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中国人民銀行と人民元政策 : 人民元の安定化政策を中心に

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(1)中国人民銀行と人民元政策 一人民元の安定化政策を中心に-. 金. はじめに. 1994年の外為管理体制の改革以来,中国人民. 英. 花. ロート制を導入した.その後, 1995年4月1日か ら中国人民銀行は中国外為取引センターにおい. 元レートの安定は資本取引規制と中国人民銀行. て,前日のインターバンク市場で形成された為 替レートの加重平均を当日の基準為替レートと. による頻繁なる外為介入によって維持されてき. して公表し始めた.この基準レートに基づいて. た.人民元レートの安定は外資導入と輸出促進. インターバンク市場の銀行間取引と対顧客取引. に重要な役割を果たし,中国経済の高成長を支. の為替レートが決まる.この為替レートには狭. えてきた.しかし,. い賓動幅が設けられており,例えばインターバ. 2001年以降,世界経済の低 迷の中での高成長は中国人民銀行の人民元レー ト安定化政策への非難を招き,国内外で人民元. ンク市場においては対米ドルレートは上下. レートの切り上げ論争を巻き起こすこととなっ. 0.3%以内,対香港ドル,日本円,ユーロは上 下各1%以内と,そして対顧客取引においては. た.そのような中で中国人民銀行は人民元レー. 対米ドルレートは上下0.15%以内,対香港ドル,. ト安定維持の重要性を強調し, 1997年のアジア 通貨危機後の人民元切り下げ観測への対応の際. 日本円,ユーロは上下各1%以内と制限されて. と同様,人民元の切り上げ圧力を解消すべく. いる.そしてその以外の外貨との為替レートは これらの通貨の国際外為市場での対米ドルと中. 様々な人民元レート安定策を実施してきた.. 国人民銀行が公布する対米ドル基準レートに基. 本稿ではまず,人民元レートの安定メカニズ. づいて換算された為替レートの上下0.5%以内. ムを分析した上で中国人民銀行が国内外の経済 状況の変化に応じて実施した人民元レート安定. で変動可能である.中国は人民元レートを一本 化して以降,日々変化する為替需給による人民. 策とそれによって生じたいくつかの問題点を提. 元レートの変動を防ぐべく,中国人民銀行によ. 示し,その解決策を模索する.そのことによっ. る積極的な外為介入を実施することで人民元レ. て人民元レートの安定化政策の歴史的意義を検 証し,中央銀行の人民元政策の中での位置づけ. ートを安定させてきた. 中国の人民元レートの安定が中国人民銀行の. を明らかにすることを目的とする.. 積極的な外為介入の結果であることは確かであ. 1.人民元レートの安定メカニズム 中国は1994年1月1日よりそれまでの二重為替 レートを一本化し,市場需給に基づいた管理フ. るが,このような外為介入による人民元レート の安定を可能にしたのが外貨の銀行決済制度と 資本取引規制である..

(2) 60. (512). 横浜国際社会科学研究. 1.1外貨の銀行決済制度と資本取引規制 1994年の外為管理改革の一環として,それま. 第10巻第5号(2006年1月). 外為管理局の許可を受けなければならない.資 本取引規制が緩和されるにつれ,資本収支項目. で「輸出振興策」の一つとして実施されてきた. 上の取引の規模が急速に拡大し,その種類も多. 外貨留保制度を廃止し,銀行による外貨の決済. 様化しているが,上記の内容からも分かるよう. 制度を導入した.これによって企業の外貨使用. に,そこには外為管理部門の許可あるいは事後. に対する指令的計画や審査許可などが廃止さ. 監督を受けるなどさまぎまな制限と規制が残存. れ,輸出制限が設けられている特定の貨物やそ. していることが分かる.しかしながら,このよ. の他一部の商品の輸入以外は有効書類を提示す. うな規制の存在こそが人民元レートが1997年の. ることで銀行の窓口での外貨購入が可能になっ. アジア通貨危機の際においても安定した推移を 見せることができた重要な原因であると言える.. た.また,企業はそれまである比率の外貨を留 保することで外貨収入の一部を比較的に自由に 使用できる裁量権を持っていたが,外貨の銀行. この外貨の銀行決済制度と資本取引規制の下. 決済制度が実施されることによって企業の外貨. で,中国人民銀行は外為取引センターにおいて 経常収支項目上の黒字によって発生するドル過. 収入はすべて銀行に売却するよう義務付けられ. 剰供給を外為介入によって吸い上げることで人. た.中国では資本取引が制限されているため,. 民元レートの安定を維持してきたのである2).. 中国人民銀行は外為指定銀行と企業の間の外為 取引を把握することで比較的容易に人民元レー トを一定の水準に保つことができる. 中国は1996年に経常収支項目上の自由党換を. 1.2. 中国人民銀行の外為介入と人民元の安定. 一般的に,中央銀行が外為市場に参加するの は,為替レートの乱高下や急激な為替レート変. 実現したが,資本収支項目上の外為取引に対して. 動を抑制するためであるが,中国の場合,中国. は1996年に公布した『中国人民共和国外為管理条. 人民銀行が行う外為介入は人民元レートを一定. 例』の規定に従って厳しく管理されている1).し. の水準に維持するためである. そのプロセスを見てみると,まず,外為指定. かし,厳しく管理されているとはいうものの IMFの資本取引に対する区分を基準にすれば, すでにその半分以上の取引で規制が廃除もしく. 銀行は顧客との外為取引で生じた外貨の過不足. は緩和されている.まず,直接投資については, 非居住者の対中直接投資は関連の法律および産. め,インターバンク市場において外貨の売買を 行う.資本取引が規制されているため,外貨の. 業政策に従っていれば原則として外為関連の規. 需給は主に経常収支によって決まるが,中国の. 制はない.一方,居住者の対外直接投資は外貨. 場合は,近年経常収支黒字の状態が続いている. 調達,投資内容および投資リスクに関して当局. ため,外為市場では人民元の切り上げ圧力がか. の審査を受ける必要がある.次に,証券投資へ の制限を見ると,非居住者の証券投資は2002年. かることになる.中国人民銀行はその圧力を解 消すべく,外為市場に参加し,ドルの供給超過. 12月からQFⅡ制度の導入とともに開放された.. 分だけ市場から吸い上げる.こうして吸い上げ. 居住者の海外への株式投資は原則として禁止さ. られた外貨は直接中国の外為準備の増加をもた. れており,海外における債券発行,購入は国家. らす.また近年の中国の外為準備残高の急増は. 外為管理局の事前許可が必要である.最後に,. その同量分の人民元が国内市場に投入されたこ. 外国借款に対する制限をみると,外資系投資企. とを意味し,外為介入によって市場に投入され. 業の海外からの借入は国家外為管理局に登記す. た人民元は貨幣乗数の効果を通じて貨幣供給量. る必要があるが,原則的に自由に行うことがで. の急増をもたらすことになり,中国人民銀行は 年初予定の貨幣供給量という貨幣政策の中間日. きる.一方で国内企業の海外からの借入は国家. の平衡操作をするように義務付けられているた.

(3) 中国人民銀行と人民元政策(金). 2,000. 4,000. (513). 6,000. 61. 8,000. 単位:億元 出所:中国人民銀行ホームページ(b仕p://www.pbc.gov.cn)公表の統計より作成. 図1中央銀行債の発行状況(2004年). 標を達成させるため,国内金融市場において人. 銀行債の種類も次第に多様化してきており,発. 民元の公開市場操作,主に不胎化政策を実施す. 行初期の3ケ月,. る.. 6ケ月,. 1年に加えて2004年末 頃には3年の直物と1年の先物も発行され,その. ここで中国の公開市場操作を少し詳しく説明 すると,中国の公開市場操作には大きく,人民. 政策効果は評価すべきものであった.実際に,. 元操作と外為操作があり,外為公開市場操作は. 2004年度に110回の人民元の公開市場操作を通. 1994年3月から始まり,人民元の公開市場操作. じて19,971億元のベース・マネーを回収した.. は1998年5月26日から取引が回復された3).現段 階において人民元の公開市場操作には主に買い. 投入額は13,281億元のベース・マネーであった. オペ,売りオペと中央銀行債の発行がある.売. ネーを回収したことになる5).内訳を見てみる. りオペとは中央銀行が持っている債券を売っ. と,総額15,072億元の中央銀行債を発行すると. て,市場から資金を吸収する行為を指すが,中 国は1994年より外為介入によって市場に大量の. ともに,売りオペを43回行って3,330億元のベ. 2004年のデータを見てみると中国人民銀行は. ことから,相殺すると6,690億元のベース・マ. 人民元資金が導入されていたことから,公開市. ース・マネーを回収し他方で売りオペ5回で 1,490億元のベース・マネーを投入した.つま. 場操作は売りオペが主流になってきた.その結. り,売りオペと買いオペによって回収されたネ. 栄, 2002年末頃まで中央銀行が保有していたお. ットのベース・マネーはたったの1,840億元で,. よそ3,000億元の債券の大半を2002年度と2003. それ以外は中央銀行債によって回収されている. 年度の売りオペによって使い,中央銀行が公開. ことが分かる(図1).このような公開市場操作. 市場操作で使用できる債券が次第に不足してき. は外為介入による国内不均衡を是正するために. た.これを背景に中国人民銀行はベース・マネ. 行われるため中央銀行の貨幣政策実施の自主性. ーの急増を相殺する手段として2003年4月22日 よりそれまでの売りオペに加えて直接中央銀行. を制約していることは事実だが,ベース・マネ. 債4)を発行することで公開市場操作によるベー ス・マネーの吸収効果を強化した.そして中央. ーの減少への貢献は評価すべきである. これこそ中央銀行が人民元レート安定化政策 を維持できた大きな背景であるが,このような.

(4) 62. (514). 横浜国際社会科学研究. 第10巻第5号(2006年1月). 人民元/米ドル. 8.20 1994. 1995. 1996. 1997. 1998. 1999. 2000. 2001. 2002. 2003. 2004. 2005. 出所:国家外為管理局の統計データより作成. 図2. 人民元の対米ドル名目為替レート(1994年-2005年). 仕組みは,長期的に見て決して良い選択だとは. 人民元安定策は二回にわたって大きな試練を受. 言えない.なぜなら,このような体制の下では. けることとなるが,それが1997年のアジア通貨. 中国人民銀行は中央銀行として外為市場の監督. 危機の際の人民元切り下げ懸念と2001年以降の. 者でありながら外為市場の最大の取引主体でも あるため,外為市場の健全性を妨げ,中国人民. 人民元切り上げ圧力である.以下ではその際の 中国人民銀行の対応策を分析することで人民元. 銀行の外為市場における政策実行の機動性と効. レートの安定における中国人民銀行の姿勢を明. 率性を低下させるからである.. らかにする.. 2.人民元レートの安定における中国人民銀行の姿勢 中国は1994年に人民元の二重為替レートを一 本化して以来,人民元レートの安定を中央銀行 の最優先政策目標として考えてきた.それは図 2を見れば分かるが,人民元レートは1995年か ら現在に至るまで安定した推移を見せている.. 2.1アジア通貨危機後の人民元切り下げ論争 と人民元の安定策 1997年7月,タイで発生した金融危機は瞬く 間にアジア周辺諸国に蔓延し,アジア通貨は一 斉に切り下がった.中国は商品輸出構造が東南. そのうち1994年から1995年にかけて1ドル8.70. アジア諸国と似ている点が多く,お互い競争関 係にあるため,東南アジア通貨の切り下げは中. 元から8.45元へと急な人民元高があったように. 国の輸出競争力を弱め,中国の対外輸出を大幅. 見えるのは,この図が各年の為替レートの累計. に減少させる恐れが出た.実際に,. 平均値をとっているためであって,実際に1994. 1998年の中国の対タイ,インドネシア,マレー. 年の為替レートの変動を細かく見てみると,決 して急に人民元高が進んだことではないのがわ. シア,韓国,日本の輸出総額を比べてみると各 17%, 31.3%, 各23.5%, 36.4%, 6.7%減少し. かる(図3).. ていることが分かる(表1).この数字から人民. 1994年改革以来,中国人民銀行の. 1997年と.

(5) 中国人民銀行と人民元政策(金). (515). 人民元/米ドル. 8.40. 1月. 2月. 3月. 4月. 5月. 6月. 7月. 8月. 9月10月11月12月. 出所:国家外為管理局の統計データより作成. 図3. 表1. 人民元の対米ドル名目為替レート(1994年). 1997-1998年の中国の対東アジア諸国の輸出入額 (単位:万ドル). 国別. 199.7年 輸出入総額. 輸出総額. 1998年 輸入総額. 輸出入総額. 輸出総額. 輸入総額. インドネシア. 451,457. 184,099. 267,358. 362,792. 117,122. 245,670. マレーシア. 441,692. 192,185. 249,507. 426,432. 159,635. 266,797. タイ. 351,496. 150,106. 201,390. 356,087. 114,807. 241,280. 韓国. 2405,655. 912,687. 1492,968. 2126,433. 3183,858. 2899,482. 5789,918. 日本. 6083,340. 出所:中国統計年鑑,. 626,898. 1499,535. 2969,199. 2820,719. 1999年版.. 元にはその当時切り下げの必要性があったよう. 輸出入額のデータを見ると,中国からの輸入だ. に見られるが,実際にこのときの輸出減少は人. けではなく,全体の輸入額が大幅に減っている. 民元の実質的割高だけでなく,アジア諸国の経 済萎縮による消費低下によるものもあったと考. からである(表2).例えば,タイ,インドネシ. えられる.なぜなら,タイ,インドネシア,マ. 38.5%,. レーシア,韓国などアジア通貨危機によって通 貨暴落を免れなかった国々の1997年と1998年の. あった劉明康氏は「通貨切り下げは国際競争力. ア,マレーシア,韓国の輸入額は,各各21%, 17.8%,. 30.4%減少している.切り下 げ観測が続く中,当時,中国人民銀行副総裁で. 63.

(6) 64. (516). 横浜国際社会科学研究. 表2. 第10巻第5号(2006年1月). 東アジア諸国間の輸出入額(1997-1998年) (単位: 1997年. 輸出先. タイ. インドネシ. 100万ドル). 1998年 マレー. 韓国. ア. シア. 4,356. タイ. インドネ. マレー. シア. シア. 1■,451. 1,786.. 3,602. 2,317. 1,009. 韓国. 輸出元 韓国. 2,243. 3,541. マレーシ'ア. 2,869. 1,225. タイ. 1,377. インドネシア 合計. 2,521. 1,014. 1,357. 3,462. 943. 8,196. 6,996. 4,710. 848 5.,961. 6,143. 986. 2,483. 3,781. 1,672 1,780. 626. 1,358. 2,568. 6,741. 4,866. 注:ここで言う東アジア諸国とはアジア通貨危機による通貨暴落があった国を指す. 出所:ジェトロの世界貿易統計より作成.. をアップし,輸出を刺激し,経済を回復するた. による国内資本の海外流出を防止し,外貨準備. めの一つの措置だが,必ずしも最善とは言えな. を増加させ,人民元レートの安定を維持するた. い」と指摘し,人民元を切り下げた場合のマイ ①アジア各国 ナス効果を以下のように挙げた.. めに次のような措置を採った.第一に,外貨調 整業務の停止である.中国は1979年から輸出振. の切り下げ競争を招く, ②中国の外債負担(97 年末で1,310億ドル)が膨らみ,通貨膨張を招. 興策の一環として外貨留保制度を導入してお. く, ③香港特別行政区のペッグ制に悪影響を与. が開始された.当初は国有企業と集団所有制企. えること,である.また,同氏は中国が切り下げ. 業だけが外貨調整の対象になっていたが,その. を回避できる理由として,. 徳,範囲が徐々に拡大し,外資系等私企業の外. ①中国の貯蓄率が名. り,それによって1980年10月から外貨調整業務. 目GDPの41%という高水準を維持し,投資需要. 貨調整も行われるようになっていた.. を賄えること,. は外貨調整センターが設立され,外資系投資企. 億ドル,. ②貿易収支が黒字(1997年403. 1998年第三・四半期までで353億ドル). を維持していたこと, ること,. あること,. ③外貨準備高が豊富であ. ④外債は多くなく,中長期債が大半で ⑤人民元は自由兎換通貨でなく,国. 際投機筋の攻撃を受けないこと,を列挙した6). こうした状況の下で,中国当局は人民元を切. 1985年に. 業が外貨過不足を調整する重要な手段を提供し ていた.. 1994年の外為体制改革によって国内企 業が銀行決済システムに組み込まれ,また1996 年には外資系投資企業も外貨の銀行決済を実施 したが,外貨調整センターにおける外貨調整業 務は依然として行われていた.しかし, 1997年. り下げた場合の国内的・国際的なメリット・デ. にアジア通貨危機が発生し,その影響を受け,. メリットを見極めたうえで,人民元の切り下げ. 外為管理強化の手段として,. に踏み切らないことを公約し,強力な為替レー. 人民銀行と国家外為管理局は共同で『外貨調整. ト安定策をとることにした7).直接的な介入方. 業務の停止に関する通知』を公布し,. 1998年10月,中国. 法としては,従来の対ドル上下0.3%の変動幅. 1998年12 月1日から全国規模で外資系投資企業の外貨調整. に加えて,さらに平衡介入に踏み込む変動幅を. 業務を停止し,外資系投資企業の外貨決済も完. 1ドル-8.2770-8.2800人民元に狭く設定し,中 央銀行が頻繁な売り買いを行うことによって人. 全に銀行決済システムに組み入れることした8).. 民元レートの安定を図った.また,違法取引等. り,外貨売買のルートを減少させ,外貨の不法. これによって外為市場の統一性と規範性を図.

(7) 中国人民銀行と人民元政策(金). 投機を減少させた.第二に,. (517). 65. 1998年6月から密 輸・外貨の不正流出規制を導入し, 10万米ドル. 1.25%となった.一方,日本の場合は1990年バ. 以上の輸入取引の通関書類の審査において,外. ずにいた, 1999年より日本銀行が実施したゼロ. 為指定銀行は,税関で書類莫偽の二次確認の手. 金利も日本の物価水準の持続的低下に対して効. 続きを採るように義務付けられた9).また,各. 果が見られないまま,日本経済は経済低迷とデ. 外為指定銀行は所在地の国家外為管理局の管轄 外の顧客からの対外送金を受理することを禁止. フレの悪循環が続いていた.このような国際経 済背景の下で,アメリカや日本政府は国内経済. された.第三に,人民元売りの抑制策として,. のデフレと不均衡の原因を,当時高成長が続い. 1998年8月に繰上げ返済条項のない外貨建借入. ていた中国の人民元に求めることで国内矛盾を. の期限前返済は原則として禁止し,繰上げ返済 条項がある借入であっても借入れた人民元資金. 緩和しようとしていた.その際の主張と議論を. ブル崩壊以来の長期デフレの窮地から抜け出せ. まとめてみると,以下のとおりである.. を外貨に転換して返済することを禁止した10). これらの措置は,通関手続き・輸入決済などに 遅れが生じたことで外資系投資企業の不信感を. まず, 2001年8月7日付のイギリスの『フィナ ンシャル・タイムズ』紙の``china's. cheap. 招いたが,人民元レートの安定には一定の効果. Money"と同年9月6日付の『日本経済新聞』の 「人民元切り上げ待望,強まる中国脅威論」に. を上げたのである.アジア危機において,人民. 続いて,日本銀行審議委員(当時)の三木利夫. 元レートの安定を維持するために採用された中. 氏は2001年9月13日の「景気の動きと金融政策. 国人民銀行の政策はアジア金融危機の拡大の予. 運営」の講演において,人民元の実質価値は相. 防及び国際通貨市場の安定化にも大きく寄与し. 当高く,現行の人民元レートは日本や東アジア. たと評価されている11).. 実体経済に打撃を与え続けており,中国は早期 に為替・資本市場の自由化を行い,中国人民元. 2.2. 人民元の切り上げ圧力とその対応. の相場を市場実勢化すべきであると主張した. 2001年末のWTO加盟とともに中国人民元の 価値に関する議論は,アジア通貨危機後の切り. 12).しかし,人民元レート問題が盛んに議論さ れるようになったのはそれから一年後の2002年. 下げ観測から一気に切り上げ論争へと変貌し. 12月に日本の黒田東彦財務官と河合正弘副財務 官(いずれも当時)が連名で"¶mefbraSwitch. た.. 2001年以来の世界経済の衰退は,高成長を 続けていた中国の国民通貨である人民元が国内 外で問題化された直接の原因であると考えられ. to. Global. Reflatian"13)という論文を発表してか. る.アメリカの膨大な双子の赤字問題は米ドル. らである.この論文で著者は「中国はデフレを 輸出している.その影響は香港や台湾に止まら. の価値に対する投資家の不信感を増加させてい. ず,ドルに連動している為替相場制度によって. た.また経済の持続的衰退はアメリカ国内の失. 広がっている.中国は拡張的通貨政策の実施,. 業率を増加させることになり,その中でも製造. あるいは通貨価値への再評価を容認することに. 業の失業率は特に高く,全米製造業協会はドル. よって国内価格のデフレを修正すべきである.」. を切り下げることでアメリカ製造品の国際競争. と主張した.その後,. 力を強化すべきであると主張し,. 1995年以来の 強いドル政策を放棄するよう政府に要請した.. 2003年に塩川前財務大臣 がG7で人民元の切り上げを求める案を提議, 日本経済新聞が「中国がアジア諸国にデフレを. また経済の低迷によるデフレを防止すべく,ア. 輸出している」という記事を発表し,人民元切. メリカは2001年に計11回の利下げに続いて,. り上げ論争が本格的に展開されることとなっ. 2002年11月6日に再び利下げを実施し,その結 栄,金利は1961年7月以来の最低水準の年. た.さらに,中国が割安になっている人民元を 通じて世界中にデフレを輸出しているという論.

(8) 66. 横浜国際社会科学研究. (518). 第10巻第5号(2006年1月). 争にいち早く賛同したのが,当時国内の製造業. 民元レートの最適水準がどこにあるかではな. の失業率の増加に悩まされていたアメリカ政府. く,人民元レートを安定させるのが大事だと述. である.まず2003年6月7日にアメリカのスノー 財務長官とFRBのグリーンスパン議長が『国際. べた16).なお,人民元の切り上げ問題にもっと も積極的であったと思われる日本においても切. 経済および為替レート政策に関する議会に対す. り上げを主張しているアメリカの論調を真っ向. るレポート』14)において人民元のドル・ペッグ 制は最終的に中国経済を損なうため,より柔軟. から否定している研究者たちがいる.その中で, 慶応義塾大学の白井早由里教授は切り上げが外. な為替制度が望ましいと発表した.また,同年. 資系投資企業を中心とする加工貿易や直接投資. 7月にアメリカの上下両院議員がスノー財務長 官とブッシュ大統領に人民元切り上げに関する. に及ぼす影響は限定的であって,アメリカの対 中貿易赤字は人民元の切り上げによっては修正. 書簡を連名で提出し,次のように主張した.. ①. 2003年6月のアメリカの失業率は6.4%という許 容範囲を超えた水準に達し,そのうち90%が製 造業の失業である.. ②アメリカの製造業が競争. 優位を失ったのは,中国の労働コストが安いこ とと人民元が過小評価されていることによる. ③アメリカの対中貿易赤字は1998年の570億ド ルから2002年の1,030億ドルに拡大しているの に対し,中国は過去数年間で世界で最も早いペ ースで外貨準備を蓄積し, 3,450億ドルに達している.. 2003年6月時点で ④中国はアメリカ. の景気減速と失業増加に対して責任を取らなけ ればならないため,政府は中国により大きな圧 力をかけるべきである.同じ時期のASEM財務 閣僚会議において欧州中央銀行のデュイセンバ ーグ総裁と欧州委員会のプロディ委員長も人民 元切り上げの論調に加わった. 日本と欧米政府が人民元切り上げを要求して. できないと主張した17).また日本政府の主張に 対しても,日中貿易関係の分析を通じて,中国 との大幅な貿易不均衡が生じていない日本がア メリカに先駆けて人民元の切り上げ論を主張し たもっとも有力な原因は, 「ユニクロ」をはじめ とする安価な中国の繊維などの製品が,同じ製 品を製造している国内企業への打撃が大きいた め,たとえ,日本経済全体への影響が少なくて ち,そういった産業が集積する地域出身の政治 家が中国批判を繰り広げているからだと主張し たⅠ8).また,日本経済産業研究所の闘志雄氏は 日本のデフレの原因は構造改革の停滞とそれに 伴う国内経済の低迷であって,それを解決しな い以上人民元がいくら切り上げられてもそれに よって日本経済が景気回復へと向かうことはな いと主張した19).. このように国外の人民元切り上げ論争が白熱 化していく中,中国国内では人民元は切り上げ. いる中で,人民元切り上げを求める論調を分析 し,人民元の切り上げとデフレ,失業率との因. るべきかどうかという議論より,人民元は正し. 果関係を否定し,現段階での人民元の切り上げ. メリットとデメリットは何なのか,また今現在. は必ずしも正しい選択とはいえないと主張する 研究者も相次いだ.コロンビア大学のマンデル. 人民元にかけられている圧力をどう解消してい. 教授は人民元切り上げ論を強く反対した研究者. テムへの改革を念頭においた議論が目立ってい. の一人であるが,マンデル教授は人民元切り上 げのデメリットを列挙しながら,切り上げの必. た.例えば,中国社会科学学院世界経済政治研 究所の何帆氏は人民元切り上げのコストと利益. 要性を強く否認した15).またスタンフォード大. を分析した上で短期,中長期に分けて人民元の. 学のマッキノン教授も人民元の切り上げは中国. 切り上げ圧力への対応策を提示した.また,当. 経済に深刻なデフレをもたらすため適切ではな. 研究所所長の余永定氏は人民元レートに関する. いと主張し,また現段階において重要なのは人. 国内外の様々な見解を分析した上で,短期的に. く評価されているかどうか,人民元切り上げの. くべきかといった現行の人民元レート形成シス.

(9) 中国人民銀行と人民元政策(金). 見て中国が解決しなければならないのは人民元 レートを切り上げすべきか否かではなく,外為 制度間題といったより根本的な課題への取り組 み姿勢であると主張した20).. (519). 67. トヘの判断をもとに外貨を保有することは許さ れなかった.しかし,このような外貨決済制度 は中国人民銀行の貨幣政策の自主性を制約し, 外貨準備を膨張させるなどの問題点が指摘され. ここまで見てきたように,今回の人民元切り. たほか,人民元に空前の切り上げ圧力がかかっ. 上げ圧力は主に国外の政府筋によるもので,そ. ていることもあり,その切り上げ圧力解消の一. の真意は人民元の切り上げによる効果を期待す. 策として企業の外貨留保制限が緩和された.す. るというより,人民元レートを問題化すること. なわも,. で自国国内のデフレや不均衡の責任を高成長が 続いている中国に負わせようとする政治的意図. の外為収入を20%の限度内で留保できるように. が強かったといえよう.また今回の切り上げ圧. 負業務,国際労使,国際人札,国際海運及び船. 力は1997年の切り下げ観測の際と違って,対外. 代,貨物代などの経常収支項目下における外為. 輸出への悪影響が予想されることだけに国内か. 収入は100%留保することができるようになっ. らの圧力はほとんどなく,中国人民銀行の政策 展開に余裕を持たせることになった.. 2002年10月から企業の経常収支項目上. なった22).それに加えて2003年9月から国際請. た23).. 第二に,個人の外貨使用制限を緩和したこと. それでは中国人民銀行はこのような国外の人 民元切り上げ圧力ヘどう対応したのだろうか.. である.まず2003年10月1日から個人の海外旅 行,親戚訪問の際に購入できる外貨限度額が香. まず,上記のように人民元レートの合理性に関. 港,マカオ地区は1,000ドルから3,000ドルに,. する議論が行われ始めたのは2001年後半からで. その他の国と地域は2,000ドルから5,000ドルに. あるが,実際に中国当局がそれに対応する見解. 増額された24).また個人の自費出国留学の際の. を示し始めたのは2003年にアメリカ政府がこの. 外貨供給の範囲を拡大し,限度額を超えた部分. 切り上げ論議に加わってからである.. 2003年6 月のBIS年次総会で中国人民銀行の周小川総裁. の消費支出についても外貨購入が出来るように. は「人民元の通貨価値への再評価は必要なく,. の際に携帯する外貨の額が5,000ドルを超えな い場合は, 「携帯証」を申請する必要がなくな. 中国は人民元レートの安定を維持する.」と明 確に表示し,また9月の記者会見において,同 氏は,自国の失業率や対中貿易の不均衡を人民 元レートの切り上げによって解決しようとして. なった.さらに,. 2003年9月1日より個人が出国. った.その後も管理方法の調整が行われ,個人 の外貨購入の手続きが大幅に簡略化された. 第三に,海外投資に対する外貨購入制限を緩. いる論調を批判した21).このような状況下で, 中国人民銀行は人民元の切り上げ圧力を解消す. 和し,国内で蓄積される一方の外貨資産のため. べく,次のような対策をとった. 第一に,外貨の銀行決済制度を改革し,企業. 年10月1日より漸江省,江蘇省,上海など11の. の外貨留保制限を緩和したことである.既述の ように,中国は外為管理体制改革の一環として. 外投資の外貨購入の制限を緩和した25).また同. 1994年から外貨の銀行決済制度を実施し,企業. 制度を撤廃し,. の外為収入はすべて強制的に外為指定銀行に売 却し,また外為指定銀行も定められた額度外の. スに対する審査手続きを簡略化した. 2005年5 月には全国規模に広げられ,対外投資の外貨使. 外貨は中国人民銀行,あるいは他の外為指定銀. 用限度も33億ドルから50億ドルに増加された.. 行に売却するように決められていた.そのため. このほか,厳しい切り上げ圧力の中でも,中 国人民銀行は人民元レート安定のための外為介. 外為指定銀行でさえ自己需要あるいは為替レ-. に新たな捌け口を探そうと試みた.まず,. 2002. 省市で海外投資外為管理改革試点を実施し,対 年11月15日からは対外投資の際に必要な保証金 2003年には海外投資の資金ソー.

(10) 2004.02. 2004.03. 2004.04. 2004.05. 2004.06. 2004.07. 2004.08. 2004.09. 2004.10. 2004.ll. 2004.12. 出所:中国人民銀行ホームページ(www.pbc.gov.cn)公表の統計より作成. 図4. 2004年外為準備と中国人民銀行の外為資産の増量. 人を実施し続けた.外為介入は結果的にべス・マネーの増加をもたらし,国内インフレを 引き起こす危険性があるが,中国人民銀行は断 固として外為介入を実施し,人民元レートにか かる切り上げ圧力の解消に努めた.. クを減少させる一方で,人民元の通貨価値への 海外投資家の信任を得られることになり,中国 の海外投資規模を増加させるなど中国経済の発 展に重要な役割を果たした. しかし,このような長期にわたる人民元レー トの安定化政策は徐々にその間題点を露出し始. 3.中国の外為管理体制のあり方 3.1現行の為替相場制度の問題点 中国人民銀行が国内インフレよりも人民元レ. めてきた.. まず,人民元レートの安定を維持するために 行われた外為介入の直接的な結果として,外貨. ートの安定を優先していることは中国人民銀行 の人民元切り上げ圧力ヘの対応からもうかがえ る.近年,国内インフレを懸念して中国人民銀. 準備の膨張が挙げられる(図5).外貨準備は一国. 行は積極的に公開市場操作を実施しているが,. るが,注意しなければならないのは外貨の保有. それも結局人民元レートの安定策によって生じ た悪影響の後始末をしているようにも見える. コストである.中国人民銀行の場合は,外為介 入によって吸上げた米ドルを主にアメリカの国. (図4).なぜなら,中国人民銀行の公開市場操. 債に投資しているが,その収益率は国内資産の. 作は,自主的なべ-ス・マネー・コントロール. 収益率より低く,中国人民銀行はその差額の損. の手段として用いたというより,外貨の強制的 銀行決済-中央銀行の外為介入一人民元レート. 失を被ることになる.また中国の外為準備の大. の安定と外貨準備の増加-ベース・マネーの急 増-中央銀行の公開市場操作という流れの結果. な為替変動リスクを負うこととなる.それでは. の対外経済発展において流動性を確保するほか, 為替レートの安定を維持するためにも必要であ. 部分が米ドルであるため,中国人民銀行は大き. であるからである.このような政策展開の結果,. 一体どれくらいの外貨準備が中国にとって最適 の水準であろうか.外貨準備の最適必要保有額. 人民元レートは安定した推移を見せてきた.人. に関してはさまぎまな先行研究がなされている. 民元レートの安定は,国内輸出企業の為替リス. が,一般的には三ヶ月分の輸入相当額が最適だ.

(11) 中国人民銀行と人民元政策(金). (521). 69. 単位:億ドル 8000. 7000. 6000 5000. 4000. 3000 2000. 1 000. 0 1994. 1995. 1996. 1997. 1998. 1999. 2000. 2001. 2002. 2003. 2004. 2005. 出所:中国人民銀行ホームページ(www.pbc.gov.cn)公表の統計より作成. 図5. 中国外為準備高. といわれてきた.この計算だと中国は900億ドル. バスケットを参考にした管理フロート制への移. 弱の外貨準備が必要となるが,アジア通貨危機. 行である.. の教訓から韓国の一部の経済学者が提案した式. 3.2. 26)によって計算すると中国の現在の経済規模か ら必要な外貨準備は多めに見て1,500億ドルを超. 中国人民銀行のドル・ペッグ制離脱への 道のり. えることはないという.このような研究から見. 2005年7月21日,中国人民銀行は『中国人民 銀行関与完善人民幣亨仁率形成机制改革的公告』. ると7;109.73億ドル27)の外貨準備は確かに大き. を公布し,人民元レートの切り上げとドル・ペ. い.. 次に,中央銀行の貨幣政策の自主性を低下さ. -,. せるこ■とがあげられる. 2002年以降,中国人民 銀行は公開市場操作に積極的に取り組んでいる. ッグ制の離脱を宣言した.その内容は,次のと おりである.. が,それは中央銀行の不胎化政策の一環に過ぎ ず,自主的というより余儀なくされたというほ. 理フロート制を実施する. 二,中国人民銀行は当日の外為市場の営業時. うが適切だと思われる.. 間が終了した後,当日のインターバンク. 最後に,中国人民銀行が1994年から実施して いた人民元レートに対する安定化政策は事実 上,対米ドル名目為替レート安定策ともいえる ため,主要な貿易相手回通貨を考慮した人民元 の名目実効レートの安定にとって不利であっ た.そこで,中国人民銀行がその改善策として 選んだのがドル・ペッグ利からの離脱と,通貨. 2005年7月21日より,中国は市場供給に 基づく,バスケット通貨を参考にした管. 市場の人民元レートの終値を公布し,そ れを次の営業日の基準レートとする. 三,. 2005年7月21日午後7時,人民元対米ドル レートを1ドル-8.11人民元に調整し, 次の営業日のインターバンク市場の取引 の基準レートとし,対顧客取引の為替レ ートは外為指定銀行が自行で決める..

(12) 70. (522). 横浜国際社会科学研究. 四,現段階において,インターバンク市場に. 第10巻第5号(2006年1月). も考慮される.今回の改革で中国人民銀行はバ. おける人民元の対米ドルレートは中国人. スケット通貨ペッグ制ではなく,通貨バスケッ. 民銀行が毎日公布する基準レートの. トを参考にした管理フロート制を採用すると宣. o.3%以内で変動する.それ以外の為替. 言した.厳密なバスケット通貨ペッグではなく,. レートは中国人民銀行が公布した基準レ. 通貨バスケットを参考にするというのは,バス. ートの上下一定の幅内で変動する. 中国人民銀行は1994年の外為管理改革以来実. ケット通貨ペッグ制の最大のメリットである自 国通貨の安定を享受しながらも,為替レート調. 施してきたドル・ペッグ制の離脱の方案として. 整の主導権が失われるペッグ制のデメリットを. 通貨バスケットを参考にした管理フロート制を. 克服しようとする狙いからだと考えられる.つ. 採択した.中国の外為制度の歴史を振り返って. まり,人民元レートの安定を維持する上で,人. みると,これと非常に類似した時期がある.. 偲元セIIトの形成システムをより合理的にしよ. 1953年から1972年にかけて中国は人民元レート. うという試みカ;盲今回の改革が実施されたもの. の長期安定政策と英ポンド・ペッグ制をとって. と考えられる.今後はおそらく人民元レートの 変動幅を徐々に拡大し,人民元レートの安定を. 1973年以降の主要国通貨の変 いたが,その後, 動相場制移行に伴って,英ポンド・ペッグ利か らの離脱を迫られ,バスケット通貨ペッグ制を 導入した.当時のバスケット通貨ペッグ制の政. 維持しながらの変動相場制移行が検討されてい くだろう. おわりに. 策根拠やバスケットの詳しい構成は現在も公開 されていないが,国家外為管理局のある関連資. 以上,中国人民銀行が実施してきた人民元安. 料によると,バスケットの中身は当時中国の対. 定策と人民元レートに切り下げや切り上げ圧力. 外貿易で使用された主要な通貨を組み合わせて. がかかった際の対応を詳しく見てきたが,ここ. おり,そのウエートは貿易ウエートと政策需要. で本稿の結論を整理すると,まず,中国人民銀. によって決められていたという28).今回の改革. 行は1994年の外為管理体制改革以来,人民元レ. によって中国は完全なバスケット通貨ペッグ制. ートの安定を人民元の国内安定より優先させて きたことがわかる.それは中国人民銀行の1997. ではなくてバスケット通貨を参考にした管理フ ロート制を選択したが,そのバスケット通貨の 構成を見ると,米ドル,ユーロ,日本円,韓国. 年アジア通貨危機後に浮上した人民元切り下げ. ウォンなどが主要通貨になっており,そのほか. 応からもうかがうことができる.次に,結果的. シンガポールドル,英ポンド,マレーシアリン. に2005年7月21日に中国人民銀行は人民元レー. ギット,ロシアルーブル,オーストラリアドル,. 観測と2002年以降の人民元切り上げ圧力ヘの対. トの2%の切り上げと,バスケット通貨を参考に. になっている.これらの通貨のウエートは明ら. した管理フロート制への移行に踏み切ることに なるが,これは人民元レートの安定維持と人民. かになってないものの,その選択基準は以下の. 元レート形成システムの健全性を図るための自. ようになっている29).まず,資本取引が規制さ. 主的な政策であったと評価すべきである.最後. れている現状において最も為替レートに影響を. に,中国の事実上のドル・ペッグ制の是非が問. 及ぼしやすい要素となっている貿易ウエート. われる中で中国人民銀行は通貨バスケットを選. が,バスケット通貨の選択とウエートを確定す. 択した.これは中国人民銀行の政策運営がこれ. る際の重要な要素となっている.次に,外債の 通貨種類と外国直接投資の影響が考慮される.. ま での人民元の名目為替レートの安定から実効 為替レートの安定へと転換した事を意味するも. 最後に,経常収支項目上の無償移転項目の収支. のであると考えられる.. タイバーツ,カナダドルなどが重要な参考要素.

(13) 中国人民銀行と人民元政策(金). の原則」によって自動的に取引が成立する.ま た銀行は当日,外貨購入か外貨売却かどちらか. 1)資本収支項目上の外為管理については規定の 第3章で取り扱っているが,詳しくは以下のと 「第19条. 第20条. 第21条. 第22条. 第23条. 国内企業の資本収支項目上の外為収入 は,国務院の別途規定がない限り,国 内に回収すべきである. 国内企業の資本収支項目上の外為収入 は,国の規定に従って,外為指定銀行 で外貨口座を設け,外為指定銀行に売 却する場合には外為管理機関の許可を 得るべきである. 国内企業の海外投資は,主管部門に申 請ヰる前にその資金ソースなどに関す る外為管理機関の審査を受けるべきで ある.そして許可が下りたら,海外投 資の外為管理に関する国務院の関連規 定に従って外為送金の手続きを踏む. 外国借款については,国務院指定の政 府部門もしくは国務院の外為管理部門 の許可を得た金融機関と企業が国の関 連規定に従って行う.なお,外資系投 資企業の外国借款については,外為管 理部門に報告すべきである. 金融機関の海外における外貨債券の発 行は国務院の外為管理部門の同意を得 てから,国の関連規定によって行うべ きである.. 第24条. 対外担保は外為管理部門の許可を得 て,国の規定条件を滴たす金融機関と 企業が行うべきである. 第25条 対外債務については登記制度を実施す る.国内企業は対外債務統計監査に関 する国務院の規定に従って対外債務の 登記を行うべきである.国務院の外為 管理部門は全国の対外債務の統計と監 査を実施し,定期的に対外債務状況を 公布する. 第26条 法律によって終止した外資系投資企業 は国の関連規定に従って清算,納税し てから,外国投資家所有の人民元資産 は外為指定銀行で外貨と兎換し,送金 あるいは携帯して出国することができ る.一方で国内投資家所有の外貨資産 は全額外為指定銀行に売却すべきであ る.」 2)現行外為体制の下では中央銀行が外為市場を コントロールしやすいようにインターバンク市 場の事前報告制が実施されているが,それによ ると銀行は前もって次の営業日にインターバン ク市場で売買する外貨の取引量を外貨取引セン. 71. タ一に報告しなければならない.そして翌日の 実際の取引においては, 「価格優先と時間優先. 注. おり.. (523). 一方向の取引しかできないと規定されている. 3)人民元の公開市場操作は1996年4月から開始さ れていたが,当時取引に使われていた国債の期 限が長いなどのことが原因で1998年5月まで停 滞状態にあったため,ここでは人民元の公開市 場操作が回復したという表現を使っている. 4)中央銀行債とは中央銀行が貨幣供給量の調整 を目的として発行する記名式の有価証券であ る.中国人民銀行はインフレ対策として1993年 に初めて総額160億元の中央銀行債を発行した. 5)中国人民銀行『2004年公開市場業務報告』中 国人民銀行ホームページ(http://www.pbc.gov. cn, 2005年8月28日アクセス). 6)劉明康「1998年8月11日,国務院新聞カ、公室記 者招待会における発言」 『人民日報』, 1998年8 月12日の報道を参照. 7)人民元レートの安定のための措置については, 殿乃平『中国金融体制簡論』社会科学文献出 版社, 2000年, 150頁-152頁を参照. 8)中国人民銀行,国家外為管理局『外貨調整取 引の停止に関する通知』 1998年10月25日の全文 ムペー ジ は国家外為管理局のホー (http://www.safe.gov. cn)より入手可能. 9)外貨の不正流出規制に関しては,橋本将司 「アジアの外為規制とアジア通貨/円の直接取 引の可能性,第一章:中国」国際通貨研究所, 2001年, 6頁を参照. 10)他に外貨の欺隔購入に対して,国家外為管理 局は10月7日に48時間内に外貨の欺隔購入を自 白した企業は寛大に処理するという措置を採っ たが,その結果,規定の48時間以内に全国で計 344の企業が自白したという.さらに2000年ま でに計958の企業が自白し,かかわる外貨額は 累計で19.95億ドルと9257万香港ドルになるとい う.腰乃平,前掲書, 2000年, 151頁. "International Tong, ll) wei Jianing, Wang Monetary. System. China's and International. Changing under policy Options.". Financial. Conditions studies. Architecture,. on. No.5,. 2000,. p.4.. 12)三木利夫「景気の動きと金融政策運営」日 本銀行講演記録, 2001年9月13日. Kuroda, Masahiro Kawai, "Time 13) Haruhiko a. Switch. to. Global. Reflation.". Financial. for. Times,. 2002.. 14). united. "Report and. States to. Exchange. Department. Congress Rate. on. of the lnternational. Policies,". May.. Treasury, EconomlC. 2005,.

(14) 72. (524). 横浜国際社会科学研究. (http://www.treas,gov/press/releases/reports /js2448_report.pdD. 『中国証券報』イ 15) 「人民幣fE率考験国家智恵」 ンタビュー記事, 2003年7月16日を参照. Exchange Rate," Ronald, "Cbina's 16) Mckinnon Asian Wall Street Journal, Jun. 2003. 17)白井早由里『人民元と中国経済』日本経済 新聞社, 2004年, 232頁. 13-17頁. 18)白井早由里,前掲書, 19)闘志雄「第9章:なぜ人民元の切り上げが必 要なのか一日本のためではなく中国自身のため に」,闘志雄,中国社会科学院世界経済政治研 2004 究所編『人民元切り上げ論争』東洋経済, 年, 244頁. 20)余永定,何帆編『人民幣懸念』中国青年出 版社, 2004年, 71頁-89頁. 21)周小川「人民銀行行長周小川就人民幣fE率問 題答記者問, 2003年9月3日付」中国人民銀行ホ 2005年8 ームページ(http://www.pbc.gov.cn, 月30日アクセス). 22)国家外為管理局『国家外為管理局関与進一歩 調整経常項目外為帳戸管理政策有閑問題的通 知』, 2002年9月9日公布, 2002年10月15日より 実施. 23)国家外為管理局『国家外為管理局関与調整国 際承句工程等項下経常項目外為帳戸管理政策有. 第10巻第5号(2006年1月) 開聞題的通知』 2003年8月5日公布,同年9月1日 より実施. 24)詳しい内容は国家外為管理局が1998年9月1日 に公布した『境内居民個人外為管理暫行方法』 及び2003年9月1日に公布した『国家外為管理局 関与調整境内居民個人経常項目下購為政策的通 知』を参照. 25)上海財経大学現代金融研究センター『2004中 国金融発展報告』上海財経大学出版社, 2004年, 81頁. 26)外貨準備の最低基準-短期外債+自国企業の 海外子会社が現地金融機関を通じて調達した資 金量+一年以内に滴期になる長期外債+非居柱 者による証券投資資産の売却額,というもので ある.闘志雄,中国社会科学院世界経済政治研 究所編,前掲書, 2004年, 73頁. 27)これは2005年6月禾の外為準備高である. 28)呉暁霊『中国外為管理』中国金融出版社, 2001年, 64頁. 29) 『周小川行長在中国人民銀行上海総部掲牌儀 式上的講話』 2005年8月10日,中国人民銀行の ホームページ(http://www.pbc.gov.cn)を参照. ,. 横浜国立大学大学院国際社会科学 [キン エイカ 研究科博士課程後期].

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参照

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