制度は,当事者主体にどれほど近づけたのか─
著者 茨木 尚子
雑誌名 明治学院大学社会学・社会福祉学研究 = The Meiji
Gakuin sociology and social welfare review
巻 153
ページ 15‑36
発行年 2019‑02‑28
その他のタイトル The Current State and Issues of the Policy of Welfare for People with Disabilities since 2000―Could the Policy Get Closer to Person Centered Support?
URL http://hdl.handle.net/10723/00003592
1 障害者自立支援法に至る障害者福祉政策の動向
21世紀に入り,日本の障害者福祉制度は,めまぐるしい変遷を経てきた。な ぜ,このようなたえまない制度改定を実施せねばならなかったのか。本論では この間の政策動向を辿り,障害当事者の主体的な制度改変となってきたのかを 検証する。さらに,将来的に危惧される状況について,考察していく。
(1) 日本の障害者福祉制度にみる特徴
日本の障害者福祉政策は,他国と比較すると,その発展は特殊な過程を辿っ ている。
まずは,その限定された対象規定についてである。1949年に成立した身体障 害者福祉法の対象規定は,その障害を医学的診断に基づき極めて限定的にとら えており,長い年月をかけて順次その時代の社会的要請に応じる形で,法律の 対象に加えてきた経緯がある。身体障害者福祉法は,当初除外された呼吸器機 能障害などの内部障害が加えられ,薬害エイズ,薬害肝炎訴訟などの結果を受 け,その対象となる範囲が広げられてきた。法律の障害の範囲は,医学モデル に基づいて規定されているが,一方で薬害などの社会的な背景によって,その 対象が広げられてきたことも特徴的である。
また,身体,知的,精神といった障害種別ごとに個別の福祉法として整備さ れてきたことも,特徴としてあげられる。1960年に成立した知的障害者福祉法
(旧精神薄弱者福祉法)は,概ね発達期に知的障害となった者に対象を限定して
──制度は,当事者主体にどれほど近づけたのか──
茨 木 尚 子
おり,成人期以降に知的障害になった者は含まれず,さらに高機能自閉症など の知的障害を伴わない発達障害はこの対象からは除外されてきた。さらに遅れ て,1995年に成立した精神障害者保健福祉法では,これまで障害の範囲から除 外されてきた,統合失調症などの精神障害者がようやく障害者として対象化さ れたが,すでに身体障害者福祉法成立から45年以上遅れて成立した福祉法であ り,結果としてそこにはかなりの制度的格差が生じることとなった。
このように,20世紀の日本の障害者福祉制度は,医学レベルでの機能障害ご とに福祉法の対象を規定し,身体,知的,精神障害について別建ての法律を策 定,いわゆる縦割りの障害者福祉施策を展開してきた。ここには,障害を医学 レベルで診断する思想が,福祉的支援の対象となる障害についても大きく影響 してきたことがうかがえる。また見える障害,すなわち医学的な指標で測るこ とのできる障害から順次法律の対象としてきたため,目にみえない障害,つま り医学的判断基準が示しづらい障害については,障害者福祉の対象としても除 外されてきた。その結果制度の谷間が生まれ,生活障害が顕著にみられても,
福祉の対象になりえなかった障害が数多く取り残されることとなった。その主 なる障害が,身体障害者福祉の対象から除外された難病などの長期慢性疾患患 者,高次脳機能障害者,発達障害者等である。(1)
(2) 自立支援法成立に至る経過
こうした制度の谷間にある障害や,制度間の格差問題を是正することが,21 世紀になって障害者福祉政策の大きな課題となり,総合的な障害者福祉法を求 める声が,当事者側からも,政策側からも起こってきた。一方で,20世紀末に は増大する高齢者の社会的介護ニーズに応えるために,社会保険による介護 サービス供給システム策定の動きが急となっていく。この背景には,高齢者の 長期入院等,医療費抑制をめざす社会保障全体の改革の流れもあった。当初介 護保険は,モデルとなったドイツと同様,65歳前の介護が必要な障害者もその
対象に含めて創設する案も浮上したが,最終的には65歳以上の高齢者に限定し 2000年に成立した。政策サイドとしては,順次制度の地ならしをした上で,将 来は障害者を対象とする介護サービスについても,介護保険に統合していこう とする思惑があった。まずは圧倒的多数を対象とする高齢者福祉を,保険とい う共助中心のシステムに再編成し,その後,障害者福祉をそこに統合化してい くことで,社会福祉サービスシステムを,税を基盤とする公助中心から,自助,
共助体制中心に移行していこうとする政策サイドの意図が21世紀に入ると顕在 化していくこととなる(2)。
その後,障害者福祉については,措置制度から利用契約制度への移行として,
身体障害者と知的障害者を統合した障害者福祉制度である支援費制度が2003年 度から導入された。この制度により,これまで施設支援中心であった障害者福 祉に,在宅福祉サービスが明確に位置づけられた。
しかし支援費制度は4月からの本格施行を前に,様々な問題が浮上した。特 に,障害者の地域相談支援事業の一般財源化,および障害者の生活の根幹にか かわるホームヘルプ事業の時間数の上限設定が大きな問題となった。すでに1 日24時間の在宅介助サービスが保障されている地域が存在しているにもかかわ らず,国の制度として,利用時間数に上限が設定されるという見通しが明らか になったのである。この利用時間数の上限問題には,特に多くの介助サービス 利用をしている身体障害者たちからの反対の声が上がり,厚生労働省前の座り 込み抗議活動に発展した。最終的に国は,国庫負担基準の撤廃はせず,ただし 国家負担基準をヘルパー支給上限とはしないことを明言し,支援費制度は施行 されることとなった。
施行後,これまで潜在化されてきた在宅福祉サービスのニーズ,とりわけ知 的障害者の外出支援事業の利用が急激に高まったこと,またこれまでヘルパー 派遣事業所がなく,利用が難しかった自治体での利用が促進されたことなどに より,予測していた予算額を大きく上回り,初年度から財源不足となった。そ
表1 介護保険施行後の政策および当事者等の運動の年表
年代 介護保険と障害福祉サービス 社会保障等全体の動向 障害当事者等による運動の動向 2000年 介護保険法施行
2003年 支援費制度施行 1月 厚労省前座り込み・泊まり
込み抗議活動
2004年 介護保険と障害保健福祉施策の 統合方針
(グランドデザイン)発表(厚労省)
支援費200億円以上の不足(厚 労省)
障害者の地域生活確立を求める 全国大行動
(6月,10月)
2005年
介護保険法改正 障害者自立支援法成立 10月より1割自己負担導入
緊急大行動(1~10月)
2006年 障害者自立支援法全面施行 国連障害者権利条約採択 出 直してよ自立 支 援 法10.31大 フォーラム
2008年 社会保障国民会議設置 障害者自立支援法違憲訴訟
10.31大フォーラム(継続)
2009年 政権交代(民主党政権へ)
厚労大臣自立支援法廃止を表明
自立支援法違憲訴訟 大フォーラム(5月10月)
2010年 障害者自立支援法一部改正
(1割自己負担の見直し等)
障がい者制度改革推進会議発 足
国と訴訟団合意文書(1月)
大フォーラム
2011年 介護保険法改正
東日本大震災・原発事故 障害者総合福祉部会骨格提言 提出
被災地支援活動の展開 大フォーラム
2012年 障害者総合支援法成立
社会保障と税の一体改革 社会保障制度改革推進法成立 政権交代(自民党政権へ)
緊急国会要請行動大フォーラム
2013年 障害者総合支援法施行 障害者差別解消法成立
社会保障制度改革国民会議プロ グラム法案成立
生活保護基準切り下げ開始
差別解消法成立にむけたロビー 活動,運動
2014年 障害者権利条約批准 生活保護基準切り下げ違憲訴訟
2015年
社会福祉法改正
障害者総合支援法1年目からの 事業施行
骨太方針2015 財政制度等審議 会「建議」
新たな福祉サービスのシステム等 のあり方検討P T
(厚労省幹事会)
戦後70年
安保関連法の成立(反対運動)
生活保護アクション
2016年 障害者差別解消法施行 障害者総合支援法改正
骨太方針2016 一億総活躍プラン 日本再興戦略
2016 財政制度等審議会「建議」
『我が事 丸ごと』地域共生社会 実現本部
差別解消法ガイドライン策定にむ けた運動
相模原殺傷事件(7.26)への対応
2017年 地域包括ケアシステム強化のため の介護保険法改正
報酬改定にむけての検討
(介護,障害者福祉,医療) バリアフリー法改正運動
2018年 医療保険,介護保険,障害者総
合支援法のトリプル報酬改定
の結果,「エンジンなき支援費制度は継続性が保てない」として,国は支援費 制度から新たな障害者福祉法への転換にむかっていった。
これ以降の制度的動向,障害者側の対応については,表1の年表に示した(3)。 支援費制度成立からわずか2年で,国は障害者自立支援法導入に踏み切ったこ とになる。自立支援法では,特に介護給付については,介護保険の給付体系を 踏襲したものとなっていた。またサービス利用に際して,障害者が受ける障害 程度区分の認定審査については,ほぼ介護保険の介護程度区分の認定システム を導入したものであった。さらに,利用者の自己負担について,これまでの応 能負担から,1割の応益負担を導入したことからみても,障害者福祉の将来の 介護保険統合への大きなステップとなる法改正であった。
自立支援法案については,原則1割の自己負担に対して,障害者が福祉サービ スを利用することは,「応益」と考えるべきなのか,障害者の権利性はそこには どう担保されるのか,といった根源的な問題提起が当事者側から早いうちにな され,大きな反対運動が起きた。しかし,一方で,三障害の支援を一元化する ことで障害者間の支援格差を是正することが可能となる,在宅サービスについ ても国の費用負担を義務的経費とすることで財源が安定する,障害者就労支援 事業をより強化するといった方針を,国が新たな法律策定にむけて掲げたこと への期待感をもつ当事者団体もあり,一致した反対運動を当事者側も主張し続 けることはできなかった。むしろ自立支援法策定に積極的に賛成する声もあり,
2005年10月,第三次小泉内閣の下,障害者自立支援法は成立することとなった。
2 ポスト障害者自立支援法の制度改革の道程
(1) 骨格提言策定までの道程と内容
自立支援法は予測された通り,原則1割の自己負担について,様々な障害者 の日常生活に大きな影響を及ぼすこととなった。特に就労支援については,働
く場であるにもかかわらず,応益として利用料を払うことになったことや,介 助サービスに自己負担がかかることで日常生活に必要であるにもかかわらず利 用を抑制せざるをえないといった事態が起こり,次第に障害種別を超えた自立 支援法見直しへの当事者側の運動が全国展開されることとなった(4)。
2006年国連の障害者権利条約が採択されたことにより,障害者の権利保障の 観点から,自立支援法への批判はさらに強まることとなった。特に障害者の地 域での日常生活を支える介助サービスに応益としての自己負担がかかることに 対して,生存権を脅かすものとして,各地で自立支援法違憲訴訟が起こされる こととなった。このような自立支援法に対する当事者中心の反対の声が高まる 中,2009年国の政権交代を迎えることとなった。新たな政権与党となった民主 党は,その公約に自立支援法を廃止し,新たな障害者総合福祉法を策定するこ とを掲げていたこともあり,新政権は,自立支援法廃止を厚労大臣が表明し,
2010年1月には違憲訴訟団と和解した。和解文書には,「自立支援法を廃止し,
介護保険統合を前提としない新たな総合福祉法を3年以内に策定する」ことが 盛り込まれた。さらに国連障害者権利条約の批准をめざし,新たな障害者の差 別禁止法(現障害者差別解消法)の策定も含め,権利条約に見合う国内の障害者 制度改革に取り組むこととなった。
新政権は,2010年1月に障がい者制度改革推進本部を内閣府に設置し,まず は障害者基本法の改定を中心に,障がい者制度改革推進会議での検討がスター トした。推進会議では,政策への当事者参画の具現化として,委員の過半数は,
障害当事者およびその家族で占められることになった。さらに4月には,自立 支援法に代わる新たな総合福祉法策定にむけて,推進会議の下に,総合福祉部 会が編成された。この部会は,障害当事者や家族団体の代表23名,事業者,支 援者代表17名,学識経験者12名,自治体首長3名の総勢55名の委員から構成さ れた。この中には,これまで当事者代表として主に家族がその代弁者となって きた2名の知的障害当事者も委員として含まれており,これまでの国の委員会
における当事者参画との大きな違いがみられた。国レベルでの会議の知的障害 の当事者参加については,その後自民党政権下では,再び家族団体以外の参加 は見送られている。この推進会議での当事者参加のあり方は重要な歴史的事実 として,今後の知的障害の当事者参画についての試金石とし,再度,知的障害 当事者の参加の道が開かれるべきと考える。
さて障害部会及び部会の作業チームで新しい法律の内容について検討がなさ れ,2011年8月の第18回の部会において,新たな法律の骨格提言がまとめられた。
部会では,多様な障害による意見の違いや,当事者と家族の見解の相違などが みられ,時に紛糾することもあったが,結果として全員一致して骨格提言とい う文書にまとめることができた(5)。
その背景について,佐藤久夫は,権利条約や基本合意文書に示される改革の 方向は,歴史の必然であること,自立支援法は財政コントロールを重視するあ まり障害者の尊厳や地域での平等に生きる権利を軽視してきたこと,政策の検 討は官僚主導ではなく障害当事者の意見を尊重して行うべきであること,など に対して「委員全員が原則的に共通理解があったからだ」と述べている(6)。筆 者は部会に参加した者として,個人的には「全員が」共通理解があったと明確 に言い切ることには躊躇があるが,これらの点について,異論を挟むことはで きないという認識は全委員に共通してあったと考える。そこでこの方向性のも とに議論が進められた結果として,新たな法律への提言をまとめることが可能 となったと思われる。結果を先に述べれば,その後新法はこの骨格提言の内容 に沿ったものにはならなかった。そのことで骨格提言について,「過去の遺物」
とする向きもあるが,むしろ現在の地域包括支援への制度改革の方向を考える と,骨格提言がめざした障害者福祉がどのようなものであったか,その先見性 をここで再確認することは極めて重要と考える。
骨格提言では,まず大きく6つのポイントを示し,これに沿って新たな総合 法が策定されるべきと示している。ここではそれを示しておきたい。
①障害のない市民との平等と公平
国連権利条約19条を踏まえた方向感であり,地域での日常生活において,障 害のない他の市民との平等のもと,必要な福祉的支援を受ける権利を保障する 法律であるべきとしている。
②谷間や空白の解消
これまで手帳交付がないために,ニーズがあるにも関わらず支援の谷間にお かれていた慢性疾患患者や発達障害者などの障害についても対象とする。また 通勤,通学支援など,福祉サービスと教育,雇用制度のはざまに置かれてきた 問題について解消をはかるべきであることを示した。
③格差の是正
障害種別,また市町村による障害福祉サービスの格差をなくす法律とする。
外出支援などの市町村事業については見直しを行い,どの地域においても必要 な支援は,都道府県,国の負担事業とすること,また重度障害者の長時間介護 について,市町村の現状の負担部分を軽減する方策をとることを示した。
④放置できない社会問題の解決
施設や病院に社会的に入所,入院している人たちの問題に焦点をあて,その 解消をめざす。単に施設退所を目指すのではなく,「地域基盤整備10ケ年戦略」
として地域での受け入れ体制に力点を置き,あくまで本人の希望に沿った地域 移行プログラムを提案した。
⑤本人のニーズにあった支援サービス
介護保険の認定区分を踏襲した障害程度区分を廃止し,個別ニーズの評価を 行い,市町村が一定のガイドラインに沿って支給決定を行う本人と行政との協 議調整モデルを導入する。そのため本人の意見表明および意思決定を尊重する ための相談支援と権利擁護制度を整備する。
⑥安定した予算の確保
新たな法律を実施するため,必要な財源確保と予算配分の見直しをめざす。
OECD諸国の障害者福祉予算を示し,低く抑えられてきた日本の障害者予算額 について,国民理解を得つつ,これらの諸国の平均値まで上げるべきことを示 した。
ここでは,骨格提言の法案へのさらなる詳細な提案部分の説明は省くが,佐 藤久夫は,骨格提言が示した新たな総合福祉法は,「法の目的や障害者観まで 含めた根本的で歴史的な転換を意味する」としている。骨格提言が示した新法 の法律の目的は,全員参加型社会において,障害者が平等な市民として権利の 主体となることであり,これまでの更生や保護を目的とした障害者福祉法とは 異なるものであった。また支援のあり方は,障害者個別のニーズに沿ったもの であるべきとし,これまでの画一的な医学モデルに基づいた支給決定の仕組み ではない,市町村行政の福祉専門職によるアセスメントとの協議調整による新 たなシステム構築を提案した。
こうした大きなパラダイムシフトに対して,一方で「雨漏りしている家で,
理想の住まいの設計図を語るだけであり,あくまで雨漏りを解消する方向で議 論すべき」といった意見も一部の委員からは聞かれた。そこには,障害者福祉 について,この国では障害のない市民との平等や,権利性を訴えても到底かな うことはなく,かえって一般市民の反発を買うだけというこれまでの障害者の 社会的位置づけからくる負の感情が存在していたようにみえた。しかし一方,
政権交代と,国連の障害者権利条約の批准をめざすこの機会をとらえ,これま での障害者福祉の方向性を転換しなければならないという当事者団体の強い意 志もあった。さらに障害種別団体の個別利益を超えて,「現在1ある支援を2に 増やすことを主張する前に,今ゼロにある人の支援を1にすることを優先すべ き」といった制度の谷間問題に焦点を充てるべきとする意見も出された。また 部会の検討において,脱施設政策には強い反発を表明した家族団体が,新法で は,10年間地域支援の整備に重点を置き,結果として本人の希望に基づき地域 生活へ移行する政策をとることには異論がなかったことも記録しておきたい(7)。
障害部会では,審議会の検討方式である行政主導で,団体の代表などがその 案に対して意見を述べて一部修正をしていくという旧来の政策策定のプロセス はとられなかった。あくまで部会委員の議論をもとに制度の方向性が示されて いった。当事者参画の政策策定の一つの試みとして,この骨格提言に至る部会 の果たした役割と,そこでの課題(最終的に行政の積極的参加がみられなかっ た点等)については,銘記しておくべきものであろう。このような経過を経て,
骨格提言は,新たな方向感をもった法律への構想として部会から厚労大臣へ提 出された。
(2) 法律改正までの道程と内容
部会の骨格提言とりまとめ以降の国の対応については,予測していた以上に 厳しいものとなった。この背景には,骨格提言の示す方向性について,行政府 である厚労省の極めて強い抵抗感があったことにある。例えば支給決定に関し て,障害の範囲を医学的,客観的診断で対象を選択し,機能障害を中心とした 障害程度で利用可能な支援を限定する仕組みは,これまで中央集権的に支援量 をコントロールし,予算配分することを可能としてきた。それを根本から変更 するということは,財源確保の面からも厚労省は納得しがたいものであった と思われる。さらに,厚労省のすすめるグランドデザインである介護サービス の一元化,すなわち介護保険制度の持続のために,障害者福祉の介護保険統合 の可能性を埋め込んだ自立支援法を抜本的に改正する法律は認めがたいもので あった。
骨格提言を受けて,2012年2月に厚労省から示された新法案は,骨格提言を 踏まえることのない,名称と目的のみ改正した自立支援法の一部改正案であっ た。これに対して部会委員からは,多くの疑義の声が上がり会議は紛糾した。
数回にわたる話し合いの末,3月に改正された政府案が提示され,これが国会 に上程された。この政府案の特徴は,骨格提言の実現はすぐには困難という認
識の下,法律制定後,計画的,段階的に骨格提言を踏まえた法律改定を行って いくというところにあった。法律の改定は,まずは施行から1年後,さらに3年 をかけてさらなる改正を行うというものであった。しかし最も重要であった
「介護保険との統合は前提としない」という点については,自立支援法7条に組 み込まれた介護保険優先原則は維持され,障害者が65歳以上となると介護保険 制度の優先利用となることは新法でも引き継がれることとなった。また医学レ ベルの診断による障害やその程度を測る障害程度区分に基づく支給決定につい ては,1年後の見直しで障害程度区分の指標を見直すことが明記され,客観的,
統一的指標を用いた支給決定の仕組みは維持されることとなった。政府案は,
4月に衆議院を通過し,6月に「障害者総合支援法」として交付され,2013年4 月施行となった。
3 障害者総合支援法と見直しの状況
2018年現在,総合支援法施行後,3年後の見直しの内容は,どのような改正 となったのか。ここではその経過を示したい。
さて新法において,3年後に見直すべきとした要点は,以下のとおりである。
・ 常時介護を要する障害者等に対する支援,障害者等の移動の支援,障害 者の就労の支援,その他の障害者福祉サービスのあり方
・障害支援区分の認定を含めた支給決定のあり方
・ 障害者の意思決定支援のあり方,障害福祉サービスの利用の観点からの 成年後見制度の利用促進のあり方
・ 手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚,言語機能,音声機能その他の 障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者に対する支援のあり方
・精神障害者及び高齢の障害者に対する支援のあり方
これを見ると,ほぼ骨格提言で示された重要な項目は,すべてこの見直し事
項に含まれていることがわかる。ここでは,施行後6年を経過し,3年後の見直 し事項について,どのように法律が改正されたのか,また残された課題につい て検証していく。
(1) 対象となる障害の範囲について
2013年4月に施行された障害者総合支援法は,目的と基本理念以外の大きな 改正点としては,これまでの身体,知的,精神障害の3障害の他に,一部難病 者(手帳を所持しない)が法律の対象として認められたことであった。対象とな る難病者については,部会では病名や患者数で限定しないことが重要であると されたが,結局,病名による列挙方式で,まずは国の特定疾患に定められた33 疾患を対象としてスタートした。この対象となる難病の範囲は,その後検討が なされ,2018年度現在は359疾病までその範囲を拡大している。短期間に障害 者福祉の対象となる難病の範囲が,これだけ拡大となったことは,大きな改正 点ではある。しかし一方で,一般的に3000以上あると言われる慢性疾患につい て,病名で障害者福祉の入り口である認定審査における制限を課すことは,ど んなに福祉的支援へのニーズがあっても制度の谷間に落ちる難病者は依然とし て残されることとなる。骨格提言で示したように病気の診断書もしくはそれに 該当する証明があれば,審査の窓口で除外しない制度を創っていくことが,制 度の谷間を生まない方策であると考えられる。福祉サービスを受けるにあたっ ては,当然認定審査を受けることになるわけなので,申請の入り口で,病名に より対象を制限する意味は,福祉的支援の観点からは見出すことはできない。
そこには依然として,医学的に障害者を切り分けていく診断の視点が強固に存 在している。
一方,対象となる難病者の認定調査に関しては,独自ガイドラインが示され(8), 体調の波があることを前提に,「最も体調が悪化した際を基準に」判断を行う ことが明記された。これについては,その日常活動ができるか,できないかで
判断するADLの自立度という観点からのみ支援度を測るのではない,調子の 波を視野に入れた生活の中での判断が可能になったという点では,生活困難度 の評価としては大きな前進がみられたといえる。
(2) 支給決定について
2014年には,予定通り施行1年目から実施されるべきものとして,障害程度 区分を廃止し,障害支援区分が導入されることになった。自立支援法で導入さ れた障害程度区分は,その一次審査で用いられる質問106項目のうち,79項目 までが介護保険の認定審査と同じ項目であり,そこには将来介護保険との統合 の意図が明確に示されていた。しかしこの質問項目は,ADLの自立が中心と なっているため,特に精神障害者にとってはほとんど障害の状態を測ることが できず,医師の意見書等による2次審査によって,半数以上の精神障害者の程 度区分が変更されるといった実態があることが明らかになっていた。また,こ の2次判定の変更率は,都道府県によって大きな開きがあり,精神障害者や知 的障害者の程度区分認定は,自治体間格差が大きく,同じ客観的指標を用いて いても,必ずしも全国統一した判定にはなっていないことも明確となった(9)。 そこで厚生労働省は,この2次審査での変更項目を抽出し,その変更項目を 反映した新たな調査票に基づく1次審査方法を示し,支援ニーズを測るものと して障害支援区分を導入した。具体的には,障害支援区分の調査項目には,知 的障害,精神障害の行動障害を意識した質問項目が多く含まれ,障害程度区分 と比較して,これらの障害者の障害が反映されてはいる。国は,この1次審査 の変更以後,支援区分認定において,2次審査での変更率は大幅に下がったと いう報告をしている。
しかし,これで支給決定システムの見直しが検討済といえるだろうか。認定 基準の名称は,障害程度区分から,障害支援区分となったが,この1次審査の 質問項目は,ADLの自立度の重複する質問項目を削って,そこに精神,知的
障害の行動障害(問題行動)の項目を加えたものである。これで,障害の程度で はなく,支援ニーズを測るツールとして適切と言い切るのは問題である。例え ば家族や周囲の適切な支援があるので,現在問題行動がみられない知的障害者 が,独立した生活の場に移行するときに,新たな支援ニーズが発生することや,
医療機関から退院する精神障害者の地域生活支援の必要度は,現状の行動障害 の有無だけでは測れないのは現場では自明である。その支援程度は,個別に本 人等の状況を聴き取り,予測的に判断することで明らかになるものである。支 援区分の導入後は,新たな1次審査項目では,精神や知的障害の障害状況も反 映しているということで,2次審査での上記のような個別状況による変更が難 しくなっていることも想像に難くない。
ところで,介護保険の要介護認定は,その区分により受けられるサービス量 が明確に区分されており,実際にはその範囲内での介護サービス配分が相談支 援にあたるケアマネジャーの業務となっている。障害者福祉サービスに関して は,就労支援なども含まれるため,全てが支援区分ごとに切り分けられるサー ビスにはなっていない。介護保険の現状のケアマネ―ジメントと比較すると,
まずは利用者側の希望を聴き取り,支援計画を策定し,そこで支援区分に基づ いて,サービス利用を測るというシステムになっている。しかし一人暮らしの 障害者の生活支援の要となる重度訪問介護では,支援区分4以上が対象と限定 されているため,中軽度知的障害の一人暮らしの人で支援が必要にもかかわら ず,対象とならないことなどの問題は依然として残されている。さらに,事業 所への報酬単価については,まさにこの支援区分が直接反映するシステムが強 化されている。
異なる障害の状況を反映したとされる共通質問項目を策定し,それを全ての 障害者に当てはめて,その支援ニーズを測るシステムとされるこの客観的指標 は,障害者の福祉のニーズを測るものとして本当に妥当といえるのだろうか。
こういった指標について,問題がでると再策定し,新たな指標に基づく調査の
ための研修を実施し,さらにその調査データをコンピューターに入力するため のソフトを開発するなどの一連の1次審査方式にかかる全体の費用は一体どの 程度なのだろうか。多様な障害者の福祉のニーズ評価のあり方として,市町村 のアセスメントワーカーの育成等,人の目を通した支給決定のあり方を検討す ることに費用をかける方が,社会福祉サービスの質の向上にとって意義がある とは考えられないだろうか。障害者の福祉ニーズのアセスメントのあり方につ いて,社会福祉実践の側からのより深い議論と提案の必要性を感じる。
(3) 常時介護を要する重度障害者の支援のあり方
総合支援法施行後,障害の有無を超えて,障害者の市民として平等な地域生 活の保障はその実現に近づいているのだろうか。ここではその根幹となる日常 生活全般に介護を要する障害者支援のあり方がどう改善されたかを検証する。
総合支援法は,これまで重度肢体不自由者に利用が限定されていた重度訪問介 護について,その対象を重度知的,精神障害者に広げたところに大きな改善が あった。重度訪問介護は,全身性障害者の在宅介助の当事者運動の歴史から生 まれ,自立支援法により国の制度となった介護サービスである。他の介護給付 のように,家事援助,身体援助,外出支援といった日常生活介助を切り分けす ることなく,長時間介助を切れ目なく提供可能とする介助サービスであり,特 に単身等で地域生活をする,日常生活全般に介助が必要な障害者には不可欠な 支援となってきた。この対象を,知的や精神障害者に広げることで,家族との 同居ではなく,また医療機関や施設,グループホームといった集団生活の場で もない,新たな地域での暮らしの選択の可能性が広がることが期待された。
その後の検討課題として,その対象をどう規定するかが鍵となっていたが,
重度の範囲として,知的,精神障害についても,障害支援区分4以上のみの規 定が援用されることとなった。親元や施設,グループホームから離れて,一人 暮らしを地域でスタートする知的障害者は,知的障害としては中軽度の人も
多いが,生活場面では長時間の見守りが必要な人も少なくない。こういった人 たちは,支援区分4以上がハードルとなって重度訪問介護を利用できない状況 にある。対象が拡大されて5年を迎えているが,肢体不自由者以外の重度訪問 介護の利用者数については,全国的にはそれほど大きく伸びていないとされて いる(10)。その理由として,この支援区分による利用制限も大きいと思われる。
さらに,精神障害者にとっては,心身の体調の波が大きく,長時間介護が必ず しも定期的に必要とは限らないが,一方で見守りや臨機応援な生活支援が必要 な単身の暮らしをしている人も多い。現法の訪問介護サービスでは,いずれも こういった精神障害者の介助としてはうまく機能することが難しく,それが利 用に結びついていない要因となっている。3年後の見直しの項目に,精神障害 者の地域生活のあり方があげられたが,この内容について十分に検討がなされ たとはいえない状況にある。
一方,重度訪問介護の支援内容については,特に2018年の報酬改定ではいく つかの重要な変更があり,日常生活の切れ目ない介助という意味では前進が あった(11)。第一に,重度訪問介護利用者の入院中の継続的利用を一部可能と したことである。また宿泊を含む外出において,重度訪問介護サービスの利用 を認めたことも,重度障害者の地域生活の継続や,社会参加を進めるための個 別支援として意義がある変更と思われる。ただし,骨格提言でも将来検討すべ き重要課題として掲げた通学,通勤等に必要な介助については,今回は踏み込 んだ改正はみられず,依然として福祉サービスと労働,教育機関の対応との谷 間に置かれたままとなっている。自治体によっては,外出支援で小中高等学校 への通学への対応をしているところも一部あるが,国全体としては通勤,通学 の介助については,福祉サービスでは原則対象外とされている。一方で,障害 者差別解消法施行により,その合理的配慮義務として,労働や教育現場が対応 するという方策も,未だ議論はなされていない状況にある。障害者の地域支援 では,通学,通勤といった障害のない人と平等な社会参加をどう保障していく
かがきわめて重要であり,早急に,省庁の壁を超えて議論すべきであり,その 支援のあり方については取り残された大きな課題となっている。
4 介護保険との統合の再浮上と障害者福祉の危機
ところで3年後見直しでは,65歳以上の高齢障害者の支援のあり方が検討さ れることとなっていた。自立支援法では,障害者は65歳以上になると介護保険 優先原則が法律に規定された。その結果,障害者は,65歳になると新たに介護 保険対象として,まずは介護保険からの介護給付を受けなければならないこと となった。ここには,国の社会保障全体の原則として,共助が公助より優先さ れるべきということが明確に示されている。この介護保険優先原則は,結局,
現在の総合支援法でも継続されており,65歳になると介護保険が原則適用され る仕組みとなっている。その結果,多くの障害者が65歳を過ぎると,支援内容 が変更になったり,自己負担額が増えるという事態が起こった。
2018年度からは,低所得かつ5年以上障害者福祉サービスを利用している高 齢障害者に対しては,介護保険サービスの自己負担額が障害者福祉制度により 償還払いされることとなった。65歳以上になるとサービス利用の自己負担が増 えるという問題は,低所得層が多い高齢障害者にとっては,大きく改善された ことになる。一方,3年後見直しの議論では,障害者福祉における介護保険優 先原則そのものを再検討すべきという意見も聞かれたが,これについては,依 然介護保険優先原則は維持されたままとなっている。
さらに2018年度からは,介護保険サービスへの変更などによる生活変化への 対応として,共生型サービスが新設された。これは,ヘルパー資格の緩和等に より,障害者と高齢者の各介護サービス事業所が,事業を併用して提供可能と する仕組みである。これによって,障害者が介護保険対象となって以後も,65 歳前に障害者福祉の介護サービスを受けていた事業所から,継続的にサービス
を受けることが可能になった。
こういった一連の介護保険対象となった高齢障害者への手厚い対応は何を意 味するのだろうか。もちろん,経済的負担により必要なサービス利用を控えざ るを得ない状況にあった高齢障害者にとっては,負担軽減につながる改善と なったことはいうまでもない。しかしその結果として,介護保険優先原則その ものに対する当事者側からの反対の声は抑えられていくことになるのではない かという危惧も感じる。さらには,介護保険徴収年齢を20歳に引き下げること で,障害者福祉において,20歳以上から介護保険優先原則を適用するといった 制度改革についても再び検討されることも充分に予想できる。介護保険制度の 維持のために,保険徴収年齢を繰り下げることは,かねてからの国の懸案事項 であり,そのために介護保険を成人期以降の包括的な介護サービスすることが 国のめざす方向性なのではないだろうか。
さらに,2016年からは,地域での支援システムについて,共助を前提に再構 築していこうとする「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部が,厚労省内部 メンバーのみのプロジェクトとしてスタートし,「地域包括ケア」として具体 されつつある。この地域包括ケアは,生活困窮者,児童,障害,高齢者の地域 支援について,コミュニティでの相互扶助も含めて,相談窓口や日中活動等に ついて,これまでの対象別を超えて,人的資源,設備の共有化をはかっていこ うとするものであり,少子高齢化社会での支援体制として企画されている(12)。 厚労省が示した工程表によれば,2019年以降にさらなる制度見直しを行い,
2020年以降に全面展開していくとしている。国は,この制度は,少子高齢が進 む地域社会で,持続可能なインクルーシブな介護システムだとしている。しか し,インクルーシブなケアとは,介護や支援が必要な対象者を集めて,同じ場 で同じ人材を使って支援することなのだろうか。そもそも「インクルーシブな 社会」とは,必要な支援を受けながら,多様な人びとが同じ社会で暮らすこと を意味しているのであって,ケアをひとまとめに提供することに対して「イン
クルーシブ」という用語を用いるところにこの政策のあり方の根本的な問題を 感じざるをえない。特に,障害者が求めてきた「インクルーシブ」とは,福祉 サービスの場でのインクルーシブではなく,障害のない市民と同様に,教育,
労働,その他の一般の市民社会の場でのインクルーシブ(包摂)である。そのた めに,必要な支援を受けながら社会参加をすることを権利として位置付けよう と努力してきたのが,20世紀後半から今に至る障害者運動であった(13)。 障害の当事者団体の多くは,介護保険成立時,その後の自立支援法からの介 護保険統合への動向に対して,社会保険という共助システムの枠で福祉サービ スを消費するというあり方では,障害者の主体的な生活は実現しないというこ とを訴え続けてきた。その結果,国は介護保険統合を前提とせず,障害者福祉 制度改革に取り組むことを訴訟団と公約したのではなかったのだろうか。しか しその公約は,介護保険と障害者福祉制度との介護事業統合を促進する中で,
極めて危ういものとなっている。実際に,同一の事業所で,日中活動や,介護 派遣事業が提供されているのだから,制度的にも統合していく方が合理的とい うことで,障害者福祉が介護保険に組み込まれていく危険性は,現実的に大き なものになっていると感じる。また,それがなぜ危険なのかということについ て,さまざまな利用者への負担緩和措置がとられたことで,障害当事者側の認 識がそれほど強くなくなっているのも事実である。今回,65歳の障害者の自己 負担がほぼなくなったこと,さらに共生型サービスが事業化したことで,これ までの障害者介護事業所からサービスを受け続けることが可能になったという ことで,安心している障害者も多いのではないだろうか。
では,介護保険との統合の危険性とは何なのだろうか。まず第一に介護保険 には,シームレスな重度訪問介護のような在宅サービスは無く,さらに施設か ら地域移行への様々な支援策も設けられていない。むしろ利用者の心身機能の 介護度が高まると,施設入所への流れが一般的となっている。さらに,介護保 険の介護サービスは,通勤や通学などの社会参加のために,主体的に介護サー
ビスを当事者が使うという発想ではなく,高齢者家族の介護の負担を減らすこ とにその目的がある。国のめざす「包括的ケア」をみると,このような介護を 利用する側の差異は無視され,ケアが必要であれば,高齢者も障害者も同じで あるという発想そのものに,介護を受ける人々のライフステージへの配慮の無 さを感じる。
また,介護保険制度では,たえず介護給付の負担を抑えるために,介護予防 へ力点が置かれてきた。つまり高齢になって,心身の障害が発生しないことを めざすことが,介護保険事業の重要な柱の一つになっている。ここに障害者支 援が組み込まれることはどのような結果を生むだろうか。障害の発生を予防す ること,それは中途障害の予防だけでなく,「先天的」な障害についても及ぶ 危険はないのだろうか。国民相互の共助システムである介護保険に障害者支援 が組み込まれることで,例えば障害の発生予防として,出生前診断がより強化 されるなどの状況が生まれることはないと断言できるだろうか。またALS患者 など医療的ケアが必要な最重度の障害者の生について,これまで積み重ねてき た障害者の生の尊厳に対する当事者の努力が脅かされることがないと言い切れ るだろうか。増大する高齢者介護問題の前に,マイノリティである障害者の権 利性が脅かされることがあってはならないと強く感じる。そのことへの共通理 解が十分ではない中で,地域での共助中心の包括的ケアの推進には疑義の声を あげなくてはならないと思う。
本論では,障害者総合支援法3年後の見直しまでの21世紀の障害者制度改革 について,その理念と現実の制度とのかい離を中心に振り返った。今後,障害 者福祉を超えたより広範な社会福祉制度改革の動向を見極めることが重要とな る。これからの障害者福祉が守るべき理念および,維持発展すべき制度は何か,
またさらなる制度改革はどうあるべきなのか。当事者側の主体的な政策への参 画が一層必要な時代になっていると考える。
註
(1) 日本の法の対象となる障害の定義と範囲の課題については以下の文献に詳しく示し た。山本創,茨木尚子「障害の定義と法の対象」,茨木尚子,大熊由紀子,尾上浩二,
北野誠一,竹端寛編著『障害者総合福祉サービス法の展望』ミネルヴァ書房,2009年, pp.259-277
(2) 杉本豊和「社会福祉基礎構造改革と財政政策―障害者福祉施策から」,『現代福祉研 究』第3号,法政大学,2003年,pp.123-139
(3) 年表は,以下の発表資料より引用し,一部加筆修正を加えた。増田一世「地域共生 社会と障害福祉施策」,『社会保障制度改革に関する連続シンポジウム②』日本弁護士 連合会主催シンポジウム,2017年7月13日開催
(4) 尾上浩二「支援費制度と障害者自立支援法」,茨木尚子,大熊由紀子,尾上浩二,
北野誠一,竹端寛編著『障害者総合福祉サービス法の展望』ミネルヴァ書房,2009年,
pp.121-137
(5) 部会の議論の過程については,内閣府の以下の障がい者制度改革推進会議のHPよ り,2018年現在,議事録及び動画が閲覧可能となっている。
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sougoufukusi/index.html)
2018.9.22閲覧
(6) 佐藤久夫「障害者総合支援法の骨格提言の背景と特徴」,『月刊ノーマライゼーショ ン』11月号,日本リハビリテーション協会,2011年
(7) 竹端寛「地域移行・地域生活の権利」,『福祉労働』129号,現代書館,2010年,
pp.41-49
(8) 厚生労働省障害者総合支援法における障害支援区分 難病患者等に対する認定マ ニュアル(2018年6月)
(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaih okenfukushibu/9.pdf) 2018.9.22閲覧
(9) 厚労省社会保障審議会障害部会資料(2015年)
(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaih okenfukushibu/0000171212.pdf) 2018.9.22閲覧
(10) 厚労省障害福祉サービス等報酬改定検討チーム資料(2017年)
(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenf ukushibu-Kikakuka/0000167006.pdf) 2018.9.22閲覧
(11) 今村登「2018年度障害福祉サービス報酬改定をどう見るか」,『福祉労働』159号,
現代書館,2018年,pp.59-66
(12) 厚生労働省「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部作成資料
(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syakaihosyou_457228.html) 2018.9.22閲覧
(13) 杉本章『障害者はどう生きてきたか─戦前・戦後障害者運動史(増補改訂版)』現代 書館,2001年