−2− 比較内分泌学会ニュース
エッセイ
英国での研究留学を終えて
北 野 健(熊本大学大学院自然科学研究科)[email protected]
私は、熊本大学若手研究者海外派遣制度に より、約5
ヶ月間、イギリスのバーミンガム 大学に留学しました。バーミンガムは、ご存 知ない方も多いと思いますが、ロンドンに次 ぐイングランド第二の都市です。実際、バ ーミンガムに行ってみると、高層ビルが建ち 並んで人口が多いというわけではなかったの で、田舎者の私には大変住みやすい環境でし た。ただ、物価が予想以上に高く、最初は毎 日の食費を削るのが大変でした。日本と比 較しますと、およそ2
倍というところでしょ うか?しかしながら、後半は安い大型スーパ ーをみつけたことから、比較的安く食費を済 ませることが出来ました。「イギリスの食事 はまずい」とよく言われますが、慣れておい しい店をみつければ、大変満足できると私は 思います。 バーミンガムでの宿泊ですが、本当であれ ば、行く前にボスとよく打ち合わせて大学の ゲストハウスを確保しておけば良かったので すが、出張準備に大忙しでその打ち合わせが 十分ではなかったので、最初の約1
ヵ月間は 安いホテルに住み、その後、バーミンガム大 学のゲストハウスに移り住みました。ホテル では、ロビーでフリーのワイヤレスインタ ーネットが使えたため、日本との連絡はこれ を用いて行いました。イギリスなどの欧米で は、多くのホテルでフリーのワイヤレスイン ターネットが使えるため、これが出来るパソ コンを持っていくと大変便利です。一方、ゲ ストハウスでは、LAN
ケーブルを用いたイ ンターネット接続が可能であったので、自 由にインターネットを使うことが出来まし た。このゲストハウスは、10
以上の建物か ら成っており、現在、さらに巨大なゲストハ ウスを建設中であったことから、バーミンガ ム大学には世界中から多くの学生が集まって いることが伺えました。実際、この大学に通 っている学生は、欧米だけでなく、中国など のアジア、そしてアフリカなどからも来てお り、まさにワールドワイドな大学という印象 を受けました。バーミンガム大学は、医学部、 歯学部、教育学部、法学部、工学部、数学部、 地学部、化学部、生物科学部などの学部から 成り立っており、私は生物科学部に所属しま した。この学部の中には、病理学講座、ゲノ ム学講座、毒性学講座などがあり、私はゲノ ム学講座と毒性学講座を行き来しながら研究 を進めました。私の研究内容ですが、バーミ ンガム大学でのボスであるKevin Chipman
教 授(以下ケビン)がDNA
マイクロアレイ解析 を用いた汚染物質の生物影響調査を行ってい たため、そのシステムを利用した研究テー マを考えた結果、DNA
マイクロアレイ解析 を用いたstickleback
の雌雄の脳における遺伝 子解析を行うことにしました。Stickleback
は、 バーミンガム市の繁華街にある美術館−3− No. 127 (2007. 12) あまり日本ではなじみのない硬骨魚類ですが、 実は「ノーベル賞の魚」ということで欧米で は大変有名です。なぜ、この魚がノーベル賞 に関係しているのかと言いますと、動物行動 学 者 ニ コ・ ティン バーゲ ン が
Stickleback
の 性行動の特異性を明らかにしてノーベル賞を 受賞したことに起因します。Stickleback
のオ スは、水草などを集めて巣を作り、そこにメ スを誘い込んで交尾し、子育てまで行うとい う大変興味深い行動を示すのです。現在、オ ス特異的に腎臓で作られるスピギンというタ ンパク質(これは、水草同士をくっつける接 着剤として機能するらしい)の存在は知られ ていますが、オスがこのような行動を起こす 分子機構は全く分かっていません。私は、こ のメカニズムに大変興味を持ったため、雌雄 の脳の遺伝子を比較することにより、この機 構に関与する遺伝子を単離したいと考えて実 験を開始しました。Stickleback
は海産魚であ るために、バーミンガム大学周辺では手に入 らなかったので、イギリス南海岸のウエイ マスにある水産研究所(CEFAS
)に所属するKatsiadaki
博士からStickleback
サンプルを分 けてもらって解析しました。ケビンのラボは、3
人のポスドク、約10
人の大学院生、2
人の 技術員から構成されており、私はポスドクの 一人から実験技術を習いました。実験は、イ ギリスのラボでも日本と同様の試薬やキット を使用していたため、大変スムーズに進める ことができました。今回、DNA
マイクロア レイ解析によりいくつかの遺伝子を単離する ことができたため、今後、これらの解析を継 続していきたいと考えています。一方、ラボ のボスであるケビンは、多くの講義を抱えな がら、研究費の申請書や論文作成などに大忙 しで、朝から晩まで仕事ずくめという感じで した。大学の先生は、日本もイギリスも同じ ような状況なんだなと思った次第です。 最後になりましたが、ここで書いた内容 バーミンガム大学内にあるイングリッシュパブ での懇親会(一番左がケビン、一番右が筆者) バーミンガム大学のシンポルである時計台 Sticklebackの雄とその巣−4− 比較内分泌学会ニュース は、私がイギリスで経験したほんの一部でし かありません。「百聞は一見にしかず」と言い ます通り、皆様には、ぜひ、自分の目で外国 をみて頂くことをお勧めします。そうするこ とで、新たな世界が広がってくるのではない でしょうか?若い皆様が、今後、世界を相手 にご活躍されることを期待しております。