Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
歯科学報に思うこと
Author(s)
古澤, 成博
Journal
歯科学報, 113(6): 6i-6i
URL
http://hdl.handle.net/10130/3222
!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!
歯科学報に思うこと
古 澤 成 博
私が東京歯科大学を卒業したのが昭和58年,今年で丁度卒後30年になります。当時は大学院に入学
し,自分の学位論文を歴史のある歯科学報に掲載してもらうのが夢。それが当たり前の時代でした。
いつしかそんな流れが断ち切れてしまい,本誌に大学院の学位論文が掲載されていたのは10年前くら
いまででしょうか。最近では学位のための原著論文も,平成22年以来見ることがなくなりました。学
術論文は日進月歩で,掲載誌のレベルも様々ではありますが,寂しい限りです。近年は,大学院の学
位論文は全て英文で出すことになっており,このことも影響していることは間違いないと思います。
かつて私の恩師である淺井康宏名誉教授が本誌の編集委員を務めておられた時代(昭和46年∼平成13
年のなんと30年間!)の後半の時期(編集委員長の時代)に,運よく私は入局しました。思えば当時は
一つの論文を執筆するにあたって,論旨の展開や日本語の言い回し,言葉の使い方や漢字の活用の仕
方など,それは細かく指導を受けたものです。書いた論文は真っ赤に添削され,何度も書き直しをし
なくてはなりませんでした。しかし,書き直す度に文章が活き活きとしてきます。幸い私達の時代か
ら「ワープロ」なるものが自由に操られるようになって,原稿用紙に最初から全てを手で書き直すな
どという気の遠くなるような作業からは解放されました。添削された原稿を即座に直すことが出来る
ようになったため,こちらとしては仕事が楽になりましたが,添削する側にとっては大変だったので
しょう。「もう直したのか?」と良く吃驚されたものです。また,他人の論文に関しては,結論に納
得するのではなく批判的に読めと教わり,他人に充分理解してもらった上で批判されるためには,
しっかりとした文章で書かなくてはならないことも教わりました。かの福沢諭吉も「学問のすゝめ」
の中で,「学問とは取捨選択の能力を養うことである。」と述べ,「無批判に信用するくらいなら,
いっそ学ばない方がまだましである。」とも述べています。それにはしっかりとした文章と理解力が
ないといけません。
「歯科学報」は100年以上歴史のある雑誌です。例えば,わが国の歯科エックス線に関しての記録
は,明治30年3月発行の本誌の前身である『歯科医学叢談』誌の第7号に掲載された,野口英世によ
る『るよんとげん X 光線ヲ応用シテ欠歯ヲ発見セシー例』が最初のものであると言われています。
本学の図書館には,明治28年発行の第1巻から揃っており,先達の業績を目にすることが出来ます。
その中には,今の時代には絶対に実現不可能な研究の,貴重なデータの宝の山があります。こうした
文献を見るにつけ,当時の先輩たちが如何に文章を推敲しながら論文を執筆したかがわかり,大変勉
強になります。「歯科学報」の歴史の深さを思い知らされる瞬間です。
最近の若い研究者達は,厳しい競争に晒されて一刻も早く世界に結果を発信しなければならない環
境にあり,なかなか日本語の文章を推敲しつつ論文を仕上げるなどという楽しみを味わっている余裕
がなくなってしまったようです。
しかしながら,歯科学報には今後もレベルの高い貴重な日本語論文の研究発表がなされなければな
りません。今後も後輩達に日本語の難しさを教えつつ,定期的に本誌に「こだわりの文章」を持った
原稿を投稿するように指導しながら,本誌の歴史の「継承と発展」に少しでも貢献しなければならな
いと思っています。 (東京歯科大学歯科保存学講座 教授)
巻 頭 言 ⑥