研究論文
東京都式根島の海水浴場における混雑度が利用者の混雑感及び満足感に与える影響
Influence of congestion on user’s perceived crowding and satisfaction, on the beach in
Shikine Island, Japan
武 正憲 *・和田 茂樹**
Masanori TAKE and Shigeki WADA
要旨:本研究は,東京都新島村式根島にある地形的特徴の異なる二つの海水浴場を事例に,海水 浴場の利用者密度と利用者の混雑感と満足度の3変数の相互関係を明らかにすることを目的とし た。利用者密度は目視観察で把握し,混雑感と満足度はアンケート調査で把握した。調査結果から, 利用者密度と利用者の混雑感と満足度の3 変数間に明確な相関関係は認められなかったが,地形の 違いや体験の評価が混雑感を低下させる可能性が示唆された。 キーワード:収容力,利用者,島嶼部,海水浴場
Abstract:The purpose of this study was to clarify the interrelationship between the three variables of user density, user’ congestion and satisfaction at two beaches with different geographical features in Shikinejima, Niijima, Tokyo. This study was conducted through observational and questionnaire surveys. The results of the study did not show a clear correlation between the three variables, but suggested that differences in geographical features and evaluations of experiences may reduce congestion.
Key Words: carrying capacity, user, islands, beach
はじめに 我が国の観光政策は,2020 年に訪日外国人旅行者を 4,000 万人にするという政府の目標に向けて堅調に推移 してきた。このように,外国人旅行者が順調な増加傾向 を示す中,1990 年代初頭のバブル期を境に観光者数が低 迷した離島観光地1)でも,外国人旅行者だけでなく日本 人旅行者にも再注目されるようになり,観光者数が増加 傾向にある2)。離島には「僻地」「楽園」というイメージ があり,都市住民には観光的魅力がある(古村,2015)。 一方で,離島では,急増する観光者に簡単には対応でき ず,オーバーツーリズムが問題視されるようになってい る。離島観光地では過疎化も併存し,急増する観光者に 対応したインフラ整備による改善が期待できない。1953 年の離島振興法による公共事業や基盤整備事業によって 整備された離島観光地のうち,沖縄,奄美,小笠原とい った特別地域振興法の対象地以外の観光地は1970 年代 の離島ブーム以降は観光客数が減少傾向にある(小澤, 2015)。東京からのアクセスが良い伊豆諸島も減少傾向 のある地域で,最盛期の3分の1まで観光者が減少した 地域である(東京市町村自治調査会,2011)。 愛甲(2008)は,自然環境を保全しつつ利用者に良質 なレクリエーション体験を提供するためには,利用者間 の関係や利用者の満足感・混雑感などの心理的評価によ って規定される社会的収容力を設定する必要があると指 摘する。我が国の社会的収容力に関わる利用者の混雑感 や満足感に関する研究は25 年以上前から行われている (愛甲・小林,1993;愛甲ほか,2002;田村ほか,2002; 山本,2011;五木田・愛甲,2015)が山岳地が中心で, 離島での研究は乏しい。海に囲まれた我が国では,海辺 はなじみのあるレクリエーション地にもかかわらず,土 木分野における安全管理や防災に関係する研究(例えば, 馬場ほか,2019)は多数あるが,混雑感と満足感に関す る研究(寺崎ほか2009)は限定的である。 山岳地と同様に,離島も宿泊施設や移動手段が限られ ているため,移動が便利な一部の観光資源の利用が時間 的・空間的に集中しやすく,海水浴場での混雑度は利用 者の混雑感や満足度に影響すると考えられるが,影響の 有無は明らかにされていない。 そこで本研究では,東京都新島村式根島の海水浴場を 対象地として,その利用者数の時間変化を把握し,その *筑波大学 芸術系 ** 筑波大学 生命環境系 下田臨海実験センター
場に滞在した利用者の混雑感および満足感への影響を明 らかにすることを目的とした。 1. 研究の方法 1.1 調査対象地の概要 調査地は,伊豆諸島を構成する東京都新島村式根島(以 下,島と記す。)である(図1)。観光者数は1980 年の 年間53,826 人がピークだったが,その後減少し 2000 年 の年間14,120 人まで減少し(東京市町村自治調査会, 2011),島内に100件あった民宿も33件まで減少した3)。 しかし観光協会や商工会議所によるプロモーション活動 などに伴い,2011 年以降の観光入込数は増加傾向がみら れ4),2018 年度は 26,685 人で,最盛期の半数程度まで 回復が進んでいる5)。一方,観光協会事務局長によれば, 簡単に観光に関係する事業や施設を整備することはでき ないため,観光者数が急増することを望んではおらず, 体験の質を上げて,島の安定的な発展や環境保全に理解 のある観光者を増やすことで,緩やかで持続的な観光業 の発展を期待している3)。面積は3.9km2で,産業別就 業人口は,宿泊・飲食業及び卸売・小売業が全体の約4 割を占め,産業構造の中心は第三次産業である。2009 年の新島村商工会による調査によると,宿泊者の約9 割 は観光目的である(新島村商工会商業便利向上実業委員 会,2015)。さらに,利用者の来島目的の内訳は,海水 浴が52%,釣りが 15%,ダイビングが 6%,団体合宿 6%,湯治 4%,ハイキング 3%,仕事 13%であり,海に 関係する観光活動が主な目的である(新島村商工会商業 便利向上実業委員会,2015)。 島には,石白川,大浦,泊,中の浦という4箇所の海 水浴場が存在する(図1)。島には公共交通機関や民間タ クシーがないが,観光者はすべての海水浴場に徒歩か自 転車で行くことが可能で,交通手段による影響が少ない。 島の南側に位置する石白川海水浴場は宿泊拠点に近い。 大浦海水浴場は大浦キャンプ場が併設されており,キャ ンプ場に宿泊している人の利用も多い。泊海水浴場と中 の浦海水浴場は宿泊場所から離れているため,利用者は 主に海水浴のために来訪する。そのため,海水浴客の行 動を把握するには適していると考え,本研究では泊海水 浴場と中の浦海水浴場を調査対象地とした。両海水浴場 とも海の家,トイレ,更衣室,水シャワーという施設が あり,ライフガードによる監視もある。泊海水浴場は岩 に囲まれている地形と美しい青が広がる遠浅の海岸が特 徴で,中の浦海水浴場はスノーケリングやダイビングに 適した海岸とそこに生息する生物が特徴である6)。砂浜 の面積は泊海水浴場68a,中の浦海水浴場 30a である6)。 このように2つの海岸は地形の特徴に差がある。 1.2 調査日程 本研究ではお盆休暇期間である2018 年 8 月 12 日,13 日,15 日,16 日の計 4 日間で調査を実施した。調査時 間は,ライフセーバーによる監視が行われている9 時 00 分から16 時 30 分までとした。調査期間中の天候はおお むね晴天であり,島内で特定のイベントは行われなかっ た。島における年間来島者数は7 月,8 月,9 月が多い。 本調査の実施時期は,その中でも海水浴やダイビングに 適し,長期休暇の取得がしやすい時期で,例年数か月前 から宿泊予約が困難になるという点からも最も海水浴客 が多い時期と考えらえられる。 1.3 調査方法 1.3.1 混雑度調査 本研究での混雑度とは,海水浴場における総人数(海 に入っている人数+浜にいる人数)およびグループ数そ れぞれの1 a 当たりの密度とした。海水浴場における総 人数およびグループ数を30 分毎に集計し,面積当たり の密度を算出し,各時間帯における海水浴場の混雑度を 把握した。集計方法にはラインセンサス法を応用した。 調査員2 人が同時に海岸線に沿って,それぞれが異なる 側を見ながら歩き,1 人は海に入っている人数を,もう 1 人は浜にいる人数を調査した。泊海水浴場,中の浦海 水浴場はともに湾であり,立ち入りができない岩礁部分 を除いた砂地の浜部分の海岸線を集計範囲とした。この 手法により,浜―海での人の移動による集計の重複を防 ぐことができる。また,浜側では,人数の集計と同時に パラソルやブルーシートを用いて1箇所に人が固まって いる場合を「グループ」として記録し,グループの数も 集計した。浜の利用者密度は浜にいる人数を浜の面積で 割ることにより算出した。海の利用者密度は海中内での 利用者の分布を正確に再現することが困難であるため, 算出を省略した。 式根島 東京 図1 研究対象地
1.3.2 アンケート調査 混雑感および満足感は,Google フォームを利用した Web アンケート調査により,回答者の携帯端末上での回 答から把握した。アンケートへのアクセスを容易とす るために,URL を QR コードに変換して用いた。QR コードはポスターとカードに印刷し,a.アンケート 調査への協力依頼ポスターを各海水浴場の海の家や出 入口などに掲示する方法,b.浜辺で休息している海 水浴客を直接訪問し,カードを配布する方法の2 種類 の方法を用いた。アンケートへの回答は海水浴場を離 れた後とし,グループ単位ではなく,個人単位で回答 すること,その日の体験に対して回答することを依頼 した。 アンケート項目では,基本属性として,年齢,職業, 居住地,訪問回数,同伴者,交通手段,宿泊先,予算 と来訪目的を聞いた。混雑感と満足感に関するアンケ ート調査項目を表1に示す。利用した海水浴場に対し て「最も混雑していたと感じた時間」(以下,混雑表明 時間と記す)と「最もすいていたと感じた時間」(以下, 閑散表明時間と記す)を,9 時 00 分から 16 時 30 分 まで30 分ごとの区切りで選択してもらった。本アン ケートは海水浴場の利用者がその日の体験を振り返っ て回答するものであり,30 分間隔であれば,混雑認識 の中でその差異を想起できると考え,設定した。さら に,利用者の混雑感を評価するため,「浜辺もしくは海 で活動しているとき,人の数をどのように感じました か?」と尋ね,また,混雑感に関する対応を検討する ため,「浜辺もしくは海にいるとき,ほかの観光者の数 がもっと少なかったら,あなたの活動はもっと楽しめ たと思いますか?」と尋ねた。 また,混雑度・混雑感と利用者の満足感の関係を把 握するため,利用者の満足感を確認する質問として, 海水浴場での海中活動における満足感,予算に対する 海水浴場での体験の価値,期待に対する海水浴場での 体験の満足感を尋ねた。 2. 結 果 2.1 混雑度調査 調査日である2018 年 8 月 12 日,13 日,15 日,16 日に集計した海水浴場における総利用者数とグループ 数の30 分間隔の集計値における最大値・平均値・標 準偏差を表2に示す。また,調査日のうち,8 月 13 日がどちらの海水浴場においても最も利用者が多く, それに伴いグループ数も多かった。一方で,調査日ご との海水浴場における利用者数とグループ数の経時変 化に大きな差はなかった。したがって,日付毎の結果を まとめ,4 日間の各海水浴場での平均利用者数の経時変 化を図2に,平均利用者密度を図3に示す。表2,図2 図2 各海水浴場の平均利用者数の経時変化 図3 浜における利用者密度とグループ密度 調 査 日 最 大 値 平 均 値 標 準 偏 差 調 査 日 最 大 値 平 均 値 標 準 偏 差 2018/8/12 224 151.3 61.7 2018/8/12 189 123.6 46.6 2018/8/13 242 153.8 79.0 2018/8/13 285 199.1 78.0 2018/8/15 193 133.8 46.9 2018/8/15 164 124.1 32.4 2018/8/16 205 147.3 50.9 2018/8/16 177 113.1 45.5 146.5 139.3 調 査 日 最 大 値 平 均 値 標 準 偏 差 調 査 日 最 大 値 平 均 値 標 準 偏 差 2018/8/12 56 35.2 16.1 2018/8/12 45 31.5 13.3 2018/8/13 73 43.0 22.5 2018/8/13 73 42.9 19.0 2018/8/15 44 29.6 11.8 2018/8/15 34 26.5 5.9 2018/8/16 60 41.6 15.9 2018/8/16 39 23.6 10.3 グ ルー プ 数 利 用 者 数 グ ルー プ 数 利 用 者 数 4日 間 平 均 利 用 者 数 泊 海 水 浴 場 中 の 浦 海 水 浴 場 4日 間 平 均 利 用 者 数 表2 海水浴場利用者数とグループ数 ①最もすいていると感じた時間 ②最も混雑していると感じた時間 ③浜での人の数の感じ方(5段階評価) ④海での人の数の感じ方(5段階評価) ⑤海水浴場での海中活動における満足感(4段階評価) ⑥予算に対する海水浴場での体験の価値(4段階評価) ⑦期待に対する海水浴場での体験の満足感(4段階評価) ⑧少人数時の浜での活動の期待値 ⑨少人数時の海での活動の期待値 混雑感調査 満足感調査 混雑感と満足感 の関係調査 アンケート調査項目 表1 混雑感に関するアンケート調査項目
より泊海水浴場と中の浦海水浴場の利用者数を比較する と,泊海水浴場の方が中の浦海水浴場よりも多くの利用 者がいたことが分かる。しかし,図3から利用者とグル ープの密度を確認すると,ともに,中の浦海水浴場が泊 海水浴場よりも密度が2倍であることが示された。調査 時間中の平均利用者数の経時変化の傾向はどちらの海水 浴場でも,混雑度調査を開始した午前9 時から徐々に増 え始め,11 時 00 分から 14 時 00 分の間に 150~200 人 で利用者数が多く,調査終了時の16 時 30 分で最も少な かった。浜のグループ数に関しても,11 時から 14 時が 最も多くなる時間帯であった。図5は4 日間で最もグル ープ数が多かった時間のグループ同士の位置関係を, QGIS (version2.18) を用いて,地図(OSM)上に図示 したものである。 2.2 混雑感と満足感に関するアンケート調査 アンケートへの全回答数は69 件となった。基本属性 に関する集計結果を表3と表4に示す。このうち混雑度 調査を実施した4日間に泊海水浴場または中の浦海水浴 場に滞在した利用者による回答のみを分析対象とした (表5)。結果として,泊海水浴場の利用者は27 件,中 の浦海水浴場の利用者は27件で合計54件を分析対象と した。表3に示すとおり,分析対象者と回答者全体の回 表5 回答者が滞在した日と海水浴場の関係 表4 来訪目的(複数回答) 中の浦 泊 石白川 大浦 8月8日 1 1 8月10日 1 1 2 8月11日 1 2 3 8月12日 11 13 24 24 8月13日 5 3 8 8 8月14日 1 2 1 4 8月15日 7 4 11 11 8月16日 4 7 1 12 11 8月17日 4 4 総計 34 32 1 2 69 分析対象 27 27 54 滞在日 海水浴場 総計 分析対象 ※塗りつぶしは混雑度調査の対象海水浴場と調査日を示す 回答者数 泊 中の浦 n=69 n=27 n=27 17歳以下 4 5.8% 1 3 18~22 歳 2 2.9% 1 1 23~30 歳 3 4.3% 3 0 31~40歳 20 29.0% 9 8 41~50 歳 37 53.6% 13 14 51~65歳 3 4.3% 0 1 66 歳以上 0 0.0% 0 0 回答したくない 0 0.0% 0 0 会社員 35 50.7% 15 15 公務員 6 8.7% 3 1 自営業 3 4.3% 1 1 主婦・主夫 8 11.6% 1 4 団体職員 3 4.3% 1 1 学生 7 10.1% 3 4 無職 1 1.4% 0 0 回答したくない 1 1.4% 1 0 東京都 42 60.9% 17 18 神奈川県 17 24.6% 5 6 埼玉県 5 7.2% 2 1 千葉県 2 2.9% 1 1 愛知県 1 1.4% 0 1 静岡県 2 2.9% 2 0 初めて 38 55.1% 15 12 2 回目 7 10.1% 4 3 3~4 回目 6 8.7% 1 5 5 回以上 18 26.1% 7 7 友人 14 20.3% 9 3 パートナー(配偶者・恋人) 52 75.4% 19 21 子ども 46 66.7% 14 19 兄弟姉妹 6 8.7% 1 4 親 6 8.7% 2 4 仕事仲間 1 1.4% 0 1 一人 0 0.0% 0 0 その他 0 0.0% 0 0 東京から高速船 33 47.8% 15 10 東京から大型船 26 37.7% 7 12 下田からフェリー 4 5.8% 3 1 新島から連絡船 4 5.8% 2 2 調布から飛行機と連絡船 1 1.4% 0 1 その他 1 1.4% 0 1 民宿 48 69.6% 17 20 キャンプ場 12 17.4% 6 3 自宅・親戚宅 3 4.3% 0 0 その他 0 0.0% 2 1 友人・知人宅 0 0.0% 0 0 1万円未満 2 2.9% 2 0 1万円以上3万円未満 2 2.9% 0 2 3万円以上6万円未満 16 23.2% 8 4 6万円以上12万円未満 20 29.0% 9 7 12万円以上24万円未満 21 30.4% 6 12 24万円以上 8 11.6% 2 2 平均(万円) 11.4 9.2 12.3 最大値(万円) 30 25 30 最小値(万円) 0.3 0.3 1 式根島の 訪問回数 交通手段 宿泊 旅行予算 全体 分析対象 割合 アンケート項目 年齢 職業 同伴者 居住地 表3 基本属性に関するアンケート集計結果 選択肢 回答数 選択肢 回答数 1 スノーケリング 58 8 サイクリング 5 2 海水浴・ビーチ滞在 42 9 島民との交流 5 3 温泉 18 10 ハイキング・ウォーキング 2 4 キャンプ 11 11 帰省 2 5 ダイビング 8 12 アイランドホッピング(島巡り) 1 6 釣り 6 13 その他 1 7 食事 6 a) 泊海水浴場(8/13 12:30) b) 中の浦海水浴場(8/13 14:00) 図5 最混雑時間のグループ配置
答傾向は,概ね一致している。 図6に,30 分ごとの(1)混雑度調査と,(2)アン ケート調査の質問項目①による混雑表明の関係を示す。 この横軸は,調査日の調査時間(9 時 00 分から 16 時 30 分)のうち,ある時間帯(30 分間)にその海水浴場を混 雑していると感じた回答件数を示し,縦軸は該当する時 間帯の利用者数もしくは密度を表す。図6から,混雑表 明および閑散表明の回答件数が少ない場合はその時間の 利用者人数に幅がある一方,回答件数が多くなる場合は, その時間の利用人数に幅が少なくなる傾向が示された。 さらに,混雑表明の利用者数のばらつきは,閑散表明に 比べ少ない傾向がみられる。泊海水浴場の混雑表明が最 も多い時の利用者人数は8 月 12 日の 12 時 00 分で 200 人(3 人/a),中の浦海水浴場では 8 月 15 日の 13 時 00 分で120 人(4.2 人/a)となった。一方,閑散表明が最 も多い時の利用者人数は,泊海水浴場は8 月 12 日の 9 時00 分で 50 人(0.8 人/a),中の浦海水浴場は 8 月 12 日の9 時 30 分と 8 月 15 日の 15 時 30 分で 100 人(3.2 人/a)となった。 利用者の混雑感・満足感に関する回答を表6に示す。 活動中,混雑に対する利用者の感じ方に関する質問(③ ④)に対して「どちらでもない」の回答者が最も多い。 ③に対して,泊は「やや少ない(33.3%)」中の浦は「や や多い(29.6%)」が 2 番目に多い回答となり,異なる 傾向が示された。④に対して,泊は「やや少ない(37.0%)」 が多いが,中の浦は「多い」「やや多い」の合計と「やや 少ない」が同じ割合となった(29.6%)。⑤海水浴場での 総合的な満足感に対して,「とても満足した」「満足した」 の回答が泊海水浴場では,85.2%,中の浦海水浴場では 92.6%であり,利用者は高い満足感を示した。泊海水浴 場と比べて,中の浦海水浴場のほうが利用者の満足感は 高かった。⑥予算に対する海水浴場での体験の価値に対 して,「十分価値がある」「ある程度価値がある」と回答 した利用者が泊海水浴場では100%であったが,中の浦 海水浴場では81.5%だった。⑦期待に対する海水浴場で の体験の満足感に対する回答は,両海水浴場で「十分期 待以上だった」「期待よりは上だった」が70%以上を占 めたが,「期待していたほどではなかった」利用者も10% ほど存在した。⑧⑨少人数時の期待値は「とてもそう思 う」「少しそう思う」に泊海水浴場では浜で18.5%,海 で25.9%の回答があり,中の浦海水浴場では浜で 25.9%, 海で22.2%の回答があった。 3. 考 察 混雑度調査の結果から,図3より浜の利用者密度は12 時00 分から 13 時 00 分に減少するが,グループ密度は ほぼ減少しないと分かった。浜での密度がピークとなる 12 時 00 分から 13 時 00 分付近は,利用者が浜で昼食を 取る時間帯であり,またその後13 時 30 分に浜の利用者 密度が13時00分より低下する時間帯は多くの利用者が 海上で活動している時間帯であると考えられ,利用者が 海水浴場内で移動することで生じる密度変化だと推測で きる。図2より2 つの海水浴場では,調査期間を通して 利用者数はほぼ同じ変化の傾向を示していた。しかし, 滞在できる浜の面積に違いがあるため,利用者密度は浜 の面積の小さい,中の浦海水浴場が高かった。 図6で示された利用者密度と混雑表明の関係において, 混雑表明件数が1件の時の下端を比較すると,泊海水浴 場では利用者密度が低い段階(2 人/ a)から混雑表明が 現れる一方,中の浦海水浴用では利用者密度が4 人/ a を 超えて混雑表明が現れた。しかし,利用者数と混雑表明 の関係からは,どちらの海水浴用でも利用者数が120 人 図6 混雑度と混雑表明および閑散表明の関係 横軸は「最も混雑および閑散を感じた時間帯」として選択された回答件数を示してい る。縦軸は,回答者が提示した時間帯の混雑度(利用者人数と密度)を示している。 表6 海水浴場利用者のアンケート結果 1)泊 2)中の浦 1)泊 2)中の浦 とても多い 7.4% 7.4% 十分期待以上だった 25.9% 55.6% やや多い 25.9% 29.6% 期待よりは上だった 51.9% 18.5% どちらともいえない 33.3% 37.0% どちらともいえない 11.1% 18.5% やや少ない 33.3% 25.9% 期待していたほどではなかった 11.1% 7.4% とても少ない 0.0% 0.0% とてもそう思う 3.7% 3.7% とても多い 7.4% 7.4% 少しそう思う 14.8% 22.2% やや多い 18.5% 22.2% かわらない 51.9% 48.1% どちらともいえない 37.0% 40.7% あまりそう思えない 22.2% 18.5% やや少ない 37.0% 29.6% とてもそうは思えない 7.4% 7.4% とても少ない 0.0% 0.0% とてもそう思う 3.7% 3.7% とても満足した 22.2% 55.6% 少しそう思う 22.2% 18.5% 満足した 63.0% 37.0% かわらない 48.1% 51.9% どちらともいえない 11.1% 3.7% あまりそう思えない 18.5% 18.5% 不満だった 3.7% 3.7% とてもそうは思えない 7.4% 7.4% 下線と塗りつぶしは最も割合の多い回答を示す 十分価値がある 63.0% 74.1% ある程度価値がある 37.0% 7.4% どちらともいえない 0.0% 18.5% 見合う価値があるとは思えない 0.0% 0.0% ⑦期待に対する海水浴場での体験の満足感 ⑧少人数時の浜での活動の期待値 ⑨少人数時の海での活動の期待値 ③浜での人の数の感じ方 ④海での人の数の感じ方 ⑤海中活動における満足感 ⑥予算に対する海水浴場での体験の価値
を超えた時間帯で混雑表明が見られた。閑散表明では, 両海水浴場において件数が2 件以下の場合,対応する利 用者数と利用者密度に幅が見られた。このとき2つの海 水浴用で利用者数には大きな差が見られないが,利用者 密度では閑散表明件数に対応する中の浦海水浴場におけ る利用者密度が,泊海水浴場の約2 倍であった。このこ とから利用者密度と混雑感の関係では,混雑と閑散の感 じ方で異なる傾向があることが示唆される。利用者の混 雑表明については一定の利用者数を超えた場合に表れる と推測できるが,閑散表明については個人の感覚の差が 大きく影響することが考えられる。 また本研究における海水浴場の利用者は,アンケート 調査から混雑感の評価(質問③④)は偏りが少ないにも 関わらず,満足感の評価は相対的に高くなっていた。中 の浦海水浴場は,泊海水浴場に比べ混雑度が高いにも関 わらず,図6の箱ひげ図でみられる混雑度の幅が広い。 この要因の一つに,中の浦海水浴場は泊海水浴場に比べ 海での体験に対する評価が高いことから,混雑度が混雑 感に及ぼす影響が小さくなったと考えられる。そのため, 海での体験の質の高さは,混雑感を軽減する可能性が示 唆された。一方でアンケート調査結果から,半数の利用 者数は混雑によって体験の質は変わらないと回答してお り,コーピングと呼ばれる混雑に対する認識変化と考え られる。愛甲(2008)がコーピングにより利用者の増減 が混雑感と単純な相関関係にないと指摘するように,島 の海水浴場でも,滞在者人数の削減が満足感向上に直結 すると言えず,満足度向上を目的とした人数制限は効果 が限定的であると考えられる。 海水浴場の利用者数だけで言えば,ピーク時の利用者 を時間的に分散させられると,混雑感を低減しつつ,多 くの利用者を受け入れることができるので,観光資源の 有効活用が期待できる。本事例地では,民宿で宿泊する 利用者は送迎サービスを利用することが多いため,事業 者側がピーク時間を避けた時間帯に利用者を意図的に誘 導する方策が有効と考えられる。 おわりに 本研究では,東京都新式根島の海水浴場を事例に,混 雑度の変化を測定し,利用者の混雑感および満足感に与 えた影響を示そうと試みたが,単純な相関関係は認めら れなかった。適切な利用と良好な体験活動の両立には, 単純に利用人数を管理するだけでは不十分で,海水浴場 の魅力に関わる要素(例えば,サンゴ礁・魚類・水質の 健全度)も考慮することが必要である。他の離島の海水 浴場で活用できる知見を得るには,サンプル数を増やす 工夫やさらなる事例の蓄積が課題である。 謝 辞 本研究は,環境研究総合推進費(4RF-1701)の助成を受けたものである。 現地調査では,式根島観光協会事務局長の田村修一氏および筑波大学学 生(当時)の神宮翔真氏,,劉聡聡氏,曹月氏,山口広子氏,氏家萌美 氏には多大なるご協力をいただきました。ここに感謝申し上げます。 補 注 1)例えば,NPO 法人おぢかアイランドツーリズム協会,島をまるごと 観光資源化,環境ビジネスFRONT RUNNER, <http://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/ companies/article029.html>,2020.05.25 参照 2)神津島村役場産業観光課:伊豆諸島航路夏季(7,8月)の利用者数 が発表されました。:神津島村役場ホームページ, <https://vill.kouzushima.tokyo.jp/today/2017/09/post-461.html>,20 17.9.12 更新 2020.5.25 参照 3)新島村総合計画: 〈https://www.niijima.com/soshiki/kikakuzaiseika/files/sougousen nryaku.pdf>,2016.3 更新,2020.10.14 参照 4)一般社団法人式根島観光協会の事務局長へのヒアリング調査 (2018.8.10)による。) 5)東京都総務局 東京宝島HP 式根島, <https://www.t-treasureislands.metro.tokyo.lg.jp/shikine/>, 2020.10.14 参照 6)式根島観光協会HP:海水浴, <https://shikinejima.tokyo/play/beach/>,2020.5.26 参照
7)QGIS (version2.18) 上で Open Street Map (OSM) を背景に用いた
解析による 引用文献 愛甲哲也・小林昭裕(1993)大雪山国立公園における登山利用者からみ たキャンプ場の混雑度評価とかかわる要因,造園雑誌56(5),169~174. 愛甲哲也・浅川昭一郎・小林昭裕(1994)大雪山国立公園におけるキャ ンプ場の利用人数と混雑感評価について,造園雑誌57(5),319~324. 愛甲哲也・鄭佳昇・浅川昭一郎(2002)自然公園における写真を用いた 混雑感と許容限界の把握について,ランドスケープ研究65(5), 669~672. 愛甲哲也(2008)社会的収容力と混雑感,利用者の行動と体験(小林昭 裕・愛甲哲也編),pp.134~147,古今書院,東京 馬場亮太・佐藤翔輔・今村文彦(2019)津波被災後の沿岸観光地におけ る来訪者の津波に対する意識・備え,土木学会論文集B2(海岸工学) 75(2),I_1399~I_1404. 古村学(2015)離島エコツーリズムの社会学,吉田書店,274pp. 五木田玲子・愛甲哲也(2015)山岳系国立公園利用者の感動,満足,ロ イヤルティ,心理的効用の関係性,ランドスケープ研究78(5), 533~538. 新島村商工会商業便利向上実業委員会(編集)(2015)新島村商業振興 計画,新島村商工会,東京,13pp. 小澤卓(2015)離島地域における観光政策の経済分析,中央大学経済研 究年報,第47 号,185~204. 田村裕季・望月寛・麻生恵(2002)尾瀬ヶ原の木道上における利用者間 の距離と混雑感及び混雑不快感との関性,ランドスケープ研究66(5), 705~710. 寺崎竜雄・愛甲哲也・武正憲・中島泰・外山昌樹(2011)沖縄県慶佐次 川におけるカヌー利用者の混雑感評価と許容限界と収容力に関する 考察,林業経済研究57(3),12~21. 東京市町村自治調査会(2011)島しょ地域における観光ニーズに関する 現況調査,98pp. 山本清龍(2011)富士登山者の満足度の登山口別比較,ランドスケープ 研究74(5),543~546.