中国上場企業の「株式によるインセンティブ」
に関する考察
董 光 哲
キーワード:株式によるインセンティブ、譲渡制限株、ストックオプション、 一株独大、代理コスト、国有上場企業第 1 章 はじめに
株式会社の成長と発展に伴い、株式会社には「委託―代理」問題が生じる。「委託―代 理」問題を解決する有効な手段の 1 つとして、経営者・上級管理者に対する「株式による インセンティブ(Equity Incentive)」(中国語:股权激励)が挙げられる。「株式によるイ ンセンティブ」は長期的なインセンティブメカニズムであり、「株式によるインセンティ ブ」は経営者、上級管理者の利益と株主の利益を一致させることができると考えられる。 一方、中国の上場企業の統治構造と法律体系、制度背景などは日欧米諸国と大きく異なっ ている。中国の上場企業で実施されている「株式によるインセンティブ」は日欧米諸国で 実施されている「株式によるインセンティブ」と同様に企業パフォーマンス、企業価値、 などに影響を与えているのであろうか。このような問題意識で、本稿は研究ノートとし て、まず中国における「株式によるインセンティブ」に関する制度面からの変更と時期別 にみた「株式によるインセンティブ」の特徴的変化を考察し、次に「株式によるインセン ティブ」による実施効果に関する中国国内の先行研究について考察を行いながら、残され ている課題について探ってみたい。第 2 章 「株式によるインセンティブ」に関する制度面からの変遷
中国の上場企業における株式によるインセンティブに関して、制度面で定めているもの として、主に『公司法』と「上場企業における株式によるインセンティブの管理方法」 (以下:「管理方法」と略称)が挙げられる。中国の『公司法』は 2018 年 10 月 26 日に 4 回目の修正を行い、その修正した主な内容の 1 つが、株式によるインセンティブに関する 内容の部分である。また、2016 年 8 月 13 日から「上場企業における株式によるインセン ティブの管理方法」が 2006 年 1 月 1 日から実施された「上場企業における株式によるイ ンセンティブの管理方法」(試行)(以下:「試行」と略称)を代替することになったので ある。「管理方法」では、特に独立取締役と監査役会の役割の強化が強く求められている。 「株式によるインセンティブ」に関する制度面での主な変更点は次のようにまとめるこ とができる。(1)インセンティブの対象の明確化とその変更 中国の上場企業におけるインセンティブの対象には、企業の取締役、上級管理者、コア 技術者或いはコア従業員、及び会社でインセンティブが必要であると思われる会社の経営 業績と将来の発展に対し直接影響があるその他従業員、が含まれている。 インセンティブの対象において、制度面では 2 つの大きな変更が見られる。 1 つは、従来の「試行」ではインセンティブの対象として含まれた監査役が「管理方法」 では含まれていないことである。監査役は、インセンティブの対象の審査、及びその実施 過程を監督・監視する重要な責務を担っている。監査役として充分な監督・監視の職能を 果たすためには高度な独立性が求められている。このような状況を踏まえて、「管理方法」 では監査役をインセンティブの対象から外したと考えられる。もう 1 つは、新たに、中国 国内で勤務している上場企業の取締役、上級管理者、コア技術者或いはコア従業員に従事 する外国人がインセンティブ対象として定めたことである。つまり、インセンティブの対 象は一定の条件を満たす外国人にも拡大しているのである。中国企業の積極的な海外進 出、経営環境の複雑化、などにより中国の上場企業にも多様な人材が必要となり、多様な 人材の確保が求められるようになったのが、その背景として指摘できる。 (2)パフォーマンス考課指標の柔軟性と明確化 従来の「試行」では、インセンティブの対象である取締役、上級管理者に対して、パ フォーマンス考課指標を株式によるインセンティブ計画の条件として挙げられている。但 し、パフォーマンスの考課指標については具体的に定められていない(「試行」第 9 条)。 「管理方法」では、パフォーマンスの考課指標について詳細に定めている(「管理方法」第 11 条)。「管理方法」で定められているパフォーマンスの考課指標には 2 つの内容が含ま れている。1 つは、個人のパフォーマンス指標で、もう 1 つは、会社の業績指標である。 個人のパフォーマンス指標は、上場企業が独自で自由に決定することができる。企業の業 績指標は、企業の過去の業績或いは同業界の比較可能な企業の関連指標を会社の業績指標 の比較の根拠とする、と「管理方法」は定めている{詳細の内容は「管理方法」(第 11 条)を参照}。これらの関連指標は、企業の長期的な発展と競争力向上に有利であると同 時に、企業の実情にも合致しなければならない。また、透明性と情報公開が強く求められ ている。「管理方法」は、制度面から株式によるインセンティブの条件とするパフォーマ ンス考課に関して、明確化と方向性を示していると同時に、各企業の諸事情によって柔軟 に対応することも求めている。 (3)譲渡制限株とストックオプションに関する標準化 中国の上場企業における株式によるインセンティブに関して、制度面では、譲渡制限株 とストックオプションの 2 種類について、重点的に記述している。 譲渡制限株に関して、制度面からの変更は主に次の 3 つが挙げられる。1 つ目は、譲渡
制限株の規定の変更である。2 つ目は、授与価格の確定方法である。3 つ目は、制限解除 のプロセスである。譲渡制限株について、「試行」での規定は抽象的かつ基準の不明確の 問題が指摘されていた。これを踏まえて、「管理方法」では、株価の標準化、制限解除の 標準化、権益に関する標準化に焦点を当てている。 次に、ストックオプションに関する制度面での変更は主に次の 2 つが挙げられる。1 つ は、行使価格の確定方法で、もう 1 つは、長期的なインセンティブ効果を実現するための 行使期間に関する規定である。上場企業においては、ストックオプションを授与する際 に、その行使価格或いは行使価格の確定方法を確定することが求められている。行使価格 は株式額面金額より低くてはならない{詳細は「管理方法」第 29 条参照}。
第 3 章 時期別にみた「株式によるインセンティブ」の特徴的変化
中国では、資本市場、株式会社及び「株式によるインセンティブ」に関する法制度の構 築とその整備に伴い、株式会社の著しい発展と「株式によるインセンティブ」システムの 急速な普及がもたされるようになった。時期別にみた上場企業における「株式によるイン センティブ」の特徴的変化は次のように 3 段階に分けることができる。 (1)「株式によるインセンティブ」の模索期(1990 年代~ 2005 年) 1990 年代~ 2005 年までは、中国の株式会社において「株式によるインセンティブ」の 模索段階といえる。1999 年 5 月に武漢にある上場企業 3 社が経営者に対する「株式によ るインセンティブ」を導入してから、2001 年 12 月 31 日までには 34 社の上場企業が経営 者に対して「株式によるインセンティブ」を実施した1。 1990 年代から中国の実務界と学術界では経営層に対する「株式によるインセンティブ」 が議論されるようになったものの、この時期は「株式によるインセンティブ」に関する法 制度などが未整備の段階で、「株式によるインセンティブ」の試験段階ともいえる。この ような状況のもとで、一部の株式会社は自社の需要によって試行錯誤をしながら、自社独 自の「株式によるインセンティブ」モデルを構築したのである。そのモデルとして、ス トックオプション、パフォーマンスシェア、パフォーマンスユニット,補助金付きの株式 購入、延期支払、株式価値増加権利、経営者(管理層)持株、従業員持株、擬似株式、管 理層(従業員)による MBO、混合モデル、などがある2。 (2)「株式によるインセンティブ」の萌芽期(2006 年~ 2010 年) 2006 ~ 2010 年は「株式によるインセンティブ」に関連する法律の整備段階ともいえる。 この時期に公布された法律のうち、特に、「上場企業における株式によるインセンティブ の管理方法」(試行)と「国有ホールディングス上場企業(中国国内)における株式によ るインセンティブの実施試行方法」は上場企業に対する「株式によるインセンティブ」に 関して、初めて専門的に規定したものともいえる。これを契機に「株式によるインセン ティブ」を導入する上場企業は次第に増えるようになった。この時期の大きな特徴は、模索段階で乱立した「株式によるインセンティブ」モデルからストックオプションと譲渡制 限株に定着しつつあることである。2010 年の「株式によるインセンティブ」の種類を見 ると、ストックオプションを実施している企業は 3 分の 2 で最も多く、3 分の 1 弱の上場 企業では譲渡制限株を実施し、その他の「株式によるインセンティブ」の種類は極めて少 なかった3。 (3)「株式によるインセンティブ」の発展期(2011 年~現在) この時期は、「株式によるインセンティブ」に関する法律の規範化が進められた時期で ある。「上場企業における従業員持株計画に関する試点的指導意見」(2014 年)の公布、 「上場企業における株式によるインセンティブの管理方法」(2016 年)の実施、『公司法』 の修正(2018 年)、「上場企業における株式の買戻し支持に関する意見」(2018 年)の公 布、などは「株式によるインセンティブ」に関して政策面と法律面で明確な指針を与え た。それに伴い、「株式によるインセンティブ」は本格的に普及され、「株式によるインセ ンティブ」を実施する企業が安定的に増加しつつある。2006 年 1 月 1 日から 2017 年 12 月 31 日まで、「株式によるインセンティブ」計画を導入した非金融類上場企業は既に 1000 社余りに達していた4。
第 4 章 「株式によるインセンティブ」の実施効果
中国では、2000 年代から「株式によるインセンティブ」の実施効果に関する研究が様々 な側面で積極的に行われた。その主な研究分野は大きく次の 4 つに纏められる。(1)「株 式によるインセンティブ」と企業パフォーマンスとの関連性、(2)「株式によるインセン ティブ」と代理コストの関連性、(3)「株式によるインセンティブ」の種類とその効果、 (4)「株式によるインセンティブ」と株価の関連性、である。本稿では、紙面上の関係で (1)と(2)についての先行研究をサーベイしながら考察する。 (1)「株式によるインセンティブ」と企業業績との関連性 「株式によるインセンティブ」の効果に関して、最も早い段階から行われた研究分野と して「株式によるインセンティブ」と企業業績との関連性であるといえる。特に、初期段 階では経営管理層の持株と企業業績との関連に関する研究が積極的に行われた。その先駆 的研究として魏(2000)の研究成果が挙げられる。魏(2000)は 800 社の国有上場企業を 研究対象として取り上げ、経営管理層の持株比率と純資産収益率(ROE)との両者では顕 著な正の相関関係が存在せず5、経営管理層の持株は福利厚生の性質が強く、予期するイ ンセンティブの効果をもたらしているとはいえないことを指摘した。同様な研究結果は 顾・周(2007)、夏・张(2008)の研究でも見られる。これらの研究はいずれも国有上場 企業を研究対象とした研究である。 一方、民営上場企業を研究対象とした研究も活発に行われた。その研究成果の 1 つとし て挙げられるのが、李维安・李汉军(2006)の研究である6。彼らの研究では 1999 ~2003 年の民営上場企業について研究分析を行った結果、大株主の持株比率によって、与 える影響が異なることを明らかにした。つまり、第一位株主の持株比率が 20 ~ 40%の間 の場合のみ、経営管理層の持株比率と企業パフォーマンスの間に逆 U 型関係曲線が見ら れることを証明したのである。そして、上述した研究結果と同じ傾向が見られる近年の研 究成果として、欧・陈・李(2018)の研究がある。欧・陈・李(2018)は上述した研究成 果をサーベイした上で、2013 ~ 2016 年の初めて「株式によるインセンティブ」を実施し た A 株上場企業 422 社に対して実証研究を行った結果、「株式によるインセンティブ」は 企業業績と正の相関関係とはいえないことを主張した。その原因として、インセンティブ に用いる株式の割合が相対的に低いことで、経営管理層に対するインセンティブの役割が 制約を受けることと法律が未整備の中国の資本市場では、高い「株式によるインセンティ ブ」レベルは委託―代理問題の更なる顕著化をもたらし、経営管理層に多くの株式を授与 したとしても株主は経営管理層が有効な企業経営を行っているかどうかについて監督でき ない状況である、などのことを挙げている7。 他方、「株式によるインセンティブ」と企業パフォーマンスは正の相関関係があるとい う研究成果も見られる。その典型的な研究として周・孙(2003)、谢(2005)の研究が挙 げられる。周・孙(2003)の研究では成長性が高い企業において、企業業績の向上と「株 式によるインセンティブ」によって増加する持株数には顕著な正の相関関係があると明ら かにした上で、特に成長型企業では、積極的に「株式によるインセンティブ」を実施すべ きであると主張した。但し、「株式によるインセンティブ」方案の作成・実施ではそれを 主導する報酬・考課委員会の独立性が極めて重要であることも指摘している8。 上述した魏(2000)、周・孙(2003)、谢(2005)、李维安・李汉军(2006)、顾・周 (2007)、夏・张(2008)の研究は「株式によるインセンティブ」が普及する初期段階の研 究成果であり、大部分の研究成果は「株式によるインセンティブ」の模索期で行われた研 究である。つまり、これらの研究成果は「株式によるインセンティブ」に関する法律制度 が十分に整っていない段階での研究成果と言える。現段階では、「株式によるインセン ティブ」に関する法律が整備されつつあり、特に「株式によるインセンティブ」の種類の 標準化、パフォーマンス考課に関する明確化、情報公開の徹底化、などが行われている。 このような状況のもとでは、当然ながら従来の研究成果と異なる研究結果が予測される。 一方、中国の上場企業は中国独特な特徴を有している。その大きな特徴として、国有株 による「一株独大」が指摘されている。つまり、中国の上場企業の株式所有構造は国有資 本と民間資本という 2 つに大きく分けられている。このような異なる株式所有構造は異な る企業統治をもたらし、それにより「株式によるインセンティブ」と企業パフォーマンス の異なる結果が予測される。近年の研究として注目されている欧・陈・李(2018)の研究 成果においては、異なる株式所有構造を十分に考慮せず、422 社の上場企業を 1 つの分析 枠組みで分析を行うことによって得られた研究結果である。この点に関して、疑問を感じ るところでもあり、更なる厳密な分析枠組みが必要と思われる。つまり、国有上場企業と
民営上場企業を異なる分析枠組みで分析を行うことこそが、中国の上場企業の実態をより 正確に反映すると思われるのである。 (2)「株式によるインセンティブ」と代理コストの関連性 中国国内においても、「株式によるインセンティブ」と代理コストの関連性に関する研 究が多く見られている。その主な研究は、経営管理層の持株と代理コストとの関連性に関 する研究、または代理コストを「株式によるインセンティブ」と企業パフォーマンスの仲 介変数として、その中間変数の効果に関する研究である9。但し、その研究成果は必ずし も一致する結論には至っていない。 「株式によるインセンティブ」は代理コストを有効に抑制することができるという研究 成果として、罗・沈(2013)、孙・于(2015)、陈・贾(2015)の研究が挙げられる。特 に、陈・贾(2015)の研究では、「株式によるインセンティブ」―代理コスト―企業パ フォーマンス」の仲介効果モデルを構築し、「株式によるインセンティブ」は経営者と株 主間の代理コストを有効に抑制し、企業パフォーマンスを向上させることを明らかにして いる10。他方、王・倪(2011)、汪・卢・朱(2013)、周・雷(2014)の研究では、「株式 によるインセンティブ」は代理コストを低減できないと指摘している。 何・范(2018)は、上述した研究成果のサーベイを踏まえて、2012 ~ 2015 年の「株式 によるインセンティブ」の実施を公布した 384 社の上場企業を研究対象とし、「株式によ るインセンティブ」と代理コストの関連性に関する実証分析を行った結果、「株式による インセンティブ」は代理コストを有効に低減しているとはいえないことを明らかにした。 また、インセンティブ型「株式によるインセンティブ」は代理コストを更に深刻化させて いると指摘している。そして、その原因として次のものを挙げている11。①経営管理層の 持株比率が少ない場合に、経営管理層は株主価値の最大化の行動を選択するよりも在職消 費を選択する動機が生まれる。②行使条件があまるにも厳しい場合に、「株式によるイン センティブ」は経営管理層に対するインセンティブ効果が得られず、反って経営管理層の 在職消費傾向を促し、それを通じて経営者は自身の需要を満足する。③強い権限を持つ経 営者は「株式によるインセンティブ」の設計、または方案作成に影響を与え、容易に達成 する行使条件を制定できる。このような形骸化した行使条件は、経営者に対する真のイン センティブ効果を果たせない。つまり、合理的なインセンティブ制度の構築と「株式によ るインセンティブ」の設計、草案の作成には経営者の影響を受けない独立性が極めて重要 であることが分かる。 「株式によるインセンティブ」に関する法律の明確化と「株式によるインセンティブ」 を導入する上場企業の増加に伴って、この研究分野に関する研究は活発に行われている。 上述した研究成果は「株式によるインセンティブ」の発展期に行われた研究成果である。 上場企業において、如何に代理コストを低減するかは極めて重要な問題であり、企業統治 の核心の部分でもある。しかも代理コストは株式所有構造と深い関係があると思われる。
つまり、国有上場企業と民営上場企業では生じる代理コストは異なると考えられる。その 理由として、国有上場企業では筆頭株主から多くの取締役、監査役が派遣されると同時 に、派遣された多くの取締役と監査役は当該会社以外で報酬が授与されていることが挙げ られる。従って、中国の上場企業における代理コストを分析する際には、国有上場企業と 民営上場企業を厳密に分けて分析を行う必要がある。上述したいずれの研究でも国有上場 企業と民営上場企業という分析枠組みを厳密に分けておらず、その研究結果には課題が 残っていると思われる。つまり、代理コストの研究においても分析対象と分析枠組みを国 有上場企業と民営上場企業に厳密に分けて分析を行う研究成果が求められるのである。近 年に行われた何・范(2018)の研究でもこのような分析枠組みを厳密に分けていない。 何・范(2018)は、「株式によるインセンティブ」は代理コストを有効に低減していない という研究結果を明らかにしているが、国有上場企業と民営上場企業には異なる研究結果 が予測されていることが否定できない。他方、何・范(2018)は「株式によるインセン ティブ」が代理コストを有効に低減していない原因の 1 つとして、経営者の影響を挙げて いるものの、その詳細については明らかにしていない。制度面では、独立取締役が多数を 占める報酬・考課委員会で「株式によるインセンティブ」の方案を作成することになって いるが、報酬・考課委員会が完全に独立されていないことが伺える。中国の上場企業にお いて、経営者はどのように「株式によるインセンティブ」の方案の作成に影響を与えてい るのか。何故そのようなことが可能であるのか、経営者の影響を排除し、合理的な「株式 によるインセンティブ」の方案を作成するためにはどのような仕組みが必要であるか、こ の問題を解明することは中国の上場企業において、「株式によるインセンティブ」の真の 目的を実現するための極めて重要な課題ともいえる。
第 5 章 おわりに
中国では、「株式によるインセンティブ」に関する制度面での標準化、透明化、明確化 が一層強化されると同時に、会社各社の特殊事情を配慮した柔軟性も強調されるように なった。一方、学術界と実務界でも「株式によるインセンティブ」の効果に関する議論と 研究が活発に行われている。これらの先行研究によって、新しい分析視点、豊富な研究成 果が蓄積されている。但し、少なからず課題も残っていると考えられる。周知のように中 国の上場企業の株式所有構造は独特な特徴を有しており、それにより国有上場企業と民営 上場企業に分けることができる。異なる株式所有構造によって異なる企業統治構造が生 じ、異なる企業統治によって「株式によるインセンティブ」の実施効果もだいぶ異なると 考えられる。つまり、「株式によるインセンティブ」の実施効果を研究する際には、この ような分析対象を明確に分ける必要があるのである。また、国有上場企業と民営上場企 業、それぞれを分析対象とした研究もあるものの、いずれの研究も法律が未整備段階での 研究であり、現段階での中国の上場企業の実情を十分に反映しているとはいえない状況で ある。他方、近年の何・范(2018)研究において、「株式によるインセンティブ」の方案の作成と実施における経営者の影響力を指摘していることは興味深いものである。制度面 では独立取締役と監査役による経営者に対する監督・監視の強化が求められているもの の、実際には経営者の影響に左右されない「株式によるインセンティブ」方案の作成と実 施、合理的な「株式によるインセンティブ」システムの構築が困難であることが大きな問 題として浮き彫りになっている。何故このような問題が生じるのであろうか。どのような 仕組みでこのような問題を防ぐことが可能であろうか、これらに関しては更なる研究調査 が必要である。これらの先行研究の課題を踏まえ、次回にはアンケート調査と訪問調査を 交えて、上記の問題を解明する研究論文の完成を目指したい。 注 1 周建波・孙菊生[2003]p74 2 邹宏秋[2003]p56 3 陈政[2011]p11 4 CSMAR 統計による 5 魏刚[2000]pp32-39 6 李维安・李汉军[2006]pp.4-10 7 欧丽慧・陈天明・李真[2018]p314 8 周建波・孙菊生[2003]「经营者股权激励的治理效应研究−来自中国上市公司的经验证据」『经 济研究』2003 年第 5 期 9 何任・范周乐[2018]p25 10 陈文强・贾生华[2015]pp106-113 11 何任・范周乐[2018]pp27-28 主要参考文献 中国語 陈文强・贾生华[2015]「股权激励,代理成本与企业绩效:基于双重委托代理问题的分析框架」『当 代经济科学』2015.37(2)。 陈政[2011]「民营上市公司股权激励问题研究」研究报告 深圳证券交易所综合研究所 2011 年 4 月 17 日 深证综研字第 0180 号。 顾斌・周立烨[2007]「中国上市公司股权激励实施效果的研究」『会计研究』2007(2)。 何任・范周乐[2018]「激励型股权激励真的降低了代理成本吗?−来自中国上市公司的证据」『会计 之友』2018 年第 22 期。 李维安・李汉军[2006]「高管持股与公司业绩−来自民营上市公司的证据」『南开管理评论』2006.9(5)。 欧丽慧・陈天明・李真[2018]「高管股权激励模式对激励效果的影响研究」『管理案例研究与评论』 第 11 巻第 3 期 2018 年 6 月。 孙晓燕・于沛然[2015]「股权激励视角下管理层在职消费与企业绩效的相关性」『财会月刊』2015 (15)。 魏刚[2000]「高级管理层激励与上市公司经营绩效」『经济管理』2000(3)。 周嘉・男雷霆[2014]「股权激励影响上市公司权益资本成本了吗?」『管理评论』2014.26(3)。 周建波・孙菊生[2003]「经营者股权激励的治理效应研究−来自中国上市公司的经验证据」『经济研 究』2003 年第 5 期。
周绍妮[2010]「中国上市公司管理层股权激励特征研究」『北京交通大学学报』(社会科学版)第 9 巻 第 4 期 2010 年 10 月。