パ ブ リック ・セクターにおける業績給制度
一英国政府の人事管理改革 に関連 して‑
山 本 清
1.は じめに
現在民間部門では,バ ブル後の不況対策,低成長経済への対応のためホワイ トカラーの人事管理の改革が盛んである。企業内 「 余剰」労働力を関連会社 に 出向させ る従来か らの方策に加え,加点主義人事考課,年俸制の導入, さらに は勧奨退職 という名の下での事実上の 「 首切 り」まで一部企業には発生 してい る。 これ らの動 きは,基本的には伝統的な 「日本的雇用管理」か ら個人の業績 に着 目した能力主義,成績主義 による人事管理への移行であ り,賃金管理 も年 功序列型か ら能力給,成績給の比重を高める方向 ( 賃金が能力及 び成績により 決定 される制度を以下「 業績給」 制度 とい う) へ変化 しよ うとす るものである。
一方, ここで取 り扱 う公的部門は,建て前 はともか く従来民間以上 に年功序 列 と終身雇用の色彩が濃い組織であるとされて きた。すなわち,我が国公務員 制度 は法律 によ り成績主義を基本原理の一つ としていて,採用,昇進及 び昇給 を勤務成績,能力に応 じて行 うことにより能率を高めることを意図 している。
勤務成績優秀者 に対す る特別昇給や勤勉手当 も制度化 されている。 しか しなが ら, これまでの実態 は採用 こそ公正な試験 によ り成績主義に基づいているが, 昇給,昇進 は民間以上に年功序列型であ り,特別昇給が持 ち回 りで運用 された り勤勉手当の成績率の差 もほとんどない状況である。最近 にな り人事院及 び地 方 自治体人事部局で 「 能力主義」及 び 「 職務給」の徹底が叫ばれ るよ うになっ てきた。特 に,地方 自治体では制度改革の機運が高 まってお り,例えば北九州
〔 211 〕
2 12 商 学 討 究 第 44 巻 第 1・2 号
市では来年 ( 1 99 4 ) か ら挑戦加点制度の新設及 び業績重視の評定要素の見直 し等が実施予定 とな ってお り,また,兵庫県で は 1 9 87 年か ら異動役職への 自 己申告制度 による登用が行われている。 この理由として,鹿児 島 ( 1 9 9 2 ) は,
1 )地方 自治行政の主たる目的がナショナル ・ミニマム達成か らシビル ・ミニ マム実現へ移行 したことか ら,従来の国の基準 に したが って業務を的確に遂行 す る能力 と異なる自主性,創造性が職員に求め られ るようになった こと, 2)
住民意識の向上 により行政効率への関心が強まり少数精鋭の能率的な組織が要 求 され ることになったこと,を挙げる。確かに自治体職員では今や政策形成, 政策型思考がブームであり,先端的施策は中央よりも地方 自治体か ら生まれ, それを中央政府が全国展開を図 るパターンが近年増大 しているか ら,政策形成 に有能な職員を配置 して人事 ・給与面で も適切 に処遇す る必要がある。行政効 率の向上 も政策的対応 と人事管理に関連する。 しか しなが ら,地方 自治体で国 よりも人事管理の見直 しが盛んなのは,上記行政を取 り巻 く外部環境の変化へ の対応 という側面の他,行政組織の内部環境の変化に対応せざる得な くなって いる側面がある。つまり,経済の高度成長に併せて 自治体が行政需要 に対応あ るいは先取 りす る形式で社会福祉サービスや社会基盤整備に努めた結果, 自治 体職員 もこの 4 半世紀の間に約 4 割増加 し, この割合 はこの間の人 口の伸 び ( 約 25%) を上回 っているのであ る。 このため,職員数の ピークは 1 98 3 年 に 迎えたが,年齢階層別の職員構成は社会福祉,公害対策等行政活動を急激に拡 大 させた時期 ( 1 97 0 年前後)採用者 ( 1 991 年で 40‑43 才の層)が突 出す る形
となっている ( 下表参照) 。
公務員の年齢階層別分布 ‑1 9 9 1 . 4. 1 現在 ‑
年 齢 全地方 自治体 ( 一 般行政職) 国家公務員 ( 行政職 ‑ )
‑2 4 未満 6 .8% 8 .7 %
24‑28 8 .5 l l .5
28‑3 2 9 .7 1 2 . ‑ 5
3 2‑3 6 1 2 .3 1 0 .7
パブリック ・セクターにおける業績給制度 213
出典 :地方公務員給与制度研究会 『 平成 3 年地方公務員給与の実態 』( 1 99 2 )
実際, この層は国 と比較すると際だって大 きなシェアを占めてお り ( 国の場合 より 4 割強多い) ,ポス ト対策の悩みの種 とな っている。国の場合 は,予算規 模の拡大 にかかわ らず総定員管理で戦後 ピーク時 1 96 7 年の 8 9 9 千人が 1 991 年で 8 63 千人 と横ばいになっているの と対照的である (もっともこの人員管理政策 が地方 自治体に国の行政の一部を肩代わ りさせた側面 もある) 。財団法人東京 市 町村 自治調査会 ( 1 98 8 ) の調査 によると, ほぼ この層 に対応す る 1 9 47‑5 0 年生まれの都内市町村勤務男子職員 ( 大卒以上が 2/ 3) の約 6 割が未だ係長 職 についていないとい う。そ して, 上記年代の処遇問題 は単 なる「 団塊 の世代」
対策の問題ではないのである
。労働省 『 賃金構造基本統計調査』 ( 1 99 0 ) によ れば大企業に勤務する団塊世代 4 0‑44 才男子大卒者の うち係長職に達 していな いのは 29 . 6% にす ぎない ことを考慮す ると, 自治体の方が民間よ りもポス ト 不足であると想定 され るのである。前記突出 した集団の人事管理を行 うには, 年功によ り全員 ほぼ同時期に昇進できた組織成長期の政策 は取れないか ら,限 られたポス トに対す る選抜を実施す るはかな く, 自ず となるたけ客観的な能力 及び成績評価に基づ く人事管理 と賃金管理が要請 されて くる。 これが,自治体 で能力主義人事管理への転換が強 く迫 られている本音の要因 と思われ る。
しか しなが ら,成績主義の原則を長い間骨抜 きに して運用 してきた我が国の
中央及び地方政府が能力,業績 による人事 ・賃金管理 に移行す るには肝心のノ
ウ‑ウがな く手探 りの状態である。民間の人事管理を適用すればよいとい うの
は行政活動の特性 ( 非 自律性)を踏まえた議論 とは言えない。そこで,本稿で
は最近業績給制度を導入 した英国政府での導入経緯及び運用実態について報告
214 商 学 討 究 第 44 巻 第 1 ・2 号
す るとともに,そ こか ら得 られ る教訓 と我が国が適用す る場合の課題 について 検討す る。英国政府を対象にす るのは,中央政府 も含めた我が国への適用可能 性検討を検討す る場合 には,政治制度が議院内閣制であ り公務員制度 も事務次 官まで中立的官僚 ポス トである点で類似 しているか らである
。米国 はメ リッ ト 給制度 として知 られ るように業績給の先進国であるが,大統領制である他,中 央官庁の特定課長以上のポス トが政治的任命職である点で比較の対象 として好 ま しくない。また,英国,米国の地方政府を例 に して検討す ることも考え られ るが, 自治体の組織が異 なるよ うに業績給の制度 も種 々あるため,選択す る自 治体の成果 に評価が左右 され る欠点があ り, さ らに,運用実態を調査す るため
の技術的制約を受 けるか らである。
かか る観点か ら本稿 は以下のような構成になっている。第 2 節では,最初 に 公務員制度の概要を解説 し,次 に英国政府 において業績給が導入 された背景 と 経緯及びその展開過程を述べ る。第 3 節では,業績給の運用実態を 1 )業績評 価 システム, 2)評点分布, 3)評価 と賃金 との関係及び 4 )市場価値がない 等の公的部門の特性配慮の程度,について前能率室 メ ンバーか らの回答を踏 ま え紹介す るとともに,米国 ( 特 に州政府)及 び英国 自治体の学校の事例 と比較 して考察す る。第 4 節では,業績給の成果 ・効果について既往研究を整理 し, また,英国政府が従来加え られてきた批判,欠点にどの程度対応 しているかを 検討 し,同時に現行制度の問題点に触れる。最後の第 5 節では,賃金管理 と人 事管理の関係を考察 し業績給の限界 と我が国に適用す る場合の教訓 と課題を述 べ る
。2.業績給導入の経緯
( 1 ) 英国政府の公務員制度の概要
英国の公務員制度 はサ ッチャー前首相及 び後継者のメイ ジャー首相 による行
政改革 に伴 い, 大 きく変貌 してお り, 現在 も改革が進め られている。このため,
英国本国のテキス ト自身がす ぐ時代遅れになる状況であ り, ここで検討す るの
パブリック ・セクターにおける業績給制度 2 15 も現時点の制度であることを断 っておきたい。現在中央政府の公務員 は約2, 3 0 0 千人で あ り, うち非現業公務員 ( non‑i ndus t r i alc i v i ls e r v i c e ) は約5 00 千人である。そ して,行政職 は,職務 に要求 され る資格,能力を基礎に客観的
に評価 され るオープ ン任用 となっているオ ープン構造 ‑ 「 職」によ らない単一 の等級構造,すなわち,課長補佐 (G 7) か ら事務次官 (G l) までの層 と一 般行政職層 に区分 される( 下表参照) 。そ して, 将来の幹部要員 となる AT ( 行政 官研修生)及 び HEO (D) ( 上級執行官開発) は 2‑ 3 年で課長補佐 に昇進 す るが,我が国 と異 な り,AT/HEO (D) 職への任用には外部任用 ( 採用) の他 執行官 ( EO) 等 か らの内部任 用 が認 め られ て い る。 ちなみ に1 990 年 AT/HEO (D) 任用者 8 2 名の内訳 は外部 ( 学卒)6 2 名, 内部20 名 とな って いる。 また,1 988 年 8 月か ら政策 と執行機能 の分離 を図 り,執行機能を事業 庁 ( age nc y) と呼ばれ る半 自律的機関で効率的に行 うネキス ト・ステ ップス が推進 されてお り ,1 992 年 7 月時点で非現業公務員の約 6 割 にあたる 291 千人 が配属 されている。
<オ ープ ン構造 >
G l ( 事務次官) G 2 ( 次官補) G 3 ( 局長)
行政職の人員構成 ( 1 99 1 . 4. 1 現在)
人数 <一般行政職 > 人数 36 SEO ( 上席執行官) 9,51 2 1 3 3 HEO ( 上級執行官) 28, 26 8 48 2 EO ( 執行官) 52,838 G 4 ( 幹部監督職及び同等職) 25 4 AO ( 書記官) 83,40 5 G 5 ( 参事官及び同等職) 2,368 AA ( 書記官補) 43,460 G 6 ( 課長及び同等職) 4,31 1 計 217 ,483 G 7 ( 課長補佐及 び同等職)1 2,81 9
計 20 ,40 3
( 2 ) 制度の背景 と目的
英国では伝統的に公務員賃金 は政府 と労働組合 との交渉 によって決定 され,
216 商 学 討 究 第 44 巻 第 1・2 号
均一的な賃金体系で個々の部局での弾力性 はほとんどない状況であったが,1 9 81 年 に設立 された Megaw 委員会 によ り労働市場 に対応 した弾力的,差別的 な賃金制度が提唱 された。すなわち,Megaw Re por t ( 1 9 8 2 )によると 「 毎 年の賃金上昇は等級に応 じた能力 と増大する経験 に報いる意図があ. るが,実際 は (この経験による能力向上 とい う前提 は)理論的でな く,事実上 自動的にな されている。 この システムは ・・・民間部門の雇用者により効果的に用い られ ている賃金構造 と比較す ると時代錯誤的であるように見える」 とされ,個人業 績 と賃金 との結びつきを強める政策に変更された。同様の変化 は国民保健サー
ビス ( NHS) の改革 に関連 した 白書 『 患者 のための仕事』 ( Worki ng f or Pat i ent )において も 「 管理者に賃金率を ( 所在す る)地方労働市場 に関連づ
け,また,個人業績 に対 して幸臥 1るようにさせ るため,より大 きな柔軟性を積 極的に導入すること」が提案 されている。 これ らはいずれ も保守党政権の行政 改革 における民間マネジメン ト思考の具体的適用 とみなされるものであり,塞 本的には人的資源管理の一部 として米国で実施 されていたメ リッ ト給制度 と同 じものである‑実力社会 といわれ る米国で連邦幹部職員 に対 して1 9 78 年公務 サ ービス改革法に基づ くメ リッ ト給が導入 された理由が,従来の業績評価 は行 動な り結果よりも個 々人の特性に焦点がおかれ,昇給は業績より年功がより重 視 される傾向を改めることにあったのは公務員制度の共通性を示 していて興味 深い‑。あえて差異を示す とす ると,米国で産業心理学の期待理論に基づ く仕 事の動機付けを強化する側面を重視す るのに対 し,英国では市場‑の対応 とし て柔軟性 ( f l e xi bi l i t y)を確保す る一環 として賃金管理を位置づけ,その手段 を業績給 とみなす傾向がある。ちなみに G5‑7 の公務員組合 と大蔵省 との賃 金協定での賃金体系 は Fl exi bl ePayとされ,その賃金構造の目的は次のよう
になっている
。1 )賃金 と業績 との密接な関連
業績 と報酬 との間により密接で秩序だった リンクを提供す ることによって 個々人の業績を改善す るよう促す こと
2) 賃金管理 と人事管理の リンケージ
パ ブ リック ・セ クターにお ける業績給制度 217 賃金 と人事管理制度 とを関連 させ ること
3) 誘因
効率性を改善 し維持する誘因を提供す ること 4) 能力開発
能力開発の一層の機会を提供す ること 5) 公開性
賃金,昇進及び能力管理制度に関す る全ての規則及び条項の公開性を維持 す ること
6) 公平性 と柔軟性
特定の賃金問題を処理す る柔軟性を提供 しつつ処理の公平性を提供す るこ と
7)不公平な差別禁止
業績の異なる水準を識別す るが,性,出身国,障害,出身地域,業務形態 及び同性愛 によって不公平に差別 しないこと
8 )採用 と定着
賃金が全体的にみて要求 され る職務を効率的に行 うために公務員を採用 し,定着 させ,かつ,動機づけるような水準であることを規定することに より,非現業公務員の賃金決定 システムに対す る大衆の信頼を確保す るこ
と 9 )公正
賃金が公正に決定 されるという公務員の信頼を確保す ること
1 0 ) 政府の責任
政府に対 し雇用者 としての責任 と公的支出の統制責任を調節 させ ること
( 3 ) 適用の拡大
英国政府 において最初 に業績給が制度的に導入 されたのは,1 9 87 年であ り
次官補及 び局長であるG2 , 3 を対象に した ものであった。 これは上級公務員
給与審議会 ( Rev i e w BodyonTopSal ar i es ) が1 9 8 5 年にな した包括的 レビュ
218 商 学 討 究 第 44 巻 第 1 ・2 号
‑の勧告 に したが った もので,従来の単一スポ ッ ト給与を payrange ( 最高 給与 と最低給与を決定)に取 り替え る措置である 。range の下位 ( bot t om) も者 に対 しては,並の業績者 ( f ul l ysat i s f act oryper f ormers )全員 に割増 し給 ( i ncrement s )が通常達成可能 な最高 ランク ( at t ai nabl emaxi mum) まで支払われ, このランクを超え ると各級 スタ ッフの25%を限度 として業績 に 基づ く裁量的報酬があった。 しか し, この制度では 3/ 4 の者 は,た とえ業績 が良好で あって も裁量的増額 を得 られない欠点を有 していたので,1 989 年1 0 月か ら支給限度割合が25%か ら 35%に増額 された。その後 1 9 91 年 4 月か ら新 制度 に移行 し,従 来の割増 し給及 び裁量 的報酬 は廃 止 され,各級毎 の pay range ( 最高 ポイ ン トと最低ポイ ン トが設定 されている)が導入 された。すな わち,各人 は当初,各級の rangemi ni mum に格付けされ業績 に応 じて昇給 され るが,並以上の業績者 には少な くとも 「 標準的」増額が与え られ る
。この 他,給与総額の 2%以内でよ り大 きな増額が正当化 され る者 に支給 され る管理 者裁量枠があ り ,rangemaxi mum を超え る者 については基本給部分 として でな く年金化 されないボーナスとして支給 され る
。そ して,並以下の業績者 に は標準 よ り少ないかまった くの増額な しとい うことにな っている。
上級オ ープ ン構造‑の適用後, G 5‑ 7 に も 1 9 88 年1 0 月か ら業績給が導入 さ れた。当時,各級 には賃金表 ( payspi ne)が設定 されているが,いずれ も最 低 ポイ ン ト ( rangemi ni mu m ‑scal emi ni mum) と正 規最 高 ポイ ン ト
( scal e maxi mum) 及 び正 規 最 高 よ り 4 ポ イ ン ト多 い 最 高 ポ イ ン ト ( rangemaxi mum)が規定 されていた ( 下表参照) 。
1 98 9 . 4. 1 当時の G7 賃金表 ポイ ン ト数
4 5 6 7
金額 ( 単位 :ポ ン ド) 1 7 , 36 0
1 8,1 41
1 8, 957
1 9,81 0
パ ブ リック ・セ クターにおける業績給制度
8 9
1 0( s cal emax) l l
1 2 1 3
1 4( rangemax)
20, 701 21 , 6 33 2 2, 6 0 6 23, 6 24 2 4, 68 6 25 ,7 97 26, 95 8
2 19
すなわち,英国で は原則 として我が国 と異な り,各級の最低 ポイ ン トに最初配 属 され,そ こか ら昇給す る訳で一般 に s cal emi ni mum と s cal emaxi mum の間には 6 ポイ ン トあ るか ら,通常 の業績者 は毎年 1 ポイ ン ト昇給 し, 6 年 で s cal emaxi mum に達す ることになっている。そ して,業績評価 に基づ き 優秀 ( out s t andi ng)な者 には標準賃金上昇 に加えて特別増額手 当 ( acc e l e r‑
at edi nc r ement s )が支給 され, また,正規最高 ポイ ン トに達 した者 ( 上位 の級 に昇進 しない層)に対 しては,優秀の評価の場合 に 1ポイ ン ト,連続 して 3 回の良 ( s i gni f i c a n t l yabov er equi r e me nt s )の評価 あるいは連続 して 5 回の並以上の評価の場合 に も 1ポイ ン トの昇給を認めるものであった。 しか し なが ら,下級オープ ン構造 について も業績朝滑F l の支給対象 はスタ ッフの2 5%の 限度があった こと等か ら,より柔軟的で各省庁の実態に適合 した賃金制度 とす るため最近 ( 1 9 9 2 年 8 月か ら)新協定 ( Tr eas ury ( 1 9 9 2 )参照)が発効 し, 以下のような変更 ( 主要事項 に限定)が加え られた。
1 )各省庁が中央で決定 され る payrange ,すなわち,各級毎の最高賃金 と最低賃金 の問で中間的なポイ ン トを決定す る裁量権を有す るよ うに なった。
( 従来 は,各級の賃金表 として中央で統一的に設定 されていた)
2 )毎年,大蔵省 と組合 とは標準賃金 ア ップと最高及 び最低賃金 について交 渉 し,業績報酬予算 も交渉 に含める。
( 従来 は標準賃金 ア ップの交渉に留 まっていた)
220 商 学 討 究 第 44 巻 第 1・2 号
3 )採用,定着が特別に困難な場合には,要求 される技能及び配属 される地 域を考慮 し,必要な場合 には payrange 自体を調節 した りで きるよう
にな った。
( 従来 はロン ドン手当等 に留ま り,賃金の r ange は各級で同 じであっ た)
一方,一般行政職について も組合 と大蔵省 との合意により業績給制度 (G 5
‑7 とほぼ同 じ内容)が相次いで導入 され ( 執行官及び書記官職に対 しては 1 9 9 0 年 1 月) ,現在では非現業公務員の約 9 5% が業績給の適用を受 けている。
3. 運用の実態
業績給制度は理念な り原理 として理解できて も,それが有効 に機能 している か,どのように運用 されているかが外部者が容易に伺い しれない部分が多いた め,理論モデルによる分析か,人事考課の技術を扱 ったノウ‑ ウの記述が中心 になる傾向がある。 しか し,現実にその理念が どのような形式で適用 され運用 されているかを知 ることな しに理論分析の結果に満足す ることは極めて危険で ある。な ししろ制度の対象は最 もモデル化が困難な人間行動なのである。幸い に して今回前能率室メ ンバ ‑の Br i anRos s 氏か らその実態の一部を聴取す る機会を得たので理論 と実務のギャップを埋める作業が可能 となった。以下は その内容を整理す るとともに,米国等の実態 と比較 した ものである。
( 1) 業績評価 システム
業績給の前提 として業績評価を必要 とす るが,行政サービスの評価には特に
評価尺度が問題になる。 もともと民間部門で もホワイ トカラーの業績 はブルー
カラーの業績に比 して測定が困難であるが,行政の場合には政策の目的 自身が
多次元的である上に市場で供給 されない財,サービスを供給 している。そのた
め公共部門の政策評価では,常に効果,イ ンパ ク トをどのように測定,評価す
るかが問題 にな ってお り , 「 評価で きない」業績 に対 して賃金 ・給与を関連づ
パ ブ リック ・セ クターにお ける業績給制度 22 1 ける,すなわち測定可能な投入量 とかコス トを 「 業績」の代用尺度 とせざるを 得ず,費用節減中心 となり,かえ って逆効果であるという意見 も根強い。
評価が困難な代表の一つである医療サ ービスを例 にす ると,英国の NHS
で使用されている業績指標には次のようにオペ レーション,アウ トプ ッ トにか か るものの他,サービスの質 にかか る要素 も含まれていて,必ず しもサ ッチャ
ー流の コス ト節減一本槍 とい うものではなさそ うである。
・アウ トプ ッ ト目標 :診察 した患者数
・質的目標 :再入院率,患者調査のような処置の質
・単位 コス ト:診察単価
・顧客満足度 :患者の待ち時間
また,評価手続 きについては,上記業績指標が比較対照 される規準値 となる 期待標準 も指標 と併せて年度当初に管理者 と下位者の問で同意 され, 3 カ月毎 の会合で検証 され,年度末には再び最終成果 について議論 し,評価づげにお互 い同意することになっている。具体的には 3 カ月毎の検証では通常約 1 時間か けて議論を行い,最終成果の検証では 2‑3 時間を費や しているとのことであ る。そ して,各段階での討議 は利用可能な最新の業績情報に基づ くが,単に業 績指標等の量的尺度に焦点を当てるだけでな く,質的評価を含み,また,年度 当初に合意 した業績尺度の妥当性の吟味,事前に予測 し得なか った環境の業績 に与える影響及び評価項 目にあげ られなか った他の要素についてお互い意見を 述べ合 うことになっている。 このため,途中の検証で各指標の重み付けとか規 準 となる業績 目標が改訂 され ることも異常ではないという。なお,実績 と比較 される規準値 は予め合意 して定め られた業績標準 と事前に定めた目標値の 2通 りあるが,英国及び米国 とも標準値 と対比す る場合が多いようである。
こうした手続 きを支えているのは, 1) 組合 と大蔵省等の雇用管理者側が評
価について全国的合意を得ていること, 2) 業績評価の文書化 された枠組みと
手続 き, 3) 公平性 と一貫性を確保す るための全管理者に対す る業績評価の研
倭, 4) 全スタッフに対する手続 きの説明 と活発な広報,が挙げ られよう
。2 22 商 学 討 究 第 4 4 巻 第 1・2 号
( 2 ) 評点分布
業績評価 は定量的,定性的を問わず ラ ンク分 けされ るが,英国政府では 5 段 階評価 を使用 していて,各 ラ ンクの分布 は通常下表の よ うにな ってい るとい
う 。