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鹿児島湾におけるウミニナBatillaria multiformis (Liscke, 1869)の殻形態の比較

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 要旨

ウミニナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869) は 内湾環境や河口域干潟に生息する典型的な巻貝で あり,個体ごとの形態の差異が多いことが知られ ている.藤田(2009)は,全国的に生息地が減少 し,減少傾向にあるウミニナが鹿児島湾では普通 にみられると報告しており,鹿児島県(2016)で は,分布特性上重要とされている.本研究では, 鹿児島県内の河口干潟におけるウミニナの殻形態 を比較し,本種における鹿児島県内での各河口・ 干潟の殻形態の明らかにすることを目的とした. また,近縁種でありウミニナと,殻での区別が困 難なホソウミニナ Batillaria cumingii (Crosse) を比 較対象として使用した.ウミニナの標本は鹿児島 県の 22 河川で採集し,各河川で 30 個体ずつ合計 660 個体採集した.また,鹿児島県出水市長島町 の伊唐浦のホソウミニナを比較のため採集し,使 用した.計測には,Kameda et al. (2007) がオキナ ワヤマタカマイマイ属やニッポンマイマイ属を計 測する際に用いた計測方法(Kameda 式),Urabe (1998) がチリメンカワニナを計測する際に用いた 計測方法(Urabe 式),冨山(1984)がタネガシ マ マ イ マ イ を 計 測 す る 際 に 用 い た 計 測 方 法 (Tomiyama 式)を使用し,計測した変数の平均を それぞれ地点ごとに算出し,マハラノビス距離と ユークリッド距離で各個体群間の殻形態に基づく 類似距離をクラスター分析の多変量解析で求め た.クラスター分析の結果,地理的に隣接してい る地点でクラスターを形成するものもあったが, 地理的にまとまったクラスターはほとんど形成し ていなかった.比較対象として使用したホソウミ ニナはマハラノビス距離を用いた Kameda 式, Tomiyama 式のデンドログラムを除いて,ウミニ ナの個体群とすべて混ざる結果となった.ユーク リッド距離同士のデンドログラムの比較では Urabe 式・変形 Kameda 式・変形 Tomiyama 式す べ て に お い て 1 つ の 同 じ ク ラ ス タ ー, 変 形 Kameda 式・変形 Tomiyama 式において 5 つの同 じクラスターを形成した.マハラノビス距離同士 のデンドログラムの比較では,Urabe 式,変形 Tomiyama 式において 1 つの同じクラスター,変 形 Kameda 式,変形 Tomiyama 式において 2 つの 同じクラスターを形成した.本研究において地理 的に近い集団が必ずしも形態的に類似性が高いと は言えず,ウミニナは Kameda 式,Tomiyama 式 を用いることで殻形態の比較が可能であると考え られる.今回の 3 つの計測方法でホソウミニナを ウミニナの集団と分けることができたのは変形 Kameda 式,変形 Tomiyama 式のマハラノビス距 離の 2 つであったが,この結果も距離が大きく離 れていたとは言えず,今回の 3 つの計測法を用い てもウミニナとホソウミニナを同定することは困 難であると考えられる.今後の課題として DNA 分析を用いた比較や交雑の実験,環境要因の調査 などの様々な手法を行うことによって,総合的に 分析し,比較を行うことが重要であると考える. そして,より多くのホソウミニナのサンプルとウ ミニナを比較し殻形態での同定ができないか再検 討する必要があると考えられる.

鹿児島湾におけるウミニナ

Batillaria multiformis

(Liscke, 1869)

の殻形態の比較

村永 蓮・冨山清升

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

   

Muranaga, R. and K. Tomiyama. 2020. Shell morphology of

Batillaria multiformis in Kagoshima Bay, Kagoshima,

Japan. Nature of Kagoshima 46: 423–433.

KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Kori-moto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp).

Published online: 11 March 2020

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 はじめに

ウミニナ Batillaria multiformis (Lischke) は内湾 環境や河口域干潟に生息する典型的な巻貝であ り,個体ごとの殻形態の差異が多いことが知られ ている.藤田(2009)は,全国的に生息地が減少 し,減少傾向にあるウミニナが鹿児島湾では普通 にみられると報告しており,鹿児島県(2003, 2016)では,分布特性上重要とされている. ウミニナ科の生態に関する研究例として,喜 入干潟でのウミニナ科 1 種とフトヘナタリ科 3 種 の分布と底質選好性を報告した真木ほか(2002) の研究や,沖縄本島に生息するイボウミニナの個 体群と餌資源の季節変動,また喜入マングローブ に生息する 4 種の腹足類について,垂直分布や塩 分濃度と乾燥の要因を報告した若松ほか(2000) の研究,喜入干潟に生息するウミニナ,ヘナタリ, フトヘナタリの 3 種のサイズ別の季節変動と新規 加入について報告した吉住ほか(2010)の研究, 喜入干潟におけるウミニナの貝殻内部成長線につ いて報告した金田ほか(2013)などがあげられる. ウミニナの殻形態の比較についての研究は,殻の 殻高と殻幅で多重比較検定(Shceffe 法)を行い 殻形態の比較をした吉住・冨山(2010)の研究な どが行われているが,あまり数は多くない. 本研究では,鹿児島県内の河口干潟における ウミニナの殻形態を比較し,本種における殻形態 の差異を調べた.また,近縁種でありウミニナと, 殻 で の 区 別 が 困 難 な ホ ソ ウ ミ ニ ナ Batillaria cumingii (Crosse) を比較対象として使用した. 殻の計測は Urabe (1998) や今村(2016)で用い られた Urabe 式,Kameda et al. (2007) や中島(2009)

Fig. 1.鹿児島湾内におけるウミニナの採集地. Fig. 2.鹿児島県長島におけるホソウミニナの採集地. No 採取地点 種名 個体数 1 二反田川 ウミニナ 30 2 田貫川 ウミニナ 30 3 鈴川 ウミニナ 30 4 貝底川 ウミニナ 30 5 八幡川 ウミニナ 30 6 愛宕川 ウミニナ 30 7 永田川 ウミニナ 30 8 脇田川 ウミニナ 30 9 新川 ウミニナ 30 10 甲突川 ウミニナ 30 11 清滝川 ウミニナ 30 12 稲荷川 ウミニナ 30 13 思川 ウミニナ 30 14 別府川 ウミニナ 30 15 網掛川 ウミニナ 30 16 日木山川 ウミニナ 30 17 清水川 ウミニナ 30 18 天降川 ウミニナ 30 19 検校川 ウミニナ 30 20 高橋川 ウミニナ 30 21 本城川 ウミニナ 30 22 大里川 ウミニナ 30 23 伊唐浦(長島) ホソウミニナ 30 Table 1.各地点における計測に用いた標本数.

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で用いられた Kameda 式,Tomiyama (1984) で用 いられた Tomiyama 式の 3 つの計測法を用いた. さらに,この 3 つの殻形態の計測法の比較を行っ た.また,クラスター分析に用いる距離をユーク リッド距離とマハラノビス距離の二種類使用し た.これは先行研究の Tomiyama (1984) や君付 (2018)で用いられた距離である.各計測法,各 距離の組み合わせで 6 種類のデンドログラムを作 りそれぞれの比較を行った.  材料と方法 材料 本研究では 2018 年 8 月から 2019 年 12 月にか けて採集したサンプルを使用した.ウミニナの標 本は鹿児島県の 22 河川で採集し,各河川で 30 個 体ずつ合計 660 個体採集した(Table 1).採集地 は二反田川・田貫川・鈴川・貝底川・愛宕川・八 幡川・永田川・脇田川・新川・甲突川・清滝川・ 稲荷川・思川・別府川・網掛川・日木山川・清水 川・天降川・検校川・高橋川・本城川・大里川で ある(Fig. 1).また,鹿児島県出水市長島町の伊 唐浦のホソウミニナを比較のため採集し,使用し た(Fig. 2).また,採集は目視による見つけ取り で行った.できるだけ成熟したウミニナを採集す るため大きいサイズのウミニナを選び,各河川 30–50 個体採集した. ウ ミ ニ ナ は ウ ミ ニ ナ 科 Batillariidae に 属 し, Batillaria multiformis として記載された.本種は北 海道南部から九州までの日本各地においてふつう にみられ,鹿児島県は本種の分布南限地と推定さ れている(鹿児島県,2003, 2016).河口干潟を中 心とした大きな湾の干潟や潮間帯の砂泥上に生息 する.成貝で殻長 35 mm 内外.殻は太い塔形で, 成貝では殻口が張り出してずんぐりしており,体 層側面には低い縦張肋が現れる.殻口後端の滑層 瘤は白く顕著.殻表の螺肋は低く,肋間は狭い. 縦肋は不明瞭(奥谷,2000).殻ではホソウミニ ナとの区別が困難な場合が多いが,本種が放卵型 であるのに対してホソウミニナは砂地に直接卵を 産み付ける(Adachi and Wada, 1999).鹿児島県 (2016)では,分布特性上重要とされ,環境省カ テゴリーでは準絶滅危惧に分類されている. ホソウミニナはウミニナ科 Batillariidae に属し , Batillaria cumingii として記載された.本種はサハ リン・沿海州以南,日本全国,朝鮮半島,中国沿 岸の外海に分布し,南九州の東シナ海沿岸や太平 洋沿岸の干潟に生息している.成貝で殻長 30 mm 内外.殻は塔形で,螺層は多く,やや厚い.殻口 外唇は張り出さず,滑層瘤の発達も悪い.体層に は縦張肋が現れない(奥谷,2000).色彩変異や 殻径の変異が産地によって著しい.本種は殻の外 見の変異が大きく,殻の形態ではウミニナとの区 別が困難な場合が多いが,長島の八代海沿岸部の ウミニナ類はホソウミニナであり,鹿児島湾内の ウミニナ類はウミニナであることが,それぞれミ トコンドリア DNA の分析の結果,分かっている (Kojima et al., 2001). 調査地の状況 Pt. 1 二反田川:二級河川.岩場が点在しており, 泥干潟であった.護岸コンクリートの付け根部分 にウミニナが生息していた. Pt. 2 田貫川:二級河川.泥干潟.干潟上にウ ミニナが生息していた. Pt. 3 鈴川:指定区分外.泥干潟.干潟上にウ ミニナが多く生息していた. Pt. 4 貝底川:指定区分外.砂泥干潟.テトラポッ トの近くにウミニナが多く生息していた. Pt. 5 愛宕川:二級河川.マングローブ林入り口・ マングローブ林内の泥干潟上にはウミニナ・ヘナ タリ Pirenella nipponica (Ozawa and Reid in Reid and Ozawa, 2016)・カワアイ Cerithidea (Cerithideopsilla) djadjariensis (K. Martin) が生息していた. Pt. 6 八幡川:二級河川.泥干潟.干潟上と護 岸コンクリート部分にウミニナが多く生息してい た. Pt. 7 永田川:二級河川.砂泥質の干潟.干潟 上や転石上,護岸コンクリート上にウミニナが多 く生息していた. Pt. 8 脇田川:二級河川.砂干潟.転石上,ま たその周りにウミニナが生息していた. Pt. 9 新川:二級河川.砂泥質の干潟.干潟上

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にウミニナが生息していた. Pt. 10 甲突川:二級河川.小石の多い砂干潟. 護岸コンクリート付近にウミニナが多く生息して いた. Pt. 11 清滝川:指定区分外.砂泥質の干潟.転 石上やその付近にウミニナが多く生息していた. 調査河川中で特にゴミが多く汚染が進んでいる印 象を受けた. Pt. 12 稲荷川:二級河川.泥干潟.護岸コンク リート付近の干潟上にウミニナが生息していた. Pt. 13 思川:二級河川.小石の見られる砂干潟. 護岸コンクリート付近の干潟上にウミニナが多く 生息していた. Pt. 14 別府川:二級河川.砂干潟.干潟上にウ ミニナが生息していた. Pt. 15 網掛川:二級河川.転石のある砂干潟. 干潟上にウミニナが生息していた. Pt. 16 日木山川:二級河川.砂泥質の干潟.護 岸コンクリート上や護岸コンクリート付近にウミ ニナが生息していた. Pt. 17 清水川:二級河川.転石のある砂泥質の 干潟.干潟上にウミニナが多く生息していた. Pt. 18 天降川:二級河川.砂泥質の干潟.石積 護岸上の干潟上にウミニナが生息していた. Pt. 19 検校川:二級河川.砂泥質の干潟.河口 の護岸コンクリート付近の干潟上にウミニナ多く 生息していた. Pt. 20 高橋川:二級河川.砂干潟.干潟上にウ ミニナが生息していた. Pt. 21 本城川:二級河川.泥干潟.干潟上にウ ミニナが生息していた. Pt. 22 大里川:二級河川.砂泥質の干潟 . 干潟 上ウミニナが生息していた. Pt. 23 伊唐浦(長島):砂泥質.ごろたや転石 が多い.山からの水の流入あり. 方法 ウミニナとホソウミニナの個体群間の殻形態 Fig. 3.ウミニナ属の殻の Urabe 式による計測部位. Fig. 4.ウミニナ属の殻の変形 Kameda 式による計測部位. Fig. 5.ウミニナ属の殻の変形 Tomiyama 式による計測部位.

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の差異を調べるために,サンプルの各採取地点か ら 30 個体ずつ,計 690 個体を用いて殻形態の計 測を行った.計測にはデジタルカメラ(Canon IXY 650)で撮影した殻の画像を使用し,画像計 測ソフトウェアの Micro Measure (Ver.1.0) を用い て行った.計測について,Urabe 式・Kameda 式・ 変形 Tomiyama 式の 3 つの方法を用いた.

Urabe 式の計測法 Urabe 式は Urabe (1998) が

チリメンカワニナ(Semisulcospira reiniana Brot, 1877)などの種を計測するために用いた方法であ る.この計測方法を参考にし,単位を mm で 7 つ の 形 質(SW: 殻 径,PWW: 第 二 体 層 幅, TWW:第三体層幅,PWL:第二体層長,TWL: 第三体層長,AL:殻口長,AW:殻口幅)の計測 を行った(Fig. 3).また , これら 7 つの形質に加え, 3 つの値(W:螺塔の拡張率,T:螺塔の変化率, S:殻口の真円度)を求めた.W, T, S は以下の計 算式より算出した.本研究では,この計測方法を Urabe 式とした. W(螺塔の拡張率)= PWW/TWW T(螺塔の変化率)= (1+√W)・√{PWL2 -(PWW-TWW)2/(1+√W)}2/(PWW-TWW) S(殻口の真円度)= AL/AW 変形Kameda 式の計測方法 変形 Kameda 式は 亀田ほか(2007)がシラユキヤマタカマイマイ Satuma (Luchuhadra) Largillierti (Pfeiffer, 1849) な どの Luchuhadra 属の各種を計測し,分類する際 に用いた方法である.Kameda et al. (2007) や中島 (2009)を参考にし,単位を mm で計測できない 部位を除外した 6 つの形質(H:殻高,D:殻径,

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AH:殻口高,AW:殻口幅,SH:螺塔の高さ, SW:螺塔の幅)の計測を行った(Fig. 4).また, これらの 6 つの形質に加え,3 つの比率(H/D, AH/H, AW/D)を加えた.本研究では,この計測 方法を Kameda 式とした. 変形Tomiyama 式の計測方法 変形 Tomiyama 式は冨山(1984)がタネガシママイマイ(Satsuma Tanegashimae Pilsbry, 1901)を計測する際に用い た方法である.この計測方法を参考にし,単位を mm で,計測できない部位を除外した 8 つの形質 (殻高,殻径,X 値,Y 値,Z 値,a 値,d 値,f 値, 巻数)の計測を行った(Fig. 5).またこれら 8 つ の計測に加え,巻数,8 つの比率(殻高 / 殻径, f/ 殻径,a/ 殻高,x/ 殻高,y/ 殻高,y/x,巻数 / 殻 高,巻数 / 殻径)を加えた.本研究ではこの計測 方法を Tomiyama 式とした. 統計処理はフリー統計ソフトウェアの R (ver. 3.5.0) (https://cran.r-project.org/mirrors.html) を 用 い た.上記で説明した 3 つの計測方法それぞれで, 地点ごとの個体群間の距離を各変数の平均値で取 り,ユークリッド距離とマハラノビス距離でそれ ぞれ算出した.各個体群のグループ分けを行うた めに,算出した数値をもとにクラスター分析の多 変量解析を行った.本研究では冨山(1984)が用 いた群平均法を用いて,クラスター分析を行い, その結果,3 つの計測法 ×2 種類の距離で導き出 されるデンドログラムを 6 通り算出した. ユークリッド距離とは,2 点間の通常の距離の ことであり,ピタゴラスの定理によって与えられ る.また , マハラノビス距離とは,多変数間の相 関に基づくものであり,多変量解析によく用いら れている.このため,相関のある多変量データを Fig. 7.Urabe 式マハラノビス距離のデンドログラム.

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取り扱う際にはマハラノビスの方が便利であり, ユークリッド距離と比較してマハラノビス距離の 方が,相関が強い場合,実際の距離よりも相対的 に近く表れるという特徴を持っている.  結果 計測結果 ウミニナ 今回の計測におけるウミニナの殻 高の最大値は 41.62 mm,最小値は 19.69 mm,平 均値は 26.48 mm,殻径の最大値は 16.86 mm,最 小値は 7.69 mm,平均値は 12.1 mm となった. ホソウミニナ 今回の計測におけるホソウミ ニナの殻高の最大値は 26.51 mm,最小値は 21.1 mm,平均値は 23.26 mm,殻径の最大値は 12.36 mm,最小値は 10 mm,平均値は 11.15 mm となっ た. Urabe 式 ユークリッド距離 クラスターは大きく 6 に 分かれた.地理的にまとまったクラスターを形成 しているとは言えず,比較対象として使用したホ ソウミニナはウミニナの個体群と混ざる結果と なった.検校川と高橋川,網掛川と日木山川など 地理的に隣接している地点でクラスターを形成す るものもあった(Fig. 6). マハラノビス距離 クラスターは大きく 13 に 分かれた.地理的にまとまったクラスターを形成 しているとは言えず,比較対象として使用したホ ソウミニナはウミニナの個体群と混ざる結果と なった.思川と別府川など地理的に隣接してい る地点でクラスターを形成するものもあった (Fig. 7). Fig. 8.変形 Kameda 式ユークリッド距離のデンドログラム.

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変形Kameda 式 ユークリッド距離 クラスターは大きく 6 に 分かれた.地理的にまとまったクラスターは見ら れなかった.比較対象として使用したホソウミニ ナはウミニナの個体群と混ざる結果となった (Fig. 8). マハラノビス距離 クラスターは大きく 11 に 分かれた.地理的にまとまったクラスターは見ら れなかった.比較対象として使用したホソウミニ ナの個体群はわずかではあるが,ウミニナの個体 群と分かれた(Fig. 9). 変形Tomiyama 式 ユークリッド距離 クラスターは大きく 5 に 分かれた.地理的にまとまったクラスターは見ら れなかった.比較対象として使用したホソウミニ ナはウミニナの個体群と混ざる結果となった (Fig. 10). マハラノビス距離 クラスターは大きく 18 に 分かれた.地理的にまとまったクラスターを形成 しているとは言えず,比較対象として使用したホ ソウミニナはウミニナの個体群と混ざる結果と なった.天降川と検校川,思川と別府川など地理 的に隣接している地点でクラスターを形成するも のもあった(Fig. 11). デンドログラムの比較 ユークリッド距離 Urabe 式・変形 Kameda 式 変形・Tomiyama 式において永田川・稲荷川・天 降川の集団が同じクラスターを形成した.変形 Kameda 式・変形 Tomiyama 式において田貫川・ 愛宕川・本城川・伊唐浦の集団,八幡川・別府川 Fig. 9.変形 Kameda 式マハラノビス距離のデンドログラム.

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の集団,貝底川・思川の集団,甲突川・網掛川の 集団,新川・日木山川の集団が同じクラスターを 形成した.変形 Kameda 式・変形 Tomiyama 式に おいて鈴川の集団が他のクラスターと高さが離れ ていた. マハラノビス距離 Urabe 式・変形 Tomiyama 式において思川と別府川の集団が同じクラスター を形成した.変形 Kameda 式・変形 Tomiyama 式 において新川と日木山川の集団,稲荷川・網掛川 の 集 団 が 同 じ ク ラ ス タ ー を 形 成 し た. 変 形 Kameda 式・変形 Tomiyama 式において伊唐浦の ホソウミニナが他のウミニナの集団と分かれた.  考察 本研究において,地理的にまとまったクラス ターを作ったのは Urabe 式ユークリッド距離の網 掛川と日木山川の集団,検校川と高橋川の集団, Uraba 式マハラノビス距離の思川と別府川の集 団,変形 Tomiyama 式マハラノビス距離の天降川 と検校川,思川と別府川の集団であった.地理的 に近い集団が必ずしも形態的に類似性が高いとは いえないことが判明した. 今回の 3 つの計測方法でホソウミニナをウミ ニ ナ の 集 団 と 分 け る こ と が で き た の は 変 形 Kameda 式,変形 Tomiyama 式のマハラノビス距 離の 2 つであったが,この結果も距離が大きく離 れていたとは言えず,ホソウミニナとウミニナの 殻形態の違いとして,殻は塔形で,螺層は多く, やや厚い,殻口外唇は張り出さず,滑層瘤の発達 も 悪 く, 体 層 に は 縦 張 肋 が 現 れ な い( 奥 谷, 2000)というものがあるが今回の計測法では殻口 外唇しか加味されない.そのため,今回の 3 つの Fig. 10.変形 Tomiyama 式ユークリッド距離のデンドログラム.

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計測法を用いてもウミニナとホソウミニナを同 定することは困難であると考えられる. Urabe 式計測法は浦部式の計測方法は,チリメ ンカワニナの殻の計測を測定する際に用いられた 手法(Urabe, 1998)である.本研究の結果では Urabe 式計測法はウミニナの殻形態の比較には適 していないと考えられるが,神薗(2017)は陸産 貝のギュリキギセルの殻形態を今回の 3 つの手法 を用いて計測をしたが,チリメンカワニナと殻の 形態が近い Urabe 式が適切としている.そのため Urabe 式計測法はチリメンカワニナに似た特徴を 持つ貝の計測に適しているのではないかと考えら れる. また君付(2018)は陸産貝のアズキガイ属の 殻形態を 3 つの手法を用いて計測をしたが,アズ キガイ属の殻計測について Urabe 式を応用するこ とは難しいとし,Kameda 式,Tomiyama 式を用 いることで殻形態の比較は可能としている.今回 のウミニナにおいても Kameda 式,Tomiyama 式 を用いることで殻形態の比較は可能であると考え られる. 以上より,殻形態比較をするにあたっては,殻 の欠損部分の少ないサンプル数の確保や,成貝と 幼貝のサイズの明確な判断基準を定めることが必 要だと考えられる. また,今後の課題として,DNA 分析を用いた 比較や交雑の実験,環境要因の調査などの様々な 手法を行うことによって,総合的に分析し,比較 を行うことが重要であると考える.そして,より 多くのホソウミニナのサンプルとウミニナを比較 し殻形態での同定ができないか再検討する必要が あると考えられる. Fig. 11.変形 Tomiyama 式マハラノビス距離のデンドログラム.

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 謝辞 本研究を行うにあたり,適切な助言および指 導をいただきました冨山清升研究室の皆様方に心 よりお礼申し上げます.また,サンプル採集に同 行してくれた黒木理沙氏・植木拓郎氏,サンプル を提供してくれた福島浩太氏,論文執筆にあたり 助言をいただいた冨山研究室の皆様,鹿児島大学 地球環境科学専攻の皆様に深く感謝申し上げま す.用皆依里様(鹿児島学 URA センター),お よび,本村浩之先生(鹿児島大学総合研究博物館) には投稿でお世話になりました.本稿の作成に関 しては,日本学術振興会科学研究費助成金の,平 成 26–29 年度基盤研究(A)一般「亜熱帯島嶼生 態系における水陸境界域の生物多様性の研究」 26241027 - 0001・平成 27–29 年度基盤研究(C) 一般「島嶼における外来種陸産貝類の固有生態系 に与える影響」15K00624・平成 27–31 年度特別 経費(プロジェクト分)-地域貢献機能の充実- 「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教育 研究拠点整備」,および,2019 年度鹿児島大学学 長裁量経費,以上の研究助成金の一部を使用させ て頂きました.以上,御礼申し上げます.  引用文献

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