知的障害教育における集団リズム遊びの実践事例
―コミュニケーション能力への働きかけを意図して―
Practice Example of Group Rhythmic Playing for Children
in Intellectual Disability Education
―Aim at pressure to communicative competence―
茅野 理子
†CHINO Masako
Summary
The purpose of this study was to examine the infl uence that group rhythmic playing in the
joint class gave to the communicative competence of the child in the intellectual disabilities
education as point of view nonverbal communication. In this practice I built the relationship
of mutual trust and raised the self-esteem of the child by making much of the each person's
free and creative activities. As a result, the considered content is as follows. A variety of
movement was born from a child. Improvement was seen in imitation skills and initiation
of communications. From these, It was able to accept the possibility that group rhythmic
playing worked on communication. There is the future problem for the establishment of the
instruction method that anyone can teach the group rhythmic playing universally.
キーワード:知的障害教育,ノンバーバル・コミュニケーション,始発,模倣,集団リズム遊び
1.はじめに
平成11年の特別支援学校学習指導要領等の改訂において,それまでの「養護・訓練」の名称が 「自立活動」に改められた。国立特別支援教育総合研究所ホームページによると,「『養護・訓 練』は,幼児児童生徒の障害の状態を改善・克服することをねらいとして,昭和46年の学習指導 要領の改訂において,新たに盲学校,聾学校及び養護学校共通に設けられた特別の指導領域」であ り,「この領域が一人一人の幼児児童生徒の実態に対応した活動であることや自立を目指した主体 的な取組を促す教育活動であることなどを一層明確にする観点から,『自立活動』に改められ」, 「ここでの『自立』とは,幼児児童生徒がそれぞれの障害の状態や発達段階に応じて,主体的に自 己の力を可能な限り発揮し,よりよく生きていこうとすることを意味して」いると解説されている。 その内容について,指導要領では,「人間として基本的な行動を遂行するために必要な要素と, 障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するために必要な要素で構成しており,それらの 代表的な要素である26項目を『健康の保持』,『心理的な安定』,『人間関係の形成』,『環境 の把握』,『身体の動き』及び『コミュニケーション』の六つの区分に分類・整理したものであ る」(文部科学省,2009,pp.7-8)と示している。 その上で,「個々の幼児児童生徒に指導する具体的な指導内容は,六つの区分の下に示された 26項目の中から必要とする項目を選定した上で,それらを相互に関連付けて設定することが重要で † 宇都宮大学 教育学部(連絡先: [email protected])表1.学習指導要領に示された自立活動の内容における六区分と項目
区 分 項 目 健 康 の 保 持 (1)生活のリズムや生活習慣の形成に関すること (2)病気の状態の理解と生活管理に関すること (3)身体各部の状態の理解と養護に関すること (4)健康状態の維持・改善に関すること 心 理 的 な 安 定 (1)情緒の安定に関すること (2)状況の理解と変化の対応に関すること (3)障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること 人 間 関 係 の 形 成 (1)他者とのかかわりの基礎に関すること (2)他者の意図や感情の理解に関すること (3)自己の理解と行動の調整に関すること (4)集団への参加の基礎に関すること 環 境 の 把 握 (1)保有する感覚の活用に関すること (2)感覚や認知の特性への対応に関すること (3)感覚の補助及び代行手段の活用に関すること (4)感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握に関すること (5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること 身 体 の 動 き (1)姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること (2)姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること (3)日常生活に必要な基本動作に関すること (4)身体の移動能力に関すること (5)作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること コミュニケーション (1)コミュニケーションの基礎的能力に関すること (2)言語の受容と表出に関すること (3)言語の形成と活用に関すること (4)コミュニケーション手段の選択と活用に関すること (5)状況に応じたコミュニケーションに関すること ある」(前掲書,p.9)としている(表1参照)。 発達障害児のコミュニケーションに関する先行研究を検索すると、これまで多くの先行研究がコ ミュニケーションについて言及しているが,その多くは,言語によるコミュニケーションを重視し ているように思われる。 自閉症のDIRプログラムを提唱したS.グリーンスパンら(2009)は,ASDと関わる人に とって,コミュニケーションは最も大事なことであるが,言葉を返すことだけがコミュニケーショ ンと考えられがちであることを指摘し,言葉が発達する前の主に身ぶりで意志を伝える段階,ノン バーバル・コミュニケーションの時期からコミュニケーションは始まっている。わずかなうなずき, ほほえみ,のどをならすことなどが初期のコミュニケーション形態であり,それが双方向の豊かな コミュニケーションに発展していく。言語能力はノンバーバル・コミュニケーション能力に大きく 左右され,社会性や感情のコントロール能力を身につけるためにさらに大切と示唆している。 また,コミュニケーションの背景には,ラポールの関係がある。例えば,遊戯療法では,その機 能(働き)として,信頼できる治療者との関係の中で,十分に認められて対応されることによって, 子どもの自己理解を深めることや,自尊心を高める働きがあること,対人関係の形成や社会性の発達,感情発達を助ける機能(安心できる場所で,治療者との信頼関係を軸にして継続的に行われる ことによって,はじめて有効に作用する)を挙げている(原,2014,p.90)。 つまり,「コミュニケーション」は,「心理的な安定」や「人間関係の形成」と不可分であると 言えよう。 ところで,昭和56年(1991)に開催された日本特殊教育学会第28回大会において,「発達障害 児のノンバーバルコミュニケーション行動の指導をめぐって」と題されたワークショップⅠが行わ れ,その中で「近年,自閉症児や重度精神遅滞児などの発達障害児者を対象としたノンバーバル (ノンスピーチ,ノンボーカル)コミュニケーション行動の指導をめぐって,さまざまな議論がな されるようになってきた。しかし,わが国では基礎研究や応用研究が少なく,今後この領域の研究 が質量ともに充実することが望まれる。」(小林・加藤,1991,p.71)と提言されている。 しかし,我が国における発達障害児に対するノンバーバル・コミュニケーションに関する研究は 未だに少ない。また,池田(2015)は、事例研究の今後解決すべき課題として,学校生活の文脈 で研究を行う必要性を指摘している。 そこで,本研究では,特別支援教育の教育課程の一環として行われた集団リズム遊びを実践し, それが,指導者と,友達との関係にどのような影響を及ぼしえるかをノンバーバルの視点から明ら かにすることを目的とした。
2.研究方法
(1)実践内容等について 実践は知的障害教育校の教育課程の一環として,小学部全員で行われた合同授業(45分間)の 計5回であり,第1回から第3回までは7日から17日の間隔があり,第4回と第5回は1年後に 行われ,6日間のインターバルがあった。1回の実践は30分∼40分である(表7∼11参照)。 対象は小学部児童(1年∼6年)であり,人数は11名∼18名であった(表2参照)。 指導は筆者が行い,学部教員がTTとして関わった。 そのねらいは,表2に示すとおりである。 (2)分析方法 実践場所に指導者側の両側から固定カメラ2台を設置し,実践記録を撮った。 その実践記録から,指導者の指導言語及び行動を逐語的に記録するとともに,それに対する児童 の反応(活動)を全体と抽出児童4名について具体的に記録して分析を行った。3.結果及び考察
(1)全体考察 集団リズム遊びでは,一人一人の自由性や創造性を重視することで,自尊感情を高め,そのこと が他者との関わりを豊かにするように運んでいく。具体的には,表3に示したように,児童の動き を認め,称賛することを通して,自分も「できる」,「やりたい」という思いを強くするようにし ている。この表からは,その年度に初めて行う場合の称賛の数が多いことがわかる。 5回の内容は,表7∼11にまとめた。 第1回から第3回については,特別支援学校小学部の児童とともにこれまで約20回にわたり実 践展開した集団リズム遊びのうち有効であったもので構成している。第4回,第5回ではそれらを表2.実践のねらいと内容
時間 ね ら い 内 容 第 1 回 29 分 10 秒 ・先生や友達の動きの模倣 ・ふれあい ・ルールのあるゲーム ・リズム(遅‐速のリズムで) ①「おちた おちた」 ②「ロンドン橋おちた」 ③「ミックスジュース」 ④「キツネとガチョウ」⑤「おちた おちた」 (17名) 第2 回 30 分40 秒 ・先生や友達の動きをの模倣 ・ふれあい ・リズム(動‐止を含めて) ①「おちた おちた」 ②「ホ!ホ!ホ!」 ③「ロンドン橋おちた」 ④「おちた おちた」 ⑤「ミックスジュース」 (11名) 第3 回 46 分10 秒 ・リズム ・表現 ・ルールのあるゲーム ①「おちた おちた」 ②「キツネとガチョウ」 (17名) 第4 回 41分00秒 ・リズム ・かかわり ・グループで動くことの意識化 ①「おちた おちた」 ②「ロンドン橋おちた」 ③「ホ!ホ!ホ!」 ④「ミックスジュース」 ⑤「おちた おちた」 (18名) 第5 回 39分22秒 ・リズム ・かかわり ・グループで動くことの意識化 ①「おちた おちた」 ②「ホ!ホ!ホ!」 ③「ロンドン橋おちた」→発展 ④「おちた おちた」 (17名) *内容欄( )内数字は参加者数表3.指導者の各回における称賛の内容と回数
第 1 回 第 2 回 第 3 回 第 4 回 第 5 回 「上手」(単独,+α*) 15 4 4 13 4 具体的な内容を示して 3 4 4 5 3 合 計 18 8 8 18 7 *「すごく上手」,「とても上手」,「上手上手上手」,「すごい」など 具体的な内容については,表7∼11参照 発展させ、グループを意識させた指導性の強いものとなっている。 実践内容の「おちた おちた」では,まず,リズミカルな動きのなかで,興奮と抑制を体得でき るように意図した。単調な動き(手拍子,膝打ち,その場で走るなど)を繰り返し,一瞬止める。 曲はアップテンポで,1フレーズは約10秒の長さになっていて,メロディの後「あっ!」という 声で一瞬止まるように構成されている。 この1フレーズの単位を基準として,内容にバリエーションをつけて展開した。そのねらいの柱 の一つが運動課題であり,他の一つが創造性・表現力である。 運動課題では,日常における子どもたちの動きをよく観察し,今できる動きを含めながら,スモ ールステップを踏んで,少しずついろいろな動きができるようにし,最終的にいろいろな場所を自 由に動く,いろいろな人と出会い関わり合って動くということをめざした。 創造性・表現力の課題では,指導者の動きを真似することから,友達の動きの真似をする(自分 で動きを工夫する)ように発展させた。 両方の課題の展開は,常に子どもたちが起点となるように心がけた。 「キツネとガチョウ」では,自閉症スペクトラム児がよくする運動の特徴として,「跳ぶ」動き があることから,その要素を取り入れて歌遊びとした。指導者に集中している様子が見えるととも に,他の児童にぶつからないで逃げることができていた。表4.表現と模倣(第3回)
好きなもの 指導者の対応 それに対する他の児童の反応 カメハメハ 手を前へ押し出す動きも 「カメハメハー」と言いながら,両 手を横から前へ押し出すしぐさをす る。 16名中7名が真似する。一緒に「カメハメ ハー」と言いながら,両手を横から前へ押し 出すしぐさをする児童も3名いる。 たまご*(教員が児童の 手 を 取 っ て 動 か せ な が ら) 卵の形を大きく両手で描く。 10名が小さく真似する。 転がる(動き)** 児童の動きにあわせて「ゴロゴロゴ ロゴロ」と言葉かけをする。 11名(うち2名は教員に促されて)が真似 をして転がる。1名はみんなが終わった後 に。 消防車 片 手 を 頭 上 で く る く る と 回 し な が ら,「走るよ」と言って走る。 11名(うち1名は促されて)が走る真似を するが,片手を回しながら走っているのは3 名。 走 っ て 行 っ て ト ン ( 動 き)** 壁にタッチし,「走って行って,上 手にトンできるかな?いろんなとこ ろにトンしてきて」と指示する。 9名がマットや壁にタッチ。 両腕をぐるぐる回す(動 き) 児童の動きを真似してぐるぐる両腕 を回す。 10名が真似をするが,そのうち うどん 大きくうどんを食べる真似をする。 2名が小さく,1名が大きく真似する。 電車 両手を車輪にしてガタンゴトンガタ ン ゴ ト ン と 言 い な が ら ゆ っ く り 走 る。 指導者の後ろに7名が連なって一緒に動いて いる。9名(うち1名は促されて)が走る真 似をするが,両手を回す動きは2名。 なわとび* 「縄跳ぶよ。これだったら二重跳び できるね。あや跳びもできる。」と 言いながら跳ぶ真似をする。 10名が真似。うち1名は小さく弾む動きで 真似する。両手を回すしぐさは4名。 くるくる回る 「はい,みんなで真似して。くるく る 回 る ん だ っ て 。 」 と 回 っ て み せ る。 10名(うち1名は促されて)が真似する。 (アイドルの)嵐 くるっと回る動きも 「くるっと回ってカッコよく止まる んだよ。2回続けられる?」 9名が真似する。 陸上*(走る) 「 走 る ん だ っ て 。 カ ッ コ よ く 走 っ て。」と言って走る。 11名(うち2名は促されて)が走る真似を する。 ユラユラとかいぐり** 左右にユラユラする動きとかいぐリ (ミックスジュースの歌を歌いなが ら)。 7名が真似する。 2人組(動き) お友達と一緒に,2人組。回るよ。 ほとんどが教員に促されて2人組に。 エビバーガー* 大きな口あけてパクッて食べるよ。 2名が小さく真似する。 バナナ* 一つ,二つ,三つと言いながら,大 きくバナナの皮をはがす動きをした 後 パ ク パ ク パ ク と 食 べ る ふ り を す る。 4名が小さく真似する。 アンパンマン 両手を拳にして頬につけて「アンパ ンマン」と言う。 8名(うち2名は促されて)が真似する。D 児に初めて始発がみられる。 *印は教員が代弁したもの **印は指導者がその子がしている動きをみつけて促したもの 表中人数は明確に確認ができたもの定型の問答である「あなたの好きなものは何?」のときに,ある児童が自分の好きなものを尋ね られたと思って一所懸命答えようとしていた。そことからヒントを得て,これを発展させて表現の 動きとすることにした。 ただし,全体で39分23秒の実践は長すぎたという反省もある。しかし,表4,9にみられるよ うに,半数の子どもたちは集中をきらさず,活動できていたし,すべての子どもたちから様々な動 きが生まれ,また,表現運動に発展できる内容もあった(写真1∼3参照)。 第4回,第5回は,「子ども同士がグループになれる音楽リズム遊び」というコンセプトのもと, 指導者の意図が大きく影響した実践内容となった。そのため,説明不足があったり,特に第4回 については子どもたちの動きを十分活かすことができなかったりして,児童のみならず教員の混乱 も招いてしまったように感じられた。第5回も指導性はまだ強い部分があるが,初めて曲を使用し, 児童の楽しさの方を重視したことにより,いろいろな「橋」が教員と共に工夫され,また,工夫さ れた橋への対応も主体的にできていた(写真4∼6参照)。 写真1.キツネとガチョウ 写真2・3 キツネとガチョウ(電車で動く) 指導者の回りに集まってくる子と遠巻きに見ている子がいる。 写真4.児童の身長にあわせて橋を 写真5・6.音楽にあわせて,自然に橋が揺れている。 つくる…くぐる 児童が主体的にくぐっていく。 (2)個別の考察 1)H児について(表7∼11) H児はダウン症児である。一般にダウン症児はダンスが得意で自由な発想による表現をするこ とができる反面飽きやすく自分勝手な行動を起こしがちであると言われている。 しかし,H児は集中力も高く,また乱暴な様子も見られず,意図的な表現力の豊かさがある。 トンボやカエル,ストローで飲むしぐさ,ホースで水を撒くしぐさ,また好きなジュースを即座 に言えたり,「美味しいね」などの反応ができたりする豊かな感受性を感じることができた。 2)I児について(表5) I児は自閉症スペクトラム児である。一見反応が乏しいように思われたが,後方で小さな動き
表5.I児の活動(1回目の実践)指導者の動きに対する反応を中心に
指導内容等 I児の反応 0:00 1:04 1:30 1:41 2:11 2:21 2:38 3:12 3:52 4:02 4:22 4:35 5:21 5:33 5:40 5:44 5:51 6:02 6:16 7:00 7:08 7:14 7:19 7:25 7:50 挨拶と動きの説明 「おちた おちた」をすることを言い,曲をかけ にいく 動きの指示(手拍子) 曲がかかる 座ったままでの動きで 手拍子から膝打ちへ 立って動く その場で動く 曲がかかる その場で走る−挙手 跳ぶ動きに変える 「回る動きにするよ」 その場で走る−回る 「いろんなところ走っていって最後にタッチ」と 言って近くの子とタッチして見本をみせる 曲がかかる いろいろなところを走る−タッチ 曲終わる 屈んでいる児童を見つけて…「お友達の真似しよ うか」 曲がかかる 走る−屈む バランスをしている児童の真似 曲がかかる 走る−片脚を後方に上げ,バランスで止まる 跳んでバランスで止まる動きをしている児童の真 似 (後略) 椅子に座ったままで ゆらゆら左右に揺れる動きが多い 立ち上がって2度軽く跳ぶ 友達と顔を合わせて笑う 短く真似する 曲のリズムに合わせるように左右の揺れがやや大きく 反応せず 先生に促されて短く膝打ち 小さく前腕だけをあげる 繰り返す 笑顔 自ら立ち上がる 立ったまま左右に揺れる リズムに合わせて足踏み 弾むように足踏み,小さく挙手はできるが跳べない 初めて両足で跳ぶ 戸惑いがみられる 回れない 自ら前に出てくる−先生に促されて元の位置に戻る 大きく円形で歩き,指導の先生とタッチ 先生に促されてみんなと交わろうとするが,また 振り返って先生とタッチ 教室の端にいたのが,先生に促されて中央に戻る 椅子に座る 先生に促されて立ち上がるがやや不安げに先生か ら離れない 先生に促されて少し屈む 椅子に座る 促されて立ち上がる 自ら動き始める 小さく2回跳ぶ 関わろうとしてきた友達に少し驚く 歩く−前腕だけを挙げて小さく跳ぶを繰り返す 回りの動きに戸惑っている が,リズムに合わせて左右に揺れたり「あ」で小 さく手をあげたりしている 先生に促されて 先生に促されて 先生に促されて 先生に促されて 先生に促されて 先生に促されて 促されて表6.J児の活動(3回目の実践)指導者の動きに対する反応を中心に
指導内容等 I児の反応 2:50 8:45 9:33 9:54 16:12 18:08 23:47 46:10 【挨拶と説明】 ・じゃあ,立ってください。 ・走るよ。(Q児,J児,N児とタッチ) <2:58-3:56曲> ・(Q児を後方から把持して)先生といっしょ。 ・今度は,トンボで止まる人がいてもいいし,Q君は 小さくなって止まったのね。手上げて止まってもい いよ(A)。自分の好きな止まり方で止まって…。 ・止まるよ,止まるよ。いいなぁ,いいなぁ。 【ルールの確認】 ・では,立ってください。 ・あなたの好きな…あなたの好きなものは何って 言ったんだよ。 (逃げる子どもたちを追いかける。) ・最初はC君をつかまえたから,…次はJちゃん…。 はい,立って,立って。 ・C君の好きなものは何? ・次は,Jちゃんの好きなもの…。 ・こんにちは…Jちゃんの好きなものは何? ・L君の好きなもの。 ・L君それやってね。 ・がんばったねぇ。 ・A君の好きなもの…A君はこれが(くるくると 回って)上手なの。跳びながら回れるかな。 ・今のA君の真似できるかな。走って行って上手 にトンできるかな。いろんなところにトンして …。 ・M君の好きなもの…。 ・(A)Q君の好きなもの…。 ・A先生の好きなもの…野球だって,投げて, 打って,取って。 ・B君の好きなものは何? ・じゃ,電車…ガタンゴトンガタンゴトン ・つながってくる人だれ?…つながってるよ。 ・みんなね,いろんなことができるようになってす ごいな…これからはお友達の真似ができるかとい うのがすごいことなんだよ。できるかな…。 ・カッコよく,くるっと回ってカッコよく止まる んだよ。2回続けられる?くるっと回って止 まって。 (後略) 後方で立つ。 少し走って止まる。 指導者の動きを真似て低くなろうとする。他方を見 ているが,指導者が手を上げたのを見て,小さく手 を上げる。みんなが動き出したが,その場で止まっ ていたため,H児がぶつかる。驚き,動けなくなる が,教員に後押しされて,N児とともに歩く。 指導者の方を見て説明を聞いている。他児の「あひ るさんも」の声を聞いて「あー,あーた」と言う。 説明が長くなり,座っている椅子を動かし始める。 泣き出したI児の方をのぞき込むように見る。 ずっと座っている。教員に促されて立つ。 突然動き出して,指導者の近くに来る。 「キャー」と大きな声をあげ,にこにこしながら 2周ほど走り回り,最後に捕まえられる。 Jちゃんと言われて「はい,はい」と言い,うなずく。 自ら飛び上がるように立ち,にこにこしながら飛 び跳ね,指導者の近くに。 周りを見ている。指導者の回りに近づいている。 C君の方を見たり,嬉しそうに跳ねたりしている が真似はできず。 動いて「トン」(小さく跳ぶ動き)ができている。 何か言おうとして前に一歩進み出てくるが,答えられ ず。TT教員が近づいてきて,「卵」と言いながら,後 方からJ児の両腕を大きく回す。 (L児コロコロと横転がりの動きをする。) 横転がりをしようとするが他児と重なる。 他の児童が答えるたびに,その都度前へ出てくる。 他の児童の方を見たり,下を見たり,時には指導 者の方を見たりしている。 走り回っていて,教員に促され止まる。 指導者の何かを指さしている。 「あーあー」と言いながら,しきりに指導者の何 かを指さしている。 床に倒れ込んでいるのを教員が起こしている。 指導者の近くに来て,「あーあー」と言いなが ら,しきりに指導者の何かを指さしている。 「あーあー」と言いながら,指導者のすぐ横に来る。 指導者と手をつないでいる。 「はい」と答える。 教員に後押しされて TT教員が近 「卵」と言いながら,後 方からJ児の両腕を大きく回す 教員に促され止まる 教員が起こしている。ながら真似しているなど,小さな始発が数多く散見された。第1回の最後の「おちた おちた」 で,基本の動きが残りながら,指導者の動きを見て,真似して動きを変えた授業記録は,コミュ ニケーションの改善における可能性を感じることができる発見であった。 3)J児について(表6) J児は自閉症スペクトラム児である。当初はあまり主体的な反応を見せることは少なかったが, 「キツネとガチョウ」で鬼ごっこを楽しんだあたりから,指導者に積極的に関わろうとする傾向 が見られた。第2回後半のミックスジュースでは,筆者の話にうなずいたり,手を挙げて「は い」と言ったりするなど,積極的な反応がみられた。特に第3回のキツネとガチョウでは,常に 筆者の近くに集まり,「あー,あー」と指さし,何かをしきりに訴えかけていたが,それが何で あるかを最後まで確認できなかった。 4)L児について(表7∼11) L児は自閉症スペクトラム児である。第1回までに既に13回の実践を行っている。 第1回の授業記録を見ると,「おちた おちた」の止まった時のポーズがその都度変化しており, また,いろいろな人とタッチができるなど,これまでの学習が汎化したのではないかと考えられ る。 常に指導者である筆者に向かっている様子が見て取れ,各回とも自分の動きをアピールし ていることが認められた。しかし,第1回ではL児の主張を筆者がうまく受け止められなかった り,第3回では,L児の名前を間違えたりし,そのことが筆者に対する拒否的な行動(キツネと ガチョウでつかまえようとした筆者を足で払うような動きをしたり,筆者の腕をとらえて直立姿 勢にさせようとしたり)につながったのではないかと推察される。第4回,第5回では得意な動 きを認められたことにより,L児の真似をして泳ぐように床に伏せた時に筆者に接触する様子が 見られ,筆者との距離が縮まったように感じられた。
4.むすびにかえて
授業記録を通してみえてきた子どもたちの実態は,それぞれその子なりの反応をしているという 事実であった。 それぞれのやり方で模倣ができていたり,表現ができていたりすることを認める ことができた。また,主体的な行動(始発)を見ることができた。 しかし,筆者自身,授業記録を詳細に見るまでは,その子なりの反応を見極めることができてい なかったことに気づいた。 実践記録を見ると,動きの見本にしている児童に偏りがある。どうし ても活発に動いている児童の方に目を奪われやすいという反省がある。隅の方で小さく反応してい る児童の一瞬,一人一人の小さな変化をとらえられる目を持ちたいと思う。 また,リズム遊びは自由な活動であるという共通理解を各教員と深めておく必要がある。その子 が自分一人でできる可能性や機会を多くしたいと思う。 あわせて誰でもできる普遍的な教材とすることを今後の課題としたい。 本報告は,平成25∼28年度科学研究費助成事業「広汎性発達障害児のコミュニケーション能力 に働きかけるリズム遊びの教材開発」(基盤研究(C)課題番号25350717)による。 謝辞 一緒に楽しくリズム遊びをしてくれて,いろいろなことを教えてくれた特別支援学校小学部の児 童のみなさんと,それを支えてくださった先生方に感謝します。文献: 池田吏志(2015)重度・重複障害児を対象とした関わりに関する教育研究の動向と課題.広島大 学大学院教育学研究科紀要 第一部64:29-38. 石倉健二・黒山竜太・高島恭子・豊島 律・浦田奈津季(2010)自閉症児に対する模倣の研究. 長崎国際大学論叢10:169-174. 伊藤美智子(2014)知的障害者とその家族をメンバーとするダンスグループの活動に関する質的 研究.社)日本女子体育連盟学術研究30:29-41 内田芳夫・西村 霞(2013)自閉症スペクトラム児のコミュニケーション支援に関する事例研究. 南九州大学人間発達研究3:3-7. 大橋さつき(2008)特別支援教育・体育に活かすダンスムーブメント.明治図書:東京,Pp.144. 大島光代・都築繁幸(2014)発達障害児の言語・コミュニケーション指導の研究動向に関する一 考察.教科開発学論集第2号:211-220. S.グリーンスパン・S.ウィーダー著,広瀬宏之訳(2009)自閉症のDIR治療プログラム フロアタイムによる発達の促し.創元社:東京,Pp.363. 佐藤克敏・涌井 恵・小澤至賢(2007)自閉症教育における指導のポイント−海外の4つの自閉 症指導プログラムの比較検討から−.国立特殊教育総合研究所紀要34:17-33. 佐分利育代(1993)知的障害児のダンス学習.鳥取大学教育学部研究報告35(2):349‐362. 佐分利育代(1996)知的障害児のダンス学習におけるコミュニケーション.日本体育学会大会号 (47):592. シーラ.リッチマン著,井上雅彦・奥田健次監訳,テーラー幸恵訳(2003)自閉症へのABA入 門 親と教師のためのガイド.東京書籍:東京,Pp.180. 滝吉美知香・田中真理(2011)自閉症スペクトラム障害者の自己に関する研究動向と課題.東北 大学大学院教育学研究科研究年報60(1):497-521. 常森俊夫・平井章(2003)知的障害児におけるムーブメント教育−ムーブメント教育プログラム アセスメント(MEPA)からみた効果について−.教育臨床総合研究紀要3:45-57. 日本特殊学会第28回大会ワークショップ報告(1991)特殊教育学研究28(4):71-73. 原 仁 編(2014)[DMS−5対応]最新 子どもの発達障害事典.合同出版:東京,Pp.143. 文部科学省(2009)特別支援学校学習指導要領解説 自立活動編(幼稚部・小学部・中学部・高 等部).海文堂. 国立特別支援教育総合研究所ホームページ[3]自立活動(1)自立活動の目標(2)自立活動の内容等 (3)自立活動と個別の指導計画の作成 http://www.nise.go.jp/cms/13,0,55,251.html 平成28年9月30日受理