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ロングステイの社会的機能についての考察−タイ・バンコクにおける事例から− [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)ロングステイの社会的機能についての考察−タイ・バンコクにおける事例から− キーワード:高齢社会,ロングステイ,高齢者,行動の要因,社会的機能,中間支援組織. 共生社会システム学専攻 池邉 善文. 1.はじめに 2002 年 10 月 1 日現在、65歳以上の高齢者人口は、前. ジャンプをさせた要因や背景があるに違いないと考えたか らである。. 年より 76 万人増えて 2, 363 万人となり、 高齢化率は 18.5%. 本稿では、個人がロングステイを実行する要因や背景、. に達し、少子化と長寿化による急速な高齢化が進行してい. そして個人を支援する組織やシステムについて、タイ・バ. る。さらに「団塊の世代」が65歳を迎える 2015 年には、. ンコクで長期滞在をしている高齢者をケーススタディとし. 高齢化率は 26%を超えると予想されている。. て、行動を起こした要因を分析し、ロングステイを社会的. また我が国の平均寿命は、2001 年には男性が 78.07 年、. 機能の観点から考察する。. 女性は 84.93 年となっている。65歳時の平均余命は、男 性 17.78 年、女性 22.68 年と男女とも高齢期が長くなって いる(内閣府,2003) 。. 2.日本の高齢社会の課題 急速な高齢化によって、新しい社会制度や仕組みを構築 するとともに、高齢社会における生き方の探求をすること が、重要な課題となっている。4人にひとりが高齢者とい う社会においては、15%の介護や支援が必要な高齢者だけ でなく、マジョリティとしての 85%の高齢者が、介護や援 助を必要とせずに暮らしていることに、より注目する必要 がある(金子,1997:247-248) 。 会社生活を中心に送ってきた人たちは、60歳で定年退 職しても約20年という長い高齢期を過ごすことになり、 いかに生きるかという課題が表面化してくる。人類が初め て経験する長寿の獲得によって、これまでの生き方とは異 なる人生観や価値観を見出さなければならないのである。 それは、個人の長い高齢期をより生き生きとしたものにす るための課題である。 「いかに老いるか」を問い直し、その 人の個性に応じた新たな生き方が必要になってくる。 会社中心の人生から個人や地域を中心にした人生へ転換 するために、定年後の高齢期に向けた生き方を確立するこ とが、課題になっている。 3.先行研究. 高齢化が進展する日本社会において、高齢者がどのよう. これまで終身雇用や年功序列によって守られてきた会社. な生き方をし、個人が社会とどのように関わっていくかに. 人間は、定年後の人生や生き方をどのように捉えているの. ついて明らかにすることが、本稿の主な課題である。. だろうか。 (財)高年齢者雇用開発協会(2002)は、定年到. では、人はどのようにして高齢期における自分の生き方 を探し、見出しているのだろうか。この問題を解明する手. 達者の就業と生活実態に関する調査研究において、つぎの ように報告している。. 掛かりとして、ロングステイ(海外での長期滞在)をする. 「今後の人生における夢・取り組み」について「仕事」. 日本の高齢者に注目した。その理由は、ロングステイをし. と答えた人たちは、5.5%に過ぎない。自由記述から収入を. ている高齢者は、長年住みなれた日本を離れて長期間海外. 得るためにあくせく働くこともないという理由による「不. で暮らすという、いわば人生のジャンプをした、あるいは. 就業」の人たちが多い。その背景には、定年後の再就職先.

(2) に対する疑問や不安をあげている。厚遇を期待できるのか、. 見に賛成している。これは、多くの人に受け入れられてい. 前職がもたらしたプライドが傷つけられることを恐れてい. る望ましい高齢期の生き方がないことを意味する。高齢期. るのではないか。定年後の労働市場にそれほど光を見出せ. の生活についての確信のなさとアンビバレントな感情が、. ないのであろう。 「生涯現役」を望む人たちの能力を活用す. 安定志向と変化志向、同調志向と自己主張の双方を、望ま. る再雇用のソフトウェアは、まだまだ開発されなければな. しい高齢期の生き方として選ばせていたといってよいと結. らないと知らされる。. んでいる。. ボランティア活動によって新たなライフスタイルを築こ うとする人たちが増加している。ボランティアへの関心は. 4.ロングステイの現地調査. 一層高まり、サラリーマン時代に培った能力が形を変えて. タイ・バンコクの調査から、4つの発見があった。. ボランティア活動に活用したいという人が多い。. 第一に、ロングステイを実行できる基本的条件になって. ただし関心はあっても、自分が何をすればよいのか、ま. いる社会的・経済的要因を検証した。. だ把握できないでいる人たちが大半である。どのような一. まず「年齢」の要因、ここでは「退職や引退する年齢」. 歩を踏み出そうとしているのか、自由記述は「ボランティ. が要因になっていた。第二に「既婚」であることが、「夫. ア活動」 「地域の NPO への参加」 「助け合いのネットワーク」. 婦で」は必ずしもロングステイの条件ではなかった。第三. 「社会貢献」 「地域発展のために精力的に活動したい」 「地. に、日本での就業状況について、会社や仕事からの「退職. 域社会に貢献したい」と抽象的であり、まだ具体的な像を. や引退」が条件であった。第四に、職業の要因として前職. 結んでいない人たちが多くいる。. に管理的職業に就いていた人、つまり「社会的地位」が高. このように会社人間であった男性にとって、定年後の生. いことである。第五に、日本での同居状況について、世話. き方の指針が見つけにくいようである。何かしたいという. や介護が必要な「老親」がいないことが、実行できる大き. 意欲や関心がある方向性を持っていても、どのように行動. な条件になっている。第六に、年収が多く経済的な余裕が. してよいのか分からない、具体的な一歩が踏み出せないで. あること、つまり経済的な要因が条件になっている。. いるといった姿が見えてくる。 また、高橋勇悦ら(2001)によると、定年退職において、. つぎに、 「年齢」や「滞在期間別」に注目し、ロングステ イ経験者の傾向と特徴を把握した。. 退職者は長年勤めた職場という自己肯定の場を失い、同時 N=38. どのくらい滞在する予定ですか. に生きがいを失うことが多いという。退職後に家庭や地域 社会に肯定的な自己を保つ日常生活の場に求めても、今ま で自己を支えてきた複雑な相互行為の網は、そう簡単には. 65歳以上. 作り上げることはできない。. 65歳未満. ここで、児玉ら(1995)は「大都市の中高年(45∼6 4歳)が考える望ましい「老後」の暮らし方」について紹. 12. 4. 8. 14. 0% できれば永住したい. 50%. 100%. 滞在期間が終えたら帰国する. 介している。この検討によると、 「安定志向−変化志向」と 「同調志向−自己主張」という2つの軸で整理できること が示されている。. (1)年齢との関係について ロングステイの目的、ロングステイをしてよかったこと、. 安定志向は、変化の少ない生活を望み、関係する他者を. など全体をとおして、65歳未満は、解放志向、いやし志. 限定しようとする志向を表しており、 「気の合った仲間とだ. 向が高く、精神面を重視する傾向が分かった。日本の日常. け付き合いたい」 「自分の好みを押し通したい」などの意見. 生活でのしがらみやわずらわしさから解放されて、精神面. に代表されている。変化志向は、生活の変化と人間関係の. での良さを感じている。. 拡大を求める志向で、 「新しいことを始めたい」 「人間関係. これに対して65歳以上は、健康志向、交流志向が高く、. を広げたい」 「変化のある暮らしをしたい」などの意見によ. 特に健康面を重視する傾向が強い。温暖な環境のなかで健. って示されている。同調志向は、 「何事につけ人の意見に従. 康の維持や体調の回復など健康面での良さを実感している。. うようにしたい」 「周囲に合わせて行動したい」などの意見. (2) 「永住志向」と「帰国志向」について. に代表される。自己主張は、 「新しいことを始めたい」 「自 分の好みを押し通したい」などの“自分”を主張する傾向 を表している。 個々の回答者をみると、かなりの人が軸の両極にある意. 「永住したい」は健康面を重視し、 「滞在期間後、帰国す る」は精神面を重視していることが分かった。 「永住したい」は、タイの気候や風土に馴染み、健康的 な生活を送っていることにロングステイの良さや充実感を.

(3) 味わっている様子がうかがえる。一方、 「滞在期間後、帰国. ら解放され、自分自身を見つめ直す良い機会になっている。. する」は、初めはゴルフ・スポーツなどが主な目的だった. ロングステイが、自分らしさを見失いがちであった人生. が、長期滞在するうちに、日本のしがらみやわずらわしさ. から、これからの新たな人生を切り開くきっかけになり、. から解放され、結果として精神的にいやされているようだ。. 人生や生き方を見つめ直す“気づき”の機会を与えている。. N=22. ロングステイしてよかったこと(65歳未満). (2)新しい生き方への助走期間(人生や生き方に関する 機能) 会社中心の人生を送ってきた会社人間の男性にとって、 定年後の生き方を確立することが一般的に難しい。そこで. 21. 物価が安く、生活しやすい. 会社中心の人生から個人や地域中心の人生へ、どのように. 14. しがらみやわずらわしさから解放された. して切り替えるかが課題になってくる。その準備として、. 12. 食事が合う 精神的にいやされた. 10. ロングステイは定年後の生き方を見つめ直す機会であると. 自分の滞在の目的ができている. 10. 同時に、新しい生き方への橋渡しや助走期間として機能し. 日本人の友人や知り合いができた. 10 10. ているといえよう。. 体調がよい、健康になった. (3)自己実現の“場”の創出(自己実現に関する機能). 9. 現地の友人や知り合いができた. 現地との交流や社会貢献をとおして、つまり社会とのつ. 7. 気候や風土が合う. 6. 新しい価値観を見つけた. ながりや社会参加によって、その個人ならではの自己実現. 5. 現地の生活習慣が合う. 0. 5. 10. 15. 20. 25. を達成したいというニーズがあった。 このニーズにたいして、ロングステイが自己実現の“場” を創り、提供しているのではないだろうか。たとえば日本 語を教えることや走ることを媒体にして、交流の輪を広げ. N=16. ロングステイしてよかったこと(65歳以上). 社会貢献に結びつけようとしていた。そして、教えること や走ることが、その個人でなければという独自性を帯びた 自己実現の生きがいになっていた。現地との交流や社会へ. 16. 物価が安く、生活しやすい. 体調がよい、健康になった 食事が合う 日本人の友人や知り合いができた 自分の滞在の目的ができている しがらみやわずらわしさから解放された 現地の友人や知り合いができた 現地の生活習慣が合う 精神的にいやされた 新しい価値観を見つけた. の貢献をとおして、自己実現を図ろうとしているのである。. 11 9 8 7 6 5 5 5 4. 気候や風土が合う. この意味において、ロングステイが個人の自己実現を支援 する場として機能しているといえよう。 第四に、中間支援組織の存在が分かった。 「タイロングステイ日本人の会」をはじめ、長期滞在を する個人をサポートし支援する団体や組織が生まれ、萌芽 的であるが活動を始めていた。個人がグループになり、ネ. 1. 0. 5. 10. 15. 20. ットワークを形成する。さらにグループや集団は組織化さ れ、組織を媒体として現地社会との交流を開始しつつある。 「日本人の会」は、タイでロングステイしている個人が 集まり、有志が組織化した団体であり、大きく二つの機能. 第三に、ロングステイの機能についてである。. を果たそうとしていた。. インタビュー調査から、ロングステイには多様な機能が. 第一に、個人を支援しエンパワメントする機能を有して. あることが分かった。健康に関する機能、精神面での機能、. いる。たとえば、病院の場所や銀行の利用方法などの身近. 人生や生き方に関する機能、自己実現に関する機能などに. な生活情報を提供することで、個人が安心して生活できる. 大きく分類される。特に代表的な機能は次の通りである。. よう支援している。そして、趣味やボランティア活動をと. (1)人生の見つめ直しや“気づき”の契機(人生や生き. おして仲間と意識を共有できることで個人を勇気づけ、 「日. 方に関する機能). 本人の会」を介して個人では困難なことを実現できる可能. ロングステイは、これまでの人生を振り返り、 「自分の人. 性を高めようとしているのである。. 生」という視点から見つめ直す機会を提供していた。日本. 第二に、個人と社会を結ぶ機能である。会員相互の情報. の日常生活から離れた異文化の生活環境に身を置いて、会. 交換、また会員の経験や技術と現地で求められる人材をつ. 社や組織との関わりや、周りの人間関係のわずらわしさか. なぐボランティアの紹介システムなどによって、日本人同.

(4) 士の親交や現地社会と交流する機会が少なくなりがちな個. 理を持つことになる。家族の中にもロングステイなど新し. 人を、社会と結びつける役割を担いつつある。. いことを始めたいという先進的な意識もあれば、一方に保. このように「日本人の会」は、個人を支援しエンパワメ ントすることをめざし、個人と社会を結ぶ中間支援組織と して存在していることが分かった。. 守的な意識も存在する。そして夫婦間でも別の人生観や価 値観が存在し、個人の価値観や原理が重視されるのである。 日本人の意識が自立や個性を重んじる傾向がある中で、 みんなと同じことをする方が安心だという横並び主義的な. 5.ロングステイに踏み切らせる要因の探求 (1)ロングステイを実行する要因の手がかり. 意識や、固定的で保守的な意識や価値観もまだあるようだ。 第三は、社会的な要因に分類されるものである。会社、. 社会的・経済的要因がロングステイの基本的条件になっ. 近隣などの地域社会に関わるしがらみ、そしてそれに伴う. ていたが、インタビュー調査から実行する要因についてい. 人間関係などである。これらのしがらみからの解放は、実. くつかの示唆があった。たとえば、第一に、日常生活のし. 行する動機になるが、とらわれると反対に阻害要因にもな. がらみや人間関係のわずらわしさから解放されたいという. る。日本社会の保守的な側面が、かなり色濃く残っていて. 志向である。第二に、人との交流やボランティア活動によ. マイナスの要因として働いているようである。. って得られる喜び、つまり自分の存在感やいきいきとした 生存感を確認できること。第三に、自分の目標に向かって. 6.主要引用文献・参考文献. 努力し達成していくこと、すなわち自己実現への欲求であ. 安立 清史・小川 全夫 編 2001『ニューエイジング』. る。第四に、物事にたいする旺盛な好奇心ややる気がある こと。そして第五に、自分の行動にたいする他者の反応や 手ごたえが感じられること、などである。 (2)ロングステイを阻害する要因と日本社会 インタビューから、家庭環境や社会背景などの阻害する 要因の手がかりが、間接的ながら把握された。併せてこれ らの要因から日本社会の特徴を考察する。 第一に、家族の要因があげられる。なかでも支援や介護 が必要な老親やまだ手が掛かる子どもの存在が、最も大き な要因であろう。特に高齢の老親の看護や介護の問題が、 個人の行動を大きく左右しているようだ。 加えて親戚、お墓、先祖の供養などに至るまで、家族関. 九州大学出版会. 東 清和 1999「エイジングと生きがい」 『エイジングの心 理学』早稲田大学出版部,131-168. 古谷野 亘・安藤 孝敏 編 2003『新社会老年学 シニア・ ライフのゆくえ』ワールドプランニング. Irving. Rosow. 1974. Socialization to Old Age. University of California Press (I.ロソー 嵯峨座 晴夫監訳 1998『高齢者の社会学』 早稲田大学出版部) . John W.Rowe, M.D. and Robert L. Kahn, Ph.D. 1998. Successful Aging Random House Large Print in Association with Pantheon Books New York.. 係にまつわるしがらみは多く、個人の行動を束縛している. 金子 勇 1993『都市高齢社会と地域福祉』 ミネルヴァ書房.. と考えられる。. 金子 勇 1997『地域福祉社会学 新しい高齢社会像』. これらの家族の要因は、予想以上に日本人の行動に影響. ミネルヴァ書房.. しているのではないだろうか。それと同時に、日本社会特. 神谷 美恵子 1980『生きがいについて』みすず書房.. 有の特徴を表しているといえよう。. 見田 宗介 1965『現代日本の精神構造』弘文堂.. 第二に、意識の要因がある。ロングステイへの理解不足 によって、希望する本人と周囲の人(とりわけ家族)の間 に意識のギャップが生じている。日本人の保守的な意識が 背景にあって、理解を得られない理由になっているようだ。 また、夫婦間で意識が共有されていない場合も、阻害す る要因になっている。夫婦間においてもそれぞれの人生観 や価値観があり、個人の価値観の方が重視されている傾向 がうかがえる。 「日本人の意識」調査(NHK放送文化研究所,2000: 213)によると、家族の中でも意識は細分化され、家族より も個別の原理の方が強くなっている。個別原理が強い主張 を持ち始めたからこそ、家族の各人がそれぞれの意識や原. 内閣府 2003『高齢社会白書 平成 15 年版』 . NHK 放送文化研究所 編 2000『現代日本人の意識構造 第五版』日本放送出版協会. 財団法人 ロングステイ財団 2001『ロングステイ白書』 (財)ロングステイ財団. 高橋 勇悦・和田 修一 2001『生きがいの社会学 −高齢 社会における幸福とは何か−』弘文堂..

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