ハンガリーの経済改革
−その特徴と推移・−(2)
石 津 英 雄
所得規制の問題
1968年に.ハンガリーで導入された新しい経済の統制および管理のシステム は,中央の釘画と商品貨幣関係の制御された発現とを結合した点できわめてユ ニ−クであった。そしてこ.の結果,金融および貨幣カテゴリ−の重要性がとみ に.高まったこ.とは周知のとおりである。こ.れは討画と市場との間の,あるいは 国民経済の利益と企業の利益との間の調和を国家に.よって決定される金融上の レギュレーク」−・の助けをかりて行なわんとするものである。いいかえると,そ の狙いはノ金融上のレギュレー・ター・を適切に.操作し,それに.よって利潤最大化を めざす企業の決意がそのまま中央計画の主要方針に合致する方向へと進むよう
な経済諸条件を・創出することにある。
新しい統制レスデムにおいてほ,経済決定権ほ分権イヒされて由り,企業軋対 する義務的計画指標ほ廃止されている。そとで企業の決定権を有効に・作用.させ るためにほ.,まず諸企業がその決定を実行しうるための適切な金融的手段をも つ必要がある。そこで企業の決定に影響を与え.るために.,国家ほ主として金融 上の諸方策に.依拠することが可能となる。いうまでもなく,経済的制御の主要 な金融的方策は,国家財政,信用制度,外国貿易の統制と管理,外貨取引等の さまざまなチャンネルを通じてあらわれる。
改革前にほ国家の芋に.よって国民所得の多くの部分が中央での配分のために
徴集されていた。もしその部分が減少すれば,経済単位が活動の成果に寄せる
関心は増大し,所得とその利用の非集中化が生ずることになろう。このことが
国民経済の効率の向上紅少なからず貢献することは疑いない。国家財政をめぐ
− 2 一¶ 第49巻 第1号
るもうひとつの側面は,利潤課税や所得徴集の別のチャンネルを通して,すな わら国家による補助金や,国家の決定による投資配分を通して.,経済を統制す る国家財政の役割ほ決定的となるととである。国家財政は,これまで企業への 義務的計画指標によって−遂行されてきた機能のある部分を継承することに.なっ た。
新しい信用制度の主.要な特徴ほ,これまでの本質的に自動的な信用供与に代 って,牢れは利潤最大化の必要条件紅順じ,市場状態に従い選択的,弾力的な ものとなつた。企業ほ信用利用面での最小限の効率条件に.ついて相互に.競うこ とになり,また信用の申込みは利用の見通しについて審査を受けるとと紅な る。経済統制の手段が財政から金融に二移されることになれば,前述の変化が生 ずるのほ当然であるといって.よい。
外国為替管理および外国貿易規制の金融的手段も新しいシステムに移された が,こ.こでは外国為替管理の自由化と,世界市場価格の生産および国内市場へ の影響の増大がみられる。
これまでみたように,経済統制の改革が経済過程の間接的制御におかれてい らい,金融的統制の強化がますます必要に.なってきた。このようにして国家財 政と企業との間の金融上の連関の統制もまた増してきでいる。制度的匿みる
と,こうした課題は,財政と企業との間の適正な勘定決済と同じように,財務 諸表の実体をチェックし企業の租税支払いを徹底させる税務当局によって行な われる。こ.のために.大鹿省内に歳入理事会がつくられ,この機関は国家の再保 険や補助金の必要性に.ついても審査することに.なっている。
所得分配の方法
ハンガリ−の経済改革のなかでも特に注目されるのほ価格と所得分配の問題 である。価格制度の改革についてはすでに触れたので,ここでほ所得分配の問 題を取りあげる。企業内匿おける所得分配はハンガリ−の新経済メカニズムに おける核■心ともいうことができる。これはまさに企業紅たいする経済的刺戟,
したがって経済の全体的な効率を決定するものであるからだ。「誘導市場モデ
ー β −−
ハンガリ−の経済改革
ルー」においては,経済活動は生産者および消費者の物質的関心によって動機づ けられるというのが合理的である。生産手段の公有と労働に㌧応じた分配の原則
の支配するところでほ,1人統りの企業所得(登園夏詮豊富訂咽)を最大
化することが決定的な誘因となる。
ハンガリーのモデルでは三つの異なった独立の物質的利害のグル−プが存在 するものとされている。すなわち
① 個人的利害(1人あたりの個人所得の最大化)
⑧ 集団的利害(集団的所得,つまり企業の純利潤の最大化)
⑨ 社会的利害(社会全体の所得の最大化)
がこれである。
企業の集団的利益ほその集団に属する諸個人の共通の利益からなり,また社 会の利益はすぺてこの集団に.共通な利益を包含する。そ・しで以上の三つの利害が 必ずしも一・致しないとみる点にこのモデルの特徴がある。
こ.うした現実を認めた上でこれら三つの利益を満足させるような最適解を見 い出すことこそ政府の役割とされるのである。ここ・にいうところの三つの利益 とは,(1)共通な社会的必要を充足するにたる所得の保障,(云)異なった集 団のおのおのに対して−そのいっそうの発展を許容するにたる所得の保障,(3)
個々の雇用者の貢献を考慮に入れつつそ・の個人所得を規則的に・向上させること を内容とする。
したがって基本的には所得分配の問題ほ,経済余剰ないしは企業の劉潤,つ まり企業の所得から総費用を控除した残余の最適な分配をエ失することであ る。
企業の経済余剰ほつぎの二つの段階に.おいて分配される。まず発1ほ国家と 企業との間で,ついで企業内部で分配される。後者ほ企業の純所得の分配に・お ける勤労者の参加である。
実際に.は後述するように,企業の余剰ほ被課税粗利潤を決定するために平均 賃金基金の追加増加分によって修正される。この被課税粗利潤から発展フォン
ドと参加フォンドとが形成される。正確に几、うと,企業の収入から現実の生産
第49巻 第1号
ー 4 −−
費用を控除して社会的な「純所得」をうる。この純所得からいくつかの税金や 使用料が差しひかれる。まず①フォンド使用料であるが,これほ固定フオ・ソド
と流動フカ・ソドの粗価値の5%である。つぎに④賃金税と⑧社会保険負担金が 控除されるが,これは年間賃金総額のそれぞれ8%と17%に相当する金額とな
っている。以上の三つの控除額がハンガリ」−でほいずれも生産費に算入されて いる点で,これまたきわめて,ユ‥ニークな立場にある。ともあれこの三つの控除 額は.企業が産出しなけれほならない必要最低限の純所得である。
被課税粗利潤ほ,固定・流動フォンドと人件費総額の割合に・応じて三・分され る。とれらのフォンドに対しでそれぞれ課税される。課税された二つのフォン
ドから余備フォンドがさらに.形成される。この二つのフォンドの残余が発展フ
ォンドと利潤参加フォンドになる。被課税粗利潤の分配制犀ほ第1図に示され
るとおり・である。
このよう紅して課税後,企業の経済余剰は三つのフォンド,すなわち①余備 フォンド,④発展フォンド,⑨利潤参加フォンドに.分割されることに.なる。欝
1のフオ・ンドは危険をカバーし,発2のものほ企業発展のための資金供給を行 ない,第3のものほ.勤労者所得の増加に結びつく。経済余剰の−・部分が直接に 勤労者所得の増加に用いられるから,人件費にたいする利潤率が増大すると,
1人あたりの企業所得も増大することに.なる。
いまみたように,人件費に対する利潤率と,利潤の発展フカ・ンドと利潤参加 フオ・ソドとへの分配とが経済刺戟と所得規制において決定的な役割をほたすこ
と紅なる。もちろんここにはある意味でほ個∧の利益と集団の利益との間に・ト レ−ドオフが存在するといえる。その意味は,短期的には予備フォンドと発展 フォンドほ利潤参加フォンドの水準を引きさげることになるが,長期的にほそ れを高めるからである。
さき紅あげた平均賃金フォンドの増加は,会計上の利潤紅対する課税目的の ために.追加されるものであるが,それはつぎのように規定される。すなわち
△Ⅳ=耽一桁_1=ムーⅣ′r」γ′い1)
この式に.おけるんは当期の労働者数を,また抑㌔とⅣ′い1とほそれぞれ当期
ハンガリーの経済改革 −− 5 −
5
第1図 各種フォ・ンドの形成
算49巻 第1号 6
−・6 −
と前期の平均賃金率を示す。
もしここで前述の被課税粗利潤が1とすると,発展フォンド利潤部分(DPS)
と参加フォンド利潤部分(SPS)ほそれぞれつぎのように・規定される。すなわ ち
g l
DPS= 舶=て昭)十1
SPS=1−DPS=
(麒/椚Ⅳ)+・1
ここで茸は固定フォンドと流動フォンドの価値を,Ⅳは人件費総額を,また 沼ほ償金乗数をそれぞれあらわす。賃金乗数研が導入されるのは,それぞれの 部門における資本・産出比率に差があるためである。・そ・の目的は各部門紅・おけ
る資本集約度紅依存しない参加フォンドを保障するためであり,さもなければ
資本集約部門(採取部門や公共輸送等の部門)では・労働者の参加フォンドほ不 当に小さくなるからである。
賃金乗数はそれぞれの部門について中央機関によって決定されるが,1970年
の具体例ほつぎのよう軋なっている0
平均的に・みると,ノ\ソガリ」−・でほ
資本の有柳橋成は・=,僧は2 であるから,DPSほ0.833,SPSは
0.167となる。
国家の分け前
社会的支出を補填するため国家ほ 利潤税に.よって企業余剰の一・部分を 控除する。いうまでもなく,国家ほ 所得分配に影響を及ばしうるさまざ
革な手段一磯率,賃金乗数,減価償 却率等一・をもつ。発展フォンド利潤 算1表1970年の各生産部門の賃金乗数値
外国軍易企業
農業機械の修繕・サ−・ビス
商業協同組合 冶金・肥料・アルミ 観光・通信 石炭・鉱石・林業 国営農業企業 公営交通 その他の部門
6 0 5 0 0 0 0 0 0 0 3 3 A▲ −.〇 6 7 8 2
(出所)参考資料(1),121ぺ−ジ。
ハンガリーの経済改革 − 7 −
7
部分に.対する課税率ほ一率60%であり,参加フォンド利潤部分に対する課税率 ほ,その賃金に対する比率(SPS/Ⅳ)に応じて0から70%まで変化する。
この税率ほ策2表のように年毎紅変化している。
第2表 参加フォンド利潤部分への税率
(出所)参考資料(1),121ぺ−・汐。
参加フォンド利潤部分の関係部分にそれぞれの課税率が適用される。例示と していまSPS/仰が12%であれは,1970年に‥おける参加フォンド利潤部分への 課税額ほ賃金の12%相当部分となる。その昇式はつぎのように・なる。
0×7十0.20×2+0.30×2+0.40×1
・×Ⅳ=0.12Iy
7十2+2+1
ここで国家収入をもう一度みて−みると,さきのフォンド使用札賃金税,社 会負担金以外に.,減価償却の40%相当分(残りほ発展フォンドへの繰り入れ 分),地代の性格をもつ生産税(ソ連の定額納付金にあたる),さらに71年から ほ賃金増加税も含めた収入部分と,発展フオソド利潤部分と参加フオ・ソド利潤 部分への課税収入とやら構成されて小る。
予備フォンド
予備フォンドほ経済変動に.よって生ずるリスクを補填するためのものであっ
第49巻 第1号
−β 一丁
て,これは異常な損失を相殺するため,または利潤参加に向けられる年々の参 加フォンドが基準水準をほなほだ下廻る場合に.それを増やすために利用され る。1971年に.は予備フカ・ンドの創設と補充のために新しい規則が導入されてい る。1971年紅おけるこのフカ・ンドの強制的な水準は,固定資産と有形資産の阻 価値の1.5%に年間賃金額の8%を加えたものとされた。しかしこの金額が発 展フォンドと利潤参加フォンドの80%以下であれば,それを80%相当の水準ま
で引きあげられることが義務づけられている。予備フォンドは予測できない価 格変動の影響をカバ⊥・するにたるものでなくてはならない。こうした理由か ら,予備フォンドに.向けられるべき発展フォンドと利潤参加フォンドの割合は 10%から12.5%に引きあげられた。
利潤参加フォンド
これまで簡単に.みたように,利潤参加フォンドほ,利潤から発展フオ㌢ド利 潤部分を控除し,さらにそれから予備フカ・ンドと賃金増加分とを控除して形成
される。この段階の利潤参加フォンドを増加させる種々の分担金(D)が別途に 存在する。これに属するものとしては,企業に.よって従業員把捉供される低コ ストの食事へ.の負担金,個人的な困窮におかれている労働者に.与えられる個人 的手当,託児所やそ・の他の育児サー・ビスへの費用を償う補助金のような省庁か らの贈与,格別に感動的な生産記録を達成した企業に.贈られる報償金,利潤参 加フォンドから資金提供を受ける公共団体の所得などがある云
このように.して分配に.用いられる原資(∫か)は,
∫刀=SFN一△仰r+β で示される。
以上のように.して形成され分配に用いられる原資(∫刀)ほ.,現金かサー⊥ビス かのいずれかの形態で企業に属するすべてのもの紅分配される。企業ほこれら 二つの形態を選んでよいが,つぎの支払いは現金で行なわれる。
設定された目標の達成に対する報黄金
奨励のための報賞金
− 9−
ノ\ンガリ−・の経済改革
賃金フォンドでほ利用できないその他の報賞金
年末に.労働者に支払われる現金配当(いわゆるボーナス支給)
職員住宅建設のための補助金 奨学金
社会的援助
企業ほ.またサL−ビスの形態でつぎのものを提供する。
低コストの食事
育児施設(託児所等)
レ1アヤーやリクリエーションの施設 社会的,文化的,スポーツ等の活動
ハンガリーの参加フォンドほ,ソ連の「物質的報賞フォンド
化施設フォンド」のように二分されてほいないが,個人の物質的関心に応える 部分と,社会・文化・スポーツ・施設などの福利厚生的な部分とを含んでい
る。このうちでも最も塾要なのは,個人所得増大の直接的な源泉である年末の 配当金であり,これこそは企業と個人との利益とを直接紅結びつけるものであ る。−・定期間だけ企業に雇用されているものほこの分配に参加できるが,かれ らが受け取る額はさまざまの要因に依存する。1968年の改革当初において最も 重要な要因とされたのほゝ 被雇用者が利潤の創出に・あたってなすとみなされた 貢献度であった。このために被雇用者ほ三種類のカテゴリー・に.分類されてい た。欝1カテゴリ←紅属するのほ,幹部職貞一企業長,企業次長のようなマネ
−ジャ,企業長によって任命される大きな部局長や工場長のようなデレクタ−
などであり,これはスタッフの約1%に.あたる。第2カテゴリーにほ.,′J\さな 部局の長,職長,作業班長のような中堅職員が属し,これほスタッフの約7%
相当の職員数とされる。第3カテゴリ−ほ.それ以外の被雇用者で,スタッフの 92%とされている。
この各カテゴリ一に属するものほ,現実の所得に応じて配当金の支給を受け
るが,その最大限の支給額は,貨1カタづヅ−では年間給与の80%,算2カテ
ゴリ−ほその50%,貨3カテゴリ岬ほユ5%をそれぞれ超えてほならないとされ
第49巻 第1号
−− エク ー− 10
ていた。他方,企業のバランス・レ一 トが赤字の場合には,第1と第2のカテ ゴリ」一に属する職員ほぺナ・ルティ−を受けるが,第3カテゴリ、一に属する職員 と労働者はこの場合でも国家から基準賃金の全額を保障される。ちなみにい うと,第2カテゴリーは基準賃金の85%,第1カテゴリ−ほ75%の保障しか受 けられない。いまみたよう紅,68年に・導入された利潤分配制度は,経済発展の 誘因を重視して大幅な差別的支給を行なうものであった。このような管理者主 導型の経済改革は,その反面において一生産現場でほ労働規律の池綬,故意の生 産恩制限,質の悪い作業などの否定的結果を導くことになった。
1970年の事適.し
前述の㌢ステムほ,68年と69年の両年にわたって適用されたが,70年に.ほ変 更を余儀なくされた。根本的にはこの制度が社会主義的原則とはあい入れない 舞1級,第2扱および第3級の市民といった差別をつくり隠すものとして.■,労 働組合,労働者およびマスコミーからきびしい攻撃を受けた。
このため70−71年につぎのような変更が加えられた。
マネージャの基準賃金の大幅な引きあげ
中央での策1,第2,第3カテゴリ′−の区別の廃止
す、べ/てのものに平等な配当金分配の単一・の基本的規則の導入(しかし資格,
経験,先任等紅よる若干の差別を残している)
制限された幹部職員紅対する特別の報賞金(その額ほ利潤と同じ企業の他の 被雇用者の収入増加軋依存する)
1971年の手直し
71年には当初の改革された制度把.別の変更が加えられた,68年に導入された
システムに内在する基本問題ほ,資本紅対しで労働要因のデストを低く評価し
ていたことであ右。すで紅述べたように,社会的支出を償うため軋年間賃金絵
額の盗%(8%の賃金税と17%の社会保険負担金)が労働要因に付加されてい
たが,この額はあまりに.も低く,労働の社会的費用を償うにはおよそ賃金総額
ノ、ンガリ−の経済改革 −− ヱユ ー 11
の45%が必要だとされている。
また68年紅は年間の平均賃金の増加は4%以内におさえるものとされてい た。もちろん,この賃金フォンドの増加は利潤参加フォンドから控除されるこ とほ.既述のとおりである。平均賃金水準を規制するためのこの制度は,その枠 内で企業がさまざまな賃金政策をとることを妨げるものでほない。企東の基本 的行動が1人あたりの企業所得を最大にしようとする−・方,平均賃金率以上に その所得を増加させうる高賃金の熟練労働者が少ないときには,配当金は高収 入のスタッフ私有利な方法で分配されるという一−・方的な影響が存在する。この
ような行動様式と,労働要因が資本に比べて過少に評価され,しかも発展フカ ンドが過小であるという事実からすると,各企業ほ資本投資を増やして効率を 向上するよりも,費用負担の小さい労働をより多く投入し,それによって生産 屋を増加しようとする。これは改革の目的に反する。
とうした要因が主として未熟練の低賃金労働力に対する過大な需要をもたら す。完全雇用を達成しているとき,こうした問題が発生すれば,それに伴なっ て否定的な影響があらわれることは避けられない。これは相当紅激しい労働力 の企業間移動という結果をもたらした。こうした現象を規制しようとする当局 の努力に.もかかわらず,労働力不足が発生し,インフレを促すことになるよう な賃金の大幅な引きあげを導いた。
さらに.68年の新制度は別の若干不幸な結果を生じた。生産性は69年紅ほ−・定 不変のままであり,大愚の未熟練を利用したため,企業内部での合理化ほ期待 されたよりも緩慢であった。それ以外紅も種々の直接間接の補助金の支給によ
って数多くの非能率企業の利潤状況を改善するようなごとも行なわれた。
こうした事態を背景紅69年には所得規制の問題が主要な論争点紅なってき た。70年に.は新制度に.若干の手直しがなされた。69年にほ平均賃金増加額(前 年紅比べて14%の増加)の金額が利蘭参加フォンドから控除されなければなら なかったのに.,70年紅ほ僅か70%相当分が控除対象とされた。労働力需要に対 する過大な増加をさけるため,雇用増大に伴なう賃金フォンド増大の33%は,
(課税前の)利潤参加フォンドから控除され,国家予算に納入されなければな
傑49巻 第1号
ーJβ− 12
らないとした。しかし新制度の他の部分は何ら変らなかったざとから,この程 度の改訂では事襲ほ実際には変更されなかった。
第4次5ケ年計画(1971−−75年)が準備される段階で,所得規制は改めて検 討されること紅なった。71年には別の方策が導ネされたが,新制度の構造その
ものは変更されなかった。粗利潤は,あい変らず固定・流動フォンドと賃金支 払額ゐ割合に.よって,発展フォンドと利潤参加フォンドとに.分割された。地方 開発に地方協議会を参加させ,それに開発に必要な資金を与えるため,各種フ カ・ンドの形成に.先立って,企業は粗利潤の6%の地方税を支払うものとされ た。さらに労働要因の過少評価を是正する必要のため,賃金乗数を従来の平均
2から3に.高めることに.なった。発展フォンドに対する一率60%の課税はその ままであったが,利潤参加フカ・ンドへの課税はいっそう累進的となった。これ によって二つのフォンドに対する財政的な圧力を均等化した。課税率が引きあ げられた紅もかかわらず,賃金乗数の引きあげによって利潤増大のより大きな 割合が結果的に.ほ個人収入の増加となってあらわれた。
71年に行なわれた変更のうちで最も重要であったのは,賃金の規制であっ た。その原理ほつぎのとおりである。
(1)個人所得増加分のより大きい部分ほ,通常ほ利潤参加フォンドから発 生する。
(2)平均賃金率の上昇はある程度までは費用とみなされる。その割合ほ.1 人あたりの企業所得(Ⅳ+∫)/エに.よって決定される。(Ⅳは賃金額,∫は 粗利潤,エほ従業員数を示す)
もしⅣが一・定であれば,利潤が雇用鼠よりも大きく増加するときに,(Iγ+
∫)/エは高くなる。(Ⅳ+∫)/エの増加が大きけれほ大きいほど,賃金(I町/エ)
もまたいっそう増大する。ここでの狙いほこ,企業が合理化を通して利潤(S)を 最大化しようとしたり,1人あたりの企業所得を増やすために.労働力(L)への 依存を減らすことに・よって効率の向上を図ることである。
71年に二導入された賃金増加税ほつぎのように.算.定される。当該年度の1人あ
たりの企業所得(勒十∫1)/ムの前年度のそれ(耶+∫0)/エ0に対する比率一賃
− ヱβ −・
ハンガリ−の経済改革 13
金増加指数と呼ぶ÷が・1%ます毎に0⊥3%までの平均負金の増加が認められる◇
その場合の税率は50%である。しかし賃金増加指数で認められた以上軋平均点
金を引きあげる場合紅ほ,0.5%上昇する毎に150%,200%,250%,300%,
400%の累進税を支払わなくてはならない。この新しい賃金増加税の制度ほ,
賃金増加指数に.よって/認められる範囲の平 均賃金上昇に対してはその課税を優過し,
それ以上の上昇部分にほ.高率累進課税を課 すという二本建てのシステムをとってい
る。これに.よって優過税制が再び適用され る次年度まで賃金増加を引きのばすように 企業を仕向けるという効果をもつ。また1 人あたりの企業所得(Ⅳ十ぶ)/エが低下す
るが賃金がそうでないときに・も,累進税率 貨3表 賃金増加税
賃金増加指数の認め られた水準をこえる 収入増加 (%)
0 0 0 0 0
5 0 5 0 0
1 2 2 3 4
0−0..5 0い5−1り0 1.5−1い5 1い5−2.0
2以上
がいぜんとして適用される。これは過去に みられた否定的影響を是正する上で効果的であり,弾力的な所得規制策である といえる。
賃金制度
ここで参考のためにノ、ソガリ−の現行賃金制度について簡単に・触れることに する。個々の被雇用者の所得が種々の構成要素から成り立つことほいうまでも ない。すなわち,基準賃金,生産高紅よる超過賃金,臨時的ないし恒常的な追 加,臨時的なポーーナス支給,利潤分配,新考案の報酬などがこれである。
基準賃金
基準賃金は所得の最大かつ最も定常的な部分を示す。労働者は,ノルマに・よ る作業を除いてこほ,かれらの行為とは.独立に保障された賃金を月に・一度(ない しは二度)受けとる。
基準賃金は政府の委任を受けた労働省の法令によって一塊制されている。高い
算49巻 第1号
一 ヱ4 − 14
資格を必要とする仕事に対する基準賃金は未熟練労働のそれよりも高く,重労 働軋対する支払いは軽労働よりも多く;大きい賓任ある地位にあるものに・対し
てはそうでないものよりも多く支払われる。しかし,同一・資格を有する労働者 め熟練ほ,まさに同じ仕事に.従事するものの意欲や才能と同じように異なるか ら,基準賃金に影響を及ぼすすべての要因を中央でしんしゃくすることは不可 能である。したがって,ノ、ンガリーでは中央機関は個々の職業ないし仕事の基 準賃金に.対してほ上限と下限とだけを規制する。そのさい前者ほ後者を50〜70
%だけ超えるものとされる。、具体的にはその仕事について決められた範囲内で 各労働者紅ついての基準資金を決定するのは企業の義務である。
算4表 基 準 賃 (単位=フォリント/時間)
(注)71年改訂
(出所)参考資料(7),30ぺ一汐。
労働者の基準賃金は国民経済全体について単一・の表で決定される。第4表に 示されるように.,労働者に.ついての基準賃金のカテゴリーを決める場合には,
資格と労働条件の2つの要因が考慮される。第1の資格はあらゆる種類の未熟 練労働を含む。労働が格別の努力を必要とせず,しかも労働条件(熱気,騒音,
はこり等)が有害でないならば,(1)のカテゴリ−・紅属し,時間あたり5.00か
ら8.50フオ.リントの支払いを受ける。これ紅反して,高度の職業上の資格と長
い経験を必要とする仕事につく労働者は資格等級(6)に.分類される。職場にお
ける温度が高く健康に有害な影響があり,しかも仕事が危険をもつような場合
には,労働条件は(4)のカテゴリー紅分類される。
ハンガリ−の潅済改革 − ヱ∂ 一 ユ5
この表の付録ほあらゆる資格等級と労働条件のすべてを正確に定めている が,この中央で決定される二つの要因は,基準焦金のカテゴリーを特定化する 陀すぎない。基準賃金紅影響を及ぼすその他の要因(意欲,多様性など)は,
定められた賃金の上下限の枠内で考慮されるが,その仕事はこの問題に.おいて 職場委員と協議しなければならないところの先任労働者にゆだねられている。
企業従業員についての基準賃金体系も画・一・的性格をもつ点で同じであるが,
商業販売網の従業員,交通通信従業員およびある特定部門の従業員ほ贋金につ いて個別の特殊性をもっている。なお行政,研究機関,公衆衛生などに従事す るものの基準賃金体系ほ,企業従業員のそれに類似し
く。
成果に.よる賃金
企業によって雇用されるものの大多数は,事前に.決められた成果に対して事 前に決められた賃金の超過額を受けとる。その形態と大きさほ地域労働組合と の協定によって企業経営者紅よって決定されるため,企業毎に相当の差異があ る。唯一・の例外は,そのボーナス制度が中央の規則で制約を受けている経営幹 \ 部である。
これにほ2種類の支払い方法がある。その第1はノルマに.もとづく成果によ
?て支払われる賃金である。労働者のおよそ半数はこの支払い方法に・よって超 過賃金を受けとるとされている。事前に決められたノルマの達成ほ基準賃金を 保障するにすぎない。・−・般にほ関係のノルマの超過達成に比例して所得が増え
る。たとえば,ある労働者がノルマを20%だけ超過達成すれば,基準賃金の2P
%を追加して受けとる。またある場合紅は,ノルマの超過達成は逓増的紀文払 われる。もちるん,ノルマそのものほエ場組織研究所によらてつくられた基準 指数をもとに.して個々の企業が決めることになっている。
ノルマにもとづかないものはポーナ・ス制度に・よって奨励され卑。成果に応じ て支払いを受ける労働者は,もしかれらが特定のノルマを達成できなければ,
減額した基準賃金を受けとることになるが,他方ボーナス支給を受けるもの
第49巻 第1号 16
− ヱ6−
ほ,ボーナスの課題を達成しなくとも,基準賃金を受けとることができる。
掛−ナスの課題とそれに.関連するポ−ナ・ス額は企業に・よって定められる。こ のような課題は指数−−・討画に.もとづく配送,特定資材の消費,高品質商品のア
ソートメソトなど−・に.よって決定される。この指数は月毎に,四半期毎に,あ るいは年毎に屑評価され,決められたボーナス額はその指数が達成された度合 いに.応じて支給される。ポ−ナス額は通常ほ基準賃金の10−40%である。
補足額は正常な仕事の遂行を妨げるような一喝的条件のもとにおかれる労働 者や従業員に支払われるものであり,その額は奉準賃金の10%から100%とさ れている。たとえば地下の坑夫ほ30%の超過支払いを受けて:いる。健康紅危害 が生ずるような場合にほ,さらに20%から30%が加算される。
最後が利潤分配であるが,これに.ついてはすでに.述べたところである。ただ ここで利潤分配の方法について触れると,これは労働組合全国評議会の勧告を しんしゃくして企業と被雇用者の間で締結される集団労働協約に・盛り込まれて いる。したがって,利潤の50%ないし66%は被雇用者の年間所得を基礎に・して 支払われるが,残余の大部分は.企業ですごした時間に応じて支給される。そ・し て最後の部分ほ優秀労働者のうち職長に分配される。利潤分配額は,利潤の大 きさに応じて0月から3ケ月の賃金が企業のすぺての労働者および従業員に当 然与えられるぺきである。
以上において個々の労働者および従業員の所得を構成する諸要素匿ついて概 要を述べてきた。ハンガリーでは企業が支払うべき賃金の水準および額は政府 またほ省令に・よ?て瀧制を受けていることを示した0
71年に新しい賃金統制の方法が導入されたことに.ついてもすでに説明した が,ここでは現行の3つの方法について説明しよう。多くの企業に対しては企 業レグェルでの年間平均賃金が規制を受けているが,ある種の部門では年間賃 金額が規制の対象とされている。この点についてほ特に誤解のないように.注意 すべきであろう。
賃金水準の統制
ノ、ソガリーの経済改革 −J7 −
17
これほ建設業,運輸通信業および商業を含めて工業で−・般的に行われてい る。企業ほ腰論的にほ随意に労働者および従業員の年間平均点金を年々引きあ げる権限を与えられている。しかしそのため
ォンドからその増加額に応じて特別税を支払わなくてほならない。ある制限ま でほ.この税ほ,1人あたりの利潤を力強く引きあげる企業にとってきわめて有 利であるが,その制限を超えると累進的となる。ここで例示をあげることに・す
る。いま従業員1,000人の企業が1人あたりの平均賃金として年間30,000フォ リン、†を支払い,次年度紅それが1,000フォリント(3.3%)だけ引きあげられ て31,000フォリントになり,その結果1人あたりの企業所得(肝+β)/エが10
%だけ高まったとしよう。1人あたりの企業所得が1%増るえ毎に.,平均賃金 の0.3%までほ優過税率が適用される。つまりこの例示でほ,一10×0.3=3%ま でほ優過税率が適用されるととに・なる。企業の総支払賃金額は31百万フォリン
ト(31,000×1000)であり,賃金増加額ほ百万フォリント(1,000×1,Odo)で あるが,基準賃金総額の3%は93万フォリント(31,000,000×0.03)となる。
百万フォリソトの賃金増加分のうち93万フカ・リントについてほ50%の優過税率 が適用され,残りの7万フォリントに.は累進税が課せられることに.なる。
賃金額の統制
この制度は食品工業の若干の分野,国営農場とノ\ンガ.リ」一国営鉄道だけ紅適 用され,実験的には異なる産業部門の10大企業に適用されている。この場合に
ほ,支払賃金額ほ総生産高の増加に比例して引きあげられる。もし前者が後者 よりもはやく増大するのであれば,企業は利潤参加フォンドから特別税を支払 う義務がある。その税は庶金超過額の1.5倍である。平均増加額がき%を超え るような場合に.も課税ほまぬがれない。もっとも資金の増加額は,雇用者数の 増加か平均賃金の増加かのいずれかまたは両者の引きあげのために.使用され る。
絶対的統制
ーー」‖㌢−… 第49巻 貨1弓 18
国民経済のどく限られた分野では絶対的な統制(得金水準に・関して)が強制 される。この制度は,国民経済の利益が利益もしくほ生産価値のいずれかの作 用によって適切に示されえないようなところで用いられる。そ・の例としてほ電 力産業があげられる。というのは,この産業では凝常産出鼠を自由裁遍で増や すことほできないし,また利潤の増大ははとんど賃金軋影響しないからであ る。また文化政策上の理由で出版業の場合も利潤を増やすことは.適当とほいえ ない。これらの企業に.対しては,別途に中央で年々平均賃金を引きあシデる可能 性を指定するこ.とが必要である。
いずれ紅せよ,所得規制紅あたってほハンガリーの国民経済は2つの目標を 追求しなくてはならない。ひ、とつは労働生産性を向上さやるために・賃金の刺戟 的効果を利用することであり,いまひとつほ労働者や従業員牲支払われる実質 資金を系統的に引きあげることである。71年の支払賃金の統制ほ,過大な未熟 練労働への需要を抑え,生産性向上への刺戟的効果を求めたものであったこと
は疑われない。
質金増加税の新設ほ,経営幹部の短期志向型の見解を長期展望的なそれへ転 換させる意図をもつものであった。他方,経営幹部に対する刺戟策として,部 門省のような監督機関は年間の当然受けるべき利潤分配の25%までを控除する ことができ,3年ないし5年の間に有効な方法で中央の決めた目標を達成した 場合に.は,その間紅留保された額を経常幹部に.支払うものとされる。さらに.特
質5表 経営幹部の給与分類
(注)単位ほフォリソトで月額を示す。(出所)参考資料(3),164ぺ・−・汐。
・・〜 j博 一−
ハンガリ−の経済改革
19
別の方法で目標が達成されると,監督機関ほ企業の賃金フォンドから追加的な ポ−ナスを支給することができる。
ここで経営幹部層の給与について参考資料を掲げておくこと紅する。
所得格差
ハンガリ型め新しいモデルの効率は,相当に広範な所得格差を有する刺戟シ ステムを必要とした。初期の利潤分配制度一後に放棄された−・ほこの一亡とを意 図したものであった。いま改革の前後に.おける賃金格差の概要は.欝6表常示さ
常6表1962−72年の賃金格差
1967
J1972
大 臣
省 の 局 長
企 業 長
主 任 技 師
技 術 者 医師(病院の医長)
医師(病 院)
医師(診 療 所)
坑 夫
レ ン ガ 工 鉄 鋼 労 働 者 錠 前 師
行 政 職 員
看 護 婦 教師(大学々部)
教師(高等学校)
教師(義務教育)
保育所監督 者
保 母
清掃夫,エ場運搬掛
へJ O O ︵U O O ︵U O O O O O O O O O O 人U 5 2 0 5 心 ︹心 ︵む 只︶ 2 3 5 1 1 0 7 7 0 0 00 7 A▲ ▲4 5 3 F