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市 川 兼 三

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Academic year: 2021

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(1)

研究ノート  

取締役員選挙についての一・試案  

市 川 兼 三  

−・,現代巨大株式会社の支配構造   1.株式会社の支配構造   

「商法上株式会社ほ共同企業の法的形態たる営利社団法人であって,複数人に分散せる   所有を統括してその法律関係を単純化するための機構に.ほかならない。それほ企業の所有  

者たる複数人を一つの団体関係に結合しかつその団体を法人として,これ紅企業の所有機   を単山的紅帰属せしめると同時に.,その企業紅おける取引関係をもこれ紅統一・的に帰属せ  

しめんとする仕組である。会社の法人性ほかかる法律関係の統一・的帰属を可能ならしめる   ための法技術であり,そこに.おける社員関係は所有権の変形物として,一男企業から生ずる  利益を本来の所有者たる株主紅魂ちびくと同時に.,他方所有麻紀もとずく支配を企業紅ふ  

ちびくことを内容としている。その利益の帰属関係においてみとめられる権利が自益権で   あり,企業の支配関係において認められる権利が共益権である。前者はいわほ所有権の収   益権能の変形物であり,後者ほ所有権の支配権能の変形物粧はかならない。」(大隅健・一郎  

『会社法の諸問題(増補版)耳111ぺ一汐.)。共益権は所有梅の支配権能の変形物である。ト   たがって『その「所有者による支配」の命題ほ,「より大きな所有がより大きな支配力」  

を萌する原理としてあらわれ,したがってそこに持株数に応じた多数決が行なわれる。L』  

(富山康書『現代資本主義と法の理論』147ぺ一−ジ)。すなわち,株式会社における資本多   数決は「より大きな所有がより大きな支配力」を有する原理のあらわれであり,所有権に 

(1)  

基づく支配という法原則の貿徹である。共益樅のなかで最も重要なものは,企業吟所有者  

(1)資本主義私法紅おいてほ,資本多数決こそが営利団体に.おける意思決定の原則であ   

る。合名会社や合資会社に・おいて,1人1票方式がおこなわれる申は,他の手段紅よ   

・つて「より大きな所有がより大きな支配を有する」原理の貫徹が保証されているから    である。すなわちこれらの団体においては「持分の払戻請求.」が認められており(商   

法84条,89条,147条),これによって「より大きな所有がより大きな支配を有する」   

(2)

取締役員選等について:の・−・試案   一ヱヱ9−  

335  

が企業の支配をゆだねる相手を選ぶ取締役員の選挙権であり,自益権のなかで最も登要な   ものは,企業から生ずる利益を本来の所有者匿導びく利益配当請求権である。ゆえに,こ   の2つの権利ほ,株主平等の原則に.よって,あるいほ,固有権理論によって保建されるの   である。   

2.資本多数決の効果   

取締役選挙は株主総会に.おける1株1票によって行なわれる。そこで過半数株式所有者   が取締役選挙を支配することとなり,その他の株式所有者の取締役選挙権は.事実上無意味  

なものとなる。少数株式所葡に基づく支配ほ過半数株式所有に基づく支配の下に集中して  

(2) 行使されることとなる。株式会社においてこは,より大なる所有の下に・ますますより木なる支  

配が集中され,その反面,より小なる所有はますますその支配を小さぐするかあるいは失  

($)  

ってしまう。このことは,−−・般に「支配の経済化」と呼ばれるが,株式所有の必然的紅伴   う機能である。この点に.おいて,債権と株式とは.決定的に異なる。債権に基づく支配の範   囲は当該債権額に限られるのに対し,株式に基づく支配の範囲は,相対的に.大なる株式所  

(1) 肩の下に.集中され,相対的にノJ\なる株式所有はその支配を失うこととなる。   

3.株主絵会でおこなわれる効果   

少数株式所有者の取締役選挙樅ほ事実上無意味となっている。加えて株式会社の規模甲   拡大紅つれて,株式が分散する。そこ∴で大多数の少数株式所有者にとって,株主総会出席  

は何らかの扱失を伴うにもかかわらず,それに見合った利益を伴わないものとなる。大多   数の少数株式所有者常とって−戟締役選挙権は事実上誰か紅代理行使を委任する権利紅転イヒ   する。そのような場合,受任者として選ばれるのは,主に.会社の現取締役陣である。会社  

の現取締役陣は先に大株主によって選挙された者である。したがって大株主の支配下ぺ議   決権(取締役選挙樅)代理行使 委任状が集まることとなる。このような傾向をいっそう促  

進するのが,取締役選挙をめぐって委任状争いが勃発した場合に・,東取締役陣ほ会社の   ことが保鱒され一肌、卑のであるbギが河本教授は,現在め社会の団体に・おける澄思決   ダー 定の原則を1人1票方式に.よる多数決であるとされ,株式会社払おける資本多数決を  

例外的なものと考えられているようである(参照,河本一部『現代会社法』29〜31ぺ  

−ジ)。  

(2)本稿では,企業に対する支配を㌧ ノ心・−リ−・ミ−ソズに従って,  「取締役会(また   

は過半数の取締役)を選出する実際的権限」と解する(バ・−リ・−・ミ・−ンズ著,北島   忠男訳『近代株式会社と私有財産,』88〜89ぺ・⊥ジ)。  

(3)岩崎稜『■所有と支配の分離」(上柳・河本編『企業・経営と法』所収)32ぺ−ジ。   

4)劇乳 三戸・正木・晴山『大企業における所有と支配J61〜63ぺ−・ジ。 

ぐ   

(3)

第46巻 第4・5・6号   336  

−ヱ20−  

費用に.よって委任状を集めうる,が一一方,挑戦者は彼個人のポケットマネ一によって委任   状を集めなければならない,ことである。その理由ほ,現取締役陣は会社の政策問題につ   いで株主に情報を伝え発言する義務を有す畠が,挑戦者はかかる義務を有し射、こと,お   よび取締役選挙をめぐる争いに.おいて,個人の支配をめぐる争いと会社の政策をめぐる争  

(8)  

いとを区別することが実際上困難であること,にあると思われる。   

4.株式会社による他社株式所有の効果   

株式会社ほ他の株式会社の発行した株式を所有することができ,その所有株式に基づく   取締役選挙権を株主総会で行使できる。この方法を利用して二支配の経済化が行なわれる。  

こ.の方法は,まず2つの型に.分けることができる。1つは垂直型(ピラミッド型)であ  り,他の1つほ水乎型(相互所有型)である。   

まず重患型から説明する。たとえばA社がB祉の株式の過半数を所萌し,B社がC社の   株式の過半数を所有しているとすれば,A社の支配株主aは,A,B,C3社を支配でき  

る(参照,図1)。   

次紅水平型について説明する。たとえば,A,B2社が過半数の株式を相互に持ら合   う。その場合,A,B2社の社長が結束すれば,この2社長の下に・2社の支配が確保され   る。このことは,3杜あるいはそれ以上の場合でも全く同じである。3社以上の場合であ   れほ,順次過半数株式を持ち合う間接型と(参照,図2),直接相互匿綱目的に持ち合う  

図 3   図 1   図 2  

磨      ノ  

①  

>   ㌻→0 0  

謹.%ほ持株率を示す。  

(5)参照,Daniel.軋FI・liedmaniBxpezISeS Of CorporatehPro女y Contests,51    ColumbiaL.Rev..,p.951、。今井宏r議決権代理行使の勧誘」45〜52ぺ・−iyふ   

(4)

取締役員選挙についての一・試案   −J2ユー  

337  

(8)  

底接型(参照,図3)とがある。   

垂直型の場合に.は,支配中枢は明確であるが,しかし,支配維持のための資本を必要と   する(図1の場合,A社を支配するため,必要な資本の出資を欠きえない)。その限りで,  

支配の経済化に.限度がある。一方,水平型の場合,支配維持のための資本を必要としない  

が,しかし,支配中枢を欠く。そこで両型の組合せによるよりいっそうの支配の経済化が   行なわれる(参照,図4・5)。  

% \−  

ヅ㍑  

○     F  

¢)  く  

)、、−1く   

株式会社による他社株式所有と委任状とを組合わせることに.よっ■て,支配の経済化がよ   りいっそうすすめられる。巨大会社に・おいて,株式所有は極度に分散してこおり,大部分の   少数株主紅とって,事実上委任状によって取締役選挙権を行使せざるをえない。また株式   会社払おける支配の確保は乗取り紅さいして問題となる。つまり乗取りに.さいして防戦で  

きるだけの株式さえ確保しておけばよい。巨大会社の果敢りほ,巨大資本を必要とし,た  

(6)A,B,C,D,E,F6社が,互いに,他社発行株式の10%ずつを持ち合えば,  

グル−プ全体として見ると,各社のプし行株式の50%を支配することとなる。ゆえに,  

6社の社長が結束して社長会をつくれば,この社長会の6社支配に.挑戦しうノるもの   は,何もない。またこれら6社長ほ鉄の鎖りで固く結ばれていることとなる。という    のは,これら各社長は,自社の株主総会においては,前以って,他の5社の所有する    自社発行株式に・ついての委任状を・取っておくことができる。そのさい,\もし,他社    の社長が彼に委任状を与えないとすれば,それに対して,彼もま牢,自社所有株式に    基づく委任状を当該社長に与えないであろう0したがって5社長が結束す叫ば残る1    社長を解任することは可能であろうが,しかしそのさいにほ,当の5社長いずれもが   

自社の株主総会において,40%の委任状しか造得できず,いずれもが解任の危険を犯    さなければならないであろう。よって各社長は,自らが社長に屈まることを欲する限   り,相互に委任状を交換せざるをえないこととなろう。   

(5)

第46巻 第4・5・6号   338  

−ヱ22−  

いていの場合,公開で株式を買うことを必要とする。したがって巨大会社において:ほ・,多  

くの場合,グループ内に,10{ノ20%の株式所有を確保しさえすれば,グル−プで支配を確   保するのに十分であろう。   

5.現代株式会社支配の実態   

現代日本の巨大株式会社の支配構造ほ,株式会社による他社株式所肩と委任状とを組合   わせたものである。株式会社による他社株式所有については,垂直型をトップにその下に   永平型を和合わせる塾(参照,図5)と,水平型をトップに垂直型を組合わせる型(参   照,図4)とに.分けることができるようである。前者はいわば独立系企業集団に.見られる  

(7ノ(8) 型であり,後者はいわば旧財閥系企業集団に見られる塾である。この後者の型は,トップに  

おける明白な支配中枢を欠くものである以上 変則的および過渡的なものと思われる。そ 

(9)  

れ独占禁止   の変則化をもたらした要因としては,戦後の財閥解体による混乱もあろう  

法9条による持株会社の禁止および同法11条に.よる金融機関の株式保有の制限がその主な   要因と思われる。支配中枢となるべき金融機関が,他社株式の10%をこえる所有を禁じら  

(10)  

れた長め,その支配が潜伏化したものであると,思われる。   

「要するに,現在の,ことにわが国の大株式会社の支配構造は,会社に・よる会社中支   配であることを確認し,それは,結局経営者支配であると理解するならば,この実態紅   は,株式債権説,中でも財団説が法理論としてもっとも適合しているといわざるをえな   い」(河本一郎『現代会社法』42ぺ−汐)との主張がある。しかし,経営者支配というこ  

とと,株式債権説ないし財団説とは直接つながらないものと思われる。というのは,日本   に.おける経営者支配は株式の相互持ち合いを,すなわち株式所有を基礎として.成立してい  

(11)  

る。経営者支配の支配の根拠は,株式を通じで践現している所有権の支配権能であって,  

(7)その典型として,新日鉄グル−プがあげられよう。参照,黒田武「企業集団につい   て」財経詳報.彪■959,22ぺ−ジ。また戦前の日本の各財閥もこの型に屈するものと思    われる。参照,三戸・正木・晴山前掲香114ぺ−ジ。  

(8)参照,宮崎義一・『J寡占』61〜62ぺ−ジ。ニ木雄策「ますます少数者の手に.」経済評   論1973年5月号11〜13ぺ一−ジ。  

(9)参照,奥村宏『J買占め,乗取り,TOB』200〜201ページ。  

(10)潜伏化した金融機関の支配を顕在化して見せるものとして,次の数字をあげてもよ    かろう。所有株式数で見た場合,10%を越えて他社株式を所有できないというその制   限に.もかかわらず,金融機関の上位50社を累計すれば,その所有株数は総株数の25.6  

%を占める。これに対し金融機関以外の上位50社を累計しても,総株数の8.3%にし   かならない(『東洋経済臨時増刊1973年版企業系列総覧』490ぺ−ジ)。  

(11)岩崎稜前掲番38ぺ−ジ「これら経営者が集って結成する社長会は,聾実上の大株主   

(6)

取締役員選挙についての一・試案   −ヱ2β−  

339  

請求権その他の債権に.伴う権能ではない。慣魔の相互保有ほ決して経営者支配の成立をも  

たらすものでなく,せいぜい相殺をもたらすぐらいであろう。株式を債権と解するとすれ   ば,経営者支配の構造は,全く理解できないものとなるう。  

株式会社によって支配の経済化が行なわれる。株式会社のこの機能は,株式会社が他の   会社の株式を所有することによって,数倍化される。億権に.はこのような機能は.ない。株   式の相互持ら合い紅よって経営者支配の成立していることそのものが,株式は所有権的性   質のものであることを,明らかにしていると言えよう。  

ニ,問題点  

1.資本主義私法の原則と株式会社   

資本主義私法の原則のひとつほ,所有権に基づく支配である。支配は所有樅に.よって根   拠づけられねばならない。所有者と支配者は一・致する。このことは支配の効果(利益ある   いは損失)が所有者紅帰属するゆえ,支配と賓任(危険負担)の−・致でもある。   

株式会社の取締役員は株主総会に.おける1株1票の選挙に.よって選ばれる。これ紅よっ   て,全体としての株主(所有者)の取締役会(経営者)に対する支配が確保され,それに  よって,全株主の株式会社に対する支配がその所有の大きさに応じて確保される。株式会   社に.おける利益あるいは損失ほその持株数(所有の大きさ)に応じて全株主に帰属する。  

すなわち,株式会社における所有と支配と賀任(亀険負担)ほ株主の下に・おいて馴致して   いる。   

株式会社における取締役員選挙ほ.1株1票によって行なわれる。それゆえ支配の経済化   が可能となる。すなわち,多数腺式所有者に.支配が集中し,その反面,少数株式所有者に  おいてほ,所有から支配が分離することとなる。との傾向をよりいっそうおしすすめる法   技術が株式会社に・よる他社株式所有であり,委任状である。そして遂紅は,他社株式所有  

に息づく取締役員選挙枢の行使者が経営者(取締役員)であること,および委任状がもっ   ぱら現経営者紅集中することを利用して,経営者支配が行なわれることとなる。ここに   おいて,所有と責任(危険負担)は株主(所有者)にあるが,支配のみは経営者紅帰属す   る。   

経営者支配をもたらしている原因として,株式の分散と共に経営者個人の経営才能の優   会であり,所有による支配が行なわれる」。参照,岩崎・河本発言「現代の会社法学」  

(法律時報541号)128ぺ」−ジ。   

(7)

−ユゴ一一   第46巻 第4・5・6号   340  

(12)  

秀さがしばしばあげられる。しかし,経営才能は法律上支配を基礎づけるものではない。  

法律上支配を基凝づけるのは,所有権のみである。株式会社に.よる他社株式所有も委任状   も所有梅に基礎なもつからこそ経営者支配を成立させるのである。   

法原則(所有と支配との一・致)を実現すべき法技術(株式会社)が法原則に矛盾する経   営名支配(所葡と支配との分離)をもたらしたのはなぜか,また,とうすれほこの法技術  

は法原則と調和しうるか,がここでの問題である。   

2.株式会社の支配の特質  

株式会社も法人であり支配に関して二法人としての特質をもっている。法人の支配の特質に  ついて考える。法人は人間以外の存在を法的主体たらしめる法技術である。法人は権利能   力を有する。したがって,法人は所有権を有し,それ匿基づいて支配することができる。  

法人は.法技術である。したがって,法人にはその法技術を利用するもの,すなわち,法人  

の支配者である自然人が不可欠である。この点において,法人と自然人とは決定的軋異な   る。両者は法人格を有する点では同じである。がしかし,法人紅はその支配者が不可欠で   あるのに対し,自然人には,法律上支配者は存在しえない。その限りでは,法人は支配さ   れる法人格であると特徴づけることができよう。   

法人が所有し,支配すると見えるのほ法形式上紅すぎない。実質を見れば,自然人が法   人を通じて所有し,支配しているのである。   

株式会社は他社株式を所有し,それによって他社を支配するこ≒ができる○株式の相互   所有に.おいては,双方が相互紅株式を所有し,相互匿支配する。ここ阻陳式会社の法技術  

としての特寛が明白紅でている。権利能力者としては他を支配するが,同時に,法技術と   しては他に支配される。それゆえ崩互所有・相互支配ということが可能となる。相互所有  

・相互支配ということは,自然人に.おいてはありえない。その限りでは,株式会社は相互   所有・相互支配の法技術であると特徴づけることができよう。   

株式会社は法技術であり,その支配者である自然人が不可欠である。株式会社が所有し,  

支配すると見えるのほ法形式上紅すぎない。実質的に.は,自然人が会社を通じて所有し,  

支配しているのである。このことは株式相互所有に.おいても同じである。しかし,株式相   互所有に.おいては,支配者と所有者とが異なる。支配している自然人は双方の経営者であ   

り,所有している自然人は双方の株主である。株式相互所有は経営者が自己の支配を維持  

(12)参照,三戸・正木・晴山前掲畜275〜276ぺ−ジ。佐竹儀昌「専門経営者」(松岡磐木   偏『凝営管理論』所収)55〜59ぺ・−ジ。   

(8)

341   取締役員選挙についての一・試案   −J25一   強化する手段であり,株式相互所有によって,経営者は株主から支配を合法的に奪取する  

(13) ことができる。株式相互所有によって,所有と支配とが切離される。   

法技術(株式会社)が法原則(所有と支配との−・致)を破壊するために利用される。こ   の法技術は,どのようにすれば,この法原則と調和しうるか。この問題解決のため,私   は,取締役員選挙において,法人の議決権行使は禁止され,その議決権は法人を通過し   て,法人に・出資している自然人に・よって行使されることを提案する。次に.この提案を根拠   づけることを試みる。   

3.株式会社の法人格   

株式会社は法人として自然人と同じ包括的な権利能力を有するとされる。しかし,株式  

(14〉  

会社を法人とする根拠は取引的法律関係を簡易化するこキにあると思われる。だとすれ   ば,株式会社が他社株式を一個の商品として所有したり,取引したりする能力は自然人と同   様紅認めうる。が−・方,株式会社がその所有株式に基づく支配を自然人と全く同様私行使  

できるかとうかは問題である。というのは,株式所有に基づく支配者が法人である場合   と,自然人である場合とでは,支配について決定的な差が生じる。法人は不滅であるが,  

自然人は死亡する。そこで,法人所有株式は法人の意図紅反して分散されえないが,自然   人所有株式は死亡によ・つてその所有者をかえると共紅,相続制その他に.よって分散されう  

(15)  

る0このことは少数株式の支配価値に∴重要な影響をおよぼす。法人紅過半数株式を所有さ   れている会社の少数株式の支配価値は,自然人が過半数株式を所有している場合と異な  

り,その回復を期しえず無となるであろう。このことは,過半数所有株式の価値紅反映し   て,それが法人に所有されている場合には,自然人政所有されている場合より,より大き  

(13)「会社による所有と支配の統一・.」(宮崎義一・『寡占』69ぺ」一汐)は法形式に.すぎな    い。会社が法技術である以上,会社に.はその利用者あるいは支配者である自然人が不    可欠である。所有と支配との一・致あるいは分離ということは,自然人についてのみ問    題となる。河本劇郎前掲沓13ぺ−・ジ「会社支配ないし機関支配なるものもまた,個人    所有に・基づかない支配であ′るという点においては経営者支配である。」。参照,三戸・  

正木・晴山前掲番52ぺ−・汐。  

(14)西原寛一・,『商事法研究第二遜』29ぺ一−・汐「法人とは,自然人以外の着で法律上権    利義務の主体たることを認められるものをいう。それは団体が取引界紅おいて活動す   

る場合,その構成員や業務担当者の多数性および変動性に・かかわらず,これを単一・の    団体のごとく取扱い,団体の永続性と取引関係の簡易化を図る法的技術に.ほかならな    い。」参照,鈴木竹腰『商法研究ⅠⅠ』11′、一12ニぺ−ジ。  

(15)現在では,巨大会社の10大株主ははとんど法人によって占められて−おり,自然人は    ごくまれである。機関所有の集中と個人所有の分散との1つの原因として,累進的所    得税・相続親をあげる者,三戸・正木・晴山前掲雷42〜亜ぺ・一汐。   

(9)

第46巻 第4・5・6号   342   ーヱ26−  

い価値を有することとなろう。同じ株式でありながら,その所有者が法人であるか自然人   であるかに.よって,価値を異にする,というようなことは法政策上できる限り避けるペき   であろう。また株式会社は資本集中の機構であり,その経済力,したがって所有株式壷   も,自然人とほ比べものにならない。したがって,株式会社の法人格が他社支配の手段と   して認められたものでない以上,株式会社がその所有株式を通じてイ也社を支配する能力は  

(16)  

認められないと思われる。   

4.取締役の忠実義務と会社支配   

取締役は.会社に対し忠実義務を負う。この義務を信認的法律関係に基づく特別の義務と  

(17)  

解すれば,「取締役が会社の業務を遂行する紅瞭し,自己の利益と会社の利益が抵触する   ような場合,取締役は自己の優越的地位を利用して,会社の犠牲に・おいて自己の個人的利   益を得てはならない義務と解される。」(星川長七『注釈会社法(4)』254ぺ−汐)。会社は   法技術であり,会社の利益とはすなわち株主全体甲利益である。したがって取締役は株主  

(18) 全体に対してこも忠実義務を負う。すなわち,取締役は会社の業務執行紅おいて,自己の利  

益と株主の利益とが抵触するような場合,株主の犠牲において自己の個人的利益を得ては  

(16)法人が法技術である以上,その権利能力の範囲は法政策に・よって定まる。会社支配    に関して,自然人より法人を優先する理由はないと思われる。  

アメリカ合衆国のかっての判例は,Ultra・Vires・Lehreにrよって,株式会社の他会    社支配を目的とする株式取得を無効としていた。これに対して,のちになって,各州   

が株式会社の地金社支配を目的とする株式取得を立法によって認めることとなる。現    在では,支配的判例は,会社に株主として自然<と同じ権利を認める。合法的紅取得さ    れた株式について,会社の株主としての権利が,たま紅制限される。State v.Newman,   

51LaいAnn.833(1899)において,裁判所は他社株式紅伴う会社の権利を≒不完全    な所有権≒ と特徴づけた。すなわち,会社は,買ったり,売ったり,配当を受けたり,   

する権利を有する,しかし議決権を行使する権限を有しない。E J.Mestm浅Cker,   

Verwaltung,Konzerngewalt und Rechte der Aktiov翫e SS 98〜100。参照,A.   

A.Berle,Corporate powers as powersin trust,44Harv.L,Rev…,pり1063,   

Ballantin,On corporations,pp‖236−7。  

(17)周知のとおり,商254条の2の取締役の忠実義務紅ついて,普管義務と同質の義務   と解する学説と,英米流の信認的法律関係(fiduciary relationship)の存在に,基づ   く特別の義務と解する学説とがある(参照,星川長七「注釈会社法(4)彪63〜264ぺ   

−ジ)。本稿では後者に・依ることとする。  

(18)参照,大隅隆一部「アメリカ会社法における取締役会」(『英米会社法研究』所収)  

86〜87ぺ1−e7。LCB Gower,The principles of m3dern ccmpanylaw,third   edition,pp.,521〜522。A A.Berle,pp‖Cit.,p.1049。   

(10)

取締役員選挙についての−・試案   −ヱ27一   343  

ならない。   

取締役選挙樅は,所有権の支配権能に基づくものであり,株主の他の諸権利を安全に腐  

(1g) 保する究極的手段である。したがって取締役選挙権は株主の排他的独占権とされる。誰も  

株主のこの権利を侵害しえない。取締役は株主に対して.−忠実義務を負うだけに,こ.とに,  

株主の取締役選挙権を侵害してはならないと,考えられる。取締役の選挙紅おいで,取締   役の利益と株主の利益とが最も鋭く対立する。取締役が,会社の業務遂行に関連して,取   締役選挙に.影響を及ぼす2つの方法がある。その1つが株式相互所有であり,他の1つが   委任状である。株式相互所有の存在する場合,取締役は,自社所有の他社株式に基づく取   締役選挙権に.よって,他社の取締役選挙軋影響をおよぼすことができる。そのような影響  

力の行使によって選ばれた他社の取締役が,他社所葡の自社株式に基づく取締役選挙権に   よって自社の取締役選挙に.影智をおよほすことができる。株式相互所有において,取締役   が自社所有の他社株式に基づく取締役選挙樅を行使するということは,間接的に自社の取   締役選挙に影響をおよばすこととなる。すなわち,取締役が自己の権限を利用して,自己   の選挙に影響をおよばし,株主の取締役選挙権を侵害することとなる。したがって,すく   なくとも株式相互所有の存する場合紅は,取締役は自社所有の他社株式に基づく他社取締  

(20)  

役員選挙権を行使できないと,すべきである。   

株式相互所有に.関連し・て,株主権の内容について考える。株主梅には,自益権と共益権   とがある。自益樅の行使は,他社の経営管理にも,自社の経営管理にも影響をおよばさな   い。共益権の行使は他社の経営管理紅影響をおよぼす。そのなかでも,取締役選挙権の行   使だけは,他社の取締役選挙のみならず自社の取締役選挙まで影響をおよばしうる。すな   わち,自社所有の他社株式に基づく諸権利のうち,取締役員選挙魔のみは,他の諸権利と   異なり,自社の取締役選挙濫影響をおよばしうる。したがって,他社株式所有に.基づく他  

の諸梅利にンついては,取締役が会社を代表して行使してもよいが,取締役員選挙塵のみ   ほ.,取締役に.よって行使されるぺきでないと思われる。それで鱒,会社所有の他社株式紅  

(19)大隅健一・郎『仝訂会社法論中巻』77〜78ぺ−ジ「会社事業の運命匡最も重大な影響あ  

る会社の経営機関の選任をもっぱら出資者たる株主の意思によらしめるのは当然のこ   とであって,定款の規定をもってするも,その選任を取締役会その他の機関又は第三   

者紅委任することをえないのはもとより,選任決議の効力を第三者例えば親会社,労    働組合などの同意紅かからしめることもできないものと解すぺきである。」  

(20)このこ.とは,相互紀文配に影響ある株主となっている場合に,とくに強く要請され    る。大会社においては,相互に10大株主となっているかあるいは1%以上の株式所有   をしているならば,相互紅支配に影響ある株主と見てよかろう。   

(11)

第46巻 第4・5・6号   344   岬J2g−  

基づく取締役選挙権を行使するのほ誰か。/それは,会社の実質的所有者たる株主である0   株主が会社を通過して直接行使すべきである。  

三,解決紅ついての一・試案  

(21)  

1.法人の選挙権禁止   

巨大株式会社紅おける,所有と支配との−・致,あるいは,支配と責任(危険負担)との   一・致という,法原則を回復するために.は,どうすればよいか。私は次のようにすることを   提案する。すなわち,法人の選挙権ほ腰止され,その選挙権は法人を通過して,法人への   出資者である自然人が出資割合に応じてそれを直接行使する(本稿ではこのことをpass−  

(22) thIOughと呼ぶ)。法人ほ株式を売買すること,および,選挙権を除いて,所有株式に基  

づく諸権利を行使することは許される。   

・paSS・t山一Oughにイ宰う効果   

株式会社の他社株式所看に・伴う支配の経済化が不可能となる。少数株式の選挙権が生き   てくる。たとえばA,B,C3社があって,各々資本金100万円とする。自然人aほA社  

‡こ51万円出資し,A社朋牒社に51万円出資し,B社はC社に51万円出資しているものとす   る。paSS−throughの行なわれない場合には,aがA,B,C3社の選挙権の51%を支配   し,A,B,C3社を支配することとなろう。paSS・throughが行なわれると,aはB杜  

選挙権の26・0%(意×蕊×100),C社選挙権の13・3%ト蕊×蕊×蕊×100)を  

支配するにすぎないこととなろう。したがって,B社の少数株主も,C社の少数株主も協   力すれは,aよりより多数の選挙権(49%)を支配できることとなる。またB社の選挙に  おいてA社の少数株主とB社の少数株主が協力することや,C社の選挙においてC社,B  

(23)  

社,A社の少数株主が協力することが可能となる。  

(21)本稿に・おいては,取締役選挙における議決樅を選挙権と呼ぶ。  

(22)アメリカ合衆国紅おいて,法人の議決権が法人を通過し,法人への出資者がこの議    決権を出資割合に応じて墳接行使することを一般に・paSS・血・Ougbと呼ふ参照,平   

田伊和男「株式の相互保有と議決権」(香川大学経済論叢36巻5号)59〜61ぺ一−ジ,  

nOte,The votingof stockheldincrossownership,76Harv,L。Rev‖,pp.1651    et seq・)M・A・Eisenberg,Megasubsidiaries:Theeffectofcorporatestz・uCture    OnCOrpOrateCOr)trOl,84Harv・L・Rev,pp.1595etseq.。本稿では取締役選挙の議   

決権に限定してpass・tbr・Ou如を用いる。  

(23)A,B2社があって,各々資本金100万円とし,相互紅50万円ずつ出資し合ってい    るとする0 この場合,paSS−tbr■Ou如を行なえばどうなるか。A社の取締役選挙につ   

(12)

取締役員選挙に.ついての−・試案   ーJ2クー    345  

子会社取締役会が自立してくる。たとえば,先の例であれは,paSS−tbI・Ou帥を行なわ   ないときにほ.,C社取締役会はB社取締役会によって∴支配され,B社取締役会はA社歌緒   役会によって支配される。paSS−throughを行なうと,B社取締役会はA社取締役会と直   接関係なく選ばれる。C杜取締役会もB社取締役会と直接関係なく選ばれる。したがって   各子会社取締役会が親会社取締役会から自立してくる。そとで各取締役会はより自社の利   益にり忠実に.業務を執行することとなろう。自立の程度は,親会社の子会社株式所有が100  

%に.近づくに.つれて,弱くなるが,親子会社間における不公正取引の危険も,それにつれ  

(24)  

て,減少する。   

2.番面投票   

大部分の株主が取締役選挙権匿ついて代理行使を他人に委任せざるをえない理由は,彼   らに.とっては,株主総会への出席砿伴う損失がそれに伴う利益を上回るからであろう。も  

し彼やが何らの損失なくしで選挙権を行使しうるならば,彼らがその代理行使を他人紅委   任することほより少なくなるであろう。讃面投票が行なわれ,それに.要する費用が会社紅  

(25)  

よって負担されるなら,彼らは選挙樅をより多く自ら行使するであろう。   

3.株式会社取締役選挙管理委員会   

株式会社の取締役選挙において,paSS−thIOughと書面投票が行なわれるとすれば,選   挙の公正を保証する制度が必要となると思われる。このため,株式会社取締役選挙管理委   員会なるものをつくればよかろう。こゐ委員会の任務は株式会社の叙締役選挙を公正に行   うことである。すなわち,投票権者およびく投票枚数の確定,投票用紙の配布,投票の回   収,選挙結果紅ついての判定などがその主な任務となろう。   

香南投票および株式会社取締役選挙管理委員会によって−,取締役選挙がおこなわれると   すれば,1つの望ましい効果が生じる。株式会社の取締役選挙において,現経営陣が,挑   

いて考える。選挙樅の50%時B社紅入り,他の50%はB社を除くA社株主に入る。B    社人手の50%は.B祉の出資者へ出資割合に応じて振り分けられる。すなわち,A社に    2畠%入り,A社を除くB社株主に25%入る。A社に.入った25%はさら紅A社の出資者    に.振り分けられ B社に12.5%,B社を除くA社株主に・12.5%入る。以下この計界を    続けると,結果として,B社を除くA社株主匿合わせ■て,66.7%,A社を除くB社株   主紅33.3%となる。  

(24)Eisenberg,Op.Cit.,p.1617。  

(25)株主総会制に代えで啓面投票制を採用することに・ついては,多くの問題点がある。   

参騰,今井宏『議決権代理行使の勧誘」3ぺ−ジ以下。しかト,奴締役員琴挙に傾っ   で番面投票制を採用しても余り問題ほないと思われる.   

(13)

第46巻 第4・5・6号  

一Jβクー   346  

戦者側庭比べて,決定的紅優利なのは,委任状争いにさいし,会社金庫から出費できるこ   とである。その主な理由は,現経営陣は会社の政策問題についで情報およぴその意見を株   主紅知らせる義務があり,事実上,個人的な速挙問題と会社の政策問題とは区別できな   い,ということである。株式会社取締役選挙管理委員会が取締役選挙を管理するとすれ   ば,選挙情報のうら同委員会を通して流すもののみその費用を会社が負担することとなろ  

う。その外の選挙運動費用についてはすべて候補者が負担することとなろう。そうとすれ   ば,現経営陣と挑戦者とは.その立場においてかなり接近することとなろう。   

株式会社の取締役選挙が,株式会社取締役選挙管理委員会によって行なわれるとすれ   ば,この選挙への立候補は.恐らく誰でもできることとなろう。そうとすれば,この制度が   濫用される恐れがあるが,との恐れは,供託金御によって回避できるだろう。   

4.実行可能性   

アメリカ合衆国においてp左ss・伽Oughは理論的ではあるが実行困難であるとする意見  

(26)  

が卒る0そこでこれを実行可能なものとするため,その適用範囲を公衆の資本紅よる重要   な会社に限定することを提案する。すなわち,具体的には,上場会社および上場会社の支   配する重要な子会社(当該有価証券報告書提出会社に発行済株式総数の2分の1を超える   株式を所有されている会社で,前者の財政状態および経営成績庭藍要な影響をおよぼして   いるもの。募集・届出省令15条3項,通達写4−11)の取締役選挙に限ることとなろう。な   ぜなら閉鎖的な資本の株式会社紅おいてほ,所有と支配との∵致している場合が多く! 

pass・thIOughを適用したとしても得るところが少ないと考え.られる。また実行方法に,つ   いては,該■当会社の取締役選挙を一定時期に・いっせい紀行なうこととすれば,事務畳も費  

用もかなり軽減されることとなろう。  

むすび  

株式相互所有紅基づく経営者支配は所有権紅基づく支配である。がしかし,そこ紅おけ   る所有権は株式会社の株式所有権という極めて法技術的な所有権であり,法形式的な所有   権である。そこに・おける真の支配者は,・、株式会社という法技術のかかる特質(株式相互所  

(26)note,9P・Citn,ppl1652一宇は,paSS・throughが取締役選挙結果に影響ある場合    に・限り,子会社部外株主に・よって選出された株主保護垂員会た類するものが,部外株   

主紅帰属する議決権を行使することを,捷奏する。   

(14)

取締役員選挙についての一読案   −J3J−  

347  

有,したがって相互支配可能)を利用せる自然人である。それはすなわち経営者と呼ばれ   る人達であるが,彼らほ.この法技術の利用によって,何ら出資することなく,したがって   何ら費任(危険負担)を負ラ∈となく,事配する?・そこ㌧に・は,個人所有と個人支配との分   離が存在する。株式会社の他社株式所有は,−・般的にかかる効果を多かれ少なかれもつゆ  

え,それによる支配の経済化が可能となる。資本主義私法の法原則の1つは所有と支配と   の−傲である。株式会社をかかる法原則と調和させる匿はどのようにすればよいか。この   解決策として,paSS−tbI血gIl,蕃面投票,株式会社取締役選挙管理委員会を提案し,あわ   せて委任状争いにおける不公正を除去することを試みた。こ.れらの諸提案が実行されたと  

して■も,自然人株主が自己を組織しなければ何らの効果もあげえないだろう。彼らの選挙   権は,彼らにとって,組織化されて初めて価値をもつものであり,分散したままでは何ら   の価値も持たないdノーpass【th■Ougbほ自然人株主の親織化を勧誘する機能をもつ。開示の   強化も pass−thI・Ougbと糖びついて,自然Å株主め組織化を促進すると.ととなろう。   

凍稿ではノ資料不足のゆえpass■t山Ou如を実陰に適用してみることができなかった。  

また私の非力ゆえ,他の解決策との比較を試みると.ともなかった。本稿はその他の点で   も極めて未熟な試奏である。もし大方の批判を受けることができれば,望外の幸せであ   る。   

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