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箱根自然観察林に生息する野生動物 ―特にツキノワグマについて―

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Academic year: 2021

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玉川大学農学部研究教育紀要 第 3 号:39―42(2018) Bulletin of the College of Agriculture, Tamagawa University, 3, 39―42(2018)

39 箱根自然観察林に生息する野生動物

はじめに

 神奈川県南西部に位置する玉川大学箱根自然観察林に は多くの野生生物が生息する。農学部では、長年にわた り自然観察林内における自然や野生生物にかかわる教育 研究活動が行われてきている。  哺乳類についてもこれまで継続的に研究が実施されて きており、2010年にはニホンジカ(Cervus nippon)(杉 本 2013)、2017年にはツキノワグマ(Ursus thibetanus) (關・鈴木 2018)の生息が再確認されるなど、重要な発 見も得られている。  こうした野生生物の生息情報は、生態や保全にかかわ る研究を進める上での基盤となる。本稿では、箱根自然 観察林において教育研究活動を行う教員や学生への情報 提供を目的に、主に本地域におけるツキノワグマとその 他の哺乳類の生息(關・鈴木 2018)について概説する とともに、今後の野生動物管理について言及する。

論文概説

1.生息が確認された動物  2017年5月から10月にかけて箱根自然観察林内の15 地点に自動撮影カメラを設置した結果、12種の哺乳類 (ネズミ類とコウモリ類を除く)が撮影された(表1、 付図1)。この内、神奈川県レッドデータブック(神奈 川県立生命の星・地球博物館・神奈川県自然環境保全セ ンター 2006)の掲載種は、絶滅危惧Ⅰ類のツキノワグマ、 準絶滅危惧のアカギツネ(Vulpes vulpes)、ニホンイタ チ(Mustela itatsi)、ニホンリス(Sciurus lis)、絶滅の おそれのある地域個体群(西湘地域個体群)のニホンザ ル(Macaca fuscata)であった(表1)。また、撮影され た鳥類で神奈川県レッドデータブック(神奈川県立生命 の星・地球博物館・神奈川県自然環境保全センター 2006)の掲載種は、絶滅危惧Ⅱ類のヤマドリ(Syrmaticus soemmerringii)、準絶滅危惧のフクロウ(Strix uralensis)、 減少種のトラツグミ(Zoothera dauma)であった(表1、 付図1)。 2.箱根自然観察林におけるツキノワグマの生息  ツキノワグマは、かつては箱根町にも生息していたが、 戦前には絶滅したと考えられている(野崎ほか 1979)。 その後、1978年と2003年に全国で哺乳類分布調査が行 われたが、箱根町からは本種の生息情報は得られていな い(生物多様性センター 2004)。また、神奈川県で2006 年から2013年にかけて収集された情報を分析した結果 をみても、箱根自然観察林が位置する箱根町南部では生 玉川大学農学部環境農学科 東京都町田市玉川学園6―1―1 [email protected]

箱根自然観察林に生息する野生動物

―特にツキノワグマについて―

關 義和

【調査報告】 要 約  本調査報告では、神奈川県箱根町南部に位置する箱根自然観察林におけるツキノワグマとその他の哺乳類の生息 (關・鈴木 2018)について概説する。2017年の5月から10月にかけて本地域の15地点に自動撮影カメラを設置した 結果、ツキノワグマを含む12種の哺乳類(ネズミ類とコウモリ類を除く)が撮影された。箱根町南部においてツキ ノワグマの生息が確認されたのは戦後およそ70年ぶりとなり重要な発見となった。また、県内におけるツキノワグ マのこれまでの分布変遷と本研究結果から、県南西部における本種の分布域は徐々に回復傾向にあることが明らかと なった。 キーワード:絶滅危惧、ニホンジカ、野生動物管理、レッドデータブック、Ursus thibetanus

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40 息は確認されていない(日本クマネットワーク 2014)。  つまり、今回の研究における箱根自然観察林(箱根町 南部)でのツキノワグマの生息確認は戦後初めてという ことになり、非常に重要な発見となった。また、この研 究では複数個体(少なくとも3個体以上と推測)が継続 的に撮影されたことから、箱根自然観察林にツキノワグ マが恒常的に生息している可能性は高いと考えられた。 さらに、これまでのツキノワグマの分布変遷(生物多様 性センター 2004;日本クマネットワーク 2014)と今回 の研究で得られた生息状況の比較から、神奈川県南西部 における本種の分布域は徐々に回復傾向にあることが明 らかとなった。

今後の箱根自然観察林における野生動物管理

 神奈川県内においてツキノワグマの絶滅が危惧される 現状がある中で、分布域の回復が認められたことは保全 上重要な意味を持つ。今後、本地域におけるツキノワグ マの保全を進めていくためには、彼らの生息地の基本と なる森林を保全していくとともに、人との不要な軋轢が 生じないよう留意していくことが重要である。  ツキノワグマによる人身被害などが生じた場合、本種 が捕殺されるケースは少なくない。分布域が回復傾向に あると言っても密度は非常に低い状態であるため、ツキ ノワグマの有害捕獲を検討しなければならないような状 況になることは避ける必要がある。そのため、人との不 要な軋轢が生じないように、入山する際には鈴などの音 のでる物を身につけておくとともに、万が一遭遇した場 合に備えてクマ撃退用のスプレーも携帯しておくことが 重要である。  このようなリスク管理のための予防的対策を徹底する ことで、ツキノワグマとの遭遇の多くは回避できる。ク マの出没に対する過剰反応が原因で不要な捕殺が促進さ れたり、研究が大幅に中断されたりしてしまうような対 応は、野生動物管理を進めていく上でも望ましいものと は言えないだろう。リスクに対する過剰な恐れよりも貴 重な動物の存在を活かした教育研究が発展することを期 待したい。  また、今回の研究ではニホンジカも多く撮影された。 近年、ニホンジカは全国的に増加傾向にあり、森林植生 に様々な影響を及ぼしている(Takatsuki 2009)。下層植 生の消失は土壌流出の要因となるため、急峻な地形の箱 根山地では特に注意が必要である。さらに、ニホンジカ の増加による影響は植生だけではなく、無脊椎動物や鳥 類、ツキノワグマを含む中大型食肉目などの動物群集に まで波及することが示されている(柴田・日野 2009; 關ほか 2016;關 2017)。そのため、箱根自然観察林にお ける森林生態系の保全を進めていくためには、ニホンジ カの生息動向や生態系への影響についても把握していく ことが今後の重要な課題の一つである。 引用文献 神奈川県立生命の星・地球博物館・神奈川県自然環境保全セ ンター,編(2006)神奈川県レッドデータブック2006WEB 版:哺乳類.http://conservation.jp/tanzawa/rdb/rdblists/search_ bunrui?ctg=01&rnk=(2019年2月5日確認). 日本クマネットワーク,編(2014)「ツキノワグマおよびヒ グマの分布域拡縮の現況把握と軋轢抑止および危機個体群 回復のための支援事業」報告書.いばらき印刷株式会社, 茨城. 野崎英吉・古林賢恒・丸山直樹・常田邦彦・遠竹行俊(1979) 関東地方におけるツキノワグマの分布―アンケート・聞き 取り調査による―.哺乳動物学雑誌 8: 14–32. 生物多様性センター(2004)種の多様性調査―哺乳類分布調 表 1 箱根自然観察林において自動撮影カメラで撮影された 哺乳類と鳥類および神奈川県レッドデータブックにお ける各種のランク 和名 学名 レッドデータブックにおけるランク 哺乳類 ツキノワグマ Ursus thibetanus 絶滅危惧Ⅰ類 アカギツネ Vulpes vulpes 準絶滅危惧 タヌキ Nyctereutes procyonoides − ニホンアナグマ Meles anakuma − ニホンテン Martes melampus − ニホンイタチ Mustela itatsi 準絶滅危惧 ハクビシン Paguma larvata − ニホンジカ Cervus nippon − イノシシ Sus scrofa − ニホンザル Macaca fuscata 絶滅のおそれのある地域個体群* ニホンノウサギ Lepus brachyurus − ニホンリス Sciurus lis 準絶滅危惧 鳥類 ヤマドリ Syrmaticus soemmerringii 絶滅危惧Ⅱ類 フクロウ Strix uralensis 準絶滅危惧 トラツグミ Zoothera dauma 減少種 *西湘地域個体群 2017 年5 月から10 月の間に撮影された哺乳類(ネズミ類とコウモ リ類を除く)(關・鈴木 2018)と鳥類を示す。鳥類は、同定可能 であったものの内、神奈川県レッドデータブック(神奈川県立生 命の星・地球博物館・神奈川県自然環境保全センター 2006)に掲 載されている種を示す。

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箱根自然観察林に生息する野生動物 41 査報告書.環境省,山梨. 關 義和(2017)中大型食肉目への影響.日本のシカ―増え すぎた個体群の科学と管理―(梶 光一・飯島勇人,編), pp. 83–101.東京大学出版会,東京. 關 義和・丸山哲也・奥田 圭・竹内正彦,編(2016)とち ぎの野生動物―私たちの研究のカタチ―.随想舎,栃木. 關 義和・鈴木貴大(2018)神奈川県箱根町南部におけるツ キノワグマの生息確認.哺乳類科学 58: 247–252. 柴田叡弌・日野輝明(2009)大台ケ原の自然誌―森の中のシ カをめぐる生物間相互作用―.東海大学出版会,神奈川. 杉本和永(2013)箱根演習林の動物たち.全人 87: 14–17. Takatsuki, S. 2009. Effects of sika deer on vegetation in Japan: A

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付図 1 箱根自然観察林において自動撮影カメラによって撮影された哺乳類と鳥類

2017年5月から10月の間に撮影された哺乳類(ネズミ類とコウモリ類を除く)(關・鈴木 2018)と鳥類を示す。鳥類は、同定可能であった ものの内、神奈川県レッドデータブック(神奈川県立生命の星・地球博物館・神奈川県自然環境保全センター 2006)に掲載されている種を 示す。なお、ツキノワグマの写真には、2018年5月に撮影されたものを使用した。

参照

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