2015 年3月 26 日受理
* 尚絅学院大学 教授
** 本稿は、2014 年 6 月 21 日、日本コミュニケーション学会第 44 回年次大会で口頭発表した論文を加筆修正 したものである。
1.はじめに
実践的な教育手法を伴うプロジェクト型学習(Project Based Learning、以下 PBL)1)への 関心が、各大学において高まっている。尚絅学院大学総合人間科学部表現文化学科は、ある地 域を取材し課題を発見するという地域密着型のプロジェクトで「尚絅メディアフェスタ」(以下、
メディアフェスタ)というイベントを 2009 年度から実施してきたが、そのプロジェクトと筆 者のゼミ(會澤ゼミ)の取り組みについて述べる。メディアフェスタは、3年生ゼミ授業の一 環として実施してきたが、2009 〜 2012 年度までは宮城県白石市にて、2013 年度からは宮城県 名取市にて、各ゼミが取り組んだそれぞれのプロジェクトの成果を毎年秋に地域社会に向けて 発表してきた。PBL は、プロジェクトを達成するために、企画から実践、評価に至るまで個 人内・対人・集団・組織・異文化コミュニケーションの様々な局面を経験し、学習する場を提 供しうる。本論においては、筆者が 2009 年度から5年間ゼミ指導で関わった地域密着型の PBL をコミュニケーション教育という観点から分析・考察し、学生がどのように成長したか、
また問題点や今後の課題等について論じる。
2.PBL とは
PBL に関する3つの考え方を援用しながら、PBL の定義について論じていく。最初に、
PBL で実績がある同志社大学 PBL 推進支援センターでは、PBL を「一定期間内に一定の目標
授業として行うプロジェクト型学習とコミュニケーション教育 *
會 澤 ま り え **
Project Based Learning in Communication Education
Marie Aizawa
各大学において、実践的な教育手法を伴う「プロジェクト型学習」あるいは「課題解決 型学習」への関心が高まっている。本学表現文化学科においては、2009 年度から地域密 着型の「尚絅メディアフェスタ」というイベントを毎年秋に3年生のゼミ学外活動として 実施してきたが、それを「プロジェクト型学習(PBL)」と捉え、ゼミ生の成長をコミュ ニケーション教育の観点から分析・考察する。
キーワード:PBL、ゼミ活動、コミュニケーション
を実現するために、自律的・主体的に学生が自ら発見した課題に取り組み、それを解決しよう とチームで協働して取り組んでいく、創造的・社会的な学び。」と定義し、その特徴を、コミュ ニーション力、社会連携力、課題探求力、組織運営力、提案企画力、自己表現力、自己認識力 等とし、それらをフルに活用することで、学生の主体的学習意欲を喚起していく「ともに学び 合う」協調学習の「場」としている2)。
元々 PBL は欧米発祥の教育手法といわれているが3)、Krauss & Boss(2013)は、PBL を 以下のように定義している。
In project-based learning, students gain important knowledge, skills, and dispositions by investigating open-ended questions to “make meaning” that they transmit in purposeful ways4).
Krauss と Boss によれば、PBL は学生自らが自由解答式の質問を自分自身に問いながら取 り組んだプロジェクトの意味を発見・創造していくもので、重要な知識やスキルを修得できる ものであると述べている。
また、鈴木(2013)は、PBL を「プロジェクトとは、ビジョンや使命感に基づき、ある目 的を果たすための構想や計画などを指し(中略)プロジェクトの特徴やセオリーを学習に活 かしたもの」と定義した上で、次の8つの特徴が PBL にはあると論じている。その特徴とは、
1)ビジョンとゴールの明確化、2)価値の自覚、3)プロジェクト学習基本フェーズの存在、
4)成長と成長への自己評価、5)「一人思考」と「思考共有」、6)他者に役立つ「知の成果 物」、7)ロジカルシンキング(論理的思考)、8)セルフコーチングとメタ認知である5)。こ のように、鈴木も Krauss と Boss が指摘しているように、PBL には知の成果が伴うものと考 えている。
以上、PBL に対する定義あるいは特徴についてそれぞれの見解を論じたが、共通している のはプロジェクトの達成に向けて互いに協調しながら何らかの意味を発見し、それが知の成果 へと発展していくということである。この考え方を援用し、本論においては PBL を「あるプ ロジェクトの達成に向けて、チームが一定期間に協働しながらゴール到達に向かう主体的・創 造的学習」と定義する。
大学の学びにおいては、知識や技能の修得の他に、考える力、問題解決力、新しいアイディ アを生み出す発想力や創造力が求められる。そうした能力は、卒業後に社会人としての責務を 遂行し、社会に貢献できる人材となる上で不可欠といえよう。そのためには、教室やキャンパ スという限られた空間のみで教育するのではなく、地域社会や地域住民と協働することによ り、学生が体験したことを自ら言語化し、そして記録・記憶化していくという作業が必要であ る。そうすることは、新たな創造の力を生み出す原動力となっていくものと思われる。その学 習の場として、PBL は最適の機会を与えてくれる。
上述の PBL の定義や期待される効果を踏まえて、筆者が関わったメディアフェスタ及びゼ ミ活動について述べていくが、メディアフェスタを手がけた当初は、PBL ということを明確 に認識していたわけではなかった。後に山田和人氏(同志社大学 PBL 推進支援センター長)
による PBL についての研修を受けた際6)、メディアフェスタを PBL の概念で捉えると、より 明確に分析ができることに気づいた。そこで、PBL の概念を援用しながら筆者が関わった地
域密着型の PBL と、それを実施していく中で筆者のゼミ生達が経験した個人内・対人・集団・
組織・異文化コミュニケーションをコミュニケーション教育という観点から論じていく。
3.地域密着型の PBL
3.1 表現文化学科の教育目標
尚絅学院大学総合人間科学部表現文化学科(以下、表現文化学科)は、2007 年に新設され た学科で、言語、映像、地域という3つの分野について多角的に学習させる学科である。当時 の学科の教育目標は、小説、詩歌、エッセイなどの〈言語表現〉、映画、CM、アニメなどの〈映 像表現〉、祭り、伝承文化、地域イベントなどの〈地域文化表現〉であった。特に、3年生の 卒業研究ゼミ活動では、各ゼミのテーマに加えて地域文化表現に力をいれており、3年生対象 のゼミを「卒業研究Ⅰ」、4年生対象を「卒業研究Ⅱ」とし、2年間継続して同じゼミに所属 し活動することになっている。各ゼミの人数構成は、少人数教育を実現するために学年全体
(約 60 〜 70 名)を9〜 10 ゼミに分割している。これまで「卒業研究Ⅰ」の約8割のゼミが地 域文化表現に関わるプロジェクトに参加し、地域文化を発信する取り組みを地域の人々と協働 しながら行ってきた。内容としては、各ゼミオリジナルなプロジェクト(映像、音楽、キャラク ター、活字新聞、歴史、オーラルヒストリー、メディア、コミュニケーションなどの分野)を完 成させ、毎年秋に学外で開催される「メディアフェスタ」において地域密着型のプロジェクト の成果を地域社会に向けて発表している。各ゼミの年度計画によっては、メディアフェスタに 直接参加しないゼミもあるが、必要に応じてゼミ人材を派遣するなど間接的には支援を行って いる。次に、学科として、どのような取り組みを行ったか、各年度のテーマについて述べる。
3.2 学科としての PBL
表現文化学科が初めて「メディアフェスタ」に取り組んだのは、第1期生が3年次を迎えた 2009 年度からである。以後、2014 年度までの6年間様々な地域密着型の PBL を実施してきた。
2009 〜 2012 年度までの4年間は、宮城県白石市と共催でメディアフェスタを実施し、学生た ちは白石の街、文化、自然、歴史等をモチーフとしたプロジェクトに取り組んだ。筆者のゼミ
表1 2009 〜 2014 年度尚絅メディアフェスタ
年度 開催日 開催地 学科全体のメインテーマ 参加ゼミ数 第1回メディアフェスタ
2009年11/1〜3 白石市 〜今から描きたい〜
白石遠近法 9
第2回メディアフェスタ
2010年10/30〜31 白石市 白石プリズム回廊 9 第3回メディアフェスタ
2011年10/29〜30 白石市 発表します!私たちの見つけた
白石 9
第4回メディアフェスタ
2012年10/13〜14 白石市 白石七色パズル 7 第5回メディアフェスタ
2013年10/12〜13 名取市 見らいんや!名取 7 第6回メディアフェスタ
2014年10/11〜12 名取市 あっちこっち まるっと名取 6
は、2009 〜 2011 年度の3回は白石でメディアフェスタに取り組み、2012 年度は他自治体での メデイアフェスタ開催の可能性を探るために、仙台市卸町でゼミ発表を行った。同年開催の白 石でのメディアフェスタには、本ゼミメンバーがそれぞれ他ゼミの活動に協力するという形を とることで学科全体のプロジェクトを支援した。地域文化表現を様々な地域を対象として研究 する上で、2013 年度からは研究対象地域を名取市に変更して、メディアフェスタを実施した。
これまで、学科として行ったメディアフェスタの取り組みと、各年度のメインテーマは表1の 通りである。
次項では、メディアフェスタという地域密着型の PBL について筆者のゼミ活動(2009 〜 2013 年)7)を中心にコミュニケーション教育という観点から分析し考察していく。
3.3 本ゼミの PBL
本ゼミは、文化とコミュニケーションや異文化理解等をゼミのテーマに掲げている。次に、
具体的に年度ごとの活動と成果や課題点等について述べていく。
3.3.1 2009 年度の PBL(白石市での取り組み)
本ゼミは、文化とコミュニケーションをテーマとし、白石の様々な文化を既成概念にとらわ れない発想や方法で発信することをミッションとし、4月〜5月は、様々な提案を学生にさせ た。また、白石市でのフィールドワークを何度も行った。2009 年度のメディアフェスタのミッ ションとゴールは表2の通りである。
文化とコミュニケーションをテーマに、プロジェクトとして考えたのは、1)白石のお土産 グッズの開発(例:こけしを用いた斬新なデザインのグッズ、こけし饅頭やこけしパン、白石 温麺入りお好み焼き等の開発等)、2)白石の観光促進(白石和紙を用いたマップ、外国人へ の観光コース案内)、3)旅館の一部屋を白石づくしにすること等であった。学生が提案した もので、実験できるものは全て実験を試みた。例えば、白石温麺入りお好み焼きは、実験の結 果学生による評価がBとなり、この案は却下となった。基本的に、食べ物の開発は学科の特性 上難しいことがわかった。
表2 2009 年度會澤ゼミ PBL
1.ゼミテーマ 文化とコミュニケーション 備考:
言語・非言語を含む
2.ゼミ人数 9名 女8名 男1名
3.メディアフェスタの
ゼミテーマ おもしろい市 白石とおもしろいを重ね
たテーマ名
4.ミッション 白石市の自然や伝統文化、現代文化 等を尊重し、既成概念にとらわれな いモノのデザイン・制作を行う
学 生 自 ら が 白 石 に 入 り フィールドワークを行う
5.ミッション達成期間 4月から、メディアフェスタ開催時
期までの約半年間 4月から半年間で作業を 終える
6.ゴール 白石市民と協働し、白石市民に喜ん でもらえる発表を行う
7.協力団体 白石市役所、こけしメーカー、白石 和紙研究グループ、温泉旅館かつら や、壽丸屋敷
試行錯誤を繰り返しながら辿り着いたのは、白石のお土産グッズの開発で、こけしハンガー の提案と、白石和紙に柿渋染め加工を施した座布団カバーやスリッパの制作、白石をモチーフ とした様々な絵柄を描いた小皿を作ること、また白石には温泉があることから、旅館の一室を 白石グッズで埋め尽くし、「白石づくしの部屋」を作るという案であった。
本番当日は、白石市の駅前通りにある壽丸屋敷で展示を行った。この展示は、開催期間中 200 〜 300 名の入場者があり、他県からの見学者も数多く、大阪のある地方自治体の方々が本 ゼミの展示を見て、是非大阪で本ゼミの展示をやっていただきたいという要望を寄せられた。
その言葉に学生たちは大変感動したが、予算の関係上期待に応えることはできなかった。
この年度の活動をコミュニケーション教育という観点から評価すると、学生と学外者との対 人コミュニケーション(interpersonal communication)が促進された。学生たちは、放課後や 週末などゼミ活動時間外にも、何度も白石に足を運び、学生自身がそれぞれフィールドワーク を地元の白石和紙研究グループ活動に参加しながら実施し、各自が制作する作品のアイディア へと繋げていった。そこは、白石市民と学生が交流しコミュニケーションを図る貴重な場とも なった。
市民の方々は、大学生は勉強や研究をしているということを前提に話しかけてくるため、学 生が各自の個人内コミュニケーション(intrapersonal communication)を見直す機会ともなっ た。つまり、それまで学習に対して受け身的でいた学生が、市民との対話から、それでは駄目 であることに気付き(自己監視: self-monitoring)、もっと市民が期待する学生像に近づこう と努力し(自己イメージ: self-image)、自分自身の意見や考えをきちんと表現し(自己開示:
self-disclosure)、メディアフェスタ開催時には自信をもって自分達の研究を説明できる学生に なろうと努力していく(自尊心: self-esteem)などのプロセスを観察することができた。この ことはこの年度に限らず各年共通して観察されている。こうした市民との交流について、2009 年度の学生TとKがイベント後に作成した報告書の中で、以下の通り感想を述べている。
学生T:「人と人のコミュニケーション」
今回のイベントは、たくさんの人々との協力で成り立ちました。白石和紙につい て教えてもらい、加工方法や制作協力など自分だけで解決できない案をたくさんも らいました。そこには人と人との繋がり(コミュニケーション)がありました。白 石に足を運び、白石の人と話をする。正直初めてのことなので、大学と白石の間に 距離があると感じていました。しかし、コミュニケーションを続けることでその距 離も縮まり、自然と作品のクオリティも上がりました。白石=こけし・和紙という はじめの知識では作れない、その土地を踏まえた「白石を感じる」作品が作れたと 思います。社会に出ても、コミュニケーションを大事にしたいと思います。
学生K:「白石の過去に誇りを持つ、今に満足をしない、これからに夢を抱く」
今回白石を訪ね、白石和紙研究グループの皆さんとお会いする機会が沢山ありま した。この機会は、私たちにとって、とても貴重な体験でした。皆さんと接してい て感じたことがあります。それは作品を一から知ることです。使用する材料を原材 料から自ら見に行き、どういう工程でできているのかを知る。またどのような方が 作っているのか、実際にお会いしてお話を聞く。そうすることで本当の意味の作品
制作になると教えられました。私自身のことですが、嬉しいことがありました。そ れは白石和紙研究グループのメンバーの方に「きみたちも我々のメンバーだよ」と 言われたことです。白石の方とのコミュニケーションを最も重要と考えている私達 にとって、この言葉は最大の成果であり、最高のご褒美になりました。誠にありが とうございました。
このメディアフェスタは、開催期間中に本学学生や関係者の他にも見物客が白石市を訪れ、
宿泊施設や商店街を利用するなど、地元における経済効果が大きかったということを行政サイ ドから聞いている。また、新しいアイディアの発信という点で、地元産業の活性化(本ゼミの 提案したものが翌年の全国こけしコンクールで入賞)という点でも大きな貢献を果たした。し かし、そこまで到達するまでには、学生達と地元産業の人々が、価値観や考え方の相違を感じ る一種の異文化コミュニケーションをも経験することになった。異文化コミュニケーション は、異なる文化背景を持つ人々とのコミュニケーションを意味するが、国内にも異文化は存在 している8)。本項においては後者のケースについて述べる。それは、旅館の一室を白石グッズ で埋め尽くし「白石づくしの部屋」を作るというプロジェクトを実施する過程で起こった。ゼ ミ生は様々な白石グッズを制作した。例えば、部屋の番号が記されたプレートは、こけしを作 る材料の木材を使用したもので作り、白石和紙を柿渋染めで模様をつけ、それを座布団や ティッシュカバー、スリッパに加工し、客が旅館に滞在中部屋で使えるこけしタンス等を制作し た。しかし、こけしハンガーだけは、地元のこけしメーカーにデザインを示し制作協力を依頼 した。学生には既成概念にとらわれないモノを提案するよう指示していたため、その結果学生 が提案したものは、斬新なデザインの横向きのこけしハンガーであったが、こけしは縦向きと いう伝統を重んじた地元のこけしメーカーでは、そのアイディアに難色を示し、学生の提案を そのまま受け入れることができなかった。その結果、出来上がってきたものは縦向きのハン ガーであった。ゼミ生はこのケースを通して、通常とは異なる発想はなかなか受け入れられな いという異文化コミュニケーションの難しさを体験した。
しかし、メディアフェスタ終了から半 年後の翌年5月、同こけしメーカーの方 が考え直し、本ゼミが提案したオリジナ ルデザインの横向きのハンガーを制作 し、全国こけしコンクールに出品したと ころ入賞し(写真1)、そのハンガーに は注文も入り、結果的には地元産業の活 性化の一助となった。このことは、まさ に異文化コミュニケーションそのもので
あり、学生のアイディアや価値観は、それを受け取る側にとっては〈異文化〉であり、伝統文 化を重んじる人々にとっては考え方や価値観の違いからくる一種のカルチャー・ショックで あったに違いない。
池田(2010)は、カルチャー・ショックは、「新たなものとの出会いが混乱や不安な気持ち を引き起こす場合も、このことばが使われるのだが、逆に、そうした出会いが新鮮な驚きや発 見をもたらすことがある」と述べている9)。この場合も、そのケースに当てはまると考えられ
写真1.2010 年全国こけしコンクール入賞
(2009 年度ゼミ生発案こけしハンガー:
白石のこけしメーカー制作)
る。つまり、学生が提案した斬新なデザインは、こけしメーカーの方には最初馴染みのないも のに対する違和感や戸惑い(カルチャー・ショック)であったかもしれないが、時間をかけな がら再考した結果、学生のアイディアを具現化し、それが全国こけしコンクールで良い評価を 受けることに繋がった。このことは、ゼミ生と市民のコミュニケーションの成果であり、本 PBL のゴールである「白石市民と協働し、白石市民に喜んでもらえる発表を行う」が、実際 に結実した例であったといえる。
3.3.2 2010 年度の PBL(白石市での取り組み)
2010 年度における本ゼミの PBL は、前年度先輩が行ったことと同じことはしないこと、そ して、メディアフェスタを行うにあったて、前年度とはなるべく異なる市民団体と協働するこ とを促した。ゼミテーマとミッション及びゴールは表3の通りである。第2回となるメディア フェスタに参加するにあたって、大学側と白石市行政とのコミュニケーションは、かなりスムー ズになってきていることを実感した。また、学科全体のメインテーマも「白石プリズム回廊」で、
その目的は、たくさんの目をプリズムにして、白石に新しい光を当てることであった。そこで、
本ゼミは 2009 年度交流した組織や団体と比較し、より若い層の市民との交流・協働すること で新しい光があてられないかということを考えた。そこで、白石の自然、伝統文化、現代文化 をモチーフとした衣装をデザイン・制作し、ファッションショーを行うことにしたが、一つの デザインは白石市内の中学校に協力を依頼し、中学生のデザインを取り入れることにした。
表3 2010 年度會澤ゼミ PBL
1.ゼミテーマ 文化とコミュニケーション 言語・非言語を含む
2.ゼミ人数 5名 女4名 男1名
3.メディアフェスタの
ゼミテーマ 白石コスプレファッションショー 対物学重視、リサイクル を取り入れる
4.ミッション 白石市の自然や伝統文化、現代文化 等を衣装に反映さたたデザイン・制 作を行う
学生自らが白石に入り フィールドワークを行う
5.ミッション達成期間 4月から、メディアフェスタ開催時
期までの約半年間 半年間で作業を終える 6.ゴール 白石市民と協働し、白石市民に喜ん
でもらえる発表を行う
7.協力団体 白石市役所、白石東中学校、白石市 公民館
衣装のデザインを考えるにあたって、学生たちは白石市内でフィールドワークを実施し、ど の部分をデザインに取り入れるかを考え、計 13 点の衣装を制作してファッションショーを行 い、その衣装に対する市民アンケート調査も行った(表4)。
当初 150 〜 200 名の観客を予定していたが、ファションショーが始まる直前に白石の天候は 大荒れとなり客足が伸び悩み、観客は 100 名弱であった。それはアンケートの回収率にも影響 した。しかし、天候と集客の問題はイベントには付きもののように思われる。学生たちは、そ のことを実感することになった。
当企画を、コミュニケーションの観点から分析し評価すると、学生と白石市民とのコミュニ ケーションという点ではフィールドワークの回数が限られたが、中学生という若い年齢層の市 民と異年齢間のコミュニケーションをとることができたことは評価できる。また、市民に楽し んでもらうというミッションは、アンケート回答者の8割以上が良かった(「大変良かった 13%」「良かった 75%」)と評価していることから概ね達成できたと思える。また、リサイク ルを取り入れるという観点から、衣装に飾りつけるボタン、レース、ビーズ等は学内に呼びか けて学生や教職員から提供してもらった。学生達は、衣装の制作にリサイクル品を利用しなが らも、低コストですてきなデザインに仕上げる工夫を通して、モノを大切にするということを 学んだ。そのことは、この PBL の副産物ともいえる。ただし、13 点の衣装は全て手作りであ ることから、授業時間では間に合わず、完成させるには夏休みをも必要とした。
また、モデルを募集する上での工夫もあった。ゼミ生と同学年の学生たちは、すでに各ゼミ のプロジェクトに関わっており手一杯だったことから、下の学年にゼミのコンセプトを説明し てモデル募集をかけることになった。そのためには、自分達が手がけている研究やプロジェク トの趣旨を分かりやすく言語化して説明しなければならず、異学年間のコミュニケーションを 経験するという難しさを感じながらも、相手を説得しなければ自分達のプロジェクトが実現し ないので、必死に取り組む様子が観察された。結果、6名のモデルを2年生から募集すること ができた。
表4 2010 年度ゼミ生が制作した衣装
コンセプト 衣装名 デザイン・制作 市民アンケート結果:
良かったと思う衣装
(回収 32 枚)
1 白石の自然 雪ん子 2点 ゼミ生 3 票
2 白石の自然 碧水園 2点 ゼミ生
3 白石の自然 水の精 ゼミ生 6 票
4 白石の自然 山吹の花 ゼミ生 5 票
5 白石の自然 スパッシュランド
の芝桜 ゼミ生 19 票
6 白石の伝統文化 こけしドレス ゼミ生 7 票
7 白石の伝統文化 うーめんドレス ゼミ生 6 票 8 白石の現代文化 現代ファッション ゼミ生 3 票
9 白石の現代文化 現代かわいい ゼミ生 3 票
10 白石の歴史 小十郎 ゼミ生 8 票
11 白石の歴史 小十郎姫 デザイン:
地元の中学生
制作:ゼミ生 6 票
このプロジェクトを実施するためには、ゼミ生5名で全ての作業を行わなければならず、一 人ひとりが何役もこなさなければならなかった。ゼミ生の中に対人コミュニケーションが苦手 で赤面恐怖症の学生もいたが、その学生さえもイベント当日はファッションモデルとして登場
しなければならず、幾度も練習やリハーサルを繰り返す中で対人コミュニケーション不安の要 素を少しずつ克服していく姿が観察された。
また、限られたゼミの予算をやりくりしながら、色彩や素材の組み合わせ等で人々を魅了す ることを手がけたデザイン担当のゼミ生は、翌年アパレル業界に学年トップで内定が決まり、
就職後は初年度にしてその業界で東北第1位の売り上げを達成することができるほどの人材に 成長した。
3.3.3 2011 年度の PBL(白石市での取り組み)
前年度の本ゼミの PBL が、非言語コミュニケーションに重点を置いたことから、2011 年度 においては音声表現や音声解釈という言語コミュニケーションの分野を取り上げ、白石をモ チーフとして紙芝居の制作・上演に取り組んだ(表5)。本ゼミ生と白石市民とのコミュニケー ションという点で、メディアフェスタの初回は、大人を対象としたコミュニケーションがメイ ンであった。第2回目のメディアフェスタでは、中学生とコラボレーションを図ることで若い 世代にもアピールしたが、やはり観客のほとんどが大人であった。
メディアフェスタ第3回目となるこの年度においては、過疎化が進む町で、次世代を担う子 どもたちにも白石の魅力を再発見してもらいたいという願いから、コラボレーションをする年 齢層をより下げて、幼稚園の園児に協力してもらい、子どもも大人も楽しめる企画として、2 つの紙芝居を制作・上演することにした。
表5 2011 年度會澤ゼミ PBL
1.ゼミテーマ 文化とコミュニケーション 言語・非言語を含む
2.ゼミ人数 6名 女6名
3.メディアフェスタの
ゼミテーマ めくるめく白石 〜紙芝居〜 歴史伝統と現代をテーマ に2つの作品制作
4.ミッション
2つの紙芝居制作
1)白石市の歴史伝統文化から片倉 小十郎と伊達正宗を鳥のキャラ クターに置き換えた紙芝居『オ カメ大活躍』
2)現代文化から白石市と姉妹都市 があるオーストラリア、ハース トビル市との異文化比較の紙芝 居『オーストラリア旅行』
学生自らが白石に入り フィールドワークを行う
5.ミッション達成期間 4月から、メディアフェスタ開催時
期までにミッションを達成する 半年間で作業を終える 6.ゴール 白石市民と協働し、白石市民に喜ん
でもらえる発表を行う
7.協力団体 白石市役所、ひかり幼稚園、専念寺、
他力舎
一つ目の作品は、白石市の歴史伝統文化から片倉小十郎と伊達正宗を鳥のキャラクターに置 き換えた紙芝居『伊達政宗(オオム)と片倉小十郎(オカメ):オカメ大活躍』というもので ある。ストーリーは学生が考え、シナリオも学生の書き下ろしたもので、仙台から伊達政宗の
オオム君が白石にやってきて、片倉小十郎のオカメ君の家に、ある期間滞在することになるの だが、白石に馴染めないでいるオオム君に、白石の名物の温麺や美しい自然を紹介しながら白 石の良さに気づかせ、しだいに白石を好きになってもらうという紙芝居である。
二つ目の作品は、現代文化に焦点を当てて、白石市の姉妹都市があるオーストラリア、ハー ストビル市と日本を異文化比較の観点からクイズ形式の紙芝居『オーストラリア旅行』を制作 した。この紙芝居を制作するにあたって学生が気づいたことは、白石市民の中で姉妹都市があ ることに気づいていない人々が多いのではないかということであった。白石市は、中学生対象 の研修旅行で、オーストラリア、ハーストビル市に生徒を毎年派遣していた。そこで、実際に その旅行に参加した経験を持つ白石市民にインタビューを行い、紙芝居のストーリーを考える 上での参考とした。その中で、子どもたちが描くオーストラリアの絵を取り入れたいと考え た。学生たちは、協力を申し出てくれた幼稚園に足を運び、自分達のプロジェクトを説明し、
理解と協力をお願いした。その結果、幼稚園児から 27 枚のオーストラリアをイメージした絵 が寄せられ、紙芝居で紹介することができた。当日は、協力してくれた幼稚園児はもちろんの こと、子連れの客がたくさん入り、クイズ形式の紙芝居ではクイズ正解者に景品を出したこと で会場が大変盛り上がり、市民と学生の相互交流の場となった。
ゼミのアンケート結果(回収 52 枚)では、伊達政宗(オオム)と片倉小十郎(オカメ)の 友情を描いた『オカメ大活躍』が良かったとする者が 30%で、『オーストラリア旅行』が良かっ たとする回答が 42%、白石市の姉妹都市を知っていた者は 19%、知らなかった者は 75%だっ たことから、学生の「白石市民で姉妹都市があることに気づいていない人々が多いのでは」と いう予測はある程度当たっていた。また、言語表現、音声解釈という点でのアンケート結果を 見ると、「会場の人々を引きつけるところが素晴らしかった」、「面白かった」という意見が寄 せられ、紙芝居のプロの方に2回御指導いただいた成果が表れていた。また、71%の方がこの 紙芝居を観て総合的に満足できたと答えている。ゼミ生の感想で共通していたことは、観客を 前にライブで実演・上演を行うことの難しさと同時に、素晴らしさを体験できたということで ある。そのことは、オーラル・インタープリテーションやオーラル・パフォーマンスで起こり うる、演者と聴衆とのダイナミックなコミュニケーションを意味している。聴衆のフィードバッ グによって会場がますます盛り上がり、演じる側の励みに繋がっていくということを学生達は 直接体験することができ、実践的なコミュニケーション教育の場となった。また、白石市民と のコミュニケーションという観点では、白石での開催が3年目となったことから、本学科のイ ベントが定着しており、毎年イベントを見に来てくれる常連客も数多くいた。
3.3.4 2012 年度の PBL(仙台市での取り組み)
2012 年度は、新たなメディアフェスタ開催地の可能性を探る上で、仙台市卸町にある文化 施設「能 BOX」で、文学作品や詩等の音声解釈を行うということを試みた。当時、学科とし てはメディアフェスタ開催の新たな候補地を探していた。よって、この年度の本ゼミの PBL は、
これまでにない取り組みを実験的に行うために、学科全体の第4回メディアフェスタにはゼミ としては参加せず、ゼミ単独でのプロジェクトに取り組んだ。この年度の PBL は、仙台市の 中でも特に文化産業に力を入れている地区に注目するとともに、ゼミテーマとして同分野の テーマを取り入れている他大学のゼミとコラボレーションを行うというユニークなものであっ た(表6)。
表6 2012 年度會澤ゼミ PBL
1.ゼミテーマ 言語・非言語コミュニケーション 音声表現と身体表現の融 合
2.ゼミ人数 5名 女4名 男1名
3.プロジェクトテーマ 音声解釈:文学作品、詩、歌詞、書 き下ろしのシナリオ等を音声解釈で
表現する 様々な人間模様の表現
4.ミッション
メディアフェスタ候補地の開拓、な らびに仙台市卸町の新たな文化施設
「能BOX」を利用しながら表現活 動を試みる
卸町の人々や他大学とコ ミュニケーションをとる
5.ミッション達成期間 4月〜 12 月の間 前期7月、後期 12 月の 2回「能BOX」で上演
6.ゴール
2011 年仙台市卸町に完成した新た な文化施設空間の利用促進、卸町の 人々との交流、同じテーマをゼミ テーマとしている他大学ゼミとのコ ラボレーション
様々な人々とコラボレー ションを行いながら自己 啓発を行う
7.協力団体 仙台卸商センター、仙台演劇工房 10-BOX、シェークスピアカンパ ニー、東北学院大学下館ゼミ
ピアレビュー、外部評価 導入
仙台市卸町で将来的にメディアフェスタを開催することを想定し、これまで本学と接触がな かった仙台卸商センターの人々とコミュニケーションを図ることから始めた。よって、ゼミ生 は仙台卸商センターを訪ねるなどして、中小企業が大半を占める卸町の特徴を理解することに 務めた。卸町は、文化事業に力を入れており、演劇関連施設も数カ所あり、若者の集客方法や 活動活性化について関心を持っていた。2011 年に新たな「能 BOX」(能舞台)を設置したこ ともあり、その施設の利用促進も考えていたことから、双方にとって都合が良かった。
また、演劇をテーマに活動している他大学のゼミ(東北学院大学下館ゼミ)とコラボレーショ ンを行い、前期と後期各1回計2回の交流を通して互いに客観的評価をし合うことによって、
自己啓発に繋げる試みも行った。まず第1回目のコラボレーションは、2012 年7月に本ゼミ が卸町の「能 BOX」で音声解釈の発表を行い、その発表を東北学院大学下館ゼミ生が観て、
コメントを述べるという大学生間のピアレビューを行った。また、シェークスピアカンパニー というプロ組織の方々にも観てもらい、プロの目線からも指導をいただくという2段構えの外 部評価を導入した。ゼミ生は、自分たちのキャンパスとは異なる空間で観客も他大学生や演劇 のプロということで、極度の緊張を経験した。しかし、自分達が決めたプロジェクトを達成す るには、その緊張を乗り越えるしかないと決心し、7つの作品の音声解釈表現を行った(表7)。
「能 BOX」の舞台で発表したゼミ生の一人は、「会場内は、とても厳かな雰囲気を漂わせ、私 の緊張を更に強めた。」と本ゼミ報告書に書いている。その点でも、自分達のキャンパス空間 を飛び出して外の世界を経験したことの意味は大きかったと評価できる。
表7 2012 年度會澤ゼミ音声解釈作品 発表会 音声解釈(*は本ゼミ生作品) 評価者 2012 年7月 25 日
於:「能 BOX」 1.『劇団空回り』作者不明 2.『メッセンジャー』鈴村健一作 3.『今のキミを忘れない』ナオト・イン
ティラミ作
4.『ロミオとジュリエット』(バルコニー シーン:英語版と東北弁版*)シェイ クスピア作
5.『道程』高村光太郎作 6.『曖昧ミー』*
7.『こうかい』*
シェークスピアカンパニー 東北学院大学下館ゼミ
2012 年 12 月7日
於:「能 BOX」 1.『2012』林 保徳作
2.『クリスマスキャロル』チャールズ・
ディケンズ作
東北学院大学下館ゼミ
東北学院大学下館ゼミ生による演劇
『マクベス』シェイクスピア作 尚絅学院大学會澤ゼミ
この PBL に、年2回の外部評価(他組織や他大学)を取り入れたことは、学生の自己イメー ジ(self-image)、自己監視(self-monitoring)、自尊心(self-esteem)など個人内コミュニケー ションの観点においても、彼らの成長を促したと思われる。例えば、初回の発表会で学生の一 人は、「他大学の方は若干物足りない様子でしたが、恐らくあれが私にとっては精一杯でし た。」という自己監視(self-monitoring)の結果からくる感想を述べながら、「他大学の方々か らいただいた意見は、今後の私たちの活動に役立つものばかりでした。」と報告しており、自 己評価や向上心を窺わせる感想を残している。この年度の取り組みはイレギュラーなもので あったが、将来のメディアフェスタの候補地や新たなやり方を模索する上では大変参考となっ た。前期の発表会までは、練習期間が1ヶ月半で本番を迎えたため、能舞台という空間で思う ように表現しきれなかった部分がたくさんあったが、それは後期の課題に持ち込むことにし た。そして迎えた第2回目のコラボレーションは、同年の 12 月に再び「能 BOX」で行い、本 ゼミ生による2つの作品の音声解釈表現を行い、他大学ゼミはマクベスを演じ、お互いに評価 し合った。
本ゼミは3年生のゼミであったが、他大学ゼミは4年生を対象としており、学年的には1年 上で、そのことはお互いにとって良い意味でのプレッシャーとなった。能舞台の空間の使用 で、2つの大学がそれぞれ異なる演出をしたため(本学は舞台の正面を使い、他大学は舞台の 横を正面として使うなど)、新たな空間の利用法が生み出された。
この年度の取り組みをコミュニケーションの観点から評価すると、個人内コミュニケーショ ン、対人コミュニケーション、組織を超えたコミュニケーション、非言語(空間)コミュニケー ションの4つの領域を学生達は経験することになった。特に、空間のコミュニケーション・コ ンテクストの変化を顕著に学ぶことができた。池田(2010)が「空間は単なる広がりをもつモ ノではなく、それ以上の何かなのである。」と指摘しているように10)、同じ音声解釈表現を行 うにあたって、自分達の大学の教室で発表するのと、審美性を兼ね備えた日本的伝統空間を使っ て表現するのとでは、空間認識が異なり、それは心理状態や表現方法にも影響を与えることが 考えられる。この年度の PBL はゼミ生や筆者にとって、大変貴重な経験となった。
3.3.5 2013 年度の PBL(名取市での取り組み)
2013 年度は、本学が立地する宮城県名取市において、第5回目のメディアフェスタを実施 した。学科としては、4年間連続して白石市で地域文化発信のメディアフェスタを行ったわけ だが、白石市民から素晴らしい取り組みなので、是非他市町村でも開催してみてはという意見 が寄せられていた。そのこともあり、名取市とは何度か話し合いの場を持ち、白石での成果を 報告しながら、市民との協働やコミュニケーションを大切にしていくことなどを説明し、行政 サイドの理解もようやく得られ、この地での開催が決定した。
それまでのメディアフェスタは、複数の会場で各ゼミがそれぞれのプロジェクトを発表する という形式をとっていたが、名取市開催においては、全てのゼミのプロジェクトを名取市文化 会館のみで発表するという形式を試みた。
本ゼミは、「異文化研究」をテーマに、名取市の国際化や国際交流に関するプロジェクトに 取り組んだ(表8)。国際交流や異文化理解をゼミプロジェクトに選んだ理由としては、仙台 空港そのものが名取市(敷地の一部は岩沼市)にあり、仙台空港活性化を検討する「仙台空港 等活性化検討会・臨空地域等活性化検討会」が 2012 年度から立ち上がったことと、筆者自身 が、名取市の国際交流に数年前から関わってきたことなどがある。
また、2013 年6月から、名取市にある仙台空港にハワイアン航空が就航した。よって、本 ゼミは、1)名取市の国際交流活動について調べる班と、2)ハワイアン航空就航を記念し、
ハワイの文化に関して調べる班と、3)ハワイのフラダンス音楽を研究する班の、3つの班に 分かれて活動を行うことにした。各班の調査活動結果は、イベント当日、名取市の国際交流活 動とハワイに関する内容を展示した。そして、パフォーマンス部門では、ハワイに関する文化 研究のクイズショーを観客と発表側が双方向に進めて行き、最後はハワイの音楽を演奏しなが ら全員で歌うという取り組みを行った。
表8 2013 年度會澤ゼミ PBL
1.ゼミテーマ 異文化研究 言語・非言語を含む
2.ゼミ人数 9名 女7名 男2名
3.メディアフェスタの
ゼミテーマ ともに楽しむ異文化 市民も学生も、ともに楽 しめるテーマ
4.ミッション 名取市の国際交流活動について調 査・研究仙台空港(名取市立地)の活性化
学生自らが名取市に入り フィールドワークを行う
5.ミッション達成期間 4月から、メディアフェスタ開催時
期までにミッションを達成する 半年間で作業を終える 6.ゴール 名取市民と協働し、名取市民に喜ん
でもらえる発表を行う
7.協力団体 名取市役所、国際交流協会ともだち in なとり、名取ロータリークラブ
この年度の取り組みで、学生達は名取市の国際交流を行っている組織団体とコミュニケー ションをとることができ、国際交流についても考えることができた。
名取市における初回のメディフェスタは、様々な問題点や課題を考える機会となった。一つ には、メディアフェスタを行う場所が駅からは遠く、アクセスの点で課題が残った。もう一つ は地形の問題で、城下町である白石市と大きく異なる点は、駅を中央に繁華街や中央公民館の 配置がコンパクトな白石市とは違って、名取市は南北に大きく地形が広がり、しかも、沿岸地 域、旧市街地、山側の新興住宅街が3つ点在しており、そうした地理的条件下で、より多くの 市民をイベントに巻き込むことは非常に難しかった。この年度のイベント参加者は名取市民よ りも仙台市民(本学関連者や学生、学生の友人・父兄等)の数のほうが上回った。また、メディ フェスタと並行して、名取市内では複数のイベントが同日開催されていたこともあり、集客が 思うようには捗らなかった。
そのような条件下においても、メディアフェスタという PBL を行ったことにより、実施前 と実施後とでは少し変化が見られた。まず一つ目としては、名取市行政と大学との組織コミュ ニケーションが活性化したこと、二つ目としては、市民と学生の交流の機会が増えたことであ る。例えば、メディアフェスタ開催後に、それまで交流のなかった組織から本ゼミに対して、
国際交流イベントへの招待が数回あった。名取市における初回の取り組みとしては、大きな一 歩であったと思う。
4.PBL の成果と課題 4.1 PBL の成果
本ゼミでは、PBL の成果を毎年『ゼミ報告書』という形でまとめている。報告書は学生が 主体となって編集し内容を決めており、その構成は、1)表紙、2)目次、3)ゼミのシラバ ス、4)メンバー表、5)活動経過録、6)プロジェクト内容、7)学科内中間発表プレゼン テーション原稿、8)活動記録写真、9)各学生の企画書、10)各学生による考察・感想、
11)メディアフェスタリーダー会議録、12)広報活動(テレビ、ラジオ出演、行政が発行した 広報誌等)、13)アンケート結果、14)謝辞、15)奥付という構成になっている。
この報告書は、学生たちが取り組んだプロジェクトを客観的に見直すと共に、問題点や力が 及ばなかった点を反省させる良い機会となっている。特に、活動経過録や活動写真を振り返る と、学生たちがその地域の人々の信頼を得るために努力したコミュニケーションのプロセスが 明らかになる。そうした意味でも報告書作成は、地域社会や地域住民と協働することにより、
学生が体験したことを自ら言語化し、記録化していく作業として、あるいは PBL の成果を振 り返る上でも、欠く事ができない最後の仕上げ作業と思われる。それは、指導する側にとって も学生にとっても共有の知的財産となりうる。
ゼミ単位で行う PBL は、ゼミ生をどのように動かすかが重要な鍵を握る。もちろん、ゼミ 活動に積極的にコミットする者(積極組)とそうでない者(消極組)との間に差が出ることは、
一般的に考えて集団コミュニケーションにありがちな傾向といえる。しかし筆者の場合、それ はゼミ生数が若干多めの年度のみ観察されたが、逆にゼミ生が5名という少ない年度は、授業 欠席者ゼロということを経験した。つまり、人数が少ないことは、プロジェクトを遂行してい く上でハンディとはならなかったのである。もちろんプロジェクトの内容にもよるが、メン バーが少ない年度は一人が何役も受け持たなければならず、それ故暇な時間が一切なかったの である。それは、学生たちが最後まで責任を持ってプロジェクトを仕上げる上でプラス要因と
なった。
また、学生たちは、プロジェクトの立ち上げから、計画遂行、イベント実行まで、様々なコ ミュニケーションを経験した。特に広報の目的でテレビやラジオに出演する際、大学とは異な る別組織の人々とコミュニケーションをとることに緊張や苦労もあったが、それは様々なコ ミュニケーションを経験するという点で、彼らの成長に繋がっていった。PBL の成果には、
学生のコミュニケーション・ネットワークの拡大と、異世代・異年齢間のコミュニケーション の活性化や、外部評価を通して得る個人内コミュニケーションの充実と向上等も挙げられる。
4.2 PBL の問題点
PBL を実施するにあたっての問題点も指摘しておきたい。第1に、タイムマネジメントで ある。筆者が数年間取り組んできて大変だった年がある。それは2年目の取り組みで、ファッ ションショーというプロジェクトであった(表4参照)。企画そのものは聞こえが良くとも、
全ての作品を手作りで仕上げる場合、ゼミ生数が少ないことは制作時間の長期化を意味した。
中には、一度も縫製をしたことがない学生がおり、制作には 90 分1コマでの授業では間に合 わず、ゼミ授業時間外にもう1コマ加えて2コマ体制で指導したため、前期は 15 コマ実施す ればよいところ、30 コマ分指導する結果となった。加えて、夏休み中も作品作りの指導を何 度もしなければならず、膨大な時間を必要としたことである。例え学生がやりたい企画だった としても、それを完成させるまでのタイムマネジメントがきちんとできるか否かということを 最初に見極めて判断する必要があることを痛感した。よって、プロジェクトを立ち上げる際に は、企画の内容と所要時間との関係をしっかりと把握することが大切である。同時に、プロジェ クト途中で学生の欲求が「もっと作りたい」とエスカレートする場合のコントロールなどは、
全てプロジェクト・タイムマネジメントに関わってくる問題といえる。
第2に、経費としての予算の問題があげられる。最初の3年間は私立大学等経常費補助金特 別補助「教育・学習方法等改善支援」という補助金11)があったものの、それ以降は学科の予 算の中で規模を縮小して行っている。また、最初の頃メディアフェスタを実施する上での交通 手段(自家用車の利用等)に大学側からの規制はなかったが、今は学生の自家用車利用や教員 の自家用車への学生同乗等が規制されており、フィールドワークを自由に行うことが困難と なった。しかし、安全性を確保する上ではやむを得ないことと思われる。現在は、公共の交通 手段を使ってプロジェクトのフィールドワークを行っている。予算削減は、学生や教員が行う フィールドワークの予算削減にも繋がることを意味している。つまり、プロジェクト計画を立 てる段階でそのことを考慮し、無理のない計画を立てることがプロジェクトを遂行して行く上 で重要となる。
4.3 今後の課題
課題として見えてきたのは、PBL を学生の個人内・対人・集団・組織・異文化コミュニケー ション教育という目的で実施するのであれば、学科全体による大規模予算を組まなくとも、あ る程度可能ではないかということである。メディアフェスタの目的は、学科全体で地域の魅力 を再発見し地域貢献したり、地域文化を学生の視点から発信することであり、複数のゼミが 各々のプロジェクトに取り組むことになっているため学科全体による大規模予算を組まざるを えない。しかし予算が縮小していく中では、別の発信方法を探る必要もある。本ゼミが 2012 年に、メディアフェスタの候補地探しを目的にゼミ単独で実施した PBL は、学生のコミュニ ケーション教育という観点では十分に目的を果たしていた。また、地域連携を視野に置くので
1) PBL(Project Based Learning)は、「プロジェクト型学習」や「課題解決型学習」などと訳される。また、
Problem Based Learning(問題解決型学習)というものも同様に PBL と表記されているが、本論では、前 者の PBL(Project Based Learning)を「プロジェクト型学習」として用いる。
2) 同志社大学 PBL 推進支援センター(2012)『自律学習意欲を引き出す ! PBL Guidebook PBL 導入のため の手引き』同志社大学 PBL 推進支援センター(巻頭頁)。
3) 先導的 IT スペシャリスト育成推進プログラム拠点間教材等洗練事業 PBL 教材洗練 WG(2011)『PBL
(Project Based Learning)型授業実施におけるノウハウ集』p.1.
http://grace-center.jp/wp-content/uploads/2012/05/pblknowhow20110726.pdf#search='PBL', 2015.3.19.
4) Krauss, J. and Boss, S.(2013).
Thinking Through Project-Based Learning
. Thousand Oaks, CA: Corwin. p.5.5) 鈴木敏恵(2013)『問題解決力と論理思考力が身につくプロジェクト学習の基本と手法』教育出版社、
あれば、同地域における他の高等教育機関との連携 PBL という形があってもよいのではない かと思う。また、通年を使う長期型 PBL の他に、半期(1セメスターのみ)で完結させる短 期型の PBL があってもよい。よって、今後の課題は、1)低予算でも実施可能な PBL を開発 していくこと、2)他大学との連携、3)短期完結型の PBL の開発等があげられる。
5.おわりに
プロジェクト型学習を導入している大学では、多少なりとも一定の効果を得ているものと思 われる。本論においては、PBL を大学3年生の必修授業の一環として実施した取り組みを紹 介すると共に、それをコミュニケーション教育という観点から評価した。また、PBL は学生 に個人内・対人・集団・組織・異文化コミュニケーションの様々な局面を経験させる上で効果 的であることを論じた。
教室やキャンパスという限られた空間を飛び出して、地方行政や地域住民と対話しながら進 めた PBL は、学生にとっては異なる組織の異世代・異年齢の人々とコミュニケーションを図 る場となり、それまでの個人内コミュニケーションを見直し、新たな対人コミュニケーション を構築する機会ともなった。また、学生にとっても、指導する側の教員にとっても、組織を超 えたコミュニケーションの難しさを経験する機会ともなった。地方行政や市民にとっては、異 なるモノの見方や考え方、あるいは学生が発信する新しい文化表現様式を受け入れる一種の異 文化コミュニケーションの場としても機能していた。
大学の学びにおいては、知識や技能の修得の他に、考える力、問題解決力、新しいアイディ アを生み出す発想力や創造力が求められる。そうした能力は卒業後に社会人として活躍する上 で必要であり、PBL はその準備の意味でも学生の成長を促すものである。こうした取り組み を何らかの形で授業に取り入れることにより、学生のコミュニケーション力、社会連携力、課 題探求力、組織運営力、企画提案力、自己表現力、自己認識力等を高めてくれるものと思われ る。
謝辞
本ゼミ活動に御協力いただいた全ての方々に感謝したい。
註
池田理知子編著(2010)『よくわかる異文化コミュニケーション』ミネルヴァ書房 伊佐雅子監修(2010)『多文化社会と異文化コミュニケーション』三修社
Krauss, J. and Boss, S.(2013).
Thinking Through Project-Based Learning
. Thousand Oaks, CA: Corwin.鈴木敏恵(2013)『問題解決力と論理思考力が身につくプロジェクト学習の基本と手法』教育出版社
同志社大学 PBL 推進支援センター(2012)『自律学習意欲を引き出す ! PBL Guidebook PBL 導入のための手 引き』同志社大学 PBL 推進支援センター
宮原哲(2009)『〈新版〉入門コミュニケーション論』松柏社
pp.18-19.(原文は「ですます調」で書かれているが、本論では「である調」に統一して表記。)
6) 山田和人同志社大学 PBL 推進支援センター長「PBL の教育的意義・効果と PBL 授業の仕方の基本」、2013 年度 10 月 19 日尚絅学院大学 FD・SD 研修会講演資料より。
7) 2014 年度のメディアフェスタに関しては、メディアフェスタ実施6回目にして初めて学科として『2014 年 度尚絅メディアフェスタ報告書』を発行したため、本ゼミの取り組みの説明はその報告書に詳しく掲載し ている。よって、本論では 2013 年度までの取り組みについて言及する。
8) 宮原哲は、異文化=外国と考えられるが、国内でも異文化が体験できるとしている。宮原哲(2009)『〈新版〉
入門コミュニケーション論』松柏社 pp.222-223.
9) 池田理知子編著(2010)『よくわかる異文化コミュニケーション』ミネルヴァ書房 p.100.
10) 池田理知子(2010)「第1章:空間、時間、異文化コミュニケーション」、伊佐雅子監修(2010)『多文化社 会と異文化コミュニケーション』三修社、p.16.
11) 同補助金は、申請当時はあったが平成 21 年度よりこの項目は廃止となっている。
引用文献