長崎大学教育学部自然科学研究報告第25号51‑54 (1974)
トリクロロトリフルオロジシロキサンの ラマン・スペクトル
浜田圭之助
長崎大学教育学部化学研究室 (昭和48年10月51日受理)
The Raman Spectrum of Trichlorotrifluorodisiloxane
Keinosuke HAMADA
Chemical Laboratory, Faculty of Education, Nagasaki University (Received Oct. 31 , 1973)
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Abstract
Trichlorotrifluorodisiloxane was studied spectroscopically (This Bulletin, 23, 63(1972)). The author expressed in Table 2 of the above literature that asymmetrical Si‑O‑Si Raman band might be missed due to weak intensity.
In the present experiment, the very weak vasSi‑O‑Si Raman band at 1164 cm‑1 appears as expected. The band in frequency coincidences with the very strong infrared band which is assigned to vasSi‑O‑Si.
On the other hand, hexachlorodisiloxane has the very strong infrared band at 1130cm‑1 which is assigned to vasSi‑O‑Si, but no Raman band correspond‑
ing to vasSi‑O‑Si band.
This indicates the lack of coincidence between Raman and infrared fre‑
quencies in vasSi‑O‑Si mode of Cl3SiOSiCI3.
1.緒言
著者はすでにCl,SiOSiF2を分光学的に研究した。 〔本研究報告, 23, 63(1972)〕。その時 ラマン活性の非対称伸縮振動Si‑0 Siのラマン・バンドが測定されなかったのは,強度が弱 いため測定漏れとなったのであろうと推測して,そのように発表していた。
今回,JEOL JRS‑Sl型, Ar"レーザ・ラマン分光光度計での測定ではva,Si‑0‑Siラマン・
52 浜 田 圭之助 バンドが予想通り測定されたので報告する。
X3SiOSix3タイフ。の分子は,早くから分光学的および構造研究の対称になっている。一一 ) しかし構造は,なお決定されておらず直線形,擬直線形,折線形の三つの意見に分れている。
トリクロロトリフルオロジシロキサンCl3SiOSiF3については,まだ構造上の研究が為され ていないのと,本分子のようにX3SiOSiY3タイプ分子の振動スペクトルは,自身の構造を知 る上に必要であることは勿論であるが,x3SiOSix3タィプ分子の構造研究の上にも,有力な 参考になる。
2.実 験
市販のヘキサクロロジシロキサンを蒸留により精製し,五塩化アンチモンを触媒とし三弗化 アンチモンでフッ素化した一2)。得られた合成物から分別蒸留によりC且3SiOSiF8を得た。ラ マン・スペクトルは,JRS−SIB型Ar÷.レーザ・ラマン分光光度計で測定した。赤外スペクト ルは,四塩化炭素溶液をDS−701G赤外分光計で測定した。
3.結果およぴ考察
図1に測定したラマン・スペクトルを示す。X3SiOSix3タィフ。分子の代表として,ヘキサ 一1
(b) gOO−1200 cm 0(p)95。
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クロロジシロキサン(CI3SiOSic13)を採り上げる。この分子では1150cm榊一に非常に強い赤 外吸収線を示し,これが非対称Si−o−Si伸縮振動に帰属されることは,周知の事実である。
しかし,これに一致するところのラマン・バンドは現われなかった。
トリクロロトリフルオロジシロキサンのラマン・スペクトル 55
一方X3SiOSiY3タイプのCl3SiOSiF3分子では,赤外において1160cm甲一に非常に強い吸収 バンドを得た。これが堀SiOSiに帰属されることは,強度・波数領域などから, あるいは Cl3SiOSiC13との比較において明白である。同時にラ・マンにおいてもt(P)1164cm一一に弱い バンドが*!)表われた。:x3SiOSiY.においては,直線形(C3.またはC3),折線形(Cs)の既 約表現*2)が示すように,ッα,SiOSiは』赤外,ラプン共に活性である。実験結果は,それを裏 付けている。
Cl3SiOSiCl3において,痂SiOSiが赤外に現われたが, ラマンに現われないことは重要な意 味をもつ。すなわちx3SiOSix3では直線形(D3¢あるいはP3瓦)*3),折線形(c2。)の既約 表現*4)が示すように,直線形ではレ。、SiOSiは赤外活性,ラマン不活性であるが,折線形では 赤外・ラマン共に活性であるからである。
結 論
レα8SiOSiバンドの赤外,ラマンヘの出現の有無,測定されたラマン・バンドの数,あるい は,polarization stateなども,構造に対する可成りの知見を与えているが,赤外スペクトル の低波数側の測定,直線形や折線形に附随する線形(回転一振動スペクトル)などの測定の結 果を侯って,全振動スペクトルの帰属,構造の決定を行いたい。しかしCl3SiOSiF3のラマン
・スペクトルは,はじめての例であるし,x3Siosix3タイフ。分子ならびにその類似分子に関 心を持つ研究者に,有力な情報を提供すると思うので報告する。
本研究に使用した,レーザ・ラマン分光光度計は昭和47年度,文部省科学研究費補助金によ るものである。なお,ラマン測定にあたっては当研究室,森下浩史助手に負うところ大であ る。赤外測定は日本分光(株)にお願いした,関係各位に深く感謝するものである。
参 考 文 献
1)R。C。Lord,D.W,Robinson and W、C。Schumb,ノ.z4耀飢Ch召肱Soo.,78,1527(1956)
2)W。R.Thorson and I.Nakagawa.∫Ch伽.Ph蝿,33,994(1960)
5)」.E Grifflths and D.F.Sturman,Sρθoヶooh勉ゴ04。40如,25A,1415(1969)
4)H.B茸rger,K.Burczyk,F.H6fler und W.Sawadony,伽4,25A,1891(1969)
5)C・C・Certo,J.L。Lauer and H。C,Beachell,孟Chθη翫Phy乱,22, 1 (1954)
6)1・S量mon and H。O。Mahon,孟Ch伽。Phツ&,20,905(1952)
7)N・Wright and MJ.Hunter,孟.肋既Ch襯.Soo,69,805(1947)
*一)CI3SiOSiF3の(P)1164cm4バンドは,図1一(a)の感度では(P)950cm一一バンドより可成 り弱い。図1一(b)は感度を上げて測定したものである。
*2)C3⑳ 6!iし一(R,p:IR) 十7E (R,dp:IR)
C3 7/1(R,p:IR) 十7E(R,dp:IR)
Cε 1514 (R,p:IR) 十8/1 (R,dp:IR)
*3)擬直線形を主張する人も,この対称であると云っているようである。
*4)03¢5み一9(R,P)+5ハ2%(IR)+4E鵯(IR)+5Eσ(R.dp)
P3海 5∠し一 (R,p) 十5且2 (IR) 十4E (R,dp:IR) 十5E (R,dp)
C2u74(R,P:IR)+4ハ2(R,dp)+6B一(R,dp:IR)+482(R,dp:IR)
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8〉H.Kriegsman,2乙ノニEJβ々∫■oohθ 2 β,61, 1088 (195ワ)
g)」.E.Griffiths,3ρεoケoσhJ 2ゴoσ!101σ,25A,965(1969)
10)A.L.Smith,Sρ80ケoσh伽Joα・40≠4,19,849(1965)
11)」.E.Aronson,R.C.Lord and D.W.Robinson,ノ.Ch伽.Phンs,33,1004(1960)
12)H、S.Booth and R.A.Ostcn.ノ.!1 2θL Ch8吻.Soo.,67,1092(1945)
本論文は」.Phys.Soc.Japan,36,617(19ワ4)に掲載された。