離島の教師の専門的成長への支援 : 北海道奥尻島における英語教師の授業改善の軌跡
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(2) No.64. 離島の教師の専門的成長への支援. 離島の教師の専門的成長への支援 一北海道奥尻島における英語教師の授業改善の軌跡−. 木 塚 雅 貴 (京都府立医科大学大学院医学研究科 第1外国語教室) 木 村 吾 勝 (北海道音更町立下音更中学校英語科教諭・前北海道奥尻町立奥尻中学校英語科教諭). AsupportProjectforaTeacherofEnglishonaRemoteIsland. −ASchemeforTeacherDevelopmentthrough“LessonStudy”− MasatakaKIZUKA,AgatsuKIMURA. わち,日本のへき地教育は,本来離島を抜きには考える. Ⅰ.問題の所在. ことができないはずであり,離島の教育を正面から採り 上げる必要性は,学術的にも離島の教育支援の観点から. 本稿の主題は,奥尻島で約9カ月にわたり行われた奥 尻中学校の英語教師の授業改善を支援する取り組みの実. も大きいと言える。. 践事例を分析することにより,離島の教師が直面してい. 従って本稿では,北海道の離島の一つである奥尻島を. る現実の課題にどのように対処することで,教師の専門. 対象とし,そこの中学校の英語教師の授業改善に対して. 的成長を促すことが可能となるかについて,明らかにす. 行ってきた支援を考察し,奥尻島の英語教育,ひいては. ることにある。. 離島の英語教育全体を考える一つの布石を敷くことをね らいとする。. 離島の教育は,へき地教育の中に分類されながらも, 一般的にその調査・研究あるいは支援の対象にはほとん どなっていない。その証拠に,少なくとも英語教育の領. Ⅰ.調査・研究の背景と方法. 域においては,離島の英語教育に関わる学術的な調査・. 本研究の発端は,2008年2月に,総務省「地域ICT. 研究や離島の学校における英語教師の支援に関する具体. 的な報告が見出されない(1)だけでなく,教育学全体を. 振興型研究開発(SCOPE)」による研究(5)の一環として. 鳥撤してみても,離島の教育一般に関する調査・研究は. 筆者が行った奥尻島の小学校英語活動と中学校英語教育. 行われている(2)ものの,教科教育研究においては,複. の実情調査にある。この調査では,島内の小学校1校(奥. 式学級における指導方法や授業実践記録に基づく授業展. 尻小学枚)と中学枚2枚(青苗中学枚・奥尻中学枚)(6),. 開に関わる報告が見られるのみであり,離島の教育に関. 並びに町の教育委員会において,小学枚の英語活動と中. する学術的な調査・研究や離島の教師の専門的成長を支. 学枚の英語教育に関する聞き取り調査を行った(7)。そ. 援する取り組みは,皆無に等しい。すなわち,へき地教. の過程で,奥尻中学枚英語科の木村吾勝教諭(8)から,. 育の中でも,陸続きではない離島は,さらに「へき地」. 離島の教師の実情に関わる以下の10点が述べられた。. の位置に存在している状況が看取される。 上記の現状は,日本の実情に鑑みるとき,全国各地に. ①北海道本島において行われる研修に出席するために. 離島が多数ある現実から目をそむけている状況を露呈し. は,最低2泊3日が必要となる。奥尻中学校の英語教. ていることになる。北海道には,有人の離島が5つ存在. 員は木村氏のみであり,研修不在期間の授業を補うこ. する(3)に過ぎないが,例えば東京都には11の有人の離 島が存在しており(4),瀬戸内海に面した県や,長崎県,. とが必要となることや,研修に行くための日数や経費 が通常より多く必要であること,島を出ることが天候. 鹿児島県,沖縄県等も,多数の離島を抱えている。すな. に左右されること等が起因し,現実的には研修に出る. 一 29 一. 2009.
(3) 木 塚 雅 貴・木 ↑⊥ 吾 勝. ことが難しい状況にある。. きる限り多くの授業を筆者が実際に観察し,それに基づ き授業改善のための話し合いを行うというカンファレン. ②木村氏は,これまで大学の教員による授業参観とそれ に基づく授業研究を全く経験しておらず,そのような. ス(10)に基づく方法を採ることとした。従って,授業は. 意味において初任者に対するサポートが必要である。. 必ず毎回ビデオに記録し,筆者と木村氏で共有し,その. ③島内の学校の教員同士で授業観察を行う機会はある. 後のリフレクション(省察)のために利用することとし,. が,常に同じ教師同士で観察し検討することになるた. 毎回授業観察と話し合いの後には,必ずその内容に関す. め,授業改善に関する新しい視点に欠け,授業研究が. るまとめのリフレクション・レポートを提出してもらう. 深まらない。しかも,奥尻中学校には英語教員が1名. こととした。そして,実際の授業観察に先立ち,木村氏. であるため,校内の授業研究は他教科の教員と行わざ. の授業観を捉えるために,氏の経歴・目指す教師像を記. るを得ない。. 述してもらい,それに基づき授業研究を開始することと. した。本研究の時間的経過は,以下に示す通りである。. ④離島は,一般的に初任者が赴任するケースが多く,研 修が不充分であることにより,教師としての視野を広 げる機会が乏しくなる。. 2008年2月 木村氏への聞き取り調査。. ⑤外部講師や外部の指導者が来島することがないため,. 7月 木村氏の経歴・目指す教師像の記述。 9月 1回目の授業観察及びカンファレンスの実. 授業に対して客観的な視野を持つことや維持すること が難しくなる。. 施。. ⑥ALT(AssjstantLangt】ageTeacller,外国人英語指導. 11月 2回目の授業観察及び話し合い(町主催の. 助手)が来島することがないため,英語教師が自らの. 公開研究会とその事後検討会も開催)。. 英語をブラッシュアップする機会がない。. 12月 3回目の授業観察及びカンファレンスの実. ⑦生徒との関係作りにひとたび失敗すると,クラス替え. 施。. 2009年2月 4回目の授業観察及びカンファレンスの実. がないため,その関係を3年間引きずってしまうこと になる。. 施。. ⑧保護者の教育に対する意識には,高低が見られる。. 5回目の授業観察及びカンファレンスの実. ⑨塾や予備校がないため,学校が唯一の学習場所である。. 施。. このことは,教師が思い描く教育を可能とする一方で,. 3月 カンファレンスの振り返りと研究の総括。. 生徒は教師の力量不足を補う機会を与えられることが なく,基本的には授業を通してつけた力が総てという. 以下ではまず,本項⑧”⑲に見られる離島の英語教育. 状況になる。. の実態を捉えるために,2008年9月に奥尻中学校におい. ⑲島には高等学校があるが,実質的には競争倍率がなく. て実施したアンケート調査の結果を示し,島の英語教育. 全入状況であるため,進学という動機づけがない。. の状況を明らかにする。その上で,上記の時間軸に沿い, 木村氏の授業改善の軌跡を追い,かつ木村氏の成長のプ. 島内の小・中学校と教育委員会における英語活動・英. ロセスを,提出された授業の指導案と振り返りレポート. 語教育に関わる聞き取り調査の結果,並びに木村氏によ. を基に考察し,最後に本研究の意義と離島の教師に必要. る離島の教師が直面している課題を総合的に勘案すると. とされる支援について考察する。. き,離島の教師が教科指導と自らの成長の両面において, 厳しい状況に置かれていることは明らかである。特に上. Ⅱ.英語教育に関する意識調査. 記の①”⑥は,研修等による教師の成長の機会と密接に 結びつく事項であり,これらが欠如しているという現実. 奥尻中学枚の生徒とその保護者の英語教育に対する考. は,教師の成長の機会が保障されにくい状況に陥ってい. え方や実態を客観的に捉えるために,2008年9月初旬,. る離島の特性が顕著に表れていると言える。. 同校の全生徒と全保護者を対象とするアンケート調査を. 実施した。質問内容と結果は,以下に示す通りである。. 以上の経緯を踏まえ,授業改善を中心とした離島の教 師に対する支援が必要であるとの筆者と木村氏の共通認 識と,北海道内唯一の教育大学として,地域の教員養成・. 英語教育に関するアンケート調査(中学生用). 教師教育の根幹を担う責務に基づき,本稿の主題である. 質問と回答結果. 離島の英語教師の授業改善への支援が開始されることと. この調査は,みなさんが受けている英語教育について. なった(9)。. 知るためのものです。個人名が特定されることはありま. 本研究では,上記②に示した木村氏の実情に鑑み,−. せんので,正直に答えてください。. 一 30 一.
(4) No.64. 離島の教師の専門的成長への支援. 回答は,適切な選択肢から1つを選び,○(マル)で. 2009. 7.衛星放送やインターネットで,英語の番組を見たり. 囲んでください。また,適宜質問の指示に従って答えて. 聞いたりしたことがありますか。. ください。. はい. 1年生1名 2年生1名 3年生2名. いいえ. 1年生4名 2年生13名 3年生11名. 1.出身地はどこですか。. 奥尻島. 1年生4名 2年生7名 3年生9名. 8.英語を学んでいる目的を具体的に意識していますか。. 奥尻島以外 1年生1名 2年生6名 3年生4名. はい. 1年生4名 2年生5名 3年生10名. いいえ. 1年生1名 2年生9名 3年生3名. 「はい」を選んだ人だけが答えてください。どのよう. 2.小学校の授業で,英語を習いましたか。 はい. 1年生5名 2年生4名 3年生1名. な目的を意識していますか。下から1つだけ選んでく. いいえ. 1年生0名 2年生10名 3年生12名. ださい。「その他」を選んだ人は,具体的な内容を書 いてください。 ・将来の仕事に役に立つ. J.小学生のときに,学校の授業以外で英語を習ってい. 1年生1名 2年生1名 3年生0名. ましたか。 はい. 1年生0名 2年生1名 3年生1名. いいえ. 1年生5名 2年生13名 3年生12名. ・高校入試に合格する 1年生1名 2年生2名 3年生5冬. 「はい」を選んだ人だけが答えてください。どこで習っ. ・外国人と会話ができる. ていましたか。具体的に書いてください。. 1年生1名 2年生1名 3年生2名. 2年生:Rll−GOゼミ(パソコンで). ・趣味. 3年生:通信教育. ・学校の授業にある. 1年生0名 2年生1名 3年生0宕. 1年生0名 2年生0名 3年生1名. 4.現在,学校の英語の授業以外で英語を習っています. ・教養のひとつ 1年生1名 2年生0名 3年生2名. か。 はい. 1年生0名 2年生1名 3年生1名. いいえ. 1年生5名 2年生13名 3年生12名. ・その他(具体的に). 9.将来,英語は自分にとって必要になると思いますか。. (無回答:3年生1名). 「はい」を選んだ人だけが答えてください。どこで習っ. はい. 1年生4名 2年生5名 3年生7名. ていますか。具体的に書いてください。. いいえ. 1年生1名 2年生9名 3年生6名. 2年生:ゼミ 3年生:ゼミ. 10.現在,英語は日常生活(学校の授業以外)で必要で 1年生3名 2年生3名 3年生3名. 5.学校の英語の授業以外で,英語に触れる機会はあり. 1年生2名 2年生11名 3年生11名. ますか。 はい. 1年生1名 2年生3名 3年生3名. いいえ. 1年生4名 2年生11名 3年生10名. 11.学校の英語の授業に求めているものは何ですか。下. 「はい」を選んだ人だけが答えてください。どのよう. から1つだけ選んでください。「その他」を選んだ. な場合ですか。具体的に書いてください。. 人は,具体的な内容を書いてください。. ・高枚入試に受かる英語力をつけること。. 1年生:通信教育. 2年生:宿題,TVや音楽の曲名,インターネット・. 1年生0名 2年生7名 3年生5名 ・英語の文法がわかる力をつけること。. パソコン・ゲーム,口癖. 3年生:テレビ,スキーに行ったとき,パソコン. 1年生3名 2年生2名 3年生1名 ・外国人と会話ができる英語力をつけること。. 6.NHK教育テレビやNHKラジオで放送されている. 1年生1名 2年生2名 3年生3名 ・英語の文章を読むことができる力をつけること。. 英語番組(例えば基礎英語や英会話など)を聞いてい. 1年生1名 2年生3名 3年生3名. ますか。 はい. 1年生0名 2年生1名 3年生1名. いいえ. 1年生5名 2年生13名 3年生12名. ・その他(具体的に)3年生:上記総て(1名). 一 31一.
(5) 木 塚 雅 貴・木 ↑⊥ 吾 勝. スや番組を理解できる英語力. ・英語のニュー. 12.現在の学年を選んでください。. ・1年生 5名 ・2年生14名 ・3年生13名. 1年生1名 2年生0名 3年生0名 ・その他(具体的に). 2年生:英語を学びたいという意欲の基礎(1名). 菓語教育に関するアンケート調査(保護者用). 質問と回答結果. (無回答:1年生1名 3年生1名). この調査は,お子さんが受けている英語教育について 4.将来,お子さんにとって,英語は必要になると思い. 知るためのものです。個人名が特定されることはあり ませんので,率直にお答えください。. ますか。. 回答は,適切な選択肢から1つを選び,○(マル)で. はい. 1年生5名 2年生9名 3年生12名. 囲んでください。また,適宜質問の指示に従ってお答. いいえ. 1年生0名 2年生4名 3年生2名. えください。. (わからない・無回答:2年生各1名) 5.お子さんが英語を学んでいることは,意味があると. ⊥.2011(平成22)年度から,小学校5・6年生に,外 国語(英語)活動が必修化されることをご存知です. お考えですか。. か。 はい. 1年生3名 2年生10名 3年生10名. いいえ. 1年生2名 2年生5名 3年生4名. はい. 1年生5名 2年生13名 3年生11名. いいえ. 1年生0名 2年生2名 3年生2名 (無回答:3年生1名). 「はい」を選んだ方だけが回答してください。どのよ 2.小学校の外国語(英語)活動は,必要であるとお考. うな意味があるとお考えですか。具体的にお書きくだ. えですか。. さい。. はい. 1年生3名 2年生8名 3年生10名. 1年生:将来役に立つ,必要度が高くなる. いいえ. 1年生2名 2年生6名 3年生4名. 2年生:将来の仕事等で役立つ,世界の人々とコミュ. 回答理由をお書きください。. ニケーションをとることができる,世界の多. 1年生:基礎として必要,英語以前に必要なことがあ. 様性理解に役立つ 3年生:選択の幅を広げることができる,将来の仕事. る. 2年生:会話ができるようになるのであれば必要,パ. 等で役立つ,社会的知識として必要,世界の. ソコン等に役立つ,幼いころから始めると自. 人々とコミュニケーションをとることが必要. 然と身につく,未来を広く考えられる,世界 共通語として必要,中高の英語教育の課題が. 6.英語は,お子さんにとって重要ですか。. 小学校におりるだけ 3年生:将来役立つ,子どもが興味を持つことは大切,. 幼いころから始めると自然と身につく,国際. はい. 1年生5名 2年生10名 3年生9名. いいえ. 1年生0名 2年生3名 3年生3名. (わからない:2年生1名 無回答:2年生1名. 社会での必要性がある,小学校から始めると. 3年生2名). 子どものストレスになる. 回答理由をお書きください。 1年生:国際社会に対応するため,視野や世界を広げ. 3.中学枚の英語の授業に求めているものは何ですか。. るため. 下から1つだけ選んでください。「その他」を選ん. 2年生:高枚受験に必要,人生を豊かにできる,世界 の人々とコミュニケーションをとることがで. だ方は,具体的な内容を書いてください。. ・将来の仕事で使える英語力の基礎. きる,今使わない,本人の能力を考えると不 必要. 1年生2名 2年生1名 3年生2名 ・高校受験に合格する英語力. 3年生:前向きな生き方につながる,仕事に必要,将 来必要になる. 1年生1名 2年生7名 3年生3名 ・日常会話ができる程度の英語力. /.学校の英語の授業以外に,お子さんが英語を使う機. 1年生0名 2年生6名 3年生8名 ・何も求めていない. 会がありますか。. 1年生0名 2年生0名 3年生0名. 一 32 一. はい. 1年生1名 2年生2名 3年生2名. いいえ. 1年生4名 2年生11名 3年生12名.
(6) No.64. 離島の教師の専門的成長への支援. 「はい」を選んだ方だけが回答してください。どのよ. 2009. が木村氏に求められている。別の見方をすれば,『学. うな場合ですか。具体的にお書きください。. 習指導要領』に記されている「聴く・話す」を中心と. 1年生:日常目にする物品の名称. した「実践的コミュニケーション能力」の育成を,生. 2年生:音楽,インターネット,ゲーム. 徒・保護者ともに期待していると考えることができ. 3年生:パソコン,テレビ番組や雑誌の理解. る。すなわち,Ⅱ.において木村氏が述べていた「高 校入試が学習の動機づけになりにくい」という状況は,. 8.お子さんの高校進学をお考えですか。. 逆に入試を目的とはしない英語の授業を展開し得る可. はい. 1年生5名 2年生15名 3年生14名. 能性を示していると見ることができるのであり,言語. いいえ. 1年生0名 2年生0名 3年生0名. の本質に沿った授業を創り出すことが求められている. 「はい」を選んだ方だけが回答してください。高校進. と言えるのである。. 学は,島内をお考えですか。 はい. 1年生2名 2年生8名 3年生7名. いいえ. 1年生3名 2年生4名 3年生3名. Ⅳ.授業観と目指す教師像. (無回答:2年生3名 3年生4名). 木村氏の授業を観察し検討する前に,氏の英語の授業 観を捉えておくことが必要となる。なぜならば,授業の. 9.お子さんの大学進学をお考えですか。. 方法や展開には,教師自らが受けてきた英語の授業の方. はい. 1年生4名 2年生5名 3年生5名. 法や展開の影響が無意識に反映されており,また授業を. いいえ. 1年生1名 2年生9名 3年生8名. 通して育てたい子供像が含まれているからである。そこ. (無回答:2年生1名 3年生1名). で木村氏に,簡単な経歴と目指す教師像を記してもらう. ことから始めた(11)。 10.お子さんの現在の学年を選んでください。複数の場 合は,該当学年総てを選んで下さい。. 目指す教師像と言われ,ちょっとどきっとしてしまい. ・1年生 5名 ・2年生15名 ・3年生14名. ました(笑)。以下の文は私が教員採用試験の時に考え た自己アピールの文です。5年前に書いたものですが思. アンケート調査の結果は,以下のようにまとめられる. いは変わっていません。. であろう。. 先日,不登校の子どもたちと2週間寝食を共にする機. ①生徒の大半は,小学校段階で英語を学習していない。. 会がありました。そこで子どもたちが成長していく姿に. 保護者の半数以上は,小学校に英語活動を導入するこ. 感動し,そこに関われる喜びを感じ,教師になろうとい. とに肯定的であるが,導入に慎重な意見も散見される。. う思いをいっそう強くしました。その活動の中で子ども. ②生徒の大半は,将来の英語の必要性を意識しているが,. たちと触れ合い,子どもたちの個性を認めて,居場所や. 学校の授業以外では英語に触れる機会はなく,また授. 活躍の場を提供することが,子どもたちの成長を促すこ. 業以外には英語学習を行っていない。保護者の大半は,. とにもなると実感しました。そこで,私自身が子どもた. 子供の将来の英語の必要性や英語学習の意味・重要性. ち一人一人の個性を認めるよう努めると共に,子どもた. を認識しているが,現状では子供が英語を使う機会は. ちが互いに認め合う. ないと捉えている。. います。そのために,「コミュニケーション」と「物事. ③生徒の大半は,英語学習の目的を意識しており,その. ,そういう学級を作りたいと思って. の過程」の二つを大切にし,それらを軸に教師として行. 目的は必ずしも高枚入試ではなく,この点は生徒が英. 動したいと考えています。. 語の授業に求めている内容にも反映されている。保護. 専門である言語学や留学を通じ,コミュニケーション. 者の多くは,英語の授業に実用性を求めており,高枚. と言葉の大切さを学んできました。それらを子どもたち. 入試への対応を必ずしも求めてはいない。. に伝えることで,人間性や社会性を高め、上手に人間関. 要するに,奥尻島の英語教育の実情は,生徒が実際. 係を築けるように指導していきたいと思っています。. に英語を使う機会は限られているものの,生徒・保護. また,子どもたちとコミュニケーションを取って,子. 者ともに将来の英語の必要性を認識しているため,高. どもたちの視線に立つだけでなく,それを踏まえた上で,. 校入試を意図した授業を必ずしも求めているわけでは. 教師としての視線で考え,行動し,子どもたちが成長で. ない,と捉えることができる。換言すれば,生徒・保. きるよう,子どもたちの視線を引き上げる,そういう教. 護者いずれも,約半数は実際に英語を使う機会が得ら. 師を目指します。. れることを授業に求めており,この点を意識した授業. それから,学習指導にも生活指導にも「過程」を大切. 一 33 一.
(7) 木 塚 雅 貴・木 ↑⊥ 吾 勝. にする心構えで臨みます。目に見える結果だけにとらわ. 担任は1年間しかやっていません。去年,今年と生徒. れず、なぜそうなったのか,なぜそういう行動をとった. 会担当,体育祭担当,進路担当,特別支援コーディネー. のか,そこへ至る過程に,子どもたち一人ひとりの個性. ターとしての仕事をしています。年々授業準備にかける. が表れると同時に,子どもたちの試行錯誤を大切にした. 時間が減っています。. いと考えているからです。. 英語の授業は主に本で学びました。. また,「過程」を大切にすることで一日一日を大切にし, 日々の生活を楽しむことができると思っています。その ためにも,子どもたちのエネルギーが健全な方向に向か. 上記の内容を読み,筆者の目にとまった箇所は,波線 部で記されている「英語学習歴」である。なぜならば,「問. うよう,参加型の楽しい授業をします。それには,私が. 題が解けるという楽しさ」が根源となり英語に対して興. 留学や,大学院で学んだものを生かせると思っています。. 味を持ち,それにより教師を志すきっかけが生まれたこ. 子どもたちが達成感,成就感や自己のかけがえのなさを. とと,木村氏が目指す教師像として記述している「コミュ. 感じたり,自分に自信を持てるような授業をします。. ニケーションと言葉の大切さ」という言葉に,元離を見. 毎日の楽しい授業の中で,自ら考える力,主体的に判. 出したからである。実際この点は,以下に示す木村氏の. 断する力,表現力などの様々な「力」を子どもたちが身. 「現在の授業に見られる課題」(12)と符合していると捉. につけ,「みんながハッピーで,そしてみんなでハッピー. えられる。. になる」と思う,笑顔も涙もある学級を作るのが私の目 標です。. 今の私の授業についてですが,(1)話す能力の育成(2)語. 次に私のバックグラウンドですが,中学時代,英語は. 彙指導(3)教科書の内容に興味を持たせるような指導(4)リ. 得意な方でしたが,特に興味があるわけでもありません. スニング能力の育成,の4つが足りない(力を入れたい). でした。高校時代は英語で蹟き,業者テストでは半分く. と思っています。. らいしか取れませんでした。高校3年生の11月に急に点. (1)についてですが,英検の2次試験の練習をしている. 数が伸び,ようやく英語が楽しく感じるようになりまし. と驚くほど英答できません。一つ二つこつを敢えて,2. た。. ”3回練習すればできるようになるのですが,たったそ れだけのことを授業でやることができていないというの. 高校卒業後,大学入試に不合格で,1年間札幌で予備 校に通っていました。このころは英語が安定して点数が. が現実です。. 取れ,問題が解けるという楽しさを味わっていました。. (2)では1年生には練習用プリントを配付し,5”10分. つまり私にとって「英語」は「勉学の対象」でしかあり. ほど授業時間内に単語練習をします。しかし,1年生の. ませんでした。映画や洋楽が好きで英語に興味を持った. 後半からは宿題としてのプリント提出に負うところが大. わけでもなく,外国人と話すのが楽しくて好きになった. きく,定期的な小テストも行っておりません。効果に疑. わけでもなく,外国に興味を持っていたわけでもありま. 問を待ったからでもありますが,宿題指導が徹底できて. せんでした。「問題が解ける」という楽しさで英語が好. いないところがあります。. きになった(波線部は木塚による)わけで,大学(英語. (3)では教科書は読んで内容を把握するもの,もしくは. 科)でもマイノリティーでした。. CDを使いshadowingやr・ead&lookupなどでリスニ. 1年間の予備校生括の後,札幌大学(英語学科)に合. ングとリーディングの指導に使うものという指導が多. 格し,札大の留学制度などに惹かれ入学しました。入学. く,生徒のモチベーションを上げるためにも,教科書の. 後は,YouthFor・umNewsという英語ロシア語新聞部に. 内容そのものに興味を持たせるような教材や導入の工夫. 入りそこで英作文の添削をしてもらったり,英語圏から. が必要だと思っています。. の留学生と交流することで英語力を磨き,2000年8月か. (4)についても英検で感じるところです。. ら2001年5月までアメリカのネブラスカ州立大学リン. 逆に「これは上手くいっているのかな?」と思えたの. カーン校に交換留学生としていました。. は,初めの20分ほどで復習の活動(ペアでの一間一答,. その後札幌大学の大学院に進み,言語学を専攻しまし. 英語の歌もしくはチャンツ,Bingo,ドリルでひたすら書. 言語学の万が好きだったので,. た。学部生のときはアメリカ文学を専攻しましたが,元々 専攻を変え,主に認知言. うスタイルです。前回お越しいただいたときにお渡しし. 語学について学びました。大学院の1年目10月頃から「東. た指導案にもこのスタイルについて書いていたのです. 京アカデミー」に通いながら教員採用試験の準備をし,. が,こどもたちの集中力が以前より高く(「英語の時間. 北海道の教員採用試験を受験し,運良く一発で合格しま. は短い」と言ってくれる子どもたちがいました。数名で. した。そして,初任地が奥尻になりました。. すし,それが学力の向上につながっているかはわかりま. くなど)をしてから,残りの時間で教科書を進めるとい. 一 34 一.
(8) No.64. 離島の教師の専門的成長への支援. せんが),また1回に覚える量が少ないのもよいのかも. を志向した授業を自らの課題として意識しながらも,実. しれません。. 際の授業では文字を中心とした視覚中心の授業が展開さ. ただ,時数がその分かかるため,スピーチ発表やディ. れており,木村氏の英語学習歴の片鱗が見出される結果. ベートなどの活動ができていません。普段の復習の時間. となっているからである。従って,木村氏自身が自らの. の積み重ねを何かしらのプロジェクトにつなげられるよ. 授業を客観的に捉えることに困難を感じていることが見. うな計画を立てなければならないと感じています。. 出されるとともに,現在の教師に求められている省察 (r・eflection)する力量を育成することが重要な課題で. 「現在の授業」は,目指す教師像とは裏腹に,実際は. あることが理解されるのである。換言すれば,この時点. 「問題が解けるという楽しさ」に根源を持つ氏の「英語. での木村氏に求められている教師としての力量は,自ら. 学習歴」に基づいていると捉えることができるであろう。. の英語学習歴に基づく無意識の授業観からの脱却と,目. すなわち,氏が述べる「今の授業で足りない4項目」は,. 指す教師像で記された音声中心の授業への転換,そして. いずれも「コミュニケーションと言葉の大切さ」を目指. 自らの状況を客観的に振り返ることができる省察能力の. す内容であると捉えられる反面,具体的にそれら4項目. 育成と考えられるのである。. に対して行われている内容は,例え聞1)に見られる「一. 以上の内容を含む話し合いを踏まえ,授業後に木村氏. つ二つこつを敢えて」や(2)に見られる「プリントによる. から提出された授業の振り返りレポートは,以下に示す. 単語学習」,さらには「ドリル」という言葉で表わされ. 内容であった。. ているように,「問題が解けるという楽しさ」という概 念を礎としている。見方を変えれば,「現在の授業」から,. =回目授業参観(9月‖日・12日)後のまとめ. 氏の葛藤が看取されると言えるであろう。すなわち,目. 大きなポイントとして,言語とはまず音声ありきとい. 指す教師像で述べられている「コミュニケーションと言. う授業作りをする必要がある。. 葉の大切さ」を追求したいと思いながらも,「問題が解. 1.英語だけで英語を理解させるような空間を作る。. けるという楽しさ」から抜け出すことができない姿を見. 00r・alIntr・Oduction(Inter・aCtion)を基本にする。. 出すのである。. →新出文法事項やテキストの導入に用いる。 ○テキストの内容確認も英語で可能である。. 以上の内容を木村氏にお話した上で,9月の授業を 行ってもらうこととした。以下では,5回の授業観察と. →TorF(○×でも良い)や実際にやってみせること. その検討を通して,木村氏がどのように授業を改善し,. で可能となる。 ※テキストだけで完結させる必要はない。文字以外の物. 自らが目指す教師像へと変化して行ったのかを考察する こととする。. でテキストの内容を理解できるような空間を作る工夫 をする。. O Classr・00mEnglishで実際のコミュニケーションの場. Ⅴ.1回目の授業観察(2008年9月). を作り,学ばせる。. 1年生・2年生の授業を観察し,その方法と内容に関. ○乱取りQ&Aで表現の幅を増やす。“Idon’tknow.. する話し合いを行った。1年生の授業では,Whatdo youwatch?という表現を,2年生の授業では,未来時. は1回までといったルールを作るだけで子供達が工夫 し出す。. 制のwillを採り上げ,いずれの授業も市販のワーク・. 2.注意点. シートを用いた疑似コミュニケーション活動を中心に位. ○“CanyouspeakEnglish?”は失礼だと言うような指. 置づけることを試みていた(13)。. 導はしておく。 ○子供達が顔を上げて英文を読むようにする。. 2時間の授業を観察し,筆者(木塚)からは以下の2 つの問いを投げかけた。. →文字に頼らずに練習を行い,1文1文の発音練習を行. ①文字を用いた視覚に頼る授業になっているのではない. い,黒板を利用する。 O Communicative Activitiesのプリント活用方法. か。 ②市販の教材をワーク・シートとして利用しているが,. ・手順を考え,丁寧にorganizeする。. それは目の前にいる生徒の実態に合致しているか。. →自作プリントが望ましいし,dialogの前にtarget. これら2つの問いは,前項で述べた木村氏の英語学習. sentenceを十分に練習させ,Car・dgameなどを用いる。. 歴と目指す教師像の内容と密接に結びつく事項であると. 練習,活動,発表,Writingの順番で行い,スクリー. 言える。なぜならば,「話す能力の育成とリスニング能. ンに小出しにする工夫も可能であるし,机を取り払う. 力の育成」,すなわち音声中心の「コミュニケーション」. ことで心理的バリアーを低くすることができる。. 一 35 一. 2009.
(9) 木 塚 雅 貴・木 ↑⊥ 吾 勝. ○机の並び,授業形態は重要なファクターとして考慮す. 4.今後具体的に行うこと. べきである。. ・和訳なしでの教科書理解。. ○教えあい活動を取り入れ,できる子の効果を波及させ. ・導入のためのアイテムの準備。 ・CommunicativeActivitiesの時間を作ることとプリン. る。 ○歌はもう一歩踏み込んで指導する。. トの作成。. 3.その後の授業で. ・ClassroomEnglishの表現力・語彙力をアップし,生 徒に還元する。. 1年生. ・自作ビンゴの作成。. ・日本語訳なしでも,たいていの生徒はOr・alIntr・Oduc−. tionで十分に理解できている(自己紹介,複数形,. 5.その他. Howmany∼s,命令形,Let’s∼)。. ・Or・alIntr・Oductionの参考として教科書の指導書を見 る機会が増えた。. ・教科書の内容理解も日本語による簡単な質疑応答で十. ・英語で知らない人とコミュニケーションを取ることが. 分できている。これから徐々に英問英答の機会を増や していく。. できたことが,子供達には新鮮だったようだ。ゲスト. ・教科書読解にかける時間が短くなったので,その分定. は(日本人でも十分)有効である。 ・家庭学習につなげるノートの取り方を考え,教える必. 着のための活動(音読など)を工夫したい。. ・今までは「導入→ワーク→教科書→Commt】njcatjve. 要がある。. Actjvjtjes」の順番であったが,今回は「導入→教科 書→ワーク→(Commt】njcatjveActjvjtjes)」の順番で. 基本的な授業の枠組みを,音声主体に変えようと試み. 行ってみた。文法導入からそのまま教科書の内容把握. ている姿が随所に示されている。特に,目指す教師像に. ヘスムーズに行えた。2年生でもこの流れでできるよ. 措かれていたコミュニケーションを志向することが意識. う工夫する。. されるようになっていることは,教師としての独自の位. 2年生. 置を確立するためには,重要であると考えられる。すな. ・Or・alIntr・Oductionでmustを,Skitを使ってmustn’t. わち,木村氏以外にはできない固有の英語の授業を創り. を導入した。muStは英語だけで理解できた。muStn’t. 上げ生徒を指導することを通して,教師としての木村氏. はskitに和訳をつけて行ったが,和訳なしのi寅技だ. がかけがえのない存在となるのである。. けでも十分伝わったと思う。次回挑戦。. 以上のように1回目の授業観察に基づくカンファレン. ・音読練習をしっかりして,顔を上げることを意識させ. スは,授業改善の方向性を明確にし,これまでの授業の. た。実際声が大きくなった。しかし,その分時間がか. 課題とその根源を認識するきっかけとなったと言える。. かり,CommunicativeActivitiesの時間が取れなかっ た。. Ⅵ.2回目の授業観察(2008年11月). ・乱取りQ&Aでは一つの三旺につきっきりで参加するこ とで,正確な答え方や,新しい表現など,より具体的. 2回目の訪問は,3学年総ての英語の授業観察と,奥. に指導することができた。一人に教えることで,同じ. 尻町教育推進協議会主催による研究集会の対象となって. グループのメンバーにも広まった表現もある。全部で. いた2年生の英語の授業観察がポイントであった(14)。. 16名しかいないので,4回に1回はそのグループに入. 3年生の授業は初めての観察であったが,基本的な課. れる。それでも十分効果はありそうである。また,波. 題は,前項で述べた「①文字を用いた視覚に頼る授業に. 及効果を考え,できる生徒を他のグループに散らして. なっているのではないか」と「②巾販の教材をワーク・. 行ってみた。いつもと違うメンバーで質問し合うのが. シートとして利用しているが,それは目の前にいる生徒. 楽しいようだ。プリントに書いた簡単な質問はほとん. の実態に合致しているか」に起因することがらであった. ど覚えたようなので,2枚目のプリントに入り,時間. と言え,この点は,後述の木村氏から提出された授業の. が足りずにできなかったCommunicativeActivitiesを. 振り返りレポートに明確に記されている。 一万公開授業は,9月の2年生の授業との比較がポ1. 補完しつつ,助動詞の定着を図りたい。 ・教科書本文に関しては,英語と日本語(難しい場合). ントとなり上記①・②の課題がどのように克服されてい. による質問で内容確認を終わらせている。日本語訳の. るかが焦点なった。①に関しては,音声主体の授業作り. ない読解に少し戸惑う(物足りない?)生徒もいるが,. を行おうとする意識は明確になりつつあった。例えば,. 書く量が少なく,おそらく楽なので,たいていの生徒. 絵を用いてOralIntroductionによるtargetsentence. は抵抗なくやっていけそうだ。. (Thereis”)の導入が行われていた。②に関しては,. 一 36 一.
(10) No.64. 離島の教師の専門的成長への支援. ワーク・シートを自ら作成し,targetSentenCeを使った. 奥尻町教育推進協議会公開研究会まとめと取り組むべき. 活動を行うように変化しており,生徒の実態を意識した. 課題. 内容を考えていることがうかがわれた。しかし,生徒に. ①既習事項と新出事項(未習)のリンキングを意識した. は,音声主体の授業への戸惑いが見出された。すなわち,. 授業が必要である。特に,導入場面で意味を理解させ. 9月の授業観察以降から,音声主体の授業が本格的に開. る際,状況設定が重要になる。リンキングは既習事項. 始されているため,音声に関わる基本的なことがらが生. のスパイラルでもある。. 徒に身についていない場合があり,それが原因となり授. ②生徒たちの「状況の先読み」(状況の把握)をした授. 業がスムーズに運ばない状況が見出された。このような. 業作りが必要である。. 状況は,文字主体の授業から音声主体の授業に変えるプ. 公開研究会の感想と反省. ロセスでは辿らざるを得ないが,従来の授業の方法との. ・動物の名前の練習が長すぎた。10種類全部を練習する. 溝を埋める工夫が教師に求められていることを物語って. 必要はなく,ねらい達成のため,5個程度に絞ればよ. いる。教師自身の変化とそれへの生徒の対応の調和を図. かった。 ・生徒が「まずい!」と感じ,単語練習の必要感が高まっ. ることが,授業改善において重要な要素の一つとなって いると捉えることが出来るであろう。. た瞬間があった。あの瞬間を意図的に組み込むことで,. 今回の授業に関する木村氏の振り返りレポートは,以. 授業中の声も大きくなり,モチベーションも高まる。. 下の内容であった。. ・課題提示があいまいであった。もっと明確にわかるよ う工夫することで,生徒も何をすればよいのかわかり. ‖月27日の3年生の授業(間接疑問文の導入). やすくなる。. ・3年生はこれまで視覚中心で授業を行ってきており,. ・新出の文法事項を扱うときは既出の(簡単な)単語を. 急に音声中心でやっても入っていかないのは当然であ. 使って行う。表現も,できる限り簡単なものを使うこ. る。従って,1年生1学期は音声のみで授業を行い,. とが必要である。Couldyoutellme”?という表現. 耳で聞く癖をつけることが重要であり,2・3学期に. は,全員がわかっているのであれば問題はないが,充. 1学期に学習したことがらを文字でも学習するという. 分に定着していない生徒には,本時の課題(target. 形態になる。(例)wher・e,howmuchなどを1学期に. sentence)がどちらかわからなくなってしまう。. 聞き話す練習を行うが,文字は2学期に扱う。. その他. ・薇著する前にoralpracticeをもっと行うことが必要で. ・目の前の子ども遅に合わせた授業の目標,単現の目標. ある。すなわち,和文英訳ではなく,導入で使った絵. を設定することが必要であり,「全国のB規準」をそ. を生徒に持たせ,教師同様に英文を言うような練習を. のまま当てはめればよいわけではない。この点にこそ,. 行う。. 教師のいる意味が出てくる。従って,現状に合わせた. ・和文英訳は入試でも行っていないので,この形式に生. 各学年の目標を設定する必要がある。. 徒を慣れさせてしまうことは,生徒の将来にとってマ. ・小申達携を考えると,音声が重要になってくる。. イナスとなる。. ・学習者中心の授業をするためには,Shareが必要であ. ・和英辞典ではなくpictur・edictionar・yがよい。また,. り,そうなるとやはり音声が中心になる。. CommunicativeActivitiesでは,選択肢を選ばせるな. ・writingは時間がかかるので,長期休業を利用し,既 習表現を使った宿題の提示など授業プラスアルファー. どの制限が必要である。 ・ワークを使うのではなく,教師が責任を持ってワーク. の部分での取り組みが重要である。(添削ではすぐに. シートを作成して授業をすることが求められる。. 直さず,チェックだけして返し,自分で考えて書き直. ・歌で声が出ないのは発音練習が足りないからであり,. させることが必要である。) ・将来のビジョン(英語を使う状況etc)を示すことが,. リンキングや音の脱落の指導も必要である。指導が荒. 生徒の意欲につながる。. い証拠になっている。(3年生が声を出さない理由は, ①下を向いている(英文が書かれているから),②1・ 2年次の指導による癖,③英語の必要感がない(ゲー. 今回の公開研究会と関わるもう一つの重要なポイント. ムでもなんでも「この表現使う」という意識を生み出. は,奥尻中学校の研究紀要(15)に見られる以下の事項で. すことが必要),が考えられる。. ある。 平成18年度の学校評価を見ると,教師は指導法の工夫を し,生徒たちにわかりやすい授業をしていると評価して. 一 37 一. 2009.
(11) 木 塚 雅 貴・木 ↑⊥ 吾 勝. いる。しかし,保護者は子どもたちの様子から,授業が. 書を開けた時に,そこまで授業の中で学習した内容を生. わかりにくいと思っており,より分かりやすい授業にす. 徒が見出すという構成を意識した授業に向かいつつあっ. るための工夫を教師に求めている。生徒も,授業の内容. た。換言すれば,教科書主体の授業からの脱却を目指す. に対する評価が低く,さらに1年を通して,自分が勉強. ことにより,文字中心の授業から音声中心の授業へと変. ができるようになった実感も低い。これにより「わかっ. 化する可能性が見出された。従って,これまで課題とさ. た・できた」と体感できる授業への要望があることがわ. れてきた「コミュニケーション活動」に関しても,音声. かる。. 主体の活動へと変化がなされており,2回のカンファレ ンスによる話し合いの内容が生かされてきていた。. 上記の内容は,教師・生徒・保護者の間で,授業に対. しかし一方では,2回目のカンファレンスにおいて課. する認識に元離があることを表している。この点は,Ⅲ.. 題とされた音声主体の授業に対する積み上げの弱さが,. において述べたアンケート調査の結果に克明に表わされ. 改めて2年生に関しては浮き彫りとなった。すなわち,. ていた。すなわち,9月までの木村氏の授業は,先述の. 聞くことに対する抵抗感は,学習者の中に見出されない. ように文字を主体とした言わば「問題を解く」授業であ. が,聞くことが話すことに繋がっていないという点が看. り,その意味において高校入試を意識していることは明. 取された。ただ,1年生に関しては,英語学習を開始し. らかであった。しかし,生徒の約半数は,中学生用のア. て比較的早い段階である9月から音声主体の授業に変更. ンケート結果において捉えられたように,高校入試を意. したこともあり,2年生よりもスムーズに活動を行って. 図した授業を求めているわけではなく,同時に保護者用. いる様子が見出された。また,量が減ったとは言え,依. のアンケート結果においても,約半数は高校入試を意図. 然としてワーク・シートに文字が書き込まれているた. した内容とは異なる授業を求めていた。換言すれば,生. め,生徒がワーク・シートに頼ろうとする余り,コミュ. 徒・保護者いずれもが,約半数は実際に英語を使う機会. ニケーション活動になりきらない,あるいは使用される. が得られることを授業に求めており,木村氏が元来目指. 表現の定着が不充分であるために,コミュニケーション. していた教師像である「コミュニケーション」に根ざし. 活動がスムーズに行われない状況が散見された。特にこ. た英語の授業を両者は求めているのである。従って,木. の点は,木村氏により学力が低いと判断されている生徒. 村氏が英語の授業を改善する意味は,このアンケート調. に対する対応を考える上で,重要な意味を有しているこ. 査の結果からも明らかなのである。. とが見出された。すなわち,英語学習の場合,文字が導. 以上のように,音声を主体とした授業作りが求められ. 入されることにより低学力の学習者が学習に困難を感じ. ているという前提が明確となり,そのためには新出事項. ることが見られるが,文字を極力避けることにより,授. の導入における場面設定や状況設定を工夫し,英語で説. 業中の学習活動に確実について行くことができる学習者. 明された内容を学習者が容易に理解できる手助けを与え. の姿を,今回の授業では顕著な姿として認めることがで. ることが今後の重要な課題となっていることが捉えられ. き,印象的であった。換言すれば,音声主体の授業を行. るであろう。すなわち,今後の授業づくりの方向性が明. う意味の一つは,低学力と見なされている学習者を引き. 確にされたとともに,質的に異なる課題が生まれてきた. 上げることにも繋がる可能性を示唆する結果であった。. ことも,理解することができるのである。. 以下は,木村氏による授業観察の振り返りレポートで ある。. Ⅶ.3回目の授業観察(2008年12月). 12月18日授業まとめ. 3回目の授業観察は,11月までに授業改善のポイント. 授業作りの方向. として見出された「音声主体の授業」をどのように進め. 1.子どもたちが声を出せる授業作り. るのかという点を中心に,1年生と2年生で行った。. (1)顔を上げる. 1年生は,電話での会話,2年生は道案内が主なトピッ. ①地図や会話例などはワーク・シートにするのではな. クであり,いずれも学習者にとって身近な内容を扱って. く,黒板に貼ったり,OHPヤプロジュクターを利用. おり,『学習指導要領』においても例示されている基本. したりする。. 的な事項であった。今回の授業で看取された重要な変化. ②modeldialogの導入も,プリントを見たり解説したり. は,教科書の内容を踏まえた独自の教材を作成し,それ. しながらするのではなく,人形を使うなどのデモンス. に基づいた授業を展開している点であった(16)。すなわ. トレーションを行う。. ち,「教科書で教える」という考え方から,「教科書でも. ③発音練習のときに,教員の口に注目させることで,ニ. 教える」という考え方へと変化が見られ,最終的に教科. ミュニケーション活動のときにも相手の顔を見るよう. 一 38 一.
(12) No.64. 離島の教師の専門的成長への支援. になり,態度の育成につながる。. 2009. その他,アイデア. ④「プリント見ないで」ではなく「顔を上げてごらん」. ・座席配置を意図的に行うことで,教え合いができる。. という声かけが必要である。. ・Q&Aをテープに録音し,フィードバックや評価へ活 用することも可能である。. (2)自信をつける. ①しっかりと「わかった」,「できた」と思わせる。定着. ・Speakingの宿題としては,親に英語でインタビュー. 度が良いと声も大きくなる。(実際,導入時よりも終. するという方法もあるし,ラジオの英語講座を使い,. 了時の声の方が大きい。). スキット作りにつなげるなども可能である。. ②リピートのスモールステップヘの細やかな配慮が必要. ・糸電話を使って電話の会話を行うのも良い。. である。例えば,全体→グループ→ペア→個人という. ・課題提示は日本語でも良いが,地図を貼るだけでも十. 流れが求められる。. 分に伝わる。暖昧でも伝われば良い,後で気がついて も良いという配慮が必要である。. (3)生徒との関係. ①笑顔で授業をする。 ②学力が低い生徒も,「言いたい,伝えたい」という気. これで3回のカンファレンスが終了したことになるた. 持ちがある。それを学力に結びつけることが必要であ. め,中間的なまとめとして,これまでのカンファレンフ. り,そのためにはやはり音声ありきの授業が求められ. を振り返り,レポートにまとめてもらうこととした。. る。また,学力が低いのではなく,その子のチャンネ ルに教え方が合っていないのかもしれない。アプロー. 授業改善プロジ工クトの中間まとめ 平成20年12月26日. チの仕方を工夫してみるのが重要である。. 9月11日・12日に初めて木塚教授に授業を見てもらい. ③コミュニケーション活動の中で習った表現を使ってい. ました。それまで英語の先生に授業を見てもらい,改善. た生徒がいた。そのような芽を育てることが必要であ. のための話し合いをするという機会が皆無だったので楽. る。. しみにしていました。そしてその話し合いは,期待以上. 2.必要感,有用感を感じる授業作り. のものでした。私の経歴や目指す教師像を踏まえたアド. (1)実際に外に出て道案内をするなど,自然に英語を使う. バイスは,私の中の授業に対するもやもやとした霧を晴. 場面を設定する。. らしてくれました。. (2)宝探しなどのゲームを行い,英語を使う必然性のある. 私は,この奥尻町立奥尻中学校が初任校です。元々は. 場面を設定する。. 音声重視の授業をしたいと思っていたのですが,英語授. 授業について. 業の経験も知識もない中で,次第に受験で点数を取るた. 1.2年生の授業(道案内). めに「書くこと」ばかりを意識した授業になっていきま. ・Listeningはできている。Speakingにどうつなげるか. した。しかし,成績は上がらず,ついつい勉強しない子. がポイントであり,ペアで動かしあう,教師を動かす. ども遅に批判の目を向けることが多くなっていました。. などが可能である。. そんなときに授業参観後の話し合いで,音声重視の授. ・道案内はSpeakingTestも含めて5時間程度は必要な. 業で良いと,実践や理論を踏まえたお話で背中を押して. 単元であり,もう少し時間をかけることが必要である。. もらったことで,自分がやりたいと思っていてもできな. ・小学校の英語活動の内容と結びつけ(基礎の定着),. かった授業作りに踏み込むことができました。1回目の. 使用し,発展させる(実際に案内させる)ということ. 話し合いで自分の進むべき通が見えたことが大きなモチ. がこれからは必要になるであろう。. ベーションとなり,授業作りに励むことができています。. ・流れがジグザグで生徒にはわかりにくかった。. 木塚教授のアドバイスを受けて,音声重視の授業作り. 2.1年生の授業(現在進行形). に取りかかったことで何点か変化が起きました。それを. ・この授業は,ワーク・シートがなくても可能であった。. 大きく授業技術面と心理面の二つにまとめました。. 聞いたことを書く欄だけあればそれで十分であり,相. 授業技術の面としては,授業で何を教えるかが明確に. 手が言ったことを覚えておくのもコミュニケーション. なってきたことが挙げられます。話して覚えるというこ. の一つである。コミュニケーション活動が終わってか. とは,その場で練習して覚えてしまわなければいけませ. ら,机に戻ってそれを書くという方法が望まれた。. ん。プリントを見ても書いていませんし,ノートを見返. ・新しい表現は機会があったら積極的に導入する。その. しても書いていません。だからとにかく授業中に数多く. ときに定着しなくてもよい。繰り返さなければ,身に. 練習させなければなりません。体育や音楽と同じで,英. つかない。. 語で話すという. ・ステップ,流れはスムーズだった。テンポが良かった。. 「技術」を授業中だけでつけさせなけれ. ばならない,という意識が強くなりました。そして,練. 一 39 一.
(13) 木 塚 雅 貴・木 ↑⊥ 吾 勝. 習量を増やす工夫をするために,今日の前にいる生徒の. の気持ちも湧いてきますが。また,今のままではダメだ. 状況に合わせた授業を考える意識がより高くなりまし. と思ったからこそ,授業改善に取り組んでいるわけです. た。そうすると,それまではまず「教科書ありき」の授. が,今までの取り組みの中で良かったものを再認識でき. 業だったのが,教科書はある言語材料を定着させるため. たりもします。実はそれも嬉しかったりします。そうやっ. の「一手段」であるというような捉え方をするようになっ. て改善を積み重ねていくことが大切で,今の取り組みも. てきました。「教科書を教える」のではなく,「教科書で. その一つなんだと思ってこれからも精進していきたいと. も教える」という心構えになったということだと思いま. 思います。. す。教科書から離れることで様々な状況を意図的に授業. その他に考えたこととしてはまず,自分の英語力を上. に組み込むことができるようになります。そうすれば,. げることです。Classr・00mEnglish,Or・alIntr・Oductionの. 子ども連の反応や行動を予測した授業作りにもつなが. 表現力,スキルの向上は音声重視の授業作りで不可欠な. り,より効果的な授業を成立させることができると考え. ものであると考えています。. ています。. 2つ目は教科書読解のための有効な発問をするという. 心理面としては,今までとは質の違う喜びを仕事に感. ことです。教科書から離れた授業作りに取り組み始めて. じるようになってきたということが挙げられます。これ. はいますが,教科書は依然として非常に効果的な教材で. は,自分が教員を目指した動機と授業を結びつけること. あることに変わりはありません。学んだことが使えると. ができたというのが理由であると思います。具体的には,. いう有用感を味わわせ,教科書の文章そのものへの興味. 「乱取りQ&A」やコミュニケーション活動が挙げられ. をかき立てる。そういう発問や質問の工夫が必要である. ます。相手に興味を持って積極的にコミュニケーション. と考えています。. を取る。そのような態度,技術を自分の授業の中で育成. 3つ目は,中学校3年間の指導計画です。それも小学. することができるということは,今まで考えてこなかっ. 校との連携を踏まえたものである必要があるかと思いま. たことです。コミュニケーションに対する態度を育成す. す。中学校を卒業する時点でどういう力をつけさせるの. るという考えとその具体的な手段を学ぶことで,授業に. か,そのために今この子達には何をさせればよいのか。. よる生徒指導という観点にもつながりました。バラバラ. そういったことを考え,授業に見通しを立てるためにも. だったものがつながっていくという感覚がまた新たなモ. 指導計画や各学年の目標を作りたいと思っています。. チベーションを生み出してくれています。(感覚的なも のなのでうまく言えませんが,つながっている(一つの). 上記には,これまで課題とされてきた事項に木村氏が. ものに集中できるというのが何となくほっとするという. どのように向かい,そして授業を変えることによりどの. か安心感,安堵感があるというような感じです。自己実. ように変化し,かつ自身の成長へと繋がったのかを読み. 現の欲求と(ちょっとした)安全への欲求を満たしてい. 取ることができる。わずか3カ月ではあるが,授業観察. るという感じでしょうか。). とその話し合いというカンファレンスを中心とした機会. 子ども遅にとっても授業参観はプラスに働いていま. を持つことにより,一人の教師が成長を遂げようとして. す。人間はコミュニケーションに対する欲求を持ってい. いる姿を見出すことができる。木村氏自身の中で今後の. て,英語の授業ではそれをうまく利用できるはずだと思. 課題も明確になっていることから,残された期間でこれ. いながらもできなかったわけですが,音声重視にするこ. らを改善することが次の目標となるであろう。. とによって子ども連はコミュニケーションの楽しさを味. また,離島という厳しい条件下にあっても,必要な支. わうことができ,それまで学力低位と思っていた子ども. 援が適切に行われることにより教師が成長する可能性. も授業に参加できるようになってきています。. を,木村氏の事例が示唆していることは,離島の教師へ. また,木塚教授だけでなく,学生さん連がゲストとし. の支援の方法を考える上で重要な事項であると言える。. て授業にいらしてくれたことで授業に変化が生まれたこ とが子ども連にとってとても楽しかったようです。普段. Ⅷ.4回目・5回目の授業観察(2009年2月). の授業では味わえない英語の有用感を味わうことができ たようですし,緊張感も味わったようです。. 4回目のカンファレンスは,2月上旬に行われ,本フ. 授業後の話し合いでは,ついつい「勉強しない!」と. ロジュクトの前半に当たる2008年9月”12月に行われた. 思っていた子ども連にも,たくさん良いところがあるこ. カンファレンスとそれに基づくまとめのレポートにおい. とに気がつかせてもらいました。子ども連は工夫もする. て言及されていた事項である「(1)音声中心の英語の授業. し,話したいという意欲もある。そのように子ども連を. 作り」と「(2)英語教師としての自己実現と生き方」に焦. 褒めてもらえるのが嬉しかったりもします。同時に自戒. 点を当て,前回同様1年生2年生の授業観察を行った。. 一 40 一.
(14) No.64. 離島の教師の専門的成長への支援. 今回の授業では,1年生がwhenを用いた疑問文,2. の授業を行うことが一人ひとり異なる教師の存在意義と. 年生が最上級に関わる内容であった(17)。. 結びつくことになるのである。. 授業全体としては,音声主体の英語の授業作りが明確. 上記の内容は,本項の冒頭で言及した(1)と(2)の事項と. に意識されており,ほぼ授業全体が総て英語により行わ. 結びついている。すなわち,音声主体の英語の授業を行. れていたが,表面的にではなく,本質的な意味において. うことは,実は単なる授業展開の工夫や授業のテクニッ. 音声主体の授業を考えるとき,以下のような問題点が見. ク(技術)の問題ではなく,本プロジェクトの最初に木村. 出された。. 氏に提出してもらった「目指す教師像」の具体化の問題. ①「聞く・話す」を中心とした音声中心の授業を展開す. に還元されるのである。従って,本質的な意味において. る場合,例えばOr・alIntr・Oductionにおいて新出の学習. 授業改善を行うのであれば,木村氏が「目指す教師像」,. 事項を導入する際には,補助となる視覚的な教具として. 言い換えれば英語の授業を通して「育てたい子供像」を. 絵や写真等が必要になるが,単にこれらを用いれば良い. 明確にし,それを実現するためにはどのような方法が求. ということではなく,絵や写真等が有効に機能する文脈. められるのかを考えることが必要になると言えるであろ. (context)を定めることが必要となる。すなわち,あ. う。. る英語表現を日本語の意味と一対一の対応関係に限定す. 以下は,4回目のカンファレンスを通して,木村氏か. ることを試みるのではなく,その表現が用いられる状況. ら提出された授業の振り返りレポートである。. を巧みに設定し,その設定された状況の中でターゲット となっている表現の意味を学習者に理解させることが重. 平成21年2月5日・6日 授業のまとめ キqワqド:context,音声重視,学校教育,Onlyone. 要である。 ②音声によるコミュニケーション中心の授業作りを行う. 英語授業を改善していく中で,COnteXtの中で英語を. 場合,文脈の中で学習者が適切に英語表現を使用できて. 教え,身につけさせるというのが大前提である。COn−. いれば学習内容が定着していると捉えることができるは. textの中で英語を教えれば,既習のものと未習のものを. ずであり,改めてその表現の意味を日本語に置き換えた. リンクさせて学ぶことができるし,より実際の使い方に. 段階で,音声中心の授業は完全に損なわれることになる。. 近い言語の使い方を身につけられるし,何よりも定着が. すなわち,音声主体の授業作りとは,相応しい文脈の中. 良い。そのような授業を展開する上での手段として,音. で提示された表現を学習者が理解し,その後のコミュニ. 声中心の授業があるのである。しかし,文字中心の授業. ケーション活動の中でその表現を適切に使うことができ. から音声中心の授業にすることが第1目的になり,. ているか否かが問われるのである。そのような意味にお. contextという大前提を完全に忘れていた。また,生徒. いて,木村氏は自らが受けた英語の授業の呪縛から,完. が新しい英語表現に気がつくようなcontextを設定する. 全に二独立した姿になっているとは言い難い。. のが非常に苦手であることにも気がついた。これには自. ③授業には,英語という教科を通して教師が目指してい. 分の生育歴が関係しているのかもしれない。私は周囲か. る「育てたい子供像」が投影されることになるはずであ. ら与えられたものをこなしてきた経験は多いが,自分か. る。「英語を聞く・話す活動を通して積極的にコミュニ. ら周囲に注意を払い,その状況を判断した上で行動した. ケーションを図ることができる子供を育てたい」と考え. り,学んだりする経験が乏しかった。先輩の技を盗むこ. るのであれば,音声中心の英語の授業を組み立て,ある. とや,周囲への気遣いが苦手である。そのため,生徒を. 英語表現にとって適切な文脈をどのように設定し,かつ. 「気がつかせるように仕組む」ことを苦手としているよ. その表現を用いる活動内容をどのように工夫するかとい. うに思われる。. う点が重要になる。従って,一人ひとり異なる教師が存. そして,音声によるコミュニケーションを成立させよ. 在する意味は,自らが目指す「育てたい子供像」を実現. うと,英語と日本語を1対1で対応させたリストを作成. するために,異なる価値観に基づく多様な教師の創意と. した。表現を詰め込み,使用させて覚えさせようという. 工夫により授業を展開することである。すなわち,ティー. 意図だった。それは今まで指導してこなかったものを一. チヤー・プルーフ(教師用の指導書)に基づく安易な方. 気に解決させようという焦りがあったからでもある。し. 法や他人の模倣に基づく授業では,その教師が存在して. かしそれは生徒に負荷をかけるだけでなく,誤った言語. いる価値をどこに見出すことになるのであろうか。換言. の使用方法を覚えさせることにもなる。英和や和英辞典. すれば,目の前にいる子供たちを英語という教科を通し. の使用による誤学習と同様に,心のどこかでは自分がそ. てどのように育てるのかということと常に向き合う姿勢. うやって学んできたという理由で,実際に使っていく中. を採っているか否かが教師にとっては重要なのであり,. でそのような誤用は個人で修正されていくものだろうと. 子供たちの可能性を信じ,下を見るのではなく,上向き. いうように考えていたと思う。そのような意味では,自. 一 41一. 2009.
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