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認知症高齢者の「過去の語り」に関する研究 -コミュニケーションレベルに応じた理解と関わり方という視点から- [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)認知症高齢者の心理的体験を理解していくプロセスに関する研究 キーワード:認知症高齢者,心理的体験,プロセス 人間共生システム専攻 森園. 絵里奈. 【Ⅰ.問題と目的】. や否定的感情は減少し、本人に対する感情や関わ. わが国において、認知症高齢者の数は 1600 万. り方も肯定的に変化し、より良い援助へと繋がっ. 人を超えたと言われ、今後も高齢化率の上昇に比. ていくと考えられる。. 例して、認知症高齢者も急増することが予測され. これまでの研究において、事例を取り上げ、次. ている 。それに伴い、認知症高齢者の心理的援助. 第に高齢者の心理を推測、理解していくプロセス. の質の向上が求められている。. を詳細に報告している研究は見られない。. 一方、認知症は記憶障害を中核症状とした 脳器. そこで本研究では、 “認知症高齢者が今ここで何. 質性疾患であり、徘徊や妄想など様々な問題行動. を考え何を感じているのか ” 、という 心理的体験に. や精神症状を伴い、介護者への抵抗や暴言など対. ついて 、援助する側が、どのようにその心理的体. 人行動 上の問題行動が見られることもある (室伏,. 験を推測、理解していくかというプロセスに焦点. 1989)。また、人格面の抑制欠如によって 本人の. を当てて検討し、さらに、その理解より、認知症. 背景や不安困惑などの心情が異常な反応として表. 高齢者 の心理的体験について検討することを目的. 出されやすく、周りからの理解が困難となる場合. とする。. が多い(竹中,1996)。そのため、援助者側のス. 【Ⅱ.方. 法】. トレス は深刻な状況にあり、今後臨床心理学的な. 1. 対 象 者. 介 入が求め ら れ る 分 野であるとされる (太田. 高齢者 5 名(男性 2 名女性 3 名)。A∼E さん。平均. ら,1997)。. 年齢は 76.8 歳(SD=5.17)。. 援助者 のストレスとは、こうした認知症高齢者. A病院認知症高齢者病棟に入院中の. 2. 期 間. 平成 17 年 4 月∼12 月. の内面を理解することの難しさへの困惑・いらだ. 3.手続き. 筆者は実習生として、1/W(9:00∼17:. ちや、これらの症状に振り回されて対応に追われ. 00)病棟で参与観察を行った。そのうち、スタッフ. ることからくるやりきれなさや 疲労感などによる. より了解が得られた A∼E さん(以降敬称略)とは、. ものだと考えられ、そうした場合、援助者側の高. 一緒に活動を行い会話をする時間を毎週 30 分∼. 齢者に対する否定的感情をも引き起こしうるもの. 60 分程度持った。. であると思われる。こうしたストレスを軽減し、. 4.分析方法. より良い援助を行っていく上で、認知症高齢者が. 録を行い、各事例において、A∼E に見られた変化、. どのような状態にあり、何を考えているのかにつ. 相互の関わり方の変化、そして筆者の A∼E に対す. いて援助者が理解していくことがまず大切である. る感情や理解の仕方の変化の 3 点に注目して、認. といえよう 。萱原(1987)は、認知症高齢者の心理. 知症高齢者の心理的体験を筆者がどのような過程. 的援助について、 “ 話の意味や言葉の背後にある心. で推測、理解していったか、そのプロセスを検討. 理力動 ” 、つまり“心理的体験”を理解することが. した。そして、その 5 事例のプロセスにおける共. 重要であると指摘している。本人がどんな状態に. 通点を抽出し、認知症高齢者の心理的体験を理解. あり、何を感じているか、例えば問題行動を見て. していくプロセスのモデル図を作成した。. も何故このようなことをするのかといった背景を. 毎回実習終了後に各事例の内容の記. 【Ⅲ.結. 推測し、理解することで、表面的な言動に振り回. 週1回. 果】. 1. 事 例 の プ ロ セ ス の 例. されず 、了解可能な背景がある 言動として理解で. 省略。. きるようになるのではないだろうか。そして、本. 2. 共 通 性 の 抽 出 と プ ロ セ ス モ デ ル 作 成. 人を広く深く理解することで、当初感じた戸惑い. 5 事例のプロセスに共通してみられたポイント. 1.

(2) を 抽 出 し て そ の 特 徴 ご と にマ ッ ピ ン グ (氏 原. 方について(A,B,C,D)など、その方に関する[Ⅳ.. ら,1994)を参照にグルーピング し、各段階に段階. 様々な面での発見・気付き]があった。それぞれ. 名をつけた。そして、認知症高齢者の心理的体験. の発見・気付きによってその方に対する多面的な. を理解していくプロセス のモデル図を作成した. 理解が進み、また援助のあり方にも変化が生まれ. (Figure1)。. ると思われた (A∼E)。 【Ⅳ.考. 察】. こうして、当初は難しさを感じつつも関わるこ. 1. プ ロ セ ス モ デ ル と 各 段 階 に つ い て の 考 察. とができる一筋の可能性を発見し、それをもとに. 認知症高齢者の心理的体験を理解していくプロ. 時間と場を共有していく中での様々な気付きや発. セスにおいて、初めは、認知症高齢者 の症状や状. 見を通して[Ⅴ.心理的体験の推測・理解]が可. 態に対する理解のできなさ(B,C)、関わりに対する. 能となると考えられた(A∼E)。認知症高齢者の心. 戸惑い(A,C,D,E)、葛藤(A,C)などの[Ⅰ理解と関. 理的体験を理解するとうことは、本人がなぜ最初. わりの 難しさ]を体験した。岩橋・岩橋(1999)も. に感じたような難しさを抱えているのか、どうし. 重度の認知症高齢者の事例において、 「Th の話す. てそのような表現方法になっているのか、何を訴. 内容を理解できない、アイコンタクトも取れない. えたいのか、本人は現在、そして過去に何を抱え. Cl に関心を示すにはどうしたらいいかという疑. ているのか、今現在本人が心の支えとしているこ. 問を持っていた」というように 、これらの難しさ. とは何なのかなど、様々な面から、そして様々な. は認知症高齢者と関わるほとんどの人が多かれ少. 深さでその方を理解していくことなのであろうと. なかれ体験する難しさだといえる。. 考えられる。. しかし 、Ⅰでの難しさを感じながらも、5 事例す べてにおいてふとこぼれた本音(A)や歌(C)、微笑. Ⅳ. み(D)など、例え一瞬で些細なことでも、本人と繋. 様々な面での発見・気付き. がれる 、関われる可能性を見つけることができ、. Ⅰ. Ⅱ. Ⅲ. 理解・関わりの 難しさ. 関わりにおける一 筋の光の発見. 時間と場の共有. その[Ⅱ.関わりにおける一筋の光の発見]は、 その後のプロセスが進むために大切な段階である と思われた。また、この発見は筆者が高齢者が発. a. d. b. 心理的体験の 推測・理解. 過去・生き方につ いての発見・気付 き. 行動面について の発見・気付き. してくるメッセージを拾うことによって起こるも. Ⅴ. 認知面についての 発見・気付き. ので、小さくてもそこには相互関係が生まれてお c. り、この関係性の誕生は、その後のプロセスにお. 取り巻く環境について の発見・気付き. いても 注目すべき点であるといえよう。そして、 その一筋の光をもとに[Ⅲ.時間と場の共有]を していくが、その形は散歩や歌、会話など何らか. Ⅵ 関心・共感・親近感. の活動を介した場合(A,B,C)と「ただ側に居る」と いう場合(D,E)があり、その中で本人のメッセージ. Figure1 認知症高齢者の心理的体験を理解していくプロセスのモデル図. の発し方、こちらの受け止め方、さらに相互の関 係性が変化していくと思われた 。特に重度でコミ. また、5 事例を通して、筆者が高齢者に対して. ュニケーションが難しいと思われた 事例(E)の場. [Ⅵ.関心・共感・親近感]などの感情を常に抱. 合も時間と場を共有することで次第に関係ができ. いていたことが、プロセスの進展と相互に関連し. ていくと考えられる。. ていたと思われた (A∼E)。岩橋ら(1999)も述べて. こうして様々な形で時間と場の共有を続けてい. いるように、関わる側が高齢者 に抱く感情はプロ. くことで、本人の場の認知(A,B,D) 、援助者に対. セスにおいて極めて大事なものであり 、これらの. する認知 (A,B,D,E)といった認知面 、能力(D,E). 感情を抱くことによって進んだ関係性や理解でき. や行動パターン(B,C)などの行動面、また、家族や. た心理的体験もあったと思われる。. 地域などその方を取り巻く環境について(A,D)、そ して幼少期の思い出や仕事や趣味など過去・生き. 2 . 認 知 症 高 齢 者の心理的体験についての考察. 2.

(3) 以上、5 事例のプロセスの検討を通して最終的. が大切だと思われる。. に考えられた認知症高齢者の心理的体験と、援助 の可能性について考察を加える。. 【Ⅴ.今後の課題】. (1)認知症高齢者にとっての「今ここ」での体験. 今回、認知症高齢者の心理的体験を理解してい. 久保田 (2005)は、認知症高齢者の世界を「あの. くプロセスに焦点を当てて事例を通しての検討を. 世」と「この世」の区別がなくひとつに溶け合っ. 行ない、本人がどのような心理的体験をしている. ているかのような世界と表現しており、その意味. のかについての関わる側の理解は進んだものの、. と扱い方について心理臨床学的 な視点からも検討. その理解をその後の関わりや援助にどうつなげて. の必要があると述べている。今回の事例において. いくかについては、可能性に少し触れているに留. も、過去の未解決な問題を徘徊や妄想などの形で. まっている。従って今後は、認知症高齢者の心理. 再体験 している一方で現在の生活を楽しんでいた. 的体験 の理解を、どのようにフィードバックし、. りする事例(B)や、不安で気がかりな状況を抱えな. 関わり方に活かしていくかなど、具体的にどのよ. がらふと過去の素敵な思い出の世界へと返ってい. うな形で援助に繋げていくかについて更に詳細に. た事例(D)が見られたように、時間軸 を超えた世界. 検討していくことが必要であると思われる。. を行ったり来たりすることでバランスを保とうと している状態であるとも考えられた。従って、援 助者は、本人の妄想と現実の世界の行き来に、あ る時は登場人物として、ある時は聞き手として付 き合い、本人の「今ここ」での心理的体験を一緒 に味わっていくことが重要であると思われる。 (2)振 り 返 り と あ き ら め “過去を振り返る”ことは認知症高齢者 によく見 られる 行為(石崎・石井・目黒,2003)であるが、 今回の事例においても、その行為に伴うあきらめ 感のような心理的体験が認知症高齢者 の特徴とし て見られた(A,D)。認知症に限らず、数々の喪失体 験や孤独、脳や心身の衰え、死の現実化などと向 き合わなくてはいけない(竹中,2001)高齢期は、 ある種のあきらめを持ってそれらの現実を受け入 れていくことが必要であり、そのために過去を一 緒に振り返り、あきらめていく過程を見守ること は、援助者の大切な役割のひとつであると思われ る。 (3)「わかってもらいたい」 「伝えたい」思いと尊 厳 今回の事例でも「帰りたい」 「食べたい」などの 繰り返し要求がいくつか見られたが (A,C)、それ はその要望自体を受け入れてもらいたいというよ りも、その“声”を聞き、思いを受け止めて欲し いという心理的体験の表れであり、 “ 自分の声を届 けたい ” “自分の存在を伝えたい”という思いだと 考えられた。従って援助者は、いかなる形や表現 方法でも、自分の存在を示したいとされる認知症 高齢者 の存在を受け止め、理解しようという姿勢. 3.

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