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過去の振り返りプロセスに関する研究 ―

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(1)

要 旨

 本研究は,昨今の混沌とした社会の中で人生に対して前向きな影響や,未来を描くための,いわばサクセ スフルに人生を送るための,有益性を生み出すような「振り返り」がどのようなものであるのかといった「内 省」のあり方を検討している.具体的には「内省尺度」得点の一番高い人が,どのように過去の印象的な出 来事を振り返っているのかその,振り返る際の「視点」と「内省」のプロセスについて明らかにすることを 目的として検討を行った.その結果,分析対象者の「内省」する際の視点としては主に「自己に焦点化した 視点」「他者に焦点化した視点」「文脈的背景に焦点化した視点」「自己の中の変化に焦点化した視点」「総括 的視点」で過去を振り返っていることが明らかになった.またそのいくつかの視点を関係図に表し,「内省」

のプロセスを可視化することができた.

【問題と目的】

 昨今の日本は,少子高齢化や女性の社会進出に伴う 子育てのあり方,老後の生活の仕方,また若者におけ る職業形態の変化など,個人の生き方において様々な あり方が見受けられ,さらにはそのあり方が認められ るようになってきた.しかしながら同時に,核家族の 増加,共働き家庭の増加などによる,子育てや年老い た親の介護,各家庭の経済事情等から派生する複雑な 悩みも増えていることは一般的にも周知されている.

そのような社会では,どうあることが幸せであるのか といった,人々の希望となる「あるべき姿」が見えづ らくなりつつあることも事実である.そのような中で,

人々が自己と対峙し,自分はどうしたいのか,どうあ るべきなのかといった各々が人生の所々において「自 己の望む未来」を描くことが重要となってくるだろう.

ところで「自己の望む未来」を描こうとする際,過去 の出来事から何かヒントとなる事柄を得ようとしたり,

過去の失敗から何かを学ぼうとしたりと,人々は「過

去を振り返る」ことを拠り所に「未来」を描こうとす るのである.「過去を振り返る」ことはそういった意味 で,「未来」に向けての過去の整理であるとも考えられ る.また,人々は過去を振り返ることとは別に,日常 的にも出来事を振り返り,そこから何かを得ようとし ているともいえる.一日の最後にその日話したことや,

言われたこと,思いがけずに起こった出来事などを振 り返り,必要であれば明日への課題を見つけたりする のである.このように,「振り返ること」は,人々の日 常の中に意識することもあれば,意識せずに行われて いることもある作業であると考えられる.「振り返る」

ことは,「過去を振り返る」ことのみならず,「最近の 経験や出来事,日常生活での自己の言動を振り返る」

こと,つまり「自己を省みる」ことといえ,このよう なことを踏まえると一連の作業を「内省(reflection)」

と呼ぶことができる.「内省」とはそのように人生にお いて,必要不可欠な意味のある作業であるといえ,特 に昨今の混沌とした日本社会においては,今一度見直 される必要があるといえる.

立正大学社会福祉学部助教

キーワード:内省,人生回顧,視点,修正版 M-GTA

過去の振り返りプロセスに関する研究

―内省尺度得点の高い人の振り返る視点に注目して―

佐 藤 那 美

(2)

 「内省」の必要性を挙げたいことと並行して,もう一 つ生涯発達心理学における「英知(wisdom)の獲得」

が根本的にある.「英知(wisdom)」とは,生涯発達心 理学においてもサクセスフルエイジングの理想的な到 達点とされる.E.H. エリクソンの理論によれば,中年 期以降,人生の終わりが意識される中で肉体と精神両 面における喪失や機能低下などの脅威に直面し,それ らに対処すべく,統合(integrity)を達成することが 重要な発達課題になる(Erikson,E.H.1997).そして統 合には英知が必要であるとし,英知とは色々な加齢の あり方について幅広い知識をもち,自分自身を含めて 特定の事例にとらわれない柔軟な「見かた」あるいは 構えをもつことを意味する(鈴木,2008).基本的には 人生経験を通じて「英知(wisdom)」は獲得されるが,

その一方で書物や伝承などを通じ,人間の性質や社会,

集団,文化などに関する一般的な知識として学ばれる 側面をもつ.人間はこういう時どのようなことを考え るものか,社会はどういう反応をするのか,そうした 中でどういうことをすることが賢明なのかといった,

一般性をもった人間理解を目下の状況に重ね合わせる ことで,そこから一歩引いた見方や広い視野が得られ る(鈴木,2008).エリクソンのいうとらわれないもの の見かたとしては「英知(wisdom)」とはそのような ことだと考えられる.鈴木はさらに,英知は一つの専 門的領域の有能さと区別され,一つの領域に縛られな い一般性と,公益性を伴った自分の価値観や信念を自 問し対象化するような,ものごとを相対化して捉える ことといえると述べている.しかしながら,英知の獲 得については,単に経験の量の問題により,英知が自4 然に4 4具わるわけではなく,経験から学ぶ4 4ことの重要性 についても述べている.

 このように英知の獲得には少なからず「相対的なも のの見かた」をもって経験から学ぶことが重要である とエリクソンの理論から伺うことができる.

 一方,「内省」がサクセスフルに人生を生きていく上 で,よい影響をもたらすであろうことが,近年の「人 生回顧」を題材にした「回想研究」において述べられ て い る( McFarland,Buehler,R. 1 9 9 8 ;Wong,P.

T.P&Watt,L.M.1996).そのようなことから英知をサク セスフルエイジングの理想的な到達点と考えるとする と,英知の獲得においても「内省」がなんらかのポジ ティブな影響があることが予想される.

 そもそも「過去を振り返る(人生回顧)」ことは,こ

れまで一般的にはネガティブなこととして捉えられて きたが,近年それが見直され,生涯発達にとってポジ ティブな機能があることが明らかにされている(But- ler,1974).それは,人生回顧は,発達主体が自分の発 達や加齢を選択し構成していくことと対応して,それ が正しかったかどうかを後から評価する機能をもつ(鈴 木,2008)からである.また,「回想」を扱った研究に おける代表的なものとして,社会心理学の領域におけ る研究で McFarland,&Buehler,R(1998)の回想研究が ある.そこでは「内省」を伴うような自己に積極的に 向かっている回想は,否定的な気分の源を探ろうとす る態度につながり,記憶の肯定的な面への気づきを促 し,将来に対し前向きな姿勢を促進することを報告し ている.他には,「内省」を伴った人生回顧の機能につ いて検討した Wong,P.T.P&Watt,L.M(1996)の研究が ある.その研究では多くの高齢者に対し家庭や生活上 の問題についての面接調査と,身体機能を調べた上で サクセスフルエイジングを達成している人とそうでは ない人とに分け,過去の経験の語りを分析している.

「サクセスフル」に歳をとっている人たちは①過去の苦 難や葛藤が今の自分の中で解決され受容さていること を示す語りや,②再び同じ苦しみにあわないよう過去 の経験を現在の問題解決に役立てているという語りが 多く,後悔の念に駆られていることを示す語りはほと んどなかったという.Staudinger,U.M(2001)は人生 回顧についての文献を検討しており,「内省」の機能に ついて,過去を追憶すること(reminiscence)と人生 を内省すること(life reflection)とを区別している.

追憶は,単に過去の出来事を想起することであり,自 分が「じょうずに」歳をとってきたかどうかを吟味す ることに直接は結びつかない.それに対して「内省」

は,想起したことに分析を加え評価することを伴う.

「その出来事はどのようにしておこったのか」「自分の したことはよかったのか」「自分や周囲の人たちにどん な影響を与えたのか」といったことを問う.そして自 分の関わった出来事に意味づけを行うことで,自分自 身への洞察と人生への理解が深まる(鈴木,2008)の である.

 このようにサクセスフルエイジングに関連して,単 なる追憶とは異なって「内省」することの有益性が示 唆されることから,今日の「幸せ」の模範を見出すこ とが難しい社会の中で,福祉や教育など特に人を支援,

援助,指導する職業においてそういった観点を視野に

(3)

いれ,サービス利用者への対応,ケアや支援の計画・

方向性などを検討することに役立てることも可能であ る.また支援者自身の情緒の安定性において有効的に 活用することも可能だろう.

 実際にどのような「内省」が有益性を生み出すのか といった,その性質について実証的に検討されたもの がある(佐藤,2011).実際の調査では,質問紙調査に より「内省尺度」の得点と,Staudinger,U.M.,lopez,D.

F.,&Baltes,P.B(1997)が wisdom(知恵,英知)を測 定するために考案した5つの評価基準を元に面接調査 を評価したものを使用し分析を行っている.それによ れば,「内省」することについて「性別」「年齢」によっ て差はなく,「内省尺度」の得点が高い人は,「年齢的 背景」「その時の時代や社会情勢,社会制度,政治体 制」「人(自己)が生活している生活環境」など人生や 生活の「文脈的側面」に考慮していることが示唆され た.

 しかしながら,有益性が生み出される「内省」がど のように行われているのか,そのプロセスについては 佐藤(2011)の研究では明らかにされていないことか ら,本研究では,質的調査法を用いて実際の人生回顧 を題材にした面接調査データをもとに「内省」のプロ セスについてどのような視点から「振り返り」を行っ ているのかを明らかにすることを目的とした.具体的 には,対象者の中で「内省」が一番できていると判断 された対象者の過去の印象的な出来事を振り返る際の 視点と振り返るプロセスについて,修正版 M-GTA を 採用してモデル図を作成し,可視化することで,どの ような視点をもち,どのような振り返りをすることが,

有益性につながる可能性があるのか検討することを目 的とする.

【方 法】

 調査対象

 本研究とは別のテーマで2009年10月に20代~30代の 一般成人22名(男性11名,女性11名)へ面接調査及び 質問紙調査を行った.その時の質問紙調査の質問紙構 成は1.「内省尺度」2.「社会的かしこさ尺度」3.

「属性に関する項目」4.「自己に影響を与えたと思う 経験や出来事を問う項目」についてであった.本研究 ではその中の1.「内省尺度」の得点が一番高かった

「対象者A」のプロトコルデータを採用し分析を行って いった.

「対象者A」について

27歳 女性 都内某大学大学院博士後期課程在籍(2009 年当時)

 筆者とは調査の1年ほど前に「対象者A」の仕事を 通じて知り合った関係である.

 以下,2009年の調査概要及び,分析手順について記 す.

 調査方法

1  質問紙調査(「内省尺度」について)

 「内省」がどのように調査されたのかについて,基本 的に「内省」は質問紙を使用し調査を行った.採用し た尺度は Ardelt,M(2003)により作成された,wisdom

(3DWS:3dimensionalwisdomscale)(知恵,英知)を 3次元から測定する尺度である.その次元は「熟慮次 元」「認知次元」「感情次元」であり,その中で本研究 のテーマとなっている「内省」を測定するために最も 近い「熟慮次元(多様な観点から考えることが出来る 能力)」を使用し「内省尺度」とし調査を行った.「熟 慮次元」は何かを決定する時には,自分と反対の意 見を持つ人たちの立場にたって考えてみる”“何かで悩 んだ時,まずその状況を見渡して,すべての関係ある 原因についてよく考えてみるといった項目がある.

尺度は12項目5件法からなる.なお,使用にあたり実 際の項目を翻訳し,海外滞在経験2年以上ある発達心 理学専攻大学院生2名と検討した上で決定されたもの を使用した.本尺度は知恵・英知を測定するものとし て考案された尺度であるが,「熟慮次元」は「自己を省 みる」際に必要な態度を測定する内容で,本研究でイ メージしている「内省」の意味にとても近いために採 用した.

2  面接調査

 面接調査は基本的に思考発話法(thinking-aloud)に より対象者に回答を求めた.実施した面接調査の内容 については以下に記す.

 <課 題>

人生回顧課題

 対象者自身のこれまでの人生について振り返っても らった.自分の人生について振り返るという人生回顧 は老年期に限って行われるわけではない.Staudinger

(2001)が行った25歳から85歳までの聞き取り調査によ

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れば,人生回顧をする頻度は年齢によって大きな差は なく,大人になった早い段階から折に触れて生じるこ とが報告されている.若い人たちであっても自分の人 生についてはよく考えて,興味を持って振り返るとい うことから,負担なく対象者が課題に取り組めると考 えられた.

ⅰ 教 示

 調査開始前に被調査者に対して,この調査は振り 返るということを大きなテーマにしているというこ と,これから実施するのは「自己(対象者)の人生に ついて振り返る」ことであると説明した.また,面接 調査に対する回答は思考発話法(thinking-aloud)によ り回答をしてもらうため,「質問に対して回答をする際 は,考えをまとめてから話すのではなく,頭に浮かん だことをすべてそのまま話して下さい」と教示した.

ⅱ 練習問題

 思考発話法(thinking-aloud)を理解してもらうた め,対象者に対し練習問題を実施した.10分ほどの自 由会話で,対象者が朝起きてから調査実施場所に来る までの間,どのようなことを考え,感じたりしながら 準備をしてその場所まで来たのかを問い,それをすべ て言葉にするというものであった.練習問題を実施し,

教示が理解されているか確認し本題へ移った.

ⅲ 本題;人生回顧課題   課題に対する教示

 「これから,○○さん自身の人生について振り 返って頂きます.ご自身に大きな影響を与えたと 思う経験や出来事について触れながら,これまで のご自身の人生がどのようなものだったと思うか ご自由にお話ください.また,今後の希望なども ありましたらそれを踏まえながらでも結構です.」

 以下回答が表面的に留まっている,または抽象的に 留まっている場合の介入の質問.

①その経験や出来事によって変化したことはあります か.

②その経験や出来事などは,自分にとってどのような 意味があったと思いますか.

※「具体的にどういうことですか」「そのように思った

きっかけや出来事はありましたか」という質問は適 宜介入していった.

※一つの経験・出来事について一通り話し終えたと思 われたら,「他に影響を与えたと思う経験や出来事な どはありますか」といって更なる振り返りを促した.

これ以上なさそうと判断できた場合もしくは対象者 自身が「特にない」と回答した場合終了とした.

 倫理的配慮

 調査対象者に対し,面接調査及び質問紙調査を行う 前に,研究のおおまかな趣旨の説明をした.さらに研 究の目的,方法(面接調査については録音をすること)

についても併せて説明し,今回の調査で得られデータ は個人が公表される形での発表は行わないこと,また 責任を持ってデータは筆者が管理をすることを伝え,

対象者が納得した時点で同意書に署名をしてもらった.

 分析手順

ⅰ 分析方法について

 本調査の分析に際し,本研究では「修正版 M-GTA」

を使用し分析を行っていった.この分析方法を採用し た理由として,まず「振り返りのプロセス」といった 分析対象自体が動きのあるものであるということから である.木下(2007)は,「修正版 M-GTA」の最終的 な分析の到達点について,分析で明らかにしようとす るのは断面的なことではなく,何らかの動きをもった 現象(社会的相互作用における人間行動の予測と説明 をめぐって)であり,なんらかの動きを明らかに しようとしているということを述べている.本研究の テーマである「印象的な出来事の振り返りのプロセス」

は人間同士のやりとりとその経過自体について明らか にしようとしているわけではない.あくまでもある人 物が過去を振り返った時のその頭の中にある出来事を みる視点を可視化しよとするものである.しかしなが ら,人が過去の出来事を振り返る時,そこには過 去に他者とのなんらかの関わりがあったことも含んで おり,出来事は社会的相互作用と切り離せないもので あるし,その社会的相互作用を含んだ過去の出来事自 体も動きのあるものとして対象者の中に存在している と考えられる.このようなことから,「修正版 M-GTA」

を使用することは妥当であると考えられる.また,「修 正版 M-GTA」は最終的には結果図と記述説明によっ て理論を組み立てていく研究法である.結果図に表す

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ことにより量的な分析では見えなかった思考のプロセ スを提示することが出来ると思われた.以上の理由か ら,「修正版 M-GTA」を採用し分析を行うことが適切 であると考えこの分析方法を採用した.

ⅱ 手 順

 実際の分析にあたり,作業において木下(2003a)は 7つのポイントを提示している.そのポイントに沿い ながら,本研究における「内省得点」が一番高かった

「対象者A」の実際の分析手順について示していく.

① 分析テーマとデータを見比べながら,分析テーマ について意味のある部分を拾いあげ,一つのバリエー ション(具体例)とし,さらにほかの類似したバリ エーション(具体例)をも説明できるような概念を 生成していく.実際のデータ中では,「対象者A」が 過去の出来事を振り返っている語りの中で,過去の 振り返るときの視点として,当時の出来事に関わっ た他者の気持ちを察して(考慮して)話している内 容が,それに該当すると思われる.具体的な例でい うと,「対象者A」と父親の関係についての話題が出 たときに,父親の気持ちを想像して語っている,

「中学に入学するときをきっかけに,今思えば,中学 入学してから自分でもわかったけど,父親としてはもっ と子どもと接したいっていうのがほんとの理由だった と思うんだけど,表向きの理由は,中学入学して英語 が始まるから,だから英語を教えてあげるっていう,

うちの父親塾経営してたから,だから自分の塾に勉強 見てあげるからおいでっていう話があって,で,中学 一年生の時からから父親の経営している塾に行くよう

になって.(p211)」

というデータがある.「対象者A」が他者の立場に立っ た視点で語っていることから,一つのバリエーション

(具体例)とする.さらに,データの中の他の類似した バリエーション(具体例)をも説明できるような概念 を作成する.

② 分析ワークシートを作成し,概念名,定義,バリー ション(具体例)を記入していく.「修正版 M-GTA」

の特徴として,分析ワークシートの存在がある.「概 念名」「定義」「バリエーション(具体例)」「理論的 メモ」で構成されており,①のところで拾い挙げた バリエーション(具体例)を記載する.それを元に,

そのバリエーション(具体例)がどういう例を扱っ ているのかを説明した「定義」付けをし,さらにそ の「定義」に名前を付けていく(「概念名」).

③ 新たな概念を作り,分析ワークシートは個々の概 念ごとに作成する.はじめに作成した概念とは別に,

データを概観しながら,新たな概念を作成していく.

その際,分析ワークシートは一シートに一つの概念 のみを載せることとなる.そのため,新たな概念が 作成されたら,新たな分析ワークシートを作成して いく.(図1)

④ 同時進行で,他のバリーション(具体例)をデー タから探し,すでに作成してある分析ワークシート のバリエーション(具体例)欄に追加記入していく.

その作業を繰り返すことで,先に作ってあった概念 名や定義をこの概念でよいのか,定義の内容は適切 㻨ᴫᛕྡ㻪 ௚⪅䛾Ẽᣢ䛱䞉⪃䛘

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図 1 .分析ワークシート作成例 1

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であるのか検討していくことになる.分析テーマと 照らし合わせながら,またバリエーション同士を比 較しながらより適した概念や定義を生成していく.

(図2)

 実際の分析では,図2に示しているように,バリエー ション(具体例)を追加していくうちに,単純に「気 持ち」だけがあるわけではなく,他者の「考え」につ いても一緒に含められると考えたため,概念名を「他 者の気持ち」から「他者の気持ち・考え」に,定義を

「その当時を振り返って思う,登場人物の気持ちについ て語っている」から「その当時を振り返って予想する 登場人物の気持ちや考えについて語っている」に修正 した.

⑤ 生成した概念の完成度は,バリエーション(具体 例)の類似例の確認だけではなく,対極例について の比較の観点から,データを見ていくことにより,

解釈が恣意的に偏る危険を防ぐ.その結果をワーク シートの理論的メモ欄に記入していく.

 理論的メモでは,分析ワークシートを作成している 途中で浮かんだ疑問や考えについて,その内容を記録 として残し,概念名や定義の検討,概念の関係性の検 討を行う際の情報として活用する.また,この分析ワー クシートとは別に,理論ノートを作成し,分析ワーク シートには当てはまらないアイデアや分析全体につい ての思考経過などを記載し,記録として残しておく.

 実際には,図3に示しているように,他の概念の対 極例として位置づけることや,バリエーションとして ふさわしいかどうかについて,記載している.

⑥ 生成した概念と他の概念との関係を個々の概念ご とに検討し,関係図にしていく.概念生成の作業を 繰り返し,説明可能な概念として立ち上げ,それぞ れの概念同士の関係性を考えてプロセスを図式化す る.カテゴリーはデータ全体に対して一通りの概念 生成を終えてから作られるのではなく,概念の中に すでにカテゴリー的な説明力をもっているものもあ る(木下,2007).分析の終了に際しては新たな概念 㻨ᴫᛕྡ㻪 ௚⪅䛾Ẽᣢ䛱䞉⪃䛘

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図 2 .分析ワークシート例 2

(7)

が生成されなくなったり,理論的サンプリングで新 たにデータ収集して確認すべき問題点がなくなった ときをもって,「理論的飽和化」と判断する.

⑦ カテゴリー相互の関係から分析結果をまとめ,そ の概要を簡潔に文章化し(ストーリーライン)また,

結果図を作成する.修正版 M-GTA では結果図と記 述説明(ストーリーライン)が主軸になることから,

丁寧に説明していく.

 以上のような手順により,分析を進めていき,結果 図の完成まで行っていった.

【結果と考察】

 本研究は,内省尺度得点の高い人が過去の印象的な 出来事を振り返る際,「どのような視点をもちどのよう なプロセスで振り返りを行うのか」ということについ

て,質的調査法を用いて行っていった.分析方法を修 正版 M-GTA を使用し,分析を行い最終的に完成した 結果図が図4である.

 概念自体の数はすべてで12個の概念を生成した.概 念自体がカテゴリーになったものもある.どのような

「視点」で過去を振り返るのかという視点を中心とした テーマに照らし合わせながら概念同士の関係図を作成 していった結果,「対象者A」の過去を振り返る際の大 きな特徴として,「自己に焦点化した視点」「他者に焦 点化した視点」「文脈的背景に焦点化した視点」「自己 の中の変化に焦点化した視点」「総括的視点」が示され た.

 「自己に焦点化した視点」とは,過去の印象的な出来 事を振り返る際,その時自分はどう思ったのかといっ た,主に「自分の気持ちや考え」について述べていた り,「自分の性格について分析」といった,出来事との 㻨ᴫᛕྡ㻪 ௚⪅䛾Ẽᣢ䛱䞉⪃䛘

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図 3 .分析ワークシート例 3

(8)

関係の中で,自分の性格が関連してその出来事が起こっ た場合,「自分はこういう性格だから」と出来事の補足 として性格を分析するような語りが「対象者A」には 見られた.

 「他者に焦点化した視点」とは,「自己に焦点化した 視点」の反対例に当たるカテゴリーであり,当時の印 象的な出来事に関わった登場人物の気持ちや考え方と いった「他者の気持ちや考え」について述べているも のである.この具体例を挙げるとすると「今思えば,

中学入学してから自分でもわかってたけど,父親とし てはもっと子どもと接したいっていうのがほんとうの 理由だったと思うんだけど……中略(p211).」といっ たバリエーション(具体例)がそれに当たる.また「他 者の価値観」とは他者の持っている価値観を考慮した 語りはこの「他者に焦点化した視点」の中に入ること となる.

 「文脈的背景に焦点化した視点」とは,印象的な出来 事に暗黙で含まれてくる歴史的(過去の出来事との関 連),社会的(制度や文化的なこと),年齢・属性的(性 別,職業,所属している共同体)などの背景,また当 時の「対象者A」や印象的な出来事に関わる登場人物 たちが置かれている当時の状況や環境,さらには組織

的な何かに関与し出来事が発生した場合その組織の中 だけに活きてくるルールのようなものに触れながら,

振り返りを行っていたということである.

 続いて「自己の中の変化に焦点化した視点」とは,

印象的な出来事を通して,どのような変化が起こった のかについて述べていて,それは大きく三つ分けられ ることがわかった.一つは,「出来事からの学び」であ り,実際の語りでは「中略……頑張りすぎるのもいけ ないって学んだし(p421).」という部分があること からもわかる.二つ目は「出来事を通じた心境の変化」

である.印象的な出来事を通して,これまでの気持ち から,異なる気持ちになっていることを「対象者A」

は語っていた.そして三つ目は「外的な力により自己 の在り方の変化」というものである.一見分かりにく いものであるが,自分から何かを学ぶでもなく,気持 が先に変わることでもなく,自分以外の何らかの影響 力があって,気がついたら自分の立ち位置や,あり方 が変わっていたというものである.このように「自己 の中の変化に焦点化した視点」には三つの種類が「対 象者A」からは明らかになった.

 最後に「総括的視点」とは,これまでの自己の人生 について大きな括りで捉える視点である.「基本的に

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図 4 .「内省尺度」得点が一番高い「対象者A」の印象的な過去の出来事を振り返る視点とプロセスについて

(9)

は,すごい恵まれた人生だと思っていて,それはずっ と中学生,小学生くらいのころからそう思ってて(p1 10).」とか「トータルで考えるととてもついてる人 生だなって思う(p115).」というような具体例で表 わされる.

 以上のような「視点」が「対象者A」の語りのデー タから導きだされた.次にこの結果と結果図のストー リーラインを説明をする.

→ まず,「対象者A」は何らかの「対象者A」にとっ てプラスの印象かマイナスの印象かどちらかの印象的 な出来事に遭遇する.

→ その印象的な出来事というのは,暗黙の内に「歴 史的な背景」「社会的な背景(制度や文化的なこと)」

「年齢・属性的(性別,職業,共同体)な背景」といっ た文脈的背景に抱えられ,その文脈の上にある「当時 の状況・環境」が影響を与えている.そのことを「対 象者A」は考慮し,さらには,ある組織内だけで有効 なルール等も考慮に入れた,その時その場に特有の出 来事として捉えていた.

→ 続いて,印象的な出来事に遭遇した際,「自己に焦 点化」して「自己の気持ち・考え」や「自己の性格」」

に注目して出来事を捉えていた.自分はその時どのよ うな気持ちであったのか,どのように考えたのか,そ もそもどのような性格であったのかといったことに視 点を向けていった.

→ それと同時に「他者に焦点化」もして,「他者の気 持ち・考え」「他者の価値観」にも目を向け,関わりの あった相手はどのように感じたのか,元々どのような 考え方をもっているのかといったことに視点を向けて いった.

→ その後,印象的な出来事の経験を終えてみて,ど のような変化が自己の中にあったのか「自己の中の変 化に焦点化した視点」をもって,その変化した部分に 注目している.具体的には「学び」といった生産的な ものであったり,「心境の変化」といった何らかのきっ かけで起こった新たな気持ちの生成であったり,「外的 な力による自己の在り方の変化」といった何か見えな い影響力による誰かとの関係性の変化や,自分の立場 の変化ということである.

→ そして,最終的にこれまでの視点を踏まえて導き 出された「総括的視点」という,出来事の全体像を「自 分なりの見方」で捉え,それが自分にとってどのよう な意味があったのかといった,いわゆる人生を総括を

するような意味付けを行っていた.

 以上が「対象者A」が経験した「内省」のプロセス である.

【おわりに】

 近年,人生を「内省」することが,サクセスフルエ イジングにプラスの影響を与える可能性があり,上手 に歳を取ることと関連があるというような,生涯発達 における「内省」の有益性について述べられることが 多くなってきてはいるが,実際にどのように出来事を

「内省」するのかといったそのプロセスについてまでは 述べられてこなかった.「内省」が人生の到達点である

「英知の獲得」にも何らかの影響がある可能性があり,

経験から学ぶことに「内省」が役立つ可能性があるこ とを踏まえるとすると,どのような視点やプロセスで

「内省」することが,「英知の獲得」に影響を与え,経 験からの学びに役立つのかということについて,本研 究においてその「振り返り(内省)」プロセスを,図と して可視化できたことは,少なからず意義のあること ではないだろうか.一事例ではあるが,この事例を元 に今後も有益性を生み出す「内省」のあり方を検討す ることができると思われる.

 「内省」は個人において行うことと同時に,ある対象 者へ有益性を生み出すよう促したり,関わったりする ことも可能であると考えられる.「支援」や「援助」

「ケア」を専門とする福祉職においては,サービス利用 者に対し,個別支援計画等を作成し対応していること が多いが,利用者個人の中の気づきを促すためにこの ような視点を活用したケアの方法も,一つの可能性と して考えることが出来るだろう.また福祉職の中の,

特に保育士においては,子育て環境の変化,地域の子 育て力の低下が背景による「保育所保育指針」の改定 において「保護者支援」が新しく盛り込まれ,保育所 に対する期待が増えてきている.しかしながら,子ど もや保護者のこれまでの人生やこれからの人生を見据 えた視点や,子育て家庭が置かれている社会への視点 をもった「支援」や「ケア」を体系的に行っている保 育所や保育士は依然少ないのではないだろうか.保護 者への支援といった,ケアのみならず,ソーシャルワー ク的働きをも期待されている中で,そういった「振り 返る」ことを活用し,悩みを抱えた保護者に対し,望 ましい未来を描く支えとなることにも恐らく役立つ可 能性はあるのだろう.

(10)

 今後は,そのような「内省」をある対象者へ促した り,配慮した関わりをすることで,対象者にもサクセ スフルエイジングとまではいかなくとも,人生に対す る捉え方になんらかの前向きな影響が示されるのかと いうことも検討したいと考えている.また年齢を変え た検討や,他にも新しい「視点」を見出すことができ るのか結果図のさらなる精緻化を検討していきたい.

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(2011年2月23日受理)

参照

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