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身近な生物の認識に影響を与える生物及び社会属性の分析~15年間の行政統計のアンケート調査を基にした分析から~

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Academic year: 2021

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(1)

身近な生物の認識に影響を与える生物及び社会属性

の分析∼15年間の行政統計のアンケート調査を基に

した分析から∼

著者

今井 はるか

64

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

環博第286号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00129712

(2)

論 文 内 容 要 旨

自然とのつながりは、身体・精神・社会との関連性等の観点から、幅広い学術分野において議論がさ れてきた。自然とのつながりの既存研究では、身体・精神・社会に良い影響をもたらすことが報告され ているほか、生物多様性の保全意欲を向上させ、自然保護にも寄与する点などが報告されている。さら に、自然とのつながりは、ミレニアム生態系評価が示した生態系サービスという概念の中で分類・整理 された 4 種類のサービス(供給サービス・基盤サービス・調整サービス・文化的サービス)うち、特に 文化的サービス(生態系がもたらす創造力や意匠、信仰、レクリエーションなどの文化的・精神的な利 益)の概念とも大きく関わると考えられる。 「心の豊かさ」が重視される現代においては、精神的な充足感と関わりが深い文化的サービスの価値 の認識と評価が重要な課題であるが、定量的な計測が困難であることなどから、文化的サービスの評価 についての研究は他のサービスと比較して遅れている。また、文化的サービスの多くは生物多様性と強 い結びつきを持つと考えられることから、その評価にあたっては、生物多様性と文化的サービスの関係 を明らかにしていくことが重要だが、そうした研究は限定的であり、文化的サービスの定量的な計測を 含めた評価手法の開発や研究が今後の研究課題となっている。 そこで本研究では、生物多様性に依拠した文化的サービスの評価に向けた研究として、生物多様性が いまい

今井 はるか

博士(学術)

学 位 記 番 号 学術(環)博第

286 号

学 位 授 与 年 月 日

令和

2 年 3 月 25 日

学位授与の根拠法規 学位規則第

4 条第 1 項

研究科,専攻の名称 東北大学大学院環境科学研究科(博士課程)先進社会環境学専攻

学 位 論 文 題 目

身近な生物の認識に影響を与える生物及び社会属性の分析

15 年間の行政統計のアンケート調査を基にした分析から~

員 東北大学教授 松八重 一代

論 文 審 査 委 員

主査 東北大学教授 松八重 一代

東北大学教授 中谷 友樹

東北大学教授 駒井 武

客員教授 香坂 玲

(名古屋大学)

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芸術やデザインなどの地域の文化に影響を与えるプロセスを整理し、順序立てて明らかにすることを目 指した。生物多様性から文化的サービスが派生するプロセスとしては、①人が地域の生物多様性を認識 する(認識)、②認識した生物多様性が文化に反映される(反映)、という 2 つの段階を仮定し、本研究 では、プロセスの第一段階である「①認識」について、明らかにした。 また、生物多様性に配慮した社会経済への転換(生物多様性の主流化)を目指すにあたり、2012 年の 「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」の設立に代表 されるように、行政と科学の連携のつながりの強化が重視されている背景も踏まえ、本研究では、行政 統計の利活用に着目した。信頼性・網羅性の高い行政統計の結果を二次的に利用することで、新たな知 見を引き出し、行政統計の活用ポテンシャルを示した。 第 1 章では、研究背景として、人と自然のつながりの重要性や、生態系サービスの評価が求められる ようになった背景等について、その概要を述べた。また、生物多様性が文化的サービスに与える影響の 評価に向けた足掛かりを作るという本研究の位置づけや目的等について述べた。 冒頭に述べたように、本研究では、これまであまり研究がされてこなかった、芸術・デザインへのイ ンスピレーションなどの生物多様性に依拠した文化的サービスの評価に向けた基礎的研究として、生物 多様性が文化に影響を与えるプロセスを整理し、順序立てて明らかにすることを目指した。生物多様性 が文化に影響を与えるプロセスとしては「認識」と「反映」の 2 段階を仮定し、本研究では、人が生物 をどのように認識しているのかという「認識」について、解析を行った。 生物の認識には、生物側の要因(生物属性)と人間側の要因(社会属性)が影響を与えると考えられ るため、生物属性と社会属性の両面からの影響を同時に評価し、総合的な視点で、生物の認識に与える 影響を明らかにすることを目指した。具体には、生物種・住環境・世代の違いが生物の認識にどのよう な影響を与えるのかを解析した。 第 2 章では、方法論として、研究を行うにあたり着目したデータ及び手法について、その新規性や妥 当性、今後の発展性を俯瞰した。特に、行政データの利用という点については、筆者の行政機関での職 務経験を踏まえながら、議論を深めた。 環境行政においては、市民の環境に対する意識や、地域内の自然環境の状況を把握することが重要で あることから、環境政策の検討にあたっての基礎資料として多くのアンケート調査や自然環境調査が行 政機関により行われている。近年は、2007 年の統計法の改正により、行政機関の所有する統計データの

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二次的利用の促進に係る規定が盛り込まれ、また 2016 年には官民データ活用推進法が施行されるなど、 行政機関が所有するデータのオープンデータ化も進んでおり、こうした行政統計が利用しやすい環境も 整ってきている。政策と行政のつながりの強化という点でも、行政統計の利活用は有効であり、さらに 信頼性・網羅性の高いデータであるなど、利活用には多くのメリットがあることから、本研究では行政 統計の利活用に着目した。 具体的には、仙台市の「身近な生きもの認識度調査」及び「仙台市自然環境基礎調査」を活用し、考 察においては、厚生労働省の国民生活基礎調査や総務省の社会生活基本調査等も用いた。「身近な生き もの認識度調査」は、市内の中学生とその家族に対し、植物から昆虫類まで、多様な生態的特性を備え た 12 種類の生物種について、過去一年間で姿を見たり鳴き声を聞いたりしたかどうかを尋ねるアンケ ート調査であり、本研究では、生物の認識の指標(「観察率」と「無知率」)の算出で活用した。「自然 環境基礎調査」は、専門家による仙台市全域の植生図(1/25,000)の作成や、絶滅危惧種などの分布調 査(文献調査)等が行われており、本研究では、植生図を住環境の指標の算出に活用した。 第 3 章では、自然とのつながりが特に重要だと考えられている「子ども」を対象に、生物種の違いと 住環境の違いが身近な生物の認識とその変化に与える影響の解析を行い、生物の認識に与える生物属性 に重点を置いた考察を行った。 解析にあたっては、まず、12 種類の生物について、過去一年間で姿を見たり鳴き声を聞いたりした子 どもの割合を「観察率」、その生物について知らない、あるいは関心がない子どもの割合を「無知率」 とし、中学校区ごとに値を算出した。また、植生図を用いて、中学校区内の各土地利用の面積割合を求 め、中学校区ごとに、市街地か郊外部か、また樹林地か草地か、という2つの指標(「PC1」と「PC2」) により住環境を定義した。 解析の結果、生息環境が里山に限られる種や、鳴き声に特徴があっても、単独で行動するなど視認性 が低い種では、認識されにくいことや、個体数が減少している種や、昆虫類や両生類などの一般的に人 からの好感度が低い種、また、もともと認識されにくい種では、認識されにくくなりやすいことが明ら かとなった。 また、住環境の影響をみると、郊外部や、樹林地の割合が高い地域では、生物の観察率が高くなる傾 向がみられた一方で、無知率には住環境の影響はなく、また、15 年間での観察率・無知率の変化につい ても、住環境の影響はなかったことから、市域全体で、子どもが生物を認識しにくくなっていることが 明らかとなった。

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第 4 章では、第 3 章で明らかにした、生物の認識に、生物種や住環境の違いが与える影響を踏まえつ つ、子どもと大人で、生物の認識の違いを比較することにより、生物の認識に影響を与える社会属性に 重点を置いた解析・考察を行った。 解析の結果、子どもと大人で生物の認識しやすさを比較した場合、大人の方が観察率は高く、また無 知率も低い傾向にあり、総じて大人の方が生物を認識しやすいことが明らかとなった。さらに、こうし た傾向は、住環境に関わらず全市的な傾向としてみられた。大人が子どもよりも高い観察率を示す要因 の考察にあたっては、「社会生活基本調査」や、「青少年の体験活動に関する実態調査」などの全国的な 調査を基に、子どもと大人の自由時間の過ごし方や、自然体験(魚釣りや昆虫採集、野鳥観察)の経験 の有無を比較した。その結果、大人は子どもよりも生物の検知力(生物の気付きやすさ)が高いことが 可能性として挙げられた。また、大人の方が子どもより無知率が低い要因については、大人への成長の 過程で知識を獲得するためではなく、現在の大人が既に子どもの頃に、現在の子どもよりも多くの生物 の知識を獲得していた可能性が示唆され、昔の子どもと現在の子どもで、遊び方や、自然・生物の学び 方の違いなどが、生物の認識に影響を与える要因として推察された。 最後に第 5 章では、第 3 章及び第 4 章を踏まえ、身近な生物の認識と、その変化に影響を与える生物 及び社会属性について総合的な考察を行うとともに、本研究が達成した内容について総括した。また、 生物の認識の違いが文化的サービスにどのように影響しうるのか等、今後の研究の展望を述べた。さら に、本研究から得られた、人と自然とのつながりの強化に向けた提案や、行政統計のさらなる活用への 提案を行った。 生物の認識に影響を与える生物属性については、生息環境や個体数に加え、人間にとっての好ましさ や、視認性などが挙げられ、例えば、カッコウやウマオイのように、鳴き声に特徴があっても、視認性 が高くない種や、一般的に人が好ましいと感じにくい昆虫類(ただし、チョウ類やホタル、カブトムシ・ クワガタムシなど、例外的に人気のある種を除く)などでは、認識されにくくなりやすいといった傾向 が明らかになった。また、生物の認識に影響を与える社会属性については、子どもと大人の間での認識 のしやすさを比較することにより、影響を与えうる社会属性について示唆を行うまでに留まっているが、 子どもの頃の自然体験(遊び方)や自然や生物の学び方、家族構成(世代間の知識伝達に影響)などが 可能性として挙げられた。 このように、本研究では、今後検証すべき生物及び社会属性の要因を提示するとともに、生物の認識 の複雑な全体像を描いた。また、文化的サービスの評価にあたっては、地域の生物多様性を把握するの

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みならず、その地域の人々の社会属性もあわせて把握することの必要性についても提示した。さらに、 生物属性の中でも、認識されにくい属性があり、また、近年、特に子どもで生物が認識されにくくなっ ているという事実は、将来の文化的サービスの量・質の低下といった問題についても提示した。 人と自然とのつながりの強化という点では、本研究で明らかになった、認識されにくい生物属性を備 えた生物に焦点をあてた、学校等における環境教育・学習の見直しなどが有効だと考えられる。 また、本研究は、行政統計を活用して行った調査であり、行政統計の活用ポテンシャルを示した。そ の上で、今後の研究と実務の課題として、行政統計の更なる利活用に向けて、行政機関が行う各種調査 の設計段階から科学者が関与できる仕組みづくりの検討や、回答者の負担をかけることなく、できるだ け多くの情報を引き出すための、配布・回収・集計方法等の工夫などもあわせて提案した。

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(別紙)

論文審査結果の要旨及びその担当者

論文提出者氏名 今井はるか 論 文 題 目 身近な生物の認識に影響を与える生物及び社会属性の分析 ~15 年間の 行政統計のアンケート調査を基にした分析から~ 論文審査担当者 主査 教 授 松八重 一代 教 授 中谷 友樹 教 授 駒井 武 教 授 香坂玲 (名古屋大学)

論文審査結果の要旨

4つに分類される生態系サービスのなかでも、文化的サービスは、基盤、供給、調整サービスの評価と比べ、科 学的な分析や定量的な評価が課題とされてきた。この点は、国際的な科学者のプロセスである生物多様性及び生態 系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)、あるいは国内の生物多様性総合評価(JBO)におい ても指摘されており、科学と政策の両面から課題とされてきた。現代社会における自然とのつながりの希薄化、特 に幼少期における機会の減少は、「経験の喪失」という用語で、生態学、森林科学、行動科学、都市計画学など学際 的に議論されている題材である。 本論文は、生物多様性の認識という点での自然とのつながりとその変化に影響を与える、生物及び社会属性を明 らかにすることを目的とし、具体的なアプローチ方法として、生物種の違い、世代の違い、住環境の違いが生物の 認識に与える影響を明らかにすることとしている。具体的には仙台市における15 年間の公的な行政統計を活用し、 住民の15 年間に及ぶ認識の違いを時系列で多重回帰の手法を適用し、住民の文化的サービスの基層となる生物の認 識を対象としている。同時に「経験の喪失」の問題についても、親世代と子世代の差から分析を行なっている。提 出者の今井はるか氏10 年間の仙台市の勤務経験を有し、実務に裏打ちされた問題意識が根底にある。 方法論としては、既存の研究では、人間側の要因(階層、生物検知力等)に焦点を当てたものが多いなかで、修 士号を取得している生態学の知識を当てはめ、人間側の要因に加え、その生態、検知の容易さなど、12 種の生物種 ごとの認知を分析することで生物属性も視座に入っている。環境科学の領域で必要とされる、自然科学的事象と社 会科学的な要素の双方を視座に取り入れ、学際的な方法を取っているといえる。同時に経験則的に国内外で主に定 性的、あるいはケーススタディとして分析されてきた「経験の喪失」の内容に対し、定量的な方法論的アプローチ を適用している。土台に長期的かつ定期的な行政統計を活用したことによって可能となったことであり、エビデン スに基づいて統計的な裏付けが議論になされていることで「経験の喪失」を巡る議論について新たな地平を開拓し た。 一方で課題及び限界として、認知と職業、所得、地理的分布等に関するより詳細な分析は、将来課題となった。 ただしその課題も、行政統計を扱う際の今後の示唆につなげており、「科学に基づいた政策決定がなされているとは 未だ言い難い」いう現状の指摘と、長期的かつ社会的属性を反映した行政統計のポテンシャルに繋げている。

尚、本論文の一部は英文として、既に査読付の国際誌Ecosystem Health and Sustainability に原著論文として掲 載されている。国際誌で引用もされるなど国際的な議論に貢献をしている。また学部・修士課程(東北大学)の論文も 各々Landscape and Urban Planning 誌や Journal of Ecology and Environment 誌に受理・掲載されている。

以上、問題設定、学術的な方法論、学術分野への新展開の貢献、実績の観点から学術的な新規性、独創性が認め られる。よって,本論文は博士(学術)の学位論文として合格と認める。

参照

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