論 文
ワープロ使用文書と手書き文書の比較
坂本忠明 関口芳廣(平成4年8月31日受理)
Comparison between Documents with
Word-processor and Handwritings
TadaakiSAKAMOTO YoshihiroSEKIGUCHI Abstract In this paper, the documents which are written with word−processor are compared with handwritings. In results, the following facts are known, (1)We tend to use more verbs in the documents written with word−processor than hand− wrltln9S. (2)The omissions of subject and object cases in the documents written with word−processor are fewr than handwritings. (3)We tend to use many words which modifiy preceding phrases in the sentences written word−prosessor. (4)We tend to describe several subjects in the document written with word−processor. (5)The people who have been using word−processor for a long time are good at reading Chinese characters, but bad at writing them. 1.はじめに 教育工学の目的は,教育を効率的かっ効果的に行う ための様々な方法を模索し,分析を通して得た成果を 実際の教育に還元させることにある[1][2].近年教育 機器として,ワープロなどの計算機環境を利用する場 合が多い[3].このためよりよい教育をするには,ワー プロなどの使用の影響を求めておく必要がある[4].ま たワープロの必要性を訴えている学生も多い.特にレ ポート作成などにワープロを用いる要求は極めて多い [5〕[6].ワープロは,切り貼りなどの機能や図やグラ フなどの図的表現を組み込むこと,また手書きに比べ て文字を綺麗に表現できるなどの利点があり,これが ワープロを導入する大きな誘因になっている[3][6]. しかしワープロを使うことで人間の思考などにどのよ うな影響があるかを調ぺた研究は少ない[3][7][8][9] [10]. 文書分析は,言語学,認知心理学などの分野で研究 *電子情報工学科,Department of Electrical Engineering& Computer Science. されているが,ここでの研究は英文が多く,日本語は ほとんど扱われていないのが現状である〔3][4][7][8] [9][10][11][12][13]〔14][15].特に日本語ワープロ と手書き文の比較による文書分析は,極めて少ない[3] [7][8]〔9]〔10] 本論文では,作成した文書の分析と漢字の読み書き 能力を調べ,ワープロ使用の影響を述べる.文書分析 は4通りの実験を行い,そこで得られた各文を分析し, 傾向を解析する.漢字にっいては読み書きテストを2 回実施し,その結果を検討する. 2.実験 実験は2種類ある.一っが漢字に関する能力テスト で,もう一っは文書作成の実験である.前者はテスト 結果と,ワープロ使用経験との因果関係を求める.テ スト問題は,朝日新聞社が発刊している朝日ジャーナ ルの就職用一般常識の漢字の読み書きテストを利用す る.後者は被験者が生成した文書をワープロを使用し た場合の文書と手書きで生成した文書の比較,検討を 行う.
平成4年12月 山梨大学工学部研究報告 第43号 2−1.被験者 被験者は大学生で最初に, 条件1:ワープロ使用経験が皆無である者 条件II:ワープロ使用経験有りで,使用経験が400 時間を越える者 の2種類の条件で選定する.さらに条件1は 条件1ユ:今後ワープロを使う予定がない被験者群 条件12:今後ワープロを使う予定である被験者群 の条件別に分類する.このような分類には,アンケー ト調査を用いる(付録). 2−2.実験 アンケート結果から被験者を分類する.そして漢字 の読み書きテストを行う.次に各被験者は手書きで文 書生成を行い,三週間後にワープロを用いた場合の文 書生成を行う.ワープロ使用経験なしの被験者群の内, 条件12の群で,ワープロ使用経験が400時間を越え たと思われる時点で,同様な手書きでの文書生成とワ ープロでの文書生成を行う.そして再度漢字の読み書 きテストを行い,最後にもう一度最初のアンケートの 内容で被験者の調査を行う(図1). test1:漢字の読み書きテスト:全被験者 実験1の実施 課題:・山梨の景観の感想文 ・制限時間10分
難1:三1竃
匡亘透亘三⑳亘亘を雇元頭塁⊃
実験2の実施 課題:・山梨の景観の感想文 ・制限時間10分欝二:1竃
test2:漢字の読み書きテスト:全被験者 ’1.実験手順 3.結果と考察 および周辺を再度ともに分析しなおし,共通な分析結 果となるまでこれを繰り返す. 3−1.アンケート結果から (1)被験者 全被験者は,計算機科学および情報コース専攻の3 年次生54名と,計算機科学専攻の大学院生10名, 特殊教育専攻の4年次生10名,幼児教育専攻の4年 次生10名で合計84名である. 条件11の被験者は最初と最後のアンケートよりユ0 名が選定された.条件12の被験者も同様に10名が選 定された.条件IIの被験者については,最初のアン ケートで42%がワープロの使用経験がある.その内71%がパソコンPC9801上で動作しているワー
プロソフト”一太郎”を使用している.その使用経験は, 400時間以上が84%である.これから被験者を選 定すると21名となる.最後のアンケート結果で条件 IIの被験者は,900時間以上のワープロ経験がある (表1). 1.被験者群壼巴巴プロ鯛鯉≡一一.一一一2.o名.川
条件11:今後もワープロを使わない10名 条件12:今後ワープロを使う 10名 条件II ワープロ経験有り21名
アンケート結果から分類した被験者群別に文書を分 け,各文の分析を行う.その文書分析には,別々に2 名の分析者が全データを調ぺ,っぎに各々の結果を比 較する.異なる分析結果が生じた場合には,その箇所 以上より実験で用いるワープロおよびそのソフトは, 条件IIの被験者にあわせて,パソコンPC9801上 で動作する一太郎を選定した. 「.@…’丑r
撒: Xl6 −2L.1.−z − 一_x⊥8_ .. 丁苗「 “”一 ”Hy’o 『M「 ユ正 互: ..M..Q dt. 一!』−1 宣 ユΩ〉 _ 」LLQ. _. 条件Il .⊥L] 十}書一 」ユ」_ _L.1 .醤i_
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注:☆は行った実験一27一
(2)被験者の実験割り振り 文書比較を行うために同一課題で文書生成を行う. この場合,被験者同士の交流や前の実験で生成した文 書などにより,生成する文書に影響を及ぼす可能性が ある.それを調べる手段として,一つの実験しか行わ ない被験者と,同一被験者が複数の実験を行った場合 の文書比較をする(表2).比較する対象は,短文に 分解した場合の数などがある.その中で一貫した傾向 があったのは,短文に分解した数,一文の構成,文書 構造で,さらにこの3種類はt検定により5%の有意 水準にあった.よって同一課題での影響は少なく,統 計的に意味がある結果が求められたと考えられる. 3−2.短文での分析 被験者により生成された各文をできるだけ短文にし, 各被験者群の傾向を調べる.その指針は動詞に注目す る. (1)短文数 ワープロ経験がない場合,手書きで10分間に創出 できる短文数は17くらいである.ワープロ経験が増 すにしたがって10分間に創出できる短文数は増加す る(図2).ワープロ使用では,ワープロ経験がない 場合,10分間で創出できる短文数は,ワープロー太 郎の使用で7である.ワープロ経験が増すにしたがっ てその数は増加する.このときのワープロ使用経験が
400時間で3倍,900時間以上で4.3倍となる
(図3).条件1、噸者群欝賠顧
両実験の平 17.1文 条件12の被験者群 1.4 1.2 両実験の平 17.7文竺瓢1璽違り
プロ使用経験900時間以上の被験者(条件II)が生 成した文書を比較する.この結果はほぼ同じである. これよりワープロの使用経験が極めて多くなることで ワープロで生成できる短文数と手書きで生成できる短 文数が一致する.その数は10分間の制限時間で30 である.他の被験者(条件12)を比較しても同様にワ ープロ使用経験が増すにしたがって短文数が増加する 傾向がある. (2)省略 被験者の文書は,いたるところに主語の省略がある. たとえば「綺麗な山々に囲まれている.」という表現 があるが,ここでは明らかに「山梨県は」という主語 が抜けている.この個数の比を 各被験者群の主語の省略総数 各被験者群の短文の総数 として数量化する.つぎにワープロ使用経験なしでさ らに今後もワープロを使わないと宣言した被験者が, ワープロを使用して文書を生成した実験(条件11で実 験②)に注目する.ここでのこの個数の比を1とおき, 他の被験者群の各実験で省略した比率を調ぺる(図4). 「 条件11の被験者群 実験② 実験④ 両実験の平均7.3文 条件12の被験者群 条件IIの被験者群 20.0文 30.6文 注:数値は平均 3.短文数:ワープロ使用の場合縫2’1’Z
当 手書き(実験③)とワープロ使用(実験④)でワー 1.5 条件11実験③ 1・4l∈一条件凌験①≒条件ll実験①
1・3−p一条件1・実験③≒条件II実験①
1.1 1.0 条件11実験② 一条件12実験② 0.9− o.s .L_−ft{4 i ,:,w@「
一図4.主語の省略数
ワープロ使用経験がない被験者群(条件11,12) は,手書きの場合(実験③,①)に最も多くの主語の 省略がある.ワープロ経験が増すにしたがい,手書き での実験で主語の省略数が減少している(条件12実 験①と③).ワープロ使用経験有りの被験者群も同様平成4年12月 である(条件II実験①と③).これよりワープロ経験 が増すにしたがって,主語の省略数が減少する傾向に ある.それが手書きの場合に顕著に現れている. 生成された文は主語のみならず,より多くの省略が ある.t検定で5%の有意差水準にあった省略に目的 語がある.たとえば「私は心優しい人々だと感じてい ます.」という文がある.ここでは文の前後関係から 「山梨県人を」という目的語が省略されている.これ を主語の省略数の比と同様に数量化し,さらに同様な 基準(条件11の実験②を1)をおく(図5). 1.3 1.2 1.1 1.0 0.9 0.8 条件12実験①≒条件11実験① 条件12実験③≒条件II実験① 条件12実験④≒条件II実験② 条件II実験③ 条件II実験④ 条件11実験② 条件11実験④ 条件12実験② ’5.目的語の省略 この場合も主語の省略と同様に,ワープロ使用経験 が増すにしたがい,目的語の省略数が減少する傾向に ある.それが手書きの場合に顕著に現れている. (3)考察 これらの結果の因果関係を被験者の行動観察および 口述記録から比較,検討して考察する. ・短文数について ワープロはその特徴としてよく知られているカット &ペースト(一太郎でいう移動)機能がある.被験者 の行動観察ではワープロ使用の実験について,ワープ ロ使用時間が400時間くらいであるとき,非常に多 くのカット&ペースト機能を利用している.この機能 は,作成した文の位置を変えるために用いる.短時間 に文を作成するためにあらかじめ多くのキーとなる文 を作成し,後にこれを用いて都合のよい文の配置へと 変更する.一方ワープロ使用時間が900時間を越え る被験者群(条件II)の行動観察では,カット&ペー スト機能の使用が少ない.これよりワープロを使うこ とで最初力・ソト&ペーストで対処する学習が行われ, 次第にこれを使わなくてもすむ配置を含めた文構成へ と学習するようになると考えることができる. 手書きの場合,既に作成した文を消し,書きなおす 作業が大変なため,終始文の配置に注意しながら文書 を生成する.口述記録では,前の文に注意しながら現 在なにを書くかを練っている意見が極めて多い.ワー ・プロ経験なしでしかも今後もワープロを使わない被験 者(条件11)とワープロ経験ありの被験者(条件II) は学年が同じであるため,授業でのレポート数は同等 と見ることができる.このため文書作成数が同じと考 えると,10分間で表出できる短文数が一定となるに は,再配置を行わないですむ文書構成に注意が常に向 いていると考えることができる. 以上より10分間での制限時間内に表出できる短文 数が,ワープロ使用時間が増すともに増加する現象は, 文の再配置の学習によるものであるということができ る. ・省略について 主語および目的語の省略は,文の分かりやすさに関 係する.行動観察を調ぺるとカット&ペーストの機能 が関係している.ワープロ使用経験が増すにしたがい この機能を主語および目的語にっいて用いる.ワープ ロ使用経験の増加にしたがい短文数が増加すると同様 に再配置に関係する.ワープロ使用での学習が端的に 現れたのだと考えられる. 他にコピーなどの機能がワープロにある.それらの 使用回数はワープロの使用時間400時間と900時 間以上で差がない.このため短文数の増加の理由と省 略数の結果を説明できない. 3−3.一文の構成 生成された各文がどのように構成されているかを文 法と意味のっながりから追う.その場合,主語一述語 の文構成として, case1:後ろの単語が述語の意味をなす. case2:前の単語が述語の意味をなす. があり,また目的語としてまとめると, case3:文全体に関係する. がある.また指示代名詞の役割をもっ, case4:前の文を指す. がある.たとえば「その意味で人知れず咲くたんぽぽ の花はいいと思います.」は図6の文構成となる.こ れ以外にたとえば目的語が一文中の特定の箇所にある, いわゆる部分的な目的語となる場合がある.このよう な他の多くの文構成を分析したが,各経験者同士およ
一29一
その一(私は)一咲く一花は一いい一思います
: 1 4 case2 〔 〔
£ase4 1 ‘ case1 ・ 1 :..__一_∫壌.sp3−T−一__一一」 “6.文の関係例一 び被験者群で有意な差がなかった.よってこの4種類 の結果を述べる.この結果の数量化には,まず生成さ れた各文にっいて4種類を被験者毎に抽出し,その個 数としての和を被験者群毎に求める.っぎに各関係の 総数から4種類の占める割合(百分率:%)を求める. (1)手書きの場合 ワープロ経験がない被験者群(実験①の条件11と 12,実験③の条件11)の特徴として,後ろに述語が ある(case1)場合が特に多く,次に前に述語がある (case2)場合と文全体に関係する(case3)場合が同 じくらいである.全般的に前の文を指す(case4)場合 は少ない.またワープロ経験が増すにしたがい(実験 ①の条件IIと実験③の条件12, II),前に述語がある (case2)場合が増える.ワープロ使用経験が900時 間を越える被験者群(実験③の条件II)では,前の文 を指す(case4)場合が増えている(表3).一表3・文の構成:書きの場合二二「
実㌶偉B9619199日;
1有(条件II) 45 34 7 10 3
3 無(条件1ユ) 無(条件12) 有(条件II) 42 47 43ロ!!20121
32 5 4 7 10 16 10』
4’文の構成:ワー唖鵬
bコ
ワプロ経験 case1 case2 case3 case4 他
2 無(条件1ユ) ウ(条件12) L(条件II) 61 T3 S5 15 V29 15 Q0 W 8710 008 4 無(条件11) ウ(条件12) L(条件II) 67 S7 S2 13 R5 R3 13 V5 7711 048 (2)ワープロ使用の場合 ワープロ使用経験がない被験者群(実験②の条件 11,12および実験③の条件11)は,後ろに述語があ る(case1)場合が極めて多い.またワープロの使用経 験が増す(条件12,II)にしたがい前に述語がある (case2)場合が増す.さらにワープロで文書を生成す ると前の文を指す(case4)場合はそれほど増えていな い(表4). (3)口述記録から 被験者の口述記録では,ワープロ使用経験者の場合, 『何が』より『どうか』を注目する.それを先に述べ, っぎに「何が」を書く.たとえば景色に注目すると秋 の山の視覚イメージが想像され,その中で紅葉として の”もみじ”に的を絞る.その結果「紅く輝いている紅 葉は実にきれいだ」となる.このようなイメージのを 先行させ,イメージを説明した(この例では「紅く輝 いている」)後に『何が』としての主語をおく.そし て全体をまとめる(この例では「実にきれいだ」). このような傾向がワープロ使用経験が増すとともに増 えている.一方ワープロ使用経験がない被験者は,逆 に『どうか』より『何が』に注目する.たとえばまず 『何が』として紅葉を書き,つぎに『どうか』として まとめる.その結果「紅葉は特に紅くきれいです」と なる.これが多い.ワープロ使用経験が増すとともに このような口実記録の内容は減少している.また他の 口述記録の内容もあるが,ワープロ使用経験にともな って上昇および下降するものはない. (4)考察 ワープロ使用経験がある被験者群は,トップダウン にまとめていく傾向がある.一方ワープロ使用経験な しの被験者群は,ボトムアップでまとめる傾向がある と口述記録で読み取ることができる.これがワープロ 使用経験が増すことにより,手書きおよびワープロ使 用で文書を作成する場合にともに前に述語がある場合 が増す傾向の理由と考えられる. 何故そのようなまとめる傾向の違いが生じたかを考 える.ワープロを使用するにはその機能および操作を 知っておく必要があり,適時にそれを使わなければな らない.そのため文書作成とともに常に機能および操 作に注意を払う必要がある.そこで書きたいことの全 体をイメージし,先に簡単にそれを記述する.つぎに その記述した内容を見ながら細かな事象を取りあげて 記述する.これをワープロの使用経験が増すとともに 学習したと考えられる.一方ワープロ使用経験がない 被験者は,書くことのみに注意が集中でき,書きたい ことをつぶさにイメージしては書いて行く.そして最 後にまとめる.このことよりまとめる傾向の違いは, 注意すべき項目がワープロの機能および操作のイメー ジと書くことの2種類と,書くことのみの1種類の違 いから生じると考えられる.
3−4.文書構造 生成された各文の意味のまとまりに注目して分解す る.その分解した文がどのように構成されているかを 構造として捉える.たとえば 文1:綺麗な桜の花が咲く. 文II:そのことで山が活気づき,人々の心を和ませ てくれる. 文III:わたしはそのことだけでも山梨が好きである. 文IV:人間性にっいては,現在金銭的なトラブルも ない. 文V:その面でも山梨県民はあこぎな人間とは思え ない. 文VI:人情も厚く,穏和な性格だと思う. という文書があるが,これは図7のような構造をなす. 山梨県について [天間性 向がある(表5) 自然・景色 「文v 一一表5.文書構造での記述要素:手書きの場合一 単位:% 1 実 3
,,プ。繰「毒疏遍訂要素4
無(条件11) 50 無(条件12) 59 有(条件II) 47 38 28 23 13 13 22t
0 0 無(条件11) 無(条件12) 有(条件II) 57 40 38 文III 25 26 23 18 26 18当
0 8 20 〕主題 〕記述要素巴7._例
文II] 文旦 __ノ 主題は記述要素で構成されている.記述要素は主題 に対して何に注目するかである.全ての被験者の文書 を調べると,記述要素は 要素1:自然・景色 要素2:行政 要素3:人間性 要素4:行動 の4種類である.この記述要素の割合について,被験 者毎に和をとり,その総和からの率(百分率:%)を 求める. (1)手書きの場合 ワープロ使用経験のない被験者群(実験①の条件 11,12と実験③の条件It)は,記述要素を1から2 種類で説明する傾向が多く,さらに記述要素の周辺に 集中して文を書いている.文書の最後に付け足しにも う一っの要素で説明する傾向がある.一方ワープロ使 用経験が400時間(実験①の条件IIと実験③の条件 12)の場合は3種類の記述要素を用いているが,その 内の一っに特に注目して説明する傾向が多い.また9 00時間を越える被験者群(実験③の条件II)は,3 もしくは4種類の記述要素を均等に用いて説明する傾 以上より,手書きでの実験からワープロ経験が増す ことにより記述要素数が増え,しかも均等に説明する 傾向に変化していく. (2)ワープロ使用の場合 手書きの場合と同様であるが,ワープロ使用経験が ない被験者(実験②の条件11,12と実験④の条件 11)は,一つの記述要素に特に注目して説明する.付 け足しに他の記述要素を1,2説明する傾向がある (表6). 6・文諦造での記述要素:ワープ゜使用の場合n
単位:%i「三。経副悪1要素2要素3
ド 無(条件11) 無(条件12) 2有(条件II) 83 37 27 17 32 実無(条件 無(条件 4有(条件 18 0 31⊥o
笥
麗「 器1;1}2! 、劃_墾」2!一」一31一
(3)考察 記述要素の出現順序は,その番号(要素1,2,3, 4)と対応している.これは実験を行う前に例示した 文の出現順序と一致している.また記述要素の種類お よび数についても例示と同じである.このため出現順 序は例題の影響と考えることができる. またワープロ使用経験が増すことで,できるだけ多 くの記述要素を用いて説明する傾向がある.そのとき 説明数も均等に近づく傾向がある.ワープロの使用経 験の増加とともに,10分の短時間に情報を表出でき る数が増すことは短文数の分析により明かである.そ の理由にカツト&ペーストのワープロ機能がある.ワ ープロを使うことでカット&ペーストを行わなくとも 済むような文の作成方法まで学習が進む.そのことで 記述要素のまとまりや書きたいことがスムーズに表現 できるようになる.さらに説明数の均等化に注意が向き,たとえば記述要素を3種類に絞り,表現するなど の要求が満たされると考えることができる. ワープロ使用経験のない場合に一つひとっの記述要 素を順に説明していく傾向がある.一方ワープロ使用 経験が増すにしたがい,先に記述要素を述べ,各記述 要素を順に詳しく説明する傾向がある.ワープロは多 くの機能をもっている.このために被験者は,文の創 出とともにワープロ機能にも注意が必要となる.注意 を向ける対象は手書きの場合よりも多いと考えられる. このため,ワープロ使用の場合にあらかじめ書きたい ことを先に述べ,っぎに各々の述べたいことを順に書 く.ワープロ使用の経験が増すことでこれを学習する. これが端的に現れたのだと考えられる. 3−5.テスト結果 ワープロ経験なしとした被験者群は2種類ある(条 件11,12).その中で今後ワープロを使うと宣言し, 本研究で行った最終の漢字テストが終わった時点で実 際に使っていた被験者群(条件12)を調べる.この被 験者群の感想では,レポート等を作成するのに手書き とワープロをおよそ半々ほど使っているとの報告が極 めて多い.一方ワープロ経験ありの被験者群(条件II) で,本研究の最初の漢字テスト後の感想で,レポート 等をすべてワープロを用い,手書きはほとんどない状 況である.このような状況の違いが生じている.実際 のテスト結果は,ワープロ使用経験なしで今後もワー プロを使わない被験者群(条件11)と今後ワープロを 使うとした被験者群(条件12)でほとんど差はない. このためこの2種類の被験者をあえて条件1としてま とめる. (1)漢字の読み取り 最初のテストでは全ての被験者群は高得点である. 多少ワープロ使用経験の有りの被験者群(条件II)の 方が高い.最後のテストでもともに高得点である.こ の場合もワープロ使用経験有りの被験者群(条件II) の方が高い(図8). ワープロで文書を作成する場合に漢字変換とともに 漢字が表示装置上に表現される.それが該当するかの 判断を被験者が行いながら次へと進む.該当外の漢字 にっいても注意が向いている.このため,漢字の読み は常に活性化し,学習される傾向にある. (2)漢字の書き取り ワープロ使用経験がない被験者群(条件1)に比べ, 経験が有る被験者群(条件II)は極めて悪い.最後の テストではそれがさらに顕著に表れている(図9). (3)考察 漢字の読みは,意味に合う漢字情報をキーに,記憶 最 初 の テ ス ト 得 点 人 数
;1:澤ヂ難丑
〕 81∼85 86∼90 91∼9596−100墜コ
71−75Fi iii 最後のテスト 76∼80 W1∼85 W6∼90 X1∼95 X6∼100コ
一二}8.漢
璽当の読み〔取万百)テスト結果一 人 数璽難丑
得 点 T1∼55 T6∼60 U1∼65 U6∼70 V1∼75 V6∼80=
ス 80∼85 ト86∼90
91∼95 46∼50 51∼55 最 56∼60 後 61∼65 の 66∼70 テ 71∼75 ス 76∼80 ト 80∼85 86∼90kEi= コ
91磯の書き取りテストの結果_」
平成4年12月 第43号 内を検索する一種のパターン照合思考である口6].一 方漢字の書きは同様なパターン照合後に見つけられた 漢字パターンを手で表現しなければならない.手で表 現する活動がワープロによって代行される.パターン 照合思考では,漢字のすべての画に注意を向ける必要 はない.おおよそでほとんどの該当する漢字を見っけ ることができる.この注意の傾向がワープロ使用で訓 練された結果,正確な漢字を示すことができなくなっ たと考えることができる. 4.おわりに 教育工学としてワープロを利用する傾向が近年特に 増えている.しかしこれが人間にいかに影響を及ぼす かを調べた研究は少ない.本論文ではここに注目し, ワープロの利用経験の違いによる実験で文書比較を行 い,それを検討することで人間への影響を求めた.そ れを整理すると,ワープロの使用経験が増すことで (1)短文に分解できる数が増加する. (2)主語,目的語の省略数が少なくなる. (3)一文の構成において前の単語が述語の意味をなす場 合が増す. (4)文書構造として記述要素数が増え,均等にそれを説 明する傾向となる. (5)漢字の読みは多少促進されるが,一方書き取り能力 が低下する. という傾向がある.これらの理由として,ワープロを 使うための機能やその機能を使った文書の再配置の学 習および練習が影響するのだと考えられる. 現在,各文の意味に注目し,意味の構造およびその 表現方法の違いや,段落などの区切りがどう異なるか を比較,検討している.今後,文書生成過程を追うこ とで,いつ,どの地点で修正に入ったか,また修正内 容は何であるかを比較,検討する必要がある.このこ とで文書作成過程におけるワープロの影響を見つける ことができると考えられる.また重文,複文の分布を 調べる方法もあるが,本論文では述べていない.今後 の研究課題である. なおワープロ経験なしで今後ワープロを使うと宣言 した被験者群(条件12)の最後の漢字テスト結果と, ワープロ経験ありの被験者群(条件II)の最初の漢字 テストの結果がともに相関がとれるように実験計画を 練ったが失敗に終わった.被験者群を完全に統制(実 験計画法でいう統制群の制御)することができなかっ た点に問題がある.これは長期間の研究で常に問題視 され,実験計画法での研究課題である[17].
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[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] 参考文献 坂本昂:教育工学,日本放送出版協会,1991. 武村重和編:教育工学,福村書店,1990. 坂本昂:情報教育の課題,教育学研究,第57巻, 第3号,1990. 坂本忠明:認知と思考一研究ノート,山梨大学 (Working Report) , 1992. 坂本昂:情報教育実践の方向,日本教育工学会 シンポジウム(青山学院大学),基調講演資料, 1992. 長尾真:情報化社会の今後の課題,教育と情報, 文部省大臣官房調査統計企画課編集,No.412, 1992. 内田信子:作文の心理学一作文の教授理論への 示唆,教育心理学年報,25巻,pp.162−177, 1986. 内田信子:子どもはいかに推敲するか,日本教 育心理学会第28回総合発表論文集,pp.712−713, 1986. 鈴木宏昭,鈴木高士,杉山功,杉本卓:教科理 解の認知心理学,新曜社,1989. [10]坂本忠明,茅野希美子,関口芳廣,藤巻みどり :文書生成過程の分析,日本認知科学会第9回 大会,1992. [11] Crowly, S.:Components of the composing process, College Composition and Communi− cation, Vol.28, PP.166−169, 1977. [12」 Flower L. & Hayes, J. R.:A cognitive process theory of writing, College Composition and Communication, Vol.32. pp.365−387, 1981. [13] Voss, J. F., Vesonder, G. T., & Splich, G. J.:Text generation and recall by high− knowledge and low−knowlege individuals, Jurnal of Verbal Learning and Verbal Behavior, Vol.19, PP651−667, 1980. [14] Petrosky, A. R. &Bartholomae D.(Eds.): The teaching of Writing, Chicago, IL: The University of Chicago Press, 1986. [15] Chomsky, N.:Language and ploblems of knowledge, Cambridge Mass., MIT Press, 1988. [16] Eley, J.: Idnentifying rotated letter−like symbols, Memory & Cognition, Vol.10,pp.25−32, 1982. [17]ブイッシャ著,遠藤健児,鍋谷清治訳:実験計画 法,森北出版,1971. 付録 被験者調査に用いたアンケート内容を以下に示す. 設問(1)授業等で指示されたレポートを書くには, 主に何を使いますか. 回答: ロワープロを使う □手書き ロタイプライタを使う 口その他 設問(2)ワープロをもっている人について,いつ 頃から使っていますか. r−一一一一一 ’^析一一一’、 r−一一一一一一一一一一 一一一「 回答::□入学以前 : :[コ春休み前後 l t ぐ F i口1年生 i i□夏休み前後 i ト 1□2年生 1の:□冬休み前後 : i口3年生 i i口その他 i l□4年生 l L…一一………−y ヒ ロ 1□大学院 : :□その他 : L−一一一一一一.一一一一y 設問(3)ワープロをもっている人について,一週 間に何日使い,その日の使用時間の平均 を教えて下さい. r−一く何日〉一一rr−一く使用時間〉一一、