東北大学遺伝生態研究センター通信 No. 25
著者
東北大学遺伝生態研究センター
発行年
1994-06
遺伝生態研究センター通信 No.25
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′ \ ′r一、 1994. 6. No.25北海道に分布するツルマメ
ーその生態と遺伝的構造一
北海道大学・農学部 島 本 義 也ツルマメ(Glycine soja Sieb. et Zucc. )は、
日本、朝鮮半島、中国東部、ロシア国沿海地方の東 アジアに分布する。台湾にも分布するとされてきた ツルマメは、形態的な点、特異なアイソザイム遺伝 子を持っている等のことから判断して、東アジアに 広く分布するツルマメとは異なると考えられる。日 本におけるツルマメの分布は、北海道において南西 部に限定されること、沖縄群島は詳細に調査されて いないが、分布は確認はされていること、を除くと、 日本列島に広く隈なく分布している。本種は、その 名のごとく蔓性の豊科一年生草本であり、適度の撹 乱のある河川敷の氾濫原や土手、路傍、荒廃地を主 な生育地としている。蔓性であるので、通常、随伴 する草本や潅木に巻き付いている。巻き付く植物に 特異性は見られないが、同じ様な生態条件を生育地 とするヨモギ、ススキ、アシ、セイタカアワダチソ ウ等の草丈の高い植物や潅木に巻き付いていること が多い。一方、随伴植物が少ない河川の氾濫原や荒 北海道に分布するツルマメ ーその生態と遺伝的構造-植物にみる体内での窒素利用特性 光化学スモッグとェチレン 吹 北海道大学・農学部 東北大学・農学部 環境庁・国立環境研究所 1 4 5 也 彦 美 義 忠 信 本 鴨 島 前 中
遺伝生態研究センター通信 No.25 廃地(耕作放棄地)で生育しているツルマメは巻き 付く植物がないため、より多くの分枝を出し、無限 伸育型の栽培ダイズの草姿を呈する。 ツルマメは、ダイズ(G.max Merr.)とともに Glycine属のSoja亜属を構成し、染色体数もとも に2n-40であり、形態的にも似ている部分が多く あり、容易に交雑後代も得られるため、ダイズの祖 先型野生種と考えられている。世界の主要作物の中 で、その祖先型野生種が日本列島に広く分布する唯 一の種である。わが国において、栽培ダイズは、食 文化と結び付いて多様に分化した多数の在来品種を 確立させ、ダイズ遺伝資源として世界の注目を浴び ⑳¢00006QQ¢⑳¢ ているが、ツルマメは、ダイズには見られない種子 中の高蛋白含量、脂肪酸組成、蛋白質サブユニット の多型性、あるいは、病害抵抗性、線虫抵抗性、な どの有用遺伝子を数多く有しており、ダイズの重要 な遺伝資源である。また、ツルマメは、育種素材と してばかりでなく、種子生産性や乾物生産性も高く、 ツルマメそのものの作物としての利用も期待される。 日本列島におけるツルマメの分布は、古くから知 られていたが、北海道におけるツルマメの分布は、 最近まで記録にはなかった。最近の調査で北海道に おけるツルマメの分布の全容を明らかにすることが できた(図)。 図 北海道におけるツルマメの分布 ●は分布が確認された所 図に示される様に、北海道におけるツルマメの分 布は、南西部の日高支庁(胆振支庁も若干含まれる)、 渡島支庁(函館周辺)、檎山支庁(江差周辺)の地 域に限定されている。中国黒竜江省やその国境のロ シア側にもツルマメの分布が認められているので、 緯度や気候から考えて、北海道の他の地域にも分布
遺伝生態研究センター通信 No.25 …伽Plメヽ /-I /ー していてもよさそうであるが、今のところ見つから ない。 H高地方に分布するツルマメはその経度から みて東端の集団であろう。冒頭の写真は、その中で も最も東側に位置する見舞(けりまい)川の河川敷 で観察された集団である。 北海道の集団は、種々の点で本州のツルマメの集 団と異にしている。本州では、河川敷の他に、畦道、 路傍や荒廃地にもよく観察されるが、北海道では河 川敷に限定される。ツルマメは、ダイズと比較して 晩生であることから北海道の畑地の無霜期間の長さ では結実ができないと思われるが、河川敷の様に河 川水の種々の働きで極所的に霜が降りにくい所を、 特に無霜期間の短い北海道では、適所としていると 思われる。無霜期間の短い北海道の気候に適応して いるツルマメは自ずと開花期も本州の集団に較べる と早い。さらに無霜期間が短い中国東北部に分布す るツルマメは、さらに早生で、路傍ででも観察され る。多くの植物で観察される開花期の地理的クライ ンがツルマメでも典型的に観察され、日本列島を南 に行くに伴って開花結実期が遅くなる。 ツルマメの草姿は蔓性であることをすでに述べた が、北海道の集団は、巻き付くものがあればそれに 巻き付く典型的な蔓性の特徴を表す。東北地方のツ ルマメも同様の傾向が見られるが、南の方の集団は、 分枝を多く出し、栽培ダイズの無限伸育型と似た草 姿を呈するものが多く観察される。ツルマメは硬実 による種子休眠を持っているが、西日本の集団では 全く休眠を持たない個体も集団に観察されるが、北 海道の集団ではほぼ完全な種子休眠を持っている。 日高集団は、種子サイズが小さく、 Ef粒垂2 g甫後 であり、 2乃至6 gの種子サイズの変異幅を持っ本 州集団とは異なる。種子の蛋白含量、脂肪酸組成に ついて調査しているが、特徴的なものが北海道集団 には見つからない。 ツルマメ集団の遺伝的構造を明らかにすることを 目的に、アイソザイム遺伝子座の対立遺伝子の頻度 を調査してきたが、北海道の集団は、座当りの対立 遺伝子数、多型座率、遺伝子多様度のどのパラメー ターをとっても、低い値を示した。特に、日高地方 の集団は、極端に遺伝的変異の程度が低く、ツルマ メにおいて多様度が高いアイソザイム遺伝子座
11apl、 Est 、 Dialにおいても、単型であった。多
様度が高い種子蛋白のTi (トリプシンインヒビター) 座の対立遺伝子頻度においても、栽培種には希な対 立遺伝子αに固定されている。もっとも、このこ とは、四国や九州の集団でも観察される。また、ダ イズの不快昧配糖体成分であるグループAサポニン を支配している遺伝子座が知られているが、日高集 団は栽培種で高頻度で観察されるサポニン型Ab (対立遺伝子Sgl-b )で占められている(塚本、 199 3)。この遺伝子を除くと、日高集団には、栽培ダイ ズに特徴的に高頻度で観察される遺伝子の分布が観 察されない。 一方、細胞質ゲノムの変異であるが、植物集団に おいては元々少ないが、ツルマメでは種内に容易に 多型が見つかる。日本列島に分布するツルマメにつ いて、葉緑体とミトコンドリアのDNAのRFLP 分析から、制限酵素とプローブの組合せで、前者で 3型、後者で8型を区別することが確認できた。北 海道の集団の葉緑体では、ツルマメに優占する型が 単型的に観察され、栽培型は観察されなかった。そ れに対して、北海道の集団のミトコンドリアでは、 ツルマメに優占する型は少なく、栽培ダイズで優占 的に観察される型に近い型が単型的に観察された。 特に、日高集団では、この型が単型的に観察された。 栽培ダイズのミトコンドリアには2種類の型が観察 されるが、いずれとも一ヶ所のみで、日高集団の型 と異なっている。このことから、栽培ダイズの細胞 質の原型は、目高集団に近いものであったと思われ る。 前述のように、ツルマメは栽培ダイズの祖先型野 生種であると言われているが、その進化過程は明ら かでない。両者とも自殖性ではあるが、ツルマメで は5-6%の他殖率で、栽培ダイズよりは高く観察 される。両者は容易に交雑し、後代を残し、また、 栽培ダイズの畑の側にツルマメが生育している光景 が今でも見られることから、ツルマメが栽培ダイズ の進化に何等かの影響を及ぼしてきたことは確かで あろう。日本の温暖な地方(西日本)においては、 両者は開花期が合うことから、遺伝子浸透が考えら れるが、事実、 2、 3の遺伝子座において、栽培ダ イズからツルマメへの遺伝子流動と思われる結果も 得られている。 一方、北海道では、ツルマメが栽培ダイズの畑の
遺伝生態研究センター通信 No.25 側に同所的に生育していることはなく、両者は隔離 された状態にあり、また、ダイズ栽培の歴史も浅い ことから、両者間に遺伝子流動はなかったものと思 われる。したがって、北海道の集団は栽培ダイズの 影響はなく、本来の野生型の特徴を多く持ったツル マメと考えられよう。日高や渡島の集団は、栽培ダ イズを特徴づけるアイソザイム遺伝子のAph-b, Idh1-a, Pgm1-bや種子蛋白の遺伝子Ti-bが全く観 ヽメヽLWヽ′l Jl 察されない。檎山の集団にこれらの遺伝子が低頻度 で観察されるのは、その地方が古くから本州との交 流があったことによる移入であろう。目高集団は、 生育条件が限界地域であることからも、分布を広げ ることができず、遺伝変異も極端に低い野生集団で あろう。特異な遺伝構造を持っ北海道のツルマメは、 ツルマメと栽培ダイズの関わりを考察する上で、対 照となる集団であろう。
植物にみる体内での窒素利用特性
窒素は、植物の生育をもっとも強く支配する栄養 素である。体内では、生命活動を支えるタンパク質 や核酸をはじめとする多数の化合物の構成成分とし て存在し、栄養素のなかでも、とくに多く必要とさ れる。しかし、土壌の窒素供給力は作物が十分に生 育するには、ふつう不足しておりそれを補うため、 施肥が行われる。 さて、植物はその生活のなかで、有限の資材であ る窒素を、どのように利用してバランスのとれた生 育をしていくのであろうか。 以下、植物の窒素利用に関するいくつかの側面を 紹介する。 1.植物が吸収する窒素の由来 イネの場合を中心に話を進めることにする。イネ が栽培期間中に吸収する窒素はこ 肥料に由来する "施肥由来窒素"と、土壌からの無機化の際供給さ れる"土壌由来窒素"の二つに大きく分けられる。 この両者の吸収割合が、垂窒素を用いた圃場試験に より、はっきりと分ってきている。東北地方の場合、 平均的にみると、施肥由来窒素はおよそ30%前後で、 残り70%が土壌由来である。このことは、昔から言 われる"肥えた土"が高収量に必須であることを裏 付けている。しかし、施肥窒素の果たす役割も見逃 せない。田植時の地温や水温の低い寒冷地、高冷地 等では、この時期末だ土壌窒素の放出が十分でない ため、施肥窒素が生育のスターターとして果たす役 東北大学・農学部 前 忠 彦 割は大きい。また、十分な籾数を確保し、順調な登 熟のための適期の追肥は多収にはとくに必要とされ る。最近では植物による窒素の利用効率(与えた窒 素に対し、植物が吸収する窒素の割合)に優れ、ま た、植物の生育にマッチして、窒素が供給される (肥効が現われる)、環境保全型、肥効調節型肥料が 大きな注目を集めている。 2.新器官の構成窒素由来 新しい器官が形成される時、それを構成する窒素 については、その器官形成時において新たに吸収さ れた窒素に由来する"吸収由来窒素"と既存の器官 からの"転流由来窒素"に分けてみることが出来る。 新しく出葉するイネの葉について、新葉展開中の窒 素栄養レベルを様々にして栽培後、新薬での両窒素 の竜を比べてみると普通栽培条件卜では、吸収由来 窒素、転流由来窒素の割合は、ほぼ1 : 1で、転流 由来窒素の竜は、窒素栄養レベルによらずほぼ一定 である。同様なことは、新根の形成に際しても見出 されている。これらのことは、新器官形成のための 窒素供給は、その時の窒素の栄養条件に大きく左右 されるこよなく一定程度が常に既存oj器官から送ら れるシステムとなっていることを示している。これ は、変勤しやすい土壌からの窒素供給のなかで、植 物がバランスよく生育していくための巧妙な窒素利 用のシステムであるとみて-とれる。 ■巴2遺伝生態研究センター通信 No.25 ぱILjWLN /■--3.光合成器官の形成と窒素分配 成熟葉では、その窒素のおよそ80%が葉緑体に分 配され、光合成活動を支えている。中でもCO2固定 の初発反応を担う酵素であるRubisco (ribulose-1, 5-bisphosphaもe carboxylase/Oxygenase)は、 イネの場合全葉緑体窒素の30-40%をも占めている。 このRubiscoについてその生成と葉の生長との関 係をみると、 Rubiscoの生成は、葉の展開が終了 した直後には、ほぼ終えており、その後の老化過程 での生成量は、展開終了時までの1割程度でしかな い。 Rubisco含量は、その葉の光合成能力の上限 を決定する因子である。これらのことは、展開終了 時までの窒素栄養がその葉の光合成能力のポテンシャ ルを決定することを意味している。またチラコイド 膜画分の最大成分である集光性クロロフィル結合タ ンパク質の L H C Ⅱ (light-harvesting
chlorophyll a/b protein of PSⅡ)も同様のパ
ターンで生成されている。また、葉の形成時の光環 境は、 Rubiscoに対するクロロフィルの員やa/b 比を変化させる。これは集光機能に対するCO2固定 機能の比が光環境により、タンパク質レベルで変化 することを示唆しており、事実それを示すデータ-も得られている。 4.葉の老化と光合成因子の消長 葉の寿命は生産性を左右する因子としてとくに登 熟との関係で重要である。葉の老化に伴い葉緑体の 構成成分が分解され、その窒素は、新器官へと転流 していき、そこで新器官の構成窒素となって再利用 される。葉の老化と葉緑体成分の消長との関係が、 光条件の異なる状況下で詳細に調べられている。弱 い光のもとでは、強光下に較べ、 Rubiscoの減少 が遅れはするものの老化の進行に伴い、強光下の場 合と同様に、徐々に減少していく。 LHCⅡについ ては、強光卜では、 Rubiscoにやや遅れながらも 徐々に減少していく。一方、弱光卜の場合はLHC Ⅱは、 Rubiscoが減少していく問でもほとんど減 少しないか減少していっても僅かで、 LHCⅡ/ Rubisco比が老化の進行に伴い、とくに大きくなっ ていく。すなわち、老化過程においても生長葉の場 合と同様に、集光機能/炭酸固定機能の比は光条件 により大きく変動する。しかし、その調節のメカニ ズムは、生長時と老化時では大きく異なっていると 考えるべきであろう。生長時における両者の比の調 節は、生合成のレベルで主として行われ、老化時の 場合においては葉緑体内での分解の調節にあると考 えられる。同じく葉緑体に存在する2種のタンパク 質が光条件によりそれぞれ異なる速度で分解される には、精微なタンパク質の分解調節機構が存在する はずである。老化時における葉緑体タンパク質の分 解のメカニズムの解明が待たれる。
光化学スモッグとエチレン
1.はじめに 私がまだ小学生だった頃、東京では夏の昼になる と連Hのように「光化学スモッグ注意報」と言うも のが出され、クラスの先生に「外へ出ないように」 と言われたのを覚えている。当時、ひどいときには 人が倒れ、私も目や喉が痛くなった記憶がある。光 化学スモッグというのは二酸化硫黄(SO2)や二酸 化窒素(NO営)が太陽の強い光によって生成した オキシダント(光化学オキシダント)の混合ガスの 環境庁・国\'L環境研究所 中 嶋 信 美 ことであり、光化学オキシダントの約90%はオゾン (0,)で残りがベルオキシアセチルナイトレート (PAN)などである。したがって当時、光化学ス モッグによってアサガオの葉が変色したり、目や喉 が痛くなったのは、主としてオゾンが原因であった ということになる。最近では地球環境問題が注目さ れているために、マスコミにはあまり取り上げられ なくなったが、現在でも夏の晴天のHになるとオゾ ンによる農作物の被害がかなり出ているし、北関東遺伝生態研究センター通信 No.25 の森林衰退の原因の一つにもなっている。このよう に現在、オゾンは人よりはむしろ(人は屋内に隠れ ているのであまり影響を受けない)植物に大きな影 響を与えている。それにもかかわらず、その植物へ の影響についてはわかっていないことが多い。 私の研究所では古くからオゾンの植物に対する影 響の研究を行っているので、これまでの研究成果を 紹介する。 2.オゾンによる植物の障害 植物をオゾンにさらすと数時間後、成熟柴に茶褐 色または白色の斑点が表面に現れる。これをオゾン の可視障害と呼ぶ。この可視障害はオゾンが柴の中 2H` 02
02-ゝ夏日2。,
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tiPtWがヽlメl に侵入し、細胞構造が破壊され細胞が死に至った結 果である。 「葉がオゾンと接触しどのような過程で 細胞死に至るのか。」また「オゾンは細胞内でどの ように代謝・無毒化されるのか。」という問題につ いてはいくつかの研究成果がでている。簡単にまと めると、オゾンは強い活性酸素の-梓であることか ら、植物に吸収されるとアスコルビン酸やグルチオ ンなどの低分子の還元物質を酸化したり、タンパク 質を変性させると考えられる。また、細胞内には活 性酸素を無毒化する代謝経路があり(図- 1参照) 最終的にオゾンは水に変換されて無毒化されると考 えられている。 周一1 植物における活性壊素の解毒経路 SOD スーパーオキシドジスムターゼ MDAR モノデヒドロ7スコルビン鼓還元酵秦 GR グルタチオン還元酵素 MDA モノデヒドロアスコルビン酸 GSH 還元型グルタチオン 最も顕著な障害として、生体膜の透過性が損傷を 受けて溶質の流出が起こる。また、比較的高濃度の オゾンに植物をさらすと、脂質の代謝が変動し、ガ ラクトリパーゼが活性化されて脂肪酸が遊離してく る。遊離脂肪酸は光合成を阻害することから、オゾ AP アスコルビン穀ベルオキシダーゼ DHAR テヒドロアスコルビン酸還元韓素 ASA 7スコルビン醸 DHA デヒドロアスコルビン醸 GSSG 酸化型グルタチオン ンの作用で生体膜の破壊と脂質代謝の変動が起こり、 光合成が阻害され、正常な膜系が維持できなくなり 死に至ると考えられる。しかし、これらの反応は細 胞がオゾンと接触後、 6時簡以上たってから見られ る反応であり、オゾンの作用を受けた細胞がすでに遺伝生態研究センター通信 No.25 09㊦由㊦㊤㊦0㊦㊤◎0 Eiii 「死」へ至ることを決定づけられた後に起こる反応 であると思われる。したがって可視障害発現はもっ と初期の反応で制御されている可能性が高い。そこ で、つぎにオゾン処理直後の生理反応について述べ る。 3.エタンとエチレンの生成 オゾン暴露直後から見られる植物の生理反応とし てエタンとエチレンの生成がある。かつて、これら の炭化水素はオゾンによる脂肪酸の過酸化分解産物 と考えられていた。 前者の 主タンの生成機構についてはほとんど研究 されておらず、現在でも脂肪酸の過酸化分解産物で あるとされている。しかし、オゾン暴露直後(2時 間以内)に生成する炭化水素はエタンとェチレンの みであり、他のものはほとんど生成しないことから、 かなり特異性の高い反応で生成している(例えば酵 素による反応)可能性があり、その生理的意味も含 めて詳しい研究が待たれる。 一方、エチレンは植物ホルモンとしての重要性か ら、その生合成経路が精力的に研究され、現在では メチオニンからS-アデノシルメチオニン、 1-ア ミノシクロプロバンカルボン酸(ACC)を経て合 成されることが明らかになっており、生成に関与す る酵素もすべて精製され、その遺伝子も単離されて いる(図-2参照)0 オゾンによって生成するエチレンはACC合成酵 素の阻害剤であるアミノエトキシビニルグリシン (AVG)によって抑制されることから、この代謝 経路によって合成されていると考えられる。 近年、エチレンがオゾンによる植物の可視障害発 現や耐性発現に重要な役割を果たしていることが示 された。 植物をAVGであらかじめ処理すると、オゾンに よるエチレン生成が抑制され、可視障害も減少した のである。また、オゾン感受性のタバコでは、オゾ ンによるエチレン生成が抵抗性品種に比べ高いこと も示されている。これらの結果から、オゾンによる エチレン生成は障害の結果ではなく障害発現に至る 過程の一つであると考えられる。 L-Kethionine ) S-Adenosyl-L-methionine
TACC TE【hylene
ACC合成辞票 エチレン合成酵素 図-2 高等植物におけるエチレン生合成経路 オゾンによる可視障害発現にエチレンがどのよう に関わっているかについては、オゾンとェチレンが 反応して過酸化水素(H202)とホルムアルデヒド (HCHO)を生成し、これらの物質が植物に障害 を引き起こすという考えがある。私どもの研究室で はトマト苗を用いてこの説について検討を行った。 その結果、エチレンの作用阻害剤である2,5 -ノル ポルナジェン(NBD)処理によりオゾンによる可 視障害が軽減されたこと、 NBD処理はオゾンによ るエチレン生成に影響を与えないことから、オゾン により生成したエチレンは過酸化水素やホルムアル デヒドとなってから作用しているのではなく、エチ レンそのものが植物に作用し、未知の反応を引き起 こすことによって、植物に可視障害をもたらしてい ると考えている。 また、植物をオゾンと接触させる前にエチレン処 理しておくと活性酸素の解毒経路の酵素が誘導され てオゾンに対する耐性が高まることが報告されてい る。このことはエチレンの作用がオゾン処理前と処 理中で異なることを示しており、エチレンがオゾン遺伝生態研究センター通信 No.25 による可視障害の発現および耐性発現に重要な因子 となっていると考えられ、今後詳細な検討をする必 要がある。 4.おわりに これまで述べてきたようにオゾンの可視障害の発 現や解毒酵素の誘導には、エチレンが初期の段階で 重要な役割を果たしていることがわかってきた。し かし、エチレンがどのような反応を誘導して可視障 害をもたらしているかについてはまったく明らかに なっていない。今後はオゾンによるエチレン生成機 構とェチレンの作用をさらに詳しく解析し、将来的 には遺伝子組み替え等の手法を用いてエチレン生成 速度を人為的に調節し、オゾンに耐性の高い植物を ㊦㊤◎9◎㊤⑳㊤⑳QOQ 作成したいと考えている。 最後に余談であるが、日本人は不思議なことに飲 み水の汚染にはとてもうるさいのに、空気の汚染に は寛容すぎるのではないかと思う。現在、大都市の 空気は水道に比べるとけた違いに汚染されている。 この空気を四六時中肺から取り入れているのだから、 その健康に対する影響は水道の汚染の比ではないは ずである。もっと大気汚染に対して敏感になるべき でないかと思う次第である。 参考文献 大気汚染学会誌 27 273-288 (1992) 植物細胞工学 5 269-297 (1993) 蛋白質・核酸・酵素 37 1279-1286 (1992)
遺生研ワークショップのお知らせ
1994年度は、 「遺伝生態の諸問題」をテーマとして、 11月8、 9日に開催する予定です。植物、 微生物を中心に、生態系における種の生活の遺伝的基礎の解明、分子生物学的方法の役割について、 講演と討論を計画しております。詳しくは、本通信次号(9月発刊予定)に掲載いたします。また、 この件についてのお問い合せは、共同利用掛022-227-6200内線3130にお願いします。 編 集 後 記 過生研と正門の問に樹齢200年にもなる大きな銀杏の木 がそびえ立っています。 5月の初め・には、まだ薄かった 葉の縁が深みを増し、より一層大きく、小さな惑星の様 にも見えます。朝早い時には、小さなリスが時々姿を見 せるそうです。 ところで、当研究センター通信の編集スタッフも、 4 月から二人が入れ替わりました。より一層充実した企画 を計画したいと考えております。つきましては、皆様か らの投稿をお持ちしております。遺伝生態という新しい 学問分野をめぐる国内外のトピックス・意見・書評など お寄せください。原稿はワープロ・市販の原稿用紙等で 作成していただいても結構ですが、お問い合せいただけ れば原稿用紙をお送りいたします。 東北大学遺伝生態研究センター通信No.25 平成6年(1994年) 6月 編集・発行 東北大学遺伝生態研究センター 〒980-77仙台市青葉区片平二丁目1 - 1 TEL 022-227-6200 (代表) 共同利用掛(内) 3130 FAX 022-263-9845 0研究センター通信の題字は、元東北大学長 石田名香雄先生の自筆です。@
は、東北大学遺伝生態研究センターの rGml シンボルマークです。・ IGE、 Institute of G?netic Ecologyの略称