1 はじめに
平成27年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」1 )によれば、 小・中・高等学校における、暴力行為の発生件数は56,806件(前年度54,246件)であり、 児童生徒1,000人当たりの発生件数は4.20件(前年度3.98件)である。また、小・中・高等 学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は225,132件(前年度188,072件)と前年 度より37,060件増加しており、児童生徒1,000人当たりの認知件数は16.5件(前年度13.7件) である。暴力行為やいじめについては、前年度よりも増加の傾向にあることが分かる。 暴力行為の発生件数は、校種別に見てみると小学校17,078件(前年度11,472件)、中学校 33,073件(前年度35,683件)、高等学校6,655件(前年度7,091件)であり、中学校や高等学学級活動における合意形成によるルールづくりに関する一考察
〜学級における「ルール」づくりのための指導例の提案〜
石 黒 康 夫
図 1 .平成27年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」文部科学省校では減少が見られるものの、反対に小学校では増加の傾向にある。また、暴力を内容別 に見ると、「対教師暴力」は8,212件(前年度8,835件)、「生徒間暴力」は36,105件(前年度 32,428件)、「対人暴力」は1,401件(前年度1,450件)、「器物損壊」は11,088件(前年度 11,533件)となっており、子ども同士の暴力行為の発生件数が増加している(図 1 )。 現在の日本の学校現場においては、いじめや暴力行為など児童生徒間の人間関係上の大 きな課題があり、その予防や早期解決は喫緊の課題である。よりよい人間関係を構築する ためには、児童生徒に自己存在感をもたせ、相互に共感的な人間関係を育てることが重要 である。そのためには、生徒指導にとって最も重要な教育の場である「特別活動」を深 化・充実させることが求められている2 )。 特別活動の主な目標は、集団や社会の形成者としての見方・考え方を働かせ、様々な集 団活動に自主的、実践的に取り組み、互いのよさや可能性を発揮しながら集団や自己の生 活上の課題を解決することを通して、次のとおり資質・能力を育成することを目指すこと であると学習指導要領に示されている。 ( 1 ) 多様な他者と協働する様々な集団活動の意義や活動を行う上で必要となることに ついて理解し、行動の仕方を身に付けるようにする。 ( 2 ) 集団や自己の生活、人間関係の課題を見いだし、解決するために話し合い、合意 形成を図ったり、意思決定したりすることができるようにする。 ( 3 ) 自主的、実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かして、集団や社会にお ける生活及び人間関係をよりよく形成するとともに、自己の生き方についての考 えを深め、自己実現を図ろうとする態度を養う3 )。 まさに、いじめや児童生徒間の暴力行為など、集団や自己の生活、人間関係の課題を見 いだし、解決するために話し合い、合意形成を図ったり、意思決定したりすることが目標 として定められている。学校教育において、特別活動を積極的に活用し、意図的に児童生 徒を活動させることで、いじめや暴力行為など、人間関係上の課題を予防し、あるいは早 期の解決ができると考える。しかしながら、著者のいままでの教師生活の経験では、特別 活動が意図的に活用されているというよりは、学級活動の時間を行事の係決めや委員決め などに使っている教師が少なからずいるのが現状であると理解している。こうした実態を 打ち破り、特別活動の趣旨に沿った活動を行うことにより、児童生徒が主体的に集団内の 課題を見出し、話し合い、解決策を創り出していけるように指導することが重要である。 そこで本稿では、中学校を例として、学級活動の合意形成によるルールづくりについて考 察し、授業例を提案していきたい。
2 学級集団の特徴とその役割
学級活動は、学校生活において共に生活や学習に取り組む同年齢の生徒で構成される集 団である「学級」において行われる活動である4 )。また、学級活動は、学校において最も基礎的な集団である学級を基盤とした活動であり、卒業後は、職場や家庭といった日々の 生活の基盤となる集団創りにも通じるものである。特に日本の学校において、学級は教室 に生徒一人ひとりの席が決まっており、困ったことがあると助けてくれる友だちや先生が いる等の共同体の特性5 )を有した集団であり、緊密な人間関係を醸し出す温かさがある6 )。 このような日本の学校に見られる学級の特徴を活かし、生徒が主体的に自分たちの諸課 題を見出し、話し合いを通してよりよく解決し、充実した学級生活を創り出すことは大変 有効なことである。また、生徒が、生活上の工夫や係活動、集会活動などに意欲的に取り 組み、互いの思いや願いなどを活かし合って粘り強く合意形成を図って実現する実践活動 の経験は、生徒一人ひとりに自己実現の喜びや連帯感を与える。 さらに、こうした自発的、自治的な実践活動は、学級や学校への所属感を抱かせるとと もに、生徒一人ひとりをよりよく集団生活に適応させる7 )。こうしたことは結果的に生徒 指導の充実にもつながることでもあり、いじめや不登校などの予防に効果があるばかりで なく、卒業後の社会生活にも大きく影響を与えるものと考える。 特別活動は「なすことによって学ぶ」ものであり、生徒は、実際の体験を通して様々な ことを身につけていくものである。教師は、自らが担任する学級の実態や課題に応じて、 生徒が主体的に学級の課題を見出し、話し合い、合意形成し決まったことを共働して実践 していけるように計画し、指導していくことが求められる。本稿は、学級活動を通して生 徒が、自分たちの学級の課題を見出し、よりよく解決する、あるいは問題が生じないよう にするための学級における「ルール」づくりの指導例を提案するものである。
3 ルールと集団の価値観
よく、「○○は態度が良い」等と表現することがある。態度とはなんであろうか? ガ ニェ(Robert M. Gagne, 1917-2002)によれば、態度とは、ある物事や状況を選ぼう、避 けようとする気もちとされている。しかし、人の心の中はわからないものである。私たち は、外に現れたその人の行動を見て態度と判断しているのである。目に見える行動として 定義されていないと、態度は測定することができない。言い換えれば、「態度」は「行動 の集まり」と言えよう。態度(情意的領域)は、運動技能(神経運動的領域)と認知技能 (認知的領域)に分解することができる。つまりスキルと知識である。しかしそれだけで は態度ではなく、そのスキルと知識を用いるか用いないかを判断する価値観が必要になる (図 2 )。 態度とは、ある事に対する知識や技能が備わっていて、なおかつそれを行動として選択 し実行する心理プロセスである8 )。態度(情意的領域)は、運動技能(神経運動的領域) と認知技能(認知的領域)の他に、その技能を使うか使わないかの判断が必要になる。つ まり、スキルや知識があってもそれを使わなければ行動は起きないし、態度に現れないの である。では、その技能を使うか使わないかの判断基準である価値観はどこで育まれるのであろ うか。徒弟制度では、師匠の元に弟子入りすると、すぐに技術を学べるわけではなく、最 初は雑用をやらされる。掃除・炊事・洗濯・買い物などである。もちろん弟子は、掃除な どのスキルを学んでいるわけではない。そうした生活の中の雑用をとおして、自分が所属 している集団がもつ価値体系を学んでいるのである8 )。その集団のもつ価値体系に沿った 知識・技能を学び、行動することで態度が形成されていくと考えることができる。自分が 所属している共同体、ここでは学級がもつ価値体系を健全なものにすることが、よりよい 人間関係で結ばれた学級集団を育成する上で重要なことであると考えられる。そういう意 味では、教師の発言や行動は生徒の態度を育成するためのモデルであると言える。 学級において、集団の課題を見出し、話し合い合意形成して解決していくためには、価 値体系を創り上げていくプロセスが重要であると考える。つまり、学級の「ルール」づく りを通して、生徒が課題を見出し、学級の価値体系を仲間と共に創り出していけるような 指導方法が必要であると考える。しかし、この場合、気を付けなければならないことがあ る。それは、指導のダブルスタンダード化である。指導のダブルスタンダードとは、指導 の対象となる生徒や、指導する教師により指導の内容や方法、程度などが異なることであ る9 )。指導のダブルスタンダードがあると、学校としての指導の一貫性がなくなる。結果 として、他の生徒や保護者の不公平感を生み、学校や教師への信頼を失うことになる。通 常校と生活指導困難校を比較した場合、困難校ほど、指導のダブルスタンダード化が生じ ていると言われている9 )。 いわゆる荒れた学校では、指導がダブルスタンダード化している場合が多いのである。 したがって、学級で創り上げる価値体系は、他の学級や学校全体の価値体系と相反しない ものであることが必要である。他の学級や学校全体と価値体系が異なれば、当然生徒の行 動も他の学級や学校全体と異なるものとなる。もちろん教師の指導もずれてくるのであ 態 度 (情意的領域) 運動技能 (神経運動的領域) 認知技能 (認知的領域) 行 動 これらの技能を使うか使 わないかの価値観が必要 図 2 .態度を構成するもの
る。教師は、学級のルールづくりを行う際には、当然、他の学級や学校全体の指導理念を 考えに入れた上で指導を行うことが求められる。
4 合意形成と自我関与について
学級の課題を見出し、必要なルールを創り出すことによりその課題を解決、あるいは予 防しようとする際、当然のことながら学級の中で話し合い、つまり合意形成が行われる。 合意形成が適切に行われないと、創り出した「ルール」は実効性がないものとなる。で は、合意形成が適切に行われるとはどのようなことであろうか? 話し合いを行い、合意 形成する過程で、生徒が自我関与しているかどうかである。自我関与とは、一般的に、あ る事柄を自分のもの、あるいは自分に関係があるものとして考えることとされている。つ まり、学級の「ルール」を自分に関係のあるものとして考え、自分の意見として述べた り、他者の意見を聞いて、自分の意見を修正したりする過程のことである。 なぜこうした過程が必要なのであろうか? これは、米国の心理学者であるレオン・ フェスティンガー(Leon Festinger, 1919-1989)の認知的不協和理論から説明することが できる。不協和の存在は、その不協和を低減させるか除去するために、なんらかの圧力を 起こすと言われている10)。複数(通常は二つ)の要素の間に不協和が存在する場合、一方 の要素を変化させることによって不協和な状態を低減または除去することができると言う ものである。つまり、「ルール」を創るために一生懸命考えて取り組んだという自分の行 動と、出来上がった「ルール」という二つの要素がある時、この二つの要素の間に不協和 を生じさせないためには、出来上がった「ルール」は誰もが守るべき重要な「ルール」で あるという認知を持つことである。重要な「ルール」と認知するからこそ、一生懸命ルー ルづくりに取り組んだ自分の行動と不協和を起こさないのである。反対に、「ルール」づ くりを自分のこととして真剣に考え、「ルール」づくりに取り組まなければ、出来上がっ た「ルール」を大切にしようとする気もちが起きないのである。 このような生徒の心の動きは、学級や学校の中ではしばしば見ることができる。例え ば、中学校の合唱コンクールを行う際、生徒たちは優勝を目指して一生懸命努力する。努 力したからと言って必ずしも優勝できるわけではない。もちろん優勝できなければ、生徒 たちは落胆し、涙を流すものである。著者にも似たような経験がある。しかし、著者は教 師時代に少し異なる体験をした。当時、著者の学級の生徒たちは、まだ合唱曲としては楽 譜もなく、もちろんアレンジもされていない曲を合唱コンクールの自由曲として選択し た。国内で入手できなかった楽譜を、ある生徒が外国に住居している自分の親せきに頼ん で取り寄せ、自分たちで合唱曲にアレンジし、練習してコンクールに臨んだのである。し かし、結果は思うようには行かず二位で終わった。合唱コンクールが終了して帰りの学級 活動の時間に教室へ行くと、さぞかし落胆しているであろうと思った生徒たちが、著者の 顔をみてニコニコしながら、著者が何か言うのを待っているのである。そこで著者は「優勝はできなかったけど、やっぱり、うちのクラスの歌が最高に良かったよ。」と言うや、 学級全員の歓声があがったのである。そして、どの生徒も、とても満足気な顔をしている のである。 これは、自分たちが合唱を創り上げるために行ってきた行動と、出来上がった曲が最高 のものであるという担任教師の評価が一致したからであろうと考えられる。もちろん優勝 していればそれに越したことはないのだが、優勝はできなかった。しかし、合唱のために 費やした自分たちの努力は動かしがたいものである。そこで、自分たちの歌った歌は「最 高だった」という担任の評価により、認知的不協和が生じなかったと考えられる。 話が横道にそれたが、つまり、教科学習や学校行事など、どのようなことでも、生徒が それに対して、労力をつぎ込めばつぎ込むほど、出来上がったもの(達成したことや成果 物)はその労力と一致した価値があると感じるのである。そうでなければ、不協和が生じ るのである。ルールづくりもこれと同様で、生徒が自分たちの課題に対して真剣に考え議 論し、手間をかけて創り上げるほど出来上がった「ルール」は自分たちが創り上げたもの で、尊重すべきものなのである。したがって、「ルール」づくりを行う場合は、生徒が自 分のこととして真剣に考え、取り組むような指導上の工夫(いかに生徒を関わらせるか) が大変重要であると考える。
5 ルールの包括的な表現と具体化するための指導について
学級でルールを創るときは、通常はできるだけ具体的な行動をルールとすることが多 い。例えば、「チャイムが鳴ったら自席に着席する。」、「休み時間に次の授業の教科書や ノート、筆記用具を机の上に出す。」などがある。ルールを具体的な行動で示すことは、 生徒にとって理解しやすいし、また行動もしやすい。周囲で見ていてもその通りに行動で きたかどうかも明確である。つまり、評価しやすいのである。 しかし、一方で、ルールが具体的であればあるほど、ルールに当てはまらない行動への 判断が必要となる。場面や状況が異なった場合、ルールがそのまま当てはまらないことが 生じてくる。そうした場合、個々の生徒の解釈が異なったり、指導する教師の解釈や指導 の仕方が異なったりすることがある。教師の指導が異なれば、前述した指導のダブルスタ ンダードが生じ学校としての指導の一貫性を失う。そうした場合、生徒や保護者から信頼 を失うことにつながる。しかし、だからと言ってあらゆる場面や事を想定して事細かに数 多くのルールを創ることは現実的でない。そのような詳細なルールは、覚えておくことが 難しく徹底されない。 そのようにならないために、ルールを教師と生徒間で共有できる工夫が必要となる。そ こで提案するのがルールの「包括的な表現による共有」である。細かいルールを創るので はなく、学級に必要と思われる「適切な行動の考え方」をつくり、それを生徒間、生徒と 教師間で共有するのである。そして、さらにその考え方に基づく適切な行動には具体的にどのようなものがあるかを、生徒が考え共有することである。次に示す例は、筆者が中学 校の校長として勤務していた際に生徒会役員の生徒と教師が後に示す手順によって作成し たルールである。 ア 大切にする。 イ 素直にふるまう。 ウ 話し合って解決する。 エ 時間を守る。 オ 自分をコントロールする。 上に示したように、それぞれが簡単なキーワードであり、あまり具体性がない。 「ア 大切にする。」は何を大切にするのかこれだけではわからない。これは具体的な特定 の行動を示すルールではなく、適切な行動の考え方を示すものである。つまり、「大切に する。」という中にはたくさんの行動が包含されているのである。どのような行動が「大 切にする。」という考え方に適合する適切な行動であるのかを指導によって生徒と教師と で共有するのである。前述したように、考え方に適合する適切な行動がどの様な行動であ るのかを明らかにし、共有する指導過程で生徒に自我関与させるかがポイントとなる。こ の指導方法は、適切な行動の考え方を生徒・教師間で共有することで、生徒の特定の適切 な行動のみを増やすのではなく、考え方に適合した他の適切な行動に般化させることをね らいとしている。ここで言う「般化」とは、行動分析学の用語であり、類似した刺激に対 して同じ行動が出現してくることを言う。つまり、生徒はルールに縛られて行動するので はなく、生徒が自身で状況を考え判断し、それに適した行動がとれる力を育むことを期待 した指導方法である11)。具体的な指導手順については、「 6 学級の「ルール」づくりを 通した学習過程の例」の中で紹介する。
6 学級の「ルール」づくりを通した学習過程の例
『中学校学習指導要領』では、学級活動の内容の( 1 )に「学級や学校における生活づ くりへの参画」、「ア 学級や学校における生活上の諸問題の解決」とあり、「学級や学校 における生活をよりよくするための課題を見いだし、解決するために話し合い、合意形成 を図り、実践すること。」とある。そして、『学習指導要領解説 特別活動編』ではその学 習過程を次の図 3 のように示している。 本稿では、図 3 に示した学習過程に沿って、以下に授業の展開例を示していく。 ( 1 ) 「ルールづくり」の授業(事前準備) 1 ) 話し合い活動は、 6 人程度の学級の生活班を利用して行う。 2 ) 班ごとに、模造紙 1 枚、マジック 1 セット 付箋紙(必要な分量)を準備す る。班長が進行係となる。ほかに記録係を一名決めておく。 3 ) 班で向かい合って座り、中央に模造紙を 1 枚置く。 4 ) 班長から班員全員に付箋紙を適当な枚数を配る。( 2 ) 「ルールづくり」の授業(問題の発見・確認) 1 ) 教師は、「ルールづくり」の授業を行うにあたって、学級の生徒全員が気持ちよく 学校生活を過ごすためのものであることを指導する。互いを批判するものではな いことを十分に説明し、特定の個人を批難するような表現はしないように指導す る。 2 ) 班長の進行で、学級で困っていること、嫌なこと、解決したいことなどを、各自 が付箋紙に記入する。教師は机間巡視しながら、生徒が書いたものを確認し、趣 旨に添わない表現があれば生徒に助言する。 3 ) 班長の進行で、班員が書いた付箋紙を、各自が説明をしながら机中央に置いてあ る模造紙に貼っていく。貼る位置はどこでも構わない。 4 ) 班長の進行で、模造紙に貼った付箋紙を親和図法で整理する。内容が類似する付 箋紙を集めて貼り直し、ひとかたまりのグループにする。班長は各班員の意見を よく聞いてグループ分けする。 5 ) グループ分けした付箋紙を、記録係がマジックを使って枠で囲む。 6 ) 班長の進行で、グループ分けした付箋紙の内容から、そのグループにある付箋紙 の内容を代表するようなキーワードを班員で協力して考える。記録係は模造紙に キーワードを記入する(図 4 )。色使いや枠のデザインなどは生徒の工夫に任せ る。 ( 2 )の 2 )〜 6 )の過程は、図 3「学級活動( 1 )における学習過程(例)」における、 「①問題の発見・確認」に相当する部分である。生徒が自分たちの学級で生じている課題 図 3 .「学級活動( 1 )における学習過程(例)」12)
を主体的に見つけられるよう意図したものである。実際に学級で生じている困ったことを 付箋紙に書いて出し合うことで確認し、互いに意見を交わしながら整理・分類し、キー ワードをつけることで、学級にはどのような課題があるのか把握し、それを班全員で共有 する作業である。班員が考え、意見を交換し作業しながら出てきた問題をまとめること で、学級の課題を把握することに生徒を関わらせることが大切である。 ( 3 )「ルールづくり」の授業(解決方法の話し合い) 1 ) 次に、班長の進行で、グループ分けした各問題が解決したらどのような学級にな るのか解決像について話し合う(図 4 )。教師は、何が原因なのかなど、原因にこ だわるのではなく、解決したら学級はどの様な姿になるのか、解決したらどのよ うな良いことがあるのかなどと、解決志向で考えることを生徒に指導する。 2 ) 班長の進行で、( 3 )の 1 )で考案した解決像について、その解決像を実現するに はどのようなルール、あるいは考え方が必要かを班員で話し合って決める。この 時に大切なことは、作成するルールが学校全体のルールや他の学級のルールと矛 盾しないようにすることである。そのために、生徒が考える際に、学校の教育目 標やめざす生徒像などを参考として示しておくのもよい。 ( 3 )の 1 )〜 2 )の過程は、図 3「学級活動( 1 )における学習過程(例)」における、 「②解決方法の話し合い」に相当する部分である。自分たちの学級にある課題を、どのよ うにすれば解決していくのか考え、そのために必要なルールを考案するものである。 図 4 .ルール作成のための親和図法を用いた模造紙のイメージ
( 4 )「ルールづくり」の授業(解決方法の決定) 1 ) 学級委員の進行で、班ごとに、模造紙をもって教室の前へ出て、自分たちの班で はどのような学級の問題が出てきたか、それをどのように分類してキーワードを 付けたのか、そして、それぞれが解決した姿はどの様なものか、それを実現する ためにはどのようなルールが必要か、どのような意見が出たのかなどを発表す る。その際に班で作成したルールを板書する。 2 ) 全班の発表が終わったら、学級委員の進行で自分たちの学級にふさわしいと考え られるルールを板書されているルールの中から 5 つ程度選んで決定する。( 4 )の 1 )〜 2 )の過程は、図 3 「学級活動( 1 )における学習過程(例)」における、 「③解決方法の決定」に相当する。学級の課題の発見・把握から解決に必要なルー ルの作成まで、学級の全生徒が自我関与しながら行う。時間の配分としては班の 数にもよるが、各班でルールを作成するまでを 1 単位時間、班の発表を行い学級 で話し合ってルールを決定するのに 1 単位時間は必要となる。 ルールが決定すれば、後はこれを守っていくのであるが、前述したように作成したルー ルは包括的な表現になっている(図 4 )。次に、これを具体的な行動として考えるための 手順が必要になる。これには少なくとも 1 〜 2 単位時間が必要である。 ( 5 )「ルールづくり」の授業(包括的に表現されたルールの具体化) 1 ) ルールを具体的にするために、ルールを当てはめる学校生活の場面を考え、ワー クシートを用意しておく。ワークシートの準備は学級委員や各生活班の班長と担 任が一緒に行うと良い。ワークシートはどの様な様式でもよく、生徒のアイデア やデザインを採用するのがよい。また設定する場面は、「授業中」、「給食中」、「休 み時間」など学校生活で想定できるもので、これも学級委員や班長の意見を聞い て定める。 2 ) ルールを具体的な行動にする授業では、( 5 )の 1 )で準備したワークシートを用 い、まず個人で、場面ごとにルールに当てはまると考えられる適切な行動を考え る。前に例示したルールを用いて説明すると、「大切にする」と言うルールであれ ば、「授業中」と言う場面で、「自分を大切にする行動」はどの様な行動であるの か、や「友だちを大切にする行動」はどの様な行動なのかなどを個人で考えワー クシートに記入する。 3 ) 次に、個人で考えた適切な行動を班の中で全員が発表する。班員の発表が終わっ たら、班長の進行で個人が発表した適切な行動は全て「ルール」に当てはまるも のだが、特に班として大切にしたい適切な行動を各ルールで場面ごとに三つずつ 選ぶ。 4 ) 学級委員の進行で、班ごとに決定した適切な行動を学級で発表する。班で発表し た適切な行動を板書する。すべての班が発表し終わったら、板書されている適切
な行動の中から、学級として特に大切にしたい適切な行動を各ルールで場面ごと に三つずつ選ぶ。 ( 5 )の 1 )〜 4 )の過程は、包括的に表現されたルールに当てはまる適切な行動を生 徒が考えて共有するためのものである。一人ひとりの生徒が考えた適切な行動は、どれも 否定されるものではなく、全てがルールに当てはまる行動と考える。その中でも特に重要 と考える行動を学級として定めるのである。この手順を行うことで、ルールに当てはまる 行動はたくさんあり、様々な考え方があるということを知るのである。こうした作業を通 して、ルールに当てはまる行動の考え方を身につけ、生徒間、教師と生徒間で適切な行動 を共有する。これは前述した、態度を決定する価値体系の形成にあたる。 この様にして定まった学級のルールを用いて、日常の生活を送っていくことになる。そ の際、このルール(キーワード)は生徒間でも、教師と生徒間でも共通の言語となる。学 級で問題が生じても、教師は細かく言うのではなく、「みんなを大切にするにはどうした らよい?」などと生徒に投げかけることで指導することができるようになる。 ( 6 )「ルールづくり」の授業(適切な行動を継続させる働きかけ) ルールが決まれば、次はそれを実践する段階になる。図 3 「学級活動( 1 )における学 習過程(例)」における、「④決まったことの実践」である。ここでは単に実践をするので はなく、このルールが守られていくための働きかけを提案したい。紙で小さな袋状にした ものを学級人数分作成する。その袋に生徒の氏名を記入し教室の後ろなどの壁面に貼って おく。そして、「いいね! カード」を作成する。これは、生徒がルールに当てはまる適 切な行動をしたとき、それを見た他の生徒が、その行動に対して贈るカードである。カー ドを贈る相手の生徒が行った行動のどのようなところが素晴らしかったのか、その行動を 見てどのように感じたかなどを記入して、その生徒の先ほどのポケットに入れるのであ る。生徒が互いに適切な行動が継続されるように働きかけをするのである。ポケットの中 のカードは担任が回収して、帰りの学級活動の時間にその場で読み上げたり、ある程度た まったら学級だよりで発表したりして、生徒にフィードバックする。生徒のできていない ことを指摘するのではなく、できていることを積極的に生徒にフィードバックし、ルール に沿った適切な行動が継続していくように働きかけるのである。カードや袋は、前述した ワークシートづくりと同様に学級委員、班長、あるいは有志の生徒と一緒につくるのが良 い。 ( 6 )は「④決まったことの実践」の過程であるが、単に実施するだけでなく、生徒が、 ルールに沿った適切な行動が継続できるようにするための働きかけである。行動分析学で は、ある行動ができない理由は、次の二点しかないと言われている13)。 ア 行動のレパートリーがない。 イ その行動が強化されていない。 「ア 行動のレパートリーがない。」とは、その行動のやり方を知らないということであ
る。そして「イ その行動が強化されていない。」とは、その行動が継続されるような働 きかけがされていないということである。 本授業では、授業全体を通してルールに沿った適切な行動の考え方を学び、特に( 5 ) の 1 )〜 4 )では、ルールに沿った適切な行動について話し合うことで、アに相当する具 体的な行動の仕方を学んでいる。そして、( 6 )では、イに相当する適切な行動が継続す るような働きかけ、つまり行動の強化をしていることになる。 ( 7 )「ルールづくり」の授業後の工夫(社会的手抜きの防止) 最後は、図 3 「学級活動( 1 )における学習過程(例)」における、「⑤振り返り」に当 たる部分である。学級で決めたことを実践できているかどうか、ある程度定期的に生徒が 自分自身の行動を振り返ることは大切なことである。また、自己点検だけでなく、生徒が できていることを互いに確認しあう取り組みも有効であると考える。しかし、単に振り返 るだけでなく、生徒たちがつくり上げたルールが、より一層効果的に機能するための行う 工夫がある。それは社会的手抜きの防止である。 社会的手抜きの防止とは、簡単に言うと「まぁ、自分がこれくらいやらなくても良いの ではないか?」という心の動きを防止することである。せっかくみんなで決めたことで あっても、気が緩み手を抜いてしまうことがある。学校生活のように日常的な積み重ねに よって成果が出るもののことを加算的な課題と言うが、加算的な課題の場合は、社会的手 抜きが生じやすいと言われている。社会的手抜きを防止するためには、次の四点が有効で あると言われている14)。 ア 個人の貢献がわかるようにする。 イ 課題に対する自我関与を高める。 ウ 他者に対する信頼感をもつ。 エ 集団全体のパフォーマンスの変動についての情報が成員個々に伝えられる。 イの課題に対する自我関与は、授業全体を通して取り組んでいる。したがって、さら に、ア・ウ・エに相当する取り組みを行うことで、ルールが機能するために有効であると 考えられる。つまり教師は、生徒がルールを守って生活する様子をよく観察し、個々の生 徒の適切な行動に対し評価する。また、学級内で生徒が互いに認め合う活動を意図的に行 うことで、他者に対する信頼関係をつくり上げる。そして、学級の生徒全員に対し、生徒 全員がルールを尊重して生活することで、この様な効果が上がったということを客観的に 示せるようなデータを適宜示していく。このような日常的な取り組みを行うことにより、 生徒が創り上げたルールをより一層効果的に機能させることができると考える。
7 おわりに
これまで、学級における「ルール」づくりのための授業の一例を示してきた。ルールづ くりの過程で、生徒に意図的に自我関与させることで、創り上げたルールを自分たちのも のとして機能するように意図した指導例である。さらに、ルールを包括的な表現方法で表 すことで、特定のルールを守るのではなく、適切な行動の考え方を学級で共有し生徒が適 切に判断して行動できるようにしたものである。 教師は、当然学級のルールを尊重し、ルールの考え方に沿って指導する。例えば、生徒 に不適切な行動があった際に、ただ叱責するのではなく、学級のルールの考え方を示し生 徒に自己の行動をふりかえらせ、考えさせることにより適切な行動がとれるよう指導す る。 また、生徒が適切な行動を行った場合は、教師は機を逃さず生徒の行動を認めたり、ほ めたりすることが大切である。生徒は、教師が、どの様な機会に、どのような行動につい て、どのように認めたりほめたりするかを見ている。これは、教師による価値観の提示で ある。また、こうした教師の行動は生徒のモデルである。 3 で示した「態度の形成」につ ながる、学級という共同体の価値観を示していることになる。学級におけるルールづくり は、創る過程、ルールを運用する過程のすべてが特別活動の指導であり、まさに「なすこ とによって学ぶ」活動であると言える。 本稿では、学級でのルール創りを通して、学級という共同体の健全な価値観を育成し態 度を形成するという授業例を提案してきた。この授業は、一学級のみで実施するよりも、 学年や学校全体で実施することで、より一層の効果が期待される。 注 1 ) 平成27年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」文部科学省、2017。 2 ) 中村豊「児童生徒の人間関係構築力・調整力に関する調査研究」『日本特別活動学会紀要』第14 号、p.46-56、2006年。 3 ) 『中学校学習指導要領』文部科学省、2017年。 4 ) 『中学校学習指導要領解説 特別活動編』文部科学省、2017年。 5 ) 河村茂雄『日本の学級集団と学級経営─集団の教育力を生かす学校システムの原理と展望』図書 文化、2010年。 6 ) 恒吉僚子『人間形成の日米比較』中公新書、p.165、1992年。 7 )『生徒指導提要』文部科学省、p.31、2010年。 8 ) 向後千春『上手な教え方の教科書〜入門インストラクショナルデザイン』技術評論社、2015年。 9 ) 加藤弘通『問題行動と学校の荒れ』ナカニシヤ出版、2007年。 10) レオン・フェスティンガー『認知的不協和の理論 社会心理学序説』末永俊郎 監訳、誠信書房、 1965年。 11) 石黒康夫『参画型マネジメントで生徒指導が変わる』図書文化社、2015年。 12) 『中学校学習指導要領解説 特別活動編』文部科学省、2017年。13) 島宗理『パフォーマンス・マネジメント─問題解決のための行動分析学─』米田出版、2000年。 14) 釘原直樹『グループダイナミックス─集団と群集の心理学』有斐閣、2011年。