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法規制と労使自治のRebalancing(PDF:512KB)

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提 言

No. 706/May 2019 1 働き方改革関連法によって,労働立法の拡大・ 複雑化傾向が一段と進んだ。今回改正された労働 基準法,短時間・有期雇用労働者法,労働者派遣 法は,難解な条文をもつ複雑な法律となってい る。戦後労働立法は労働基準法をはじめ通常の労 働者にも理解できそうな比較的簡明な条文で構成 されていたが,その簡明さを残すものは労働組合 法など数少なく,現在の労働立法は,追加された 諸々の新立法を含め,大多数が専門法律家だけ理 解可能な難解な条文群となった。もちろん,複雑 になった労働立法の解説はたくさん出されるが, 運用に当たる実務家にさえ法規範の正確な理解は 難しくなった。働く人々の権利・利益を規定した 労働立法が企業のコンプライアンスの重要分野と なり,訴訟や社会的批判のリスクが高まっている なかでは,決して望ましい事態ではない。 労働立法が増加し内容が複雑化したということ は,立法が企業の人事労務管理や労使関係に対し 介入の幅を拡げ度合いを深めていることでもあ る。介入の内容は,サービス経済化,女性参加, 少子高齢化などの構造変化に対する 1980 年代半 ばからの政策的対応,戦後経済システムを市場経 済の新たな事態に即したシステムに変えるための 90 年代後半〜 2000 年代前半の規制改革,その中 で生じた新たな経済的弱者への 2010 年前後の保 護システムの追加,そして日本経済を成長軌道に 復帰させんとしての今回の雇用システム改革など である。今後も,情報通信技術の飛躍による事業 と労働の変化に対応して,労働関係への立法的介 入は継続するはずである。 法規制の追加に伴う問題は,常に,それが所期 のとおり機能するかである。今回の働き方改革 関連法の第 1 の目玉・時間外労働の上限規制で は,長時間労働を批判する世論のバックアップが 何よりの援軍であり,これを背景として監督行政 が強気の姿勢を続けることができよう。しかしな がら,そのキャパシティは限られている。何より 重要なのは,三六協定の当事者である労使が改正 法の趣旨と内容を十分に理解し,協定を適正に締 結し運用することである。しかしながら,JILPT の最新の調査でも,過半数組合がある事業場は 1 割に達せず,過半数代表者がいる事業場も 4 割台 前半にとどまる。しかも過半数代表者の選出手続 の多くは適正さが疑わしく,三六協定の適正化に ついて楽観論はとりにくい。この見通しもあって か,今回は過半数代表者の選出について使用者の 意向を反映したものとならないように規則改正が なされ,また,その活動への便宜供与の配慮義務 も規定された。既存の規定も合わせれば,過半数 代表者に関する規制がずいぶん整ってきた感があ るが,やはり法律にしないとインパクトに欠ける 憾みがある。 もう 1 つの目玉である「日本版同一労働同一賃 金」の方は,最高裁二判決と指針が出て,諸手当 については規範内容がかなり明確化したが,肝心 の基本給,賞与,退職金についてはいまだ曖昧模 糊としている。法の趣旨に則した好事例を労使で 作り出して,そこから是正のモデルをいくつも提 示してほしいものである。司法判断はそれらを参 考にして行わないと,適切なものとはなりにく い。 要するに,両者を通じて,今回の法改正を機能 させる一番の推進力は労使関係のはずであるが, 今回の改正では,この点の手当がほとんどなされ ておらず,それが喫緊の課題と思われる。総じて, 今回の労働法制改革は,労使関係の推進力を利用 する姿勢なしに行われ,法規制が労使関係システ ムとの関係で肥大化しすぎている感がある。両者 の Rebalancing が今後の基本課題である。 (すげの・かずお 東京大学名誉教授)

菅野 和夫

法規制と労使自治の Rebalancing

参照

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