山口道広 高橋元次 春沢文則 福島正二
MECHANISM
OF STABILLIZATION
BY
CETYL
ALCOHOL
FOR OIL IN WATER
CREAM
M. Yamaguchi,
M. Takahashi,
F. Harusawa,
and S . Fukushima
It is known that oil-in-water creams or ointments used in cosmetic or pharmaceutical
products increased in consistency and stability on adding of cetyl alcohol. This paper reports the effects of the polymorphism of the alcohol and the cooling procedures after
emulsification on the stability of the cream.
Long chain alcohols are known to exist in three crystal forms, designated as ƒ¿, ƒÀ, and ƒÁ. The ƒ¿-form is stable at higher temperatures and transforms into the ƒÀ- or ƒÁ-form at lower temperatures. The creams were stable in the temperature range in which the alcohol
crystallized into the ƒ¿-form, whereas they were broken within a few days in the temper ature range in which the alcohol crystallized into the ƒÀ-or ƒÁ-form. The creams that were cooled to 30•Ž at which the alcohol crystallized into ƒÀ-or ƒÁ-form in a bath containing ice water (fast cooling procedure) were broken within a few days, on the other hand
, those cooled to 30•Ž in air (slow cooling procdure) were stable for a longer period. Liquid clystals found to be formed in this system, which also contributed to stabilizing the cre ams.
資 生 堂 研 究 所. 横 浜 市 港 区 新 羽 町1050 Shiseido Laboratories
1050 Nippa-cho, Kohoku-ku, Yokohama, Japan
1. 緒 言 セ タ ノー ル はo/wク リー ムの粘 稠 性 を 出 す の に 効 果 が あ る こ とは経 験 的 に 良 く知 られ て いる が, セ タ ノー ル は また ク リー ム の安 定 化 に も大 き く関 与 して い る。 所 で 化 粧 用 ク リー ム あ るい は乳 液 の製 造 に繁 用 され る 鯨 ろ うを 出発 原 料 と した 市 販 セ タ ノ ール は セ チ ル ア ル コ ール と ス テ ア リル アル コ ール の混 合 物1) で あ り, 実際 の ク リー ム の製 造 の際 に 添 加 す る アル コ ール を 純 粋 な セ チ ル アル コ ール や ス テ ア リル アル コ ール に す る と経 時 に よ り粘 度 の 低 下 や 結 晶 性 物 質 の 析 出 な どが み られ, 安 定 性 ,は大 き く低 下 す る2)。 高級 ア ル コー ル に つ い て は そ の 結 晶 学 的 研 究 か ら3種 の結 晶多 形 (α, β, γ) が 知 られ て お り3), α型 はhexa gonal構 造, β, γ型 はmonoclinic構 造 で あ る。 本 報 は こ の様 な高 級 ア ル コー ル の添 加 に よ るo/wク リー ムの 安 定 化 機 構 に対 す る ア ル コ ー ル の結 晶 構 造 や, 乳 化 後 の 冷 却 方 法 の違 い に よ る結 晶 転 移 速 度, 更 に系 の粘 度 維 持 に寄 与 す る液 晶 の存 在 な ど に関 す る もので あ る。 2. 実 験 2-1. 試料 お よ び 試 料 調 製 系 は 高級 ア ル コー ル, エ マ レ ッ クス-515 (POE-15-オ レイ ル エ ーテ ル, 日本 エ マル ジ ョン), イオ ン交 換 水 の 3成 分 系 と した 。 化 粧 用 ク リー ムは これ に 流 動 パ ラ フ ィ ンや ワセ リンな どの 油相 が 配 合 さ れ るが, この実 験 に は 油 相 の存 在 が影 響 しな い の で, 実 験 の検 出 力 を 高 め るた め これ らの 油相 を除 外 した系 で行 っ た。 た だ しア ル コー ル は東 京 化 成 工 業 の試 薬 を特 級 であ る セ チ ル ア ル コー ル (1-ヘ キサ デ カ ノー ル) とス テ ア リル ア ル コー ル (1-オ ク タ デ カ ノ ー ル) を 単 独 か あ るい は 両 者 を 混 合 して用 い た 。 実 験 はTable-1の 処 方 系 で 行 った 。 試 料 の調 製 は ア ル コ ー ル と活 性 剤 (エ マ レ ック ス-515) を70℃ に加 温 した 後70℃ の イ オ ン交 換 水 に 加 え, TKホ モ ミキ サ ー (特 殊 機 化 工 業, Type-M) で 乳 化 し 16
o/wク リ ー ム の セ タ ノ ー ル に よ る 安 定 化 機 構 た 。 乳 化 後 の冷 却 方 法 は ビー カ ー内 の試 料 を ガ ラ ス棒 で 攪 拌 し なが ら氷 水 中 に よ る急 冷 (F) と空 気 に よ る徐 冷 (S) の2方 法 に よ りそ れ ぞ れ の保 存 温 度 まで 冷 却 した 。 得 られ た 試 料 は5℃, 25℃ お よび40℃ に保 存 し, 調 製 直 後 か ら1ヵ 月 後 の 粘 度 変 化 を 測 定 した 。 これ に並 行 してX線 回 折 に よ り, 結 晶 性 物 質 の 変 化 を 調 べ, また DSC測 定, 顕 微 鏡 観 察 も行 った 。 2-2. 測 定 2-2-1. 粘 度 測 定 。
Ferranti-Shirley cone and plate型 粘 度 計 を 用 い, 1720sec-1の 先 端 粘 度 を 求 めた 。
2-2-2. X線 回 折
結 晶 性物 質 の 変化 に対 して は, Rigaku Denki X-ray diffractometer (RU-3型) を用 い, 試 料 はglass-plate
型 ホ ル ダ ーに 入 れ, ポ リエ チ レ ン フ ィル ムで 覆 うこ と に よ り試 料 中 の水 分蒸 発 を 防 い だ 。
2-2-3. 熱 分 析
熱 的 な 変 化 に つ い て は, Rigaku Denki differential scanning calorimeter (DSC) を 用 い, 約50mgの 試 料 を ア ル ミ製 セ ル 内 に 封 入 して 分析 した 。 2-2-4. 顕 微 鏡観 察 Leitz Orthoplan大 視 野 光 学 顕 微 鏡 を 用 い, 位 相 差 法 又 は偏 光 法 に よ り観 察 した 。 3. 結 果 と 考 察 3-1. ア ル コ ー ル の結 晶構 造 に つ い て 3-1-1. アル コー ル単 独 系 につ い て 高級 ア ル コー ル が3種 (α, β, γ) の 結 晶構 造 を と る こ とは従 来 か ら良 く知 られ て い るが, 凝 固 点 (Freezing Point, 以下FPと 略 す) や 結 晶 転 移 点 (Transition Point, 以 下TPと 略 す) につ い て は これ ま で まち まち の値 が報 告 さ れ, これ は不 純 物 質 が 微 量 に混 入 して い る た め, あ るい は 混 入 し易 い た め と説 明 され て い る3),4)。 一 般 に低 温 で安 定 な結 晶形 は高 級 ア ル コー ル の炭 素数 に 依 存 し, 奇 数 の ア ル コー ル は β型, 偶 数 は β+γ 型 を と り5), Fig.-1. (B), (C) に 示 す 様 に い ず れ もmonoclinic 構 造 で あ る が, β 型 はa軸 とc軸 の な す β角 が 約90° で あ り,
Table-1 Composition of Samplesa
a In grams (A)α-form hexagonsl α=b≠c α=β=90° y=120° (B) β-form monoclinic ≒orfhorhombic α≠b≠c α=γ=90° ≠ β β_??_91∼92° (C) γ-form monoclinic a≠b≠c α=γ=90° ≠ β β_??_122∼123°
Fig.-1. Crystal forms of n-higher alcohol.
Fig.-2. Phase diagram of the mixture of 1-hexadecanol and 1-octade canol system.
γ 型 は122° 位 と云 わ れ て い る。 一 方 α型 は 高温 で 安定 な構 造 で あ り, (A) に示 すhexagonal構 造 を と る こ とが 知 られ て い る5)。 こ こで用 い た セ チ ル ア ル コ ール の 低 温 安 定 形 は β+γ 型 で あ り, ス テ ア リル ア ル コー ル は γ型 で あ り, 高 温 安 定 形 はい ず れ も α型 の構 造 を示 す 。 単 独 の ア ル コー ル は この様 な構 造 を示 す が, アル コ ール を 混 合 す る と, そ の 混合 比 の違 い に よ り混 晶 な どの 形 成 が起 り, FPやTPの 値 に変 化 が み られ各 結 晶形 を示 す温 度 領 域 が変 わ る こ と も知 られ て い る6)。 Fig.-2. に は実 験 で 用 い た セ チ ル ア ル コー ル とス テ ア リル ア ル コー ル の 混 合 比 を 変 え た場 合 のDSC測 定 に よ るFPとTPの 変 化 を 示 す 。 Fig.-2か ら明 らか な様 に, 混 合 比 に よ りFPやTPの 変 化 が み られ, 特 にTPの 変 化 が著 し く両 者 の 混 合比 が 6:4附 近 で最 も低 いTPを 示 した 。 X線 回 折 か らは こ のFFPとTPの 間 が い ず れ の混 合 比 で もα型 の 結 晶構 造 を と り, TP以 下 は β型 あ る い は γ型 の 領 域 で あ る こ と が確 認 さ れ た 。 特 に6:4の 混 合 付 近 で は 混 晶 を 形 成 し て い る こ とがX線 的 に 確 認 され た 。 3-1-2. ク リー ム系 に つ い て ア ル コー ル単 独 の 結 晶 的特 性 に つ い て 検 討 した ので, 次 にTable-1で 示 した 各 乳 化 系 につ い てDSC測 定 を 行 っ た 結 果 をFig.-3に 示 す 。 Fig.-2の 結 果 と比 較 す る と, FPは 若 干 上 昇 し, TP は 著 し く低 下 して お り, C3系 (ア ル コ ール 混 合 比6:4) 付 近 で は 約10℃ のTPを 示 した 。 この 様 なFPやTP の著 しい変 化 は この 系 か ら活 性剤 を除 い た アル コー ル と 水 だ け の 系 の 場 合 とほ とん ど同 じ 結 果 で あ り, FPや TPに 対 して 水分 子 が大 き く影 響 して い る こ とが 予想 さ れ た。 この 水 の影 響 響 につ い て は, 筆 者7) らやBrooks8) あ るい はLaurence9) らに よ っ て も報 告 さ れ て い る。 いず れ に しろ こ こで 得 た ク リー ム系 のDSC測 定 の 結 果 に基 ず き, 各 処 方 系 の ク リー ムの 安定 性 につ い て, 顕 微 鏡 観 察, 粘 度, X線 回折 やDSCの 測 定 か ら詳 し く検 討 して み た 。
Fig.-3. Influence of 1-octadecanol on the melting point and trasition point of 1-hexadecanol in the cream.
Table-2 Stability of Creams Evaluated Based on the Change in Appearance and Consistency after 1 Month. 3-2. ク リー ム の安 定性 3-2-1. 粘 度 の経 時変 化 Table-1で 示 した 各 処 方 系 の ク リー ムの 安定 性 を 調 べ て み る と, Table-2に 示 す 様 に 保 存 温 度 に 依 存 して お り, 安 定 な 系 は経 時 に よ る変 化 が み られ ず, Fig.-4 (A) に示 す 様 に光 学 的 に 異方 性 を示 す 粒 子 が 観 察 され た。 一 方 不 安 定 な 系 はFig.-4 (B) に示 す 様 に球 状 の粒 子 は消 失 し, 新 た に菱 形 あ る い は六 角 形 を示 す 結 晶 の析 出が み られ た。 こ の様 な状 態 変 化 は試 料 の保 存 温度 と共 に冷 却 方 法 の 違 い (急冷: F, 徐 冷: S) に も関 係 して い るこ とが 予 想 され た の で, 代 表 的 な処 方 系 と してC1, C3, C6を 選 び そ の保 存 温 度 お よび冷 却 方 法 の違 い に よ る粘 度 の経 時 変 化 を 調 べ た。 得 られ た結 果 をFig.-5に 示 す 。 Fig.-5か ら明 らか な よ うに, 不 安 定 な 系 は数 日の う ち に粘 度 の低 下 を示 し, 安 定 な系 は1ヶ 月後 で もほ とん ど粘 度 変 化 が み られ ず, 保 存 温 度 や 冷 却 方 法 に安 定 性 が 密 接 に関 係 して い る こ とが 理 解 され る。 特 に冷 却 方 法 の 違 い で は最 終 的 な粘 度 低 下 を きた す 系 で もFとSと で そ の粘 度 低 下 の傾 向 に差 が み られ, 特 にC1の25℃ で は Fの 場 合1日 後 にす で に急 激 な粘 度 の低 下 が み られ る の に較 べ, Sで は10日 近 く粘 度 を 維 持 して お り, Sの 場 合 の方 が 比 較 的 に粘 度 が 低 下 し に くい 傾 向 を 示 した 。
o/wク リ ー ム の セ タ ノ ー ル に よ る 安 定 化 機 構 3-2-2. X線 回折 の経 時 変化 上 述 の粘 度 変 化 と並 行 して, 同 じ くC1, C3, C6の 処 方 系 につ い てX線 回 折 パ タ ー ンの経 時 変 化 を調 べ てみ る とFig.-6の 結 果 が 得 られ た 。 Fig.-5の 粘 度 変 化 と 対 応 させ てみ る と, 粘 度 低 下 の み られ な い 系 で は21.4° に4.15Å の面 間隔 を 示 す1本 の 強 い ピ ー クが 現 わ れ るだ け で, これ は 経 時 に よ って も ほ とん ど変 化 が み られ な い 。 一 方 粘 度 低 下 を 示 す 系 は 経 時 に伴 い 回 折 パ タ ー ン に著 しい変 化 が み られ, 複 雑 なパ タ ー ンが 現 わ れ る と同 時 に ピー ク強 度 も強 ま る傾 向を 示 した 。 そ こで これ らの新 らし く現 わ れ た 回折 ピー クを 解 析 す る と, 粘 度 低 下 の み られ な い 場 合 の21.4° の強 い ピ ー クは α型 ア ル コ ー ル の短 面 方 向か らの 回折 ピー ク に 一 致 し, 粘度 低下を示 す場 合の複雑な ピークは β型あ る い は γ型 ア ル コー ル の長 面 方 向 や短 面 方 向 の 回 折 ピ ー ク に 一致 した 。 この 様 にX線 回 折 パ ター ンの経 時 変 化 は 粘 度 の経 時変 化 と極 め て 良 い 対 応 を 示 し, 系 の 安 定 性 と アル コ ール の 結 晶 構造 とが 密 接 に 関 係 して い る こ とが 判 った 。 又, 冷 却 方 法 の 違 い に よ り回 折 パ タ ー ン変 化 の 傾 向 が 異 な る こ とは 結 晶 の 転 移 速 度 に 関 係 して い る と予 想 され た 。
(A) Crossed Nicols
(B)
Fig.-4. Microphotographs for the cream C3 (A) and C1 (B) after one month storage at
25•Ž (•~400).
(A)
(B)
(C)
Fig.-5.
Change in viscosity
of creams on aging.
(A): C1, (B): C3 and (C): C6. F-Process
; fast cooing process and S-Process;
slow cooling process.
3-3. 結 晶構 造 と安 定 性
粘 度 やX線 回 折 の経 時 変 化 お よび 安 定 系, 不 安 定 系 の 顕 微 鏡 観 察 の結 果 とFig.-7のDSCの 結 果 とを対 応 さ せ て み る と, ま ず 保存 混 度 との 関 係 で は経 時 変 化 のみ ら
れない安定 な系はその保存条件 がいず れ もα型の結晶構
造 を示 す温 度領域にあ り, 不安定 な系 はTP以 下 の β型
あ るいは γ型の温度領域にあ ることが判 る。
即ち, 安定
系お よび不安定 系はX線 回折か らも判 る様に乳化直後は
いずれ もα型の構 造で系が構 成 されてい ると推察 され,
前 者はその保存 条件 が α型の温 度領域であ り結晶転移が
起 らないために安定 状態が維持 され るのであろ う。
一方
後者 はそ の保存条件 が β型 あ るいは γ型の温度領域であ
るため乳化 直後は一時的に α型 が形 成 されて も, 時間 と
ともに α型 か らβ型 あるい は γ型 へ と結 晶転移が生 じ,
そ れが球状 の乳化粒 子の破壊を伴 う系の不安定 化へ と進
む もの と推 察 され る。
又, 冷 却方法の違 いに よってみ られ る安定 性の差 につ
い て は, C1系25℃ の場 合 に 顕 著 に み られ る様 に, 保 存 温 度 が β型 あ るい は γ型 の領 域 で あ っ て も, Sの 方 が Fよ りそ の 安定 性 が 若 干 良 い の は, 高温 で 乳化 後 の冷 却 過程 で α型 の 結 晶 領 域 に と ど ま る時 間 がSの 方 が長 い た め, 一 時 的 に形 成 さ れ る α型 の 結 晶構 造 内, あ るい は 後 述 す る液 晶構造 内 の 不均 一 性, 即 ち結 晶 格子 の 乱 れ な ど が 少 な い た め に結 晶 転 移速 度 が遅 くな る こ とに起 因 す る と推 察 さ れ る。 実 際 に経 時 に伴 う結 晶転 移 量 をDSC測 定 か ら定 性 的 に 調 べ て み る と, Fig.-7の 結 果 が得 られ, Fに くらべSの 方 が α型 か らβ型 あ るい は γ型 へ の結 晶 転 移量 に 対応 す る吸 熱 ピ ー ク高 が小 さ く転移 量 の 少 な い こ とが 見 出 され た 。Fig.-6. Change in X-ray diffraction patterns of the cream on aging at various temperat ures. Greek letters denote the crystal
forms. F; fast cooling, S; slow cooling.
Fig.-7. DSC curves obtained from the C1 on aging at 25•Ž. F-Process; fast cooling and S-Process; slow cooling.
こ の様 に, ク リー ム の安 定 性 と用 い る高 級 アル コ ール の結 晶構造 との関 係 が 明 らか と な り, 特 に乳 化 粒 子 の破 壊 に伴 うア ル コー ル結 晶 の析 出が 系 の粘 度 低 下 を きた す 一 因 で あ る こ とが 明 らか とな っ たが , Barry10) らは類 似 した 系 の レオ ロジ ー測 定 の結 果 か ら, 粘 度 維 持 の因 子 と してfrozen liquid crystalあ るい はfrozen micelle な どの存 在 を 示 唆 して お り, 我 々 も別 の実 験11) か ら系 が 安 定 な状 態 を 示 す 場 合 には そ のX線 小 角 回 折 か ら Fig.-8 (A) の 回折 パ タ ー ンを得, 劣 化 して しま った 状
o/wク リ ー ム の セ タ ノ ー ル に よ る 安 定 化 機 構 態 か らはFig.-8 (B) の 回折 パ タ ー ン を 得 た 。 (A) の 示 す 面 間 隔比 は1:1/2で あ り構 造 的 に ラ メ ラで あ る。 一 方 (B) は β型 あ るい は γ型 の アル コ ール 結 晶 の 長 面 で あ る (OO2) 面 に相 当 す る こ とが 判 った 。 3-4. 液 晶 相 の存 在 Fig.-8で 示 した 様 に 安 定 な 系 に は ラ メ ラ構 造 の 液 晶 相 の存 在 が 見 出 さ れ, そ れ が 劣化 して し ま うと この 液 晶 の ピー クは 消滅 し, ア ル コー ル結 晶 の ピ ー クが新 た に 現 わ れ る こ とが 明 らか とな っ た 。 そ こで この 液 晶相 の経 時 安 定 性 につ い てX線 小 角 回折 か ら調 べ て み た 。 得 られ た 結 果 をFig.-9に 示 す 。 Fig.-9か ら明 らか な 様 にC1 系 (A) の場 合 は25℃ 1週 間後 で もSの 場 合 は ま だ液 晶 の 回 折 パ タ ー ンが 認 め られ るが, Fは そ の パ タ ー ンが 完全 に消 滅 し, ア ル コー ル結 晶 の 回折 パ タ ー ンが み られ た 。 一 方 安 定 性 の 良いC3系 (B) につ い て は , F, Sい ずれ の場 合 も25℃ 1ヶ 月 後 で も液 晶 の 回 折 パ タ ー ンが 認 め られ た 。 こ の様 にX線 小 角 回折 パ タ ー ン も粘 度 やX線 広 角 回 折 パ タ ー ンの経 時 変 化 と極 め て 良 い対 応 が得 られ, 液 晶 構 造 が 安 定 に維 持 され る場 合 もや は りα型 の構 造 を示 す 温 度 領 域 が 必 要 で あ る こ とが 見 出 され た 。 又, 冷 却 方 法 の違 い で は や は りSの 方 が 液 晶 の 破 壊 速 度 が 比 較 的 遅 く, これ も前 述 の 場 合 と同 様 にS過 程 で は α型 の 領 域 に と ど ま る時 間 がFよ り長 い た め で あ ろ う。 即 ち, 液 晶構 造 内 の 不 均 一 性 な どがFに 較 べSの 方 が よ り 少 な い た め, 液 晶 中 の アル コ ール が β型 あ るい は γ型 へ と結 晶 転 移 す るの に 長 い 時 間 を 要 す るた め と結 論 付 け られ る。 Fig.-8. Small angle X-ray diffraction patterns
obtained from the C1 immediately after
preparation (upper) and after one month storage at 25•Ž (lower).
Fig.-9. Small angle X-ray diffraction patterns obtained from the C1 after one week storage at 25•Ž (A) and the C3 after
one month storage at 25•Ž (B). F-Process; fast cooling process and S-Process; slow cooling process.
4. 総 括 o/wク リー ムの 安定 化 に 寄 与 す るセ タ ノー ル の 役 割 に つ い て検 討 して きた が, そ の 安定 性 を左 右 す る最 も大 き な 因 子 は 用 い るア ル コー ル の結 晶構造 で あ る こ とを 見 出 した 。 構 造 的 に α型 を 示 す る温 度 領 域 に あれ ば, β型 や γ型 へ の結 晶 転 移 が起 らず 経 時 安 定 性 の極 め て 良 い こ と が 判 っ た 。 この α型 を 示 す温 度 領域 は セ チ ル ア ル コー ル や ス テ ア リル ア ル コー ル を単 独 で用 い る よ り混 合 した方
が 広 ま り, 又 水 の存 在 で も 著 し く広 ま る こ と も 見 出 さ れ, 過 剰 の水 が 存 在 す る ク リー ム系 で もア ル コー ル の混 合 比 が6:4付 近 で 最 も広 い α型 の温 度 領 域 を と る こと が 明 らか とな っ た 。 又, 冷 却 方 法 の違 い に よっ てみ られ た安 定 性 の差 も結 晶構 造 に起 因す る もの で あ り, 徐 冷 の場 合 はそ の冷 却 過 程 で α型 の領 域 に と どま る時 間 が 急冷 の場 合 よ り長 い た め, 保 存 温 度 が β型 あ るい は γ型 の領 域 で あ っ て も一 時 的 に形 成 され るα型 結 晶 の 格 子 の 乱 れ な どが 少 な い こ と に よ り比 較 的 安定 で あ る と思 わ れ た 。 ク リー ムの粘 稠 性 に 関 して はX線 小 角 回 折 の 測 定 結 果 か ち, ラ メ ラ構 造 の 液 晶 が存 在 す る こ とを 見 出 し, そ の 安 ピ 定 化 もα 型 の 領 域 で な け れ ば な らな い こ とが 見 出 され, 不 安 定 な 系 は 容 易 に そ の構 造 が 破 壊 され アル コ ール 結 晶 の 析 出 す る こ とを 見 出 した 。 又, 冷 却 方 法 の 違 い に関 し て もや は り徐 冷 の 方 が 液 晶構 造 の 形 成 や 成 長 に 関 与 す る 時 間 が 長 い た め, 急 冷 に 較 べ よ り安 定 性 の 良 い こ とが 判 り た 。 い ず れ に し ろ系 の不 安 定 化 は 乳 化 粒 子 の 破 壊 と と も に, 液 晶構 造 の 破 壊 に よ る もの で あ り, こ の破 壊 が 結 晶 転 移 と密 接 に 関 係 して い る こ とか ら, こ の転 移 は ミセル 内 に 可 溶 化 され た アル コ ール 分 子 が 核 とな り, 乳 化 粒 子 や 液 晶 内 の アル コ ール 分 子 が 拡 散 して 結 晶 成 長 の起 る乳 化 重 合 に 類 似 した 機 構 で 進 行 す る と推 定 され る。 同 じ様 な 考 え 方 をG. E. Mapstone12) ら も 提 案 して い るが, と の機 構 につ い て は ま だ十 分 に解 明 され て い な い 。 以 上, 極 め て 単 純 な系 を 用 い て検 討 して き た が, 系 の 粘 度 低 下 に伴 う結 晶 の析 出 につ い て は ワセ リ ンや 流 パ ラ な どを含 む 製 品処 方 に近 い系 で も同 じ結 果 が得 られ て お り13), 医薬 品 お よび化 粧 用 の市 販 セ タ ノー ル はそ の ア ル コ ー ル組 成 がC3系 の組 成 に近 い こ とは非 常 に興 味深 い こ とで あ る。
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