辞]によれば ting「私を」、ilaGu-uka-laka-t「手伝う-できる-否定-あなたが」、ii 「か」。

157 イソガシーカラデキマセン isogashīkara dekimasen I am very busy, so I can’t do so avashekatitin mal tin il ágokalakatín 174)

174) [辞]によれば ava-sigati-ting「働く-長く-私が」、mal「それで」、tin「あなたを」、 ilaGu-uka-laka-ting「手伝う-できる-否定-私が」。

(21)

謝辞:  本稿の執筆にあたり立木ちはや氏、また春日部薫氏のご子息である春日部進氏から貴重な資 料の提供を受けた。また匿名の査読者2名から貴重なコメントを頂いた。諸氏に感謝申し上げる。 引用文献: 【日本語】 春日部薫 1942a『アリュート語一班』北海道大学附属図書館所蔵、請求記号:497/KAS/別シ。 1942b「アリューシャン便り」『サンデー毎日』昭和17年11月1日号 大阪毎日新聞社:大 阪 pp.10-12 1943『アリュート族に関する報告』北海道大学附属図書館所蔵、請求記号:572.9/KAS/ 別シ。 越崎宗一 1962「アリュート記」『北海道地方史研究』45:2-13 近藤信興 1932「北洋アリユーシヤンの旅行(其二)」『地学雑誌』44(1):31-40 杉山吉良  1943『アリューシャン戦記』六興商会出版:東京 杉山正己 1987『一枚の写真を追って: アリューシャンを行く』杉山書店:東京 スチュアート ヘンリ 1980「昭和十七年 小樽 四十名のアリュート人」『諸君! : 日本を元気にするオピニオン雑 誌』12(10):188-211 1994「アリュート民族と戦後補償:歴史に隠された連行事件」『法学セミナー』477:44-47 野口泰弥 2018「イントロダクション:アラスカと日本人の関係史―戦前・戦中までの先住民との 接触を中心に」『第33回特別展 North to the Future 北方から未来へ―日本人が出 会ったアラスカ』北海道立北方民族博物館:網走 pp.4-9 野口泰弥・大島稔 2019 「日本人によるアリュート民族の研究(1):春日部薫著『アリュート族に関する報 告』(1943年)と注釈」『北海道立北方民族博物館研究紀要』28:85-110 【外国語】 Bergsland, Knut 

(22)

1994 Aleut Dictionary: Unangam Tunudgusii. Alaska Native Language Center: Fairbanks  Kasukabe, Karl Kaoru

1986 The Aleutians Front Graphics: Proof Sheets. Commercial Art Center: Nagoya   Lantis, Margaret 

1984 Aleut. In David Damas (ed.), Handbook of North American Indians vol.5. pp.161-184.,  Smithsonian Institution: Washington

Veniaminov, Ivan

1840a(2012) The Holy Gospel According to St. Matthew (translation). Synodal Printing Press:  Saint Petersburg

   http://www.asna.ca/alaska/aleut/gospel-saint-matthew.pdf

1840b(2005) Indication of the Pathway into the Kingdom of Heaven. Synodal Printing Press:  Moscow

   http://www.asna.ca/alaska/aleut/indication-of-the-pathway.pdf

1984  Notes on the Islands of the Unalashka District.  The  Elmer  E.  Rasmusen  Library  Translation program University of Alaska, Fairbanks: Fairbanks

参照

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