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道南地域における職人技に関する調査研究(第3報) : 印染職人の技能について

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Academic year: 2021

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(1)Title. 道南地域における職人技に関する調査研究(第3報) : 印染職人の技能に ついて. Author(s). 林, 博昭; 井上, 平治. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 52(2): 101-114. Issue Date. 2002-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/261. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 北海道教育大学紀要 (教育科学編) 第52巻 第2号. 平 成1 4年 2月. 52 i i l Journalof Hokkaido Uni i ty of Educat on (Educat on) Vo vers , .2 , NO. Feb ー r uary ,. 2002. 道南地域における職人技に関する調査研究 (第3報) -印染職人の技能について-. 林. 博 昭*・ 井 上. 平 治**. *北海道教育大学大学院教育学研究科 (技術教育専修) *北海道教育大学函館校技術科教育研究室 *. 1. は じめ に. 第1報”において調査研究の目的を述べた. まとめると 「具体的経験の不足から生じる具体物への無関心, 一方, 教育職員免許法の改正に伴い専門科目の単位数の減少は, 技術科専攻生の具体的経験 (製作実習) の 不足したまま卒業している. これらを少しでも解消する意図をもって, (一) 地域の職人から製作指導を受 けて熟達した職人技に気付きモノ づくりの重要さを知ること, (二) 地域の貴重な職人技を記録保存するこ と」 であ る.. 第1・2報 「山下式薪ストーブの製作について」 では, 製作指導を受けつつ 随所に表出する職人技に感心 しながら, ストー ブの製作工程を明らかにし職人技を分析し, 製作工程をビデオに収録, 編集して 「山下式 薪ストーブの製作」 の ビデオを作成した‐ 今回はこれまでの手法と同様に, 指導を受けながら 「函教大技術 科」 なる旗製作の体験と, 職人山崎さんの旗製作過程をビデオ収録・編集 (ビデオ 「印染職人山崎さんの技 能」 を作製) し, 工程に従いながら 「印染職人の技能」 について考察したのでその報告をする. 2. 職人紹介・調査方法 2に よれば 道南特に渡島支庁の昭和29年の漁獲量は 道内で最も多く 他 農林省統計調査事務所の調査{ , , , 府県と比較しても長崎県に次いで漁獲量が多い. これらを商圏とする函館市は, 昭和30年代まで北洋漁業の 3 ) また平常でも新造船建造 基地として賑わい, 漁業会社は傘下の独航船に毎年出漁時に大漁旗を贈ったり( , の際は知人が船主に大漁旗を贈る習慣があ った. 従って旗や職, そして暖簾等の製作にたずさわる染物屋が 4 ) しかし 昭和3 市内に12軒程あっ たという( 0年代半ばから北洋漁業が衰退していくのと併行してその数は , . めっきり減り, 平成1 2年現在, 市内では4軒のみという実情である. 2. 1 職人紹介 今回, 調査や製作の面でお世話になった職人は, 函館市新川町にある 『丸美屋旗幕店』 の印染職人・山崎 輝一郎さん街 のである (写真1) . 丸美屋旗幕店は今から約70年程前に, 父親である先代が創業したのが始ま りで山崎さんはその2代目にあたり, この仕事を続けて今年で45年目になる. 製品は, 主に大漁旗・織・暖 簾・応援旗である (写真2) ‐ 仕事に対する情熱は熱いものがあり大変研究熱心な方である‐ 普段は大変や さしく親切な方なのだが, 仕事に対しては決して妥協を許さない. また, 「生涯現役を貫きたい」 , 「あと, 少なくとも10年は仕事を続けたい」 と, 仕事に対する熱い思いを語って下さ った. このようなところに, 山 崎さんの職人として4 0数年培ってきた気構えを感じ取ることが出来る. 1 01.

(3) . 林. 博昭・井上. 平治. 山崎さんがこの仕事をしていて喜びを感じるのは, 自分の作り上げた旗を送り届け, 客が満足してくれた とき, また, 自分の作ったものを, 街の中で見かけたときであると言う. 街へ出掛けたときあるいは旅先な どで は, 職業柄つ い店 先の 暖簾 に目が行 っ て しま い, いざらく 見入 っ て しま う こ と がある という こと である.. 山崎さんは, 家の作業場で一人で仕事を営んでいるため規模は大きくないが, 印染の中でも伝統的な手染 め職人として, 昔からの技法を貫いている. この伝統技能をもつ職人・山崎さんに, 今回調査と旗の製作指 導 を お願 い した. 2. 2. 調 査方 法. 印染職人・山崎さんの作業の様子を取材する. 取材の方法としては, 作業工程の一部始終をビデオカメラ に記録し写真にも収める. また, 旗の作業中に気付いたこと, それぞれの工程において山崎さんが話す要点 につ いてメ モ をとる. ビデオ の 内容 と現 場 で記 録 したメ モ か ら, 作 業工程 の 分析 を行 う. そ の 際, ま ず 工程. の流れにつ いて明確にし, さらにその工程の中に盛り込まれている, 職人の技能・職人技につ いて考察して い く.. また, 山崎さんの指導を受けながら実際に教室の旗 「函教大技術科」 を製作する中で, 実践を通して, 職 人技を理解する手だてとする. 3. 作業工程 3. 1 調査項目と観点 工程名さらにその工程での使用道具はもちろん記載するが, 以下に記した○数字の観点についても詳述し, 積み上げられた職人技をより鮮明にする.. ①作業内容. ②山崎さんの作業の様子. ③職人ならではの技能, 工程に盛り込まれている工夫・知恵について. ④山崎さんの作業中, また指導を受けながらの作業中における山崎さんからの作業上の注意点や指導. ⑤その工程についての感想や気が付いたことにつ いて. ⑥特殊な加工法, 道具, 工程などにつ いての補足. 3. 2 旗製作の作業工程 そ の工 程 は, 大きく 分 ける と第 1図 の よう に7つ にな る.. 作業の中で使用した道具については写真3~5に示す. 道具名は, 写真3上から, 伸子 (大)・ (小) ,張 り木. 写真4は筒袋, 筒金. 写真5は刷毛である. 3. 3. 作 業 工程. 以下に図1の作業工程の工程番号順に記述してゆく.. 1. 布の前処理 一-- 布 (綿織物) , 張り木, 伸子 ① 布を水通しをし, 張り木と伸子を使って均一に張る (写真6) . この状態で自然乾燥させる. ② 張り木に布の端を合わせ, 張り木の針一本一本に布の端を刺していく. このとき布を均一に張らなけれ ばいけないので, 針に刺すときの布の間隔が一定でなければならない. 次に布の上下方向を伸ばすために両 端に針の付いた伸子 (竹製でその弾性を利用する) で, 布のたるみを除去する. 張り木の紐を柱に結び付け, 室温の比較的高い天井に押し上げる. 夏季であればこの状態で自然乾燥さ せる. 冬季は乾燥が遅れるため, 布の下に石油スト÷ ブを置いて乾燥時間の短縮を図っている. ③ 1 02. この作 業 は, 布 の たる みや縮 み を 防 ぐこ と が 目的 であ る‐ 染 め の 前 に, あ らか じめ布 を伸 ば して お かな.

(4) . . . 道南地域における職人技に関する調査研究 (第3報). が け 子 i菅島伸. ← ,, 緬 処理. ← .下. 5 文字や絵の下絵描き (模造紙) 6. 非紅による下絵描き (布). 7. 防染のりの調合. 8. のり置き (糸目). 9. 砂かけ. 絵. 皿. の り 置 き. 11 のり 置 き (非染 色部 全 体). ー. 0 布の裏面の水塗り 1. 一. 4 文字や絵の枠取り(模造紙). 一. 1 布の水通し. 2 砂かけ 1 1 3 布の裏面の水塗り 1 4 包丁の背で水切り 1 5 自然乾燥. 17 引き染め 1 8 裏なで. : } - -. ー. 料 の 調 合 1 6染 38℃) 19 高温乾燥 (. 布 ) 剤 の 塗 固 着 一 i l譲甚. ← V ,. 鋤. 24. ソー ピング. す ) 固着酔浸. :. め ピ 留 十 一一 ン ク色. :. エ. ー. 2 3温湯洗い. ー. 2 0 固着剤の調合. i l菅島. 2 7アイロンがけ 28 裁 断 ・ミ シンが け. 繊. . ー 付け. 図1. 工程説明図. 10 3.

(5) . 林. 博昭・井上. 平治. いと, 完成 時 に 布 が縮ん で しま い, 完成 した製 品 に狂 いが生 じて しまう の であ る 例 え ば 円の 形 に染 め て . , も, 完 成 時に は楕 円にな っ て しま う とい う よう な こ と が起 こる‐. 張り木を結びつ ける柱は外径5c m程の竹を利用している. この竹の節の膨らみが張り木の紐の滑り止めに なり, 作業中でもずり落ちない. 自然物の形状をうまく利用 している. ⑤ ⑧でも述べたが張り木や伸子を用いるこの工程は, 一見簡単に思えるが, 考えてみると絵柄や文字の描 かれる部分の布の繊維方向や間隔が常に一定していないと完成時は意図した形状にならない. 後の工程に影 響を及ぼす基本工程は未経験者に任せるわけにはゆかなかったのだろう. 本工程の指導はなかった. 山崎さ んの この 作業 に お ける 素 速さ と 正 確さ は, 長 年 の 経 験 で培 っ た もの である.. ⑥ -張り木について (写真3参照) - 張り 木 と は, 印 染専用 の 布 を均 一 に張 る ため の道 具 であ る. 角 材 に, 4c m程 の 間 隔で 釘が打 た れて あり,. 釘の先端の鋭い部分が布を留める仕組みになっている. また, 張り木の両端には紐がつ いており, これで柱 に結 び つ ける.. ロ. 下絵 一-- 緋紅, 模造紙, 鉛筆, 投影機 ・ ① 布と同じ大きさに切った模造紙に, 製品のデザイ ンを基に鉛筆で下絵を描く. 下絵を描いた模造紙の上 に布 を重 ね, 緋 紅 でな ぞ っ ていく.. ② 山崎さんは, 暖簾や織等の作業では模造紙を使った下絵描きをするが, 大漁旗の作業では布の大きさか ら大まかに字や絵の枠取りをし, 模造紙を使わずに直接緋紅で描いていく. また, 普段使用することの少な い字体の場合は専用の投影機を使用してガラスのスクリーンに必要文字を映し出し, そこに模造紙を当てて な ぞ っ て いく と いう こと もある‐ 旗 の デザイ ンにつ いて は, 最近 で は客 の ニー ズも 細 かく な っ てき て お り, コ ン ピュ ー タ グラ フ ィ ッ ク によ る原 画 作成 を取 り入 れ る こ と もあ る. こ の 場合, 原 画 の 作 成 は知人 に 頼ん でい る と いう こと であ る.. ③. 大漁旗の下絵の作業においては, デザイ ンは山崎さんの頭の中に出来上がっている‐ 絵や文字の大まか な枠取りをした後は, 何も見ることなくすらすらと描いてしまう (写真7) . 字体は, ほとんどが毛筆槽書 体だが, 文字の輪郭, すなわち袋文字を描いていく作業が大変素速く, しかも力強いきれいな文字である‐ 例えば, 「はらい」 や 「はね」 の毛筆のかすれ具合などをすらすらと, しかも見事に表現していく‐ 絵のデ ザイ ンにお い て も, 魚 o 富 士 山・ 波 や水 しぶき の様 子な どを す らす らと, しか もき れい に表現 して いく と こ ろ は, 山崎さ ん の長 年 にわ た っ て 培 わ れ た勘 とセ ンス によ る もの で あ る と 言 え る‐. ④. 「函数大技術科」 旗製作の作業では, まず文字の枠取りを決めるところから非常に時間がかかった. 文. 字 の 部 分 は, 投 影機 を利 用 しスク リ ー ンに 映 し出さ れ た文 字 をな ぞ っ て いく と いう 作業 を した が, こ こで 山 崎さ ん の指 導 が 入 っ た. そ れ は, スク リ ー ンに 映 し出さ れた 文字 に は 「く せ」 があ り, 枠 内 にう まく 納ま ら. ない場合があるので, このような場合は自分の判断で, 文字の輪郭に変化をつけなければならないというこ とであ る. しか し, 初 め て の経 験 な の で 当然 の こと だ が 山 崎さ んの よ う にうまく はいか な か っ た 注意 を受 .. けた点として, 文字をきれいに見せるコツは右上がりに書いていくこと, 「はらい」 や 「はね」 の部分は力 強く見せること, なるべく枠内に収めなければいけないが, 場合によっては多少枠からはみ出させたほうが 文字 の バ ラ ンス と して は良 い場合 があ る と いう こ と で あ っ た.. 模造紙の下絵を終えると, 次は模造紙の上に布を重ね緋紅 でなぞっていくという作業に入る‐ この場合に お いて も, た だ な ぞる と いう だ けで はなく, 字 の 大き さ や バ ラ ンス に注 意 しな が ら微 妙 な 調整 を加 え て いか な けれ ばな らな い. ⑤. こ の工程 は, 山 崎さ ん の長 年 の 経験 に よ っ て 培わ れた勘 と セ ンス, そ して何 より デザイ ンに 対す る こ だ. わりを感じさせるところであった. 山崎さんの作業の様子を見ていると, いとも簡単に描いているように見 04 1.

(6) . 道南地域における職人技に関する調査研究 (第3報). えるので, 簡単に出来るのではと思えてしまう. しかし, 実際に体験してみると当然ではあるが, 山崎さん のようには出来なかった. 字体は毛筆楢書体であるが, 書道に関するセンスも要求されると感じる. 文字の 「とめ」・「はね」・「はらい」 や, 字の太さの強弱などを, きれいに表現することは大変難 しい. この工程に おける山崎さんの技能は, 正に 「職人技」 と言えるところである. ⑥. -緋紅について (写真8) - 緋 紅 は, 「ヒ ベ ニ」 ま た は 「ヒコ ウ」 と 読 む. 印 染 専用 の 絵 の 具 の よ う な も の で, 水 洗 い に よ っ て 完 全 に. 消えてしまう. 現在では, 緋紅を作る職人がおらず, その原料・製造方法等について山崎さん御自身は不明 なのだという. 現物は固形になっており, 少量を削り取り水で薄めて使用する. ほんの少量で十分なので, 「今持っている量で10年以上はもつ」 ということである. 印染職人にとっては大変貴重なものである. 現在 では緋紅によく似た 「人工緋紅」 と呼ばれるものが市販されているが, 本物よりも色落ちが悪く, 大変使い にく いと い う こ と であ る.. -投影機につ いて- 文字やデザイ ンを, 模造紙や布の上に映し出すための機械である. 学校の校章やキャラクターなどを忠実 に表現するために使用する. また, 普段書くことの少ない字体の文字や, 難しい文字の下絵描きに利用する こと もあ る.. m. のり置き 一-- 防染のり, 筒袋, 筒金, 刷毛, 包丁 ① 防染のりを筒袋の中に入れ, 下絵を施した布の上に絞り出 しながら丁寧に置いていく. 初めは小さめの 筒金で, 文字や絵の縁取りをする. この作業の後, のりの上に砂をかける. 次に布の裏面に刷毛で水を塗り, 包丁の背で擦って余計な水分を除く. これは, 表面に置かれたのりを裏面にまで浸透させるためである. 次 に, 染色しない部分全体に, 大きめの筒金でのりを置く. 後は, 前述と同様に砂をかけ裏面全体に水を塗り 包丁の背で擦る. 最後に布切れで裏地を丁寧に拭き取る. ② -防染のりを作る作業- まず糠をふるいにかけ, それに石灰 (いしばい) という縞覇を固めるときに使用する粉を加え, さらに水 を加えてすり鉢の中でよく練る. このとき石灰の分量が多すぎると固まり過ぎてしまうし, 少な過ぎるとド ロ っ と した粘り のな いもの にな っ て しま う. こ の配分 は特に決ま っ ているわ けで はなく, 山崎さ んの勘 に よ っ. て行われている. これに生 (き) のりを加える. 生のりとは, 白玉粉に石灰を加えたものに, 水・塩を加え て 鍋 で 煮 た もの であ る. 塩 を 加 え る の は, の り が 乾 燥 したと き に ひ び割 れ が起 こる の を 防 ぐた め であ る. こ. の合わせたものをすり鉢の中でよく練る (写真9) . これはかなり力の要する作業である. こうして防染の 0 ) りが完成する (写真1 . -布地にのりを置く作業- 初めに文字や絵の縁取りを行う. 小さめの筒金で丁寧にのりを置く‐ この作業によって作品の仕上がりが 大きく変わってくるため, 慎重に作業を進めなければならない. ここでは毛筆のかすれ具合や絵の生き生き としたところが, のりを置くスピr ドや筒袋の絞り具合などの細かな微調整によって見事に表現される (写 真11 ) ‐ また, この工程は 「筒書き」(筒引き) とも呼ばれている. 色 と 色と の境 目に もの り を 置く. こ れ は色 の 区別 を は っ き りさ せる ため の ものである. この作業 のこと を,. 職人の間では 「糸目をつける」 という. この作業により, 染料と染料が絵の具のように混じり合い, 色の境 目がぼやけてしまうのを防ぐ. ここで職人技を感じるところは, やはりのり置きの技能である. 山崎さんの作業の様子からは, 素速さ と正確さを感じ取ることが出来る. 例えば, 一つの文字にすらすらとのりを置き, あっという間に完成して. ③. しまうが, そののり置きされた文字は毛筆の 「とめ」・「はね」・「はらい」 など文字の特徴を見事に表現して 105.

(7) . 林. 博昭・井上. 平治. い る.. 山崎さんは, 布に置かれたのりの上に砂をかける (写真12 ) . これは乾燥を早めるのと, 乾燥したのりに ひび割れが生じるのを防ぐためである. ただリスク として引き染めの際に, 刷毛の中に砂が入り込み刷毛が 傷ん で しま う こと が ある.. 山崎さんは一度, 文字や絵の枠, 糸目の部分にのりを置いた後, 砂を撒き, 裏面全体に水を塗り包丁の背 で擦 る. そ の後 で染 色 しな い部分 す べ て にのり を置く よ う に して いる. こ れ は作 業 の能 率 か ら考え れ ば, 一. 気に全ての部分にのりを置き, 砂を撒いた方が能率的である. しかし, 一気にのりを置いた場合, のりが余 計な部 分 にま で はみ 出 して しま い, 染 め ム ラ の 原 因 に な る こ と が あ る. この 作業 は一度 のり が布 に付 いて し ま う と, 修 整 が で き な いた め 慎重 に 作業 を進 め な けれ ばな らな いと こ ろ で ある. ま た, 出来 上 が っ た ものの 良 し悪 しはここ で 決ま る と い うく ら い重 要な 工 程 であ る‐ そ の た め, 手間 はか か っ て も製 品 の 仕上 が り をよ り 良 い もの にす る ため, こ の よう な 工 程 で進 め ている の であ る.. ④. この工程で最も苦労を要したのは, やはりのり置きである‐ ここで受けた指導は 「筒金を布に置くとき. の力 の入 れ具 合」・「筒 袋 か らのり を絞り 出す 量の調整」 ・そ して 「筒 金 を動 か すス ピー ド」 につ い て である. こ の3つ を しっ か り と体で 覚 える こと が 出来 な けれ ば, 均 一 にの り を置く こと は 出来な い. ま た, 布 の余 計 な 部分 にの り が付 い て しま う と, 染 め ム ラ の原 因とな っ て しま う.・と にかく 失敗 が許さ れな い の であ る. こ. の技能を会得してこそ一人前の職人と認められるほどに重要な工程である. ⑤. この工程は想像以上に難しい作業であっ た. 山崎さんの作業を見ているといとも簡単に素速くのりを置. い ていく の だ が, 全く 思う よ う に行 か な か っ た. 失 敗 が な い よ う に と練 習 用 の 布 にのり を置 い て みた が, 直 線 す らき れ い に 表 現 す る こ と が 出 来 な い. こ れ は布 と 筒 金 の 間 に 隙 間 を つ く っ て い る こ と が原 因 だ っ た. 「も っ と ペ ンで書く よ う な 感 じで」 と 指 摘さ れ, そ の よ う に 置 い て みる と 今 度 は布 に のり が置 か れ て い な い 部 分 が 出来 て しま っ た. こ れ は筒 袋 の 絞り が 弱 い ため で あ っ た. こ のよ う に前 述 の 「3 つ の 要 点」 が バ ラ ン ス 良く 出来 な い と, き れい な線 を描く こと が 出 来な い. その ため 練 習 だ けで30分以 上 か か っ て しま っ た‐. また, 本番では練習以上に緊張してしまい, 手が震えてうまく筒袋を動かすことが出来なかった. 作業の 前 に, 山 崎さ ん か ら, この 作業 は40分 以 内で 終 わ らせ る よう にと 言わ れて い た. こ れ以 上 時 間 をか ける との. りが乾燥し始めて, 裏地に十分に浸透しなくなってしまうのである. しかし指導を受けながらのこの作業に 3 時 間か か っ て しま っ た. そ のため 途 中で一度 作業 を止 め, 裏 地に水 を 塗 っ てのり の乾燥 を防 い だ. こ れ は,. 本来であれば有り得ないことであり, 山崎さんの配慮によるものだった. 直線をきれいに表現することも出来ないのに, 毛筆の 「とめ」・「はね」・「はらい」 や, かすれ具合などを きれいに表現することは不可能に近かった. そのため 慎重に作業を進めたが, それでものりがはみ出したり ムラが出来てしまう. 手直しを十分に行い何とか完成させることができた (写真1 3 ) . -筒袋・筒金について (写真4参照) -. ⑥. 筒袋は, 本来, 和紙を何枚も張り合わせたもので出来ている. しかし, 山崎さんが実際に使用しているも の は, テ ントな どに 使用 す る 厚手 の ビニ ー ル製 の布 か ら 山崎さ ん 自 らが 作 っ た もの であ る. 筒 金 は真 鍬 で 出. 来ており用途によって大きさが違う. I V . 引き染め 一-- 染料, 刷毛 ① 染料を調合し, 出来上がった染料を刷毛にとり布に染めていく. この後裏返して布の毛羽立った部分を 指で馴染ませる. この作業を 「裏なで」 と言う‐ この作業が終了したら, 石油ストーブで部屋の温度を38度 くらいに保ち乾燥させる.. ② -染料の調合- 染料を調合するとき, 染料と湯の配合比に特 に注意が必要である. 染料の量が多いと乾燥後の色が濃すぎ 1 06.

(8) . 道南地域における職人技に関する調査研究 (第3報). て しまうし, 逆に湯の割合が多いと薄くなってしまう. 染料が足りなくなり, 新たに染料を調合するとなる と, なかなか同じ色をつくることが出来ない. また色も, その色の濃さや明るさなどにより非常に種類が多 い. ま た, 2 種 類以 上 の染 料 を混 ぜ る こ と によ っ て新 た な 色 を つく る 場合 も あ る. イメ ー ジと して は絵 の 具 を混 ぜ合 わせる 感覚 に近 いが, 必 ず しも同 じで はな い. 例 え ば, ブラ ッ ク を つ く る 場 合, 少 しのオ レン ジ色 を加 え る. こう す る こ と によ っ て, よ り 深 みの あ る ブラ ッ ク にな ると いう こ となの である‐ 最 後 に ア ル ギ ン のり を加 える. ア ル ギ ンのり と は, ア ル ギ ン酸ナ トリ ウ ムの 粉 末 を水 で溶 か して の り 状 に した もの で あ る.. これを加えることにより, 染料の歩留まりを良くする. つまり, 染料にある程度の粘り気を加えることによっ て, 染 め たとき の に じみ を 防 ぐ と い う 効 果 がある.. -引き染め- 染める面積によって大きさの違う刷毛を使い分ける. この作業を見ていると山崎さんはいとも簡単に染め と 上 げて いく の で, そ れ ほ ど難 しい 工 程 で はな いよ う に みえ る (写 真14) . しか しこの 作 業 も, の り 置き 同 様 に, 失 敗 の許 さ れな い 工程 であ る. ここ で は, 染 め ム ラ のな いよ う に布 を 光 に透 か して何 度 も確 認 しな が. ら染めている. また, 糸目の部分の染色には特に注意が必要である. 糸目は細いので, 刷毛が糸目をはみ出 して しま い, 染 めて はい けな い部 分 にま で 染料 が 付 いて しま う こと があ る‐. 刷毛で染めていくのは表側だけであるが, 裏面にまで染料が浸透していなければならない. 裏面を一見す る と, 染 料 が浸 透 しき っ て いる よ う に 見え る が, よく 見 て み る と 布 の 毛羽 立 っ て い る部 分 が 白く 残 っ て いる こ と があ る. こ の状 態 で は, や はり 完成 時 に も白く 残 っ て しま う. そ の ため 「裏 な で」 を行 う の であ る‐ し か し, こ の 毛羽 立 ちの た め 白く 残 っ て いる と いう 見 極め は, 未 経験 者 に は無 理 だと いう こ と で あ る‐. ) 5 夏場の作業では, 山崎さんは顔にタオ ルを巻くようにしている (写真1 . これは作業中に, 汗が布に滴 り落ちるのを防ぐためである. 汗が布地に付くと, 変色したり塗りムラの原因となる場合がある. ③. 前 述 したが, 見て いると いと も簡 単 に 染 め上 げて いく の でさ ほ ど難 しく な い作業 の よう に感 じて しま う‐. しかし, ここでの失敗は製品そのものを駄目にしてしまう. 作業の様子を注意深く見ていると, 刷毛を速い ス ピー ドで動 か して い て も, 糸 目 の 付近 で は小刻 み に刷 毛 を動 か した り, 広 い範 囲 で は大 きく 刷 毛 を動 か し て い る.. ④. ここではまず, 刷毛が糸目からはみ出さないように注意することが重要である. 大漁旗の製作を手伝わ. せ て頂 い た時 に 実 際 に染 めて みる と, 緊張 して手 の 動 き が にぶく, 糸 目か ら はみ 出 して しま う と いう こ と が. あった. また, 作業に慣れてくると, 油断から刷毛を速く動かし過ぎてしまいやはり失敗してしま った. 失 ) 敗出来ないという緊張感からか, 「素速く, 丁寧に」 がなかなか出来ず苦労 したところであった (写真16 . 刷毛 の動 か し方 につ い て も 注意 を受 けた. そ れ は, 刷 毛 をね じ っ たり, 布 に対 して 垂直 に当 てて はい けな い と い う こ と で あ る. こ の よ う に して 刷 毛 を動 か す と, 刷 毛 に 付 い た 染 料 が 飛 び散 る 恐 れ が あ る. ま た,. 「函教大技術科」 旗製作の作業において, 刷毛に染料 をたっぷりと取りすぎたために, 布に多く染料 を乗せ 過ぎてしまった点も注意された. この場合, 染まりが悪く なることはないの だが, 布を裏返す際に糸目の裏 面の部分に染料が垂れてしまう. こうなると, 修整を加えてもその跡が残って しまい, 製品全体の失敗につ ) ながる. このことを, 印染職人の間では, 「色が泣く」 と称すると山崎さんが話して下さった (写真17 . ⑤ この工程も, 体験してみてその 難しさと山崎さんの優れた技能を実感出来た. 「函教大技術科」 旗製作 の作業のみでなく大漁旗の引き染めの作業もさせて頂いたのだが, これは売り物ということもあり特に緊張 した. 当然ではあるが職人の技能をいきなり真似することは不可能である. 引き染めの作業は絶対に失敗の 許されない工程であり, そのため緊張して刷毛が思い通りに動いてく れない. また, 張り木に固定している だけでは布が安定せず, それも作業を困難にしている要因であった. そこで, 身体に伸子の針を引っ掛ける ことで布が動かないようにすることに気付 いて試みた. このように試行錯誤の上に合理的な作業方法を構築 107.

(9) . 林. 博昭・井上. 平治. していることが, 職人技には多く存在するのであろう 大漁旗の引き染めをお手伝いさせて頂いたとき 山 . , 崎さんと同時の作業であったのだが, こちらがある範囲を染めた時点で 山崎さんはその4~5倍の範囲を , す で に染 め 終 えて しま っ て い た しか も光 に透 か して みる と 山 崎さ ん の 方 に は全く 染 め ム ラ がな い の に対 . , し, こち らの 方 は所々 に白 い部 分 つま り 染 め ム ラ が見 られ た ま た う か り糸 目 を はみ 出 して しま い色 っ , . ,. が混じっている部分もあった. これは次の 「色留め」 の工程で修整できたが 山崎さんに大変迷惑を掛けて , しま っ た.. 「函教大技術科」 旗の方は染料が1色のみということもあり しかも大漁旗の作業の後だ たので割と楽 っ , に作業を進めることが出来たかに思われた しかし 刷毛に染料を多く取りすぎたため に 「色が泣いて」 し . , ま っ たの であ る. こ の失 敗 によ り 結局 完成 ま で跡 が残 る こと に なる , , .. ⑥ -染料について- 反応染料という合成染料を使用している 反応染料は発色の鮮やかさと洗濯による色落ちが殆ど見られな . いことから, 最も多くの場面で使われている合成染料である また 染料会社も多数あり商品名も異なる . , . 山崎さんの場合は, 2つの染料会社から染料を購入している いろいろな染料を試した上で 今の染料に至 っ . , てい る という こと であ る.. -刷毛について (写真5参照) - 作業 場 に は幾 つ もの刷 毛 が見 られる 刷毛 の 規 格 も様々 で 場 面 によ っ て 使 い分 けて いる ま た 1 の つ . , . ,. 色に対してその色専用の刷毛を使用するようにしている 例えば 赤を染めた刷毛を青に使用すると 刷毛 . , , に残 っ て いた 染料 が 混 じり 染 め たと き に 変色 す る こ と があ る もち ろ ん 使 う度 に洗 て いる のだ がそ れで っ . ,. もこのようなことが起こり得る可能性がある そのため 作業場に何本もの刷毛があるのである . , . V. 色留め 一-- 固着剤, 刷毛 ① 色留めと は, 染料を布に固着するという意味である 固着剤を調合しこれを刷毛で満遍なく塗布する . . この作業の後, 布を自然乾燥させる. またこの工程の中で, 引き染めにおける失敗を若干修整することが出来る 失敗した部分にのりを置くこ . と によ り, 固 着剤 を塗 布 した 時 に そ の 部分 の 固 着 が弱ま る こ う す るこ と によ り 後 の ソ ー ピ ン グの 工程 , . ,. で, ある程度の染料を取り除くことが出来る しかし 完全に取り除けるというわけではない , . .. ② -固着剤の調合- 固着剤 は苛性 ソー ダに, ト ライ ポ ー ルと呼 ばれ る 薬品 を加え て作 る 苛性 ソ ー ダは強 ア ルカ リ 性の 劇薬 で . ,. 皮膚に触れると荒れることがあり その取り扱いには注意を要する この作業中には ゴーグルをかけるよう , . に し て いる.. -固着剤の塗布- 布の下に新聞紙を敷き, 大きめの刷毛で布地に満遍なく塗布していく (写真18 ) . 固着をムラなく行うた めに, 大目に塗布する. 新聞紙を敷くのは固着剤が垂れ落ちるのを受け止めるためである . ④ 固着剤を, 引き染めにおける染料よりも大目に刷毛にとるようにと指導を受けた . ⑤. この 作業 は引 き 染 め によく 似 て いる 塗 布 の 際 に 量 を た っ ぷ り と る と ころ が若 干 異な る 点 であ る 固 . , ‐. 着剤を塗布した状態でもまだ発色を確認することが出来ないので 染めムラがないか あるいはのりの置か , , れた部分に染料が刺さり込ん でいないか不安が残る (写真19 ) . また, ここで 「色が泣いて」 しま った部分 にのりを置き, 修整を試みた‐ W. ソーピング・色留め 一-- 高温石鹸 固着剤 , ① 大きめの浴槽で湯を沸かす. ここでは 風呂を沸かすときに使う湯沸し機を使用している 大きめの桶 , . に, 沸かした 湯と水を入れ温湯にする. この温湯の中に布を入れてよく洗い 余分な染料やのりを落とす , ‐ 1 0 8.

(10) . 道南地域における職人技に関する調査研究 (第3報). この作業を, 温湯を取り替えながら4~5回繰り返す. この後, 布を洗濯機に入れよく濯ぐ. 次に高温石鹸 を熱湯で溶いたものを温湯に加え, 布を入れてソーピングを行う. 温湯でよく濯ぎ, 洗剤をきれいに落とし た後, 再び布を固着剤に浸し仕上げの色留めを行う (写真20 ) . この布を脱水機にかけ自然乾燥させる (写 真21 ) . 旗はこれで完成である. ②. -布を温湯で洗う作業- 熱湯と水を混ぜて温湯を作り布を洗っていくのであるが, これは全て手作業で非常に力の要する作業であ. る. ソー ピング前の布は色が完成時に比べて濃くなっている. この布を温湯の中に入れると温湯はすぐに染 料の色に変わっ てしまう. これは布に固着しきれなかった染料や余分な固着剤が落ちるためである. そのた め, 何度も温湯を取り替えては布を洗っていく. バケツにお湯を汲み布を洗い, またお湯を取り替えるとき , 山崎さんの顔は汗だくになっている (写真22 4~5回程この作業を繰 ) り返すと, のりがふやけて布から . 剥がれるようになる. この状態でようやく旗の鮮やかな発色を確認出来る (写真23 ) . -高 温石 鹸 によ るソ ー ピ ン グー. 高温石鹸は熱湯によってのみ溶かすことが出来る. そこで一度, 少量の熱湯で石鹸をよく溶かしてから使 用 す る. ソ ー ピ ン グによ っ て 布 に 固 着 しき れな か っ た染 料 と, 固着剤 を 完全 に落と しき る こと が 出来 る . ⑤. こ こ はと て も力 の 要す る 作業 であ っ た. 温湯 で 布 を洗 っ て いく と, の り がふ や けて剥 が れてく る ソ ー .. ピング・色留めを行い, 自然乾燥を終えると, やっと旗の出来上がりを確認出来るようになる 「色が泣い . て」 しま った部分はあまり目立たなくなったがやはり跡は消えなかった. 満足感もあるが少々残念でもある (写真24 ) . W. 飾り付け 一-- ふさ, 飾り 用 革, ハ ト〆 ①. ま ず, 布 に アイ ロ ンが けを行 い, 布 の 端 を 裁 断 して す そ 縫 いをす る. 次 に旗 によ っ て は布の 端 にふ さ を. 縫 い付 ける. こ の後, 布 の左 端 の 両 隅 に革 を縫 い 付 け, そ の 上 か ら パ ンチ で 穴 をあ げハ ト〆 を つ ける . ②. こ の 作業 は全 て 山 崎さ ん の 奥さ ん の 手 によ っ て 行わ れる. はさ み の入 れ 方, ミ シンによ るす そ 縫 い 飾 ,. り付けは, 山崎さんの染め等の作業と同様に大変素速く正確であった (写真2 5 )・(写真26 ) . ④ 「函教大技術科」 旗の製作ではこの工程を奥さんに行って頂いた (写真27 ) . ⑤. 作 業 中, 「う ち の主 人 の製 品 はここ が す ば ら しいん で す よ.」 とよく 話 して い た そ の と き に作業 を横 で .. 見ていた山崎さんの照れた様子が非常に印象的であ った. 出来上がった製品はきれいに折り畳まれ 「祝 , 大漁」 と書かれた屡斗をつけて送り届けられる. 奥斗に文字を書いている山崎さんの表情は自信を持って製 品を送り出すという充実感と満足感に満ちていた (写真28 ) . 4. おわ り に. 第1 0 2報 にお いて, 職 人技 につ いて次 の3 つ の基 準 を 特徴点 と して あ げた. そ れ は 「速さ」・「正 確さ」・ 「柔軟性」 である. 本報では印染職人・ 山崎さんを取材調査し, また 「北教大技術科」 旗の製作の指導を受けながら作業をさ せて頂く中で, 上記の3点についてやはり強い印象が残った. その点を 印染職人ならではの技能に見られ , る特徴点を含めながら考察を加えることとする。 「速. さ」 --- 下絵, のり置き, 引き染めのどれを取っ てみても 山崎さんの作業の速さを感じること ,. が出来る. 実際に作業を体験させて頂いたが, 山崎さんのスピー ドに追いつくことは到底不可能だった こ . れは, 作業の方法につ いて頭では理解していても実現出来ないのである. それは山崎さんが長い経験によっ て修得した技能, すなわち職人技なのである. 109.

(11) . 林. 博昭・井上. 平治. 「正 確さ」 --- 山崎さ ん は, 「作業 はい い か げん で ある. しか し, 出来 上 が っ た製 品 は良 い加 減 である.」 と冗談 交 じり で 述べ た. これ は, 機 械や, コ ン ピュ ー タ によ る 正 確さ と は異 な る もの で ある. 作 業 の 状況,. 製品の仕上がり具合を意図的に, あるいは無意識に見極めるという, 山崎さん自身の主観的判断に基づく正 確さなのである‐ これは, 長年培った経験によらなければ身に付けることの出来ない技能と言える. 即ち職 人 技な の であ る.. 「柔軟性」 --- これは, 正確さにも関係するところであるが, 例えば下絵における文字の大きさの微調 整, 作業中の失敗を機転を利かせて修整するところに職人としての柔軟性を感じ取ることが出来る. しかし, これはその場の発想というだけではなく, 豊富な経験に裏打ちされるものである. 長年の仕事の中で様々な 状 況 に 直面 し, そ れ を 解 決 して いく 過程 に お い て 得 られる も のなの で はな い だ ろう か.. 以上, 職人技の特徴点である3つについて, 印染職人の取材調査から感じた点を述べた. この3つに共通 して言 え るこ と は, 職 人 技 と は, 長 年の 経 験 によ り 獲 得 した真 似 の で きな い技 能であ る という こ と で あ る. そ れ は, も しこう した 技能 に対 する マ ニ ュ ア ルがあ っ た と して も即 座 に応用 出来な い であろ う‐ つ ま り,. 頭の中にその作業工程や注意点を思い浮かべることが出来たとしても, 短時間にその技能を実現出来ないと いう こ とである. そ れ が即 ち 職 人 技 であ る と 言 える だろう‐ 印染職人の 技能 にお いて は, こ の 3 つ の 特 徴に加 え てさ らに美術 的な セ ンス も含ま れると感 じる. そ れ は, 山 崎さ ん の製 品 の美 しさ に対す る 「こだ わ り」 が生 み 出 して いる の で はな い だろ う か. 例 え ば, 引 き 染 め の とき, 客 にはな かな かわ か らない よう な 裏 地の 毛 羽 立ち の部 分 も丁 寧 に染 める. ま た, 少 しで も納 得 がい か. ない部分があると製品自体を作り直すこともある. それは山崎さんの決して妥協を許さない 「こだわり」 で あ る.. 今回, 旗製作を体験してみてその困難性を実感したと同時に, 失敗を繰り返しながらも何とか完成させる ことが出来たという充実感が得られた. これは, 実際に作業を体験してみることでしか味わうことの出来な い感慨である‐ 我々の周辺に存在する事物の一つである旗 (職や暖簾も含めて) が, 長い人類の歴史の中で 引き継いできた知識や技能から生み出されたものであること, さらに, それらが作業にかかわる人間 (職人) により 新 しい アイ デア が加 え られ て, 今 後 に継 承さ れ ていく のだと いう こと を 実感 した‐. 以上のように事物の成り立ちを理解する上で作業体験が重要であるし, またこのことが労働観や職業観の 育成 につ な がる. 技 術 科 の モノ づ く り に期 待さ れ て い る観 点 はこの こ と である.. 参考文献 ) 井上o金森, 道南地域における職人技に関する調査研究 (第1報) -山下式薪ストーブの製作について-, ( 1 北海道教育大学紀要 (教育科学編) , 第51巻第1号, 平成12年9月, p.229 . { 2 ) 農林省統計調査事務所編, 北海道ポケッ ト農林水産統計19 0 56一57版, 昭和31年, p.1 5 . { ) 北海道開発問題研究調査会編, しゃり ばり, 株式会社秋山愛生舘, 199 3 0年9月, p.4 3 . ( ) 上掲書( 3 ) 0 4 4 , p. . その他, 「佐藤弘幸監修, 日本の印染, 全国青年印染経営研究会, 199 1年2月」・「クミタ リュウ, 平成 職人絵伝-日本の 「技」 に生きる84人衆-, 透土社, 19 92年1月」 は, 術語の理解に役立った‐ (林. 博昭. 函館校大学院生). (井上 平治 函 館 校 教 授). 1 0 1.

(12) . . 道南地域における職人技に関する調査研究 (第3報). - ‐ - - ′ - ′ 『一軒. - ,. : Jr識.. i1 i ’ 」 ー、. 〕 .需. き 覇震 『 璽 ミ ド 鮒べ. . 印染職人・山崎さん. 写真1. . . ド. 一‘ だ 鞭 三 、. M. . . 写真5. 刷毛. 1 霞む ・. . 写真2 大漁旗. 写真6. 張り木・伸子がけ. 可 写真3 伸子・張り木. 写真7. 緋紅による下絵描き. . . ≦. . ー . ー r キ 露語 き樵, 」 ◆ , か敷 キ 一義 ー ふ閣 零 義三一 , . 一三1縦 隊凧” 岸 , , .- , , .テ . E P 下 職三 ー . .. 写真4. 筒袋・筒金. 写真8. . ・- ,嚇爺ギヤ . べきキセ ・ . 二総.議さ臨キ ,,南 ず 鴇減ぜ. , 郷瀞都 , , i. “ , . 好き ; ・ i 精一 γ. :. 駆り ぎ 燕 1 も .講}. 水溶きした緋紅 (左). 111.

(13) . . . 博昭・井上 平治. 林 . . . . . 1 れ /fT「 ′ ぶ こぎ. \ , ・. . ドイ. 1 寺や , ヂ十一〜 L. もく. ‐、″. ‐ \ エ ーr ーr ー L. . Lr. 繍, ・ - ◆ -‘ . ・ . . 、 ー 十.、 、 ・ ′ 、 ・ 、 十 、 - ‐ ー‐ 、 ノ \ ¥』 二 - .- -” 、 ‐・ .. . . r 一 .〆. ”ー. \r. ず ぷ、 ‐. ・. r ′ ((. 写真9. . . \L ,. 」. ,. 防染のりの調合. 「函教大技術科」 旗の のり置きが完成した状態. 写真13. /. . ・. . 、 ー. . . ミミ . . . . ト すも. 写真lo 完成した防染のり. . 写真14 引き染めの様子. . . . 1 ~ r ドr「コ ミ 三一. ‐ 一 ‐1 4 - ;比 1 1 ; じ き》;- に二島 . . . . . . 写真11 のり置きの様子. 写真15 汗が布に落ちるのを防ぐため 顔にタオルを巻く. . . . ー. . . ‐ - -. ・キー--; だ ヒ ヂ. 写真12 砂かけ. 112. . ノコ ー ・- ; ‐. . . . デ. ー. ぬ「. L - 「 -. . . ク き,諸 . ゴー iト. . き;キ ーニ 、- -.~. .・ 、 ・N. L. 一 一当ゞ~\れん. 写真16 「函教大技術科」 旗の引き染めの様子.

(14) . . 道南地域における職人技に関する調査研究 (第3報). J - -. 写真17 色が泣く (白地に染料が染み込んだ部分). ー ′- かハ 鴛,. . ,. - - ;ゴ - ー - - - -. R 、 . ). ぞ. バ ー「Yrr--- . . - . ベメ 4. - .. ジ ・. 写真2 1 大漁旗の自然乾燥. 、 ・ 」. 二. . き ざ 革デー . 写真18 色留め (固着剤の塗布). き ー醒.. -ざ も き 浮 ; ← . 一. . . . 2 温湯洗いの様子 写真2. き - ミ リ. l - a . . 写真19. 」. 「函教大技術科」 旗の色留めの様子. 写真23 温湯洗い後の発色確認. 」. 写真20 色留め (固着剤に浸す). 写真24. 三一 が -. 「函数大技術科」 旗の自然乾燥. 113.

(15) . . 博昭・井上 平治. 林 、‐ F- - r .・. 一. ′r旧▲.- -. \ ず響 二 き 二 ・ . 連 覇 締 . . . .: :. 「 - 「. . 料1 技術奉. . . . . . . . . . ヤ ‘ \ \二 -ユ L: . さ ,. --. =. 」. 、 、 . ー . ・ 」 . ・, , . ・ ノ. , ー . ・、 ‐ . . . ー も. . ノ. 、 ・ \ .. 、. お. ・ - r h . . ず.. 写真26 ミシンによるふさ付け. 114. トー. 写真27 完成した 「函教大技術科」 旗. 5 はさみによる裁断 写真2. Lメ 一. -…-:「蟹罰翻 ″ ^ ”. . 8 夏斗に 「祝 写真2. 大漁」 と書く山崎さん.

(16)

参照

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