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前川洋一郎/末包厚喜著 『老舗学の教科書』(PDFファイル176KB)

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Academic year: 2021

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書 評

老舗学の教科書

■ 前川 洋一郎、末包 厚喜 著

■ 同友館

評 者

東洋大学経済学部教授

安田 武彦

この10年、厳しい経済環境の中で企業にとって の課題が、「成長」というより「生き残り」であっ たことを反映してなのか、「長寿企業」や「老舗」 といわれるものの研究が一大ブームとなってい る。 本書は「老舗(本書では「創業100年以上で、 永続繁盛している企業」としている)」研究につい て学部学生向きのテキストとしてまとめられたも のである。 まず、本書では老舗を対象とした新しい学問的 挑戦について「老舗学」という概念を提起してい る。「老舗学」の「狙いの第一点は、従来の商学、 会計学、マーケティング…など縦割りの経営学の 研究に、横軸を通すことである。第二点は、老舗 がどこからどうして生まれ、生き残っているかで ある。100年、200年、300年のプロセスを組織内部、 地域環境の両面からえぐり、歴史と現在をつなぐ ことである。第三点は、主として中小企業である 老舗の現場や生き様と、学問としての経営学の問 を橋渡しすることである」。 「老舗学」を語る本書の構成をみると、 5 編構 成となっている。第Ⅰ編は老舗学の基礎知識であ り、第 1 章でデータに基づいて「老舗」のイメー ジと定義を提示し、第 2 章で老舗の歴史と老舗の 出現する地域の特性について明らかにしている。 第 3 章では老舗と深く関係する「のれん」につ いてブランドの観点から解説し、第 4 章では老舗 とベンチャービジネスの対比を行っている。また、 第 5 章では企業の経営理念という観点から老舗に とっての家訓、社訓の意義を説き起こしている。 第Ⅱ編は老舗から学ぶ経営管理をテーマとして おり、第 6 章では生成した企業が成長を遂げる時 の企業統治、経営管理について番頭経営を例に解 説している。また、第 7 章では老舗の財務管理と いう観点から老舗を論じ、老舗企業の再生事例に ついて、紹介している。第 8 章では事業承継の観 点から老舗の人づくりの方法としての養子、婿養 子、奉公人制度というOJTについて論じている。 第Ⅲ編は老舗の経営戦略である。第 9 章では老 舗として比較的業歴の浅い創業100年前後の企業 と、江戸時代前半以前から続く創業300年超の老 舗の戦略の比較を行い、創業100年前後の企業の 慎重さと創業300年超の老舗のチャレンジ精神と いう特徴を指摘している。第10章ではイノベー ションや第二創業についての一般理論を三井越後 屋、任天堂の例を引きつつ紹介している。第11章で は中小企業の事業面、組織面での経営革新について 老舗企業の事例を用いつつ解説している。地域内 や産学間の連携という様々なネットワークについ て論じた第12章では「伝統」を有する老舗と「革

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─ 90 ─ 日本政策金融公庫論集 第12号(2011年 8 月) 新」を有するベンチャー企業が連携することによ り新しいコラボレーションやイノベーションが生 まれるという「鉱脈と水脈」モデルが事例ととも に紹介される。 第Ⅳ編は老舗企業が直面する今日的課題につい て解説している。まず、第13章では老舗小売業態 の百貨店に焦点を当て老舗の業界再編を展望し、 第14章では老舗企業のグローバル経済、国際化対 応についてキッコーマンの海外進出事例とともに 論じ、また、日本の老舗の海外でのブランド力に ついて紹介、さらに、海外の老舗企業にはどうい うものがあるか論じている。 最後に老舗生成のプロセスと生成要因をまとめ る第Ⅴ編の第15章では、まず、①「年輪経営」、 ②「駅伝経営」、③「守勢経営」の重要性を提唱し、 長年の経営の中、形成される「老舗の形」も時代 とともに繰り返し変化していかなければ、老舗は 生き残れないと説いている。 本書はこのように経営学の現代のテーマについ て老舗を材料に語るものである。紹介されている 事例企業は、紹介したほかにも虎屋など学生でも 耳にしたことのある日本の企業が多数あり、学部 学生にとって読みやすいものとなっている。 また、「老舗の語源」をはじめ随所に埋め込ま れているコラムも(経済学とははずれるものもあ るものの)興味深い。 なお、編著者によると本書は「幕の内弁当」型 の構成をとっているという。つまり、幕の内弁当 では一つ一つのおかずは別々の主張を持っている が、全体としてのまとまりを有しているというこ とであるらしいが、こうしたコラムもその工夫の 一つであろう。 老舗というと何やら特別な存在であるように見 える。のれん、秘伝、家訓、番頭、儀式といった 老舗にまつわる言葉には何か特別な宗教のような イメージがある。そのことは、老舗の崇高性を高 め、現在という不透明な時代に老舗にあやかりた い(学びたい)という気持ちを人々に持たせるの であろうか。だが、本書の試み、つまり老舗を材 料に(あるいは横軸として)経営学の基礎を語る 試みは、老舗も通常の経営学のフィールドで語る ことが出来るということを意味している。経営に は「長寿の妙薬」などない。その時々で企業が直 面する課題をこなしていくことが老舗という結果 になるということかもしれない。 老舗に関する書物には、「特別な存在」として の老舗企業への崇敬に近いドキュメンタリー的書 物も少なくないが、老舗を経営学として語る本書 は老舗の神秘性のベールを剥ぐ試みとしても捉え られ、この方向での筆者らのさらなる研究が進む ことが楽しみなところである。

参照

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