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電灯とムスリム -- 準公共財の供給と社会的弱者層 (特集 包括的成長へのアプローチ -- インドの挑戦)

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Academic year: 2021

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(1)

電灯とムスリム -- 準公共財の供給と社会的弱者層

(特集 包括的成長へのアプローチ -- インドの挑戦

)

著者

近藤 則夫

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

187

ページ

24-27

発行年

2011-04

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004264

(2)

  宗教的少数派であるムスリムの 社会的経済的地位は、植民地期に はイギリスによる植民地経営や社 会の近代化によってヒンドゥーの 進出が進み、すでに相対的に低下 傾向を見せていた。それが決定的 になるのが分離独立時にムスリム の有力な層がパキスタンへ移住し たことであった。その結果、独立 後のムスリムはまとまりに欠け 、 次第に社会的、経済的に多数派ヒ ンドゥーに遅れをとるようになっ ていった。しかし、インド政府は 独立以来、政治と宗教は別という 世俗主義の名のもとに、一九七〇 年代半ばまでムスリムに対して特 別な優遇措置を設けることはな かった。しかし、それは近年見直 されようとしている。

●ムスリムと政治

  インドでは単に﹁少数派﹂とい うときは、宗教的な少数派をさす ことがほとんどである。特に﹁ム スリム﹂を実際上意味することが 多い。そのような意味での少数派 に対する中央政府の政策に変化が 見えたのが長らく政権の座にあっ た国民会議派を選挙でやぶり、一 九七七年に政権の座に就いたジャ ナター党政権期である。同政権は 一九七八年に国家少数派委員会を 設立し問題に光をあてた 。一方 、 一九八〇年代半ばから二〇〇〇年 代初めにかけて大規模な宗派間の 暴動が相次いで発生し、ムスリム など少数派の側に多くの犠牲者を 出し、問題がクローズアップされ るようになる。このような状況の 変化が、二〇〇四年に成立した国 民会議派率いる統一進歩連合政権 が包摂の政治を掲げ経済や地域格 差の問題に加えて、ムスリムの問 題を本格的に取り上げる大きな要 因となった。   同政権は二〇〇五年には ﹁サ チャル委員会﹂を設立し、ムスリ ムの状況の報告と状況改善のため の勧告を行わせたが、そこで改め て明らかになったのは、ムスリム の社会的 、経済的地位が他のコ ミュニティに対して相対的に低下 しつつあるという事実であった ︵ Gov ernment of India [ 2006b ] ︶ 。 今日ではムスリムは、状況を改善 しつつあるヒンドゥーの最底辺層 に社会的、経済的に追いつかれつ つある。また都市部ではムスリム は特定の地域に﹁ゲットー化﹂し ている状況が見られる。   社会的経済的地位が相対的に低 下しつつあるムスリムが順調に社 会的、経済的発展の軌道を歩むた めにもっとも重要とされるのが教 育である。例えばサチャル委員会 は、一旦学校教育という﹁ハード ル﹂がクリヤーされれば、コミュ ニティ間の差異は相当無くなるで あろうと述べている。しかし、教 育の他にも、社会的経済的基盤整 備など改善すべき点は多くある 。 その代表例のひとつは近代生活に 欠かせない準公共財である電気で ある。インド政府は二〇〇五年の 国家電化政策で五年のうちに全世 帯が電気にアクセスできるように すると宣言したが、実態は現在で も多くの世帯には電気が来ていな い。そのようななかでムスリムと 他のコミュニティの間に電気が来 ているかどうか、より具体的には ﹁電灯﹂を使っているかどうか 、 その状況には差があるのか無いの かを検討してみたい。

●準公共財の供給とムスリム

  電灯に限らず、そもそも、特定 のコミュニティが特定の準公共財 を得難いという状況はどのように 生じているのであろうか。一般論 として、特定のコミュニティと準 公共財の供給の関係を説明する理 論は大きく、以下の二つにまとめ られるように思われる。 仮説一コミュニティ混在仮説   様々なコミュニティが混在する ところでは個々のコミュニティの

スリム

︱準公共財

社会的弱者層

(3)

選好が違ったり、あるいは他のコ ミュニティとの亀裂が大きいた め、まとまって強く要求を打ち出 すことが難しく、準公共財を獲得 する強い要求が形成されにくい 。 そのため、コミュニティが混在し ているところでは、財の供給レベ ルも低くなるという仮説である 。 これにはいくつかの下位の仮説が ある ︵ Alesina et al. [ 1999 ] , Miguel and Gugerty [ 2005 ] , Banerjee et al. [ 2005 ] , Habyarimana, et al. [ 2007 ] ︶ 。 仮説二社会的弱体性仮説   そもそも特定のコミュニティ ︵本稿の場合 、ムスリム︶が社会 的に弱体で自らの要求を強く打ち 出せないことが準公共財の獲得を 難しくしているという仮説である ︵インドのムスリムについては

Betancourt and Gleason

[ 2000 ] , Banerjee and Somanathan [ 2007 ] , Alam [ 2008 ] ︶ 。   この二つの一般的仮説をインド のムスリム・コミュニティへの電 灯という準公共財の供給に関して 統計的に検証してみたい。その場 合、分析は以下の二点に注意する 必要がある。まず、 インドの場合、 州によって社会的状況がかなり違 うので、州ごとに焦点をあてて分 析することが必要と考えられる 。 具体的には、ここではムスリム人 口比の高い、ウッタル・プラデー シュ州、ビハール州、西ベンガル 州、そしてコミュナルな亀裂が甚 だしいグジャラート州を分析す る。つぎは実際的見地からの理由 であるが、 検証は都市部に限った。 その理由としては農村部のデータ を検証するためには各世帯の送電 網からの距離 、地理的状況など 、 より多くの要因を考慮することが 必要となり、それに対応する変数 をそろえる必要があるが、それは 非常に難しいからである 。一方 、 都市部ではほとんどの場合、変圧 器は近接したところにあり、各地 区、各世帯に電線が引かれるかど うかは、コミュニティや世帯がお かれる地理的状況の差違を考える 必要性がうすいからである。 また、 コミュニティ間の格差の問題があ るとすると、都市部の方がより顕 著に表れる可能性があることも大 きな理由である。なぜなら少数派 は都市の特定の地区にまとまって 居住する場合が多いからである 。 それは、コミュニティ間の暴動な ど、対立が激しい状況があればさ らに明確になる。

ムスリム人口比率と電灯使

用率

  まず、表 1で都市部におけるム スリム人口比率と平均の電灯使用 率を見てみたい。農村部も含めた 全インドのムスリム人口比率は一 三・四 % であるが、都市部に限れ ば一七・三 % である。ムスリムは 都市部により多く居住している 。 本稿で扱う州の都市部におけるム スリムの人口比はグジャラート州 一五 % 、ウッタル・プラデーシュ 州三三 % 、ビハール州一九 % 、 西 ベンガル州一九 % となっており 、 ウッタル・プラデーシュ州がこの 四州のなかでは最も高い︵以上二 〇〇一年人口センサス︶ 。 これか ビハール州ダールバンガー県シルニア村のリーダー達。シルニア村は 人口約9000人のうちムスリムが約6割。リーダーによると、「ビハー ル州電力庁や県庁は、電気がほしいという我々の要求になかなか反応 してくれず、我々は団結して運動した。州首相がダールバンガー県を 訪問した時にはデモンストレーションもやった。その結果一応村には 電線はひかれた。しかし、まだ電気はいつ来るのかわからない」。 インタビューおよび写真は筆者による(2009年9月25日)。 グジャラート州(15) ウッタル・プラデーシュ州(33) ムスリム人口 電灯使用 ムスリム人口 電灯使用 30%以下 91.9 30%以下 66.4 30%以上 89.7 30%以上 60.7 差 2.3 差 5.7 ビハール州(19) 西ベンガル州(19) ムスリム人口 電灯使用 ムスリム人口 電灯使用 30%以下 42.9 30%以下 69.8 30%以上 40.7 30%以上 48.7 差 2.1 差 21.1 表1 都市部の地区におけるムスリム人口比率と電灯使用率(%) (注)( )内は都市部におけるムスリム人口比率。

(出所) Government of India (Office of the Registrar General) [2003] .

(4)

% を基準として都市部の 1 。しかし 、 。一方 、 ・コ 具体的には、 るために 、﹁人口構成不均一性﹂ 、 ﹁ムスリム人口比率﹂ 、﹁人口規模﹂ 、 ﹁良い家屋﹂ 、﹁ 指定カースト﹂を 説明変数として重回帰分析︵操作 変数法︶ を行った。 このなかで、 ﹁人 口構成不均一性﹂は前述の仮説一 を説明しようとするもので、各地 区のコミュニティの構成がどの程 度不均質なのか示す指標である 。 ﹁ムスリム人口比率﹂は仮説二に 対応する指標である。また、ムス リム以外の社会的弱者層も考えて ヒンドゥー社会で最も弱いカース トである﹁指定カースト﹂の人口 比を加えた。それに加え、大きな 都市ほど電気が整備されていると 考えられるので ﹁人口規模﹂ 、経 済的に裕福な地域ほど電気が整備 される可能性が高いと考え家屋の 材質からなる総合指標である﹁良 い 家 屋 ﹂ を 説 明 変 数 に 加 え た ︵ K ondo [ 2011 ]︶ 。紙面が限られ ているため、詳細な分析結果をこ こで示すことはできないが、概ね 以下の結論をえた。   統計的検証の結果はやはり州の 一般的状況によって違うものと なった。都市の﹁人口規模﹂はグ ジャラート州を除けばほぼ重要な 説明変数であることが確認された が、地区の経済状況を表す﹁良い 家屋﹂はグジャラート州および西 ベンガル州のみ明確で、これらの 州では経済状況が良い地区ほど電 灯使用率も高いことが示された 。 ﹁指定カースト﹂はどの州につい てもはっきりとした傾向は見いだ せず、ヒンドゥー社会の最底辺と 電灯使用率の間にはマクロなレベ ルの分析では明確な関係は見いだ せなかった。   一方 、二つの仮説に関しては 、 コミュニティが混在していること が供給レベルの低下をもたらして いるとする仮説一はどの州におい てもほとんど重要ではない。それ に対してムスリム自体の社会的 、 政治的弱さゆえに供給レベルが低 いとする仮説二の方はウッタル ・ プラデーシュ州や西ベンガル州 、 特に西ベンガル州で支持された 。 これらの州の都市部では、人口規 模、地域の生活水準、指定カース トの存在などを考慮しても、ムス リム居住地区で電灯の普及率が低 いことが明らかとなった。   グジャラート州は多数派ヒン ドゥー対ムスリムの大規模な暴動 が近年たびたび起こっており、ム スリムと他のコミュニティとの社 会的亀裂が大きく 、ムスリムが 、 電灯という基本的な準公共財の供 給において 、﹁差別﹂されている のではないかという予想もあった が、しかし実際は、同州では都市 部の電化水準が全般的に非常に高 いため、コミュニティ間の差異が 目立たず、統計的に明確な結果は 得られなかった。電化水準が四州 のなかで最も低いビハール州につ いても明確な結果は得られなかっ た。これは同州では特にムスリム と他のコミュニティの間では電気 に関して目立った差はないことを 示すものである。

●社会経済発展とムスリム

  インドのムスリム人口でウッタ ル ・ プラデーシュ州は二二 ・ 二 % 、 西ベンガル州は一四 ・ 六 % と第一、 二位を占める。このような州の都 市部ムスリム居住地区で電灯普及 率が明確に低いという状況は、ム スリム ・コミュニティが社会的 、 経済的に後進的な状況にあるとい う大きな問題の一部である。マン モーハン・シン統一進歩連合内閣 は二〇〇六年六月に﹁少数派の福 祉のための首相の新一五ポイン ト ・ プ ロ グ ラ ム ﹂︵ Gov ernment of India [ 2006a ]︶ を 打 ち 出 し 、 少数派に関してその教育や雇用の 状況の改善、宗派暴動の防止、ス

(5)

ラムなど居住条件の改善を重点政 策とした。また、近年、少数派に も公共部門で優先的に採用される 特別の﹁留保枠﹂を設ける案など も検討されている ︵ Gov ernment of India [ 2007 ]︶ 。このような政 策が、ムスリムの社会的、経済的 底上げにどのように貢献しうるか は予断を許さないが、急速に成長 するインドにおいて特定のコミュ ニティが取り残される状況は社会 の安定という面からも問題が大き く、 今後のなりゆきが注目される。 ︵こんどう   のりお/アジア経済研 究所   南アジアグループ︶ ︽参考文献︾ ① Alam, Jav eed [ 2008 ] "The

Contemporary Muslim Situat

ion in India: A Long-T erm V iew", 43, no.2 ( January 12) pp.45-53. ② Alesina, Alberto, Reza Baqir , and William Easterly [ 1999 ] "P ublic Goo ds and E thnic Divisions", 114, no.4 (Nov ember), pp.1243-1284. ③ Banerjee, Abhijit, and Rohini Somanathan [ 2007] "The P olit ical Economy of P ublic Goo ds: Some Evidence from India", 82, pp.287-314. ④ Banerjee, Abhijit, Lakshmi Iyer , and Rohini Somanathan [ 2005 ] "History , So cial Divisions and P ublic Goo ds in R ural India", 3, nos.2-3, pp.639-647. ⑤ Betancourt, Roger , and Suzanne Gleason [ 2000 ] "The Allo cat ion of P ublicly-Provided Goo ds to R ural Households in India: On Some Consequences o f Caste, Relig ion and Demo cracy", . 28, no.12, pp.2169-2182. ⑥ Gov ernment of India [ 2006a ] . New Dehi (http:// ncm.nic.in/points_prog ramme. html, accessed on Dec. 20, 2009). ⑦ Gov ernment of India (Ministry of Minority Affairs) (Chairperson: Rang anath Misra) [ 2007 ] , New Delhi: Alaknanda Adv ert ising. ⑧ G o v ernment of India (Prime Minister's High Lev el Committee) (Chairperson: Rajindar Sachar) [ 2006b ] . New Delhi: Cabinet Secretariat. ⑨ Habyarimana, James, Macartan Humphreys, Daniel N. P osner , and Jeremy M. W e instein [ 2007 ] " Why Does E thnic Div ersity Undermine P ublic Goo ds Provision?", 101, no.4 (Nov ember), pp.709-725 ⑩ K ondo, Norio [ 2011 ] "Electric Light and Minorit ies: The Provision of Semi-P ublic Goo ds to W eaker Sect ions in India", in Hirashima, S., H. Oda and Y . T sujita eds. 2011. , Basingstoke and New Y ork: P alg rav e MacMillan, . ⑪ Miguel, Edward, and Mary K ay Gugerty [ 2005 ] "E thnic Div ersity , So cial Sanct ions, and P ublic Goo ds in K en y a", 89, nos.11-12, pp.2325-2368.

電灯とムスリム

―準公共財の供給と社会的弱者層

参照

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