理科の授業展開に焦点をあてた 教員研修プログラムの開発
教科教育専攻 理科教育専修 橋爪 勇樹 2014年2月13日提出
目次
Ⅰ.理科の教員免許更新講習の内容分析 1.はじめに
2.方法
3.結果および考察 4.小括
・・・ 1
Ⅱ.教員を対象としたCOSIAセッション3「教授と学習」の試行と評価 1.はじめに
2.COSIAセッション3「教授と学習」の概要 3.試行と評価
4.小括
・・・ 6
Ⅲ.理科の授業展開に焦点をあてた教員研修プログラムの開発 1.はじめに
2.プログラムの概要 3.実践概要
4.実践結果および考察 5.小括
・・・ 17
Ⅳ.総括 ・・・ 50
Ⅴ.引用文献 ・・・ 51
Ⅵ.謝辞 ・・・ 52
1
Ⅰ.理科の教員免許更新講習の内容分析 1.はじめに
従来,「教師は授業で勝負する」といわれてきた.文部科学省は,そのために必要な力量として,「子 ども理解力」、「児童・生徒指導力」、「集団指導の力」,「学級作りの力」,「学習指導・授業作りの力」,「教 材解釈の力」の六つを示した答申を報告している1).上記答申を受けて,各教育委員会,大学等では,
教員を対象とした研修の内容を吟味し,実施しているものと考えられる.一方,「子ども理解の力」,「児 童・生徒指導力」,「学級作りの力」,「集団指導の力」に関して,別惣ら2)が,「子ども理解に基づく生徒 指導,学級経営」として関連性を意識した教員研修が必要と指摘している.本研究では,「子ども理解 力」,「児童・生徒指導力」,「集団指導の力」,「学級作りの力」の4つを「子ども理解」と解釈した.ま た,「学習指導・授業作りの力」は,授業計画・展開・評価といった授業を構成し,実践することに関 する「授業理解」,「教材解釈の力」は,教科内容に深い理解を持ち,教材開発,教材解釈に関する「教 科理解」と解釈した.
「子ども理解」に関する教員研修は,学校教育分野に位置づけられており,教員全体を対象とした研 修で行われている.一方,教科教育を担う教員を対象に行われる研修は,「授業理解」,「教科理解」を 身につける研修に大別できると考えた.本章では,理科教員を対象とした今後の研修の在り方を検討す る基礎資料を得るために,「授業理解」を身につける研修がどの程度存在するか調査した.
2.方法 2-1.調査対象
教員を対象とした研修には,校内研修や教育委員会等が実施する研修,大学が行う教員免許更新講習 などがある.校内研修の実施状況は,開示されている記録が少なく,現状の把握が難しい.また,教育 委員会等が実施する研修は,各自治体によって開示様式が様々なため集計が困難である.一方,平成21 年から25年の間に全国の大学等で実施された教員免許更新講習の情報は,文部科学省が開示している
「教員免許更新制 講習開設情報」3)で,講習名,対象者,概要等を同じ様式で調べることができる.ま た,平成24年度教員免許更新講習を行うことが認定された大学等は,471施設存在する4).本研究では,
教職に関する事項について先進的な取り組みを進め,専門性の高い教員を養成することを目的とした専 門職大学院である教職大学院25校に注目し,教職大学院を設置する大学で開講された教員免許更新講習 を調査対象とした.平成25年4月段階での教職大学院の一覧を表1に示した.
表1 教職大学院一覧(平成25年4月段階)
区分 大学院名 研究科・専攻名 位置
国立 北海道教育大学大学院 教育学研究科 高度教職実践専攻 北海道 国立 宮城教育大学大学院 教育学研究科 高度教職実践専攻 宮城県 国立 山形大学大学院 教育実践研究科 教職実践専攻 山形県 国立 群馬大学大学院 教育学研究科 教職リーダー専攻 群馬県 国立 東京学芸大学大学院 教育学研究科 教育実践創成専攻 東京都 国立 上越教育大学大学院 学校教育研究科 教育実践高度化専攻 新潟県 国立 福井大学大学院 教育学研究科 教職開発専攻 福井県 国立 山梨大学大学院 教育学研究科 教育実践創成専攻 山梨県
2
国立 岐阜大学大学院 教育学研究科 教職実践開発専攻 岐阜県 国立 静岡大学大学院 教育学研究科 教育実践高度化専攻 静岡県 国立 愛知教育大学大学院 教育実践研究科 教職実践専攻 愛知県 国立 京都教育大学大学院 連合教職実践研究科 教職実践専攻 京都府 国立 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教育実践高度化専攻 兵庫県 国立 奈良教育大学大学院 教育学研究科 教職開発専攻 奈良県 国立 岡山大学大学院 教育学研究科 教職実践専攻 岡山県 国立 鳴門教育大学大学院 学校教育研究科 高度学校教育実践専攻 徳島県 国立 福岡教育大学大学院 教育学研究科 教職実践専攻 福岡県 国立 長崎大学大学院 教育学研究科 教職実践専攻 長崎県 国立 宮崎大学大学院 教育学研究科 教職実践開発専攻 宮崎県 私立 聖徳大学大学院 教職研究科 教職実践専攻 千葉県 私立 創価大学大学院 教職研究科 教職専攻 東京都 私立 玉川大学大学院 教育学研究科 教職専攻 東京都 私立 帝京大学大学院 教職研究科 教職実践専攻 東京都 私立 早稲田大学大学院 教職研究科 高度教職実践専攻 東京都 私立 常葉学園大学大学院 初等教育高度実践研究科 初等教育高度実践専攻 静岡県
2-2.調査方法
調査対象とした大学が開講する教員免許更新講習のうち,講習対象者として理科教員を含む講習を抽 出した.抽出した講習を,概要に関する説明文から,①「授業理解」,②「教科理解」,③「(授業理解と 教科理解の)両方」に関する講習の三つに分類し,各講習数を求めた.どのように分類したかを示す具 体的な例として,A大学とB大学から理科教員を対象とした講習を抜粋し,その講習名と概要を表2に 掲載した.例えば,A大学「理科授業の改善方策(中学校・高等学校)」では,「理科授業の改善につい て考察」,「学習理論,学習展開の在り方を討論する」等の記述から,理科の授業理解に関する講習と判 断し,①「授業理解」に関する講習に分類した.また,A大学「小学校理科(光の性質,電気の働き・
利用)」では,「光の基本的な性質を学ぶ」,「基礎を実験を通して学ぶ」等の記述から,理科の教科内容 に関する講習と判断し,②「教科理解」に関する講習に分類した.一方,B大学「デモ実験を生かした 理科(主に物理分野)の授業づくり」では,概要前半部分(1)の記述から②「教科理解」,後半部分(2)の 記述からは,①「授業理解」を身につける講習と判断し,③「(授業理解と教科理解の)両方」に関する 講習に分類した.
3
表2 教員免許更新講習とその概要(具体例)
大学名 講習名 概要
A大学 理科授業の改善方策 (中学校・高等学校)
教育課程の改訂に伴って,中学校・高等学校等の理科授業の改善に ついて考察する.特に,授業における言語活動としての話し合い活 動や記述などの活性化を目指す方策と,それに関する学習理論,学 習展開のあり方を討論する.講義ではこれまでの理科の授業計画
(学習指導案)や授業記録を持参し,各自の理科授業について省察 する.
A大学 小学校理科(光の性 質,電気の働き・利用)
理科の苦手な教員を対象として,小学校低学年で取り扱う「光の性 質」単元と,高学年で取り扱う「電流の働き,電気の利用」単元の 内容を中心とする.
「光の性質」では,視覚に障碍のある子ども向けに開発した装置・
手法を使って,直進性,反射,屈折などの光の基本的な性質を学ぶ.
「電流の働き,電気の利用」では,電熱線の発熱や手回し発電機,
コンデンサ,発行ダイオードなどのしくみ,使い方の基礎を実験を 通して学ぶ.
B大学
デモ実験を生かした 理科(主に物理分野)
の授業づくり
(1)初等・中等学校の教員が理解しておくべき物理概念(力学・流体・
熱・電磁気)を,デモ実験を通して,直観的・視覚的に理解し,具 体的に関連した現象を他者(同僚や生徒)に説明できるまでに理解 を深めることを目指す.(2)さらに,実際の現場での物理分野の授業 で,実践的な授業展開を例示し,いかに生徒の興味・関心を引き出 し,現象の観察能力・論理的思考力・コミュニケーション能力を高 めていくか,を議論する.
2-3.考察方法
平成22年から24年に開講した教員免許更新講習について,上記の方法で調査を行い,各講習数の3 年間の経年変化を調べた.また,数学(算数)授業を担当する教員(以下,数学(算数)教員)を対象 者に含む講習についても同様の調査を行い,理科教員を対象とした講習との比較を行った.
3.結果および考察
平成22年から24年の3年間で,対象大学が理科教員を対象として実施した教員免許更新講習を①「授 業理解」に関する講習,②「教科理解」に関する講習,③「(授業理解と教科理解の)両方」に関する 講習に分類した結果を表3に示した.表3より,各講習の合計は年を経るごとに増加していることがわ かる.その理由としては,教員免許更新講習の普及に伴い,全国的に講習の充実が図られた結果と考え られる.
3年間の各講習数の経年変化を示すグラフを図1(グラフ内の数字は講習数[個])に示した.図1よ り,②「教科理解」に関する講習数の増加に比べて,①「授業理解」に関する講習,③「(授業理解と 教科理解の)両方」に関する講習数の変化が小さいことがわかった.
以上より,現在,年を経るごとに,理科教員を対象とした教員免許更新講習は増加傾向にあるが,そ
4
の内訳に注目すると,主に「教材解釈の力」を身につけるための講習数の増加が主であり,「学習指導・
授業作りの力」を身につける講習の数に大きな変化がないといえる.この要因の一つに,専門分野が理 科の教科内容を専門とする講習講師が,理科教育を専門とする講習講師よりも増加し,教科内容に関す る講習が多くなっていることが考えられる.
表3 理科教員を対象とした講習の内訳
図1 理科教員を対象とした講習内容の経年変化
数学(算数)教員を対象とした講習についても,①「授業理解」に関する講習,②「教科理解」に関 する講習,③「(授業理解と教科理解の)両方」に関する講習に分類した.その結果が表4である.表 4より,理科教員を対象とした講習と同様に,各講習の合計が増加していることがわかった.表 3 から,
3 年間の各講習数の経年変化を図 2(グラフ内の数字は講習数[個])に示した.図 2 においても,理科 教員を対象とした講習と同様に,②「教科理解」に関する講習数の増加に比べて,①「授業理解」に関 する講習,③「(授業理解と教科理解の)両方」に関する講習数の変化が小さいことがわかった.
図1,2の比較から,理科教員を対象とした講習は,数学(算数)教員を対象とした講習より「授業 理解」に関する講習の全体に占める割合が小さいことがわかった.この結果は,理科教員を対象とした 講習を担当する講習講師は,数学(算数)教員を対象とした講習を担当する講習講師に比べて,教科教 育を専門とする講師が少ないためと考えられる.
13 13 12 14 14 16
91
149 156
0 20 40 60 80 100 120 140 160
H22 H23 H24
( 講 習 数
)
理科教員を対象とした講習
①授業理解
③両方
②教科理解
①授業理解 ②教科理解 ③両方 計
平成22年 13 91 13 117
平成23年 12 149 14 175
平成24年 14 156 16 186
5
表4 数学(算数)教員を対象とした講習の内訳
①授業理解 ②教科理解 ③両方 計
平成22年 22 49 16 87
平成23年 25 73 19 117
平成24年 28 72 21 121
図2 数学(算数)教員を対象とした講習内容の経年変化
4.小括
平成 22 年から 24 年の 3 年間の理科教員を対象とした教員免許更新講習と数学(算数)教員を対象と した教員免許更新講習の内容を調査し,比較を行った.その結果,以下の知見を得た.
1) 理科教員,数学(算数)教員を対象とした教員免許更新講習の数は,ともに,増加傾向にあるが,
「授業理解」に関する講習数の変化は小さく,主に増加しているのは,「教科理解」に関する講習 である.
2) 理科教員を対象とした講習は,数学(算数)教員を対象とした講習より「授業理解」に関する講習 の数が少なく,全体に占める割合が小さい.
上記の要因として,教科教育を専門とする講習講師よりも教科内容を専門とする講習講師が担当する 教員免許更新講習の割合が大きいことが考えられる.また,理科教員は,少なくとも数学(算数)教員 よりも,研修等で自身の授業について振り返る機会が少ないことが危惧される.よって,今後,「授業 理解」に関する講習・研修の充実をはかる必要がある.
22 25 28
16 19 21
49
73 72
0 20 40 60 80 100 120 140 160
H22 H23 H24
数学(算数)教員を対象とした講習
①授業理解
③両方
②教科理解
6
Ⅱ.教員の授業改善を目的とした COSIA セッション3「教授と学習」の試行と評価 1.はじめに
前章より,今後,理科教員を対象とした授業理解に関する研修を充実させる必要があることが明らか となった.本章では,理科の授業方法について再考することが可能なプログラムとして米国で開発され た科学コミュニケーション実践講座COSIAに注目した.
「COSIA(Communication Ocean Science to Informal Audiences・海洋科学コミュニケーション実 践講座(以下,「COSIA」)」とは,米国カリフォルニア大学バークレー校とその付属機関ローレンス科 学教育館の科学教育の専門家により開発された海洋科学コミュニケーション実践講座である.科学を専 攻する学部生や大学院生などを対象に,「探究」を重視する科学教育の教授法や教育論を学ばせ,彼ら の知識や研究を社会に伝えるためのコミュニケーションスキルを習得させる講座である5).COSIAは 10のセッション(章)で構成され,半期のコースとして大学で開講されている.セッションの一覧を表 1に示した.
科学コミュニケーションスキルを向上させるプログラムとしてCOSIAに注目した研究には,藤田・
都築ら6)によるCOSIAの全体構成および内容の分析,小川・平賀ら7)による教員を対象としたセッシ
ョン2「科学の本質と実践」の試行と評価,都築・中西ら8)による教員養成課程の大学生の科学観に及
ぼす影響が報告されている.本章では,COSIAのセッション3「教授と学習」が日本の教員の授業改 善に有効であると考え,教員を対象にセッション3を試行した.試行結果から,教員の授業改善のため
のCOSIAの効果,および,教員が普段行う授業方法の現状を分析した.
表1 COSIA のセッション一覧(2011 年 9 月 30 日時点)
セッション 日本語タイトル 原文タイトル
1 海洋科学を伝えるイントロダクション Communicating Ocean Sciences-Introduction 2 科学の本質と実践 Nature and Practices of Science
3 教授と学習 Teaching and Learning 4 アクティビティをデザインする Designing an Activity
5 知識を構築することと理解を深めること Constructing Knowledge, Building Understanding 6 会話と質問 Conversation and Questions
7 インクルーシブ(包括的な)学習環境 Creating an Inclusive Learning Environment 8 探究する心,ディスカッションを進める Inquiring Minds and Promoting Discussion 9 教授における「物」の役割 Objects in Teaching
10 評価と振り返り Assessment & Reflections
7 2.COSIA セッション3「教授と学習」の概要
COSIAセッション3「教授と学習」の目標は,異なる教授アプローチを体験し,「人はどのように学
ぶか」,「どのような教授アプローチが望ましいか」について考えることである.COSIAは,異なる教 授アプローチとして4つの学習ステーション(ステーションA,B,C,D)を用意している.今回の試行で は,この4つの学習ステーション(以下,ステーション)を4種類の授業展開とみなして,教員に体験 させた.ステーションを体験させる際に使用した配布用資料を図1,準備物を表2に示した.なお,
COSIAオリジナルテキスト9)には,ステーションA~Cのガラス棒とスプーンは記されていない.予備
実験の結果,ある方が便利と考え,今回の準備物に加えることにした.
図1 各ステーションで使用した配布用資料(詳細は「巻末資料1」参照)
Station A 自由に研究してみよう!
机の上にある材料を使って,下記のことにつ いて調べる実験をしてみましょう。
温かい水と冷たい水の性質の違い
塩水と真水の性質の違い
温度と塩分が密度に与える影響
密度によって海で起こる流れ
ちなみに,舐めてみるのは禁止です!
Station B 手順にそって実験してみよう!
以下の手順にそって作業し,回答を記入して下 さい。
1. テーブルの上の2つのカップを確認してく ださい。ひとつには「塩水」と書かれてい て,もうひとつには「真水」と書かれてい 2. ます。 同じ量の氷を同時に2つのカップに入れた ら,どちらの氷が早く溶けると思います か?それは,なぜですか?
3. では,両方のカップに同じ量の氷を入れて 下さい。3 分間観察しましょう。
4. どちらの氷が早く溶けましたか?
5. この結果について,説明できますか?
6. 両方のカップに,着色剤を静かに1滴落と してください。観察できたことを記録して ください。
7. ここで起こったことを説明できますか?
Station C 課題を解決してみよう!
テーブルの上に,水の入ったカップが2つあ ります。一つには塩水が,もう一つには真水 が入っています。
テーブルにある材料だけで,今ここですぐ「ど ちらが塩水か」を判別するための実験ができ ますか?
あなたの実験方法(実験装置の図や手順も)
と,その実験結果を記録してください。また,
何を持って,あなたが「こっちが塩水だ」と 結論付けたのか,その根拠を書いてください。
ちなみに,「舐めてみる」のは禁止です!
Station D 読んで答えよう!
資料を読んで,質問に答えなさい。
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表2 各ステーションで使用した準備物
ステーションA ステーションB ステーションC ステーションD
準備物
・配布用資料(人数分)
・カップ「温水」,「冷水」,
「真水」,「塩水」(各 1 杯)
・温度計(2 本)
・氷(30 個)
・青色インク(2 本)
・ガラス棒(1 本)
・スプーン(1 本)
・配布用資料(人数分)
・カップ「塩水」,「真水」
(各 1 杯)
・氷(30 個)
・青色インク(2 本)
・ガラス棒(1 本)
・スプーン(1 本)
・配布用資料(人数分)
・カップ「液体 1」,「液 体 2」(各 1 杯)
・温度計(2 本)
・氷(30 個)
・青色インク(2 本)
・ガラス棒(1 本)
・スプーン(1 本)
・配布用資料(人数分)
・資料(人数分)
・課題用紙(人数分)
以下に各ステーションの概要を説明する.
ステーションAは「自由に研究してみよう」という方法であり,自由度を重視した研究活動である.
課題の内容は,「温水と冷水の性質の違い」,「塩水と真水の性質の違い」,「温度と塩分が密度に与える 影響」,「密度によって起こる海での流れ」である.探究の一例として,「温水と冷水」,「塩水と真水」
に青色インクを一滴落とすことで,インクが沈む様子を観察することが挙げられる.これらの場合,温 度,塩分による密度の違いについて言及することができる.
ステーションBは,配布用資料に示された手順にそって探究する方法である.はじめに,テーブル上 に「塩水」,「真水」と書かれたカップが準備されていることを確認する.両方のカップに氷を同時に投 入して,氷が溶ける速さを比較する.真水の方では,氷を覆う水が対流し,塩水に投入した氷より早く 溶ける.次に,同じ二つのカップに,青色インクを滴下し,インクの沈みかたを比較する.塩水よりも 密度が小さい真水では,インクが早く沈下し,全体に混ざり合う様子を観察することができる.
ステーションCは,知識を活用することで,与えられた課題を解決する方法である.課題の内容は,
塩水または真水のどちらかが入っているカップ「液体1」,「液体2」について「どちらが塩水か」を判 別するというものである.この課題に対して,実験方法を立案し,実験により解決する.例えば,両方 のカップに青色インクを滴下し,インクが沈む様子を観察することで,両者の密度の違いから判別する ことができる.
ステーションDは,「読んで答えよう」という方法であり,授業に例えると講義形式にあたる.その 内容は,「水の密度」,「海洋成層」,「密度によって生じる循環」について書かれた文章と「純水におけ る温度と密度の関係を示した図」,「海水の温度と塩分濃度における密度の関係を示した図」からなる合 計2枚の資料と,記述問題(10問)からなる.課題を例示すると「地中海と大西洋の密度[g/cm3]を求 め(地中海と大西洋の水温[℃]と塩分[‰]のデータは示されている),地中海の水が,大西洋に流れ込む とき,どのように振る舞うか記述しなさい」が挙げられる.この問の場合,「海水の温度と塩分濃度に おける密度の関係」を示した図から,地中海と大西洋の密度を求め,文章中の「密度によって生じる循 環」についての解説をもとに,回答を記述する.
9 3.試行と評価
3-1.方法
今回の試行は,教員を対象とした講習を行う場として平成22年度,平成23年度三重大学教員免許更 新講習「科学とは何か,どう伝えるか」のなかで行った.
受講者は,平成22年度(実施日:10月2日)が小学校教員5名,中学校理科教員9名,高等学校理 科教員2名の計16名,2011年度(実施日:11月12日)が小学校教員3名,中学校理科教員5名,高 等学校理科教員2名,高等学校保健体育科教員2名の計12名であった.両年とも,講習の内容,展開,
教材は同じであった.
実践には,NPO法人海の自然史研究所がカリフォルニア大学との契約に基づいて本講座の講師用ハ ンドブック10)を翻訳したもの11)を使用した.なお,本試行で使用した教材を巻末資料1に添付した.
3-2.内容
講習は合計6時間(試験時間を含む)であり,午前3時間をCOSIAセッション2「科学の本質と実
践」,午後2時間30分をCOSIAセッション3「教授と学習」を行った.午前,午後ともに,講習講師
(以下,講師)が編成した3~4人一組のグループで取り組んだ.なお,グループ編成の際には,講習受 講者(以下,受講者)どうしの議論が活発になるように,学校種が混在するように編成した.
午後に行った講習の展開を表3に示した.ステーションの体験は,グループで取り組み,各グループ が異なった順序でローテーションすることで,順序の違いによるステーションへの反応を分析できるよ うにした.ローテーションの順序に関しては,例えば,ステーションAから始まったグループはA,B,C,D の順に,ステーションCから始まったグループはC,D,A,Bの順にローテーションを行い,ステーショ ンB,Dから始まったグループも同様にローテーションを行った.1つのステーションにつき,15分の 時間制限を設け,4組のグループが各ステーションを一斉に行い,終了時間も統一した.また,円滑に ローテーションを行うために,各グループに補助係を一人配置し,片付けと準備を行うとともに,各ス テーションにおける活動を記録した.活動を記録するために使用した用紙を巻末資料2に添付した.
受講者が授業方法を振り返り,再考させることを目的として個人で質問紙を記入させた.質問紙の概 略を図2に示す.問1~3で,受講者が通常,行っている授業方法と望ましいと考える授業方法につい て考えさせ,差が生じた場合,その理由について記述させた.問4は,最初に体験したステーションを 記述し,問5は望ましいステーションのローテーション方法を記述させた.なお,質問紙は2010年,
2011年とも同じものを使用した.各自で質問紙を記入したのちに,グループ内,全体で話し合いを行 うことで受講者どうしがディスカッションする場を設けた.その後,講習のまとめとして,講師が各教 授アプローチ,ラーニングサイクル12)についての説明を行って講習を終了した.
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表3 午後の講習の展開
質問紙
COSIA セッション3「教授と学習」( 年 月 日)
所属: 氏名:
「氷のアクティビティ」について,A~D の4つの探究方法(授業方法)を体験していただきました。
(A.自由に研究してみよう B.手順にそって実験してみよう C.課題を解決してみよう D.読んで答 えよう)
これら4つの方法について,以下の質問にお答えください。
1.通常,あなたが行っている授業方法は,A~D のどれに近いですか。
2.授業方法として,あなたが望ましいと思ったものは A~D のどれですか。
3.上記の1と2に違いが生じた方にお聞きします。違いが生じた理由は何ですか。
4.あなたは A~D のどの探究方法からまわりはじめましたか。
5.本アクティビティはどのような順序で行うのが望ましいと思いますか。理由とともにお答えくださ い。
図2 質問紙の概略
時間 内容
13:00 導入(セッションの紹介など)
13:05 学習ステーションの体験 14:05 質問紙の記入
14:25 休憩
14:45 ディスカッション 15:00 各教授アプローチの説明 15:15 ラーニングサイクルの説明 15:30 試験等
11 3-3.実践結果および考察
3-3-1.各ステーションに対する反応
補助係が記録した活動の記録より,各ステーションにおける受講者(2年間で8グループ)の反応を 報告する.
1)ステーション A「自由に研究してみよう」
最初にステーションAに取り組んだグループは,実験前の発話に「インクを落としてみて,混ざり合 う様子を観察してみてはどうだろうか」とあるなど,試行錯誤しながら実験を行い,帰納的に課題解決 するという実態が読み取れた.一方,ステーションDを体験したうえでステーションAに取り組んだ グループは,実験の発話に「密度が異なるのでインクを落としてみよう」とあるなど,知識を活用し,
仮説を立てながら実験を行い,演繹的に課題解決するという実態が読み取れた.このように,ステーシ ョンAは,ローテーションの順番によって,帰納と演繹の両方の展開があるといえる.
課題解決に関しては,3グループが全ての課題を解決することができ,残りのグループは,時間内に 全ての課題を解決することができなかった.
2)ステーション B「手順にそって実験してみよう」
ステーションBは,実験結果から法則を導き出すという内容の手順が示されており,その手順に従う 必要がある.また,記録から全てのグループが手順通りに実験を行うことができたことがわかった.こ れらより,ステーションBは帰納的な展開でのみ取り組まれたといえる.
課題解決に関しては,2年間で8グループ中6グループが時間内に課題(図1 Station B 手順5,7)
を解決できた.
3)ステーション C「課題を解決してみよう」
最初にステーションCを体験したグループは,実験前の会話に「両方のカップに氷を入れて,溶け方 や温度の下がりに違いがあるか調べてみよう」とあるなど,試行錯誤しながら実験を行い,帰納的に課 題解決するという実態が読み取れた.一方,他のステーションを体験したうえでステーションCに取り 組んだグループは,実験前の発話に「インクを両方のカップに落とせばわかるだろう」とあるなど,知 識を活用して実験計画を立てながら演繹的に課題解決するという実態を読み取ることができた.このよ うに,ステーションCは,ステーションAと同様に,帰納と演繹の両方の展開があるといえる.
課題解決に関しては,4つのステーションのなかで最も早く課題解決され,7グループが課題を解決 することができた.取り組み中の会話から,「知識がないとできないが,解決する力が育ち,達成感が ある.」,「結論付けた根拠を書く時に自分のものになりやすい.」,「小学校の授業で時々させたい.」と いった意見がみられた.
4)ステーション D「読んで答えよう」
ステーションDは与えられた文章を読んで課題に取り組む方法であり,知識を得て,その知識を活用 して課題を解決する.演繹的な展開でのみ取り組まれるステーションといえる.具体的な取り組みに関 しては,受講者各自で問題に取り組んでおり,グループ内での特徴的な会話はみられなかった.
また,ほぼ全ての受講者が時間内に課題を解決することができず,合計10問ある問の途中で終了し た.取り組み中の会話から,「嫌.」,「わからん.」,「理科嫌いになる.」といった意見がみられた.
12 3-3-2.質問紙の集計結果及び考察
1)質問紙の集計について
2010年,2011年使用した質問紙は同一であり,両年の間で各設問の回答に有意な差がみられなかっ たため,質問紙を集計する際,合算して回答の集計を行った.
2)各設問の回答について
通常,行っている授業方法に近いステーションを問う問1の集計結果を図3(グラフ内の数字は受講 者数[名])に示した.小・中学校教員の多くがステーションBを選択する一方,高等学校教員は,ス テーションDを選択する人数が多かった.この結果より,受講者のうち小・中学校教員は,理科授業の 中で実験を行う際,手順を明示した形式をとっていることが多いと考えられる.一方,高等学校教員は 実際に実験を行うよりも,読み物などで学習する授業が多いことが示唆できる.過去の調査においても,
高等学校の理科授業のなかで実験を行う頻度が小・中学校に比べて著しく低いことが指摘されている13). この理由としては,大学入試への対応,授業時間の不足などから,高等学校の授業が座学中心になって しまうためと考えられる14).
授業方法として望ましいと考えるステーションを問う問2の集計結果を図4(グラフ内の数字は受講 者数[名])に示した.全体的には,ステーションCを選択する受講者が増加した.学校別にみると,
小学校教員は,ほぼ半数がステーションBとステーションCに分かれ,中学校教員は,ステーションB よりもステーションCの方が多くなった.高等学校教員は,ステーションDが減少し,ステーションC が最も多くなった.この結果より,多くの受講者が望ましいと考える授業方法は,ステーションCのよ うに児童・生徒に実験方法を考えさせるような展開であり,受講者の学校種別によらないことがわかっ た.
図3 質問紙問1の集計結果 図4 質問紙問2の集計結果 1
7
1 14
2 1
3
1 4
0 5 10 15 20 25
A B C D
[ 名
]
ステーション
問1.通常,行っている授業方法に近 いステーション(N=28,複数回答4 名)
高校教員 (6名) 中学校教 員(14名) 小学校教 員(8名)
1
5 5
2
7
12
3
2
4
0 1 5 10 15 20 25
A B C D
ステーション
問2.授業方法として望ましいステー ション(N=28,複数回答12名)
高校教員 (6人) 中学校教 員(14人) 小学校教 員(8人)
13
さらに,問1の各回答をもとに問2の各回答の数を矢印で示した結果,図5のようになった.問1で ステーションB,Cを回答した受講者は,問2では,無答であったため,矢印は示していない.図5より,
通常,行っている授業方法に近いステーションを問う問1でステーションBのみを回答した20人の受 講者は,授業方法として望ましいと考えるステーションを問う問2において,ステーションB,Cを回答 に含ませる割合が大きいことが分かった.特に,問1でステーションBを回答し,問2でステーション Cを回答に含ませた受講者は,16人で最も多かった.
問1と問2で回答に差異が生じた理由を問う問3の回答を表4に示した.表4より,普段行っている 授業方法と望ましいと考える授業方法が異なっている理由として,小・中学校教員は,主に児童の知識・
技能,一部態度を挙げ,高等学校教員は,主に生徒の態度・安全面を挙げることが分かった.
これらの結果および,問3で見出された知見より,小・中学校教員は,主に児童の知識・技能,高等 学校教員は,主に生徒の態度・安全面について考慮して,通常行う授業方法として教師主導型の授業を 行っているが,望ましいと考える授業方法は,児童・生徒主導型の授業方法であると指摘できる.
当日,実際に行った授業展開の順番を問う問4,望ましいと思う授業展開の順番を問う問5の回答を 集計した結果を表5,問5の回答の理由を抜粋して表6に示した.
図5 問1の回答をもとに問2の回答数をしめした図(図中の数字は人数)
14
表4 問3の主な回答
受講者 回答(抜粋)
小学校 教員
理科を始めたばかりの小三の子どもには,マニュアル化し体験させることから始め るようにしている(問1:B 問2:B,C)。
グループで問題を解決した方が楽しく学べ,科学にも興味が持てる(問1:B 問2:
B,C)。
B は手順があるので,全ての子にとってわかりやすい。しかし,議論に思考が少ない ため「わかった!」,「できた!」という感動が少ない(問1:B 問2:B,C)。 課題を解決するためには,友達との協力や話し合いが必要であり,基礎力がついた か判断できる(問1:B 問2:C)。
中学校 教員
本当は何故だろう?と疑問を持たせて自由に研究させることが私の理想であるが,
何の知識も持たない生徒に「自由に」としてもわからず投げ出すだけなので(問1:
B 問2:C,A)。
手順を示している方がわかりやすいが,自分で課題を解決する力も必要である(問 1:B 問2:B,C)。
「準備が簡単」,「生徒の考えを誘導しやすい」この二点に流れてしまう(問1:B 問 2:B,C)。
手順を書いてその通りにやって,「自分でできた!」という達成感がうまれるように している(問1:B 問2:C,A)。
C は実験者が考えた方法でいろいろなことを確かめることができるが,B の方法には それがない。普通の授業では,時間的な余裕と生徒の取り組む姿勢を考えると C に できないことが多い(問1:B 問2:C)。
C は色々な発想に基づいて,多角的な方法が期待できるが,(目的をしっかり持たな いと)漠然としすぎて,的をえないことも(問1:B 問2:B,C)。
まず,実験の筋道を考え,実際に実験して,考察し,課題を解決することで喜びが ある。しかし実験が苦手な生徒にとっては B が適当であろう(問1:B 問2:C)。
高等学校 教員
A を実施できるほど生徒に力をつけさせられておらず,期待が不安を上回る(問1:
D 問2:A)。
自主的に実験がしたいという生徒よりも,与えられるからする生徒が多く,授業が 成立しなくなる。そのため,手順を明示してしまう(問1:B 問2:C,A)。 安全に留意させる必要から導入として理論又はマニュアルにそった実習・実験にな るように感じる(問1:D,B 問2:C)。
C は実験の方法も考えなければならず,考えることを重視する(問1:D 問2:C)。
15
表5 問5の回答 問4.実際に行っ
た探究の順番
問5.望ましいと
思った探究の順番 回答者数[人]
ABCD BCAD 3
BCDA 2
ACBD 1
BADC 1
BDCA 1
BCDA BCDA 2
DBCA 1
BDCA 1
ABCD 1
ACBD 1
CDAB CBAD 2
CDAB 1
DBCA 1
ACBD 1
ABCD 1
CBDA 1
DABC ABCD 2
ACBD 1
DABC 1
CBDA 1
CBAD 1
表6 問6の回答の主な理由
問5の回答 問6の回答 問6の回答の理由(抜粋)
ABCD BCAD いまの子どもたちにとっては,この展開が望ましい.
BCDA BCDA B:手順について知ることができる。C:Bをふまえて自分で手順を組み立
てることができる。D:BとCの結論が1つのテーマに関連づけられる。
A:今まで経験した手順や答え方や背景を頭の中でなぞりながら組み立て ないとなかなか出題者の思うゴールに届かないように思う・・・.
CDAB CBAD Cで関心を持ち、Bで具体的な方法を学び、Aで性質の違いを調べ確認し、
Dで詳しく知識を得るという流れで学習すると良いと感じた.
DABC ABCD 最初に自由に考えさせる(結果が出なくても良い)。手順、ヒントを与えて
考えさせ、資料を読んで答える.
16 3-3-3.記述内容による評価された点
講習終了後に行ったアンケートより,次のような意見が寄せられた.「各ステーションの方法を無意 識に設定することがあったかもしれないが,学ぶ側の意欲を引き出す,やる気を損なう方法を身をもっ て感じました.」とあるように,体験をもとに授業方法を再考することができたことがうかがえる意見 が寄せられた.また,「これまでの授業を振り返ると,基本的に帰納的な学習活動しか行ってこなかっ た.今後は,演繹的な学習活動も取り入れていく必要を感じました.」というように,具体的に授業方 法について再考し,今後の方針を立てられたことが分かる意見も寄せられた.また,「小中高の教師が 一緒であったため意見交流ができ,情報交換の機会となった.」というように,受講者どうしのディス カッションが活発に行われたことが確かめられた.一方,今回の講習に対する批判的な意見はみられな かった.
4.小括
教員の授業改善に有効なプログラムの開発,教員が行う授業方法の現状を分析することを目的として
COSIA セッション3「教授と学習」を日本の教員を対象に試行した.教員に 4 つの授業方法を体験さ
せ,その体験をもとに,上記のような質問紙を配布し,各自で授業方法について再考させた.また,教 員どうしでその内容についてディスカッションさせた.各ステーションにおける受講者の反応を分析し,
質問紙を回収,集計した結果および,試行後に受講者に行ったアンケートから以下の知見を得た.
1) COSIAが用意する4つの学習ステーション(授業方法)は,帰納的な展開で取り組まれるもの,
演繹的な展開で取り組まれるもの,展開が知識の有無により変化するものから構成されている.
2) 小・中学校教員は,手順を示して実験を行う授業方法を取ることが多く,高等学校教員は,実験を 行わずに講義形式の授業を行うことが多い.
3) 小・中・高等学校教員が望ましいと考えている授業方法は,児童・生徒が自ら実験方法を計画し,
課題を解決するような展開である.
4) 上記2)と3)において授業方法の内容に違いが生じた主な理由として,小・中学校教員は,児童の知
識・技能,高等学校教員は,生徒の態度・安全面を挙げる.
5) COSIAは,海洋科学を専攻する大学生・大学院生を対象に開発されたプログラムであるが,今回
試行したセッション3「教授と学習」は,教員が自身の授業方法について振り返り,授業改善に生 かすことができるプログラムとして有効である.
17
Ⅲ.理科の授業展開に焦点をあてた教員研修プログラムの開発と実践 1.はじめに
教員を対象としたCOSIAセッション 3「教授と学習」の試行15)から,COSIAは,教員が自身の授業 方法について振り返り,授業改善に生かすことができるプログラムとして有効であることが分かった.
一方,課題として,COSIAが用意する4つの学習ステーションを理科授業に位置づけた時,授業展開 上の特徴の違いが明確でないこと等が明らかになった16).これらの試行結果とCOSIAの狙い,方法を ふまえて日本の教員にとって,より自身の授業方法を振り返りやすく,授業改善につなげることができ る新たな教員研修プログラム(以下,本プログラム)の開発を試みた.
本プログラムは,三重大学教育学部理科教育(平賀)研究室のゼミ生8人,同大学教育学研究科の大 学院生10名を対象として二度の試行を行ったうえで開発した.2012年5月18日にゼミ生を対象に行 った試行で使用した教材を資料3に添付した.また,2012年6月18日に大学院生を対象に行った試行 で使用した教材を資料4に添付した.以下では,本プログラムの概要と実践結果について報告する.
2.プログラムの概要 2-1.主な改善事項
受講者に4つの授業方法を体験させ,自身の授業方法を振り返らせるというCOSIAの方法を踏襲し ながら,受講者が取り組む内容を一新した.
具体的には,4つのステーション共通のテーマ「豆電球の明るさを決める要因を探究する」を設定し た.そして,各ステーションを理科の授業展開と位置付けた時,その特徴が明確になるように,帰納的・
演繹的な展開の特徴を色濃く反映させた.また,4つのステーションという呼称を4つの授業展開に変 更した. 4つの授業展開の内容の概略を表1,準備物を表2に示した.授業展開A,Bを帰納的な展開 としての特徴を色濃く反映させ,授業展開C,Dを演繹的な展開としての特徴を色濃く反映させた.な お,本プログラムで使用した教材を巻末資料5に添付した.
表1 授業展開 A,B,C,D の展開 授業展開 授業展開上の特徴
A 自由度の高い帰納的発見学習
B 自由度の低い(手順を掲示した)帰納的発見学習 C 実験による演繹的検証学習
D 読み物による演繹的検証学習
18
表2 各授業展開で使用した準備物(括弧内は個数)
授業展開A~C 授業展開D
準備物
電源装置(1)
豆電球ホルダー(4)
2.5V 用豆電球(3)
3.8V 用豆電球(3)
端子台(2)
スイッチ(2)
両ミノムシリード 線(16)
電流計(2)
電圧計(2)
読み物資料(人数分)
2-2.各授業展開の概要
授業展開Aは,「自由に調べてみよう」というテーマで行い,自由度の高い帰納的発見学習を想定し ている.課題は,「テーブルにあるものを使って調べてください.」と書かれてあるのみであり,準備物 を自由に使って,豆電球の明るさを決める要因について調べる実験を行う.探究の一例として,電源装 置,両ミノムシリード線,2.5V用豆電球と3.8V用豆電球等を使って直列回路をつくり,各豆電球に電 圧計を接続し,各豆電球にかかる電圧をはかりながら二つの豆電球の明るさを比較する実験が挙げられ る.この実験より,豆電球にかかる電圧の大小が明るさに与える要因を調べることができる.
授業展開Bは,「手順にそって調べよう」というテーマで行い,自由度の低い(手順を掲示した)帰 納的発見学習を想定している.掲示されている手順に従って,実験を進め,豆電球の明るさを決める要 因について調べる.具体的には,大きく二つの実験を行う.まず,資料に示された回路を作成し,電圧 を一定とした条件のもとで豆電球に流れる電流の大小が豆電球の明るさに与える影響について調べる.
その後,電流値を一定とした条件のもとで豆電球にかかる電圧の大小が豆電球の明るさに与える影響を 調べる.以上の実験結果より,豆電球の明るさを決める要因をまとめる.
授業展開Cは,「知識を活用して調べよう」というテーマで行い,実験による演繹的検証学習を想定 している.最初に,「豆電球の明るさは電力(電流×電圧)に比例します」という法則が示される.そ して,この知識を活用し,抵抗が異なる2つの豆電球を直列につないだ場合と並列につないだ場合の明 るさの違いについて予想する.その後,実際に実験を行うことで予想の検証を行うという展開である.
授業展開Dは,「資料を読んで調べよう」というテーマで行い,読み物による演繹的検証学習を想定 している.ステーションDで使用する読み物資料は,巻末資料5に示した.読み物資料の内容は,「水 流モデルを用いた直列回路・並列回路の解説」,「直列回路と並列回路における合成抵抗の求め方」,「電 球が光る原理」,「電熱線が発生する熱量と水の上昇温度に関する実験」についてである.これらの内容 と関連する図表を含めた5枚の資料を読み,課題に取り組む.課題の内容は,電球A(抵抗値100Ω)
と電球B(抵抗値250Ω)を直列につないだ回路と,電球C(100Ω)と電球D(250Ω)を並列につな
いだ回路を作成し,二つの回路に同じ電源を使用した際,電球A~Dの明るさの順番を決定するという 内容である.