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パ ブ リック ・セクターにおける業績給制度

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(1)

パ ブ リック ・セクターにおける業績給制度

一英国政府の人事管理改革 に関連 して‑

山 本 清

1.は じめに

現在民間部門では,バ ブル後の不況対策,低成長経済への対応のためホワイ トカラーの人事管理の改革が盛んである。企業内 「 余剰」労働力を関連会社 に 出向させ る従来か らの方策に加え,加点主義人事考課,年俸制の導入, さらに は勧奨退職 という名の下での事実上の 「 首切 り」まで一部企業には発生 してい る。 これ らの動 きは,基本的には伝統的な 「日本的雇用管理」か ら個人の業績 に着 目した能力主義,成績主義 による人事管理への移行であ り,賃金管理 も年 功序列型か ら能力給,成績給の比重を高める方向 ( 賃金が能力及 び成績により 決定 される制度を以下「 業績給」 制度 とい う) へ変化 しよ うとす るものである。

一方, ここで取 り扱 う公的部門は,建て前 はともか く従来民間以上 に年功序 列 と終身雇用の色彩が濃い組織であるとされて きた。すなわち,我が国公務員 制度 は法律 によ り成績主義を基本原理の一つ としていて,採用,昇進及 び昇給 を勤務成績,能力に応 じて行 うことにより能率を高めることを意図 している。

勤務成績優秀者 に対す る特別昇給や勤勉手当 も制度化 されている。 しか しなが ら, これまでの実態 は採用 こそ公正な試験 によ り成績主義に基づいているが, 昇給,昇進 は民間以上に年功序列型であ り,特別昇給が持 ち回 りで運用 された り勤勉手当の成績率の差 もほとんどない状況である。最近 にな り人事院及 び地 方 自治体人事部局で 「 能力主義」及 び 「 職務給」の徹底が叫ばれ るよ うになっ てきた。特 に,地方 自治体では制度改革の機運が高 まってお り,例えば北九州

〔 211 〕

(2)

2 12 商 学 討 究 第 44 巻 第 1・2 号

市では来年 ( 1 99 4 ) か ら挑戦加点制度の新設及 び業績重視の評定要素の見直 し等が実施予定 とな ってお り,また,兵庫県で は 1 9 87 年か ら異動役職への 自 己申告制度 による登用が行われている。 この理由として,鹿児 島 ( 1 9 9 2 ) は,

1 )地方 自治行政の主たる目的がナショナル ・ミニマム達成か らシビル ・ミニ マム実現へ移行 したことか ら,従来の国の基準 に したが って業務を的確に遂行 す る能力 と異なる自主性,創造性が職員に求め られ るようになった こと, 2)

住民意識の向上 により行政効率への関心が強まり少数精鋭の能率的な組織が要 求 され ることになったこと,を挙げる。確かに自治体職員では今や政策形成, 政策型思考がブームであり,先端的施策は中央よりも地方 自治体か ら生まれ, それを中央政府が全国展開を図 るパターンが近年増大 しているか ら,政策形成 に有能な職員を配置 して人事 ・給与面で も適切 に処遇す る必要がある。行政効 率の向上 も政策的対応 と人事管理に関連する。 しか しなが ら,地方 自治体で国 よりも人事管理の見直 しが盛んなのは,上記行政を取 り巻 く外部環境の変化へ の対応 という側面の他,行政組織の内部環境の変化に対応せざる得な くなって いる側面がある。つまり,経済の高度成長に併せて 自治体が行政需要 に対応あ るいは先取 りす る形式で社会福祉サービスや社会基盤整備に努めた結果, 自治 体職員 もこの 4 半世紀の間に約 4 割増加 し, この割合 はこの間の人 口の伸 び ( 約 25%) を上回 っているのであ る。 このため,職員数の ピークは 1 98 3 年 に 迎えたが,年齢階層別の職員構成は社会福祉,公害対策等行政活動を急激に拡 大 させた時期 ( 1 97 0 年前後)採用者 ( 1 991 年で 40‑43 才の層)が突 出す る形

となっている ( 下表参照) 。

公務員の年齢階層別分布 ‑1 9 9 1 . 4. 1 現在 ‑

年 齢 全地方 自治体 ( 一 般行政職) 国家公務員 ( 行政職 ‑ )

‑2 4 未満 6 .8% 8 .7 %

24‑28 8 .5 l l .5

28‑3 2 9 .7 1 2 . ‑ 5

3 2‑3 6 1 2 .3 1 0 .7

(3)

パブリック ・セクターにおける業績給制度 213

出典 :地方公務員給与制度研究会 『 平成 3 年地方公務員給与の実態 』( 1 99 2 )

実際, この層は国 と比較すると際だって大 きなシェアを占めてお り ( 国の場合 より 4 割強多い) ,ポス ト対策の悩みの種 とな っている。国の場合 は,予算規 模の拡大 にかかわ らず総定員管理で戦後 ピーク時 1 96 7 年の 8 9 9 千人が 1 991 年で 8 63 千人 と横ばいになっているの と対照的である (もっともこの人員管理政策 が地方 自治体に国の行政の一部を肩代わ りさせた側面 もある) 。財団法人東京 市 町村 自治調査会 ( 1 98 8 ) の調査 によると, ほぼ この層 に対応す る 1 9 47‑5 0 年生まれの都内市町村勤務男子職員 ( 大卒以上が 2/ 3) の約 6 割が未だ係長 職 についていないとい う。そ して, 上記年代の処遇問題 は単 なる「 団塊 の世代」

対策の問題ではないのである

労働省 『 賃金構造基本統計調査』 ( 1 99 0 ) によ れば大企業に勤務する団塊世代 4 0‑44 才男子大卒者の うち係長職に達 していな いのは 29 . 6% にす ぎない ことを考慮す ると, 自治体の方が民間よ りもポス ト 不足であると想定 され るのである。前記突出 した集団の人事管理を行 うには, 年功によ り全員 ほぼ同時期に昇進できた組織成長期の政策 は取れないか ら,限 られたポス トに対す る選抜を実施す るはかな く, 自ず となるたけ客観的な能力 及び成績評価に基づ く人事管理 と賃金管理が要請 されて くる。 これが,自治体 で能力主義人事管理への転換が強 く迫 られている本音の要因 と思われ る。

しか しなが ら,成績主義の原則を長い間骨抜 きに して運用 してきた我が国の

中央及び地方政府が能力,業績 による人事 ・賃金管理 に移行す るには肝心のノ

ウ‑ウがな く手探 りの状態である。民間の人事管理を適用すればよいとい うの

は行政活動の特性 ( 非 自律性)を踏まえた議論 とは言えない。そこで,本稿で

は最近業績給制度を導入 した英国政府での導入経緯及び運用実態について報告

(4)

214 商 学 討 究 第 44 巻 第 1 ・2 号

す るとともに,そ こか ら得 られ る教訓 と我が国が適用す る場合の課題 について 検討す る。英国政府を対象にす るのは,中央政府 も含めた我が国への適用可能 性検討を検討す る場合 には,政治制度が議院内閣制であ り公務員制度 も事務次 官まで中立的官僚 ポス トである点で類似 しているか らである

米国 はメ リッ ト 給制度 として知 られ るように業績給の先進国であるが,大統領制である他,中 央官庁の特定課長以上のポス トが政治的任命職である点で比較の対象 として好 ま しくない。また,英国,米国の地方政府を例 に して検討す ることも考え られ るが, 自治体の組織が異 なるよ うに業績給の制度 も種 々あるため,選択す る自 治体の成果 に評価が左右 され る欠点があ り, さ らに,運用実態を調査す るため

の技術的制約を受 けるか らである。

かか る観点か ら本稿 は以下のような構成になっている。第 2 節では,最初 に 公務員制度の概要を解説 し,次 に英国政府 において業績給が導入 された背景 と 経緯及びその展開過程を述べ る。第 3 節では,業績給の運用実態を 1 )業績評 価 システム, 2)評点分布, 3)評価 と賃金 との関係及び 4 )市場価値がない 等の公的部門の特性配慮の程度,について前能率室 メ ンバーか らの回答を踏 ま え紹介す るとともに,米国 ( 特 に州政府)及 び英国 自治体の学校の事例 と比較 して考察す る。第 4 節では,業績給の成果 ・効果について既往研究を整理 し, また,英国政府が従来加え られてきた批判,欠点にどの程度対応 しているかを 検討 し,同時に現行制度の問題点に触れる。最後の第 5 節では,賃金管理 と人 事管理の関係を考察 し業績給の限界 と我が国に適用す る場合の教訓 と課題を述 べ る

2.業績給導入の経緯

( 1 ) 英国政府の公務員制度の概要

英国の公務員制度 はサ ッチャー前首相及 び後継者のメイ ジャー首相 による行

政改革 に伴 い, 大 きく変貌 してお り, 現在 も改革が進め られている。このため,

英国本国のテキス ト自身がす ぐ時代遅れになる状況であ り, ここで検討す るの

(5)

パブリック ・セクターにおける業績給制度 2 15 も現時点の制度であることを断 っておきたい。現在中央政府の公務員 は約2, 3 0 0 千人で あ り, うち非現業公務員 ( non‑i ndus t r i alc i v i ls e r v i c e ) は約5 00 千人である。そ して,行政職 は,職務 に要求 され る資格,能力を基礎に客観的

に評価 され るオープ ン任用 となっているオ ープン構造 ‑ 「 職」によ らない単一 の等級構造,すなわち,課長補佐 (G 7) か ら事務次官 (G l) までの層 と一 般行政職層 に区分 される( 下表参照) 。そ して, 将来の幹部要員 となる AT ( 行政 官研修生)及 び HEO (D) ( 上級執行官開発) は 2‑ 3 年で課長補佐 に昇進 す るが,我が国 と異 な り,AT/HEO (D) 職への任用には外部任用 ( 採用) の他 執行官 ( EO) 等 か らの内部任 用 が認 め られ て い る。 ちなみ に1 990 年 AT/HEO (D) 任用者 8 2 名の内訳 は外部 ( 学卒)6 2 名, 内部20 名 とな って いる。 また,1 988 年 8 月か ら政策 と執行機能 の分離 を図 り,執行機能を事業 庁 ( age nc y) と呼ばれ る半 自律的機関で効率的に行 うネキス ト・ステ ップス が推進 されてお り ,1 992 年 7 月時点で非現業公務員の約 6 割 にあたる 291 千人 が配属 されている。

<オ ープ ン構造 >

G l ( 事務次官) G 2 ( 次官補) G 3 ( 局長)

行政職の人員構成 ( 1 99 1 . 4. 1 現在)

人数 <一般行政職 > 人数 36 SEO ( 上席執行官) 9,51 2 1 3 3 HEO ( 上級執行官) 28, 26 8 48 2 EO ( 執行官) 52,838 G 4 ( 幹部監督職及び同等職) 25 4 AO ( 書記官) 83,40 5 G 5 ( 参事官及び同等職) 2,368 AA ( 書記官補) 43,460 G 6 ( 課長及び同等職) 4,31 1 計 217 ,483 G 7 ( 課長補佐及 び同等職)1 2,81 9

計 20 ,40 3

( 2 ) 制度の背景 と目的

英国では伝統的に公務員賃金 は政府 と労働組合 との交渉 によって決定 され,

(6)

216 商 学 討 究 第 44 巻 第 1・2 号

均一的な賃金体系で個々の部局での弾力性 はほとんどない状況であったが,1 9 81 年 に設立 された Megaw 委員会 によ り労働市場 に対応 した弾力的,差別的 な賃金制度が提唱 された。すなわち,Megaw Re por t ( 1 9 8 2 )によると 「 毎 年の賃金上昇は等級に応 じた能力 と増大する経験 に報いる意図があ. るが,実際 は (この経験による能力向上 とい う前提 は)理論的でな く,事実上 自動的にな されている。 この システムは ・・・民間部門の雇用者により効果的に用い られ ている賃金構造 と比較す ると時代錯誤的であるように見える」 とされ,個人業 績 と賃金 との結びつきを強める政策に変更された。同様の変化 は国民保健サー

ビス ( NHS) の改革 に関連 した 白書 『 患者 のための仕事』 ( Worki ng f or Pat i ent )において も 「 管理者に賃金率を ( 所在す る)地方労働市場 に関連づ

け,また,個人業績 に対 して幸臥 1るようにさせ るため,より大 きな柔軟性を積 極的に導入すること」が提案 されている。 これ らはいずれ も保守党政権の行政 改革 における民間マネジメン ト思考の具体的適用 とみなされるものであり,塞 本的には人的資源管理の一部 として米国で実施 されていたメ リッ ト給制度 と同 じものである‑実力社会 といわれ る米国で連邦幹部職員 に対 して1 9 78 年公務 サ ービス改革法に基づ くメ リッ ト給が導入 された理由が,従来の業績評価 は行 動な り結果よりも個 々人の特性に焦点がおかれ,昇給は業績より年功がより重 視 される傾向を改めることにあったのは公務員制度の共通性を示 していて興味 深い‑。あえて差異を示す とす ると,米国で産業心理学の期待理論に基づ く仕 事の動機付けを強化する側面を重視す るのに対 し,英国では市場‑の対応 とし て柔軟性 ( f l e xi bi l i t y)を確保す る一環 として賃金管理を位置づけ,その手段 を業績給 とみなす傾向がある。ちなみに G5‑7 の公務員組合 と大蔵省 との賃 金協定での賃金体系 は Fl exi bl ePayとされ,その賃金構造の目的は次のよう

になっている

1 )賃金 と業績 との密接な関連

業績 と報酬 との間により密接で秩序だった リンクを提供す ることによって 個々人の業績を改善す るよう促す こと

2) 賃金管理 と人事管理の リンケージ

(7)

パ ブ リック ・セ クターにお ける業績給制度 217 賃金 と人事管理制度 とを関連 させ ること

3) 誘因

効率性を改善 し維持する誘因を提供す ること 4) 能力開発

能力開発の一層の機会を提供す ること 5) 公開性

賃金,昇進及び能力管理制度に関す る全ての規則及び条項の公開性を維持 す ること

6) 公平性 と柔軟性

特定の賃金問題を処理す る柔軟性を提供 しつつ処理の公平性を提供す るこ と

7)不公平な差別禁止

業績の異なる水準を識別す るが,性,出身国,障害,出身地域,業務形態 及び同性愛 によって不公平に差別 しないこと

8 )採用 と定着

賃金が全体的にみて要求 され る職務を効率的に行 うために公務員を採用 し,定着 させ,かつ,動機づけるような水準であることを規定することに より,非現業公務員の賃金決定 システムに対す る大衆の信頼を確保す るこ

と 9 )公正

賃金が公正に決定 されるという公務員の信頼を確保す ること

1 0 ) 政府の責任

政府に対 し雇用者 としての責任 と公的支出の統制責任を調節 させ ること

( 3 ) 適用の拡大

英国政府 において最初 に業績給が制度的に導入 されたのは,1 9 87 年であ り

次官補及 び局長であるG2 , 3 を対象に した ものであった。 これは上級公務員

給与審議会 ( Rev i e w BodyonTopSal ar i es ) が1 9 8 5 年にな した包括的 レビュ

(8)

218 商 学 討 究 第 44 巻 第 1 ・2 号

‑の勧告 に したが った もので,従来の単一スポ ッ ト給与を payrange ( 最高 給与 と最低給与を決定)に取 り替え る措置である 。range の下位 ( bot t om) も者 に対 しては,並の業績者 ( f ul l ysat i s f act oryper f ormers )全員 に割増 し給 ( i ncrement s )が通常達成可能 な最高 ランク ( at t ai nabl emaxi mum) まで支払われ, このランクを超え ると各級 スタ ッフの25%を限度 として業績 に 基づ く裁量的報酬があった。 しか し, この制度では 3/ 4 の者 は,た とえ業績 が良好で あって も裁量的増額 を得 られない欠点を有 していたので,1 989 年1 0 月か ら支給限度割合が25%か ら 35%に増額 された。その後 1 9 91 年 4 月か ら新 制度 に移行 し,従 来の割増 し給及 び裁量 的報酬 は廃 止 され,各級毎 の pay range ( 最高 ポイ ン トと最低ポイ ン トが設定 されている)が導入 された。すな わち,各人 は当初,各級の rangemi ni mum に格付けされ業績 に応 じて昇給 され るが,並以上の業績者 には少な くとも 「 標準的」増額が与え られ る

この 他,給与総額の 2%以内でよ り大 きな増額が正当化 され る者 に支給 され る管理 者裁量枠があ り ,rangemaxi mum を超え る者 については基本給部分 として でな く年金化 されないボーナスとして支給 され る

そ して,並以下の業績者 に は標準 よ り少ないかまった くの増額な しとい うことにな っている。

上級オ ープ ン構造‑の適用後, G 5‑ 7 に も 1 9 88 年1 0 月か ら業績給が導入 さ れた。当時,各級 には賃金表 ( payspi ne)が設定 されているが,いずれ も最 低 ポイ ン ト ( rangemi ni mu m ‑scal emi ni mum) と正 規最 高 ポイ ン ト

( scal e maxi mum) 及 び正 規 最 高 よ り 4 ポ イ ン ト多 い 最 高 ポ イ ン ト ( rangemaxi mum)が規定 されていた ( 下表参照) 。

1 98 9 . 4. 1 当時の G7 賃金表 ポイ ン ト数

4 5 6 7

金額 ( 単位 :ポ ン ド) 1 7 , 36 0

1 8,1 41

1 8, 957

1 9,81 0

(9)

パ ブ リック ・セ クターにおける業績給制度

8 9

1 0( s cal emax) l l

1 2 1 3

1 4( rangemax)

20, 701 21 , 6 33 2 2, 6 0 6 23, 6 24 2 4, 68 6 25 ,7 97 26, 95 8

2 19

すなわち,英国で は原則 として我が国 と異な り,各級の最低 ポイ ン トに最初配 属 され,そ こか ら昇給す る訳で一般 に s cal emi ni mum と s cal emaxi mum の間には 6 ポイ ン トあ るか ら,通常 の業績者 は毎年 1 ポイ ン ト昇給 し, 6 年 で s cal emaxi mum に達す ることになっている。そ して,業績評価 に基づ き 優秀 ( out s t andi ng)な者 には標準賃金上昇 に加えて特別増額手 当 ( acc e l e r‑

at edi nc r ement s )が支給 され, また,正規最高 ポイ ン トに達 した者 ( 上位 の級 に昇進 しない層)に対 しては,優秀の評価の場合 に 1ポイ ン ト,連続 して 3 回の良 ( s i gni f i c a n t l yabov er equi r e me nt s )の評価 あるいは連続 して 5 回の並以上の評価の場合 に も 1ポイ ン トの昇給を認めるものであった。 しか し なが ら,下級オープ ン構造 について も業績朝滑F l の支給対象 はスタ ッフの2 5%の 限度があった こと等か ら,より柔軟的で各省庁の実態に適合 した賃金制度 とす るため最近 ( 1 9 9 2 年 8 月か ら)新協定 ( Tr eas ury ( 1 9 9 2 )参照)が発効 し, 以下のような変更 ( 主要事項 に限定)が加え られた。

1 )各省庁が中央で決定 され る payrange ,すなわち,各級毎の最高賃金 と最低賃金 の問で中間的なポイ ン トを決定す る裁量権を有す るよ うに なった。

( 従来 は,各級の賃金表 として中央で統一的に設定 されていた)

2 )毎年,大蔵省 と組合 とは標準賃金 ア ップと最高及 び最低賃金 について交 渉 し,業績報酬予算 も交渉 に含める。

( 従来 は標準賃金 ア ップの交渉に留 まっていた)

(10)

220 商 学 討 究 第 44 巻 第 1・2 号

3 )採用,定着が特別に困難な場合には,要求 される技能及び配属 される地 域を考慮 し,必要な場合 には payrange 自体を調節 した りで きるよう

にな った。

( 従来 はロン ドン手当等 に留ま り,賃金の r ange は各級で同 じであっ た)

一方,一般行政職について も組合 と大蔵省 との合意により業績給制度 (G 5

‑7 とほぼ同 じ内容)が相次いで導入 され ( 執行官及び書記官職に対 しては 1 9 9 0 年 1 月) ,現在では非現業公務員の約 9 5% が業績給の適用を受 けている。

3. 運用の実態

業績給制度は理念な り原理 として理解できて も,それが有効 に機能 している か,どのように運用 されているかが外部者が容易に伺い しれない部分が多いた め,理論モデルによる分析か,人事考課の技術を扱 ったノウ‑ ウの記述が中心 になる傾向がある。 しか し,現実にその理念が どのような形式で適用 され運用 されているかを知 ることな しに理論分析の結果に満足す ることは極めて危険で ある。な ししろ制度の対象は最 もモデル化が困難な人間行動なのである。幸い に して今回前能率室メ ンバ ‑の Br i anRos s 氏か らその実態の一部を聴取す る機会を得たので理論 と実務のギャップを埋める作業が可能 となった。以下は その内容を整理す るとともに,米国等の実態 と比較 した ものである。

( 1) 業績評価 システム

業績給の前提 として業績評価を必要 とす るが,行政サービスの評価には特に

評価尺度が問題になる。 もともと民間部門で もホワイ トカラーの業績 はブルー

カラーの業績に比 して測定が困難であるが,行政の場合には政策の目的 自身が

多次元的である上に市場で供給 されない財,サービスを供給 している。そのた

め公共部門の政策評価では,常に効果,イ ンパ ク トをどのように測定,評価す

るかが問題 にな ってお り , 「 評価で きない」業績 に対 して賃金 ・給与を関連づ

(11)

パ ブ リック ・セ クターにお ける業績給制度 22 1 ける,すなわち測定可能な投入量 とかコス トを 「 業績」の代用尺度 とせざるを 得ず,費用節減中心 となり,かえ って逆効果であるという意見 も根強い。

評価が困難な代表の一つである医療サ ービスを例 にす ると,英国の NHS

で使用されている業績指標には次のようにオペ レーション,アウ トプ ッ トにか か るものの他,サービスの質 にかか る要素 も含まれていて,必ず しもサ ッチャ

ー流の コス ト節減一本槍 とい うものではなさそ うである。

・アウ トプ ッ ト目標 :診察 した患者数

・質的目標 :再入院率,患者調査のような処置の質

・単位 コス ト:診察単価

・顧客満足度 :患者の待ち時間

また,評価手続 きについては,上記業績指標が比較対照 される規準値 となる 期待標準 も指標 と併せて年度当初に管理者 と下位者の問で同意 され, 3 カ月毎 の会合で検証 され,年度末には再び最終成果 について議論 し,評価づげにお互 い同意することになっている。具体的には 3 カ月毎の検証では通常約 1 時間か けて議論を行い,最終成果の検証では 2‑3 時間を費や しているとのことであ る。そ して,各段階での討議 は利用可能な最新の業績情報に基づ くが,単に業 績指標等の量的尺度に焦点を当てるだけでな く,質的評価を含み,また,年度 当初に合意 した業績尺度の妥当性の吟味,事前に予測 し得なか った環境の業績 に与える影響及び評価項 目にあげ られなか った他の要素についてお互い意見を 述べ合 うことになっている。 このため,途中の検証で各指標の重み付けとか規 準 となる業績 目標が改訂 され ることも異常ではないという。なお,実績 と比較 される規準値 は予め合意 して定め られた業績標準 と事前に定めた目標値の 2通 りあるが,英国及び米国 とも標準値 と対比す る場合が多いようである。

こうした手続 きを支えているのは, 1) 組合 と大蔵省等の雇用管理者側が評

価について全国的合意を得ていること, 2) 業績評価の文書化 された枠組みと

手続 き, 3) 公平性 と一貫性を確保す るための全管理者に対す る業績評価の研

倭, 4) 全スタッフに対する手続 きの説明 と活発な広報,が挙げ られよう

(12)

2 22 商 学 討 究 第 4 4 巻 第 1・2 号

( 2 ) 評点分布

業績評価 は定量的,定性的を問わず ラ ンク分 けされ るが,英国政府では 5 段 階評価 を使用 していて,各 ラ ンクの分布 は通常下表の よ うにな ってい るとい

う 。

業績点 定義 分布 ( %)

BoX1 優秀 ( out s t andi ng) 7 BoX2 良 ( wel laboVest andard) 42 BoX3 並 ( f ul l ysat i s f ac t ory) 46

‑BoX4 可 ( bel ow s t andard) 4 BoX5 不可 ( unsat i s f act ory) 1

上記分布 は,下表 に示す とお り,米国連邦政府,あ るいは英国地方教員 に対す る業績給での評価分布 よりも標準を上回 る評点が低 く, どち らか とい うと米国 州政府 やカナダ連邦職員 の制度 と類似 してお り,比較 的均衡 が とれ た もの と

な ってい る

米国連邦職員 ( 1 3‑1 5 級) ‑1 987‑

倭 ( out st andi ng) 31 .5%

良 ( hi ghl ysucc ess f u l ) 50 .6 並 ( f u1 1 ysucccess f u 1 ) 17 . 0

出典 : Perry,Pet raki sandMi l l er( 19 89 )

米国州政府 ( Sout hCarol i na)‑1 989‑

(13)

パ ブ リック ・セ クターにお ける業績給制度

出 典 : G

A O (

1 990 )

カナダ連邦職員 ‑1 988‑

倭 ( out st andi ng) 5%

良 ( superi or) 25

可 ( r ul l ys at i s f act or y) 65

出典 : GAO ( 1 990)

英国教員 ( 校長) ‑ RoyalBor ough‑1 990 年現在 倭 (AA) 評点分布 についての規定 はないが

2 2 3

出典 : PFF ( 1 99 1 )

なお,我が国で も人事考課 自体は実施 されてお り,絶対評価の外 5 段階評価に 基づ く相対評価が勤務評定 という形態で行われている。現実の評点分布 は明か でないが, 基準 としては上位 2 ランクが概ね 30% とされていることが多

か ら, 評点分布の標準 としては米国連邦職員よ り厳 しい ことになっている。

( 3) 評価 と賃金 との関係

業績給 は,業績評価の結果を賃金 に反映 させ るものであるか ら,評点分布以 上 に賃金 との連動の程度,賃金格差が問題 になる

特 に,金銭的誘因を職務意 欲や業績の向上の行動 に動気づけることを 目的 としているか ら,誘因 としての 機能を発揮 しえる額が保証で きるかが課題 となる。

英国政府では,業績評価の結果,特に業績指標 と業績給 との間に経済モデル

(14)

2 2 4 4 4 巻 第 1・2 号

で使用 されるような一意的関係 ( たとえば賃金 ‑a x業績指標 +b, a, b:

係数)を認めていない。すなわち,種々の業績指標に基づ く定量的評価 は,判 断 ( 評点)を形成する客観的な出発点を提供す るが,賃金 と業績評価の関係 は 単純な数学的計算ではない。前述 したとお り担当者 と上司との間で討議が繰 り 返 され,定量的指標に限定 して も,評価対象年度中に予想で きない困難や好都 合 といった環境要因が実際の業績 に影響することが少な くないか ら,事前に合 意 して設定 された標準に照 らした評価は合理的でない。実際,途中で新たな優 先順位 となる評価項 目が発生 した り,業績指標 に反映されない有用な仕事を実 施することもあるため,管理者 に大幅な裁量が委ね られている。

このため,現実の賃金が業績評価点によってどれ くらい変動す るかを示す と,標準以下 ( 下位 2ランク)の評価の者に対 しては,毎年の自動的標準賃金 増が保証 されないが, このランクの者 は極めて少数 (5 %)であるため,原則 として賃金差は業績報酬予算の枠内での配付によって決定され ることになる。

ところが,毎年の標準賃金増の方が業績覇細川 予算または賃金表での 1ポイ ン ト 増 よりも大 きいため,実質的な格差は年収ベースでせいぜい 4 % ( 標準では 2

%前後) となる。たとえば,1 991 年の標準賃金上昇率は6.5%であったか ら, 賃金表での 1 ポイ ン ト増のア ップ 4% 程度 よ り大 きく,業績予算 も総賃金の 2

%であった。確かに,標準以下の評価を得 る者 にとっては 5 年間で約25% 程度

の賃金格差を生 じる可能性はあるが これに該当する事例 は少ないか ら,評価の

ば らつ きはど賃金格差 は大 き くないと言え る。実際 この傾向は米国で も見 ら

れ,連邦政府では下表に示す とお り業績報酬を得ている者の比率は 9 0 % を超え

てお り,また,給与増で 1‑2% の者が 8 0 % を超えている。 これは,前記評点

分布で優 と良の比率が約 8 割であった ことか らある意味で当然の結果 といえる

が,賃金格差 は非常に低いのが特筆 され事実上の職務手当を構成 している0

(15)

パブリック ・セクターにおける業績給制度 メ リッ ト給の状況 ‑1 9 87 年‑

a) メ リッ ト給受領の有無 b) 給与増額の割合 受領 9 3 . 5 %

無 し 6 . 5

0 % 3 . 7 % 1 5 4 . 4

2 28 .9

3 4.2

4‑ 8 .8

出典 : Perr y,Pet raki sandMi l l e r( 1 98 9 )

2 25

一方,州政府では州毎に業績給予算 自体が種 々であるため,一般的な傾向を兄 いだす ことは困難であるが,前出南カロナイナ州では業績給予算の水準 は 1%

に対 して生計費増分の標準賃金上昇率は 4% となっていて,メ リッ ト給のイ ン パ ク トは英国よりも小 さな ものになっている。イ リノイ州では評点分布の規定

はないものの,基本給に対す る増額 としてのメ リッ ト給 は 4 段階評価の評点に 対 して,次表のようになっていて,メ リッ ト給受領者の平均 は基本給の約 4%

というか ら州政府のなかでは比較的高い水準 といえる。

イ リノイ州のメ リッ ト給水準 ‑1 990‑

倭 ( s i gni f i cant l ysur pass es ) 5‑ 8 % 良 ( f ul l yac c ompl i s hes ) 2‑ 5 可 ( margi nal l yacc ompl i s he s ) 0‑2

出典 : GAO ( 1 9 90 )

このように,米国及び英国政府の業績給制度では業績給 という名前か ら想像 さ れる程の賃金格差は生 じてお らず,賃金面か らみれば我が国公務員 と大差 はな いとみな してよいと思われる。ただ,英国教員の例 にあげた RoyalBor ough

の校長賃金 につ いては評点分布 に対応す昇給水準 ( 基本給 に対す る) は下表

(16)

2 26 44 巻 第 1・2 号

の とお りで,また,業績ボーナス として基本給 の 3% まで支給で きることに なっているため,賃金格差は英国政府の公務員より大 きいといえる。

教員 ( range の下位 にいる場合)の業績給水準

評点 昇給額

AA 7%

A 5

B 3

C 0

( 4 ) 公的部門の特性‑の配慮

公的部門‑業績給を適用す る場合,主 たる批判 は, 1) 業績 自身を企業利益 のような定量的,一意的尺度で測定 ・評価で きない, 2) 行政サービスは協調 的に行われる,すなわちチームワーク労働であるか ら個人別 に業績を評価 して 賃金管理をす るのは適 さない, 3) 公務員の仕事に対す る動機付けは金銭的誘 因ではな く利他性にあるか ら,金銭的報酬[ で業績向上を達成できない ( できた として も,低い給与を与え られるとや る気をな くす負の効果の方が大 きい) , というものである。 したが って,上記批判に対 して英国政府の対応がどのよう になっているかを検討 してみる価値がある。まず,第一の批判は前述 したとお

り,多次元の業績指標を採用す ると同時に質的要素 も勘案されているか ら,完 全でないにせよ定量的尺度,特 に事業量またはサービス供給量 といったアウ ト

プッ ト尺度に限定せず,事業効果に関連す るアウ トカム尺度 も含まれている

Ross 氏は 「 業績指標はアウ トプ ッ ト・レベルの観点か らのみ定義 されていな

い。それ らは,より広範な ものに基礎をお くべきであり,最終的な業績評価 は

実際の業績に影響を与える要素及び測定できない仕事の側面を考慮 してなされ

るべ きである。実際の ところ,評価の焦点は,上級 スタッフにとって最終アウ

トプッ トであり,下級スタッフにとって中間的なアウ トプ ッ トが業績評価の基

礎 として用い られることが多い」 とい う

第二の個人でな くチーム労働の性格

(17)

パブリック ・セクターにおける業績給制度 227 か ら個人別業績に基づ く賃金差別化 は不可能で協調性を破壊す るとの批判 は, む しろ正論 として認めているのが注 目される。単なる新保守主義に依拠す るの であれば,個人が重視 され ることになるが,マネ ジメン ト思想の影響を うけて いるためか,個々人の業績が同僚の業績 と簡単に分離できない仕事は多 くある としている。さらに,個人別に仕事を設定 して業務を行 うよりも,チーム精神 を発揮す るよう動機付け ( 開発 して)る方がず っとよい場合 もた くさんあると

した上で,測定 ・評価 され る業績の単位がチームまたは組織全体である場合 も 現実 に存在 して い る。例 え ば,事業庁 化 された商業登記所 ( Compani es Hous e)及 び車両検査局 ( Vehi cl el ns pect orat e ) は目標 とした生産性改善 を達成 した報酬 として常勤スタッフ全員に業績ボーナスを支給 しているし,同 様に情報技術サービス局 ( I nf ormat i onTechnol ogyServi cesAgency)は

グループ単位の金銭的誘因を与えるボーナス制度を適用 している。

最後の利他性の特性は公務員の効用を規定するものは何か という議論に帰着 するが,仕事 に対す る報酬を含めた他の条件が同 じであれば,金銭的誘因が多 い方が効用を高めることは確かである。 したが って,問題 は効用の うち金銭的 要素が どの程度を占めるのか ということであり,利他性があるか ら業績給の意 義が失われる訳でないことに留意す る必要がある。英国で も公務員は昇給より

も昇進を選好する傾向があるが,採用試験等の違いによ り昇進機会は限 られて お り,現在の仕事を非常によ く行 っていて も昇進には必ず しも適合 しない事例 がある。 こうした場合には,業績給 は当該等級で良好な業績を挙げる者 と並以 下の業績者を区別 して良好な業績者に幸臥 1ることが公正であるとの意見であっ た

負の効果の危険性を全 く考慮 していないのでな く,まさに制度の運用を工 夫す ることが正否を決めることを認識 しているよ うであり,業績改善の万能薬 ( panacea) とみな して もいない。 この点で昇進 による給与ア ップが昇進前 の昇給 より有利になるよう, すなわちある等級の最低給与 ( rangemi ni mum) が当該等級 より 1 ランク下の等級の最高給与 ( normalmaxi mum) よ り大

きくす るような賃金表の改訂 は,賃金 とポス トの関連性を強める試みであ り,

昇進のための動機付 けを賃金面か ら補完す るもの といえる ( 下表参照) 。最近

(18)

22 8 商 学 討 究 第 4 4 巻 第 1・2 号

の人事院の給与改訂の方針 も昇進の金銭的メ リッ トを明示化 しようとするもの ( 現行では課長に昇進 して も自分より給与水準が高い部下がいるのが普通であ る)であ り,英国の政策に似た ものと解せ る。

下級オープ ン構造の賃金 ( 1 9 91 .1 2 ) ‑ロン ドン地域 ‑ 等級 Mi n Max ( 単位 :ポ ン ド)

4 44 , 39 0 46 ,1 2 2 5 36 ,1 7 8‑ 41 ,1 20 6 27 ,81 9 3 6 ,1 7 8 7 2 4, 37 9 29 , 07 3

4. 業績給制度の教訓 と課題 ( 1 ) 有効性の検証

業績給が行政サービスの質及び生産性を改善することを目的に していること

は確かであるが,問題 はその目的を達成 しているかである。米国のメ リッ ト給

の有効性 に対す る実証的研究の多 く ( Per ry, Pe t r aki sandMi l l er( 1 9 8 9 )

等参照)は有意な効果が認め られないことを示 してお り, GAO ( 1 98 3 ,1 987 ,

1 9 8 9 ,1 9 9 0 ) は,いずれ も業績評価 システムが不完全であ り, また,業績給

予算が不足 していること等か らその支給水準が動機付け機能 として不足 してい

ること等を報告 している。 一方, 後発の英国では国家公務員 ( c i v i ls e r vant s )

にたいす る効果の検証 は未だ完全な形態で実施 されていないが,現在 までにな

された検証結果では業績給を積極的に支持するデータは得 られていない。すな

わち, NHS の看護婦 と助産婦,国税庁 スタッフ及び厚生省スタッフに対す る

フレキシブルな付加給付 に関 して採用 ・定着に有意な寄与を したことが報告 さ

れているが, これ らは業績 と賃金 との リンクというより労働市場 と賃金の リン

クに着 冒した政策であ り,業績給 自身の ものでない。 このように,現在の とこ

ろ業績給の効果を確認す ることは出来ないが,英国の推進派の意見を要約す る

と,以下のようになる。

(19)

パ ブ リッ、 ク ・セ クターにお ける業績給制度 2 2 9 1)効果の確認は,業績を規定 している種 々の要因のなかか ら業績給による影 響を特定化す ることが困難なこと,特にそq) 正否 は制度導入の有無でな く,運 用す る管理者行動に大 きく依存するか ら,操作化が極めて困難である。

2) しか しなが ら,絶対的な 「 証明」が不可能であるとして も,公私両組織に おいて,良好に管理 された組織の多 くは何 らかの業績給を用いてお り,それが 有用 と考えている。 この事実 は,業績給が必要な労力 とコ ミッ トメン トを超え

る管理上の便益を提供 していることを示 している。

3) さらに,多 くの組織は業績給を廃止 しようとす る意思を有 してお らず,理 論的疑問や論争があるにせよ,短期的で一時的な徴候は何 もない。

これ は,裁判で過失責任 の立証を原告側 に転嫁 したきらいがあ る論理展開 で, 自ら認めているように理論的でない。従来の実証研究で欠けていた長期的 デ ータ,管理者の業績に対す る統制可能性の処理,非金銭的誘因の要素の勘案 等の修正を加えた実証分析が課題である。経済分析で扱 う変数は基本的に金銭 的誘因のみであるが, Pe r r yandMi l l e r( 1 9 9 1 ) らの既往研究で明 らかにさ れているように,業績給 と個人業績及び組織業績を結ぶ リンクには当該個人の 能力のほか,業績給 自身の水準,個人の性格 ( 利他性の程度)等が影響す る。

したが って, こうした要素を考慮 して非金銭的誘因 とどのように組み合わせ る と業績改善になるか,あるいは負の効果を生 じるのは業績給の格差がどれ くら いの水準か等を検討す ることが,業績給を精神的な ものか ら真に操作的な水準 に高めることになると思われる。推進者 も業績給の機能 として, a. 単なる良 き業績 に対す る動機付けだけでな く, b. 良好な業績達成の認識を提供す るこ と, C. 組織が重要 と考える価値, 目的及び行動を構成員に伝達 しそれ らを強 化するチャンネルを提供す ること, d.組織文化を改革す ること,を挙げてい

るか らである

( 2) 測定 ・評価の客観性

業績給 は評価項 目が定性的か定量的かを問わず客観的の測定 ・評価された業

績に基づいて支給 される必要がある。 しか しなが ら,公的部門の活動 は既述 し

(20)

230 商 学 討 究 第 44 巻 第 1 ・2 号

たとお り多 くの政策 目的を有 しているため,測定 ・評価 される項 目の中には定 性的にも測定で きないようなものが含 まれることが少な くない。例えば,教員 に対する業績給を考えてみると,統一試験等で成績 ( 試験の点数)は客観的に 測定できるが,学校教育 は,一定の知識水準 ( カ リキュラム等で規定 された) に到達 させ るだけでな く,好奇心や創造的思考を促 したり会話 と文書表現のコ

ミュニケーションを向上 させることも重要な目的の一つである。 この とき,莱 績を客観的に測定可能な基礎的知識 ・技能のみについて把握 して給与 とリンク

させ ると,知識 ・技能の上達 と創造性等の向上が相補的 ( c ompl ement ary) でないか ぎり,前者の業績 と賃金 との関係を強めると後者の創造性等に対す る 教員の活動水準が低下す ること,特に後者が前者より非常に重要な場合には最 適 な報酬契約 は固定賃金 とな ることを Hol mst rom andMi l gr om ( 1 99 1 ) は示 している。 したが って,ある行政活動の政策 目的が複数あって測定 ・評価 不能( 定性的にも)な業績の方が測定可能な業績 よ りはるかに重要 な場合には, 相補的でない限 り業績給 は適用を留保すべ きことになる

ただ し, この場合 に

は,理念 としてでな く,現実に努力の費用関数 として測定可能項 目と不能項 目 が相補的かを検証す る作業が先行 される必要がある。質的要素を隠れ蓑に努力 を怠ろうとする性向が しば しば見 られるか らである。

また,業績が測定可能で定量的な業績指標を開発 したとして も,業績指標が 政策 目的の達成度を適切 に反映 していない場合 には,Baker ( 1 992 )が説 く よ うに業績指標の改善がかえって真の業績 ( 政策 目的)に負の影響を与えるこ とさえあることにも留意 してお く必要がある。前出 NHS の業績指標で も質的 要素は勘案 されているが,医療効果をみるな らば単 に病気の治癒 とか延命に着 目す るのでな く,治療後の患者の生活状態を勘案 した 「 質で調整 された生命年 ( QALY) 」‑ 医療 により健康な状態が 1年継続すれば 1QALY ,障害を もった 状態で生命が維持 され るな らばその障害の程度に応 じて 0‑ 1QALY となる

‑のような概念に基づ く指標のはうがより適切であろう

さらに,不確実性の処理にかかる問題がある。業績給 は業績 と報酬を関連づ

けることにより,ある個人または組織の会計責任を報酬面か ら強化 しようとす

(21)

パブリック ・セクターにおける業績給制度 2 3 1 るもの と解せる。 ところで,行政活動 には研究開発を代表 とす る各種大規模 プ ロジェク トがあ り, これ らは資金の巨大 さ,期間の長 さの要因が加わ って成果 の不確実性が極めて高いものである。 しか しなが ら,業績給 は基本的に今期 ま たは前期の業績 と今期の報酬を連動 させるものであるため,それを具体的に運 用するとなると短期的に把握で きる業績に基づいて報酬に反映せざるを得な く なる。 このため, リスクが大 きい長期的で野心的なテーマよりも短期 に業績が あげ られるテーマを選択 され易い傾向を もた らす可能性がある。実際,事業庁 化 された国立物理学研究所 ( NPL) の計画 目標 には,研究者‑人当た り研究 成果 ( r es earc hmi l es t ones ) の数 を 4 年 間で少 な くとも 3% 増加す るとさ れているのである。 こうした,不確実性が高いものについては リスクに関す る 評価 と長期的な観点か らの評価を並行 して実施することが必要である。

( 3 ) 金銭的誘因の強度

GAO の報告及び各種の実証研究は,いずれ も現行の業績給制度が業績の改 善 に有意に貢献 していないことを示 しているが,多 くの者 は業績給 自身の価値 は否定 していない。すなわち,公的分野で も誘因 としての影響度合いは異なる か も知れないが,金銭的誘因は高い業績をあげようと努力す るための動機付け とな り, この Vr oom ( 1 96 4 ) の期待原理のチャネルを構成す る 2 つの要素 一 高い業績を動機づけるのに十分な金銭報酬及び業績の異なる水準を労働者問で 識別す ること‑が現行制度で不十分であるせいに している。前述 したとお り, GAO ( 1 9 90 ) の調査結果及び英国政府の実態 は業績給 による賃金格差の水準 が小 さか った り, 評点分布が上位 に偏 っていることを明 らかに している。また, 英 国での公的分野への業績給適用事例 を分析 して得 た教訓 の一つ と して, Li ki ermanandRi c har ds( 1 98 7 ) も同様に業績関連 として有意味な金額を 提供す ること( 賃金総額の うち十分 に大 きな割合を占めること)を挙げている。

す ると,問題 は公務員が誘因 として認識する賃金格差 ( 並以下の評価者に対す

る)はどの程度か とい うことになる。 この限界値 ( t hr es hol d) はおそ らく各

人によって異なるか ら大半の者が認識するレベルを特定化す る作業が必要であ

(22)

2 32 商 学 討 究 第 44 巻 第 1 ・2 号 る。

しか しなが ら,政府活動は企業 と異なり拡大再生産型でな く消費経済型の構 造であるため,原則 として賃金総額 は固定 され,組織全体の業績が改善 したか ら賃金総額 も連動 して増加す ることはない。 このため,良好な業績者に高い賃 金を与え格差を設 けるということは並以下の業績者に低い賃金を支給す ること

にな り, 組織業績が構成員の相互作用の影響を受 けるな らば, Laz ear( 1 9 89 )及 びその政府組織へ応用 した山本 ( 1 993 )の分析で明 らかにされたよ うに, 定以上の賃金格差を設定すると全体業績を低下 させ る恐れがでて くる。経営学 者,行政学者の多 くが正規 に配分 された評点分布及 び これに基づ く賃金分布 が,組織構成員の組織帰属意識や動機づけに対 して負の効果を もた らす恐れを 指摘 していた り,カナダ連邦の高級官僚 ( de put ymi ni s t er s )の業績分布が 上位に集中 している ( 結果 として ごく少数の者を除いて賃金差はない)状況を 地位の重要性か ら正当化す る Bour gaul t , Di onandLemay ( 1 99 3 )の見解 も,かかる負の影響を認識 した ものである。それで も,良 き業績には何 らかの 形態で幸臥 \ るべ きことは確かであり,期待原理を否定 しないな らば,先の金銭 的誘因を認識で きる水準 と負の効果を示す限界水準の双方か ら最適な賃金格差 を決定 されねばな らない。そ して,山本 ( 1 9 9 3 )で示 したモデルを前提 にす るな らば,金銭的誘因の認識限界値が一定水準を超えると業績給の有効性 は失 われることにな り,公務員の金銭的誘因が民間部門より小 さければ,それだけ 大 きな限界値を提供す る必要が生 じることか ら構成員の属性要因か らも業績給 の実効性 は制約を受ける。 ところが,負の効果を示す構成員の活動を規定す る のは低い評価を受ける構成員の属性のみな らず高い評価を受 ける構成員の属性 にも依存するため,その限界水準の決定は困難であ り,組織学者や心理カウン セラーの支援を受ける必要があろう

( 4) 非金銭的誘因の考慮

業績給の理論的根拠 となっている期待原理 には,高い業績を動機づけるのに

金銭的誘因が機能す るという前提がある。 しか しなが ら,公務員の場合,誘因

(23)

パ ブ リック ・セ クターにおける業績給制度 2 33 として金銭的要素が作用す るとして も,その予算制約 ( 業績連動 にな らない) 等か ら限界値を超える金額を高い業績者 に支給で きない可能性がある

なによ り,公務員 とい う職業を選択 した者 は多 くの調査結果によると各国 とも金銭的 誘因 となる給与水準 に高い優先川 貞位をおいてお らず, この傾向は上級公務員に な るほど強 くな るよ うである。実際, 1 9 9 2 年 の総理府世論調査 と Ⅰ種採用者 に対す る人事院調査を比較す ると,民間男子の職業選択理由の トップは 「 性格

・能力が適 して いる」が 4 1 . 1 % で,「 社会 的に意義が あ る 」1 5 . 7 % ,「 給料や 収入が多 い 」1 8 . 2% に対 して, Ⅰ種採用者 の選択理 由の トップは 「 仕事の内 容 に興味が ある 」6 5 . 5 % 次 いで 「 公共のために仕事がで きる 」5 6 .1 % ,そ し て 「 給与等の勤務条件がよい」は 1% となってお り,金銭的要素の比重が異な

ることが窺 われ る。経済学者 の一部 ( Kane mot oandMac l e od ( 1 9 9 2 ) 参 照)には我が国の高級官僚の低賃金下の長時間労働を説明す る論理 として,追 職後の天下 りが現職時のポス ト ( 昇進競争)によって規定 され,天下 りによる 所得が生涯所得を大 きく左右す るか ら,官僚 も退職後を含めた長期の所得最大 化を図 っているにす ぎないと説 くものがある。確かに,退職後のポス トを想定 して働いている側面 は否定で きないが,官僚の動機付けとしてはやはり一種の エ リー ト主義に支え られた 「 国の政策決定を実質的に行 っている」 とい う意識 が根底にあ り,それゆえ現在まで 「エ リー ト 」養成機関 とされ る東大法学部で 成績上位者が官 ( 助手及び司法修習生を含む)に就職す る構造が継続 している と考え られ るのである。す ると, こうした政策形成への関与 に関心を有す る層 には金銭的誘因よ りも昇進等の非金銭的誘因が業績向上を促す には効果的 とな ろ う。マズ ローの理論を持 ち出さな くて も,一定水準を超える給与が保証 され れば,人か ら認め られたい,高い評価を受 けたい とい う被評価欲求が高 まり, この傾向は官 ・民を問わない。 この意味か らす ると,仕事 に対す る価値を重視 す るタイプの者 には期待原理に したがい業績給制度を通 じて金銭的誘因を与え る場合にも,む しろ賃金 よ りも業績評価 に力点をおき, しか も比較的高い評点 に集中させ,賃金格差をほとんど無 くした方が全体の動機づけを改善す るか も

しれない。すなわち,十分な賃金格差を設 けていないか ら業績給の効果が発揮

(24)

234 商 学 討 究 第 44 巻 第 1 ・2 号

していないとす る一般的見解の反対であ り,カナダ連邦職員の実態に近い考え である。 しか し, この見解にたっ と,なぜ米国連邦職員の管理職を対象に した 業績給の効果が どち らか とい うと 「 消極的」な実証分析結果になっているのか と言 う疑問が生 じて くる。米国の高級官僚の多 くが政治的任命で内部昇格が中 央省庁課長級 に留まることも作用 しているか もしれない。上記金銭的誘因が属 性により異なる可能性 は現実にも観察 されてお り, でr i nde r( 1 9 9 1 ) によると 英国厚生省の付加給付 ( LPA) の有効性 に関す る研究では, LPA の有効性

は等級 により異なってお り,等級の低い事務職 ・秘書及びタイ ピス ト職に対 し て最 も効果的であったとい う

したが って,業績給の効果を最 も高めるには, こうした等級差のはか公務員 の属性 に応 じた運用が必要 と思われるのである。たとえば,金銭的誘因を重視 する層 には標準的な評点分布 に対応 した賃金格差を設定 し,反対に非金銭的誘 因を重視する層には高い評点分布にシフ トさせ 自尊心を満足 させ る手段 として の業績給を位置づけ,他の人事施策 と適切 に組み合わせることが有効 と思われ

る ( 下表参照) 0

構成員のタイプと重要度の高い誘因 との関係

項 目 非金銭的誘因 金銭的誘因

等級 管理職 一般職

採用区分 幹部候補生 一般

職務内容 総合職 専門職

荏 :どち らが優先す るかに着 目して整理 した ものであ り,他の誘因 が動機付けとして機能 しないことを示す ものでない。

この属性に着 目するには社会心理学的なアプロ‑チで構成員を類別する作業を行

わないと,期待原理の金銭的誘因を与えるだけでは業績の改善はもたらされない

であろう

暫定的な類型 として挙げた上表の妥当性の検証が当面の課題である。

(25)

パ ブ リック ・セ クターにお ける業績給制度 2 35

5. おわ りに

業績給の運用実態が どのよ うになっているかを英国政府を中心に紹介す ると ともに,その課題について も述べてきた。金額的イ ンパ ク トとしては我が国で 勤務評定に基づ く特別昇給及び勤勉手当の制度 と大差ないといってよいが,秤 価過程の透明性が高いことは非金銭的誘因を重視す る立場 にたって も評価 され るべ きことである。 我が国では人事異動を通 じて昇給, 昇進が明 らかになるが, 勤勉手当の格差 は人事担当経験者でないとほとんど認識で きず,いかなる評価 を受けているかが本人には不明である。 これでは,被評価欲求は満足 されず上 司への 日頃の態度が人事考課に影響す るのではという危供を植え付 けるだけで ある。そ して,最 も重要なことであるが,業績給の運用に伴い各人または組織 の業績をなるたけ客観的に測定 ・評価する努力が上司及び下位者に要請 される ため,賃金管理を通 じて業績管理を実施で き,同時に住民に対 して報告す る管 理情報が作成 され ることになる。「 生活者の視点の政治」が流行語 になってい るが,生活者が委託 した公的資源が政府によりどのように配分,運用 され,い かに生活を改善 したかの情報が提供 されなければ政治的腐敗 は継続す るか らで ある。 この意味で,我が国はメリッ ト主義の人事管理を行 っているか ら十分で あるとするのでな く,人事管理等の内部管理の改善が住民へのサービス改善に つなが る取 り組みが望まれるところである。

同時に,業績給が有効に機能す るように設計す るにはその依拠す る期待原理 が多 くの前提条件にたっていること及び組織効率を低下 させ る負の効果を生 じ

る可能性があることを認識 して,現実の行政活動の実態 ( その現状が変更でき

るか否かを含めて)を正確に把握す ることが必要である。例えば,行政サービ

スの特徴 とされる協調的活動,チームワーク労働の実質はどうなのかさえ具体

的には不明なのである。村松 ( 1 98 3 )の述べ るよ うに自治体 の課業 は 「ヨコ

の関係を必要 としないことが多い」のが正 しく,協調の程度が少ない,あるい

は少な くできる仕事であれば,個人別の業績評価に基づ く業績給 は最 も効果を

発揮す るはずで,他者か らの干渉による負の効果の発生 もないか らである

(26)

236 商 学 討 究 第 44 巻 第 1・2 号

荏, こうした自治体の仕事の流れ と給与,昇進に関する調査を計画 しているの で,その実態調査の結果に基づ き我が国公務員への業績給の適用について更に 理論的分析 と考察を深めていきたい。特に,経済モデルで捨象 されている非金 銭的誘因を分析 に組み入れ ることが公務員の行動分析 には不可欠であ る。な お,本稿 は社団法人 日本経営協会か ら経営科学研究奨励金を得た研究成果の一 部である。記 して感謝 したい。

参 考 文 献

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参照

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