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企業の社会的責任と地域社会への貢献 ―会計学における多階化した重層性―

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Academic year: 2021

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企業の社会的責任と地域社会への貢献

―会計学における多階化した重層性―

Corporate Social Responsibility and Contribution

to Regional Community

中 川 仁 美(作新学院大学経営学部) Nakagawa Hitomi(Sakushin Gakuin University, Faculty of Business Administration)

目 次

1 .はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118 2 .宇都宮ライトレールの完成に基づく社会インフラの課題・・・・・・・・・ 118  2-1.栃木県の地域活性化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118   2-1-1.宇都宮ライトレール株式会社における研究背景と目的 ・・・・・・ 118  2-2.宇都宮ライトレール株式会社の会計責任 ・・・・・・・・・・・・・・ 120   2-2-1.建設期における財務分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120   2-2-2.持続可能な経営 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121 3 .まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121  3-1.財務報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121  3-2.多階化した重層性の再認識 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 122  3-3.再編会計 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 122 4 .参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 123 5 .謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 123 要 約 本論文は、企業における社会的責任の重要性と地域社会への貢献について論じ る。会計学の史的見解とともに、会計学における多階化した重層性について考察 し、建設期における宇都宮ライトレール株式会社の現状と課題を実例として挙げ る。 キーワード:会計史、意思決定、宇都宮ライトレール、鉄道会計、社会貢献 117

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1 .はじめに

本論文では、19世紀におけるアメリカ鉄道会社の会計実務の面から企業の社会的責任に ついて検討を行い、会計学における多階化した重層性の再認識と、会計理論と会計実務の 乖離について論じる1。そして、現代的な側面として、宇都宮ライトレール株式会社の財務 会計について考察を行う。

2 .宇都宮ライトレールの完成に基づく社会インフラの課題

本章では、2023年の宇都宮ライトレール完成に基づき、宇都宮ライトレール株式会社の 財務会計と宇都宮市における地域活性化について検討する。鉄道業は莫大な資金調達が必 要となり、その資本のほとんどが固定資産に投下され、公的側面と営利企業としての側面 をあわせもつ特殊な業種である。資金調達と運用に着目し、宇都宮市の社会貢献・地域活 性化に貢献すべき課題を明らかにする。 2-1.栃木県の地域活性化 栃木県民の交通手段の多くが車やバスであり、宇都宮市内において電車を利用する市民 は少ない。宇都宮ライトレールが完成することにより高齢者の電車での移動、渋滞の緩和 等の社会貢献、電気モーターという最新の技術を駆使した電車による観光、LRT のグッ ズ販売(栃木県のアピールポイントの宣伝)といった地域活性化が期待できるが、問題点 を看過してはならない。 2-1-1.宇都宮ライトレール株式会社における研究背景と目的 栃木県は人口の減少が進んでいるが、宇都宮市における人口は毎年微増しており、北関 東最大の50万人都市をキープしている。そして宇都宮ライトレール株式会社は、100年先 も安心して便利に暮らせる街を目指して整備を進めている。2023年に開通する予定だが、 栃木国体の開催等、栃木県の知名度や好感度アップのため有用に働くと考えられる。 列車は、栃木の恵みの主張である「雷の稲光」をモチーフに「雷」と「雷を受けて豊か に育った稲」をイメージさせる黄色が列車のシンボルカラーとなり、愛称は「雷都(らい と)」である。また、電気モーターで移動するため、二酸化炭素の排出の心配がなく、地 球温暖化などを考慮した環境に優しい最先端の技術を駆使している。これらを積極的に宣 伝していくことで、宇都宮ライトレールの認識度を高め、安定した顧客(高齢者や体が不 1 ここでいう会計理論とは、制度化のための理論を指す。

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自由な方、鉄道ファン等)を掴み、顧客ニーズに応えたサービスを提供することが経営に おいて重要である。 (出典:「宇都宮ライトレール株式会社」https://www.miyarail.co.jp/) 宇都宮ライトレールの構想は、昭和後期、船田元経済企画庁長官が、本田技研を芳賀工 業団地へ進出させるための従業員2000人の交通手段として既に練られていた。宇都宮ライ トレールの総工事費は600億円であり、投資回収の見込みは立っておらず、赤字路線の補 填金や助成金などについて宇都宮市は明言していない。また、建設に莫大な資金が必要で あり、そのほとんどがレールや列車等の固定資産に投下されるため、減価償却や株・社債 といった金融商品の会計処理が必要となる。 そして、鉄道会社において見積原価計算は重要であり、その精度は非常に高い。19世紀 のアメリカ鉄道の生産構造が、意思決定会計の意義を認識させ、原価計算による管理から 管理会計への転換を促した。つまり、財務会計が資金調達と運用を示しているのに対し、 管理会計は見積原価計算、収入と費用の分析、節約改善案など経営分析、経営および財務 上の諸統計に基づく比率分析など、内部管理に不可欠な会計的情報を示している。 株式会社において、社会経済的影響は経営面に大きく反映する。したがって、宇都宮ラ イトレール株式会社においても、消費税増税や日韓貿易関係の悪化(経済制裁)、東京オ 119

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リンピックの開催、自然災害、栃木国体など、様々な社会経済現象を考慮し、社会のニー ズを把握し、経営を行うべきである。 2-2.宇都宮ライトレール株式会社の会計責任 宇都宮ライトレール株式会社のアカウンタビリティについて検討する。宇都宮ライト レール株式会社は、株主や債権者は当然のこと、公的な側面から政府やその背景にいる納 税者に対し、財務報告をする必要性がある。そして、調達した資金を円滑に運用している か、配当可能利益計算はどのように行っているのか等、意思決定に有用な情報をディスク ロージャーする必要がある。これはアメリカ鉄道会計史から視る、鉄道業の特徴である。 また、宇都宮ライトレールの運行により、駅からの通勤や通学の利便性が増し、交通渋 滞の緩和が期待されている。しかし、路線を敷くにあたって、二車線の道路を一車線にし ている。道路の車線が減ることにより、また、事故の多発により、交通渋滞は緩和される どころか悪化するのではないかという声もある。また、信号機が複雑になることにより、 自動車の事故が増える可能性がある。 しかし、通勤や通学に電車を利用することによって、清原工業団地内の駐車場の敷地が 空き、空いた敷地に新たな企業の工場を建設することで労働者の雇用先が増え、清原工業 団地としても宇都宮市としても発展していく可能性が考えられる。清原工業団地は東北自 動車道や北関東自動車道があることから、工場で製造した製品を迅速に輸送することが出 来、物流面の立地が整っている。残念ながら、この物流の面について、宇都宮ライトレー ルのメリットはなく、上述したように地域活性化・社会貢献において、宇都宮ライトレー ルは利点と欠点をあわせもっていると考えられる。 企業経営において「継続企業の前提」があり、株式会社をはじめとする企業は、将来に わたって存続することを前提につくられる。当然ながら、1 年や 2 年で倒産することを考 え企業がつくられることはなく、長期にわたる「利益の追求」を目的に創立される。 2-2-1.建設期における財務分析 現在、日本における多くの鉄道業が赤字経営である。その理由は、地方における人口減 少、少子高齢化等の要因が考えられ、利用者の激減、人件費の膨張、長期計画の失敗など 様々な方面へ派生していく。 宇都宮ライトレールは建設期であるため、収益は見込めない。建設が完了し、営業を始 めてから利益が発生し、配当が行えるようになるのだ。下記の図にあるように、収入に対 し、支出が多いのは当然である。 宇都宮ライトレールが赤字鉄道とならないためには、建設期である現在からリスクヘッ ジを行うのが妥当だ。今後の栃木県の経済発展を課題として見たとき、資本主義社会にお

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ける経済発展のためには、企業の本質を見極める能力が 求められる。今後、国際的な経済変動が著しく見られる と予想される。また、経済的な変動のピークが終了した あと、景気悪化に伴う企業の経営状態の変動等、その実 態を余すことなく把握することは困難だと予想される が、経営悪化などの著しい変化が起こらないためにも、 各企業は現時点で対策を用意し、社会インフラの課題を 理解すべきだ。 2-2-2.持続可能な経営 宇都宮ライトレールを通勤や通学に電車を利用することによって、清原工業団地内の駐 車場の敷地が空き、空いた敷地に新たな企業の工場を建設することで労働者の雇用先が増 え、雇用創出という側面から、清原工業団地としても宇都宮市としても発展していく可能 性が考えられる。 企業経営において「継続企業の前提」があり、株式会社をはじめとする企業は、将来に わたって存続することを前提につくられる。当然ながら、1 年や 2 年で倒産することを考 え企業がつくられることはなく、長期にわたる「利益の追求」を目的に創立される。宇都 宮ライトレール株式会社は長期を見越して、黒字化が可能であるのか、検討が必要である。 建 設 期 の 現 在 の 予 算 案 で は、 収 入 合 計 が ¥740,000 で あ る の に 対 し、 支 出 合 計 は ¥89,870,000である。営業を開始してから、建設費を回収できるのか不安になる市民も多 いようだ。 また、宇都宮ライトレールの路線は宇都宮東口から芳賀町にかけてであるが、東部駅前 や福田屋、インターパークといった商業施設の多い場所に駅を作り停車することで、宇都 宮ライトレールの乗客者数や商品や製品の販売、用役(サービス)の提供といった栃木県 民の経済行為が増え、地域活性化につながる。そして、清原工業団地付近に飲食店を設置 することで電車通勤の従業員が就業後にお酒を飲む機会が増え地域振興となり、更なる雇 用の創出が成されるのではないかと提案する。

3 .まとめ

3-1.財務報告 財務報告は、委託・受託責任の履行が本来の目的であったが、現在はステークホルダー (仕入先、顧客、従業員、地域住民、潜在的株主など)に対する財務報告を行っている。 19世紀におけるアメリカ鉄道会社は、株主に対し財務情報ならびに非財務情報を常に開示 令和元年度収支予算案 収入 支出 121

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していた。しかし、株主総会の場のみ開示するようになった時点で、会計理論と会計実務 の乖離が生じている2 また、CSR活動は、ステークホルダーからのニーズに答えるという、企業戦略である。 企業は、社内外の人々を自社のCSR活動に関係者として従事させ、環境・社会の持続可 能性に貢献している。さらに、利益を生み出す仕組みと企業の持続可能性を確保できると 考え、活動を推進している。企業の最終的な目的は利益の追求であり、それを果たすため 社会的責任の履行が問われている。これが資本主義のメカニズムであり、資本主義的合理 性である。 3-2.多階化した重層性の再認識 会計学の重層性とは、過去から現代までの会計学の考え方が同時併存している現象を指 す。会計学を、過去と現代の間に切れ目をもたない学問としてとらえ、現代社会のなかに、 18世紀や19世紀そして、20世紀の会計も混在しており、ハットフィールドの会計理論もそ の一部に内包される。アメリカ鉄道会計で生成された会計処理は、ハットフィールド教授 における近代会計理論の形成に影響を与え、正に源流である3 会計学の機能は、時代の変遷に伴い多階化した重層性を持ち、企業の背景にある社会経 済状況により、顕在化する。社会経済的背景が変わることで、その時重要で必要な会計処 理や軽軽の機能が変化する。現在求められている会計の機能は何なのかを知ることが重要 であり、会計史研究の意義である。 3-3.再編会計 19世紀におけるアメリカの Unioin Pacific 鉄道においては、鉄道経営者の経営方針の問 題点が浮き彫りになり、1890年代の恐慌により多くの鉄道会社が倒産する。しかし、鉄道 会社はレールや車輛といった固定資産が残るため、合併により新たな会計システムが構築 された。 アメリカは、金融資本主義となり、連結会計やのれん、減損会計や減価償却といった様々な 会計処理の対応が必要となり、それがハットフィールドの会計理論に影響を与えたのである。こ のように、会計実務は常に理論を先行するのである。 以上が本研究における結論である。 2 会計理論と会計実務の乖離についての史的見解は、(中川,2018)の論文内においてアメリカ鉄道 会計を事例に考察しているためここでは割愛するが、当該論文を参照されたい。 3 中川,2014年,105頁。

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4 .参考文献

石川純治,2014『揺れる現代会計 ―ハイブリット構造とその矛盾―』 日本評論社. 高寺貞夫・醍醐聡.1979『大企業会計史の研究』 同文館. 中川仁美. 2014「アメリカ鉄道会社における財務会計の史的展開」『会計のリラティヴィゼーション』 創成社 119-152. 中川仁美. 2018「アメリカ鉄道会計における合理的意思決定の史的見解」岩手県立大学宮古短期大 学部研究紀要. 津守常弘.2002『会計基準形成の論理』 森山書店. 中村萬次.1991『英米鉄道会計史研究』 同文舘. 中村萬次.1994『米国鉄道会計史研究』 同文舘. 中村萬次.2005『会計史断章』 萌書房. 村田直樹.2001『鉄道会計発達史論』 日本経済評論社. 村田直樹.2013「株式会社会計における財務報告の源流」『会計と会計学の歴史』体系現代会計学第 八巻 中央経済社 151-182.

AICPA. 1973,Objectives of Financial Statements, AICPA, October. (川口順一訳.1976『アメリカ公認会計 士協会 財務諸表の目的』 同文舘.)

A.D. Chandler,Jr. 1978 The United States : Evolution of Enterprise, The Cambridge Economic History of Europe(丸山恵也訳.1986『アメリカ経営史』 亜紀書房.)

G.J. Previts and B.D.Merino. 1979 A History of Accounting in America, Wiley & Sons(大野功一,岡村勝義, 新谷典彦,中瀬忠和訳.1982 『アメリカ会計史:会計の文化的意義に関する史的解釈』 同文舘.) J.D.Galloway. 1983 The First Transcontinental Railroad, Central Pacific, Union Pacific, Greenwood press. The Central Pacific Company, Annual Reports, 1872,

V. K. Zimmerman. 1954 British backgrounds of American accountancy, University of Illinois at Urbana-Champaign(小沢康人・佐々木重人訳.1993『近代アメリカ会計発達史―イギリス会計の影響力 を中心に―』 同文舘.)

5 .謝辞

2019年度作新学院大学研究ゼミナール 3 の学生には、第 2 章について研究を進めて頂き ました。この場を借りて、深く御礼申し上げます。 123

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