拡張現実空間における奥行き知覚―仮想物体と現実物体の相互作用の検討― [ PDF
4
0
0
全文
(2) 考察. の三つを設けた。それに対応しているシミュレートし. 実験1では,拡張現実空間を刺激として,現実物体. た大きさは4.8cm,5.76cm,6.72cmである。仮想物体は. と仮想物体の回転方向の正判断率を検討した。その結. 垂直中心軸による回転運動と横方向の振動運動をした。. 果,回転方向一致条件の正判断率は,ボールなし条件 と回転方向不一致条件より低いことが明らかとなった。 回転方向の正判断率は,ボールなし条件は約 65%, 回 転方向不一致条件は約 70%,回転方向一致条件で約 50%であった。正答率の変化は,仮想物体と現実物体 の知覚の相互作用が生じたことを示し,CG 画面を用い た研究(Gilroy & Blake, 2004)の結果と一致する。 物体の相対的大きさは奥行きの手がかりとなるから である。実験 1 で得られた結果は,観察者は現実物体 と仮想物体の摩擦に重きを置き,現実物体の相対的大 きさの変化を無視したことを示唆している。. 図 4 実験の空間位置構成 手続き 1 試行は以下の通りであった。観察者はデ. 実験 2 実験 2 の目的は,仮想物体と現実物体の相互作用が 大きさの知覚においても存在するかを検討することで ある。 . ィスプレーの真正面に座った。仮想物体の運動時間は 10s であった。1 ブロックでは,12 試行,全部で 7 ブロ ックであった。最初の 1 ブロックの 12 試行は練習であ った。. 方 法 観察者 成人 5 名を観察者とした。全員正常な視力 (矯正を含む)を有していた。 刺激 刺激はモニタ中央の21.3. 16.0. の長方形. の領域内に呈示された。 刺激の中に段ボールから作った二つ壁と煉瓦の背景 を呈示した。二つの壁の高さは23.5cmであった。壁の 奥行きは15.5cmであった。壁の幅は5.5cmであった。図 3は実験に使用した刺激である。二つの壁の間の距離と して,14cmと24cmの2種類を設定した。. 結果 5 名の観察者から得たデータを集計した。壁の距離 と仮想物体の大きさを独立変数として観察者内二要因 分散分析を行った。壁の距離条件と仮想物体の大きさ の主効果は有意であった[F(1,4)=11.132, p<.05],[F(2,8) =180.667, p<.001]。大きさ知覚に基づく Ryan 法による 多重比較の結果,シミュレートした物体の大きさは 4.8cm – 5.8cm,4.8cm – 6.7cm と 5.6cm – 6.7cm のすべて のペアに有意差が見られた(p< .001)。 ボールペンの大きさに対する知覚された大きさにつ いて,5 名の観察者の平均値を図 5 に示す。. 図 3 実験に使われた刺激 カメラとマーカーの間に十字形物体を仮想物体とし て呈示した。マーカーの真下と壁の手前に,対比物の 赤いボールペンを配置した。ボールペンの長さは14cm であった。仮想物体の大きさは視角で4.77°,5.77°,6.68°. 図 5 実験2の結果。 エラーバーは標準偏差を示す。(N=5) .
(3) 考察. 分散分析を行った。壁の距離と仮想物体の大きさの主. 本実験の結果から,仮想物体の大きさ知覚が部分的. 効果は有意であった[F(1,9)=6.54, p<.05],[F(2,18)=. 遮蔽の影響を受けることが明らかとなった。特に壁間. 105.931, p<.001]。仮想物体の大きさ知覚に基づく Ryan. 距離が小さい条件において,仮想物体による現実物体. 法による多重比較の結果,シミュレートした大きさは. の部分遮蔽があるときは,仮想物体が小さくみえた。. 3cm – 3.6cm,3cm – 4.2cm と 3.6 – 4.2 のすべてのペアに. 仮想物体が小さく知覚された原因は T 型接点(T−. 有意差が見られた(p<.001)。. junction)を持つ網膜像が生じたからであると考えら. ボールペンの大きさに対する知覚された大きさにつ. れる。先行研究から,T 型輪郭形状は物体と物体の空. いて,10 名の観察者の平均値および標準偏差をプロッ. 間位置に依存することが知られている(塩入,2000)。. トしたものが図 7 である。. 壁間距離が小さい条件では,現実の壁と仮想物体の間 で T 型接点が形成され仮想物体が現実物体の前に存在 するように見えたので,仮想物体が小さく見えたと解 釈できる。 次の実験では,拡張現実空間における仮想物体の位 置を変えて,遮蔽効果が大きさ知覚に与える影響を検 討する。 実験3 実験3の目的は,仮想物体のシミュレートした呈示 位置を前方にし,物理的には可能だが遮蔽が生じるよ うな条件で,遮蔽が仮想物体の大きさ知覚に影響する. . かを検討することである。. 図 7 実験3の結果。 . 方 法 . エラーバーは標準偏差を示す。(N=10) . 観察者 実験2に参加しなかった成人10名を観察者. 考察. とした,全員正常な視力(矯正を含む)を有していた。 . 実験 3 においても実験 2 と同様に,現実物体の壁間. 刺激 仮想物体の大きさは視角で 4.77. 距離を変えることで仮想物体の見かけの大きさが変化. 6.68. ,5.77. ,. の三つを設けた。それに対応しているシミュレ. することが明らかとなった。これは,現実物体と仮想. ートした大きさは 3cm,3.6cm,4.2cm であった。仮想. 物体の間に,部分的遮蔽を通した大きさの相互作用が. 物体の位置は下図のように設定した(図 6)。その他. 存在することを示唆する。実験 2・3 の仮想物体は,陰. は実験2と同じである。 . 影と遮蔽を用いて,リアルに描いていた。拡張現実空. 手続き 実験2と同じである。 . 間では,仮想物体の現実らしさは描画の方法に依存す る。次の実験では,仮想物体のリアルさが相互作用に 影響を与えるかを検討する。 実験 4 実験 4 の目的は,仮想物体の現実らしさが相対的大 きさ知覚における相互作用に与える影響を検討するこ とである。実験 4 は実験 2 の実験場面と類似している。 現実物体は二つの壁を含む 3 次元的場面を撮影した場 面であり,仮想物体は回転する緑の十字形であった。 仮想物体の現実らしさを変化させるために,実験 2 で 用いた物体,陰影がない物体,輪郭のみの物体の 3 種. 図6 実験3の空間配置 結果 10 名の観察者から得たデータを集計した。壁の距離 と仮想物体の大きさを独立変数として観察者内二要因. 類を設定した(図 8)。.
(4) とであった。その結果,仮想物体の現実らしさは大き さ知覚に影響を及ぼさないことが明らかとなった。し たがって,実験 2 と実験 3 でみられた遮蔽の効果が実 験 4 では見られなかった。したがって,このような場 面では,仮想物体と現実物体は別々に知覚されるのか もしれない。その結果,仮想物体の大きさは画面上の 2 次元的な大きさに着目して判断されたと考えられる。 結論 本研究のテーマは,拡張現実空間で呈示する現実 物体と仮想物体の視覚的な相互作用について,心理物. . 理学的実験によって検討することであった。 . 図 8 実験4の刺激. 実験1では,現実物体についての回転方向判断課題. 方法 観察者 成人10名を観察者とした,全員正常な視力 (矯正を含む)を有していた。 刺激 以下の点を野除いて,実験 2 と同一であった。 仮想物体の大きさは視角で 4.77°(小)と 6.68°(大) の二つを設けた。それに対応しているシミュレートし た大きさは 5.67cm と 6.72cm であった。 . を用いて,現実物体と仮想物体の回転方向の正判断率 を検討した。結果として,回転方向一致条件の正判断 率は,ボールなし条件と回転方向不一致条件より低い ことが明らかとなった。この結果は,仮想物体と現実 物体の間に,視覚的摩擦という形での相互作用が存在 することを示唆する。 実験 2・3 では,相対的大きさを再生する課題を用い. 手続き 実験2と同じである。. て,仮想物体と現実物体の相互作用が大きさの知覚に. 結果 10 名の観察者から得たデータを集計した。仮想物体 の現実らしさ,壁の距離と仮想物体の大きさを独立変 数として観察者内二要因分散分析を行った。仮想物体 の大きさの主効果のみ有意であった[F(1,9)=66.656, p<.001]。要約すると,現実らしさの影響は見られなか った。10 名の観察者の平均値及び標準偏差をプロット したものが図 9 である。. おいても存在するかを検討した。相対的大きさを再生 する課題を用いて実験を行ったところ,仮想物体の大 きさ知覚が遮蔽の影響を受けることが明らかとなった。 この結果は,仮想物体と現実物体の間に,遮蔽の解釈 における相互作用が存在することを示唆する。 実験 4 では,仮想物体の現実らしさが相対的大きさ 知覚に与える影響を検討した。結果は,仮想物体の現 実らしさが試行間で変化する場合,遮蔽によって相対 的大きさ知覚は変化しないことが明らかとなった。こ の結果は,現実らしさが変化するときは,観察者が仮 想物体と現実物体を別々に認識していることを示唆す る。 これらの実験結果から,現実物体と仮想物体の視覚 的な相互作用が存在する条件を明らかにすることがで きた。 引用文献 Gilroy, L. A., & Blake, R. (2004). Physics embedded in visual perception of three-dimensional shape from. 図 9 実験 4 の結果。 エラーバーは標準偏差を示す。 考察 実験 4 の目的は仮想物体の現実らしさが,現実物体 と仮想物体の間の相互作用に与える影響を検討するこ. motion. Nature Neuroscience, 7, 921-922. 塩入 諭 (2000). 奥行き(立体)視 日本視覚学会 (編) 視覚情報処理ハンドブック 朝倉書店 pp. 319-320..
(5)
関連したドキュメント
In 18 unilateral spatial neglect patients, six types of sound image (1, 2, and 3 times threshold sounds for each side) based on the inter-aural time difference discrimination
製造業※1、建設業、運輸業など 資本金3億円以下 または 従業員300人以下 卸売業 資本金1億円以下 または 従業員100人以下 小売業
それゆえ、この条件下では光学的性質はもっぱら媒質の誘電率で決まる。ここではこのよ
複合地区GMTコーディネーター就任の検討対象となるライオンは、本役職の資格条件を満たしてい
ポンプの回転方向が逆である 回転部分が片当たりしている 回転部分に異物がかみ込んでいる
ヒュームがこのような表現をとるのは当然の ことながら、「人間は理性によって感情を支配
平成 28 年 3 月 31 日現在のご利用者は 28 名となり、新規 2 名と転居による廃 止が 1 件ありました。年間を通し、 20 名定員で 1
・条例第 37 条・第 62 条において、軽微なものなど規則で定める変更については、届出が不要とされ、その具 体的な要件が規則に定められている(規則第