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学力研究への視角(PDF:124KB)

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Academic year: 2021

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日本労働研究雑誌 1 ◇学力の水準問題  警察を舞台にしたある小説に,警官が犯人との 電話での会話から犯人像を推定する場面が出てく る。犯人は正確な日本語を使っていたので教育水 準は高い,大卒あるいは院を出ているかもしれな いというのである。やや乱暴ながら日本語運用能 力を「学力」と置き換えれば,ここには高学歴者 は高学力であるという,私たちの機能的学歴観が 如実にあらわになっている。  ここ 10 年近く学力の社会学的研究に携わって きた。なぜ私にとって学力が問題であったのかと いえば,はじめ学力の「水準問題」(学力低下論) に端を発し,後に「格差問題」へと関心が移った。 水準問題としての学力への関心は,多分に学力の 技術機能的前提に由来し,先に述べた警官の学歴 観にも重なる。今世紀初頭の学力低下論者たちの 指摘がそうであったように,学力水準が低下すれ ば社会全体の科学と技術の水準が低下し,学術・ 経済・文化など多側面にわたって社会進歩に支障 を来すといった危機感が背景にあった。 ◇学力の格差問題  他方,格差問題としての学力への関心は,技術 機能的前提が経済学的議論の範疇に属するのと比 してより社会学的で,より知的関心を誘う。学力 格差の大きさは拡大しているのか,格差拡大はな にがもたらしているのか,その社会的帰結は如 何。これらの問いを掲げることは,社会構造その ものの問い直しを意味する。私たちの社会はメリ トクラシー(業績主義社会)を是として制度化さ れ組織されている。教育の世界であれ職業世界で あれ,人々の選抜や処遇においてメリトクラティ クな原理が貫徹されていれば(あるいはそう人々 が認識していれば),学力格差やその結果としての 社会的報酬分配上の格差は「正当化」される。そ の場合,学力「格差」は学力の「差異」と読み替 えたほうがよい。格差は差異が正当なものではな いと糾弾する言葉だからである。  しかし,人々が選抜される際の基準たるメリッ ト(学力や学歴)が,人々の生まれ(社会階層,家 庭的背景)によって形作られているとしたらどう か。学力と学歴による選抜は生まれによる選抜と 同義となり,業績主義的選抜は人々の身分や社会 的出自に基づく属性主義的選抜(ascription)とな んらかわらないこととなる。イギリスの社会学者 マイケル・ヤングの社会科学的 SF 小説『メリト クラシーの勃興』が描いたのは,業績主義社会の かかえるこのパラドックスだった。そしていま学 力の社会学における,もっとも現代的でホットな 問題がこれである。学力格差への視角が見せてく れるのは,そういう業績主義社会の脆弱性であ る。メリットの中に属性主義が混入した社会で は,学力と学歴は,特定の生まれの人々を排除す る仕掛けとして機能することになる。 ◇学力の“うさんくささ”をこえて  学力格差の社会学があらわにしているのは,言 葉をかえていえば学力の“うさんくささ”にほか ならない。しかしそのうさんくささを承知しつ つ,教育界は学力を測定し,努力を促し,選抜に 利用し続ける。大学人も例外ではない。むろん職 業世界も,程度の差こそあれ,テストを利用し, 学歴別に採用枠を設け,ときに学校歴ブランドを 尊重した選考を行う。  この隘路を抜け出すための道はどこにあるの か。そのためには,これまで学力の社会学が避け てきた問い──学力とはいったいなんであるのか という問いに,正面から立ち向かってみる必要性 を感じている。それは学力の技術機能的価値との 対決にほかならない。 (みみづか・ひろあき お茶の水女子大学教授)

提 言

学力研究への視角

耳塚 寛明

参照

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