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(東女医大誌 第47巻 第10・11号頁 1270〜1273 昭和52年12月)
〔臨床報告〕
Wiskott−Aldrich症候群へのTfans艶r factorの影響
東京女子医科大学第二病院小児科(主任:草川三治教授)
保科 清・平林万紀子・中島 恵子
ホ シナ キヨシ ヒラバヤシマ キ コ ナカジマ ケイコ
(受付 昭和52年5月17日)
はじめに
原発性免疫不全症の中で,反復感染,湿疹,血 小板減少症を主症状とするWiskott・Aldrich症候 群(以下WASと略)は,本邦でも厚生省研究
班の調査1)では,この私達の症例も含めて28例に なるというが,詳細な報告例は現在まで18例であ
る.
最近は,WASの治療にLaurenceによるTra・
nsfer factor(以下TFと略)が応用され始めて おり,TFの効果も絶対的とまではなっていない が,多くの症例で有効性を示している3,.本邦で も松本らによりTFが分離精製され,北海道日赤 血液センターからその提供を受けて,TFの臨床 効果が報告されている9.
今回,私達もWASの1例にTFを使用した
ので,TF投与前後の検査成績とTFの効果につ いて報告すると共に,文献的考察も行ない,今後 の問題点についてもふれておきたい.症 例
患者 白○ 進,昭和50年9月30日生,男児 主訴:血便,湿疹.
既往歴・家族歴1特記すべき事なし.
現病歴:生後10日目頃から湿疹が出現し,生後1ヵ月 で下痢がみられ,便中に線状血液が混入していた.しか
し,この血性下痢便も2日間で消失.その後も1度咳喉
出現と共に血性下痢便となったが,1週間ぐらいでおさ まった.生後3ヵ月目頃から湿疹が強くなり,血性下痢 便も持続するため,昭和51年1月5日に当科外来受診.
ミルクアレルギーも疑ったが,出血斑が出現し,血小板 数も減少していたため,WASを疑い,検査入院となっ
た.
入院時一華1身長61cm,体重6,220g・全身状 態良好,機嫌も良い.頭部・顔面・頚部に湿疹多 発.顔面・頚部・前胸部に点状出血斑があった.
脈拍120/分載.胸部の理学的所見は正常.腹部で は肝1cm触知し,脾は触れなかった1咽頭発赤 なく,口蓋扁桃は小さいが存在した。全身のリン パ節は特に触れなかった.
入院時検査成績:血液所見で,一血色素工0・9g/dl,
赤血球400万,白1血球9,500,血小板は1.7万と減 少している.白血球分類で,リンパ球は49%であ った.血清学的検査で,CRP, ASO, RAはすべて 陰性,寒冷凝集素価は4倍以下,同種一血球凝集素 価も抗A抗B共に1倍と低値であった.血清総蛋
白は5・69/dl,γ一globulin分画は4.7%と低いが,生 後4ヵ月という事も考慮に入れると正常範囲内で ある.免疫グロブリン定量では,IgG 418mg/d1,
IgA 84mg/d1, IgM 31mg/dlとIgMは正常であ り,IgEは湿疹の強さに比較して25u/mlと上昇 は見られなかった.骨髄穿刺をした結果(表1,
Kiyoshi HOSHINA, Mak…ko HIRABAYASHI, Keiko NAKAJIMA=Dcpartment of Pediatrics(Director:
Pro£Sanli KUSAKAWA), The Second Hospital of Tokyo Women s Medical Collcge:Thc e既ct of transfer
factor on Wiskott−Aldrich syndrome.
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表 1 表 3
Bone Marrow 1976.1 1976.9
NCC 18.9 27.4
Megakaryo
106 38
Reticulohist三・cyteMacrolymphccytic 0.12% 0.04%
Microlymphocytic 0.04 Plasma ce1!
Phag㏄yte
Mast cen
OthersErythro,
Proerythm.
0.12Erythr。blast Bas・. 0.12 0..08
Poly. 21.6 24
Granulo.
Myeloblast
0.08 0.04Baso.
Eosino. Promyelo.
Myel㏄yte
Meta.
0.12Stab. 0.04
Seg・ 0.04
Neutro. Promyelo. 0.04 2.0 Myel㏄yte 6.4 3.6
Meta. 9.6 14.8
Stab. 13.2 14.0
Seg。 8.0 8.8
Large Lymph㏄yte 4.4 0.16 Small Ly⑪hocyte 32.0 28.4 Monocyte 0.04
Others 0.04
Lymph㏄yte subpopulation E−RFC
EA−RFC EAC−RFC
Surface globuhn 3H−thymidin uptake
PHA ConA PWM
LPS No
Skin test 対照液
0.01μg/mI
10μg/ml 10μ9/ml
10μ9/m】カンジダ菌体エキス カンジダブロスエキス
SKISD
1:1,000
1:1.000 40u/m1
68.6%
9,9 4.8 3.1
4732 4392 5186 1771
螂48時間
(一).
(一)
o 10×8.
(一)
表2 Classi丘cation of the Megakaryocytes
(Typing of Mor五ta)
1976.1 1976.9
Otype
44% 56%
Itype
16
13Htype 0 0
皿type 0 0
IV type ・0 0
Naked type 40
312),骨髄像ではTF投与前後に大きな差違はな く,共に巨核球は森田の分類で0型1型が大部分
を占めていた.
リンパ球subpopulationは,表3のごとくにT ce11の減少があり,null ce11の増加が.目立って いる.3H−Thymidine摂取率を見てもTcell, B ce11の反応性の低下が認められている.皮膚テス
トは,免疫不全症候群研究班から提供された試薬 を使用して,48時間後に判定した結果は表3に示 したとおりである.DNC豆による感作は,あまり に湿疹が強いために実施できなかった.また表に は記載しなかったが,TF投与後カンジダ三体エ キスとSKISDに陽性となっていた.
一応,検査を終了した段階でTFを1単位ずつ 4回投与し,その前後のBcellに対するTcell の影響を,Tce11の.helper作用として検討した のが表4である.投与前にはほとんどTcellの
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表4Helper activity of T cell on Transfer
factor inlection
互9Producing cell count 51.6.15 51.7.14
N.B
0.12×104 0.75×104
N.B+Pat. T α39
0.98N.B+N. T
3.17 3.3Pat. B 0.01 1.37
Pat. B+Pat. T 0.21 1.95
Pat. B+N. T 0.53 2.51
N:Norma1, Pat:Patient
Ig:Immuno910bulin表5 PO工による抗体産生
before
5d 11d 18daysTotal 0 0
23 232ME処理 0 0 2星 21
POL:Polymerized flagellin
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helper作用が見られず,健常Tce11との差は大 きかったが,TF投与後にはかなり患者Tce11 と健常Tcellの間の差が少なくなっていた.
Bcellのみによる抗体産生を検討するために,
polimerized Hage11inによる抗体産生を表5に示 した.正常では21。まで抗体価が上昇するはずで あるが,抗体産生が低下しており,Bcellその ものの機能も低下している事がわかった.
考 察
LawrenceのTransfer factorがLevinらによ ってWiskott−Aldrich症候群に応用されたのは 1970年である3>.現在は本邦でもWASに対して TFが臨床応用されるようになり,現在TFに関 する総説も数多く報告されており10,〃12),この症 例にも投与してみた.この症例についての詳細は 野州にゆずるとして,今回は本症例に対するTF の効果について詳述し,WASにおけるTF・の役 割について言及したいと思う.
まず遅延型過敏反応(delayed type hyperse−
ns三tivity,以下DTH)の改善について検討鵡てみ た結果,DNCB感作はTF投与前に湿疹が強いた め,感作そのものができなかったが,カンジダ抗 原やSKISDには陰性であった. TF 1単位を週
1回4週間投与後には,カγジダ抗原とSKISD に対して陽性となっていた.これはTF投与によ るDTHの改善が見られたものと考えている.
WASにおいてTFによるDTHの改善は, TF
投与したほとんどの例で見られた,と報告されて
いる.
次にTcellのheiper作用をTF投与前後
で比較してみると,表4から明らかなように,
immunoglobulin producing ce11の上昇が認めら
れ,TFがTce11系を刺激してT・B両系の協
同機能を上昇させた可能性は充分に考えられる.
以上の結果から,TFはDTHにみるような細 胞性免疫能をひき起すだけでなく,T・B両系に
よる抗体産生系にも影響を与える事がわかる.
Polimerized Hagellinを投与してBce11のみに よる抗体産生を検討した結果は,抗体産生が悪 く,Bcellそのものによっておこる抗体産生も
低下してい.る事がわかる.この抗体産生能につい ては残念ながらTF投与後の検討はしていない が,改善しているのではないかと思われる.
臨床症状のTFによる変化を検討してみると,
まず出血傾向の改善があげられる.一血小板減少に よる出血傾向では」血小板数に変化が見られない 状態でも出血傾向は改善し,点状出血も見られな
くなった.鼻出血が止まらずに来院した時でも,
TF 1単位皮下注射後数時間で,タンポンでも止 まらなかったのに,タンポンが取れていても止血 した.TFそのものが」血小板の少なさに無関係に 作用したのか,血小板は減少していて弔機能:充進 を来す作用がTFにあるのか,という問題が起
るが,TFそのものに止血作用があるとは思われ ず,何らかの機序を介して止血機構が働くものと 思われる.私達の例ではTF投与前後で検討した が,特に一般の凝固系検査では前後の差がみられ なかった.
湿疹の改善については,TFにより著明な改善 が見られる.TF投与後2日目には湿疹の消失が みられたが,5日目頃には再度湿疹の出現があ り,DTHが陽性化してからは湿疹の軽快してい る期間が長くなっており,現在は約2週間ぐらい 消失している..しかし,TFのlot・による差も,あ ったようで,全く湿疹に変化を示さなかったTF もあったが,昭和51年11月から投与しているTF では,現在まで安定した湿疹の改善が見られてい
る.
WASでは高IgE血症があると言われている.
高IgE血症があるために易感染性があるのでは ないか,とする報告もあるδ).この患児では湿疹 が全身性に存在するにもかかわらずIgEは正常 値を示していた.TF投与後にIgEは漸次上昇 し,4ゴ400u/mlという高値を示すようになって いる.IgE産生細胞の機能低下をもTFが改善 させただけでなく,機能充進させたのかもしれな い.WASにはIgE高値の例とIgE低値の例が あり,これをもってWASを2群に分けられるの でぽないかと考える説もあるようだが,あくまで もWASは症候群には違いないが, WASという
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症候群を示す欠損部の障害の程度であり,共に一 括してWASとしておくべきであ.ろうと考えてい
る.
ここでTFがどのような物質で,さらにどのよ うな作用を持っているか,について現在までに明 らかになったものは崎山ら4)がまとめているよう に,① 透析膜を通過しうる低分子物質である。
②トリプシン,DNAse, RNAseには感受性を示 さないが,プロナーゼには感受性を示す,③2 種類のRNA分子を含む,④ 56℃,30分では不 活化されず,凍結乾燥で4℃以下に保存すれば数 年間安定である,⑤抗原性を有しない,等であ るという.このTFをWASに投与して,およそ
60%に有効である6)とされており,またmon・cyte IgG receptorに異常がある症例でTFが有効で あるとされているが,異常がなけれぽ本当に無効 であるのだろうか..このような検討がなされてい けば,さらにTF作用の詳細が判明してくるもの
と思われる.
本邦においてもTFで治療中に自己免疫性溶 血性貧血を発症した症例があるη8).TF投与で WASそのもめの改善はみられても,自己免疫性 反応が出現する事は,現時点でその頻度は少なく.
とも,TFの免疫成立に関与する部分とその機序 についての検討に手がかりとなる可能性がある.
この症例でNBT test9)を行ない,経過観察し てみた.TF投与前NBT test 3%で陽性細胞の 全部がmonOcyteであった. TF投与後もやはり
4%と低く,全てmonocyteであり,陽性となる 好中球は認められなかった.TF投与中に発症し た眼周囲蜂窩織炎や肺炎がみられた事と相通ずる ものと思われる.他のWASではTF投与によ
り,易感染性が消失しているのに,この症例では 易感染i生が改善していない印象をうける.
まとめ
Wiskott−Aldrich症候群にTransfer factorを投 与し,その前後の臨床的かつ検査所見の変化を述 べると共に,TFの影響について詳述した.今後 はWASの障害部位やTFの作用機序の解明が
なされていくものと思う.
稿を終るにあたり,ご校閲を賜りました草川教授に深 謝致します.
なお,本論文の一部は第18回日本臨床血液学会で報告
した.
文 献
1)昭和50年度厚生省特定疾患調査研究報告.免 t 疫不全(1976)
2)保科 清・行岡紀子・平林万紀子・伊川あけみ 小児科臨床投稿中
3)Lev㎞,ム.S., LE. Spitler, D.P. Stites and
H。H. F脚denberg 3 Proc NAS 67821(1970)4)崎山幸雄・上原秀樹・富樫武弘・松本脩三:臨 床免疫8407(1976)
5)春山春枝・林英夫・貝塚逸郎・小関忠尚・水田 隆三:臨床血液16(2)260(1975)
6)Spitleセ, L.EりA.S. Levin, D.P. Stites, H.H。
F腿denberg, B. P量ro五sky, C.S. August, E.R.
Stiem, w.H. Hitzig and R.A. Gatti 3 J
CIin Invest 51 3216 (1972)
7)矢田純一:私信による(1976)
8)Ballow, M.ジB. Dupont and R.A. Good3 JPcdiat 83772 (1973)
9)月本一郎:日児誌76436(1972)
10)Lev董n, A.S.,1..E。 Sp董tler and H。H. Fuden.
berg 3.Ann Rev Med 24175(1973)
1呈).早川 浩:小児科診療381291(1975)
12)松本脩三・古山正之・富樫武弘・小林邦彦・崎 山幸雄・上原秀樹:小児医学7(5,6)752
.(1974)
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