変わりゆく日本の住まい (特集 世界の住まい・今)
著者
坪田 建明
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
191
ページ
13-14
発行年
2011-08
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004173
靴を脱いでのれんをくぐり、四 五〇円を番頭さんに渡して服を脱 ぐ。 タ オ ル を 片 手 に 扉 を く ぐ り、 身体を洗えば大きな湯船が待って いる。サウナがあると、我慢くら べを決め込んでつぎの挑戦者を待 ちつつ熱さを楽しむ。私が学生の 頃に通った銭湯のサウナは三人し か入れなかった。挑戦者が普通の 人ならよいのだが、しばしば鮮や か な 刺 青 を 背 負 っ た 方 の 場 合 も あった。かなり緊張する瞬間では あったが、とても礼儀正しい人た ちだったと記憶している。常連に もなれば、脱衣所のテレビを見な がら番台に座っているおばあちゃ ん や 顔 な じ み と 談 笑 も 楽 し め る。 彼らの多くは名前を書いた洗面器 を置いており、少し羨ましくさえ 思えた。赤の他人と裸の付き合い をする銭湯は、日本独自の習慣で ある。しかし、このような銭湯で 過ごす時間は、現代の多くの日本 人 に と っ て 非 日 常 と な っ て 久 し い。本稿では、住まいの変化につ いて、それを規定する要因として 建材(ハード・供給サイド)と世 帯構成の変化(ソフト・需要サイ ド)を軸に考察を行う。
●建物の変化
明治ごろ、風呂(内湯)はまだ 一般的ではなかった。したがって 戦前、明治から昭和の初めにかけ て建てられた町家(町屋)と呼ば れている家屋には、風呂がついて いないのが当たり前だった。その 代わりに銭湯が各町で営業してい た。自分の洗面器を持って親子で 通う光景が日常であった。 戦後になり、少しずつ状況は変 化 し て い く。 「 神 田 川 」 の 歌 の よ うに恋人同士で銭湯に行くならそ れ は そ れ で 楽 し み か も し れ な い が、 そもそも、 銭湯に通うのは色々 と都合が悪い。冬の寒い時期にわ ざ わ ざ 戸 外 に 出 る と 湯 冷 め す る し、夏なら帰りの道すがらまた一 汗かいてしまう。銭湯の開いてい ない朝のうちはシャワーを浴びる こともままならない。内風呂に比 べれば銭湯はいろいろと不便であ る。そのため戦後の所得水準の上 昇、都市ガスの普及、フロ釜など の改良などの要因から内風呂比率 が高まった。 内風呂の増加理由はまだ他にも ある。人口増加に伴う都市化の進 展である。 一九六〇年代になると、 銭湯がない地域にも新しい住宅地 が広がり始め、公営団地などの大 規模開発では銭湯を敷地内に設置 したものもあった。しかし一九七 〇年代に入るとこれらの団地にお いても内風呂が設置されるように なっていく。内風呂普及率は全国 平 均 で 五 九・ 一 %( 一 九 六 三 )、 七三 ・ 三%(一九七三) 、八八 ・ 三% (一九八三) 、九三・五%(一九九 三)九五・七%(二〇〇三)と上 昇 し て い る ⑴ 。 一 戸 建 て に お い て は、近隣に銭湯がない場合は内風 呂 が 必 要 不 可 欠 な 設 備 と な っ た。 しかし、木造の建物に風呂。この 組 み 合 わ せ は 極 め て 不 自 由 で あ る。木は水を嫌うからである。湯 気を漂わせる風呂の存在は、木造 の家にしてみれば寿命を縮める持 病のようなものである。木造建築 と風呂好きという日本特有の環境 が、ユニットバスなどを含む規格 化 さ れ た 風 呂 の 開 発 へ と つ な が る。建物の寿命を延ばしつつ、工 期を短縮し、より快適な風呂を廉 価に生産できるようになったので ある。建物の寿命を延ばす他の技 術革新はユニットバスの他にも外 壁・サッシ・窓ガラス・台所など がある。これらは大量生産の技術 であったことから、ある一定の期 間に建設された住宅の多くは同じ 建材を使うこととなり、類似の外 観で立ち並ぶこととなった。建材 メーカーを中心として新しい建材 の開発が進んだ事によって、古い 設備の陳腐化がより加速されたの で あ る。 最 新 の 風 呂 に は テ レ ビ・坪
田
建
明
変
わ
り
ゆ
く
日本
の
住
ま
い
13
アジ研ワールド・トレンドNo.191 (2011. 8)暖房・乾燥機能もついている。ま た、木造・鉄筋などの別でも構造 の違いや材質の違いを強調する事 で堅牢さや快適性をアピールする 住宅メーカーが多数ある。より良 い 住 居 へ の 欲 求 が あ る か ら こ そ、 住宅メーカーは建材開発への投資 意欲を高めることとなり、建材の 技術革新を支え続けているのであ る。建材の技術革新が生じること によって、日本の住まいのあり方 は変化し続けているといえる。