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浅間前掛火山山頂部と黒斑火山崩壊カルデラ壁に記録された火砕噴火による安山岩質溶結火砕丘の形成

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浅間前掛火山山頂部と黒斑火山崩壊カルデラ壁に記録された

火砕噴火による安山岩質溶結火砕丘の形成

安 井 真 也

・高 橋 正 樹

(2014 年 9 月 1 日受付,2015 年 3 月 24 日受理)

Formation of the Andesitic Welded Pyroclastic Cones by Pyroclastic Eruption

recorded in the Summit area of Asama‒Maekake Volcano

and the Collapsed Caldera Wall of Kurofu Volcano

Maya Y

ASUI*

and Masaki T

AKAHASHI*

The following proximal deposits of andesitic composition in Asama-Maekake Volcano and Asama-Kurofu Volcano were compared: 1) Kama-yama, 2) Upper Maekake-yama, and 3) Upper Sennin-iwa. The 1783 and 1108 eruptions formed Kama-yama and upper Maekake-yama, respectively. The upper Sennin-iwa, which is exposed on the collapsed caldera wall, was formed before the large-scale sector collapse approximately 24,000 years ago. Most of these deposits are piles of multiple welded pyroclastic rocks that form the topography of pyroclastic cones. Massive parts exhibit densely welded features such as fiamme and a eutaxitic texture under a microscope. These deposits are also associated with Plinian pumice fall deposits on the distal area, indicating that the intense pyroclastic fall formed these welded pyroclastic cones in the proximal area during the eruptions. Therefore, syn-Plinian fountaining is considered to have occurred in these cases.

Kama-yama is a simple, small-scale truncated cone and occupies the dish-shaped crater of Maekake-yama. A thick, densely welded pyroclastic rock that is exposed on the crater wall forms the central part of the cone. On the other hand, upper Maekake-yama is a large truncated cone extending in the east-west direction. The complex topography and geology around upper Maekake-yama suggest that it is a composite of pyroclastic cones and that it collapsed at least twice during the 1108 eruption. The upper Sennin-iwa is a remnant of a pyroclastic cone, judging from its topography. It is considered to be less proximal than the other two examples. However, it consists of densely welded pyroclastic rocks with interbedded non-welded pumice fall deposits. Various factors, including the distance from the eruptive source, depositional rate, and fountain height, may have generated the variations in the occurrence among the proximal deposits observed in this study.

Key words: Proximal deposit, welded pyroclastic rock, pyroclastic cone, Asama Volcano 1.は じ め に 火口近傍に分布する噴出物の産状は,噴火様式の実態 や火山体形成の理解に直結する多くの情報をもつ.しか しながら,火山山麓に分布する降下火砕堆積物や火砕流 堆積物に比べ,火口近傍相は産状が複雑である場合が多 く,記載があまりすすんでいない.ニュージーランドの ナラホエ火山の例 (Hobden et al., 2002) など,比較的小規 模な噴火による山頂部の地形の変遷が示された研究例は あるが,一般に規模の大きい噴火の噴出形態と火山体形 成の実態が議論された事例は多くはない.火口近傍で生 ずる諸現象の解明を目指す “プロキシマル火山地質学” (高橋,2006)のフィールドの一つとして,我々は浅間火 山において検討をすすめている.浅間前掛火山の山頂部 には火口近傍相の観察に適した露頭が点在し,また浅間 黒斑火山の崩壊カルデラ上部にも良好な露頭が見られ る.現在活動中の山頂火口を有する釜山については,火

Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan. Corresponding author: Maya Yasui e-mail: yasui.maya@nihon-u.ac.jp

〒156-8550 東京都世田谷区桜上水 3-25-40

日本大学文理学部地球システム科学科

Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University: 3-25-40, Sakurajosui,

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安井真也・高橋正樹 110

Fig. 1. Map showing the topography and geology of the summit area of the Asama-Maekake Volcano. This map is modified from Fig. 1 of Yasui and Koyaguchi (1998). A topographic profile (X-Y) is also shown.

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口壁層序と山麓の堆積物との対比,古記録分析の結果か ら,その大部分が天明噴火(1783 年)で形成されたと考 えられている(安井・小屋口,1998).浅間前掛火山では, 天明噴火以外にも,大規模噴火の度に山頂部の地形が大 きく変化したことが予想される.ここでは浅間前掛火山 の火口壁に見られる天仁噴火(1108 年)の噴出物を中心 とした記載を行い,天仁噴火における火口近傍プロセス について議論する.さらに,これまでに記載した釜山火 口壁(安井・小屋口,1998)と黒斑火山崩壊カルデラ壁 の仙人岩付近上部の露頭(高橋・他,2013)の産状とも 比較することで,火砕噴火における火口近傍プロセスや 安山岩質溶結火砕丘の多様性について議論する. 2.前掛火山の山頂部 2-1 前掛火山山頂部の地形的特徴と天明噴火前後の 地形 前掛火山の山頂部は前掛山と釜山から構成される.前 掛山の山頂部は皿状の火口原となっており,その内側の 大部分を釜山が占めている (Fig. 1).前掛山は東西に伸 長した裁頭楕円錐に近い形態を示す.前掛山の山頂部に は西側と南側,南東側に火口縁が認められ,それらを図 上でつなぐと,東西に伸長した火口原地形が復元される (Fig. 2 のグレーの線).この火口原の長径は約 1353 m, 短径は 1025 m である.西側と南東側の火口縁は明瞭で あり,ここでは “西前掛火口壁”(Fig. 1 の NM, Fig. 3b) と “東前掛”(Fig. 1 の HM)と呼ぶ.前掛火山の火口原 直下の外側斜面の傾斜は,南側と東側が 33°と最大で, 最小は北東側の 27°である(安井・小屋口,1998 の Fig. 2 参照).南側の外側斜面には浅い谷地形に挟まれた平滑 面(Fig. 2 の S)がみられる.東前掛の外側は,仏岩溶岩 の地形の高まりに連続する緩傾斜の尾根である.前掛山 の北側斜面は,釜山の北側斜面と一致し,そのまま鬼押 出溶岩へと連続する. 安井・小屋口 (1998) は 1783 年噴火前後の地形に関す る古記録(古文書および絵図)の記述を抽出して示した. それらによると当時,前掛山の中央部に高まりがあり, 「焼山」,「釜」,「竈」,「釜山」,「焼出ル釜」などと呼ばれ ていた.ここでは,現在の釜山と区別するために “古釜 山” と呼ぶこととする.天明噴火前は,前掛山は古釜山 より高く,古釜山を隠していたという.また古釜山と前 掛山との間に大きな谷があり,“無間の谷” といった.天 明噴火後の登山者によれば,山頂部の地形は著しく変わ り,無間の谷の西は半ば埋まり,南は肩のようで,東は 峰続きになったという.また,釜山の北の方が大きく崩 れていたという記述も多い.釜山は前掛山より高くな り,前掛山を見越して遠近の山が見えたという.『天明 雑変記』や『浅間山大焼之図』などの絵図にも天明噴火 前後の顕著な地形変化が描かれており,『大焼其以後ノ 図』には「焼口ヨリ又山一ツ吹出シタリ」と書き添えら れている.このように無間の谷は天明噴火でかなり埋め られたことが読み取れる.無間の谷は,天明噴火以降も 20 世紀前半に特に活発だったブルカノ式噴火を主とす る噴火による堆積物でさらに埋められたものとみられ る.現在,無間の谷の地形の痕跡は西前掛火口壁から南 東側の東前掛にかけて残されているのみである (Fig. 3b).現在,前掛山の火口原は釜山によりほとんど占拠 されているが (Figs. 3a and 3b),以上の古記録の記述よ り,天明噴火以前は,前掛山のかなり深い火口の中に古 釜山が存在していたことがうかがえる. 2-2 西前掛火口壁 前掛火山の山頂部において釜山を除くと,地形的に最 も際立っているのが西前掛火口壁である (Fig. 3d).西前 掛火口壁では柱状節理が発達する緻密な層が絶壁となっ ており (Figs. 3c, 3d and 4b),津屋 (1934) は「屏風岩」と 呼んで記載した.西前掛火口壁は,標高 2524 m の前掛 山山頂より北方と,南東側へ弧を描き,全長は約 1.1 km である (Fig. 1).前掛山の山頂直下の崖の高さは約 100 メートルである.地点 A (Fig. 2) 付近から南方を見ると, 前掛山頂より南方は,地点 A〜B 間の標高から予想され る火口縁の高さがかなり低い (Fig. 3d).崖の下半分には 崖錐状の堆積物がアバットしているが,地点 C 付近では 火口内側に傾斜した成層構造の著しい部分が認められる Fig. 2. Topographic features of Maekake-yama. The crater

rim of Maekake-yama is shown by the thick black line. The gray line shows the assumed crater rim of Maekake-yama before the 1783 eruption. For descriptions of the localities shown by letters on the map, see section 2-2 of the text. For explanations of the circles on the map and the localities α, β, and γ, see section 4-1-1 of the text.

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(Fig. 3e and 4c).屏風岩の表面には噴石による衝撃痕が 見られ (Aramaki, 1963),崖錐状の堆積物は 20 世紀前半 に頻発した噴火の噴出物も含むとみられる.以下では地 点 A〜E (Fig. 5) の記載をする.なお,本論では天仁噴火 に着目するため,天仁噴火以降の噴出物については,安 井・小屋口 (1998) を参照されたい. 2-2-1 地点 A

地点 A (Figs. 3c, 4a and 5a) では,崖の最上部約 7.5 m 安井真也・高橋正樹

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Fig. 3. Photographs showing proximal features of Maekake Volcano. (a) Aerial photo of the summit area of Asama-Maekake Volcano seen from the northeast. The area of Fig. 5 is shown by a rectangle., (b) Aerial photo of Kama-yama seen from the northwest. NM: Nishi-Maekake crater wall, HM: Higashi-Maekake crater wall. White arrow shows the direction of north. Photos (a) and (b) were taken by Prof. T. Koyaguchi in 2004. Photos (c), (d), (e), (f), and (g) are of the Nishi-Maekake crater wall. (c) Thick layers of the welded pyroclastic rocks at locality A. For details, see section 2-2-1 of the text. A person standing on the cliff indicates the scale., (d) Southern part of the Nishi-Maekake crater wall seen from locality A. Note that the height of the cliff is decreased southward compared with the assumed height judging from the level of the upper layers (dotted line)., (e) A distinct unconformity on the crater wall and the stratified block hanging against the wall at locality C. For details, see section 2-2-3 of the text., (f) Locality D seen from the northeast., (g) Locality D seen from the southeast. For details, see section 2-2-4.

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に天仁噴火以降の堆積物が認められる(安井・小屋口, 1998).この部分は全体に成層構造を呈し,ブルカニア ン堆積物と,天明噴火および大治噴火の降下火砕堆積物 や火砕流堆積物から成る(安井・小屋口,1998 の口絵写 真 3 参照).ここでブルカニアン堆積物としたものは, 緻密で角張った火山岩塊と,同質の火山灰から成り,全 体として成層構造を示す.この産状は,釜山火口壁最上 部の天明噴火以降の堆積物に対応する Unit-C(安井・小 屋口,1998 の Fig. 4)と類似する. 表層 7.5 m の堆積物の下位には天仁噴火の噴出物の全 岩化学組成を示す火砕物層がみられる(安井・小屋口, 1998 の Fig. 5).津屋 (1934) や八木 (1936) は西前掛火口 壁の緻密な層を “溶岩” であると考えたが,荒牧 (1968) や以下の記載が示すように,緻密な層を含め,西前掛火 口壁は火砕物から構成される.この火砕物層は岩相の違 いにより,下方から A1〜A3 に分けられる (Fig. 4a).A1 は厚さ約 23 m で,崖錐に覆われるため下限は不明であ る.A1 は緻密で幅 6〜9 m ほどの粗大な柱状節理が発達 する.A2 は全体の厚さが約 23 m で,上部は緻密で柱状 節理が発達し強く溶結するが,最上部は溶結度がやや低 い.A2 の下半部は成層構造と赤色酸化が顕著で,全体 に中程度に溶結している.赤褐色のスコリア質レキと同 質の火山灰から成り,基質支持の産状を示す (Fig. 6a). また A2 は石質岩片に富むのが特徴である.地点 A では A2 を貫く柱状節理が認められるが,節理の幅は A1 のそ れに比べ狭い (Fig. 4a).A2 と A1 の境界は明瞭である. A3 は厚さ約 8.5 m で,全体に成層構造が著しい.個々の 層は非溶結で赤褐色のスコリアと同質の火山灰から成 る. 2-2-2 地点 B 地点 B(西前掛火口壁の最高点の直下)では岩相の異 なる B1〜B3 が認められる (Figs. 3d and 4b).B1 は緻密 で粗大な柱状節理が発達し,全体に強く溶結しているが, 最上部は溶結度がやや低い.遠方から見ると地点 B 付 近では B1 の上面が上に凸となっている (Fig. 5a).崖錐 に覆われて下限は不明であるが,地点 B での B1 の層厚 は 44 m に及ぶ.B2 は B1 に比べ溶結度が低く,上部と 下部の 2 層にわかれる.柱状節理は下部層の下方に発達 する幅の細かいものと,上下層を貫く幅の広い節理が認 められる.Fig. 4b の矢印で示した部分では上部層が削 られて,Fig. 4b の画面左側では下部層の上を B3 が直接 覆っている.B3 は全体に成層構造が著しく,非溶結で Fig. 4. Sketches showing the occurrence of the eruptive products at localities A, B, C, and D on the Nishi-maekake

crater wall. For descriptions, see section 2-2 of the text., (a) Locality A., (b) Locality B. An arrow shows the unconformity on B2., (c) Locality C., (d) Locality D. (a), (c), and (d) correspond to photos in Fig. 3c, 3e, and 3 g, respectively. ①〜④ show the level of samples in this study.

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ある. 2-2-3 地点 C 地点 C では岩相の異なる C1〜C5 が認められる (Figs. 3e and 4c).C1 は緻密で粗大な柱状節理が発達する.地 点 C では南東方向へ向けて C1 の上面が削られており, その不整合面を覆って,C3〜C5 が堆積している (Fig. 4c).また地点 C では火口壁にアバットする形の厚いブ ロック状の部分 C2 がある (Fig. 3e).その上部には弱溶 結の火砕岩から成る面が認められ(Fig. 4c の C2 上の矢 印部分),側面には顕著な成層構造が見られる (Fig. 7a). C2 の溶結度は層により異なり,下半部には強溶結の緻 密な層が多い.また C2 には石質岩片が多く含まれてい る.柱状節理は概ね C2 全体を貫いている (Fig. 4c).形 状からみて C2 は直方体状であり,全体に南東方向に傾 斜している.C3 と C4 は C2 の形状を反映するようにマ ントルベッドしている (Fig. 4c).C3 は赤褐色で主に火 山灰,火山レキから成る.C4 は暗灰色で緻密な強溶結 部であり,柱状節理が発達する.C4 には成層構造がみ られる.C5 は赤褐色で成層しており,A3 や B3 と類似 した産状である.顕微鏡下では C2 はユータキシテイッ ク組織を示し,鉱物の弱い定方配列や破片状結晶が認め られる (Fig. 8a). 2-2-4 地点 D 2493 m の三角点の直下に位置する地点 D では,岩相 の異なる D1〜D5 が認められる (Figs. 3g and 4d).D1 上 部は粗い垂直方向の節理と水平方向の節理が発達する が,下部は水平方向の節理のみである (Fig. 4d).水平方 向の節理は垂直方向に連続的に節理の幅が変化し,上部 安井真也・高橋正樹 114

Fig. 5. (a) Panoramic photo of the Nishi-Maekake crater wall. Arrow shows the unconformity described in section 2-2-2 of the text. The height of the wall is up to 100 meters at locality B. Areas of the sketches in Fig. 4 are also shown., (b) Sketch of the Nishi-Maekake crater wall showing the units described in section 4-1-2 of the text. This sketch corresponds to Fig. 5a.

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は 7〜26㎝程度であるが,下部は 1〜数㎝の細かい板状 節理となっている (Fig. 7b).細かい板状節理は下方で火 口内側に傾斜している (Fig. 4d).D2 は緻密で,粗い柱 状節理が発達する.D2 と D3 の境界は非常に明瞭であ る.D3 は弱い成層構造を示し,溶結の程度が垂直方向 に変化する.D3 全体を貫く柱状節理が部分的にみられ る.D3 の試料は,手標本スケールでは全体に赤褐色で, 緻密部分とやや多孔質な部分が認められる (Fig. 6b). D4 は非溶結の火砕物から成り,全体に成層構造が著し い.Fig. 4d の ① (D3) と④ (D1) の試料は天仁噴火の噴 出物の化学組成を示す(安井・小屋口,1998 の Fig. 5). Fig. 4d の ①〜④(D1, D2,および D3)の試料はいずれも 顕微鏡下で緻密で,鉱物の弱い定方配列が認められる (Figs. 8c and 8e).石基は隠微結晶質で不均一であり,顕 著なユータキシテイック組織を示す場合もある (Fig. 8b). また破片状結晶がしばしば認められる (Figs. 8b〜8e). 2-2-5 地点 E 西前掛火口壁の南端では,シート状の面が前掛火山の 南東側の外側斜面へ張り出している (Fig. 9c).シート状 の面の東端にあたる地点 E では,緻密で不規則な柱状節 理の発達する厚さ約 10 m の層 (E1) の断面が,標高 2440 m の火口縁から下方へ標高差約 50 m にわたって露出す る.この面の表層部は,弱い成層構造を示す E2 により 覆われている (Fig. 9c). 2-3 前掛南側山腹 地 点 F で は シ ー ト 状 の 溶 結 火 砕 岩 層 が 下 位 か ら F1〜F4 の 4 層が累重する (Figs. 9band 9d).合計層厚は 25 m 以上あるが,F1 と F3 が厚い.いずれも赤褐色を呈 し,溶結の程度は中〜強溶結である.F3 はその上位の F4 よりも溶結度が高く,緻密で柱状節理が発達する. 地点 G では天明噴火の溶結火砕岩の下位に,地点 F と類似した赤褐色の溶結火砕岩層が認められる (Figs. 7c, 7d, and 9d).上から G2, G1 の 2 枚にわけられ,G2 の 方が溶結の程度が高い (Fig. 7c).G1 は天仁噴火の噴出 物の化学組成を示すことが確認されている(安井・小屋 口,1998 の Fig. 5). 2-4 釜山火口壁 釜山の火口壁については,安井・小屋口 (1998) の記載 の要点を以下にまとめる.火口壁は岩相の違いにより下 方から,溶結火砕岩の Unit-A および Unit-B,火山灰や火 山岩塊を主とする Unit-C にわけられる (Fig. 7f).Unit-A および Unit-B を構成する大部分の層は,緻密で暗灰色 〜灰色を呈し,柱状節理が発達するが,各層の境界部は 緻密ではなく,各層の最上部は赤褐色である (Fig. 7g). Unit-A の上方には不整合が認められる.Unit-B はさら に下位から Ba,Bb,および Bc に細分される (Fig. 7f). Ba は 5〜6 枚の厚さ数 m の溶結火砕岩から成る.Bb は 層厚が厚く,成層構造を示すものの冷却単位が全体を貫 くことから単一の冷却単位と考えられる.Bc は赤褐色 の酸化した火砕物から成る溶結の程度の低い部分で,全 体に成層構造が見られる.Unit-C はルーズな火砕物を 主とし,成層構造が著しい.中央の層準に緻密で柱状節 理の発達する薄い溶結火砕岩層が 1 枚挟まれる.Fig. 7e は 2007 年撮影の北西側火口縁の様子である.2004 年噴 火の跡が生々しく残っており,粗大な火山岩塊と火山灰 が Unit-C の最上部を形成している.安井・小屋口 (1998) の結論のように,Unit-C は天明噴火以降のブルカノ式噴 火を主とする活動の繰り返しによって形成されたと考え られる. 安井・小屋口 (1998) は,火口壁層序のうち Unit-B を 天明噴火の堆積物に対比した.Unit-B・ Unit-C 間の高度 が前掛山よりも高く,Unit-B ・Unit-A 間の高度が前掛山 の高度よりも低いことは,天明噴火で釜山が前掛山より も高くなったことを示す古記録の記述とも矛盾しないこ とが対比上の主な根拠である.著しい成層構造を示す Ba の上位に,厚い Bb が載るという岩相の垂直変化は,火 砕物の降下・堆積が断続的なものから連続的なものへ移 行したことを示す.この岩相変化の様式が,南東麓に分 布する降下火砕堆積物の降下軽石の層序に沿った岩相変 化と酷似することから,降下軽石をもたらしたサブプリ ニー式噴火と同時期に,火口近傍では火砕物が堆積して 火砕丘を形成したと考えられている (Yasui and Koyaguchi, 2004). 3.黒斑崩壊カルデラ・仙人岩付近上部の露頭 浅間黒斑火山では,大規模な山体崩壊により形成され た馬蹄形の崩壊カルデラ壁に,その火山体の内部構造が よく観察される(Aramaki, 1963 など).高橋・他 (2013) によれば,広義の黒斑火山は約 10 万〜4 万年前に活動し た黒斑火山(狭義)( 牙ぎっぱ,剣ヶ峰,三ツ尾根の各溶岩グ ループ)と,およそ 3 万〜2 万年前に活動した仙人火山 から成る.山体崩壊は約 24,000 年前に生じたと推定さ れている(竹本・久保,1995).ここでは,崩壊カルデラ 北端 (Fig. 3a) の仙人岩付近 (Fig. 10a) の上部において, 牙溶岩グループを不整合に覆う仙人火山の噴出物に着目 する. 仙人岩付近上部の崩壊カルデラ壁には,仙人火山の噴 出物が厚さ 70 m 以上にわたって露出する (Fig. 10b).前 掛火山の山頂部から見下ろすと,成層構造の発達する部 分が山腹方向に続いているのが確認される (Fig. 10a). 崩壊カルデラ壁に露出する噴出物は高橋・他 (2013) に より詳しく記載されており,その要点は以下のようにま

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安井真也・高橋正樹 116

Fig. 7. Photographs showing proximal features of Asama-Maekake Volcano. (a) Stratified welded pyroclastic rock of C2 at locality C., (b) Platy joints observed in D1 at locality D and its close-up view with a 33-cm-long hammer for scale., (c) Reddish brown welded pyroclastic rock exposed on the southeastern upper flank of Maekake-yama at locality G., (d) Close-up of the strongly welded part at locality G. Scale: 39 cm., (e) Crater rim of Kama-yama taken in 2007. The section of Unit-C can be seen. The surface of the crater rim is covered by the deposit of the 2004 eruption., (f) Section of the crater wall of Kama-yama. Unit boundaries are indicated by white dotted lines., (g) Boundary between Unit-A and Unit-B on the northern crater wall of Kama-yama is shown by a white dotted line.

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とめられる. 仙人岩上部では 5 枚の緻密な溶結火砕岩層(SiO2含有 量 62.6〜63.8 wt.%)と,それらに挟在する火山角礫岩層 が見られる (Fig. 10b).溶結火砕岩層はいずれも緻密で 柱状節理が発達し,典型的な強溶結火砕岩の組織を示す. 赤色酸化した基質中に暗灰色の溶結レンズが見られ,著 しく扁平な場合もある (Fig. 10c).緻密部は,顕微鏡下で ユータキシテイック組織を示し,変形したガラス片や多 量の破片状結晶が特徴的に認められる (Fig. 8f).火山角 礫岩層は,赤褐色で基質に乏しく,弱く溶結している. 火山角礫岩層と溶結火砕岩層との間は連続的である.ま た露頭最上部の溶結火砕岩層の基底部には非溶結の淘汰 Fig. 8. Photomicrographs of the welded pyroclastic rocks. (a)〜(e): Nishi-Maekake crater wall. (f): Sennin-iwa., (a) C2 of

locality C., (b) ① in Fig. 4d. D3., (c) ② in Fig. 4d. D2., (d) ③ in Fig. 4d. D1., (e) ④ in Fig. 4d. D1., (f) Eutaxitic texture of upper Sennin-iwa. Photomicrographs (c)〜(h) were taken in plane-polarized light. Some of the broken surfaces on the plagioclase are indicated by arrows.

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のよい降下軽石層があるが(Fig. 10d のスケールの直 下),この軽石は扁平な軽石(Fig. 10e のペンの位置)を 経て,上部の溶結部へと連続的に移化する. 4.考 4-1 前掛火山・天仁噴火における火砕丘形成 4-1-1 天仁噴火における火口近傍の地形変化 ここでは山頂部の地形や火口壁および外側斜面にみら れる噴出物の産状から,天仁噴火における山頂部の地形 変化について考える.釜山火口壁の Unit-A の上面高度 は,天明噴火以前の “古釜山” の高さを表すと考えられ る.釜山の中心を通る東西の地形断面図(Fig. 1 の X-Y 断面)に,推定される天明噴火の噴出物 (Unit-B) の厚さ を示した.Unit-B の堆積分を差し引くと,天明噴火以前 の地形が推定できる.釜山火口壁では Unit-C のような ブルカニアン堆積物は,Unit-A と Unit-B との間には見 られない.Unit-A は Unit-B と似る溶結火砕岩の産状を 示すため,Unit-A は天明噴火以前の大規模な火砕噴火の 産物であると考えられる.北側火口壁では Unit-A の上 方に部分的に不整合が見られる (Fig. 7g).Unit-A の下方 は崖錐の被覆により見えない.現時点で Unit-A を特定 の噴火に対応付けることはできないが,層位的な順番か らは,大治噴火(1128 年)か天仁噴火(1108 年)が候補 にあがる.いずれにしても,天仁噴火直後の火口はかな り深かったものとみられる.天明噴火以前は無間の谷が かなり深かったという古記録の記述と調和的である. 次に釜山火砕丘(安井・小屋口,1998)の原地形と前 掛山上部との関係をみてみる.釜山は Fig. 1 の黒丸を中 心とする裁頭円錐形に近い形状を示す.前掛周辺に点在 する天明噴火の溶結火砕岩の分布 (Fig. 1) は釜山の中心 から約 670 m の範囲に限られる.釜山の西側では無間の 谷(Fig. 1 の MG)がこの約 670 m にあたる.半径 670 m 以遠の西前掛火口壁の地点 A では天明噴火の降下火砕 堆積物が認められるが,その産状は山麓と同様の淘汰の よい降下軽石であり,溶結はしていない.東側の標高 2300 m 前後の山腹斜面にも非溶結の降下軽石が局所的 に露出する (Fig. 1).これらのことより,天明噴火では 釜山の中心から約 670 m の範囲内に溶結火砕丘が形成さ 安井真也・高橋正樹 118

Fig. 9. Photographs of the upper slope of Maekake-yama. (a) Aerial photo of the northwestern side and Nishi-maekake crater wall. The slope of Kama-yama is seen on the left. M: Maekake-yama, K: Kama-yama., (b) Southern upper slope just below the crater rim looking up from the SSE flank (Ohinata)., (c) Locality E looking up from the southern flank (Sekison-san)., (d) Localities F and G looking up from the southern flank (Sekison-san).

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れたものとみられる. 次に釜山の原地形と前掛山の火口原との関係をみてみ る.釜山の底面を 2 分割した時の南半分のエリア(Fig. 1 の X-Y 断面線より南側)の大半は前掛山の火口原内に 収まるが,北半分のエリアは火口原の北方に大きくはみ 出す (Figs. 1 and 2).前掛山の外側斜面の等高線パター ンをみると,西前掛火口壁の外側にあたる北西〜南南西 側の斜面ではきれいな円錐形を示すが,それ以外では方 Fig. 10. Photographs of outcrops around Sennin-iwa. (a) Northern end of the collapsed caldera of Kurofu Volcano seen

from Maekake-yama. The stratified section of the welded pyroclastic rock around Sennin-iwa is recognized., (b) Overall view of the outcrop around Sennin-iwa. A square shows the locality of (d), (c) Example of the densely welded part. Lenticular dark-gray fiamme can be observed in the reddish brown matrix. Scale: 17.5 cm., (d) Uppermost welded pyroclastic rock. Non-welded pumice is seen immediately below the scale. Scale: 17.5 cm., (e) Close-up of (d). The degree of welding changes upward from non-welded pumice to the densely welded part. Scale: 14 cm.

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角により変化に富む (Fig. 1).西前掛火口壁の西側から 南側を経て東前掛にかけての前掛山外側斜面では,天明 噴火の火砕物の堆積量が北方にくらべて非常に少ない. つまり,外側斜面では天明以降の噴出物はごく表層にみ られるのみであるので,西から南,南東にかけての前掛 山外側斜面では,天明噴火以前の原地形が保たれている と考えられる. 西前掛火口壁の外側斜面はきれいな円錐形の等高線パ ターンを示し,約 30°の斜面 (Fig. 9a) が標高差 200 m に わたってつづく (Fig. 1).西前掛火口壁では厚い溶結火 砕岩がみられる.これらのことから,少なくとも前掛山 山頂部の西側は溶結火砕岩から成る火砕丘であると考え られる.Fig. 2 上の α に中心をとると,西前掛火口壁外 側の西側斜面の等高線の曲率と比較的調和のよい円が描 ける.ここでは仮に “α 火砕丘” と呼ぶこととする. 次に Fig. 2 の β に中心をとると,西前掛火口壁の北半 分の曲率に近い直径約 1042 m の円が描ける(Fig. 2 の細 い点線).等高線パターンをみると,β を中心とする円 は西前掛火口壁西方で α 火砕丘の等高線と斜交する. すなわち α 火砕丘の斜面を切っている (Fig. 2).また β 円と重複して,γ を中心とする直径約 1 km の円が火口原 内の東側に描ける (Fig. 2).この γ 円は,東前掛および 南側火口縁を結んだ円の曲率とよく一致し,南側の火口 縁直下の外側斜面の平滑面(Fig. 2 の S)の部分の等高線 の曲率とも調和的である. 以上より前掛山上部の大型火口は,β と γ を中心とす る円型の陥没が生じて,陥没地形が複合して形成された という可能性を指摘できる.また α,β,γ はほぼ同一の 線上にあることから (Fig. 2),α,β,γ を中心とした噴出 および陥没が繰り返されて,東西に伸長する大型の火砕 丘および火口地形を形成したことが予察される. Aramaki (1963) は天仁噴火の噴出物の体積を約 1 km3 と見積もり,大量のマグマ噴出後に山頂部が陥没したと 考えた.山麓の追分火砕流堆積物には多数の流下単位が あり,個々の噴出量は大きくなかったかもしれない.し かしながら,積算で相当量のマグマが噴出した後には, 深部で収縮したマグマ溜まりの上部が支えを失うとみら れる.このためマグマ溜まりに向かって崩落が進行し, 結果的に山頂部が陥没することは考えられる.上述のよ うに前掛山の山頂部は複合陥没地形である可能性があ り,火砕流の流下単位も多いことは,山頂部全体が一度 に陥没したのではなく,噴出と陥没が繰り返されたこと を示唆する. 4-1-2 前掛山上部の地形と溶結火砕岩層の関連 西前掛火口壁では,岩相の違いにより複数のユニット が識別され,火口壁で水平方向に追跡することができる (Fig. 5b).まず,A1,B1 および C1 は粗い柱状節理が発 達する緻密な層で,地点 A から地点 C までほぼ連続的 に観察される.これを Unit-1 と呼ぶ (Fig. 5b).なお,地 点 D の D2 や地点 E の E1 も岩相が似るが,地点 C〜D 間で連続性が不明であるため,現時点ではこれが Unit-1 であるかは不明である. 地点 A の A2 は,成層構造が発達する下部と,溶結度 の高い上部から成り,石質岩片に富む.これを Unit-2 と する.Unit-2 は多くの層,つまり多数の堆積単位から成 るが,柱状節理は全体を貫くため,全体としては一つの 冷却単位であると考えられる.このことは比較的短時間 内に多数の層の堆積があったことを示唆している. Unit-2 は地点 A の南方約 250 m 付近で途切れ,地点 B で は認められない (Fig. 5b).一方,地点 C で火口壁にア バットする C2 は下部に成層構造が発達し,上部は溶結 度が高く,全体に石質岩片に富むという産状を示し,地 点 A の A2 の産状と共通することから Unit-2 であると 判断した (Unit-2).地点 C の Unit-2 については,本節の 後半で述べる. Unit-3 は,層厚の水平変化が著しいものの,地点 E か ら地点 A の南方まで,西前掛火口壁でほぼ連続的に追跡 される (Fig. 5b).B2,C4,D3,および E2 が Unit-3 に相 当する.なお地点 3 の C3 は露出が局所的でどのユニッ トに属するか判断がつけられなかった.Unit-3 は,地点 C では Unit-1 の上面が削られた不整合面を覆い (Figs. 4c and 5b),南東方向に向けて厚くなる.一方 Unit-3 は,地 点 B〜C 間では認められない部分がある.また地点 B から北方へ薄くなり,地点 A では認められない (Fig. 5b). 西前掛火口壁の最上位にみられる非溶結の火砕物から なる層を 4 とする.A3, B3, C5, および D4 が Unit-4 に相当し,西前掛火口壁では地点 A から地点 D におい て連続的に見られる (Fig. 5b).Unit-4 は地点 B〜C 間で は薄い傾向がある.地点 F と地点 G の最上位層(F4 と G2)も層位的に Unit-4 に相当する可能性がある. 西前掛火口壁では Unit-1 の層厚が大きいことから, 4-1-1 で推定した α 火砕丘の原地形は厚い Unit-1 によっ て形成されているとみられる.つまり Unit-1 をもたら した噴火が,前掛山上部の西側を構成する α 火砕丘を形 成したものとみられる.地点 B で Unit-1 の厚さが最大 であるのは,推定される噴出中心(Fig. 2 の α)に最も近 いためと考えられる.4-1-1 より,α 火砕丘が形成され た後に,β を中心とした円形の陥没が生じて西前掛火口 壁が形成されたらしい.Unit-2 は地点 C で火口壁にア バットする形でみられるが (Figs. 3b, 3d, 3e, 4c and 5a), その南北の火口壁では認められない (Figs. 3band 5a). 安井真也・高橋正樹

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地点 C の C2 は Unit-2 の断面であり,Unit-2 が断片化し たことを示す.これは α 火砕丘上部の陥没後,Unit-1 が 露出する火口壁にアバットする形で Unit-2 が堆積して 溶結・冷却した後,さらに陥没があったとすれば説明が つく.4-1-1 の議論より γ を中心とする円型の陥没が予 想されるため,これに対応する可能性がある.西前掛火 口壁で Unit-3 は地点 C〜E 間で厚く,地点 B から北方に かけて薄くなる.これは γ を中心とした火砕物降下を 考えれば,地点 C〜E 間に比べて,地点 B やその北方は γ から遠い (Fig. 2) ことで説明できる.つまり γ 火砕丘 が前掛山東半分を構成しているとみられる.Unit-4 の給 源は不明であるが,γ に近い地点 F や G の表層部の層は 溶結しているが,やや離れた西前掛火口壁では非溶結度 で,層厚も薄い.このことから,Unit-4 は噴出中心 γ に 由来する可能性が高い.以上に示したユニットと各地点 の層および推定噴出中心の関係は Table 1 のようにまと められる. 4-1-3 天仁噴火の火口近傍プロセス 以上より,天仁噴火では,火口近傍への多数回の火砕 物降下・堆積と溶結,冷却のプロセス,また少なくとも 2 回の陥没があったことが考えられる.予察的なシナリ オの一つとして以下のような火口近傍プロセスを考える ことができる: ① 噴出中心 α (Fig. 2) からの Unit-1 の噴火 と α 火砕丘の形成,② β を中心とする陥没,③ β からの Unit-2 の噴火と β 火砕丘の形成,④ γ を中心とする陥没, ⑤ γ からの Unit-3 および 4 の噴火と γ 火砕丘の形成. プロセス①に関して,地点 D の D2 は Unit-1 に対応す る可能性もあるが,現時点では不明である.仮に Unit-1 である場合,D1 は②の陥没時に Unit-1 の断片が生じて 傾動した正断層ブロックかもしれない.顕微鏡下では破 片状結晶を含み,溶結火砕岩であると考えられる (Fig. 8e).D1 の火口内側方向への傾斜は (Fig. 4d),レオモル フィックな流動を示している可能性もある.また津屋 (1934) は,この部分は上方の溶岩を供給した岩脈である と考えた.東方から地点 D を見ると,一見岩脈のように 見えるが,各ユニットの柱状節理が垂直方向に偶然一致 したものと見えることから (Fig. 3f),ここでは岩脈では ないと判断した.地点 D の D1 の由来については今後さ らに検討する必要がある. また上記のプロセスでは活動期間中に噴出中心が東西 方向に移動したことが想定されるが,この他に,東西方 向に 460 m(α-γ 間の距離)ほど伸長した岩脈状の火道が 活動した可能性もある.前掛山およびその火口原が東西 に伸長した形状を示すだけではなく,現在の釜山火口底 にも東西に伸長する火孔が見られる場合がある(例えば Fig. 2, 原図は国土地理院,1983).これらのことは,より 深部でのマグマ供給系あるいは火道の形状が東西に伸長 する岩脈状であることを示すのかもしれない.あるい は,岩脈状の火道内で上昇するマグマの位置に時間変化 があったという可能性も挙げられるが,現時点ではこれ らの可能性を支持する観察事実はみられない.火道の形 状のみならず,次のような事項も検討する必要がある. 北東側の山腹には天仁噴火の上の舞台溶岩が分布する が,側端崖に成層した火砕物層が見られることから,溶 結火砕丘の一部が流動したものと考えられている(高 橋・他,2006).その上流の火口近傍は鬼押出溶岩と釜山 に厚く覆われて実態が不明である.日本の諸火山の火砕 丘 14 事例における溶結火砕岩の分布範囲は 500〜1100 m で,多くの場合 600 m 前後である(安井,2006).天仁 噴火では活動期間中に 1 km を超える大型の火口を形成 したとみられ,上記のプロセス③や⑤では,多くの火砕 物が火口内に堆積したと推定される.しかし西側を除く と,想定噴出中心より 500 m 以遠は前掛山の外側斜面で あるため (Fig. 2),前掛山の外側斜面にもかなりの火砕 物の堆積があったものとみられる.また西前掛火口壁の 地点 C の不整合より南東側,地点 E までは地形的に低 い.このことは,プロセス②の陥没時に α 火砕丘の南側 の外側斜面もえぐられて火口縁の低所となり,プロセス ③の噴火時に Unit-2 の一部はそこから外側斜面へ流出 したのかもしれない.また地点 B の南方では Unit-3 の 上半分が削られている(Fig. 4b の B2 上の矢印).地点 E,F,G においても溶結火砕岩の断面が露出する.これ らのことは,火砕丘の外側斜面を面的に覆った溶結火砕 岩が急斜面上での重力不安定により断片化して,一部が 斜面下方へ流下したことを示唆する.上の舞台溶岩は前 掛火山北東斜面へ流下した流動火砕丘であることが議論 されている(高橋・他,2006).以上からは,前掛山の南 側や西側斜面でも溶結火砕岩の流下(流動火砕丘や火砕 成溶岩)が予想されるため,天仁噴火の山麓の堆積物と 前掛山上部の火砕丘の層位関係を明らかにすることが今 後の課題の一つである.

Table 1. Summary of units consisting of the upper slope of Maekake-yama and correlative layers at each local-ity described in this study. The estimated sources of each unit are also shown.

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4-2 黒斑崩壊カルデラ・仙人岩付近の上部を形成し た活動 仙人岩付近上部のカルデラ壁では 5 枚の溶結火砕岩層 が厚さ 70 m 以上にわたって整合的に堆積している.高 橋・他 (2008) によれば,これらの溶結火砕岩層の全岩化 学組成には垂直的な変化が見られない.溶結火砕岩層の 間には不整合や土壌層などの時間間隙を示す証拠も認め られないことから,これらは一連の噴火で比較的短期間 内に成長した火砕丘であると考えられる.複数の冷却単 位が認められることから,繰り返し火砕噴火が起きたこ とが示唆される.火砕岩の赤色酸化が著しいことや,強 く溶結している産状は,噴出中心が近くにあったことを 示している.荒牧 (1968) は,カルデラ壁から北方へ連 なる崖は断層によるものと考えた.仙人火山は山体崩壊 と断層運動によって大きく失われているらしいが,カル デラ壁から外側斜面に向かってシート状に溶結火砕岩層 が連続する様子 (Fig. 10a) から,仙人岩付近上部は,火 砕丘の残骸であるとみられる.3 章で示した産状は,釜 山火口壁の Unit-Ba と類似する.つまり天明噴火からの 類推では,断続的なプリニー式噴火によって Unit-Ba を 形成するような描像が,仙人岩付近の噴出物についても もてる.最上部層では降下軽石層が強溶結火砕岩へと垂 直変化しているため,プリニー式噴火の産物であると考 えられる. 荒牧 (1968) は,仙人岩上部の尾根の頂上付近で溶岩 に挟まる降下軽石について調べ,この軽石が強磁性チタ ン鉄鉱を含む点が山麓の板鼻褐色軽石層 (BP) の軽石と 共通することを示し,両者が対比される可能性を示唆し た.BP の軽石の全岩化学組成は,変化図上で仙人火山 の噴出物がつくるトレンドにのる(高橋・他,2008).板 鼻褐色軽石層には複数のユニット (BP-1〜BP-7) があり, 応桑岩屑なだれ堆積物の層位から,BP-4 と BP-5 の間に 山体崩壊が起きたと考えられている(竹本・久保,1995, 2003).以上を考え合わせると,大規模な山体崩壊の時 期の仙人火山では,プリニー式噴火と火口近傍での火砕 丘形成が同時進行するような活動が行われていたものと 考えられる. 4-3 前掛型火砕丘とその多様性 釜山,前掛山上部,仙人岩上部はいずれもプリニー式 噴火を伴う火砕噴火で生じた溶結火砕丘であり,基本的 に溶結した火砕丘,つまり高橋・安井 (2006) の「前掛型 火砕丘」であるととらえられる.釜山は半径約 670 m の 裁頭円錐形の小型の火砕丘で,大部分は既存の前掛山の 火口原内に収まっているが,北側のみ火口原からせり出 している.釜山の火口壁は強溶結部の割合が多く,他の 2 事例に比べ噴出中心に近いものとみられる.一方,前 掛山は裁頭楕円錐形の大型の火砕丘で,少なくとも 2 つ の陥没地形が複合して大型の火口原を形成しているとみ られる.西前掛火口壁の Unit-1 は,釜山火口壁の Unit-A や Unit-B のように溶結度が高く,噴出中心に近いと考 えられるが,Unit-3 や 4 はやや遠いと推定される.この ことは 4-1-3 で考えたように,天仁噴火の噴出中心が単 一でなかったことを示唆する.仙人岩付近は山体崩壊に よりほとんど原型をとどめていないが,溶結火砕岩層が 約 20 度で外側に傾斜する (Fig. 10a) ことから,火砕丘の 中腹から上方にかけての外側斜面の一部に対応するとみ られる.仙人岩上部は,釜山火口壁や前掛山上部で観察 される露頭に比べ,噴出中心からの距離が遠いものとみ られるが,溶結度は低くない.また最上部の溶結火砕岩 層の基底部には非溶結の降下軽石層がみられる.上方へ 向かって非溶結から強溶結へと連続的に変化するため, 噴火の初期には,より高所へ到達して急冷した軽石粒子 が降下したが,時間とともに高温の粒子が降下するよう になったことが示唆される. 天明噴火では約 15 時間以内の最盛期に火砕丘の大半 (Unit-Bb,Bc) が成長し,Unit-Ba を形成したとみられる 最盛期以前の数日を含めても 4 日程度で釜山火砕丘の形 成が終了したらしい (Yasui and Koyaguchi, 2004).一方, 4-1 の議論より,天仁噴火では,火砕丘形成と陥没を繰 り返して大型の火砕丘が生じたらしい.山麓の堆積物に も多くの火砕流や降下軽石の噴出単位が認められること から,天仁噴火では天明噴火に比べ長期にわたって火砕 噴火が継続したものとみられる. 今回比較した 3 事例については,共通して火砕噴火時 に大量に火口近傍へ火砕物降下があったという描像がも てる.3 事例の火砕丘にみられる産状の多様性は,火砕 丘のどこを見ているかの違い,すなわち噴出中心の火口 からの距離によるものとみられる.しかしながら,安井 (2006) が指摘したように,火砕物の堆積場の地形的特徴 や火砕物の堆積速度,堆積の連続性などの要素の組み合 わせによっても産状に多様性が生じているようである. 5.ま と め 1) 釜山,前掛山上部,仙人岩上部において見られる火 口近傍相は,それぞれ溶結火砕岩の累重から成る.これ らは降下軽石や火砕流流出を伴う火砕噴火で形成された 溶結火砕丘であると考えられる. 2) これら 3 事例には強溶結部の割合や溶結度の垂直 変化の仕方などの産状の違いがあり,観察した断面の噴 出中心からの距離の違いに加え,火砕物の堆積条件や噴 火の規模の違いも反映されているらしい. 3) 単純な裁頭円錐形の釜山に対して,前掛山上部は 安井真也・高橋正樹 122

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東西に伸長した火口原をもつ大型の火砕丘である.前掛 山上部の地形的特徴と火口壁や外側斜面にみられる溶結 火砕岩層のユニットと層厚の変化の仕方は,噴出中心が 東西に複数あったことを示唆し,前掛山上部は複数の火 砕丘が複合したものであるとみられる.また地形図上 で,火口原の範囲内に直径約 1 km の円を東西に 2 つ描 くことができ,円形の陥没が少なくとも 2 回起きて陥没 地形が複合したことを示唆する.天仁噴火では,山麓に 多数の火砕流や降下軽石のユニットがもたらされ,火口 近傍では火砕丘形成と陥没を繰り返したとみられること から,天明噴火に比べ長期にわたって活動が継続したら しい. 浅間火山の山頂部の地質調査に際して,東京大学地震 研究所および浅間火山観測所の多くの方々に大変お世話 になりました.また,同研究所の小屋口剛博教授には野 外で議論いただき,また写真の提供をいただきました. 長谷川健氏および三浦大助氏には建設的な査読コメント をいただきました.深く感謝いたします. 引 用 文 献

Aramaki, S. (1963) Geology of Asama Volcano. Jour. Fac.

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荒牧重雄 (1968) 浅間火山の地質.地団研専報,No.14, 45 p. 地学団体研究会.

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Fig. 1. Map showing the topography and geology of the summit area of the Asama-Maekake Volcano
Fig. 3. Photographs showing proximal features of Asama-Maekake Volcano. (a) Aerial photo of the summit area of Asama- Asama-Maekake Volcano seen from the northeast
Fig. 6. Photographs of the hand specimens. (a) A2 from locality A. Scale: 1 cm, (b) D3 from locality D
Fig. 7. Photographs showing proximal features of Asama-Maekake Volcano. (a) Stratified welded pyroclastic rock of C2 at locality C., (b) Platy joints observed in D1 at locality D and its close-up view with a 33-cm-long hammer for scale., (c) Reddish brown
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参照

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