おける連携事例の分析を通じて―
著者 鞍馬 裕美
雑誌名 明治学院大学心理学紀要 = Meiji Gakuin
University bulletin of psychology
巻 25
ページ 21‑33
発行年 2015‑03‑31
その他のタイトル A Study of Collaboration among Nursery
Centers, Kindergarten Classes and Elementary Schools: A Case Analysis of Shinagawa Ward, Tokyo
URL http://hdl.handle.net/10723/2472
『心理学紀要』(明治学院大学)第 25 号 2015 年 21–33 頁
1.研究の目的と背景
本稿の目的は,保育所・幼稚園・小学校の連 携,すなわち保幼小連携の展開過程,現状,課 題について,東京都品川区の学校園における事 例分析を通じて明らかにすることにある。また 特に,保幼小の連携推進における管理職の役割 に焦点を当て,管理職へのインタビュー調査を 行うことを通じて,連携の現状と課題について 析出を試みる。
保幼小連携に関する研究は,これまでもさま ざまな蓄積がなされてきた。たとえば,酒井・
横井(2011)は,保幼小連携に関する原理的な 問いについて追究してきた。特に,「これまで の議論にはそもそも保幼小連携の『連携』とは 何かについてのしっかりした説明が弱い」と批 判したうえで,「連携とは相互に異なるセクショ ン同士が協力して何かに取り組むことを意味 し,接続とは下の学校種と上の学校種の間をつ ないで,円滑な移行を達成する試み」と述べ,
【原著】
保幼小連携推進に関する一考察
―東京都品川区における連携事例の分析を通じて―
要 約
本稿は,保育所・幼稚園・小学校の連携,すなわち保幼小連携がどのような形で展開され,また,どのような課題を 抱えているかについて,東京都品川区における事例分析を通じて明らかにすることを目的とした。
品川区では,2000(平成 12)年に『プラン 21』を策定して以降,学校選択制の導入をはじめとする大胆な教育改革 を行ってきた。そうした中で保幼小連携は,モデル実施された 2007 年の保幼小交流事業および翌 2008 年の『のびのび 育つ しながわっこ』の公表等を契機として進められてきたと捉えられる。管理職に対するインタビュー調査からは,
連携の歴史が長い幼稚園よりも,小学校と保育所の連携における困難性が認められた。また,連携に対する時間と場所 の調整,教職員の理解と役割分担,研修機会の確保といった点において課題が残ることが明らかになった。
キーワード:保幼小連携,品川区,管理職,リーダーシップ
鞍 馬 裕 美
(明治学院大学心理学部)連携と接続を峻別した。加えて,幼児教育と小 学校教育の連携を「幼児教育と小学校教育の接 続を達成するために,保育所・幼稚園と小学校 が相互に協力すること」,一方で幼児教育と小 学校教育の接続を「幼児教育(保育所・幼稚園)
と小学校教育とをつなぎ,円滑な移行を達成す ること」と定義づけ,「保幼小連携とは,保育所・
幼稚園と小学校との連携により,その間のなめ らかな接続(=アーティキュレーション)を達 成することで,幼児教育と小学校教育双方の質 の向上を図ること」「言い換えれば,これが保 幼小連携の目的である」と言及した。一方,秋 田他(2002)や神長(2009)のように,保幼小 連携の具体的な実践事例に関する研究も多数蓄 積され,文部科学省と厚生労働省の共同によっ て『保育所や幼稚園等と小学校における連携事 例集』(2009)も公表されるなど,地域の実情 に応じた連携の工夫等に関する研究も重ねられ てきた。またさらに,本稿で取り上げる品川区 の保幼小連携に関しても,秋田他(2013)が,
保幼小連携に係る区のモデル校園に指定された 第一日野グループ(品川区立の 2 保育園・1 幼 稚園・1 小学校のグループ。但し,幼保一体施 設が含まれるため,2 園 1 校グループととらえ ることも可能)を事例として研究を進め,教職 員へのインタビューや実践記録に基づいて,連 携のプロセスや活動内容,成果について詳述し てきた。
しかしながら,先行研究では,特別な研究指 定を受けた連携事例について取り上げたものが 多く,また,保幼小連携推進における管理職の 役割や葛藤を中心に扱ったものは極めて少な い。加えて,小中一貫教育の推進や学校選択制 の導入といった品川区独自の大きな教育改革と の関連において保幼小連携を検討してきた研究 も皆無に等しい。以上のような状況から,本稿 では,保幼小連携において先駆的な試みを展開 してきた品川区に焦点を当てつつも,研究指定 等を受けていない,いわゆる一般的な学校園に おける保幼小連携について,学校園側からの一 次資料および管理職へのインタビューにより連 携の現状と課題を明らかにし,考察を加えてい くこととした。
2.保幼小連携をめぐる政策的展開と 基本枠組み
(1)保幼小連携の政策的展開
今日,保幼小連携が推進され,全国各地でそ の実践が模索されるに至ったのは,2005 年 1 月に中央教育審議会(以下,中教審とする)が
「子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後 の幼児教育の在り方について」と題する答申を 公表し,その第 2 章第 1 節「2 発達や学びの 連続性を踏まえた幼児教育の充実」において
「(1)小学校教育との連携・接続の強化・改善」
を記したことが発端とされる。この中教審答申 を受けて 2008 年 3 月には,保育所保育指針,
幼稚園教育要領,小学校学習指導要領が改訂さ れ,そこにおいて保幼小連携の必要性が謳われ た。またさらに,2010 年 3 月には文部科学省(以
下,文科省とする)が「幼児期の教育と小学校 教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協 力者会議」を設置し,同年 11 月に報告書を公 表するに至る。報告書は,ほとんどの地方公共 団体が幼児期の教育と小学校教育の接続の重要 性を認識しているにもかかわらず,都道府県の 77%,市町村の 80% で幼小接続の取組が未実 施のままであると指摘した。そして,①幼児期 の教育と小学校教育の関係を「連続性・一貫性」
で捉える考え方,②幼児期と児童期の教育活動 をつながりで捉える工夫,③幼小接続の取組を 進めるための方策(連携・接続の体制づくり等)
等について言及した。
そもそも,保幼小連携という新たな政策が打 ち出されてきた社会的背景には,第一に,家庭 や子育て環境の変化,第二に,「小 1 プロブレム」
の露呈など,幼児教育と小学校教育の接続の必 要性認識の高揚,第三に,幼児教育の位置づけ の変化があった。
特に「小 1 プロブレム」の原因としては,家 庭や地域の教育力が低下して社会性や規範意識 を育む機会が減ったこと,若手教員が増えて指 導力の不足がみられること,特別な支援を必要 とする子どもへの配慮と配慮の多様化が求めら れていること,以上のようなことが,しばしば 指摘されており,一方で,保育所・幼稚園と小 学校教育の違いに関する戸惑いが保育所・幼稚 園関係者および小学校関係者双方から見られ た。たとえば「保育園・幼稚園の活動は,あま りに子どもの主体性に委ねすぎていて,教える べきことを教えていないのではないか」といっ た小学校関係者の戸惑いと,「発達段階の差が 大きく一人一人の実態が異なる園児を丁寧に育 て,年長児としてのリーダー性も養ってきたの に,小学校の指導はそうしたことを生かしてく れない」といった保育所および幼稚園関係者の 戸惑いの存在である。しかしこうした状況等に 対しては,個別の問題として対応していくこと ではなく,組織として,あるいは社会全体で取 り組んでいくべき課題と認識されるようにな り,保幼小連携の大きな波がつくられてきたと
捉えられる。
また,幼児教育の位置づけに関しては,2006 年 12 月に改正された教育基本法において,「幼 児期の教育」(第 11 条)が新設されるなど,大 きな変化があった。そこでは,幼児期の教育が
「生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なも のであること」,「国及び地方公共団体は,幼児 の健やかな成長に資する良好な環境の整備その 他適当な方法によって,その振興に努めなけれ ばならない」と規定された。そして,今後の幼 児教育の方向性については,2005 年の中教審 答申で,「家庭・地域社会・幼稚園等施設の三 者による総合的な幼児教育の推進」「幼児の生 活の連続性及び発達や学びの連続性を踏まえた 幼児教育の充実」が示され,幼稚園における預 かり保育の実施や 3 歳未満児への対応とその親 への支援(親子登園,子育て相談などの「親育
ち」の支援)等の実施が示唆されるなど,幼稚 園をはじめとする幼児教育施設の機能の拡充が 目指されてきたといえる。
(2)保幼小連携の基本枠組み
保幼小連携といっても,連携の範囲や具体的 な取り組みの状況は千差万別である。しかし,
中教審初等中等教育分科会幼児教育部会(2004)
のまとめによると,研究開発学校の事例の傾向 として,まず幼児・児童の交流からはじまり,
次に教職員同士の研修やティーム・ティーチン グ,人事交流が行われ,そして最後に教育課程 が編成されるという流れがあるという。また,
日本保育協会(2013)は,①教育委員会・校園 長,②保育所・幼稚園,③小学校に分けて,表 1のような 4 つの段階があるとしている。その
「第 4 段階」は,全市的な連携・接続段階に相
表 1:保幼小連携段階表
段階名 教育委員会・校園長 保育所・幼稚園 小学校
第一段階
初めの一歩段階 ・保幼小連携の啓発
・研修会の実施
(教務主任研修会・学年主 任研修会・研究主任研修会・
初任者研修会等の中に入れ
・先進研究校の指定込み)
・校園長同士の交流・挨拶
・近隣保育所・幼稚園・小学 校の確認
・小学校への散歩 校庭利用・トイレの借用
・校内めぐり
・近隣保育所・幼稚園の確認
・保育所・幼稚園の学校利用
・授業公開案内の配布を促進
第二段階 交流段階 ・保幼小連携研修会の実施 (各校教務主任等の参加)
・保幼小連絡協議会の実施
・保幼小授業参観の実施
・校園長相互訪問・教員への 紹介
・小学校生活科(1 年生・2 年生)授業への参加
・小学校行事への参加
・行事の交流活動
運動会・学芸会・展覧会等
・園児を生活科(1 年生・2 年生)授業へ招待 招待から連携授業へ
・小学校行事への招待
・相互交流活動へ
第三段階
・互恵性を求めた連携段 階
・接続カリキュラム実施 段階
・保幼小連絡協議会の実施
・保幼連絡会の実施
・保幼小連携カリキュラム作
・教育課程への記入指導成委員会
・接続期のカリキュラム作成
・実施の準備・指導
・連携活動の実施 年少から年長
・教員間の事前打ち合わせ
・指導案の作成
・小学校教員との連携指導
・入学準備カリキュラムの実 施
・連携授業の実施
1年生から6年生・各教科 領域・保幼教員との事前打ち合わ
・指導案の作成せ
・幼保教員との連携指導
・スタートカリキュラムの実 第四段階・発展 施
全市的な連携・接続
カリキュラム作成・実施 段階
・私立保幼への働きかけ
・公私保幼小連携・接続カリ キュラムの作成および実施
・保幼小の人事交流
・全市的な保幼小連携
・接続カリキュラムの作成・
実施
・カリキュラム評価・改善
・全市的な保幼小連携
・接続カリキュラムの作成・
実施
・カリキュラム評価・改善
出典:日本保育協会(2013)『保小連携に関する調査研究報告書―保小の連携から家庭・地域社会との連携へ―』8 頁。
当し,さらには,カリキュラムの作成と実施段 階に相当する。そこには,私立保幼への働きか けや保幼小の人事交流,カリキュラムの評価と 改善が含まれているのが特徴である。
3.東京都品川区における教育改革と 保幼小連携
(1)品川区における教育改革の推進とその経緯 東京都の品川区は,1999 年に若月秀夫氏が 教育長に就任以来(教育長在職期間は 1999 年 6 月~ 2013 年 3 月。現在の教育長は中島豊氏),
大胆な教育改革を進めて注目を集めてきた自治 体である。2000 年には,品川区の教育改革「プ ラン 21」が策定され,改革の骨子と方策が示 されるに至る。
「プラン 21」が示す品川区の教育改革のねら いは,まず,教師の意識改革と学校教育の体質 改善にあった(若月・2008)。そのため,学校 選択制や学力定着度調査,外部評価制度および 区固有教員の採用を導入し,小中一貫教育を実 施する施策がとられてきた。小中一貫教育は,
9 年間を見通した教育課程として 4 - 3 - 2 の 区切りによる教育課程が想定され,品川区小中 一貫教育要領が作成されたほかに,品川区独自 の教科書および副教科書等の作成・使用が進め られた。また,品川区独自の学習として,「市 民科」や「ステップアップ学習」,習熟度別学習,
小学校 1 年生からの「英語」が取り入れられて きた。
つまり品川区の教育改革は,学校を「現状維 持的,事なかれ主義的体質」から脱却させて「選 ばれる学校」へと転換すること,そのために学 校を公開し,開かれた学校経営を実現していく ことにあった。また,「そうせざるを得ないシ ステムが教師を変える」と若月氏が述べるよう に,学校管理職および教師の意識改革とリー ダーシップの発揮を期待して展開されてきたも のだといえる。
(2)品川区における保幼小連携の推進とその経 緯
品川区の教育改革は,以上のような特徴をも ち,現在までに大きな影響力をもって継続・定 着してきているが,こうした改革の推進の中に あって,品川区における保幼小連携はどのよう な形で進められてきたのか。
まず,品川区における保育・教育事業の経緯 についてまとめると,およそ表 2のようになる。
表 2 に示す通り,品川区で本格的に保幼小連携 がスタートしたのは 2007(平成 19)年の保幼 小交流授業の開始からと考えられるが,その前 後に大きな改革を行ってきたことがわかる。
2005 年には公立保育所・幼稚園の窓口の一 本化を図り,2006 年には,小中一貫教育が始 動する。同年に公立の全幼稚園で預かり保育を 開始し,「就学前の一貫した保育・教育をめざ したプログラム」の研究およびパンフレットの 作成に着手している。そして,2007 年に公立 の全保育所・幼稚園・児童センターをチャイル ドステーションとして位置づけ,保幼小連携に 係る交流事業を開始した。また,2008 年には『の びのび育つ しながわっこ』を策定・公表し,
2010 年には保幼小ジョイント期カリキュラム
『しっかり学ぶしながわっこ』を策定・公表し た。そして 2011 年には『のびのび育つ しな がわっこ』の改訂版を策定・公表して今日に至 る。
こうした改革の前後には,「認定こども園」
法の成立や,教育基本法をはじめとする各種の 法改正があった。幼児教育の目的や役割の明確 化,就学前教育・保育施設の役割等の拡充強化 が国の施策としても展開されてきたわけだが,
品川区では,こうした国の保育・教育制度改革 の流れに呼応し,また,それを先んじる形で実 質的な改革を推進してきたと考えられる。
(3)品川区における保幼小連携の特徴
品川区が国の保育・教育制度改革に呼応しつ つも,実質的に先んじて改革を進めてきたとい えるのは,保幼小連携カリキュラムの策定とそ
表 2:国の保育・教育制度と品川区における保育・教育事業の経緯
年 国の保育・教育制度 品川区の保育・教育主要事業
2000 年
(H12)
認可保育園・幼稚園設置者規則緩和
保育所保育指針改定 教育改革「プラン 21」策定
小学校 学校選択制開始 休日保育開始(2 園)
病後児保育開始(2 園)
私立保育園預かり保育モデル事業実施(きんだぁくら ぶ)実施
2001 年
(H13)
幼児教育振興プログラム策定
「仕事と子育ての両立支援策の方針について」閣議決定 中学校 学校選択制開始
「すまいるスクール」(学童保育に相当)開設 2002 年
(H14)
児童福祉法一部改正(認可外保育所 届出制の導入) 認証保育所設置
幼保一体施設開設(1園)
ファミリーサポートセンター開設
2003 年
(H15)
児童福祉法一部改正
子育て支援事業の実施・地域における子育て支援の強 化
次世代育成支援対策推進法成立
「スチューデントシティ」開設
2004 年
(H16)
公立保育所運営費一般財源化 生活支援型一時保育「オアシスルーム」開始(5園)
病児保育開始
就学前乳幼児教育施設開設(1園)
2005 年
(H17)
厚生労働省・文部科学省総合施設モデル事業(全国 35 園)
中央教育審議会答申「子どもを取り巻く環境の変化を 踏まえた今後の幼児教育の在り方について」公表
国の総合施設モデル事業指定(1園)
在宅育児支援として「ポップコーン」開設(1園)
公私立保育園・幼稚園の窓口一本化 全自動に防犯ブザー(まるもっち)配布
2006 年
(H18)
「認定こども園」法成立
教育基本法改正(幼児教育を「人格形成の基礎」と明示)
品川区小中一貫教育開始 幼保一体施設開設(1園)
公立の全幼稚園で預かり保育開始
「就学前の一貫した保育・教育をめざしたプログラム」
の研究およびパンフレットの作成
2007 年
(H19)
学校教育法改正(学校種の中に幼稚園を最初に規定。
幼児教育を「義務教育及びその後の教育の基礎を培 うもの」と明示)
認定こども園開設(3園)
公立の全保育園・幼稚園・児童センターがチャイルド ステーションに
保幼小の交流事業開始 2008 年
(H20) 『のびのび育つ しながわっこ』策定
2009 年
(H21)
幼稚園教育要領改訂 保育所保育指針改定
「明日の安心と成長のための緊急経済対策」閣議決定
2010 年
(H22)
「子ども・子育てビジョン」閣議決定
「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」を少 子化社会対策会議決定
文科省が「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の 在り方に関する調査研究協力者会議」設置。同年 11 月に報告書を公表。
幼保一体施設開設(1園)
~保幼小ジョイント期カリキュラム~『しっかり学ぶ しながわっこ』策定
2011 年
(H23) 幼保一体施設開設(1園)
『改訂 のびのび育つ しながわっこ』策定
出典:品川区子ども未来事業部保育課編(2011)『保育園・幼稚園と小学校をつなぐ乳幼児教育 改訂 のびのび育つ しながわっ こ』品川区子ども未来事業部保育課,118 頁に基づいて一部加筆修正のうえ作成。
れに基づく保育・教育活動の実施によるところ が大きい。文部科学省・厚生労働省(2009)の
『保育所や幼稚園等と小学校における連携事例 集』においても,品川区のカリキュラムが一部 紹介されている。
『のびのび育つ しながわっこ』(2008 年初 版・2011 年改訂)は,品川区保育計画と保育 所保育指針,幼稚園教育要領を基本にしながら,
保育・教育内容を月齢または年齢ごとにまとめ た,品川区の「保育・教育課程」にあたる。「『の みのび育つ しながわっこ』を作成するにあ たって」と題する第 1 章には,「なぜ就学前教 育の充実なのか」が明記されている。そこでは,
子どもの育ちの変化や品川区の乳幼児教育の現 状が記されている。つまり,新しい保育ニーズ への対応の必要,0 歳児から就学までの子ども の保育・教育を一貫してとらえるという乳幼児 教育の位置づけの必要,小学校への滑らかな接 続の必要,以上が記されており,保幼小の教職 員のみならず,児童センターの職員や放課後の 子どもを支える「すまいるスクール」(「全児童 放課後等対策事業」を指す。区内すべての小学 校に設置)の職員,保護者も含めて,子育て支 援にかかわるすべての人による活用を促してい るのが特徴である。
また,保育所・幼稚園と小学校の保育・教育 活動の連携の強化や滑らかな接続を目指して,
5 歳児の 10 月から小学校 1 年生 1 学期までを
「ジョイント期」として位置づけ,「ジョイント 期」における指導のポイントや実践事例等をま とめた『~保幼小ジョイント期カリキュラム~
しっかり学ぶしながわっこ』(2010)を作成し,
活用してきた。そこでは,「ジョイント期」に おいて育てたい力として,「生活する力」(環境 の変化に適応する力,身辺自立や生活習慣等に 関する力),「かかわる力」(様々な人とかかわ りあいながら自己を発揮し,共に生活を創り出 す力),「学ぶ力」(小学校以降の学習の基礎と なる興味・関心や意欲,能力等)の 3 つを提示 し,保育所・幼稚園では小学校生活へつながる 保育・教育活動を,小学校では保育園・幼稚園
での経験をいかした指導の工夫を求めているの が特徴である。
一方,『改訂 のびのび育つ しながわっこ』
(2011・9 頁)においては,保幼小の連携・接 続に含まれるものとして,「内容の共有」「生活 の共有」「保育者と小学校の教員の連携」と明 示されている。内容の共有は,幼児期から学童 期への内容の連続性のみならず,保育所と幼稚 園による年長期の指導内容の共有を指す。生活 の共有は,休み時間の設定や指定された座席へ の着席など,園と学校との生活環境の変化を少 なくする配慮を意味する。また,保幼小の合同 研修,学校公開,連絡協議会,就学支援シート などを通じて,保育者と小学校教員との連絡を 密につなげる事業展開が含まれる。
4.品川区立 A 保育園・A 幼稚園・
A 小学校における保幼小連携
(1)事例とする学校園(A グループ)の概要 品川区の保幼小連携の方針等の概要は「3」
で記した通りであるが,具体的に各学校園にお ける連携がどのように展開され,また,どのよ うな課題を有しているのか,本稿では,品川区 立 A 保育園・A 幼稚園・A 小学校,以上,公 立 2 園 1 校で構成される連携グループ(以下,
A グループとする)を事例として取り上げ,
明らかにしていく。事例の分析にあたっては,
A グループの各学校園に対する訪問を重ねて 保育・教育の様子を実際に観察し,一次資料等 を入手するとともに,管理職(A 保育園長・A 幼稚園長・A 小学校長)に対して,2014 年 11 月から 12 月にかけて非構造化インタビューを 実施した。インタビューの内容は,保幼小それ ぞれ多少のアレンジがあるが,基本的に次のよ うな内容を尋ねる形とし,各々 1 時間半程度 行った。
①ご自身のご経歴等(教員歴・管理職歴・行政 経験および品川での教育歴,本園(本校)に おける勤務年数等)
②(平成 12 年)教育改革「プラン 21」策定に
ついて(保・幼・小,それぞれに対してどの ような影響等があったか)
③(平成 17 年)公私立保育園・幼稚園の窓口 一本化について(どのような影響がみられた か)
④(平成 18 年)「小中一貫教育」の開始につい て(保・幼に対して,どのような影響がみら れたか。また,小学校に対するインパクトと は)
⑤(平成 19 年)「保幼小の交流事業」の開始に ついて
⑥前任の管理職からの引き継ぎの状況と自身が 改善した点などについて
⑦保幼小の合同研修,学校公開,連絡協議会,
就学支援シートなどを通じた連絡の受け渡し の状況について
⑧管理職として教員に伝えている連携上の方針 や,大切にしている観点等について
⑨さまざまな教員がいる,あるいは教員の異動 があるなかで,どのように連携の輪を広げて きたか
⑩保幼小連携をめぐる校長・園長研修について
(区の研修を中心とした内容)
⑪保幼小連携をめぐる教員研修について(区の 研修を中心とした内容)
⑫私立幼稚園や私立保育園等との交流および連 携について(管理職同士の交流および連携も
含む)
⑬地域の「チャイルドステーション」としての 現状について
⑭保幼小連携推進において,現時点で困ってい ることなど
⑮保幼小連携推進における現時点での課題につ いて
品川区の保幼小連携は,38 の区立小学校に 対して 71 の園(内訳は公立保育所 41,公立幼 稚園 9,私立保育所 6,私立幼稚園 15)が関与 する形で実施されている(平成 23 年度)。本稿 で A グループの連携を事例として取り上げる 理由は,第一に,公立の学校園が 1:1:1 で関 わる形態であること,また第二に,保幼小連携 に係る研究指定などを受けていない一般的な学 校園における連携であること,第三に,A 小 学校が,現在,小中一貫教育を実施する隣の B 中学校と 3 年間の研究指定を受けて小中一貫教 育のカリキュラムマネジメント研究を進めてお り,小中一貫教育が進められる中での保幼小連 携の位置づけについても分析が可能であると考 えたこと,主に以上がある。
表 3は,A グループの概要と管理職の経歴 等を示したものである。
A グループはそれぞれ非常に近い距離に位 置しており,幼稚園と小学校に至っては,隣り
表 3:平成 26 年度 A グループの概要および管理職経歴
A グループ 品川区立 A 保育園 品川区立 A 幼稚園 品川区立 A 小学校 校園長 女性(A 園勤務 3 年目) 女性(A 園勤務 2 年目) 男性(A 小勤務 3 年目)
校園長の経歴
保育士歴 39 年。品川区では 37 年 勤務(2 年間は神奈川で勤務)。園 長歴10年目。A保育園に着任前は,
A 保育園から徒歩 10 分程度の B 保育園にて園長として 7 年勤務。
教職歴 22 年。そのうち,副園長 歴 3 年,園長歴は 2 年。すべて品 川区での勤務。『のびのび育つ しながわっこ』改訂推進委員会メ ンバーの一人。
教職歴 33 年。そのうち,副校長 4 年,校長 3 年。品川区での勤務 は 20 年目に。A 小学校に着任前 は A 小学校の隣にある B 小学校 で副校長として勤務。
園児・児童数 100 名 52 名(学級数 2) 396 名(学級数 13)
職員数 33 名(うち正規 21 名) 10 名(うち正規4名) 24 名(うち正規 23 名)
特色
・0 ~ 5 歳児対象。
・A 小学校から徒歩約 6 分。 ・4・5 歳児対象。
・A 小学校の体育館・プール横に 隣接。
・徒歩約 4 分の A 中学校と小中 一貫教育(施設分離型)を実施。
カリキュラムマネジメントモデ ル校。
(平成 26 年 4 月現在。職員数は,校園長,看護師等専門職,非常勤職を含む職員の総数)
出典:A グループの学校要覧および管理職のインタビュー内容等にもとづき,筆者が作成。
合う形である。現在の管理職は 3 人とも品川区 での勤務歴が長く,現在の学校園に着任して 2
- 3 年目に相当する。また,後述するように,
区内の他校での勤務経験や人脈を生かした学校 経営に尽力している状況も見て取れる。
(2)A グループにおける保幼小連携の内容 A グループにおける保幼小連携は,毎年,
年間計画が策定された上で実施されている。そ の内容をまとめたものが表 4である。
連携活動の目標には,「5 歳児が学校環境に 慣れ親しみ,小学校に対する肯定的なイメージ と憧れをもち,期待をもって就学することを目 指す」(保幼),「自分より小さい子との触れ合 いを通して,思いやりの気持ちをもつ」(小)
などが掲げられ,基本的に保幼の 5 歳児クラス と小学校 5 年生のクラスの交流が年間を通じて 計画されている。5 年生と年長児の交流は,品 川区では一般的な形態である。その背景には,
年長児が小学校入学後に交流を深めた 5 年生が 6 年生として受け入れてくれるため,円滑な移
行を手助けするものと考えられていることがあ る。A グループの場合,2014(平成 26)年度 の連携では,保育園の 5 歳児との交流は 5 年 1 組,幼稚園の 5 歳児との交流は 5 年 2 組と担当 を決めて実施しているという。
活動に関しては,はじめは学校探検や教室の 使い方など,学校に慣れることを目的とした内 容で構成され,その後,グループでの交流やプー ル交流,給食交流が続く。また,秋以降は運動 会や学芸会に向けた取り組みや授業体験が増 え,放課後の子どもの生活と学習を支援する「す まいるスクール」の見学も加わる。
一方,職員間の交流・連携については,①研 究授業や研究保育の参観,②学校園公開時の参 観,③合同指導案の作成(互いの意図,ねらい を明確にした上で指導する。無理なく作成でき る形式を検討)している。インタビューからは,
保幼小の教職員が学校園公開時や研究授業等の 機会を活用して,互いの指導や保育の様子,さ らには子どもの実態を知る機会の創出に努めて いる様子が示された。
表 4:2014(平成 26)年度 A グループ連携計画
月 対象 交流内容
4 保 学校探検。小学校,教室の使い方。
5 保 小学校,教室の使い方。体験授業(体育)。2年生との交流(花植え活動)。
6 保幼
幼 学校公開(教職員による授業見学)。
グループ交流・自己紹介・ゲーム(5年生)。プール交流(5年生)。
7 保幼
幼 プール体験・交流(5年生)。
プール交流(5年生)。
8 保 プール体験。
9 保幼
保幼
交流給食(5年生)。
運動会見学
運動会への取り組み(2~3回)(5年生)
10 保幼 学校公開(教職員による授業見学)。
11 保幼
保幼保幼
学芸会に向けた練習・学芸会への参加(複数回)(全学年・全年齢児)。
交流給食(5年生)。
すまいるスクール(学童保育)訪問。
12 保
保幼 体験授業(体育)。5年生との交流(読み聞かせ)。
すまいるスクール訪問。
1 保
保幼幼
体験授業(図工)。
昔遊び(1年生)。
すまいるスクール訪問。
2 保幼
保幼幼
公開授業見学(教職員)。すまいるスクール訪問。
交流給食(5年生)。
授業体験(1年生)。
3 保
保幼幼
体験授業(国語)。
授業体験・鉛筆の持ち方(5年生)。
すまいるスクール訪問。
出典:A 保育園「平成 26 年度 スクール・ステイ事業年間計画」ならびに A 幼稚園「平成 26 年度 ティーム A 幼小連携活動計画案」
を参照し、筆者が作成。
また,保育園については「スクール・ステイ」
事業の報告書を毎月 10 日締め切りで教育委員 会に提出しているのが特徴である。報告書の フォーマットは,①日時,②活動名,③ねらい,
④場所・活動内容,⑤参加園児数,⑥参加児童 数,⑦教職員数,⑧まとめ等を記すようになっ ている。
(3)連携の構造および現状
A グループでは保幼小連携の担当主任等は 置かれておらず,連携の年間計画の策定と実施 にあたっては,主として管理職(小学校および 保育園の場合は副校長と副園長も含む)と,5 歳児および 5 年生の担任教師が主導していく形 がとられている。2014(平成 26)年度は 5 年 1 組が幼稚園,5 年 2 組が保育園というように,
交流対象を明確にする配慮がとられた。管理職 のインタビューからは,対象が明確になったこ とで,担当する教職員の交流が深まり,連携内 容の質が高まったとの評価が見られた一方で,
「もっと色々な先生と関わると,『こういう授業 をされる先生なんだな』ということもわかって くるし,色々な先生や保育士がいて刺激を受け 合うとありがたいので,固定はしなくてもいい のかなというのが率直な思いです。」(A 保育 園長)との意見も見られた。
校内(園内)研修に関しては,研究指定校で はないため,保幼小連携に関連したテーマが設 定されて協議会が設定されたり,校内(園内)
研修が行われたりすることはなく,それぞれの 学校園が独自に研修テーマや研究主任等を設定 し,校内(園内)研修を進めている状況にある。
一方,A 小学校は,近隣の B 中学校と小中一 貫教育を行っており,さらに 2014 年度までの 3 年間は,区の指定を受けてカリキュラムマネ ジメントに関する研究を合同で進めてきた。そ してその中心となるテーマが「生徒指導の機能 を生かした学習指導」であった。A 小学校の 校長からは,「(生徒指導の機能を生かした学習 指導は)小中のことなので,保幼のことについ てどうのこうのというのを正直言って考えてい
るような状況ではなかった」との言葉があり,
職員を挙げて実施してきた合同研修・研究を,
中学校のみならず保幼とまで展開するには困難 な状況があったことが認められた。しかし,イ ンタビューでは,次のような内容も示された。
「(小中の合同研究・研修のテーマは)生徒指 導というのがメインだったので,保幼小連携に 繋がってくる話ですね。授業規律や,あるいは 教員が子どもたちを受容して,ちゃんと話を聞 いて心を安定させないと学力も上がらないよと いうような研究なので,そういう所の教員の接 し方とか授業の持っていき方とか,そういうマ ネジメントをきちっとやらないと,結局心も安 定しない。学力向上学力向上って言って,色ん な勉強をさせても,現に上がらなかったわけで す,学力テストが。それで,それはなぜかと言っ たら,学力だけではなくて,子どもへの接し方 とか,そういう所が十分ではなかったという心 の問題だった。…要は小学校だけ見ていてもだ めで,もっと就学前の所,就学前教育が今いか に大事かっていう辺りは全てここにかかってき ているのかなって。」
A 小学校長のインタビュー内容からは,小 中で合同研究・研修を実質的に進めれば進める ほど,保幼小連携の必要を感じざるを得なかっ た,そして,それを反映させる形で小中との研 究を進めることが結果的にできなかったという ジレンマを看取できる。
一方,A グループの連携の歴史に関しては,
A 幼稚園が A 小学校の隣にあることから,従 来より,幼小の交流がさかんに行われており,
A 保育園は区の施策が展開されて以降に,後 から両者に加わる形で連携が進められてきたと いう経緯があった。そしてこうした経緯ゆえに,
A 保育園と A 小学校の管理職のインタビュー からは,両者の間には未だ大きな隔たりがある ことを確認することができた。特に,両管理職 は,着任は同時期の 3 年前であったが,着任し てすぐの 1 年目は保小の間には連携はなかった かのような状態であったと振り返り,A 保育 園の園長は,徒歩 10 分程度の前任校 B 保育園
に隣接する B 小学校に幼児を連れて行って,
学校や教室の様子を園児に体験させ,給食交流 なども行っていたと話した。A 保育園の園長 の次の言葉に,当時の状況について確認するこ とができる。
「A 小学校は近くて一応連携校にはなってい ましたけれど,そういう関係がなかなか 1 年目 はできなかったので,じゃあ B 小学校に行か せてもらおうと。B 小学校はスクール・ステイ のお部屋があるんです。予算がついていました から。『子どもたちが来てもいいような楽しい 部屋にしたいね』とカーテンを付けてくれたり,
机も揃えてくれたりということで,いつでも遊 びに来ていいよというお部屋を作ってくれてい た。(B 小学校にとっては)B 保育園だけとの 連携だと,毎日教室を使うわけではないので空 いているし,『B 保育園が来ない日に使いに遊 びに来ればいいじゃないか』というふうに言っ てくれたので,『ありがとうございます』とい うことで,うちの子たちを B 小学校に何回か 連れて行っているんですね。そうした中で B 小学校にいくと,『ようこそ A 保育園の子ども たち!』というような立て看板が学校の入り口 に立っていて,それを見て担任が感激して帰っ てきたんです。『なんかすごく嬉しかった』って。
そういう思いもあったので,1 年目は何回かお 邪魔させていただいたんですけれど,2 年目か らは A 小学校の方も変わって来ているし,A 小学校の方できっちりやろうと。それで 2 年目 は A 小学校で教室を貸してもらったのかな。
でも今年(着任 3 年目)は小学校 1 年生が 3 ク ラスになって教室がないので,今は会議室です ね。1 年生の入学人数によって空き教室が出る とか出ないとか,毎年流動的なんですね。」
以上のように,A 保育園と A 小学校との間 には,2 年前まで連携が十分に機能していない 状況があった。教室不足や移動時間といった物 理的な問題を凌駕できない状況があった。そし てこうした状況を変えてきたのが,まさに,A 小学校長のリーダーシップであった。A 小学 校の校長は,着任前の状況と着任 1 年目の状況
を踏まえて,2 年目以降,A グループとしての 保幼小連携に本格的に着手する。校長は,これ までの反省を踏まえて,「保育園を手厚くする こと」,「いつでも空いている教室や体育館,施 設を使っていいとの言葉がけをすること」,「女 手が中心になるであろう保育園の先生方が,力 仕事で困っているときや,あるいは実際に困る であろう運動会などの行事の際には,必ず手伝 えるとの意思表示を行い,男性教員とともに対 応する」「数分といえども幼稚園よりは若干距 離があるため,それが心的な距離にならないよ う,できる限り足を運ぶ」といった実践を心が けてきたという。つまり,子ども同士の交流の 前に,日常的に,大人である教職員同士の交流 をフォーマル・インフォーマル両面で実施して いくことの大切さを力説した。
5.考察-今後の課題-
上記のように,A グループの事例は,管理 職の変化によって,それまでの状況が一変する 契機となっていったことが見て取れる。A グ ループでの事例を踏まえて,以下に,若干では あるが,保幼小連携に関する問題と今後の課題 について記していきたい。
まず第 1 の課題として挙げられるのは,保幼 小連携といっても 1 クラス対 1 クラスの構図と いう狭義の連携が活動の中心となっているとい う点である。A グループの事例に限らず,多 くの連携事例を見ても,「保幼小の連携」を指 す場合,連携する学校園のすべての子どもと教 職員が一緒に活動を行ったり,多くの学年・ク ラスの子どもたちと日常的に交流を重ねたりす る機会は,一部を除いては限定的にしか存在し ない。保小と幼小というタテの連携は一定程度 進んでも,保幼の連携など,ヨコの連携はない がしろにされてしまう面がある。また,「交流 対象の学年は問わない」「ほかの学年・クラス の先生方との交流を深めることや,全教職員が 保幼小連携に関わることが大切」といった意見 も聞かれ,A グループの管理職のインタビュー
からも,保幼小の全教職員が連携を通じて刺激 を受け合うことの大切さを指摘する意見も見ら れた。今後,こうした問題にどう対応していく か,保幼小連携の質に関わる大きな問題と考え られる。
第 2 に,教職員の資源配分のあり方に対する 課題がある。
昨今,「小 1 プロブレム」や学級の「荒れ」
といった問題が浮上しているが,複数の大人の 目が行き届いていた保育所・幼稚園時代とは異 なり,小学校では,複数の大人が常時教室に配 置されていることは稀であり,1 人の担任教師 が子どもへの配慮を行き届かせることもなかな か難しい環境にある。つまり,子どもにとって みれば,就学前のあり方と就学後のあり方では,
教職員の資源配分という観点において一貫性が 保たれていない状態が存在する。その意味で,
特に,小学校低学年の教職員の資源配分のあり 方を考慮する必要があると指摘できよう。
そして第 3 に,教職員構成や役割分担のあり 方の違いに由来する構造的な問題とその克服の 必要が挙げられる。このことは,第 1 の問題と も関連する。保幼の側からすると,園の規模や 教職員の雇用形態等が小学校とは明らかに異な る面があり,園長の役割が極めて大きい。つま り,保幼の場合,1 人の担任がすべてを行うと いうよりは,担任が複数の職員と協働で保育・
教育活動を展開し,その総括を園長が行ってい ることが明白である。しかし,小学校では担任 の存在が極めて大きく,独立性も高い。さらに その担任は年度ごとに変わり,他区からの人事 異動も頻繁に行われるため,前年度までの保幼 小連携の積み重ねの継承や課題の共有を図りに くい。一方で保幼の教職員にとっては,4 歳児 か 5 歳児かといった中でのみ受け持つクラスが 変わるため,簡単にいえば,1・2 年のスパン で保幼小連携の当事者となる現状がある。保育 所に限ってみれば,すべて区の採用による職員 で構成されているため,品川区内の保幼小連携 の歴史や実情を知らないという者は基本的に少 ないという状況も加わる。頻繁な人事異動や校
内分掌の変化,校内での役割の細分化が進んで いる小学校の教職員と,小学校に比べて規模が 小さく,女性職員が大多数を占めるなど,均質 的な職員構成を有する保幼の関係者が,同じ土 俵に上って連携を推進していくには困難がつき まとう。そこでは,管理職,特に小学校の管理 職のリーダーシップが重要となるであろう。
最後に,研修機会の乏しさと共同研究の設定 の難しさといった問題を指摘できる。従来より,
園長については行政による研修機会の乏しさに 対する言及がなされてきた(たとえば,小林他・
2002)が,今回のインタビューでは,保幼小連 携に特化した研修は,区をはじめとする行政研 修でも,また,校内研修においても,管理職・
教職員ともにほとんど行われていないことが明 らかになった。幼稚園の園長からは,園長も担 任教師も区の保育・教育改革事業に関与してき た経験が,そのまま研修のような機能を果たし,
保幼小連携に対する理解を深めてきたとの話が あった。しかし,行政側による計画的な研修計 画の立案と実施は,保幼小連携を推進するうえ で必要不可欠である。他の学校園における連携 の成果と課題を検証して,自らの実践を省察す る機会も必要とされる。
以上のような状況を踏まえた場合,品川区の 保幼小連携の段階は,表 1 でいうところの第 4 段階までには至っていないといえるだろう。今 後はまさに,保幼小連携がカリキュラムの評 価・改善の段階に進み,また,私立の保幼を含 んだ全区的な展開がなされていくことが求めら れる。さらに,時間の確保やスペースの問題と いった課題を克服する理念と実行力も教育委員 会と学校園関係者それぞれに課せられていると 考えられる。
引用参考文献
○秋田喜代美・第一日野グループ(2013)『保 幼小連携 育ちあうコミュニティづくりの挑 戦』ぎょうせい
○秋田喜代美・東京都中央区立有馬幼稚園小学
校(2002)『幼小連携のカリキュラムづくり と実践事例―子どもが出会う教師がつなげる 幼小連携 3 年の成果』小学館
○小川正人・品川区教育政策研究会(2009)『検 証 教育改革―品川区の学校選択制・学校評 価・学力定着度調査・小中一貫教育・市民 科』教育出版
○神長美津子(2009)『はじめよう幼稚園・保 育所「小学校との連携」―実践事例集』フレー ベル館
○小林育子・民秋言編(2012)『園長の責務と 専門性の研究―保育所保育指針の求めるも の―』萌文書林
○酒井朗・横井紘子(2011)『保幼小連携の原 理と実践 : 移行期の子どもへの支援(双書 新しい保育の創造)』ミネルヴァ書房
○佐貫 浩(2010)『品川の学校で何が起こっ ているのか』花伝社
○品川区教育委員会「品川の教育改革『プラン 21』」
http://www.city.shinagawa.tokyo.jp/hp/
menu000006200/hpg000006152.htm
○品川区教育委員会事務局指導課・品川区子ど も未来事業部保育課編(2010)『~保幼小ジョ イント期カリキュラム~ しっかり学ぶ し ながわっこ』品川区教育委員会事務局指導 課・品川区子ども未来事業部保育課
○品川区子ども未来事業部保育課編(2011)『保 育園・幼稚園と小学校をつなぐ乳幼児教育 改訂 のびのび育つ しながわっこ』品川区 子ども未来事業部保育課
○品川の保育を考える会・佐貫浩(2014)『保 育園でいま何が起こっているのか 品川版
〈保育改革〉・待機児対策の現実』花伝社
○中央教育審議会初等中等教育分科会幼児教育 部会会(2004)「第 14 回議事録・配布資料 幼児教育と小学校教育との連携・接続につい て」
○文部科学省・厚生労働省(2009)『保育所や 幼稚園等と小学校における連携事例集』平成 21 年 3 月
○日本保育協会(2013)『保小連携に関する調 査研究報告書―保小の連携から家庭・地域社 会との連携へ―』
○若月秀夫編(2008)『学校大改革 品川の挑戦』
学事出版
A Study of Collaboration among Nursery Centers, Kindergarten Classes and Elementary Schools :
A Case Analysis of Shinagawa Ward, Tokyo
YumiKURAMA
(FacultyofPsychology,MeijiGakuinUniversity)
Abstract
Thepurposeofthispaperistoexplorethepresentsituationsandproblemsofthetrilogycollabora- tionamongnurserycenter,kindergartenclassesandelementaryschoolsbyanalyzingthecaseatShinaga- waWard,Tokyo.
Shinagawapublicschoolsystemsdevelopedanactionplancalled“Plan21”in2000.Sincethendrastic educationalreformsincludingschoolchoicehavebeenimplemented,andcollaborationbetweenpre-prima- ryeducationandprimaryschoolshavebeenconductedsince2007.
Frominterviewswithadministratorsineachinstitution,thisstudyfoundmoredifficultiesinnursery center-elementaryschoolcollaborationsthankindergarten-elementaryschoolones.Thisstudyalsomadeit clearthattherearesomeproblemssuchastimeandspacearrangement,sharingandunderstandingthe collaborationpolicyamongteachers,distributionofteachers’roles,andchancesforin-servicetrainings.
Key words:collaborationbetweenpre-primaryeducationandprimaryschool,Shinagawaward, administrator,leadership