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〈論説〉取締役会非設置会社の募集社債発行意思決定機関--取締役会非設置会社の業務執行の意思決定に関連して

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(1)法科大学院論集 第11号. 取締役会非設置会社の 募集社債発行意思決定機関 ―取締役会非設置会社の業務執行の意思決定に関連して―. 原. 弘. 明. は じ め に1) 法科大学院で教鞭を執ることは,今まであまり検討してこなかった問題と日 常的に向き合うことを意味する。本稿で採り上げる,取締役会非設置会社の業 務執行にかかる意思決定についての問題も,本稿筆者にとっては不勉強なテー マである。 本稿では,表題のテーマについて論じるとともに,類似の問題の発生可能性 およびそれらの問題に対する本稿筆者の意見を記すこととしたい。. 1 本論:取締役会非設置会社の募集社債発行意思決定機関 11 議論の実益 平成17年会社法においては,株式会社のみならず持分会社も,社債の発行が. 1)本稿執筆にあたっては,伊藤吉洋本学法学部専任講師及び関西商事法研究会の諸賢,とりわけ阿 多博文弁護士と吉本健一神戸学院大学教授から種々のご教示を賜った。記して御礼申し上げる。依 然として残る誤りは本稿筆者の責めに帰する。なお本稿は,科研費(若手研究B26780068)による 成果の一部である。. ― ― 193.

(2) 取締役会非設置会社の募集社債発行意思決定機関. 可能であると考えられている。そのことは,社債に関する会社法の規定が,株 式会社にかかる会社法第2編ではなく,株式会社・持分会社とは独立した第4 編に置かれていることにも示されている2)。 以上のことを前提とすると,会社形態のいかんにかかわらず,募集社債の発 行にかかる意思決定の可能性が生じる。現実に小規模で閉鎖的な会社において どの程度社債発行のニーズがあるかはともかく3),理論的に検討することに一 定の価値はあるだろう。 ではこの思考実験に実利はあるのだろうか。通常取締役会非設置会社は,ご く小規模で閉鎖的なものや大規模企業の工場子会社・支店の法人化など,取締 役会を設置しないことにメリットがある企業,あるいはベンチャー企業が想定 できるだろうか。このうち前者はおよそ資金調達として社債発行を想定してい るとは考え難い。もとより,そのような会社がデットファイナンスに頼ること は常態であるが,多くの場合そのデットファイナンスは,取引先金融機関や近. 2)相澤晢=葉玉匡美「社債」相澤晢編著『立案担当者による新・会社法の解説』 (商事法務,2 006 年)169~170頁,相澤哲ほか編著『論点解説新・会社法』(商事法務,2006年)616頁,江頭憲治郎 「『会社法制の現代化に関する要綱案』の解説〔Ⅴ〕」商事1725号(2005年) 12頁参照。旧法下の有限 会社は,社債を発行できないとするのが通説であった。平成1 7年改正前商法下の人的会社も含め て,詳細は,上柳克郎=鴻常夫=竹内昭夫編集代表『新版注釈会社法』(有斐閣,1 988年)30~ 33頁〔上田宏〕,江頭憲治郎編『会社法コンメンタール16』(商事法務,2010年)16~17頁〔今井克 典〕を参照。 3)会社法上の制度としては,会社分割の主体が株式会社・合同会社に限られている理由が,ニーズ がないことに求められていることなどと不均衡である気もするが,ここでは法政策上の当否には立 ち入らない。閉鎖的な会社の募集社債発行は通常私募債に該当すると考えられる(江頭・前掲注 2)12頁参照,その実態と制度の概要については,江頭憲治郎『株式会社法〔第5版〕 』(有斐閣, 2014年)702~3頁を参照)。取締役会非設置会社が募集社債発行をデットファイナンスとして活用 するとすれば,会社法上の規制にかかるコストを抑制しようとするだろうから,社債権者の少ない 私募債であることが普通だろう(会社法7 02条・会社法施行規則1 69条参照。以下特に断らない限 り,条文はすべて会社法)。 社債に関する法規制からすれば,新株予約権付社債に生じる固有の問題についても検討すべきで あるが,本稿では募集社債発行一般に関する問題を扱うにとどまった。 なお合同会社については,江頭憲治郎ほか「〔座談会〕合同会社等の実態と課題〔上〕 」商事1944 号(2011年)8頁〔新家寛発言〕を参照。. ― ― 194.

(3) 法科大学院論集 第11号. 親者・友人からの融資によることが多いだろう。小規模閉鎖会社の信用レベル からすれば,債権を均一化・小口化して,多数の一般投資家から資金提供を受 けるという社債の仕組みにはおよそ不向きであろう4)。後者については,通常 かかる企業への資金提供はハイリスクであるから,小規模閉鎖会社と同レベル 以上に,均一化・小口化された社債という方式によるデットファイナンスに期 待することはできまい。むしろエンジェルなどによるエクイティファイナンス が通常であろう。 他方,企業規模からみて上場あるいは公開会社になってもおかしくないもの の,機関設計の都合上非公開会社かつ取締役会非設置会社を選択する可能性 も,皆無ではないと思われる。かかる場合は会社形態として,必置機関が少な く定款自治の範囲が広い合同会社を選択する方が合理的とも思えるが,株式会 社形態を選択することはもとより自由である。非公開かつ取締役会非設置会社 でも募集社債発行が可能であることを考えると,上述した思考実験も,全くの 机上の空論でもないようである5)。. 4)もちろん,私募債も債権者数が少なくなると通常の融資と変わらなくなるが,その場合には小規 模な企業では起債コストが無用の負担となるだろう。あえて社債発行するのは,複数の債権者から のデットファイナンスを予定している会社で,融資条件が均等に,債務者たる会社側の一定のイニ シアティブに基づいて設定でき,かつ起債コストをベネフィットが上回るケースであろうか。起債 回数が少ない場合には個別にまたは協調して融資を受ける方が便宜であるから,起債回数は多いこ とになるだろう。 私募債と公募債〔・一般的な融資〕とのコーポレート・ファイナンスに関する比較については, たとえば,リチャード・ブリーリー=スチュワート・マイヤーズ=フランクリン・アレン〔藤井眞 理子=國枝繁樹監訳〕 『コーポレート・ファイナンス下〔第10版〕』 (日経 BP 社,2014年)191~192 頁を参照。法律学の観点からの概説として,江頭編・前掲注2)会社法コンメンタール6~7頁・ 9~10頁〔江頭憲治郎〕。362条4項2号の「多額の借財」と5号の募集社債発行の募集社債発行に かかる事項との比較検討のうえ,社債の性質から両者の区別はできないことを論証した論文とし て,今井克典「金銭借入・社債発行に関する取締役会の決議」名古屋大学法政論集221号(2008年) 95頁,特に98~125頁が参考になる。 5)平成17年改正前商法下では,条文の構造上,合名会社・合資会社では社債を発行できるが,有限 会社では認められないとしていたのであって,実利の観点から会社形態の取捨選択が行われていた わけではなかった。前掲注2)新版注釈会社法該当部分,江頭・前掲注2)12頁を参照。. ― ― 195.

(4) 取締役会非設置会社の募集社債発行意思決定機関. 12 解釈論 募集社債に関する事項の決定を定める6 76条柱書きは,全ての会社形態を念 頭においているため, 「会社は,その発行する社債を引き受ける者の募集をしよ うとするときは,その都度,募集社債(当該募集に応じて当該社債の引受けの 申込みをした者に対して割り当てる社債をいう。以下この編において同じ。) について次に掲げる事項を定めなければならない。」と規定し,会社を主語と している。そのため,様々な会社において具体的にどの機関が募集社債発行の 意思決定機関になるかは判然としない。 もとより,株式会社のうち取締役会設置会社にあっては,取締役会が676条1 号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として 法務省令で定める事項の決定を,取締役に委任することができない6)。この条 文から,それ以外の細目にわたる部分については,代表取締役などに委任が可 能と考えられる7)。 また,持分会社にあっては,通常社員8) や業務執行社員9) の過半数によっ て決定されることになるだろう。場合によっては定款で定められていることも あるだろう。 では,株式会社のうち取締役会非設置会社はどうか。348条3項には362条4 項5号に相当する条文がないため,解釈問題となる。この場合,解釈の方向性 はいくつかあるだろう。旧法下の有限会社は社債を発行できないと解されてい たため,これは会社法で新たに生じた解釈問題といえる。 まず,348条3項がない以上,同条2項が原則であり,取締役の過半数で決定 すべきという考えであり,これが最も自然な結論である。3項に列挙されてい 6)362条4項5号。 7)具体的な委任事項も含めた詳細な検討として,今井・前掲注4)132~139頁がある。今井は,多 額の借財についても募集社債発行同様の規制が妥当すると考える(139~141頁)。 8)590条2項。常務につき3項。 9)591条1項。以上につき,今井・前掲注2)18頁参照。. ― ― 196.

(5) 法科大学院論集 第11号. る事項・いない事項両者とも,その意思決定は2項に収斂されるからである。 持分会社で募集社債発行の意思決定をする場合には業務執行社員の過半数で決 することになるだろうから10),他の会社形態との平仄もあっている。 また,取締役会設置会社と取締役会非設置会社では株主総会の権限が異なる ので,株主総会にも意思決定権限が存在する。2 95条1項によれば株主総会は 株式会社に関する一切の事項について決議をすることができるからである11)。 以上からすれば,取締役会非設置会社については,取締役の過半数と株主総 会の権限が抵触する(両者の意思決定内容に両立できない部分があることを指 すこととする)可能性が常に存在することになる。では,両者の意思決定内容 が抵触した場合はどうなるかも,予め考えておかなければならない12)。. 次に問題となるのが,各取締役が単独で意思決定できるか否か,その場合の 効力はどうかである。3 48条3項は各取締役に委任できない事項について列挙 するものであり,3項に該当する業務執行にかかる意思決定は,取締役過半数 で決議するか,いったん取締役過半数の委任を受けて各取締役が決定する構造 を採る。3項列挙事由はこの委任を禁止するものであるから,反対解釈として 募集社債発行の意思決定は取締役に委任可能な事項とするのが自然である13)。. 10)常務につき591条1項,590条3項。 11)取締役会非設置会社をどの程度念頭に置いた記述かは明らかでないが,伊藤靖史ほか『会社法 〔第2版〕』(有斐閣,2011年)333頁〔松井秀征〕は,「会社法が定める原則は,株主総会普通決議 による決定である」と明記する。 12)相澤哲=石井祐介「株主総会以外の機関」相澤編著・前掲注2)102頁注30は,定款による取締役 過半数要件の緩和について,同一事項につき結論の異なる複数の決定が行われる可能性が生じてし まうため,認められないとするが,この問題は株主総会・取締役(過半数)間についても同様に存 在するものである。 13)立案担当者見解(相澤ほか編著・前掲注2)625頁)ほか通説。もっともこの解釈は,348条3項 各号が例示列挙に過ぎないという解釈を採りうるのであれば必然ではない。362条4項柱書きのよ うな規定ぶりではない以上,限定列挙説が合理的ではあるが(落合誠一編『会社法コンメンタール 8』(商事法務,2009年)10~11頁〔落合誠一〕),なお異論も存するところである(酒巻俊雄=龍 田節編集代表『逐条解説会社法第4巻』(中央経済社,2008年)366~374頁〔稲葉威雄〕,稲葉威雄. ― ― 197.

(6) 取締役会非設置会社の募集社債発行意思決定機関. 他方,委任可能であることと単独で意思決定できることは別である。3項列 挙事由については単独で意思決定された場合の効力を否定することが容易にな りそうであるが,列挙されていない事由については,単独で意思決定された場 合の効力は原則有効とされるべきだろうか。黙示の委任を認定できるケースも 多いと思われるが,募集社債発行の意思決定については新たに生じた解釈問題 であるため,なお検討することに意味はあろう。. では,解釈論としてはどのように考えるべきだろうか。 前提として,募集社債発行にかかる株主総会決議と取締役過半数決議とは互 いに優劣関係になく同列に扱えるものと考える。取締役会非設置会社の株主総 会は株式会社に関する一切の事項について決議をすることができ(295条1 項),取締役過半数の意思決定との間に明文上の優劣関係につき特段の定めが 存在しないからである14)。 これに対して,株主総会の最高機関性(2 95条1項)や忠実義務の根拠規定 (355条)に「株主総会の決議を遵守し」との文言が含まれていることを根拠 に,株主総会・取締役過半数決議が抵触する場合には,株主総会決議が優先す 『会社法の解明』(中央経済社,2010年)424頁)。旧有限会社法下では,株式会社では取締役会,有 限会社では社員総会の権限とされた事項と同程度あるいはそれ以上に重要な事項,すなわち業務執 行に関する基本的な事項は,定款に別段の定めがないかぎり,必ず取締役の過半数による決定を要 すると解する見解があった(上柳克郎=鴻常夫=竹内昭夫編集代表『新版注釈会社法』(有斐閣, 1990年)192~193頁〔堀口亘〕)。 他方,今井・前掲注4)124~125頁のように,362条4項2号・5号の比較の結果として,多額 の借財に該当しないような額の募集社債発行については,取締役会決議は不要とする見解も存在す る。この見解は3 62条4項列挙事由についても,性質上取締役会決議を不要とすべきがあることを 指摘する興味深い見解である。本文では,取締役会非設置会社があえて募集社債発行によりデット ファイナンスを行うのは,通常会社規模から考えて相当高額になることを前提に,この問題をいっ たん留保して論じる。後述2において検討することとする。 14)株主総会と取締役との間の権限分配について,優劣をつけるべき根拠のひとつは,取締役と株主 との利益相反の可能性であると考えられる。しかし,募集社債発行や会社に対する外部からの融資 の場合,取締役と株主との間には通常,構造上の利益相反関係はないと考えられる。そうである以 上,株主総会と取締役過半数決議との間に優劣関係を考える必要は薄い。. ― ― 198.

(7) 法科大学院論集 第11号. ると考えることも可能であろう。もっとも,善管注意義務・忠実義務は同質と するのが現在の判例15)・多数説16) であるし,忠実義務規定の沿革上上記文言 が意図して挿入されたとも言いがたいから,ここでは株主総会決議が当然に優 先する解釈は採用しないこととする。 しかし,取締役過半数決議と株主総会決議の両者が併存する場合17),取締役 が一方に従って募集社債発行を強行した場合には,当該募集社債発行の効力に は影響ないとされる可能性がある18)。とすれば,取締役過半数決議・株主総会 決議の抵触という問題に加えて,募集社債発行との時的関係についても検討が 必要となる。. 以上のように考えると,問題は,①取締役過半数決議の内容と株主総会決議 の内容が抵触する場合の優劣,②取締役過半数による委任があった場合の取締 役の判断と株主総会決議の内容が抵触する場合の優劣,③取締役過半数による 委任がない場合,そもそも単独でなした取締役の判断に基づく募集社債発行は 有効か,有効とした場合の取締役の判断と株主総会決議の内容が抵触する場合 の優劣,とそれぞれの時的関係に整理されることになる。原則は時的に先行し た方の判断が優先ということになると思われるが19),上述の取締役会設置会社. 15)最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁。 16)落合編・前掲注13)51~60頁〔近藤光男〕。 17)取締役らと株主の利害が対立しているなど両者間の情報共有がうまくなされておらず,事後的に 株主が株主総会を自力招集する場合(297条1項4項)などが考えられる。 18)神田秀樹『会社法〔第1 6版〕』(弘文堂,2014年)318頁注6)参照(取締役会設置会社について のもの)。理由は記されていないが,後掲注19)江頭説が存在するほか,取締役会決議を経ない代表 取締役の専断的行為に関する議論が参考にされたのではないかと考える。取締役会決議と取締役過 半数決議は一応別個のものではあるが,実際はほぼ同種のものであるから,決議内容について別異 に解する理論的根拠はあまりないだろう(取締役会の招集や議事に関する一連の規定の適用がない という違いはある)。 19)後行する機関の意思決定が,先行する機関の意思決定を否定する内容を含むことも考えられる (株主総会決議を取締役過半数で明示的に否定する場合など)。しかし,同一の機関でない以上,両 者は単独の決議でもう一方の決議内容を覆すことは原則としてできないと解すべきだろう。. ― ― 199.

(8) 取締役会非設置会社の募集社債発行意思決定機関. における有効性に関する学説も踏まえて,より詳細に検討することとする。 ただし,以下は募集社債発行にその他の瑕疵がないことを前提としたい。株 主総会決議に違法があった場合の取締役の忠実義務の問題など,複雑なケース を想定しなければならないからである。. まず,①取締役過半数決議と株主総会決議とが抵触する場合について検討す る。 取締役過半数決議が先行している場合は,前述のように,株主総会決議を無 視して発行を強行しても,当該募集社債発行自体の有効性には影響がないと思 われる。一時的にせよ,内部的にも外部的にも適法有効な意思決定がなされ, 当該意思決定に基づいて業務執行が行われているからである。会社や第三者に 損害が生じた場合,取締役の任務懈怠責任・対第三者責任が問題となるにとど まる。一方で株主総会決議が先行している場合,当該決議に抵触する取締役過 半数決議は無効と解すべきであろう。株主総会万能主義を前提とする取締役会 非設置会社の権限分配に反することは明らかであるからである20)。この場合 は,後行する取締役過半数決議に基づく募集社債発行は無効と解する余地があ ると考える21)。募集社債発行を無効とすることで社債権者やその(将来も含め た)譲受人に対してマイナスの影響が及ぶおそれはあるが,実体法上明らか に,事前になされた最高意思決定機関である株主総会の意思に反するからであ る22)。また,かかるニーズがある会社は合同会社を選択しないとするならば, 20)以上は取締役過半数・株主総会の両方が明確に決議している場合を想定している。これに対し, 取締役過半数の発行決議に問題があった場合,株主総会が何もしない場合と発行してはならない旨 決議した場合とで,別異に考える余地もある(本稿では採らない)。株主総会決議優先説からは,先 行する取締役過半数決議に対する拘束力が生ずる可能性もある。 21)江頭・前掲注3)804頁のように,取引安全の要請を重要視し,取締役会の適法な決議を欠く発 行,必要な社債管理者を設置しない発行などを当然無効とはせず,任務懈怠責任・対第三者責任で 処理する立場からは,本文のようなケースも有効とされるだろう。 22)前掲注3)のように私募債が通常であるとするならば,取引の安全についてもさほど気にする必 要はないのではないだろうか。. ― ― 200.

(9) 法科大学院論集 第11号. ファイナンスについて定款で権限分配を明確化しておくべきであろう。株主総 会と取締役過半数の意思決定に優劣がないとすれば,事前に定款で権限分配を 定めておくことは十分合理的と思われるからである。 以上のような解釈は,募集社債発行の迅速性といった,機動的な資金調達の ニーズに反して妥当でない,との批判もあり得るかもしれない。しかし,株主 総会と取締役過半数とで意思決定権限が重複する取締役会非設置会社の場合, 迅速な意思決定自体放棄されている側面もあるのではないだろうか。. ②取締役過半数による委任があった場合の取締役の判断と,株主総会決議と が抵触する場合についてはどうか。基本的には取締役の判断は取締役過半数の 判断と同視することができるはずだが,取締役過半数による委任と取締役の判 断との間に時間差があるので,問題が生じる。 株主総会決議,取締役過半数による委任,委任された取締役の判断,募集社 債発行という順番だった場合には,発行時点では株主総会決議と最終的な取締 役の判断との抵触は明らかである。株主総会決議に基づく募集社債発行は有 効,委任された取締役の判断に基づく発行は無効と考えるべきだろう。 取締役過半数による委任,株主総会決議,委任された取締役の判断,募集社 債発行という順番だった場合は,委任の時点と具体的な取締役の判断とのいず れを基準時とすべきかがさらに問題となる。事実上の白紙委任の可能性や,株 主総会で取締役と異なる判断をする余地をなくすために形式的に委任する可能 性などは否定できない。しかし,法定の手続を踏んでいる以上,取締役過半数 の委任を受けた取締役の判断に従った募集社債発行は有効,株主総会決議に 従った発行は無効と解することも可能のように思われる。. 最後に,③取締役過半数による委任が認められない場合,取締役が強行した 募集社債発行の効力はどうか。この場合も任務懈怠責任・対第三者責任で一貫 ― ― 201.

(10) 取締役会非設置会社の募集社債発行意思決定機関. させるという立場もありうるが,絶対的無効と解することも可能であろう。社 債は会社に対する債権の一種であるため,その発行の無効について特段の訴訟 法的規定はない。そのため一般の無効にかかる規定が適用されるが,取締役会 非設置会社取締役としては,無効とされる可能性をも併せ考えて,募集社債発 行すべきではないかと考える。 絶対的無効とはせず,取締役会の決議を欠く代表取締役の行為の効力同様, 原則として有効とし,会社が相手方の悪意または過失を主張して無効とする方 法も考えられる。この処理法は取引の安全を不安定にするおそれがあるもの の,取締役会非設置会社の募集社債発行は多くの場合私募債であるとすると, かかる相対的な構成も許されるのではないかと考える。上場会社株式のように 輾転流通することは,ほとんど考えられないからである。 この類型の場合は,事前に株主総会決議が存在するとは限らないが23),仮に 募集社債発行について何らかの株主総会決議がすでに存在した場合には,より 無効と解することになるだろう24)。株主総会決議が存在しない場合には,相手 方には当該意思決定・募集社債発行の問題性は顕在化しにくいので,より有効 と解することになるだろう。. 2 他の意思決定との関係 仮に348条3項の起草段階で,本来は設けられるべきであった362条4項5号 に相当する規定が,旧有限会社で社債が発行できなかったため見落とされただ けであれば,これまでの本稿の議論は比較的簡単に解決できる。348条3項に, 362条4項5号と同様の規定を新設すればよい。. 23)取締役の専断的行為を予知して株主総会が決議することは,むしろまれだろう。 24)相手方としては,取締役会非設置会社という特殊な会社からの社債を引き受ける以上,内部的意 思決定に問題がないか調査すべきだろう。. ― ― 202.

(11) 法科大学院論集 第11号. もっとも,348条3項列挙事由であって362条4項列挙事由でないものは,上 述した募集社債発行にかかる重要な事項の意思決定のほかにも様々ある25)。こ れに該当する場合には,上述した募集社債発行と同様に,意思決定の権限分配 を考えてよいだろうか。362条4項柱書きの「その他の重要な業務執行」が広 きに失するという点は措くこととして,現行法を前提とした解釈論をさらに考 えてみる26)。 募集社債発行にかかる意思決定については,362条4項と348条3項の文理比 較が可能であり,旧有限会社法では存在しなかった解釈問題だったため,取締 役単独の意思決定を認める見解は十分に解釈論上も可能であった。本稿筆者 は,募集社債発行によるデットファイナンスの必要性がある会社はどのような ものかを考え,他の会社形態の選択も十分に可能であると判断した。そのた め,募集社債発行については絶対的無効とすることも,原則有効とし,相手方 の悪意・過失が存在する場合には無効とすることも可能と解した。 これに比して,仮に取締役会非設置会社にとって募集社債発行の意思決定が 重要でないとしても27),性質上重要な業務執行については,各取締役単独で意 思決定することを積極的に認めることはできにくいだろう。重要な業務執行も 362条4項には掲げられており348条3項には掲げられていない事項であるが, 性質上の重要性で募集社債発行と重要な業務執行を解釈論上区別するのであれ ば,条文上差異があることのみから各取締役の任意の意思決定を認めるわけに はいかない。 25)362条4項1号の重要な財産の処分及び譲受け,2号の多額の借財,3号のうちその他の重要な 使用人の選任及び解任,そして柱書きの「その他重要な業務執行の決定」である。旧有限会社法下 の解釈については,堀口・前掲注13)のほか江頭憲治郎『株式会社・有限会社法〔第4版〕』(有斐 閣,2005年)367~369頁も参照。 26)奥島孝康=落合誠一=浜田道代編『新基本法コンメンタール会社法2』130~133頁〔野田耕志〕 も参照。 27)今井・前掲注2)124~125頁の整理に従えば,362条4項2号の多額の借財に該当しない額の募集 社債発行は,重要な業務執行にも該当しないことになる。. ― ― 203.

(12) 取締役会非設置会社の募集社債発行意思決定機関. この場合には,取締役過半数の意思決定と株主総会の意思決定との抵触とい う問題とが,より頻繁に起こりうることになる。その場合の処理は,前述した ように株主総会決議が先行するならば取締役過半数の意思決定は排除され,取 締役過半数の意思決定が先行する場合には,株主総会決議と取締役過半数の意 思決定に基づく業務執行との時間的先後関係によって,その有効性を決すべき ことになると考える。 このような解釈は,362条4項と348条3項を異なるものとして定める会社法 の文理にそぐわない面は否めない。しかし,株主総会万能主義を採用する取締 役会非設置会社においては,このような権限の抵触は常時起こりうる。この権 限の抵触という問題を解釈論に反映させるか,もとからそのような機関設計を 選択した当該株式会社(の株主)が負うべきリスクとして捉えるかは,意見が 分かれるところであろう。 以上は抽象的な表現にとどまるので,本稿が検討したデットファイナンスの 文脈で考えてみる。募集社債発行は,通常まとまった額のデットファイナンス で用いられる手法だと考えられる。会社法の社債に関する法規制は社債管理 者・社債権者集会など,社債権者保護に資するものが多いが28),一定の場合29) 社債管理者は不要である。各社債の金額が1億円以上の場合は個別の債権額が 会社規模に比して多額の可能性が高く,社債権者が50名未満の場合は社債権者 との関係が緊密と考えられる。これらの場合,社債の有効性が曖昧であれば通 常そのような募集社債発行は行われないので,結果として株主に不利益にはな らないようにも思える。しかし,デットファイナンスにとって重要な事項につ いて取締役過半数決議が必要であると解するのであれば30),多額の募集社債発. 28)もっとも,両制度は個々の社債権者の利害に沿うとは限らない機能を有することにつき,藤田友 敬「株式会社の企業金融」法教267号(2002年)106~112頁。 29)702条・会社法施行規則169条。 30)今井・前掲注2)はこの点で一貫した見解である。. ― ― 204.

(13) 法科大学院論集 第11号. 行にかかる意思決定が必要であると解する以上,3 62条4項2号のような多額 の借財も取締役過半数の決議が必要だろう。取締役会非設置会社の株主は,会 社のデットファイナンスに限っても,多額の融資を各取締役が専断できるか, 取締役過半数決議または株主総会で決議しなければならないかはっきりしない という,リーガルリスクを背負っていることになるのである。 348条3項列挙事由を限定列挙と考える通説的見解の代表的なものは,まさ に同条が割切りを行ったものと解している31)。この見解に従えば,本稿が主題 とした362条4項5号に相当する募集社債発行にかかる事項についても,362条 4項2号の多額の借財に相当する事項についても,取締役過半数決議は不要で ある。しかし,会社法制定時には要綱・立案担当者解説ともに株主総会非設置 会社の取締役の業務執行権限について,従前の有限会社と同様と述べるのみで あって,3 48条3項のような限定について積極的な議論がなされたわけではな いようである。文理解釈としては限定列挙が優位であるとしても,旧有限会社 法下の議論が明示的に否定されたと考えるのは早計ではなかろうか32)。 また,明示的にも黙示的にも委任を受けていない重要な業務執行にかかる取 締役の専断的行為の効力を,3 62条4項の取締役会決議を欠く代表取締役の行 為と同様,相手方の悪意・過失を立証できて初めて無効とするよう解釈すれ ば33),無効とすることの不都合は大きくないように思われる。この解釈は,形 式はどうであれ委任を要するとする従来の学説34) に比して緩やかな立場にな るが,黙示の委任を極端に広く解するよりは,業務執行の相手方の主観に対応. 31)落合・前掲注13)該当部分。 32)この点で本稿筆者は,前掲注13)掲記の稲葉説に同調するものである。また,前掲注13)堀内説 のような旧有限会社法下の学説についても,なお会社法下で相応の検討の余地があると考えるもの である。また,デットファイナンスについては,前掲注2)今井説に共感する部分もある。もっと も,社債制度自体会社法がデットファイナンスを一部特殊に規律するものだから,今井説が論理必 然の結論ではない。 33)最判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁参照。 34)江頭・前掲注3)374~5頁など参照。. ― ― 205.

(14) 取締役会非設置会社の募集社債発行意思決定機関. して有効・無効を判断する方が法的安定性に資するのではないだろうか。. もとより,このような私見からした場合,348条3項に列挙されていない事項 のうち,なお各取締役への決定の委任が許されないものは何か,業務執行の内 容・性質などから判断することが必要となる。また,各取締役への決定の委任 が許されないとした場合には,各取締役がなしたそのような専断的行為の効力 はどうなるかも,やはり問題となる。その場合の処理は,基本的には募集社債 発行について示したものと同様になると考えるが,取引の安全等の見地から微 調整の余地もある。 本来は旧有限会社法下の議論を批判的に検討し,会社法下での取捨選択をす ることが求められるが35),本稿筆者の検討が十分ではないため,現時点では問 題の指摘にとどめたい。. おわりに 取締役会非設置会社(であり特例有限会社でないもの)や合同会社のような 会社の実態について,少なくとも本稿筆者は十分な知識を有していない。その ため,本稿が理論一辺倒の検討になったことは反省している。実務家諸賢に実 態をご教示いただければ,この上ない喜びである。 また,募集社債発行の意思決定という,旧有限会社法ではそもそも問題とな らなかった新しい解釈問題についての一試論を,取締役会非設置会社の業務執 行の意思決定一般に拡大することについては,安易に過ぎるであるとか,解釈 が不安定になるといった批判を免れることはできまい。読者諸賢の批判的検討. 35)募集社債発行の意思決定については,取締役会設置会社に関する法務省令(会社法施行規則1 62 条)がひとつの参考になりうる。. ― ― 206.

(15) 法科大学院論集 第11号. をあおぐこととしたい。. 〔付 記〕 本稿は,法科大学院教員1年目の未熟な本稿筆者が演習中に接した目立たない論点に ついて記した小論であった。法学部・法科大学院を通じて永年教育・研究に邁進された 先生方にとってはとるに足らないものであろうが,記念論集にふさわしいテーマでもあ ると思い,献呈させていただくこととした。. ― ― 207.

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