招待論文
表面プラズモン励起による有機デバイス・センサの高性能化
加藤
景三
†a)馬場
暁
†新保
一成
†金子
双男
†High-Performance Organic Devices and Sensors Utilizing Surface Plasmon
Excitation
Keizo KATO
†a), Akira BABA
†, Kazunari SHINBO
†, and Futao KANEKO
†あらまし 高性能な有機デバイス・センサの開発に向けて有機薄膜が盛んに研究されている.筆者らは,これ までに表面プラズモン(SP)励起によるナノ構造制御有機薄膜の評価とデバイス・センサ応用に関して種々の 研究を行ってきた.本論文では,SP 励起を利用した高性能有機デバイス・センサについて報告する.すなわち, SP 励起を用いた有機太陽電池の高効率化や,SP 励起による有機センサの高性能化について,最近の研究成果に ついて報告する. キーワード 有機薄膜,表面プラズモン,有機デバイス,有機太陽電池,有機センサ,バイオセンサ
1.
ま え が き
有機材料の電子・光機能性の研究が非常に盛んにな
り,有機薄膜や有機電子・光デバイスへの応用研究が
大きく進展してきている
[1]
∼
[6]
.有機材料は,軽量
かつフレキシブルで,費用効率が高く,大量生産が容
易という特長を有している.また,フィルム状多層構
造デバイスの作製も容易で,有機分子を構造制御した
り,分子設計・合成したりして,種々の分子材料開発
が行われている.更に,ユビキタスデバイスやウェア
ラブルデバイスなどが,フレキシブルデバイスとして
期待されている.また,高効率なデバイス作製技術と
して,印刷技術により電子回路を構築するプリンテッ
ドエレクトロニクスの研究も行われている.更に,生
体を構成する材料の機能や抗原
–
抗体反応などを応用
するバイオエレクトロニクスなどの研究も盛んとなっ
ている.そして近い将来,有機薄膜などの有機材料を
用いて多くの電子デバイスが形作られる時代が来ると
考えられる.
有機薄膜をデバイスとして利用するためには,ナノ
メートルオーダでの構造制御や界面特性の評価と機能
†新潟大学大学院自然科学研究科,新潟市Graduate School of Science and Technology, Niigata Univer-sity, 8050 Ikarashi-2-no-cho, Nishi-ku, Niigata-shi, 950–2181 Japan a) E-mail: [email protected]
応用がより重要となっている.ナノメートルオーダの
超薄膜の構造や誘電・光物性を評価する方法に表面プ
ラズモン(
SP
)励起を利用した方法がある.
SP
とは,
金属表面や金属界面に局在する特異な表面電磁波モー
ドであり,この
SP
励起を用いた測定法として全反射
減衰(
ATR
)法
[7], [8]
が知られている.
ATR
法は,
屈折率の大きな媒質から小さな媒質に臨界角以上で光
を入射させたときの全反射現象を利用して,プリズム
上の金属超薄膜に入射光と金属の表面プラズマ振動の
共鳴状態である
SP
を励起させて反射率の変化を測定
する方法である.この
ATR
法は
SP
の共鳴特性を測
定する方法であり,
SPR
(
SP
共鳴)法とも呼ばれて
いる.
SP
の共鳴励起は表面状態に極めて敏感である
ので,これにより金属薄膜や金属薄膜上の有機薄膜の
膜厚や光学定数の評価が可能となる.また,金属薄膜
や金属薄膜上有機薄膜表面に物質の吸着や脱着,化学
反応など,何らかの変化が生じれば
SPR
特性が変化
するので種々のセンサとして用いられる.また,光波
長より小さいナノ粒子やナノ領域に拘束される光電磁
波は光の新しい応用分野として注目され,近接場光学
として盛んに研究されてきており,この分野において
も
SPR
が非常に注目されている
[9]
.金属ナノ粒子で
は
SP
が表面に局在することになるので,局在
SP
と
も呼ばれる.この金属ナノ粒子では,可視から近赤外
の電界と
SP
がカップリングして光吸収が起こる.こ
の現象が局在
SPR
であり,局所的に著しく増強され
た電界も発生する.つまり,光エネルギーが
SP
に変
換されることにより,金属ナノ粒子表面に光のエネル
ギーが蓄えられることになる.この金属ナノ粒子近傍
では,局在
SPR
による表面増強ラマン散乱として散
乱能への増強効果などが良く知られている
[9]
.
このような
SP
励起は,近接場顕微鏡や高感度分光
計測・センシングへの応用の他,金属界面の電界増強
効果などにより発光ダイオードや太陽電池などのデ
バイスの高性能化が期待され,種々研究されてきてい
る
[9], [10]
.本論文では,
SP
励起による有機デバイス・
センサの高性能化に関する筆者らの最近の研究成果の
一部について述べる.
2.
表面プラズモン(
SP
)励起
SP
励起法として最も一般的に知られているのが,プ
リズムカップリングを用いた方法である.図
1
に示し
た構造は,
Kretschmann
配置と呼ばれ,最も良く利
用されている
[7]
.プリズム側から光入射して全反射さ
せ,これにより生じたエバネッセント波により金属薄
膜
/
誘電体薄膜界面に
SP
を共鳴励起させ,全反射光
の減衰を観測する.ここで,プリズムを用いるのは入
射光の波数を
SP
励起に必要な値に調整するためであ
る.
SPR
特性は金属薄膜及びその近傍の媒体の膜厚
と誘電率に敏感に応答するため,これを用いて薄膜評
価やセンシングなどに応用できる.
上述した方法はプリズムを用いているため,試料構
造がある程度大きくなる.これに対して,図
2
に示す
ようなグレーティング構造を用いる
SP
励起も知られ
ている
[2], [8]
.これは,グレーティングにより光の波
数成分を調整するもので,式
(1)
を満たすような角度
で
SP
励起が可能となる.
k
sp=
k
px+
G =
2
π
λ
ε
m(
ω) sin θ +
2
π
Λ
m (1)
ここで,
k
spは
SP
の波数,
k
pxは入射光の波数の金属
グレーティング表面と平行な
x
方向成分,
G
はグレー
図 1 ATR法による SP 励起の試料配置Fig. 1 Sample configuration for SP excitation by ATR method.
ティングベクトルの大きさ(
G = 2π/Λ
)
,
λ
は入射光
波長,
ε
m(
ω)
は角周波数
ω
での金属の誘電率,
θ
は光
入射角,
Λ
はグレーティング周期,
m
は回折次数であ
る.このグレーティングカップリング法では,グレー
ティング周期を選択することで,様々な角度で
SP
励
起させることができる.更に,プリズムが不要である
ため試料構造が簡単になるとともに小型化に有利であ
り,測定も容易となる.また,上手くデバイスの構造
設計をすることで,広範囲の波長域に渡って入射光の
電界を大きくすることができるので,高性能デバイス
やセンサの開発に非常に有効である.
図
3
に透過型グレーティングカップリング
SPR
(
T-SPR
)法を示す
[10]
.
T-SPR
法は,測定系が極めて
簡便である.図
3
のような配置で金属グレーティング
上に白色光を入射した場合,次式の条件を満たすとき,
SP
が金属薄膜表面に共鳴励起する
[10]
.
k
sp2=
k
sp1+
2
π
Λ
m
(2)
ここで,
k
sp1,
k
sp2はそれぞれ空気
/
金属グレーティ
ング界面,及び金属
/
グレーティング基板界面に発生
する
SP
の伝搬方向の波数である.このとき,入射光
のエネルギーは
SP
共鳴励起に奪われ,反射光,透過
光もほとんど観測されない.しかしながら,この金属
薄膜
/
有機層界面に励起した
SP
の回折光や,わずか
に透過した光が金属薄膜
/
空気界面におけるもう一方
図 2 グレーティングカップリング SP 励起Fig. 2 Grating coupling SP excitation.
図 3 透過型グレーティングカップリング SPR(T-SPR)
の
SP
を共鳴励起し,金属薄膜の表裏両方の
SP
が相
互作用して式
(2)
の条件を満たすとき,裏側から輻射
され
SP
励起を観測することが可能となる.このため,
金属薄膜
/
有機層での
SP
が,有機層の光吸収に影響
を受けることなく裏側から観測可能となる.
次章以降で述べる研究のグレーティングには,
CD-R
(
Λ = 1.6 μm
),
DVD-R
(
Λ = 740 nm
),及び
BD-R
(
Λ = 320 nm
)を用いている.式
(1)
や式
(2)
より,グ
レーティング周期
Λ
を変えることにより,
SP
の波数
が変化し,共鳴特性が変化することがわかる.図
4
に
Λ = 1.6 μm
の
CD-R
の
Ag
グレーティングに白色光
を角度
40
∼
56
◦で入射したときの
SPR
特性から得ら
れた
SP
の分散特性を示す
[12]
.曲線は理論計算の結
果で,可視光の波長範囲に対応させるため,プロット
は可視光領域(
400
∼
800 nm
)において
40
∼
56
◦の範
囲で
2
◦間隔の一定の入射角度で観測された
SPR
から
得られた回折次数
m =
−1
(
+SP
−1)
,
4
(
−SP
+4)
,
5
(
−SP
+5)
,
6
(
−SP
+6)
,
7
(
−SP
+7)に相当する
SP
励起を示している.なお,波長
400 nm
と
800 nm
の
周波数を破線で示している.また,入射光の角度
40
◦と
56
◦に対応する光の分散関係も破線で示している.
m =
−1
では入射角度が増加すると短波長側にシフト
し波数が増加し,
m = 4, 5, 6, 7
では長波長側にシフ
トすることがわかる.
m
が大きくなると理論曲線との
ずれが生じているが,
SPR
が弱いため誤差となった
と考えられる.このように金属グレーティングを用い
ると多重の
SP
が同時に励起され,
Λ
が大きい場合は
隣り合う回折次数の間の
SP
励起が密になることがわ
かる.
図 4 Agグレーティング(Λ = 1.6 μm)の SP 分散特性Fig. 4 Calculated SP dispersion branches and plot-ted dots from obtained SPR angles of Ag grat-ing (Λ = 1.6 μm).
3. SP
励起による有機太陽電池の高効率化
3. 1
グレーティングカップリング
SP
励起を用い
た有機太陽電池の高効率化
高効率太陽電池の開発のためには,電極界面を最適
化して光制御することが重要である.特に,電極表
面での
SP
による電界増強を利用した太陽電池の応用
が注目されおり,金属微粒子を用いることや,表面に
ドット形状を作製することによるナノ構造制御による
局在
SP
を利用した有機太陽電池が主として研究され
てきている.著者らは,グレーティングカップリング
SP
励起を利用した有機薄膜太陽電池や色素増感太陽
電池の高効率化について検討を行っている
[13]
∼
[16]
.
図
5
にグレーティングカップリング
SP
励起を利用
した色素増感太陽電池の構造を示す
[14]
.前章で述べ
たように金属グレーティング上の
SP
はグレーティン
グ周期に大きく依存し,上手く構造設計することで
広範囲の波長域に渡って多重の
SP
が同時励起され,
電グレーティング界面電界を非常に大きくすること
ができる.そこで,グレーティング基板には
CD-R
(
Λ = 1.6 μm
)及び
BD-R
(
Λ = 320 nm
)を用いて
検討した.電気泳動法により基板上に
TiO
2薄膜を堆
積し,
TiO
2薄膜上に交互吸着(
LbL
)法により色素
吸着を行った.色素にはカチオンとして,
5,10,15,20-Tetrakis (1-methyl-4-pyridinio) porphyrin tetra
(p-toluenesulfonate) (TMPyP)
,アニオンに銅クロロ
フィリンナトリウム(
SCC
)を用いた.
色 素 増 感 太 陽 電 池(
BD-R
グ レ ー ティン グ 基 板
/
Au (150 nm)/TiO
2(40 nm)/TMPyP-SCC (20
bi-layers)/
電解質
/ITO
)の
SPR
特性を調べるために,
白色光の入射角度を固定して照射し,反射光をスペク
トロメーターで分光し,波長に対する反射率特性を測
定した.その結果を図
6
に示す
[14]
.図に示すように,
図 5 グレーティングカップリング SP 励起を利用した色 素増感太陽電池の構造Fig. 5 Structure of dye sensitized solar cell utilizing grating coupling SP excitation.
図 6 SPRの波長依存性(入射光角度 20◦∼50◦) Fig. 6 Dependence of SPR on the wavelength
(inci-dent angle: 20◦∼ 50◦).
BD-R
基板上の場合は測定波長の範囲に各角度におい
て一つの
SP
励起によるディップが観測されている.光
入射角を大きくするに従って,ディップは長波長側へシ
フトすることがわかった.更に,これらのディップは,
TMPyP-SCC
交互吸着層の膜厚が厚くなるにつれて
長波長側にシフトすることも他の実験から観測され
ている.これらの結果より,
SP
は
Ag/TMPyP-SCC
の界面において共鳴励起されていると言える.すなわ
ち,光吸収層である
TMPyP-SCC
交互吸着膜におけ
る電界を増強することが可能であることが示唆された.
また,
TMPyP-SCC
交互吸着膜の光吸収特性を測定
した結果,
TMPyP-SCC
交互吸着膜の
Q
帯の光吸収
ピーク波長が約
640 nm
に観測されており,図
6
の
SP
共鳴励起波長から光入射角
25
∼
30
◦のときに
SP
共鳴
と光吸収ピークの波長が一致することがわかる.
3. 2
グレーティングカップリング
SP
励起と局在
SP
励起を用いた高性能有機太陽電池
Au
担持
TiO
2薄膜を作製し,
BD-R
グレーティング
基板
/Au (150 nm)/Au
担持
TiO
2(30
nm)/TMPyP-SCC (20 bilayers)/
電解質
/ITO)
を作製し,金属グ
レーティングによる伝搬型
SP
励起と金属微粒子によ
る局在
SP
励起の光電変換に寄与する効果の検討を
行った.白色光を照射したときの
SP
励起による短絡
光電流の増強度の白色光の入射角依存性を図
7
に示
す
[15]
.同一セルにおいて,
SP
が共鳴励起している
場合(
p
偏光照射時)と,共鳴励起していない場合(
s
偏光照射時)の短絡光電流の測定を,入射角度
0
∼
35
◦の範囲で固定して行った.このとき,伝搬型
SP
励起
の効果や金微粒子による局在
SP
励起の効果もない場
合の短絡光電流の値を
1
として,これに対するそれぞ
図 7 SP励起による短絡光電流の増強度の光入射角依存性Fig. 7 Enhanced short-circuit photocurrent factor as a fuction of incident angle.
れの条件で同様に短絡光電流を測定した場合の値の比
を増強度として示している.同図より,いずれの試料
も
SPR
励起により
2
倍以上の増強度となっているこ
とがわかる.また,グレーティングカップリング
SPR
励起のない
1.00 at%
の
Au
担持
TiO
2薄膜においては
3
倍の増強度が得られており,
Au
担持することだけ
でも短絡光電流がかなり増大することが確認された.
グレーティングカップリング
SPR
のある
1.00 at%
の
Au
担持
TiO
2薄膜においては,入射光角度
25
◦にお
いて
7
倍もの増強度が得られている.これは,グレー
ティング構造による伝搬型
SPR
と
Au
ナノ粒子によ
る局在
SPR
の両方の効果によって,光電変換効率の
増大が得られていると考えられる.
4. SP
励起による有機センサの高性能化
4. 1 SPR
と光導波路(
OWG
)分光法を用いた
高性能有機複合センサ
薄膜の光吸収特性の測定法として,光導波路(
OWG
)
分光法が知られている.
OWG
分光法は光導波路を伝
搬するプローブ光のエバネッセント波が導波路表面近
傍の試料に吸収されることを用いており,多重反射に
より吸着物質の光吸収を高感度に測定することが可能
であるが,一般にこの方法のみでは薄膜の膜厚を推定
することは困難である.そこで,筆者らは
OWG
分
光センサ上で
SPR
分光を用いることで,薄膜の光吸
収と膜厚を同時測定する手法を提案し,また高感度な
吸着質量検出方法として知られる水晶振動子微量天秤
(
QCM
)法とも組み合わせれば,詳細な構造評価やセ
ンシングが可能な高機能・高性能センサとなることも
示してきた
[17]
∼
[22]
.ここでは,
OWG
分光センサ
上で
SPR
分光を用いた複合センサについて報告する.
図 8 フタロシアニン LbL 膜の堆積評価に用いた SPR 分 光法と OWG 分光法の複合センサ
Fig. 8 Hybrid sensor of SPR and OWG spectro-scopies used for the evaluation of phtalocya-nine LbL film deposition.
図
8
にフタロシアニン交互吸着薄膜(
LbL
膜)の
堆積評価に用いた
SPR
と
OWG
分光法を組合せた
複合センサの構造を示す.
BK-7
スライドガラスを光
導波路基板として用いた.この基板に
Ag
薄膜(膜
厚
45 nm
)を真空蒸着し,その上に
Au
薄膜(膜厚
5 nm
)を真空蒸着した.なお,
Au
薄膜は溶液中で
の
Ag
薄 膜 の 酸 化 に よ る 特 性 変 化 を 防 ぐ た め に 用
いた.そして,その上に
poly(methyl
methacrylate-co-methacrylic acid)
(
PMMA-co-PMAA
)をスピン
コートした.
PMMA-co-PMAA
は可視光域で透明で
あり,
SPR
波長を調整するために用いた.更に,基板
上に溶液を保持するためのセルを紫外線硬化樹脂によ
り形成した.このセンサに対して,基板端面から平行
白色光を照射して基板中を導波させた.
SPR
は
TM
偏光に対して生じるため,薄膜堆積前に出射光の
TE
偏光成分(
I
s)を測定しておき,その後に
TM
偏光成
分(
I
p)を測定した.これらの値から,
SPR
による出
射光の減衰を
Abs
. = log
10(I
s/I
p)
で求めた.更に,色
素薄膜が基板上に堆積したことに伴う光吸収もこの式
から求めた.このとき,色素薄膜の光吸収と
SPR
波
長が分離するように,
PMMA-co-PMAA
膜厚を調整
した.なお,
PMMA-co-PMAA
は陰イオン性のカル
ボキシル基を有しており,これを用いて電解質交互吸
着膜の堆積を行った.ここでは,水溶性の正イオン性
の銅フタロシアニン(
Alcian Blue, pyridine variant
)
と透明な陰イオン性のポリスチレンスルホン酸(
PSS
)
を
LbL
膜作製材料として用いた.
図
9
はフタロシアニン
LbL
膜堆積(
0-5 bilayers
)
に伴う出力光スペクトルの変化である.
600 nm
付近
のピークはフタロシアニンの
Q
帯に対応するもので
あり,
830 nm
付近にあるピークは
SPR
によるもので
図 9 フタロシアニン LbL 膜の堆積に伴う出力光スペク トルの変化Fig. 9 Output spectra for phtalocyanine LbL film de-position.
図 10 フタロシアニン LbL 膜堆積における色素吸収と
SPRのキネティック特性
Fig. 10 Kinetic properties of SPR and dye absorp-tion of phtalocyanine LbL film deposiabsorp-tion.
ある.
PMMA-co-PMAA
薄膜の膜厚を適切な値とす
ることで,フタロシアニンと
SP
励起のピークを分離
して観測できる.図
10
にフタロシアニン
LbL
膜堆積
の色素吸収と
SPR
のキネティック特性を示す.フタロ
シアニン色素堆積,純水によるリンス,
PSS
堆積,純
水によるリンスの順に,膜堆積過程がその場観測でき
ることがわかる.このように
SPR
と
OWG
分光法を
組合せることにより高性能センサとなる.
4. 2 T-SPR
を用いた高性能有機センサ
図
11
に
T-SPR
法を電気化学セルに組み込んだ測
定系の例を示す.同図の左側が入射側で,白色光を
p
偏光で入射し特定の波長で
SPR
を励起し,その励
起に伴う放射光スペクトルを右側の検出器で測定す
る.
740 nm
ピッチの
DVD-R
グレーティング上に
Au
を蒸着し,その上にポリエチレンジオキシチオフェ
ン(
PEDOT
)を電解重合によって約
20 nm
堆積し,
図 11 電気化学セルを用いた T-SPR 測定系 Fig. 11 T-SPR measuring system using
electrochem-ical cell.
図 12 PEDOTのドーピング・脱ドーピングによる
T-SPRの出力光スペクトルの変化
Fig. 12 Change of T-SPR spectra due to doping and dedoping of PEDOT.
図
11
の電気化学セルを用いて,ドーピングと脱ドー
ピング時の
T-SPR
の出力光スペクトルの変化を測定
した結果を図
12
に示す
[11]
.ドーピングと脱ドーピン
グによって光制御が可能であることがわかる.
T-SPR
法を用いるバイオセンサへの応用や複数の導電性高分
子薄膜を用いた波長制御なども可能である
[11], [23]
.
4. 3
長距離伝搬
SPR
を用いた高性能有機センサ
長距離伝搬
SPR
(
LR-SPR
)は,ほぼ等しい屈折率
をもつ誘電体で挟まれた金属薄膜において観測される
ものである
[24], [25]
.通常の
SP
の伝搬距離が数∼数
十ミクロンであるのに比べて,
LR-SPR
では数
mm
以上の伝搬距離となること,更に
LR-SPR
は強くし
みだし距離の大きい電界を伴うことが知られている.
そのため,
LR-SPR
は吸着現象の評価だけではなく分
子励起にも有用と期待される.
LR-SPR
は,エバネッ
セント波の浸入長が大きく,通常の
SPR
よりも狭い
角度の範囲で共鳴励起し,鋭い
SPR
特性となるので,
高感度なセンサへの応用が可能である.筆者らは,こ
図 13 LR-SPR測定系 Fig. 13 LR-SPR measuring system.図 14 LbL薄膜堆積後の LR-SPR 特性
Fig. 14 LR-SPR properties of LbL film deposition.
の
LR-SPR
を用いたバイオセンサなどについて種々
検討している
[26]
.
ATR
法を用いた
LR-SPR
測定系の概略図を図
13
に示す.
LR-SPR
に使用するセンサチップの作製に
は,高屈折率ガラス基板上にサイトップ(旭硝子製)
をスピンコート法により
800 nm
堆積し,真空蒸着法
で
Cr/Au (2 nm/30 nm)
を堆積した.次にエレクト
ロスピニング法で作製した帯電したファイバを良好に
金表面に吸着させるため,金薄膜表面が負に帯電す
るように表面処理を行った.センシング用の基となる
ファイバにはポリアクリル酸(
PAA
)ナノファイバを
用いた.
PAA
は表面にカルボキシル基を有すること
からバイオセンサへの応用に有用であるが,水吸収性
材料であることが知られている.そのため,バイオセ
ンサを行う水溶液中で安定な薄膜形成が困難である.
そこで,本研究では
PAA
を含むスピニング溶液に
β-シクロデクストリン(
βCD
)を添加し,熱重合を行う
ことで部分的に架橋し,水中での安定化を図った.更
なる安定化,及び抗体の吸着に必要であるカルボキシ
ル基の量を増やすため
LbL
法による表面被覆を行っ
た.
5
層のポリジアリルジメチルアンモニウムクロラ
イド(
PDADMAC
)と
PAA
を交互に吸着させたとき
の
LR-SPR
特性を図
14
に示す.同図より,
LbL
薄膜
図 15 EDC/NHS,Anti-IgG,EA-HCl,IgG を導入し たときの 51.5◦での LR-SPR の反射率変化 Fig. 15 Change of reflectivity at 51.5◦of LR-SPR
af-ter injection of EDC/NHS, A-IgG, EA-HCl and IgG.
形成後の
SP
励起が高角度側にシフトしていることか
ら,ファイバ膜に
LbL
膜が積層されていることが観測
された.更に,水溶液中において
90
分後も
LR-SPR
のディップ位置が変化していないことが観測され,非
常に安定であることがわかった.
次に,ヒト免疫グロブリン
G
(
IgG
)をセンシング
した結果を図
15
に示す.まず,エチルジメチルアミノ
プロピルカルボジイミド(
EDC
)
/N-
ヒドロキシスク
シンイミド(
NHS
)によってカルボキシル基に
EDC
を反応,結合させる.ついで
EDC
に
NHS
が反応し
て活性化された表面に,抗体である
Anti-IgG
を反応
させて固定化し,反応残基をエタノールアミン塩酸
塩(
EA-HCl
)で不活性化し
IgG
バイオセンサとした.
なお,各反応の間にはリン酸緩衝生理食塩水(
PBS
)
を導入した.図
15
より,
EDC/NHS
や,
Anti-IgG,
EA-HCl
を導入することにより反射率が上昇している
ことがわかる.また,これらの導入による反応が終了
し反射率がほぼ一定になった後の
PBS
の導入による
反射率の減少も観測されている.そして,
IgG
の導入
によって反射率のゆるやかな上昇が観測されており,
LR-SPR
のバイオセンサ応用が期待される.
5.
む す び
SPR
を用いた高性能有機デバイス・センサについて
の筆者らの最近の研究成果について述べた.すなわち,
グレーティングカップリング
SPR
を用いた有機太陽
電池,グレーティングカップリング
SPR
と局在
SPR
を用いた有機太陽電池,
SPR
と
OWG
分光法を用い
た複合有機センサ,透過型
SPR
を用いたセンサ,長
距離伝搬
SPR
を用いたセンサについて報告した.
SP
は高電界を伴って金属表面上に局在しており,高性能
有機デバイス・センサの開発に非常に有効である.今
後,
SPR
を利用した高性能有機デバイス・センサの開
発が更に進展されるものと期待される.
文
献
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